ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります   作:あーけろん

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たった一つのすれ違いと秤アツコ

 

 

「─────ふぅ」

 

 

アビドス高等学校の空き教室で星明りの空を眺めながら一人息を吐く。

 

今日の昼過ぎに行ったブラックマーケット調査、とりわけカイザーの事務所襲撃では大きな収穫を得ることができた。都市整備部ジャケットのコピー品や都市整備部名義で武器を買い付けた請求書、果ては俺を騙って傭兵たちとやり取りしたモモトーク履歴まで入手する事ができた。

 

これらの証拠を連邦生徒会に提出し、追って行われる調停の際に役立てて貰えばおおよそ負けはないだろう。自力救済を行った罰則としてなんらかのペナルティはあるだろうが………そこは今考えても仕方ないだろう。

 

 

「……しかし、これが俺を騙ったモモトークねぇ」

 

 

手に持っている紙の資料に視線を落とす。カイザーが傭兵達と連絡を取る時に使っていた俺を騙ったモモトーク履歴で、そこでのやりとりがテキストで出力されている。

 

 

「なんだよこの口調……カイザー達は俺がこんなに尊大な態度を取る奴だとおもっているのか?」

 

 

テキストにある俺を騙ったモモトークだが、その口調はあまりに尊大だ。依頼は命令口調だし、報酬の交渉にも全く応じないどころか逆に批判する始末。カイザーたちにとって俺はこんな奴だと思われているのか……非常に不服である。

まぁいい、このモモトークに対する文句は裁判でカイザーPMC理事に直接伝えるとしよう。

 

 

「…ま、とりあえずは作業を続けますか」

 

 

空き教室に並べられた建材─────計7つの木製ベッドの材料を見てから資料を傍に置く。なぜこんな物を作っているのかと問われれば、今日アビドス対策委員会で開かれるパジャマパーティに使うからだとしか答えようがない。うん、若いって良いね。

 

 

「〜〜〜♪」

 

 

鼻歌まじりにテキパキとそれらを組み上げていく。寸法は既に測っているので、あとは手順通り組み上げていくだけなので非常に簡単だ。エンディングを迎えた後は家具の簡単組み立てキットをチマチマ販売するのも良いかもしれない、引退生活のお小遣い程度にはなるだろう。

 

明るい未来予想を脳裏に描く。ミレニアムを卒業したらどこか静かな場所で木製のログハウスを建てて、そこに住むんだ。辞めてしまった写真活動も再開して、もしかしたら猫を一匹飼うのも良いかもしれない。飼うならどんな猫が良いか………。

 

 

「すみません、クロキさん。今大丈夫ですか?」

 

 

なんて取り留めのない事を考えていたら、開け放っていた教室の入り口からペロロ様をあしらったエプロンを身につけた阿慈谷さんがこちらを覗き込んでいる。

 

 

「阿慈谷さんか。どうしたの?」

「はい、ホシノさんから今日の夕飯の希望を聞いて来て欲しいと頼まれまして」

「そんなの端末で聞いてくれれば良いのに、態々悪いね」

 

夕飯の希望か。確かに今アビドスにはそこそこ食材があるからなんでも作れるだろうし、ここはやはり王道を行くカレーか……。

 

 

「カレーが良いな、あんまり辛くない奴。確かルーがあった気がする」

「わかりました、伝えておきます。それでクロキさん。その……どうですか?」

「ん?何が?」

 

 

何かを期待した上目遣いでこちらを見る────はて、なんのことだろうか?

 

 

「このエプロンとバンダナです!クロキさんに作って貰いましたが、すっごい可愛いと思いませんか⁉︎」

「……あぁ、うん。とても似合ってるよ」

「そうですよね!こんなに可愛いエプロンをすぐに作れるなんて、流石クロキさんです‼︎」

 

 

普段ならあまりお目にかかれないご機嫌な彼女に少しだけ気圧される。みんなと家庭科室で料理をするからとクラフトチェンバーで作った即興のそれだが、どうやらいたく気に入ったらしい。

 

 

「そんなに気に入ってくれたなら、後でもう何着かあげようか…?材料自体はシンプルだからすぐに作れるしさ」

「良いんですか!是非お願いします!」

「…うん、今度作っておくね」

 

 

ここまで気に入ってくれるのなら、今度モモフレンズの企画に商品化の話を持ち込んでもいいかも知れないな…いや、知り合いなんていないから門前払いが関の山だろうけど。

 

 

「それで、ホシノさんから作業の進捗も聞いてきて欲しいと頼まれているんですけど……まぁ、聞くまでもない事ですよね」

 

 

ものの20分足らずで組み上がった4つのベッドフレームと完成間近の5つ目のそれを見て彼女が苦笑する。寸法さえ出来ていればこんなこと誰にでもできるのだが……。

 

 

「それより、本当に今日は此処に泊まって良いんですか?その、ご迷惑じゃ…」

「泊まってくれる方が助かるよ。カイザー達が動き出してるのは間違いないからね。明日の朝、みんなで公共機関まで送れば安全だと思うし」

 

 

カイザー達の動きが自分の考えていた想定よりずっと早い。まだ実働部隊の姿は確認できていないが、すでにアビドスで展開を始めていてもおかしくない。

カイザー達が一人で帰る阿慈谷さんを人質に俺の身柄を要求したらこちらとしても打つ手がない。そうならないよう集団行動を心がけるのはある種当然のリスクヘッジと言えるだろう。

 

 

「それより、阿慈谷さんは授業は大丈夫なの?今日だって、本来なら授業日の筈だけど…?」

「ふ、普段は真面目にしているから1日くらいズル休みしてもだいじょうぶなんです!」

「それなら良いけど…。ま、どうしても困ったら言ってね。少しは力になれるからさ」

 

