ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります   作:あーけろん

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※今話からタグに『独自展開』を追加しております。






握り返された掌と錠前サオリ

 

 

──────全く、本当にこの人は……。

 

 

私の腕の中にいる彼────鏑木クロキさんの姿を見て、はじめに浮かんだ感情は呆れ混じりの安堵だった。

 

 

「無事ですか、クロキさん?」

「俺は無事だけど…それより、なんで君がここに……?」

 

 

心底わからないと言わんばかりの彼の様子に首を傾ける。正直に会長からの指示を話して良いものか……いや、それよりも。

 

 

 

「─────飛鳥馬、トキ」

 

 

 

視線を腕の中にいる主人から、歯を剥き出しこちらを睨みつける猟犬───錠前サオリへと向ける。やれやれ、男を取られた嫉妬でしょうか、見苦しいですね。

 

 

「お久しぶりです、アリウススクワッドの皆さん。相変わらず─────いえ、お元気そうではありませんね」

 

 

軽く見回した程度でも分かる程に酷い顔をしている。無理もありません、手を差し伸ばせば届く距離にある救いの手を拒んでいるのですから、心理的負担は相当なものでしょう。

 

 

「いつから私達のことを見張っていた。そして、なぜ今になって現れた」

「クロキさんが30分間話したいと申したので。忠実な従者としては、主人の願いはなるべく叶えて差し上げるべきかと」

 

 

ブラックマーケットに足を踏み入れる所から監視していましたが……まさか人質を取ってきた相手とお喋りするためにコンビニに立ち寄った時は流石にどうかと思いました。

 

 

「……クロキを置いて早く失せろ。お前に用はない」

「貴女になくても、私にはあるんですよ」

 

 

腕に抱えていたクロキさんをコンクリートの床に下ろし、肩に吊るしていたライフルを手に持つ。

 

 

「──────まさか、2度もクロキさんを襲って五体満足で帰れると本気でお思いで?」

 

 

調月会長からクロキさんの誘拐を依頼された時はこれ以上ない程のやるせなさに襲われたが、こう言う場面になるのだったら話は別─────彼を殺させるわけにはいきません。

 

 

「ま、待ってくれ飛鳥馬さん!彼女達は──────!」

 

 

 

クロキさんの号哭を敢えて聞こえないふりをする─────わかっています、あの人が手を差し伸べたと言う事は、彼女達も決して悪い人ではないのでしょう。事実、彼女達が銃口を向ける前までは友好関係を築けていたのですから。

 

 

「…いいえ、待ちません」

 

 

─────ですが、それがなんだと言うのです

 

 

彼女達がクロキさんに銃を向ける理由───確かにそれは同情の余地があるのでしょう。クロキさんの作り上げた楽園を壊させないために、彼の作り上げた功績を守るために銃を向ける彼女達を、クロキさんは拒めない。現にこうして一人、対策委員会の目を盗んでここに来たのだから。

 

これは感情の問題ではありません─────これは、必要性の問題なのです。ここで彼女達を仕留めなければ、クロキさんはまた一人危ない場所に赴く。今までは無事でも、これから先はどうなるのかわからない以上、危険性は迅速に排除するのみ。

 

 

(……けど、なによりも─────)

 

 

今フルフェイスマスクを被った少女────秤アツコへ視線を向ける。卑しくもクロキさんの首筋に飛びついた時の彼女の淀んだ瞳………あの恍惚とした表情は、マダムとか呼ばれている人に強制された行動とは思えない。

 

このまま彼女達をクロキさんと関わらせたら最後、確実に良くないことが起こる。その確信がある。

 

 

「クロキさんは柱の影に隠れて目を閉じていてください。大丈夫、すぐに終わりますから」

「何も大丈夫じゃない‼︎いいか、俺が言いたいのは────」

 

 

 

「────二人とも、そこから動くな」

 

 

 

クロキさんの言葉を遮り、正面の錠前がスイッチのような物を突き出す。

 

 

 

「少しでも動けばこれを起爆する。そうしたら、上の階にいるカタカタヘルメット団がどうなるか……わかるな?」

「人質ですか、下衆なやり方をしますね。ですが、通常の爆弾程度であるならば死ぬほど痛い目に遭うだけで済むのでは?」

「────通常の爆弾なら、な」

 

 

彼女の言葉に首を傾げる。通常の爆弾ではない…?

