まず、魔神に至ることを考えた際に必要となるのは、「いつ」魔神に至るかだ。
魔神とは魔術の神、あらゆる形而下存在を凌駕する超常の全能ではあるが、原作通りであるならば当然、無敵の存在と言うわけではない。
当然、魔神に至る過程、「魔神未満」の状態であっても同じだ。
学園都市の能力者どものような凡百を超えられる域になったとしても、それでもなお強大な壁は多く存在する。それらをすり抜けるために必要なのが、原作知識によるタイミングの設定だ。
第一の天敵として存在するのは、同じ魔神だ。全能であっても、同じ全能を扱ってなお数百数千、正確に言えば魔神は時間軸にすら縛られないし、いくらでも世界をやり直せるので数億年数兆年の可能性もあるが。そうした経験を積んできた魔神に対し対抗するのは、少なくとも魔神なりたての状態では難しいだろう。
第二の天敵として存在するのは上里翔流。とあるシリーズの主人公である上条当麻と並ぶ「右手」の持ち主だ。その右手を『
ただしこれはあまり気にしなくてもいい。「木原」の科学を求める強固な意志の前には発動条件を満たさないだろうからだ。
そもそもこの能力は、無限の時を生きる魔神の自滅願望が生み出した存在だ。「魔神になりたて」の精神性ではさほどの脅威になり得ない。
そして第三、魔神到達において最大の天敵がアレイスター・クロウリー学園都市統括理事長だ。
科学の街のトップでありながらも魔術師として頂点に君臨するその存在は、常に
さらに言えば、科学の徒である私が魔術を極めることは、不穏分子として「犬」である木原脳幹を差し向けられてもおかしくない危険行為だ。
魔術を撲滅し、科学による世界を敷こうとするアレイスター・クロウリー。その思想は理解できなくもない。
だが、科学者の立場で言わせてもらえば、「自然の法則を定量的に観測して法則を解明する」ことこそが『科学』だ。断じて、オカルトっぽいから科学ではない、という甘い発想は成立しない。
この世界に科学でないものなどない。故に、あるがままの世界を理解し科学する。
そうした私の理念と、彼の理念は絶望的に隔たりがある。
端的に言えば、私が何をしでかそうとしているか見つかれば終わり、となる。
さらに言えば「魔神に至る」経過中は魔神未満の存在だ。場合によっては右方のフィアンマやコロンゾン、超絶者に完封されることも考えうるが……
これらの「天敵」の存在から想定できる適切な魔神化のタイミングはこうなる。
1.新約以降。第三次世界大戦終了後。このタイミングで「プラン」に許容不可能な誤差が生じ、アレイスター・クロウリーがまともに身動きを取れなくなる。
2.新約十二巻以降。「魔神」たちがアレイスター・クロウリーと上里翔流によって撃滅され、反撃でアレイスター・クロウリーも瀕死になった後。十三巻の僧正死亡を待つ線もありうる。
3.新約二十二巻以降。アレイスター・クロウリーとコロンゾンの退場。ただし「
(まあ、魔神オティヌスによる世界改変以降に急ピッチで進める、くらいでいいでしょうかね。いえ、むしろ
魔神に至る方法については……正直今の時点では何もわからない。
(というかシンプルに「魔術」の行使方法が分からないのですが……まあ、それならそれでやりようがないではないですね)
知識が無いのであれば、持っている人から奪えばいい。
精神操作系能力なり学習装置なりの機械なりを用いて、魔術師の知識を奪う。
とくに、原作ヒロインである
(でも、今すぐに、と言うわけにはいかないですね。『魔道書の毒』とはなんなのか、どういった方式で10万3000冊の原典に耐えるかの方策が分かりませんし。まずは「写本」レベルの知識しかない適当な魔術師から抜き取るのが良いでしょう)
魔道書には、毒がある。
これは純粋な化学毒の話ではなく、精神汚染の文脈だ。曰く、「記されている異界の知識が現世と乖離しすぎていて、宗教観念の薄い人間では耐えられずに発狂する」というのだという。
この発狂が、医学的手法や木原の精神性で対抗可能なものか、対抗可能としてどういった手法が適切かと言うデータがない。
であるならば、まずは毒が薄いと明言されているものから確認すべきだ。
禁書目録にあるような魔道書の「原典」は毒が強いが、大部分の魔術師が扱う「写本」は毒が薄いのだと言うので、そちらから試す必要があるだろう。
……学園都市には魔術師は少ない。
だが、時間軸によっては学園都市に潜伏する魔術師もいる。
現在時間軸が9月1日午後4時28分19秒45。
ニュースを見ると、
(カバラの魔術師、シェリー=クロムウェルの敗北ですか。タイミング的にやや遅かった……?)
