誰が為の世界に滅びぬ夜明けを   作:ぽたもち

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3:強襲の獣

 

「あの、自分で……」

「この険しい道でまた怪我をされたら敵わん、王の好意は素直に受け取っておけ、不敬だぞ」

 

少女はあの《王》に片腕で抱きかかえられて霊峰を下っていた。自分で歩くと進言してもバッサリと彼は却下する。加えて《王》の好意への意見は無礼だとまで言われてしまっては、もうどうしようもない。

羞恥心と恐れ多さを押し殺し、少女は口を噤んだ。

逃げている時には周りを見る暇もなかった為、現実から目を背けるためにも霊峰の景色を眺める。岩肌ばかりかと思っていたがところどころ植物もあるらしい。

両親が生きていたならばこの禁域に立ち入ったことを酷く叱られたことだろう。今やもう有り得ないことを考えて、少女の胸の奥はつきりと痛んだ。

 

「そういえばお前の名を聞いていなかったな」

「うひゃ!?へ、あっ、私は《ライラ》と申します」

 

ふと、名を問われて彼女はハッとする。物思いに耽っていたこともあっておかしな声が出てしまったが、すぐに気を取り直して名を名乗った。

《王》は名を一度復唱してから、言葉を続ける。

 

「俺は仕方なく世界の状況を観た」

「は、はぁ……」

「結論から言うと人類は終焉(絶滅)するかもしれん」

 

あまりにも軽々しく口にされた事実に思わず絶句した。ライラが絶句し《王》は反応を待っている為か、彼がじゃりじゃりと砂利の多い山道を歩く音だけが聞こえる。が、いつまで経ってもうんともすんとも言わないライラに、じとりとした視線を彼は向けた。

 

「せめて何か反応しないか」

「え…あの、いえ……申し訳ありません……」

「まぁいきなり皆死ぬと言われても実感は湧かんわな」

 

確かにいきなり言われたが、ライラの心のどこかでは「そうなのではないか」といった微かな予感はあった。あの酷く不気味な空を震わせる不気味な音、その後に現れた恐ろしい獣共。

それらを前にして彼女は只事ではないと、幼いながらにその頭で理解した。そして同時にその終わりをも意識し、死の恐怖をその魂に刻み付けられたのだ。

驚きこそするものの、それを疑う気持ちはなかった。

 

「生きたいか」

「え……」

「俺とて愚かではない、観なければ何も言えんがお前の希望を聞いておく事くらいは出来る」

 

ライラは凛と進む先を見据えるその顔を見上げる。

幾ら人類の守護者である《王》だとしても、終焉から逃れる術を持っているのだろうか。無礼であるとわかっていても、疑念を抱いてしまう。

《王》の言葉に、返す言葉を迷っていると彼は突然足を止めた。

 

「なるほど、ご丁寧にお待ちかねか」

 

彼の見据える先に居た存在を前にして、ライラもまたその身を固くした。

涎を滴らせて唸る、村を襲ったあの獣。追い駆けて来た以上の数が前に立ち塞がっていたのだ。今にでも襲いかからんとして、唸り吠え身体を震わせるそれらはやはりライラには恐ろしい。

 

「さっきも見たが不気味なものよな……」

「あ、あの……」

「心配するな、お前を助けたのは他でもないこの俺だぞ……畜生風情、俺の敵ではない」

 

そう言って、彼はライラを抱える腕とは反対の腕を振るい空を切った。

直後、獣共その全ての頭上に何か陣のようなものが現れる。そして、獣共が一斉に飛び掛る_____その寸前に陣から放たれた雷によって穿かれた。

不敵な笑みを浮かべ《王》は云う。

 

「畜生風情がこの《王》の道を塞ぎその牙を立てようなど不敬の極み、よって極刑に処す」

 

物言わぬ骸となり塵と化して行く獣共に対する王の宣告である。その光景に、ただただライラは絶句するばかりだった。

やがて獣が居たという跡形も残らぬ元の山道に戻ってから、再び彼は言った。

 

「今の獣共には恐らく親玉が居る、恐らくまだお前の村に残っているとして殲滅は出来るがそこでの戦いはしたくない」

 

_____だからその親玉を直接叩く。

 

彼はそのように言い放った。正直、ライラとしては理解不能の連続で何を言われても理解出来ない。

ただ、一つ。

無茶な事を言っていても、この《王》にとっては無茶では無い(・・・・・・)ということ。

それだけは確信できた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

それから暫く、《王》は何処へ行くとも言わず歩き続けていた。時折遠くを見据え、見据えたかと思えば再び歩き出す。まるで何かを探すかのように進んでいく彼に、ライラは静かに彼の往く道を共に見据えた。

 

「……近いな」

「近い……?」

 

ふと、そう零された言葉にライラは反応を示す。しかし、何が、とは言わずに《王》はライラを岩陰に降ろした。そうして「そこを動くな」と言うように手で示すとそこから離れていく。

それなりの距離を取ったところで、彼は虚空を睨みつける宙に手を翳す。その手中に先程のような陣が現れると同様に睨み据える先にも現れた。

 

「神域を展開し空間を隔てれば俺が気づかんとでも思ったか。さっさとその醜い姿を晒すがいい」

 

そう忌々しげに言葉を放つ内に、陣を中心に空間が割れていく。

そうして、巨大な生物が引きずり出される。その現れた生物は、あの獣のように鹿のような姿だった。頭は骸骨であり恐ろしく鋭い角を持ち、蛇の尾を生やしている。

無理やり《王》の言った神域から引きずり出されたその怪物は、怒りを顕にするように絶叫に近い吠え声を上げた。だが、そんな怪物を前にして《王》は好奇の目を向け口角を上げたる。

 

「魔神化した大神獣だと?そうか、そうか……!まさかこの目が見えるうちに本格的な《終末期(・・・)》に立ち会う事になろうとはな!!!」

 

そして、鋭い眼光をその瞳に宿し、己に殺意を向ける怪物を嘲笑った。




神郷看破(じんきょうかんぱ)
→人界に展開された神域の所在を看破する神秘

神郷潰滅(じんきょうかいめつ)
→神域を強制的に破壊し中にいる存在を引きずり出す神秘
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