 

 

 

「まさか錠前さん、君は────」

「そのまさかだ。上にいるヘルメット団には、ヘイロー破壊爆弾を仕掛けてある。起爆したら即死だろうな」

 

 

 

ヘイロー破壊爆弾、と聞こえた瞬間クロキさんが血相を変えて叫ぶ。

 

 

「っ、そんなことをしちゃ駄目だ!君たちが誰かを殺す必要なんてない‼︎そうなる位なら俺が───‼︎」

「行っちゃ駄目です、クロキさん」

 

 

錠前に向かって走り出そうとする彼の腕を引っ張って引き留める────正直、私としては上の階にいるカタカタヘルメット団なんて些末な事案だ。それこそ、今私が引っ張っているクロキさんの方が何千倍も価値がある。

 

 

「あの時銃を向けたその瞬間、私達が光の下を歩く事は無くなったんだよ。良い加減理解しろ、私達とお前では生きる世界が違うんだ」

「っ、生きる世界が、違う………?」

 

 

起爆スイッチとは反対の腕で拳銃を向ける彼女にこちらも銃口を突きつけ、引鉄に指を掛ける。

 

 

「さぁ、早くクロキをこちらに引き渡せ」

「冗談でしょう?私にとってそんなヘンテコ団なんて人質足りえません。押すならどうぞご自由に」

「お前に取ってはそうでも、クロキにとってはどうかな?」

 

 

その言葉にクロキさんへ視線を向ける。表情の見えないひょっとこのお面───────その下から赤い雫が滴り落ちている。悔しさから口元を噛み破ったのか、真っ赤な雫がコンクリートに跳ねる。

 

 

 

「────ふざけるな。なんで、君たちが暗がりを歩かなきゃいけないんだ」

 

 

打ちっ放しの無機質な駐車場に、文字通りの血の滴るような声が響く。その罵倒がどこに向けられた言葉だったのか────いや、聞くまでもないことだろう。

 

 

「……離してくれ、飛鳥馬さん」

「ですが……」

「大丈夫、もう彼女達について行くなんて言わないからさ」

「……嘘だったら怒りますからね」

 

 

硬く握っていた彼の手を離す。

何度か掌を握っては開くを繰り返すと、静かに息を吐く。

 

 

「飛鳥馬さん、協力してくれないか?」

「───内容によります」

 

 

どうせこの後に出てくる言葉なんて決まっていますが、敢えて聞き返します。これはきっと、ある種の儀式のようなものだと思いますから。

 

 

「目の前にいる四人を無力化して欲しい。なるべく傷は負わせずに」

「……その理由は?」

 

 

 

 

「ヘッドハンティングだよ。今都市整備部は人材を募集していてね、特に腕っぷしがある生徒が欲しいんだ」

 

 

 

先程までの動揺した態度から一転。普段の通りの、夢に追い縋る彼の声に戻る─────けれど、私としてはその意見には同意し兼ねます。

 

 

「反対です。彼女たちは2度も武器を向けました、そんな彼女達を迎え入れるなんて……」

「彼女達が銃を向ける要因は別にある。彼女達は敵じゃないんだよ」

「いいえ、彼女達は敵です。現に今、こうして人質を盾にクロキさんの身柄を要求してきました」

 

 

私の否定に、彼は首を振る。

 

 

「いや、敵じゃないよ─────だから飛鳥馬さんも、俺と彼女達の話が終わるのを待ってくれたんだろ?」

 

 

 

…痛いところをつかれました。

 

 

 