 

流石に単位の事について一生徒の自分が口を出す事はできないが、桐藤さん経由でお願いすれば補習くらいは開いてくれるだろう。こう言う時、人脈を広げておいて良かったと心から思う。

 

 

「ありがとうございます!もし困ったら真っ先にご相談しますね!」

「まぁ、困らないのが一番だけどね」

「それは…そうですね…」

 

 

「それじゃあ私も家庭科室に戻りますね!クロキさんも頑張って下さい!」

「うん、そっちも美味しい晩御飯楽しみにしてるよ」

 

パタパタと教室から出ていく彼女を手を振って見送る────彼女を見ていると、なにげない青春の1ページに俺が入り込んでも良いものかなんて、ちょっとした罪悪感を覚える。

 

 

「…ま、居心地は悪くないから良いけどさ」

 

 

再び工具を手に持ち、作業を始めようした矢先に端末にモモトークの通知が光る。相手は白石部長だ。

 

 

『指定ポイントにドローンを投入した。事前に送ってきた偽装データもちゃんと積んである。今後はこう言うことはしないでくれたまえ』

「…よっぽど根に持ってるな彼女。えぇと、『悪かったよ、助かった。お礼はまた後日必ず』っと」

 

 

返信をしてから数秒後、再び端末が光る。

 

 

『そのお礼の内容はこちらで指定できるのかい?』

「なんか物騒だなぁ…『自分にできる範囲でのことだったら』」

『それじゃあ新しい工房が欲しいかな。レールガンの実験にも耐えられるような頑丈なやつが』

 

 

レールガンの実験と言うと、将来アリスの持つ【光の剣】の実験に使うのだろうか。まぁ、理由はどうあれレールガンに耐えられる実験設備を作る程度は問題はない。クラフトチェンバーを使えば加工の難しい特殊合金も簡単に加工できるから、頼みとしては楽な部類だ。

 

 

『それくらいならお安い御用だよ。今度土地の選定や内装について話し合おうか』

『助かるよ、時間は合わせるから忘れないでくれたまえよ』

『わかった、すぐに連絡するよ』

 

 

最後に一つスタンプを押してモモトークのやりとりを終わらせる。その後すぐに別のアイコン────鬼方のアカウントをタップし、素早くメッセージを送る。

 

 

『事前に伝えておいたポイントにドローンを投入した。後はそれを破壊してデータをカイザーに届けてくれ』

 

 

「………?」

 

 

既読自体は送ってからすぐに着いたが、返信がない。もしかして今は確認できない状況なのだろうか─────なんて考えていた矢先、通信端末が着信を知らせる。着信相手の名前は「鬼方カヨコ」であり、すぐに通話ボタンを押す。

 

 

『もしもし、クロキ?』

「鬼方か?電話をかけてくるなんて思わなかったよ。何かあったのか?」

『別に何もないけど?連絡なら電話の方が早いと思って』

「そっか、それなら良いんだが…」

 

 

何か不測の事態があったのかと身構えたが、どうやら何事もなかったらしい。

 

 

『それよりさっきのモモトークの件だけど、本当に壊しちゃって良いの?クロキのドローンなんでしょ?』

「良いんだよ。どうせもうすぐ廃棄する予定だったものだ、こうして活用できるだけでも御の字だよ」

『それなら良いけど……』

「こっちの心配より、そっちの心配をした方が良いぞ。武装はほとんど積んでいないけど、前言った通り俺の持っているドローンの中でも一等強力なものだ。舐めてかかると怪我するかもしれないからな」

『大丈夫だよ。相手は別に風紀委員長ってわけじゃないし、私達の強さはクロキも知っているでしょ?』

 

 

…確かに、便利屋68は原作でもネタ扱いが多いが、先生の指揮下にある対策委員会と渡り合えるだけの実力を有している、キヴォトスの中でも指折りの戦闘集団だ。心配するのはむしろ失礼かもしれない、か。

 

 

「すまない、無用な心配だった」

『良いよ。心配してくれて嬉しかったし』

 

 

彼女の声色は明るい、本当に気にしてないようだ。

 

 

「それで、カイザーにデータを渡し終えたら頼みたい依頼があるんだけど、良いか?」

『頼みたいこと?』

「ちょっと頭数が必要な仕事でね。明日の昼過ぎになったら再度詳細は連絡するからさ」

 

 

ここで便利屋一行にカイザーに対して事実上の宣戦布告をすると宣えば、今の仕事を放り投げてこっちに来てしまうかもしれない。それでは仕込みが台無しになってしまうし、なにより情を優先して仕事を途中で投げ出す陸八魔の姿は見たくない。

 

 

『…うん、わかったよ。この後社長にそれとなく伝えておく』

「頼りにしてるよ、便利屋68の課長さん」

『はいはい。それじゃあ、私達もそろそろ目的地に向かうから、終わったらまた連絡するね』

「わかった、気をつけてな」

『うん、頑張ってくるね』

 

 

彼女の言葉を最後に通話が切られる─────これで、目下の仕込みは全て終わったと考えて良いだろう。原作から離れてしまった今、この先どうなるのかはわからないが……。

 

 

「…ま、出来る事からやっていくしかないか」

 

 

ブルーアーカイブに生きる彼女達を全員幸せにする楽園を作る、その方針に変わりはない。そのためには積み上がっていく物事を一つ一つ片付けていくべきだと思い直し、再び工具を手に取る─────その、直前だった。

 

 

『着信です、着信です、着信です』

 

 

通信端末から吐き出される機械音声。聞く人が聞けばなんらの変哲もない着信音─────だけど、俺にとってこの着信音は特別な意味を持つ。だって、この着信はとある学校の生徒達からの連絡を聞き逃さない様に別途に登録したものだからだ。

