誰が為の世界に滅びぬ夜明けを   作:ぽたもち

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4:凶兆の怪物

少女はただ唖然となっていた。

現れた怪物が《王》の言う獣共の親玉であるならば、あのような怪物に太刀打ちなんて人間にはできない。どんな無理も通るだろうと思っていた《王》でも、無事では済まないのではないかと思ってしまうほどだ。

しかし、そんな怪物に対峙する《王》は実に楽しそうな表情を浮かべていた。

手の関節を鳴らし、赤い電光をバチバチと纏わせる。

 

「そういうことだったか、どうにも寝足りない(・・・・・)と思ったらお前達のせいか。些か早いんじゃないか?終焉戦争を起こすには!!」

 

電光を纏わせたその手を前方に突き出すと、怪物に向けて雷の大槍が放たれる。しかし怪物がその脚で大地を踏みつけると岩の大壁が隆起し、大槍と相殺された。それだけでなく、大地は《王》を串刺しにせんと隆起し彼を狙う。

それらを軽やかに避けて見せるも、このままでは防戦になると悟ってか。軽く舌打ちを打った《王》は怪物を見据えた。

 

(アレは確か魔神化する前は吉兆を届ける神鹿だったな……通らないところを見ると《神性》を持つ存在としての絶対的関係(ヒエラルキー)は健在か)

 

怪物の攻撃は止まることを知らない。隆起の際に飛び散った岩石が集積され、《王》を狙う。

余程神域を破壊されたことが気に障ったらしい。

冷静に怪物を分析する中で、彼はふと離れた岩陰に隠した少女を横目に見た。

 

彼女は生きたいかどうか、という質問に答えなかった。幼いながらに随分と頭が良いのだろう。獣に実際に襲われ、生き残る確率というものが無に等しいことを理解した。だから答えなかったのだろう。

されど、《王》はそれが少し意にそぐわなかった。

 

「あぁ、お前達はどうしてこうも愚かなのだ」

 

されど、どれほど愚かであろうと、自らの肉を分け産まれた存在(・・・・・・・・・・・・・)は広い目で見れば子孫(我が子)だ。救いようがなくとも、死に行くものでも愛らしいことに違いはない。

それが困っているなら、絶滅しそうなら、救ってやるのが親心(・・)と言うやつだろう。

 

「良いだろう、凶兆に転じた大神獣よ。大方他にもお前らの仲間がいるに違い無い、しかしそれがどうした?俺は人類の守護者、今の人類の()だ」

 

怪物の猛攻をゆったりとした歩調で避け、雷で打ち消しながら怪物の元に歩み寄っていく。

 

「お前らが何をしようとどうでも良いと思っていたが、気が変わった。俺の子供()を滅ぼしたいならこの()がお前達と戦争をしてくれる

___《人王》としての教え(戦い)を今此処に示そう」

 

そうしてその手の内に凄まじい赤き光が灯る。光が消え、その手に握られていたのは真っ赤な大剣だ。ただの剣ではない、無機物であるはずなのに気迫がある。

圧倒的な気迫を感じたのは怪物も同じらしい、猛攻の手を緩める後退を始めている。

だが、今更逃がすことを《王》がするはずはない。

 

「この俺を本気にさせて、逃げられるとでも思ったか?愚かな考えは正すためにも罰を与えねばな、その小賢しい脚を切り落としてくれる……!」

 

その宣告と共に大剣を奮った《王》は、言葉の通り怪物の前脚を切り落として見せた。剣刃が怪物に届いていたとは思えない、だが確かに宣告通り脚は失われる結果に。正体不明の神秘と言うには恐ろしいその力、それを前に理性を殆ど失った怪物でも恐れを抱く。

元とはいえ、大神獣だった怪物は生まれて初めて死の恐怖を味わった。決して彼ら大神獣は不死という訳では無い。だが、命を刈り取れる存在というのは世界にそう多くいないのだ。

だからこそ、自らを死に至らしめることの出来る存在を前に、消えかけている理性が悲鳴をあげた。

しかし、もはやその悲鳴を《王》が聞き入れることはない。

 

「お前は俺の民である人間共をその化身に殺し尽くさせた、よってその命で贖うがいい」

 

《王》は赤き大剣を天に掲げる。掲げられた大剣には赤い(オーラ)が纏う。その光は禍々しくも、どこかに神聖さを隠していた。

 

「お前への罰は______死だ、それ以外の罰は赦さん」

 

そして、彼は大剣を一気に振り下ろした。

大気が割れるような緊張感と共に強い突風が吹き荒れる。その刹那、怪物の身体は縦に別れ大地に倒れ伏したではないか。

やがて塵として散っていく怪物を見つめてから彼は自らの手にある大剣を見据えた。

 

「……ふっ、あの女神(・・・・)はとんでもないものを俺に仕込んだな」

 

一旦の役目を終えた、そう判断したのか大剣の刀身は一度消えた。そして、彼は岩陰に隠れていたライラの方に歩み寄る。

一連の凄まじい戦いを目にした少女は呆然としていた。だが、《王》が目の前まで近寄ってきたことに気づくとしどろもどろに口を開こうとする。

しかし彼はそれを遮った。

 

「お前は生きたいか」

「えっ、あの……」

「素直な思いを口にするが良い」

 

そう言う彼の目は真っ直ぐで強い。だからこそライラもまたその真っ直ぐな心に刺激され、願った。

 

「私は、明日を、生きたいです……!!」

 

その答えに《王》は満足そうに目を細めて、笑みを浮かべて高らかにこう言った。

 

「ならばこの《人王》たる俺が、お前達の明日を切り開こう……この俺に祈れ!しかして希望せよ!」

 

 

これが、世界と人類の命運をかけた大聖戦の幕開けである_______。

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