「ですが、それならせめてあの秤とか言う女は排除すべきです。彼女は近くに置いたら何をしでかすかわかりません。さっきのキスだって─────」

「彼女はベアトリーチェ……クソ野郎に唆されただけだよ。彼女の意思じゃない」

「っ、この朴念仁────!」

 

 

この人は人を見る目がある癖に、感情を読み取る能力が低すぎる。いや、それとも本当は気づいていてそれを無視しているのか────どちらにしてもタチが悪い。

 

 

 

「頼むよ飛鳥馬さん、君にしか頼めないんだ」

「それ、絶対他の人にも言ってますよね?あんまりそう言うこと言うと重たい女性に付き纏われますよ?」

「そうかなぁ…まぁ、それでも構わないよ────それで、手伝ってくれる?」

 

 

彼の言葉に逡巡する─────実のところ、今の状況は非常に混沌としています。何せ、本来の私の任務はクロキさんの誘拐であって、彼のことを守る事ではないのですから。ここでクロキさんの依頼を受ける必要性はまるで無いのですが………いえ、寧ろこれはチャンスでは?

 

 

「それじゃあクロキさん、一つお願いを聞いてくれませんか?」

「お願い?」

「はい。実は、私はこれからの行動の如何によっては今の雇い主からクビを宣告されかねないのです」

 

 

私の言葉に彼が一つ頷く。

 

 

「…読めてきた。つまり、調月会長に口添えをお願い出来ないかってことだね?」

「全然違います」

「あ、全然違うのね。そっかぁ…」

 

 

相変わらず感情の機微に疎い彼に一つ咳払いをし、正面に向き直る。

 

 

「クビになったら新しい雇主になってくれませんか?このままでは私は根無し草になってしまいます」

「調月会長が君のことを手放すとは思えないけど……まぁ、もし本当にそうなったら、その時は面倒を見るよ」

「ありがとうございます。…それと、もう一つ約束して下さい」

「何かな?」

「生涯雇用するメイドは私だけにする、と。その二つを約束してくれるのなら、不本意ですがあの四人を捕縛する事に協力しましょう」

「…わかった、約束するよ」

 

 

彼の言葉を聞いた瞬間、服装の一部を脱ぎ捨てる─────言質は取りました。これで私は生涯唯一の彼のメイドとしての立場を手に入れることが出来ました、我ながら自分の知謀が恐ろしいです。

 

 

「─────後はクロキさんのご随意に。大丈夫です、あのボタンは機能しませんから」

「…信じて良いんだね」

「とあるロボットスーツにつける予定だったジャミング装置を設置済みです。罷り間違っても電波が届くことはありません」

「準備が良いね……えっ?ロボットスーツ?それって…?」

「それより、そろそろ始めないと怪しまれますよ」

 

 

目の前でボタンを構える彼女に聞こえないよう小さな声で彼に伝える────本当の事はここを切り抜けてから言うことにしましょう。

 

 

「────錠前さんも、みんなも聞いてくれ」

 

 

コンクリートの駐車場に彼の声が響き渡る。静かに、けれどよく響く彼の言葉が風のように通り抜ける。

 

 

 

「まず、俺は君たちに謝らないといけない。君たちが都市整備部に入らなかった理由を、今の今まで知ることができなかった。もっと早く知っていれば、君達をもっと早く暗がりから引っ張り出せたのに」

 

 

「そして、君達に銃を向けさせたのも俺の責任だ。俺が弱かったから、君達はベアトリーチェに利用されてしまった。中途半端に希望を見せてしまった。その非は全て俺にある」

 

 

「……だから頼むよ、どうか光の下で生きるのを諦めないでくれ。最初は戸惑うかもしれない、人の優しさに疑惑を感じるかもしれない────でも、この世界は美しいんだって、生きていて良いんだって思える日が必ず来るから」

 

 

「さっき言った言葉に変わりはない─────俺は、何があっても君達の事を諦めない、見捨てない。何度手をはたき落とされても、それでも俺は手を伸ばすよ」

 

 

まっすぐ伸ばした手のひらが、暗がりを生きる彼女達に差し出される。

 