 

 

「───────は」

 

 

さっきしまったばかりの端末を手に取り、そこに映し出されてある名前に視線を落とす──────そこには、かつて手を伸ばして振り払われた少女の名前が写っていた。

 

取るべきか一瞬悩んだが、もしこれが彼女達からのSOSならばと考えた瞬間に通話ボタンを押して耳に当てた。

 

 

「…もしもし」

 

 

数瞬の後、声が聞こえる。

 

 

『……久しぶりだな、クロキ』

 

 

あいも変わらない─────いや、前より少し大人になった声に静かに頷き、彼女の名前を口にする。

 

 

「────本当に久しぶりだね、錠前さん」

 

 

 

 

 

【───何度も言わせるな、私達はお前とは一緒に行かない、行けないんだよ】

 

 

脳裏に、最後に彼女の顔を見た時の記憶が蘇る。マスクの上からでもわかる程に苦悶の表情を浮かべ、震える腕で銃口を向ける彼女の顔が。

 

 

『…用件だけ伝える。この後1時間後、指定するポイントに一人で来い』

「行かなかったら?」

 

 

直後、端末に画像データが送られる。

 

 

『中を確認しろ』

 

 

指示通りに端末を操作し、画像データを確認する。

そこには、柱に縄で括り付けられた3人のヘルメット団が映し出されていた────なるほど、そういうことか。

 

 

『もし要求が飲めないようなら、今すぐこの3人を────』

「わかった、すぐに向かうよ。座標ポイントを送ってくれ』

『……言っておくが、同行者を引き連れてきてもすぐにバレるぞ』

「そんな真似しないよ。だから彼女達には危害を加えないでくれ」

『……………』

 

 

何秒かの沈黙の後、通話が切られる────久しぶりの連絡が脅迫電話なんて、世も末だな。

 

さて、やらないといけないことは色々とできてしまった。だけど、彼女達から連絡があったのは好都合だ。あの時俺に銃を向けた理由を聞きたいし、今のアリウスの状況だって知りたい────そうなると。

 

 

「とりあえずは置き手紙だな、うん」

 

 

ごめんみんな、もし五体満足で帰って来れたらその時は土下座するから許してくれ。

 

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────ん、先生手際が良い」

 

 

アビドス高等学校にある家庭科室、そこでジャガイモを切っていると横からシロコちゃんがこちらを覗き込んでくる。

 

 

「ふふっ、ここに来る前はよく自炊していたからね。基本なんでも作れるよ」

「へぇ。なんか意外かも」

 

 

セリカちゃんの言葉に頷きつつ、手元から視線は逸らさない。

 

 

「それ、よく言われるんだよ。なんでなんだろうね?」

「先生は可愛らしさよりも凛々しさが強いですから、意外に思われますよ」

「そうかなぁ?」

 

 

あんまり自分の顔について考えたことなんてなかったけど、私って凛々しい方なのだろうか。結構抜けてる事も多いし、どちらかといえばドジっ子だと自覚していたんだけど…。

 

 

「ん、それよりホシノ先輩。今日の献立は本当にカレーで良いの?まだクロキから聞いてないけど」

「クロキは絶対カレーが良いって言うよ。あんまり辛くない奴が良いって」

 

 

豚バラ肉を切りながらホシノちゃんが口を開く。

 

 

「クロキ君ってカレーが好きなの?」

「そんなに特別好きってわけじゃないと思いますけど…」

「そうですよね。なんでカレーだと思ったんですか?」

「うん?それはね……」

 

 

ホシノちゃんが何か言おうとした瞬間、家庭科室の扉が開かれてヒフミちゃんが入ってくる。

 

 

「すみません、いま戻りました!」

「あ、おかえりヒフミちゃん。それで、クロキはリクエストはなんだって?」

「カレーが良いそうです、あんまり辛くないと嬉しいとも言っていました!」

「…………」

 

 

ヒフミちゃんの言葉を聞いたのち、ホシノちゃんの方を見る。そこには、少しだけ勝ち誇った様に微笑む彼女がいた。

 

 

「ね?だから言ったでしょ?」

 

 

────うぅん、やっぱり強敵だなぁ。

 

 

「…ん、やっぱり付き合いの長さじゃ先輩には敵わない」

「ですね…。やっぱり別のアプローチが必要かも」

「わ、私はどうでも良いけど?そっか、あいつカレー好きなんだ…」

 

 

対策委員会のみんなもホシノちゃんに対抗心を燃やしているようだ─────それにしても、みんながみんな一人の男子生徒のことを慕っている環境というのはいささか不健全なのではないだろうか?

 

 

「クロキの方はどんな感じだった?もう作り終えそう?」

「あと3つフレームを作ったら終わりそうでした。改めて思いましたけど、ものづくりに関してクロキさんの右に出る人はいないですね」

「きっとこのキヴォトスで勝てる人はいないと思うよ。ま、そこは才能だろうね」

 

 

「この家庭科室の機材だってクロキが直したんだよ〜」とコンロを撫でる。その手つきは優しく、本当に感謝しているのだと言うことがわかる。

 

 

「さ、私は仕込みは終わったけどみんなはどう?」

「ん、玉ねぎは大丈夫」

「人参とジャガイモもオッケーだよ」

「お米はもう少し吸水してから炊き始めます!」

「オッケー。じゃあ続けようか」

 

 

みんなが準備した具材を一纏めにする──────あれ、そういえば。

 

 

「そういえば、ヒフミちゃんってクロキ君のお面姿を見ても驚かなかったよね?やっぱり素顔は知っていたの?」

「えっ?あ、そうですね。知っていましたよ」

 

 

なんてことない口調で話すヒフミちゃんに苦笑する─────クロキ君、なんでこれでロボットの振りが出来ていると思ったのだろうか……。

 

 

「ん、どうやって知ったの?」

「ナギサ様から写真を見せてもらったんです。二人で写っている写真なんですけど」

 

 

─────────ん?