これは、
(いや、イギリス清教への引き渡しはまだのはずですし、一枚噛みましょうか)
原作のこの時間軸において学園都市に現在存在することが確定する魔術師は禁書目録を除いて6人。
現在捕縛され移送中のテロリスト、シェリー=クロムウェル。
主人公、上条当麻のクラスメイトである土御門元春。
常盤台中学の理事長の孫、海原光貴……に擬態したアステカ魔術師、エツァリ。
「とある科学の一方通行」のヒロインにして、学園都市の禁忌の研究に協力させられていた死霊術師の少女、エステル=ローゼンタール。
そして宇宙エレベーター「エンデュミオン」を建造したオービット・ポータル社の幼女社長にして不死身の古代巫女、レディリー=タングルロード。
最後に、この学園都市の主、アレイスター・クロウリー。
(後ろ二人はちょっと次元が違うので今回は除外ですね。原典クラスの知識を有してるでしょうし、「初歩で記憶を抜き取る」相手じゃない)
あとは、シェリー=クロムウェルを引き取るために、イギリス清教の暗部、
そして、「どうやって」記憶を抜き取るか、と言う話はそれ以前よりはるかに簡単だ。
なんせ、時間軸が大覇星祭直前であるということはつまり。
接続すればだれでも最強の洗脳能力、
「うーん、今後のプランにも必要な気がしますし、ちょっと
「というわけで端的に言って、使わせてもらいに来ました」
「あー、いえ、セキュリティの関係で登録には数日を要しますし、なにより外部への貸し出しなどは……」
「死ね」
……そして、計画が頓挫したことで正当な目的で使われることはなく、当然外部への貸し出しなど行われてはいない。
ただし。
コツ、コツと
既にこと切れていた。
手も指も動かさず、近づきもせず。それだけで、職員は眼球が破裂し、眼窩から血を流して絶命していた。
だが、私の目に映るのは「それ」ではない。もっと先に、もっと迷惑な障害がある。
「先客ですか」
「さっきの種は放射線……だよねぇ?」
「ええ。指向性放射線源。シンプルですが端的です。この程度はわかってしまいますよね、
木原幻生。
木原一族の中でも重鎮に当たる、能力研究界隈の元老。
老人型サイボーグと言うか、サイボーグにしなければならない程爆発事故を繰り返してきたタイプのマッドサイエンティストと言うか。
……私の親族だ。私の親族、木原一族にはこんなのばかりが居る。
そして、とある科学の
(うーん、少し原作の日程と外れていますが、早めに一度来てたとしてもおかしくもないですかね。なんせ、
(個人的に言えば、その手法でレベル6を
「放射線といっても粒子放射線と電子放射線があるけども。「弾」を用意しないで電源だけで撃てる電子放射線の方、おそらくは硬X線かガンマ線の操作だよねぇ」
そんなことを考えているうちに、この老人の黒い片目は、私の「種のある手品」を暴いていく。
機能的には大気中の素粒子を弾にすれば粒子放射線も撃てなくはない。ただ、省スペースの攻撃手段として扱うのであれば、電子放射線のほうが取り回しはいい。
「でも惜しい。電子放射線は電荷こそ持たないけどねぇ。電磁波ではあるし、電場に干渉すれば動きを曲げることは容易い」
「
この老人こそ、学園都市の「能力開発」、脳の観測機構を電極でぶっ壊すことで
その用いる科学は、他者の能力を扱う
しかも扱った能力が能力だ。
ミサカネットワークの一部であれば、すでに手中に収めていたというのか。
「ほれ」
私の白衣が、爆散したかのように引きちぎれる。
……もっとも、彼は私のあられもないセクシーシーンが見たくて念動力を使ったわけではないだろう。単純な衝撃のみならず、肉体の内部構造を適切に阻害して、私の肉体を肉片に変えるつもりだったはずだ。
ただし。そうはならなかった。私の「科学」の防御力が、彼の科学を上回ったからだ。
私の羽織っていた白衣の中から、白い外骨格が飛び出す。流線形のラインのところどころからオーロラのような光が漏れる。
「ほう! プロセッサスーツかぁ!!」
『プロセッサスーツ』。
学園都市には、多くの
その中でも最強の
それこそが「プロセッサスーツ」だろう。
「……でも、刹那君の胸はそんなに大きくなかったと思うんだがねぇ」
「胸にはエネルギー源の小型原子炉を積んでますからね。それはそれとして殺す」
そこからが本当の「殺し合い」だった。
さらに、「
それでもその戦闘は、明らかに木原幻生が押している。
「ところで」
「なんだい?」
端的に言えば、それは私のスーツが本領を発揮していなかったからだ。そしてこれからは違う。
「
「
「
ファイブオーバー。学園都市に7人しかいない超能力者の能力を、純粋に工学的に再現した兵器。
ただし、この兵器は現存する7人ではなく、すでにいなくなった最初の一人を模した兵器だ。
学園都市最初の能力者、
こと、環境を塗り替えると言う一点においては、現在の七人のレベル5の誰よりも優れている。……広域殲滅性能においても同様だ。
通路の壁の片側が数千度のマグマに変わり、逆側の壁が絶対零度の氷に変わり破断する。
触れもせず、動作すらもなく。駆動鎧を介した脳波コントロールによって引き起こされる科学!