 

「そして、これが何度目かの手だ──────アリウスのみんな。俺と一緒に、楽園を目指さないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

(なんで、お前は………‼︎)

 

 

目の前にいる対象─────クロキから伸ばされる掌に歯噛みする。何故彼はわかってくれないんだ、私達の道が交わることはもうない。それならいっそ、恨んでくれた方が心が軽くなるのに。

 

 

「……サッちゃん」

 

 

姫から心配する声が聞こえる。そうだ、私達は決めたんじゃないか。私達が、彼の夢を終わらせると。

 

 

「………その返事は、前に返した」

「関係ない。俺は、今の君の答えを聞きたいんだ」

「っ、しつこい奴だなお前も…!」

 

 

正面に掲げたボタンに掛けた指に力を入れる。もういい、ここでこのボタンを押せば、クロキも私達の事を諦めるだろう。人殺しになった私達を、きっと彼は許さないから。

 

 

「…もう良い、これがお前の、私の選択だ」

 

 

簡素な起爆装置の、赤いボタンを押し込もうと力を入れる──────これで、本当に敵同士だと心の中で呟いて。

 

 

【学生がやる非行っていうのは、飲酒に煙草が精々なところだよ。それ以上はやりすぎだ】

 

 

─────ふと、潰した筈の煙草の箱が脳裏を過った。

 

 

「─────やっぱり駄目です‼︎‼︎」

 

 

誰かの叫びの瞬間、真横から飛んできた弾丸によって手にあった起爆装置が粉々に砕かれる。衝撃によって右手が負傷するが、それよりも問題なのはそれを発砲した者だった。

 

 

「ヒヨリ、お前─────‼︎」

 

 

硝煙を漂わせる銃口を震わせ、涙目でこちらを見るヒヨリを睨み返す。

 

 

「や、やっぱり止めましょうこんな事‼︎こんなの、こんなのなんの意味もないです‼︎」

「ッ────‼︎」

 

 

即座に左腕に握っていた拳銃を彼女に向け引鉄を引く────その刹那、耳元で声が聞こえる。

 

 

「撃たせるとお思いですか?」

「飛鳥馬───‼︎」

 

 

高く振り上げられた脚によって銃口が弾かれ、天井に弾創を刻む。負傷した右腕で肘を胴体に打ち込むが、それも掌に塞がれる。

 

 

「ミサキ‼︎」

「っ」

 

 

三つの発砲音が鳴るが、直前に姿が消える彼女のことを捉えられない────この前の戦闘でも使った光学迷彩か。

 

 

「援護感謝します、槌永さん」

「え、えへへ…撃っちゃいました……これでもう言い逃れ出来ません…」

「もしもの時はクロキさんが面倒を見てくれますよ───もっとも、彼女達を逃すつもりもありませんが」

 

 

携えていたライフルを地面に置く────その直後、両腕に成人男性3人分程の機械の剛腕が現れる。戦闘準備は万全、と言うことか。

 

 

「ミサキ。対象を捕縛しろ、こいつは私が足止めする」

「……リーダー、本当に続けるの?」

「何度も言わせるな。それとも、お前も裏切るつもりか?」

 

 

視線を横に動かして姫の姿を見やるが、拳銃を握りしめて佇んでいるだけだ──────だめだ、彼女は使い物にはならない。

 

 

(構わない、むしろ飛鳥馬に攻撃される心配がなくなる)

 

 

正面にいる機械の剛腕を握って開いてを繰り返す彼女────飛鳥馬トキに視線を向ける。

 

ミレニアムサイエンススクール所属の生粋の戦闘部活「Cleaning&Clearing」のエージェント。他の部員とは異なりセミナーの生徒会長である調月リオの専属メイドであり、その存在が同部の生徒にも秘匿されている生徒。それがなぜ今ここにいるのか───。

 

 

(いや、今それを考える必要はない。トリニティの時も奴は突然現れた。おそらくはクロキのことを監視していたのだろう)

 

 