 

 

「ちょっと待って。それって素顔のクロキとツーショットの写真ってこと?」

「そうですよ。ナギサ様の端末の待ち受けにされてますから、その時に見せて頂きました」

「………へぇ」

 

 

さっきまで和気藹々としていた家庭科室に氷柱が落ちたような冷たい空気が走る。

 

 

「ヒフミちゃん」

「は、はい!」

「ちょっとクロキを呼んできてもらえる?聞きたい事があるんだ」

「わ、わかりました!すぐに行ってきます!」

 

 

風のように家庭科室から飛び出ていく彼女を傍目に、対策委員会のみんなが部屋の真ん中に固まる。

 

 

「……で、どう思う?」

「ん、明らかにアピールしてる。優越感が鼻につく」

「これ、やっぱりクロキさんトリニティの代表から狙われてますよね?ヒフミちゃんの話から薄々勘づいていましたけど…」

「ど、どうすんのよ?トリニティみたいな巨大マンモス校が囲い込みに走ったら私達手も足も出ないわよ?」

「いえ、流石にそれはミレニアムが許さないと思います。クロキさんは都市整備部としてセミナーの外部顧問も勤めていますし、何より彼が特定の一学区に肩入れするとは思えません」

 

 

アヤネちゃんの言葉は尤もだ。クロキ君の夢がキヴォトスに楽園を作ることである以上、特定の学校にだけ肩入れするとは考え難い。例え強制的に拘束されても、彼がそれを甘んじて受け入れるとも思えない。その程度で諦めるのなら、彼は一人でこのキヴォトスの半分も作り替えていないはずだ。

 

 

「…そうなると、なんでクロキがそんな写真を許したのかが問題ですね」

「脅されたとか?」

「脅されたくらいでそんなことを許すかしら?今だって頑なにお面を外さないのよ」

「なんらかの事情があったと考えるべきですね……それはそれとして」

 

 

ノノミちゃんが手を叩いて笑顔で言い放つ。

 

 

「皆さんも欲しいですよね?クロキさんとのツーショット」

 

 

 

─────無言。けれど、みんなの心は一つだった。

 

 

「ん、どうやって手に入れる?」

「普通にお願いするのはどうでしょう?案外頷くかもしれません」

「それが一番だね。でも、もし断られたら?」

「無理やりは良くないですけど…あんな話を聞かされて黙っていられませんよね?」

「なんだかんだみんなでゴリ押しすればクロキは頷く。間違いない」

 

 

トントン拍子で話が進んでいく。流石少数精鋭の対策委員会だ、意思決定が素早い。

 

 

「決まりだね。それじゃあこの後は──────」

「た、大変です‼︎」

 

 

大声をあげながらヒフミちゃんが家庭科室の扉を開ける。さっき出て行った時とは雰囲気がまるで違う──────何かあったと考えるのにそう時間はかからなかった。

 

 

「どうしたのヒフミちゃん、そんなに慌てて?」

「そ、それが…!今さっきクロキさんのところに行ったらこれが置いてあって…!」

 

 

ヒフミちゃんの手に握られている紙を受け取る。メモの紙を使ったのか、荒々しい切り口の紙にはたった一言が綴られていた。

 

 

『ごめん、少し出てくる。帰ってこれたらお叱りは甘んじて受けます』

 

 

その文が頭に入った刹那、校庭からエンジン音が鳴り響く。視線を窓に向けると、ヘッドライトを付けた軽トラックが校門から外に出ようと走り出しているのが見えた─────不味い、この距離じゃ対策委員会のみんなでも止められない‼︎

 

 

「シロコちゃん銃は⁉︎」

「手元にはない!誰か持っている人はいる⁉︎」

 

 

二人が部屋の中を見回す───けど、ここは家庭科室だ。銃なんてあるわけない。

 

 

「わ、私も手元にはないわよ!」

「急いで持ってきます!」

「……いや、もう遅いよ」

 

 

既にクロキ君が運転しているであろうトラックは校門を出て公道に出てしまっている。その姿は徐々に遠くなっていき、生徒達の携行している火器は既に射程圏外になっているだろう。

 

 

「……やられた。この状況で一人で出歩くわけないなんて先入観があった」

 

 

力なく腕を下げるホシノちゃん───確かに、カイザーの部隊が展開しているかもしれない夜の街に一人で出歩くなんて自殺行為だ。そんなことするわけないって先入観があっても不思議はない。

 

 

「あいつは…!なんでこんな時に一人で出歩くのよ‼︎どこにカイザー達が潜んでいるのかもわからないのに…!」

「急いで追いかけよう。途中で誰かに襲われたら不味い」

「けど、どうしてクロキさんは私達に何も言わずに…?」

 

 

その問いに、ホシノちゃんは寂しそうに答える。

 

 

「そんなの決まっている────クロキは、誰かを助けに行ったんだよ」

「誰か…?それって、誰ですか?」

「それはわからないよ。けど、どう見ても理にかなってない行動をする時、その裏には助けを求めている人がいる。ずっと見てきたからわかるんだ──────クロキは、誰かを助ける手を伸ばす事を辞められない」

 

 

デフォルメされたサメのエプロンを外すと、彼女が困ったように笑う。

 

 

「美味しいカレーは女誑しを回収した後になりそうだね。みんな、悪いけど手伝ってもらえる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

──────割れた窓ガラスから、満天の星を仰ぎ見る。地上から見上げるそれらの極小の光の粒達は、まるで私達を見下ろして蔑んでいるような錯覚を覚える。

 

 

