短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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過去を幻想する

潮時、と感じた。

 

「じゃーな」

 

「うん。元気でね」

 

あっさりとした別れ。

これで良いのだと何回自分に言い聞かせたのかわからない。

最初は些細な細かい亀裂が生じて次はその亀裂が徐々に広がっていった。

最後にはすれ違いが原因だと気付いたが既に手遅れ。

別れを切り出したのはどちらともなく、ではなくてマリエからだ。

ローは一言たりとも別れたいと零したことはなかったが最後に溜息をついてわかったと別れることを認めた事が何よりも実感した。

これでローともおさらば。

歴史で言うなれば別れたのは今から三年程前。

マリエは歳も過ぎて居酒屋で働いていた。

別れを経験したのもあれっきりで今は彼氏も誰かを好きにはなれない人生だ。

時々、頭に浮かぶのはどうしてもローだけ。

シャボンディ諸島で働いていればいつか会えるだろうかと期待している自分を毎日嘲笑う。

虫が良すぎて笑えない。

大体マンネリで別れたのにまた繰り返すに決まっている。

 

「マリエちゃーん」

 

「はーい!」

 

店長に呼ばれると紙切れを渡され買い物を頼まれたので裏口から出た。

プクプクとマングローブの根元から樹液が浮く。

歩きながら眺めているといきなり前方に黒い影が飛び上がったので反射的に見上げると黄色の髪色がふわふわと靡き反対側には大きな人間が対峙していたので立ち止まる。

よそ見をしていたので騒動が耳に入らなかった能天気な自分を叱り付け何とか近くの木に避難した。

そこまで走ると微かに視線を感じ顔を左右に動かす。

目が合った人物は一人で、その男を見納めた途端に息をするのを忘れた。

見られていることに耐えられなくなり逃げるように裏道に入る。

マリエの勤める店は無法地帯ではないのでトラブルとは無縁に近かった。

油断した結果が招いた導きは自分が望んでいた事だと言うのに目を背けてしまったのだ。

 

「ロー……着いたんだ」

 

男は明らかにトラファルガー・ローだった。

昔とは違い周りに仲間も居て如何にも海賊をしていたので納得する。

彼は人を引き付ける人間だからきっと船員達はローを慕っているのだろう。

故郷からいなくなったのはマリエなのに自惚れた感情を持つ事に嫌悪。

早く買い物を済ませてしまおうと歩き出した。

 

店に戻ると店長に冷蔵庫に入れてきてくれと言われ素早く仕舞う。

カウンターに行き客の対応をする。

入口の扉が開いたのでいらっしいませと顔を向け、固まった。

 

「……」

 

固まっているままのマリエとは違いモコモコの帽子を被る男は適当な席に座る。

店内がざわざわと騒がしくなり噂を囁き合う。

 

「トラファルガー・ローだ」

 

「海賊が何故?」

 

ここは軽いご飯や休憩をする場所であるから民間人の疑問は当然だろう。

マリエには彼が自分を見たからこの店に入ったとしか思えなかった。

こちらをちらりと見ても驚かなかったし、メニュー表を渡した時には目を通さずにコーヒーとこちらを見詰めながら口にしたのだから。

はい、と緊張しながらもカウンターに戻りコーヒーを入れてテーブルに持っていく。

 

「座れよ」

 

「仕事中、ですので」

 

「この店がどうなってもいいのか」

 

「!」

 

何とも無法者らしい台詞に黙って椅子に座る。

それを見た男はニヤリと笑い、

 

「嘘だ」

 

と言い退けた。

拍子抜けしてしまいふ、と息をつくと顔を上げて久しい顔をまじまじと見る。

隈は相変わらず建材のようで長い間見ていた中で変わりない雰囲気もマリエを少しだけ落ち着かせた。

名残というものは不思議だ、ローの今を知らないのに知っている部分があるだけで近付けたような気がする。

こちらの気が緩んだ事に気付いたのか彼が話しかけてきた。

 

「ずっとここに居たのか」

 

「うん。ずっとね」

 

「おれを待っていたんだな」

 

「何処からその自信が出て来るの」

 

「くくく」

 

彼はひとしきり笑うと前に体を傾けこちらに顔を近付けた。

当たりか、と呟いた顔はまさにドヤ顔で負けた気分だ。

自然と笑みが零れマリエも当たりだよ、と認めた。

 

 

昨日を見ずに歩けるように。

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