問題は彼女の有する戦闘能力に他ならない。アリウスの情報部に精査させたところ、彼女の戦闘能力は条件さえ整えばミレニアム最高戦力である同部部長の美甘ネルにも匹敵すると戦力判定がされている─────マダムからも要注意人物として指定されている特記戦力だ。

 

対するこちらは武装不足の私と行動に迷いのあるミサキのみ─────はっきり言って分が悪い。

 

 

「────どうやら、状況が見えてきた様ですね」

「っ⁉︎」

 

 

声と共に機械の剛腕が眼前に迫る。それを膝を折ってすんでの所で避けるが、振り向きざまの反対の腕が自身の脇腹に突き刺さる。

 

 

「ガッ─────⁉︎」

 

 

肺の中の空気が無理やり押し出され、視界が明滅する。そのまま放り出されるように宙を舞い、柱に背中から激突する。

 

 

「っ、急げミサキ‼︎」

「い、行かせません‼︎」

 

 

視線を声の先に向けると、既に朽ちた乗用車のボンネットの上、そこにバイポットを据えた機関銃を構えたヒヨリが機関銃を乱射する─────いつのまにかあんなものを用意していたのか。

 

 

「ヒヨリあんた…!」

「み、ミサキさんもやめましょうこんな事!大丈夫です、クロキさんなら許してくれます!」

「そう言う問題じゃ……っ!」

 

 

傍目から見ても、機関銃の乱射によってミサキは動けそうにない。彼女の主力兵装はここから少し遠い、明らかに基礎火力が足りていない。

 

 

「……もうわかったんじゃありませんか?物資も、装備も、ましてや心意気すら満足に準備できていない貴女が、私に勝てるわけがないと」

「…な、めるなぁ‼︎」

 

 

血を吐く様な声を張り上げ、飛鳥馬に発砲する。軽やかなステップでそれらを躱す彼女に歯噛みし、即座にマガジンを交換する─────ふざけるな。

 

 

「─────お前のような、最初からそっち(・・・)側にいる人間にはわからないだろうな‼︎」

 

 

痛む右腕を意にも解さず走り出し、正面に躍り出て顔面に蹴りを飛ばす。

 

 

 

「私達はごみ溜めで育った!頼れる親もいない、満足な食事もない、光さえ届かないどん底のさらに下で‼︎」

 

 

 

当然にそれを避ける彼女の先を見越して発砲する─────が、それすら剛腕によっていとも容易く塞がれる。

 

 

「そんな世界で生きる為に、私はなんだってやった‼︎それしか生きる術がなかったから‼︎」

 

 

…私達は結局、どこまで行っても薄汚いドブにいる鼠に過ぎない。犯罪組織であるアリウス分校に所属し、トリニティを─────キヴォトスを転覆させようと暗躍させようと目論んでいるテロリストなのだ。全ては虚しいと思い込まなければ生きていけない程に私は、私たちは世界に絶望していた──────機械のお面を被った、あいつに会うまでは。

 

 

【初めまして、私は鏑木クロキ。地下街の改修を任された業者です。よろしくね、錠前さん】

 

 

即座に打ち切った拳銃を彼女に投げつけ、腰に付けていた手榴弾のピンに噛み付く。

ピンを抜いた手榴弾を放ると、彼女がそれを弾く────その刹那を狙い、右膝を胴体に打ち込む。

 

 

「っ、悪あがきを……!」

 

 

ようやく入ったまともな一撃に彼女が顔を歪め、振り払われる剛腕を避ける────が、薙ぐ風圧に飛ばされてコンクリートの上を転がる。身体中に擦り傷が出来、あちこちが熱を持つ……けど、それでも私は止まれない。

 

 

「そんな薄汚い生まれの私が───────全部を諦めてきた私達が、あいつの側にいれる訳がないだろうが‼︎」

 

 