「………リーダー。空なんて見上げてどうしたの?」

「別に、何もない。それより、カタカタヘルメット団はどうだ?例の爆弾は設置したか?」

「うん、これがその起動装置」

 

 

ミサキから手のひらサイズの装置を手渡される─────マダムから任務の際に渡された『特注の爆弾』の起動装置だ。『人質を取れば聖人はのこのこと現れる、あの愚物は誰も犠牲にできないから』と渡されたそれだったが、先程の通話からその言が正しかったとわかる。

 

 

「わかった、これは預かっていく」

「……再度確認しておくけど、今回の任務はクロキ──────対象の捕縛が目的なんだよね」

「そうだ。なんでも対象の肉体に用があるらしい……これ以上説明が必要か?」

「ううん、それだけわかれば良い」

 

 

捕縛、と言う単語に少しだけ安堵した様子の彼女に視線を細めるが、もうじき奴が現れると思い留まる。

 

 

「…さっさと持ち場に戻れ。姫とヒヨリはどうしている?」

「打ち合わせ通り、ヒヨリは一つ上の階で待機中。姫はその横で外を眺めていたよ」

「……そうか」

 

 

今回の任務──────都市整備部部長の鏑木クロキ捕縛について、彼女には思うところが強いのだろう。私達の中でも一番付き合いが深かったのだ、何も含むところがないと思う方がどうかしている。

 

 

「それで、対象はもうくるの?」

「先程の電話から50分程だ、まもなく到着するだろう」

 

 

私達が潜伏しているここ、旧アビドスの立体駐車場はアビドス高等学校から距離が離れている。鏑木クロキが誰にも伝えずここに来たとしても、小鳥遊ホシノを始めとした対策委員会の面々はすぐにその異変に気がつく。そんな彼女達の追跡を撒くために態々この場所を選んだんだ。

 

 

「………」

 

 

暫しの沈黙。夜の砂漠に吹く風の音だけが響く中──────ふと、コツコツと足音が遠くに聞こえた。

 

視線でミサキに持ち場に戻るよう指示し、私は懐から拳銃を取り出す。弾倉、排莢部、引鉄を確認しいつでも発砲できるようセーフティを外す。その間にも足音は徐々に大きくなっていく。

 

 

「…すぅ、はぁ」

 

 

静かに、けれど確実に近づいてくる足音にどこか緊張しながらも、大きく息を吐く。

 

 

【錠前さんは心配性だなぁ。大丈夫、俺は君達に向ける銃なんて持っていないよ】

 

 

ふと、脳裏に彼が笑いながら言った言葉が浮かぶ。

革靴がコンクリートを踏みしめる音はついには私のいる階にまで辿り着く──────そして。

 

 

「やぁ。久しぶりだね、錠前さん」

 

 

初めて会った時とは似ても似つかない、アビドス高等学校の制服にひょっとこのお面を被った対象──────鏑木クロキが、昔の旧友に会ったときのような気軽さで、そう言い放った。

 

 

「……その手に持っているものはなんだ?」

 

 

クロキの両手には大きなレジ袋が吊り下げられている。どちらの袋もぎっしり中身が詰められているように見える。

 

 

「これ?ちょっと近くのコンビニでまとめて買ってきたんだ」

「何を?」

「何って……お菓子とかお弁当?」

 

 

……こいつは何を言っているんだ?

 

 

「…ふざけているのか」

「大真面目だよ。マダム────ベアトリーチェからまともな食事なんて与えられてないでしょ?俺のことを殺すにしても捕まえるにしても、最後に話に付き合ってくれてもバチは当たらないって」

 

 

「いやぁ、ここまで重かったよ。もう少し下の階にしてくれれば良かったのに」と肩を落とすクロキ──────なぜか、その姿に無性に腹が立った。

 

 

「お前は何を考えている?人質を使っておびき寄せた奴らと、仲良くお喋りができると本気で思っているのか?」

「思ってなかったらこんな事しないよ」

「だとしたら残念だったな。生憎こちらには時間がない、手早く拘束させてもらう」

 

 

視線で柱に隠れているミサキに合図する。もう良い、これ以上こいつと話しているとどうにかなってしまいそうだ。早く拘束を─────。

 

 

「30分」

 

 

ふと、クロキが時間を口にする。

 

 

「俺と話をして欲しい時間さ。それぐらいだったら大丈夫だろ?」

「…断る」

「頼むよ。それだけ話してくれたら、後は煮るなり焼くなり好きにして良いからさ」

「───何故だ、なぜそこまでする?」

 

 

彼の困ったような声に、ただ困惑した。心のそこから出てきた疑問だった。

命乞いをしているわけではない、こいつは本当に30分程度私達と話せたら、それで死んでも良いと本気で思っている─────はっきり言って異常だ。

 

 

「何故?友人と話すのに理由なんて必要かい?」

「私とお前は友人ではない。唯の、敵同士だ」

「俺と君達は敵でもなんでもないよ。今は────うん、ちょっとすれ違っているだけさ」

 

 

─────その言葉は、酷く私の感情を揺さぶった。

 

 

「ッ、そんな訳があるか!」

 

 

懐から拳銃を取り出し、銃口をクロキヘと向ける。隠れていたミサキから「リーダー!」と制止の声がかかるが、気にしていられない。

 

 

「私たちとお前は敵同士なんだ!お前が楽園を作る者であるならば、私達がそれを壊す者だ!これが敵同士でなくてなんだと言う⁉︎」

「…錠前さん」

「私はお前に銃を向けた!発砲もした!なのに、なんでお前は私達を敵と認識しないんだ⁉︎」

 

 

─────どうせ味方になれないのなら、せめて憎まれたかった。同じ陽の光に当たれないのなら、私達のことを切り捨てて欲しかった。

でも、今のクロキを見ていたらわかる────こいつはまだ、私達の事を諦めていない。

 