工学的に再現されたものとは、異能を用いていないものとは到底思い難い不可思議!
その上で、その不可思議は単なるマジックのデモンストレーションではない。
壁が溶解し外気が吹き抜け、更に2点に発生した強大な温度差により、風速180m/秒、藤田スケールで計算すればF6の竜巻に匹敵する風が発生する。
高速で飛来する大気の壁は、老人のようでいて戦闘兵器の塊である木原幻生を、やはり老人のように吹き飛ばし、枯れ木のようにへし折った。
(大気の放射線観測が揺らぎましたし、
オジギソウ。超音波で振動して遠距離から対象を抉り飛ばすナノ金属粒子粉末。
ブルーフィアー07。悲しみを引き起こす神経伝達物質。その他同シリーズのレッドフュリー03等と組み合わせることで洗脳が可能。
それらでなくとも、それらよりさらに悪辣なナノ兵器すらいくつも思い当たる。
「そしてこの兵器の真髄は『機械』ではありません」
例えば。
このような。
木原幻生の肉体から、カビが噴出した。
それが私の思いつく限りの、「さらに悪辣なナノ兵器」だ。
「深海の熱水噴出孔に生息する「熱量を捕食する細菌」を散布、高出力放射線によるエネルギー供給と誘導、遺伝子破壊による変異誘発により即座に環境を塗り替える、
放射線による「温度上昇」と、細菌による「温度低下」。さらに変異した生物の繁殖がもたらす化学変化や呼吸などを組み合わせることで、あらゆる自然現象を引き出す機構。
科学を散布していたのは、木原幻生だけではない。
放射線によって完全な制御が可能となった細菌群。それが、先ほどの突風によって綺麗に木原幻生の肉体に付着している。
右腕がマグマに浸かったかのように溶ける。
左腕が南極に放置されたかのように凍る。
右脚が砂漠化したかのように干からび風食する。
左脚が熱帯雨林化したかのように、謎の植物に覆われ、内部からへし折られていく。
腰は深海に放置したかのように圧力でひしゃげ、数分の一に縮んでいる。
胸は菌糸に覆われ、腐敗していく。木原幻生の肉体は既に大部分が金属とプラスチックであるにもかかわらず、問題ないかのように菌糸に食い破られていく。
首から上は、なんともなっていない。ただし、大気中の酸素は細菌に食いつくされ、局所的な真空状態になっているという一点以外は。
熱量操作と生物の変異操作によって生み出される、自然環境の数々が、木原幻生の肉体を蝕む。
断末魔さえ与えない
「まあ、もっとも。すでに聞こえていないでしょうが。安心してください。記憶野だけは『細胞の生存が可能な環境』を保っています」
私は、収束放射線で木原幻生の鼻から上を切り取り、持ち出した。
金属とプラスチックが焦げる匂いがした。この老人の肉体はすでに脳を除いてほとんど機械化されている。それでも、ここまで破壊されて猶、脳の生存を担保できる構造にはなっていない。
それでも。
モデルケース・ビギニングチャイルドは環境改変兵器だ。自身の生存を担保し他者の生存適正環境を破壊するものだが、必要なら他者の生存環境も担保可能だ。
頭の半分しか残っていない半球状の姿を『生存環境』が担保されていると言えるのなら。もちろん、脳の全てを生かしておく必要はない。記憶野の一部の神経伝達さえ生きていれば記憶記録は読み取れる。
ぽたりぽたりと機械油と脳脊髄液が垂れる半分の頭蓋を持ち、私は再度歩き出した。
その先には、とても大きな水槽の中に浮かぶ脳味噌があった。