───────結局、これが私の一番下にある心の本音だったのだろう。マダムからの脅しもあったとは言え、全てが虚しいものだと諦め、運命という名の激流に争うことなく生きてきた私に、全てを投げ打ってでも誰かを助けようとひた走る彼の姿は、あまりに眩しすぎたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【えー、と言うわけなので、今日からここの再開発を行います鏑木クロキです。皆さん、よろしくお願いします!】

 

 

最初に地下街に再開発の説明をした時、彼には大量の石とゴミの雨が降った。余所者がでしゃばるなと心無い罵声が幾万の雨になって降り注いでいた────それでも彼は笑っていた。

 

 

【まずは食料、一も二にも食料だ。質は一旦置いておいて、とにかく量を作ろう】

 

 

簡単な図面と大量の物資を携えて再びやってきた彼は、あっという間にアリウス分校全員が食べられるだけの食料プラントを作ってみせた。作業の途中でも石や罵声が飛んできていても、彼は全く気にもしていなかった。

 

 

【今アリウスには日々生きるのに必死で余裕がないだけだよ。こんなのなんてことない。とにかく、今は何より速度が命だ】

 

 

どれだけ心無い罵声を浴びせられても、石を投げられても、それでも彼は笑みを絶やさなかった─────そして、ついにはアリウスにおおよそ真っ当に生きられるだけの施設をたった半年程度で作り上げた。作り上げてしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「錠前サオリ、貴女は─────!」

「だから、私はあいつの敵なんだ。あいつがこれからも誰かを助けられるように、私はあいつの敵で────‼︎」

 

 

 

 

「──────君は、俺の敵じゃないよ」

 

 

 

─────ふと、背中から優しい声色とともに身体を抱き寄せられる。誰かから抱きしめられているのなんて、考えるまでもなかった。

 

 

 

「いけませんクロキさん、彼女はまだ……」

「良いんだよ、飛鳥馬さん。後は任せてくれ」

 

 

すぐ後ろに対象がいる、銃は手元にないが即座に制圧することは容易だ────それでも、私は動けなかった。

 

 

「ごめん、錠前さん。君がそんなことを考えているなんて、考えもしなかった」

「…なぜ、お前が謝る必要がある」

「謝るさ。だって、君は辛かった筈だ。自分のことを卑下して、それでも生きていかなきゃいけない世界の辛さは、痛いほどよくわかるよ」

「っ、そんなのお前にわかるわけが──────!」

 

 

 

 

「────わかるよ。だって、俺も全てを投げ出そうとしたんだから」

 

 

 

お面じゃない、真っ直ぐで綺麗な金色の瞳が私を射抜く──────その瞳に、私は何も言えなくなってしまった。

 

 

 

「君達を救うなんて偉そうなことを言っておきながら、俺は全てを投げ出そうとしたんだ。地位も、責任も、何もかもを投げ捨てて、【奇跡】に縋ろうとしたんだ」

「…………」

 

 

彼の言葉は本当に苦しそうで、まるで懺悔しているような口振りだ。

 

 

 

「でも、それを間違っていると気づかせてくれた人達がいたんだ。お陰で、俺は今こうして君のことを抱きしめることができている」

 

 

私を抱きしめる力がほんの少し強くなる─────それが、どうしようもなく暖かい。

 

 

「月並みの言葉だけど、確かに過去は変えられない。積み上げてきた実績は、君たちのことを苦しめるだろう─────けど、それは未来でいくらでも挽回できる」

 

 

 

優しく肩を掴まれ、正面から彼の顔を見る。どうしようなく優しく、悲しそうで、けれど力強い瞳が、私のことを離さない。あんなに轟々となっていた機関銃の音も、拳銃の発砲音も何もない、ただ無機質なコンクリートに彼の声が溶けていく。

 

 

「だから、まずはこれからだよ。実は今人手が足りてないんだ、よかったら君達の力を貸してくれないかな?」

 

 

目の前に彼の掌が差し出される。視界を回して仲間達を見やれば、全員がその掌を、私のことを見ている─────それでも、私は…!