 

「……一つ、人生の先達として錠前さんに教えておくよ」

 

 

手に持っていた袋を地面にゆっくりと下ろすと、大きく息を吐く。

 

 

「人間関係ってのは複雑だ。自分が好きだからって、相手が自分のことを好きになってくれるとは限らない────それと同じで、自分が嫌っている相手から嫌って貰えるとも限らないんだ」

 

 

「──────錠前さんが俺に嫌われようとしたって、そうは行かないよ。俺は何があっても君を嫌いにならない。見捨てない。例え俺が死んだとしても、君達をどん底からひっぱりあげてみせるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

───────錠前サオリの言葉を聞いた時、はじめに浮かんだ感情は酷い自己嫌悪だった。

 

 

『原作』の彼女はただ無感情に、冷徹に任務を熟す機械のような少女だった。そうしないと生きられない過酷な環境に次第に感情を殺してしまった哀れな少女───そんな彼女になるのをどうにかしたくて、彼女に近づいた。この世界はそんなに辛いことばかりじゃない、助けてくれる隣人だってかならず現れるんだって伝えたくて。

 

─────そして、その結果がこのザマだ。マスクの上からでもわかる程に彼女は苦悶の表情を浮かべながら俺に拳銃を向けている。これは、俺の失態以外の何物でもない…けど。

 

 

(これは刺激しすぎたかな…?)

 

 

今の俺はロボットスーツを着ていない、前みたいに弾を撃ち込まれたら致命傷は必至だ。彼女に人殺しの汚名を着せるわけにはいかない。けど、これはどうするべきか………。

 

 

「─────サッちゃん。もう良いんじゃない?」

 

 

後ろから声が聞こえ、視線を後ろに向ける。そこには、顔全体をマスクで覆った秤と槌永の二人が佇んでいた。

 

 

「っ、姫⁉︎」

「クロキだって、30分だけ話したいだけなんでしょ?それくらい、叶えてあげようよ」

「だが、その間に追手がくる可能性が……」

「どうなの?クロキ?」

「…すぐにはここに辿り着けない筈だ、彼女達は今移動手段が乏しいから」

「だって、サッちゃん」

 

 

秤の言葉に渋々拳銃を降ろす────なんだかよくわからないが、サオリに撃たれることはなくなったらしい。

その様子を見た後に秤はこちらに振り向くと、顔全体を覆っていたマスクを外す。

 

 

「久しぶり、クロキ。半年ぶりぐらい?」

「…そうだね、秤さん」

 

 

前に見た時と変わらない儚げな笑みでこちらを見上げる彼女に笑いかける────けど何故だろう、非常に胃が痛い。

 

 

「そ、それじゃあこれ全部食べて良いんですか⁉︎」

「全部は駄目だよ槌永さん。みんなで分けないと」

「わ、わかってます!あ、あとお久しぶりですクロキさん。えへへ…」

「うん、久しぶりだね」

 

 

一目散にお菓子やお弁当に近づくヒヨリさんに笑みが溢れる。うん、相変わらず彼女は元気そうだ。なんだかんだ彼女が一番生命力が高いような気がする。

 

 

「…なんか変な感じになったね」

「まぁとりあえず、直ぐに撃たれなくて良かったよ」

「今のクロキだとすぐ死んじゃいそうだしね」

「それは…まぁ、否定できないな」

 

 

戒野の言葉に苦笑する。実際の所、今撃たれたら非常に危うい。

 

 

「じ、時間もありませんし早く食べましょう!追手が来たら大変ですから!」

「俺の分は要らないからな。みんなで分けてくれ」

「あ、じゃあ配膳お願いできる?私はクロキとちょっと話したいことがあるから」

「おい、姫…」

「ちょっとだけだから。ねっ?」

「……好きにしろ」

「ありがとう、じゃあ下の階で話そっか」

 

 

彼女に手を引かれて下に続く階段を降る────しかし、秤が俺に個人的な話ということは……。

 

 

【貴方が秤アツコ────彼女との間に子を作れば、アリウス分校は貴方に譲り渡しましょう。1人の貞操と赤子の命だけで多くの生徒が手に入るのです、悪い話ではないでしょう?】

 

 

─────脳裏に嫌な記憶が蘇る。いま思い出しても反吐が出るような内容だ。俺が、物語に登場する彼女達の事を汚して子供を作る?悪い冗談にも程がある。それにアリウス分校の彼女達のことも物扱いしている点も気に入らない。

 

 

「…それで、話って?」

 

 

階段を降って下の階────といっても、立体駐車場なので皆がいる階とそんなに違いはない─────そこの中心で秤は掴んでいた俺の手を離すと、向き直って一つの封筒を手渡してくる。

 

 

「─────マダムからの伝言。クロキに渡せって」

 

 

マダムからの伝言─────詰まるところはベアトリーチェからの言伝だ。正直見たくないが、見ないことには始まらないので黙って受け取り中を確認する。

 

 

「…………」

 

中を確認すると、一つの錠剤と手紙が入っているようだ。錠剤はそのまま放置し、手紙の方だけ中身を確認する。

 

 

『目の前の彼女を助けたいのなら、私の言う通りにしなさい』

 

 

たった一文。それだけが書かれたその手紙を刹那の内に握りつぶす─────どうやらあいつは俺の神経を逆撫でしないと気が済まないらしい。

 

 

「何が書いてあったの?」

「別に、相も変わらない嫌がらせの手紙だよ」

 

 

なによりベアトリーチェの悪辣さと言えば、その行為の対象である秤に性知識が乏しい事だ。何も知らない彼女を手籠にするなんて冗談じゃない。

 

 

「本当に?」

「───秤?」

「本当に嫌がらせの言葉だけだったの?何か指示が書いてなかった?」

 

 

─────彼女の言葉に、嫌な汗が背中を流れる。

 

 

「…指示って?」

 

 

恐る恐る、そう、本当に恐る恐る意図を尋ねる。どうか自分が抱いた違和感が間違いであって欲しいと願うように。

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────例えば、私と子供を作れとか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺の想いを嘲笑うかのように、残酷な言葉を彼女は口にした。

 

 

「……まさか、君は」

「うん、マダムから聞かされていたんだ。私がクロキと子供を作ったら、私達をクロキに、都市整備部に渡してくれるって」

 

 

────こう言う時、お面やロボットの仮面があってよかったと思う。今の俺が浮かべている酷い顔を見せずに済むのだから。

 

 

 

「秤さんはわかっているのか。子供を作るって事は、つまり─────」

 

 

 

 

 

「────ねぇ、クロキ。私、もう子供じゃないんだよ?」

 

 

小首を傾げ、スカートの裾を持ち上げて上目遣いで俺をみるその視線────俺は、その純粋な視線に耐えられなくて斜に構えた事を口にする。

 

 

「…自分のことを子供じゃないと言う人は、総じて子供なんだよ」

「むぅ、そうやってはぐらかす」

「それに、お姫様である君に俺は不釣り合いだよ。俺なんて、精々がかぼちゃの馬車を作る魔法使い程度のものさ」

 

 

いや、魔法使いは言いすぎたな。かぼちゃの馬車を引くロバくらいなものだろう。

 

 

「…クロキは、私の王子様にはなってくれないの?」

「───もう少し秤さんが世界を知って、それでもこんなお面を被った変人が良いって言ったら、その時は本気で考えるよ」

「…私とすれば、みんなが助かるのに?」

「マダムが───ベアトリーチェが嘘を言っている可能性だってある。むしろそうとしか考えられない。悪いけど、俺は彼女のことを微塵も信用していないんだ」

「…そっかぁ」

 

 

どこか残念そうに肩を落とす彼女に息を吐く────とりあえずは納得してくれたらしい。

 

 

「…話はこれで終わりかな?」

「うん。それじゃあみんなの所に戻ろうか」

 

 

再び俺の手を引く秤さん────瞬間、首に暖かい感触と同時に鋭い痛みが走る。

 

 

「ッ、何を⁉︎」

 

 

咄嗟に彼女から離れて首を触る…血はついていない、どうやら皮膚を強く吸われただけらしい。

 

 

「ごめんね?驚いた?」

「驚いたって……そりゃ驚いたけど」

 

 

素直に謝られてしまったせいで、怒るに怒れない……けど、なんだって急に?

そうすると彼女はしげしげとこちらの首を眺めると、次第に「うん」と一つ頷く。

 

 

「大丈夫そう。それじゃ、みんなの所に戻ろう?」

「……はいはい」

 

 

今度こそ彼女に手を引かれて上の階へ上がる。世間知らずなお姫様はあいも変わらず、何をするかわからないな──────。

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「──────それじゃあ、アリウスは相変わらずか」

 

 

ペットボトルのお茶を呷りながら相槌を打つ。

 

 

「うん。クロキが作ってくれた食料プラントも今は止まってる」

「予想はしていたけどやっぱりか…それで食料は足りているのか?」

「足りてないよ。クロキが来る前に逆戻り、少ない食料を奪い合ってる」

 

 

秤との話が終わった後、アリウスの現況をミサキから聞いているが────予想していた通り、俺が作った設備のほとんどは停止させられてしまったらしい。食料プラントを初め、水の濾過装置や発電施設、ドローンによる診療所もほとんどが閉鎖されたとのことだ。俺と袂を分かったからと言って、使えるものまで閉鎖するのは流石にやりすぎだと思う。

 

 

「ハフハフッ、おかげでクロキさんがあちこち直してくれた街並みもすっかり元どおりです……」

「槌永さん、食べ物は逃げないから落ち着いて食べた方がいいよ?喉に詰まっちゃうから」

 

 

…いや、ベアトリーチェの支配方法はありもしない憎悪を植え付け、それによって生徒達の感情をコントロールすることにある。そのためには最低限の設備すら邪魔なんだろう、下衆な奴だ。

 

 

「でも、クロキが作ってくれた物も何個は残ってるよ。地下街の端っこに作ったお花畑とか井戸とか」

「郊外だから目をつけられていないだけだ。バレたらすぐに潰される」

「…ふーむ」

 

 

サオリ達の話を聞いていると、やはり今のアリウス分校は前と同じ────詰まるところは凄惨な状況が続いているといって良い。

腕時計に視線を落とす─────リミットまで後5分、切り込むのなら今しかないか。

 

 

「……所で、一つ聞いて良いかな」

「なんだ?」

「あの時、一緒に楽園を目指そうと言った時、錠前さんはそれを断った。その理由を聞かせてくれないか?」

「…知ってどうする。今更何も変えられないぞ」

「だとしても、だよ。冥土の土産に教えてくれないか?」

 

 

ほとんど捨て身でここに来たのも、彼女からその理由を聞き出すためにある──────アリウスの皆を暗がりから引っ張り出すためには、まだ情報が足りていない。

 

 

「………答えられない」

「どうして?」

「…答えたくないからだ」

 

 

…うーむ、この感じから見るに何かどうしようもない理由があるように感じる。さっきの錠前の態度といい、俺のことを嫌悪している訳ではない様だけど…?