 

 

「─────そっか。錠前さんは、それでも過去の自分が許せないんだね」

 

 

私が躊躇していた為か、彼が徐に立ち上がり私から少し離れる──────そして、懐から一丁の拳銃を取り出した。見るからに粗悪品で、照準すらついていないおもちゃの様なその拳銃を天井に向ける。

 

 

パンッ

 

 

 

豆鉄砲の様な軽い音が響く。普段私たちが使ってるものとは比べものにならない程低威力のそれはコンクリートの床を貫通することなく、そのまま落ちて彼の頭に当たる。それに対して「イテッ」と頭を掻くと、締まりのない顔で笑いかける。

 

 

 

「それなら、そんな過去の君は今の弾丸で死んだことにすれば良い────なんて、これは格好つけ過ぎかな?」

 

 

──────本当に、敵わないな。

 

 

「はい、ちょっとキザっぽいかと」

「だよねぇ………。はぁ、締まらないもんだね」

「……ですが、クロキさんらしくて私としては高評価です。トキちゃんポイントを100点差し上げましょう」

「なにそのポイント……」

 

 

視線を飛鳥馬に向けると、そこには剛腕を解除して腰に手を当てている彼女がいた─────もう、戦うつもりはないらしい。

 

 

「…サッちゃん、もう良いんじゃない?」

「……そう、だな」

 

 

仮面を外し、すぐ横まで来ていた彼女─────今思えば、姫はこうなることを最初から予見していたのかもしれない。流石、伊達に私達の中でクロキと一番付き合いが長い訳じゃないと言うことか。

 

 

「リーダー、もう良いんだね?」

「あぁ─────全員、武器を捨てろ」

 

 

座り込んでいたコンクリートの床の上で、ゆっくりと両の手を挙げる─────思えば、私は最初からこうしたかったのかもしれない。

 

 

 

「──────降伏する。後の身柄は、都市整備部の鏑木クロキに任せるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────それで?これは一体どう言う状況なのかな?クロキ君?」

「いや、これは、そのぉ………」

 

 

砂に埋もれた立体駐車場の、地上5階部分。殆ど車もなくだだっ広い空間が広がるそこの真ん中でちんまりと正座するクロキ君を対策委員会のみんなとヒフミちゃんで見下ろし、ため息を吐く。

 

 

「いたた……。ヒヨリ、あんたもうちょっと上手く狙えなかったの?あちこち傷だらけなんだけど」

「ご、ごめんなさい!絶対に止めないとと思ったので……」

「サッちゃん、まだ痛む?」

「いや、大丈夫だ。すまない姫、手当を任せてしまって」

「お礼を言うのなら医療品を持ち込んでいた私にするべきでは?」

 

 

視線の横にいる5人の少女達に視線を向ける─────やっぱり、また女の子か…。

 

 

「とりあえずクロキさんが無事なのは良かったですけど、彼女たちは…?」

「無駄よヒフミ。どうせクロキの関係者なんだから、ぜーったいにそう」

「ん、本当にクロキはいい加減にすべき。毎日毎日女の子をとっかえひっかえ。そろそろ私も手段を選ばない」

「まぁまぁ、シロコちゃんも落ち着いて─────とりあえず、大きな怪我は無いみたいだね」

 

 

完全に目が据わっているシロコちゃんを宥めながら、ホシノちゃんがクロキ君の身体をペタペタと触って行く────すると、首元でその指を止める。

 

 

「この首の赤い跡、何かあった?」

「首の跡……あ、あぁ。多分虫に刺されたんだよ、きっと、うん」

「虫、ねぇ………随分大きな虫だったんだね、クロキ?」

「そ、そうみたいだな……」

 

 

全力で目を逸らすクロキ君にニコニコと笑うホシノちゃん。

 

 

「それで?クロキはなんでこんな厳戒態勢の中一人で出歩いたのかな?見たところ、彼女達が原因みたいだけど」

「……それは」

「それは私が説明しよう」

 

 

肌のあちこちから包帯が露出している黒いキャップの少女がこちらに近寄る。

 

 