 

 

「サオリちゃん、話しても良いんじゃない?」

「…姫、それは駄目だ。こいつに重荷を背負わせることになる」

「クロキなら大丈夫だよ、ね?」

「だが……」

 

 

 

 

 

「え、えぇと。私達がクロキさんの方に寝返ると、他のアリウス分校の生徒たちがこぞって楽園区画を襲撃するんです。だから、私達はクロキさんの下には行けないんです………すごい悲しいですけど、しょうがないんです………」

 

 

 

─────────は?

 

 

 

「ヒヨリお前!なんで喋った⁉︎」

「だ、だって!もうクロキさんは死んじゃうかもしれないんですから!話したって良いじゃないですか!」

「そう言う問題じゃ─────」

 

 

 

何やら二人が言い争っているが、全く耳に入って来ない。つまり、彼女たちは楽園を守るために俺に銃口を向けたって事か───?

 

 

「秤さん、さっき搥永さんが言ったことは本当か?」

「うん、そうだよ。ね、ミサキ」

「私もリーダーからそう聞いてるけど……」

 

 

………それじゃあやっぱり、ここに俺の敵はいない。こうして敵対していることすら馬鹿馬鹿しい、まったくふざけた話だ。

 

 

「それじゃあ、やっぱり俺たちが争う必要なんて────」

 

 

俺が言葉を言い切る前に、サオリの端末からアラーム音が鳴る。それは、俺が最初に設定した30分の終わりを示すアラームだった。

 

 

「……時間だ。約束通り、お前のことを連行する」

「ま、待ってくれ!聞いてくれサオリ‼︎君たちが俺に銃を向けた理由が本当にそれなら、俺たちが争う必要なんてない!楽園が何度壊されても、俺が何度でも作り直す‼︎作り直してみせる‼︎だから────!」

「────今から薬を使う。暴れないでくれ」

 

 

クソッ!ベアトリーチェの奴、ふざけた理由で彼女達の事を縛りつけやがって…‼︎楽園をアリウスで総攻撃する?良い度胸だ、その一人一人を丁寧に説得してうちの傘下に引き入れて逆にお前のことを襲わせてやるのに……!

 

どうする⁉︎どうすれば彼女達に分かって貰える⁉︎何か良い説得の方法はないか⁉︎

 

今だ、きっと今が、彼女達を原作での血みどろの作戦に向かわせない為の分水嶺だ。指名手配なんてされない、悠々と青空の下を歩ける最後のチャンスなのに…!

 

 

「頼むサオリ!後5分……いや、1分で良い!俺の話を────‼︎」

「……すまない、どうか私の事は恨んでくれ」

 

 

彼女の掌が目の前に迫る─────────その時、耳に小さな声が聞こえた。

 

 

「────目と耳を塞いで下さい、クロキさん」

「ッ⁉︎」

 

 

どこか聞き覚えのある声に従い、しゃがんで目と耳を塞ぐ──────刹那、眩い閃光と爆音が部屋の中を襲う。

 

 

「っ、なんだ⁉︎」

 

 

サオリの声が響くと同時に、身体が浮遊感を覚える。誰かに抱かれている様だが、視界と聴覚が戻らない。

 

 

「───ロキさん、クロキさん」

「っ、君は……」

 

 

霞む視界が徐々に輪郭を取り戻し、自分を抱えている人の顔が徐々にはっきりする。綺麗な藍色の瞳にたなびく金色の髪。そして凛々しい顔立ちに無表情な彼女は───────。

 

 

「あ、飛鳥馬さん……?」

 

 

俺の言葉に、彼女は片手で目元にピースを作る。

 

 

「はい、貴方の飛鳥馬です」

 

 

─────どうやら、状況は俺の手を離れてしまったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






鏑木クロキ

人質を取って来た相手と世間話をしようとする精神異常者。ほぼ無抵抗で向かうことで本来聞けない話を聞くストロングスタイルの使い手。失敗すると普通に死ぬ。生徒が誰かを殺害する行為を非常に嫌悪しており、たとえ九割九分九厘の確率でそれが嘘だとわかっていても、絶対にその可能性が捨てきれないのであればノコノコ巣から出てくる。自分のことを馬車のロバだと自称しているが、ほとんど絶望しかなかった場所にインフラを齎した時点でロバであるわけがない。


秤アツコ

ベアトリーチェの思惑も全てを知っていた上で彼女はクロキと接していた。地下街で拾った保健体育の教科書で性教育は履修済み。キスの場所によって意味合いが変わる事も雑誌をヒヨリから借りて知った。首筋のキスは最後の思い出作り。作中に描写はないが、クロキによる魔性の女認定済み。


錠前サオリ

ミレニアムラクエンヅクリから嫌われようとしたが、某生物から嫌われるのは一度も死なずにソウルライクゲームをクリアする程に無理ゲーなので当然失敗した。某ゲームで言う所のGルートを進んだとしても彼が誰かを嫌うことはない。ただ自分の無力を噛み締めるだけである。


槌永ヒヨリ

今話のMVP。クロキの持ってきたお菓子やお弁当の半分を一人で平らげている。


桐藤ナギサ

人知れずアビドスからライバル認定されている。2ショット写真を待ち受けにしているのは見せつけるため。


飛鳥馬トキ

クロキのことをずっと監視していたパーフェクトメイド。なので秤アツコが首元に付けた跡のことも知っている。アリウススクワッドとの戦闘は今回が2回目。


小鳥遊ホシノ

クロキと3年弱一緒にいたこともあり、彼の突拍子もない行動の裏には大体女の影があることを理解している。彼女はクロキの最大の協力者であるが、甘えすぎるとストレス値が最大まで溜まってしまいバッドエンドになり得る点に留意すべし。



鏑木クロキの専用武器

名前のないサタデーナイトスペシャル。弾は一発しか装填していない。標準もない為誰かに当てることは不可能。クロキがクラフトチェンバー0号機で最初に作ったもの。

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