「────やっぱりその顔、お昼頃私達の事を監視していた人だよね」

「やはり気づかれていたか……そうだ。私は錠前サオリ、アリウス分校に所属している」

 

 

自らを錠前サオリと名乗る彼女のことを眺める──雰囲気からあまり学生という印象は受けない。纏う雰囲気は大人の様だが、その中に子供特有の危うさと言ったものも感じる─────非常にアンバランスだ。こういう印象を受ける人は前の世界でも覚えがある……多分、愉快な話は聞けそうにもないね。

 

 

 

「アリウス分校…?聞いたことがありませんね」

「それで、そのアリウス分校のサオリちゃんはなんでここにいるの?お昼私達を監視していた理由も聞きたいね」

「ホシノ、錠前さんは……」

「いや、良いんだ。私の口から話す」

 

 

一度大きく息を吸うと、意を決したのかその口を開く。

 

 

「私達は、そこの鏑木クロキの誘拐を命令されていた。クロキがここに来たのは、私達がカタカタヘルメット団を人質に呼びつけたからだ」

 

 

───────瞬間、彼女のこめかみにアサルトライフルの銃口が突き刺さる。

 

 

「クロキ誘拐の目的はなに?どれくらいの規模の組織がそれを目的に動いてる?作戦の規模は?人数と装備は?」

「駄目だ砂狼さん!銃を降ろすんだ!彼女はもう敵じゃない!」

 

 

ハイライトの消えた彼女の瞳が横に振られる。

 

 

「クロキは優しすぎる。全部話すまで銃を下ろすことはない」

「……いや、大丈夫だクロキ。彼女の行動は正しい」

「けど……」

 

 

クロキ君の制止の言葉に首を降ると、静かに話し始める。

 

 

「彼との関係も、今に至るまでの事情も全て話す事を約束する────だが、それを全て話すには少し時間がかかる」

「……シロコちゃん、銃を降ろして」

「先輩、けど……」

「大丈夫、危険はないよ」

「……ん、先輩もクロキのお人好しが移った」

 

 

指示通り銃口を下げると、ホシノちゃんが彼女の前に立つ。

 

 

「改めて、私は小鳥遊ホシノ。アビドス対策委員会の委員長を務めてるよ。よろしくね、サオリちゃん?」

「…あぁ、よろしく頼む」

 

 

差し出された手を握り返す─────それを機に、張り詰めていた空気が和らぐのを肌で感じた。

 

 

「それで?サオリちゃんはどうしてクロキの誘拐は諦めたの?」

「それは……」

「それは私がクロキさんの事をお守りしていたからです」

「うわっ⁉︎」

 

 

突如私の横に現れるメイド服の少女に声を上げる。さっきまであっちの方に居たのに……って。

 

 

「あの、なにか……?」

 

 

そんなメイド服の彼女は私のことをしげしげと眺める─────そして、拗ねた様に頬を膨らませる。

 

 

「クロキさんはこの人のどこを気に入ったのでしょうか……」

「あの、貴女は…?」

「失礼しました。私は飛鳥馬トキ、そこで正座しているクロキさんの唯一にして完璧なメイドです。どうぞお見知り置きを」

 

 

スカートの裾をつまみあげ深々とお辞儀する彼女……というより、メイドって…。

 

 

「く、クロキさんメイドさんを雇っていたんですか‼︎や、やっぱり高貴な身分なんですね…!」

「ち、違っ!断じて違うぞ阿慈谷さん!彼女は俺専属のメイドじゃなくて、ミレニアムのメイド部の部員だよ!」

「酷いですクロキさん、責任を取ってくれるとお約束してくれたのを、もう忘れてしまったんですか?」

「頼むから語弊を生む言い方はやめてくれ……!そもそもまだ君はクビになっていないだろう⁉︎」

 

 

何やらクロキ君が弁明している横でアヤネちゃんが口を開く。

 

 

「ミレニアムのメイド部って事は……」

「ん、【C&C】のエージェント」

「そりゃ、クロキみたいな重要人物を野放しにするわけないか。要は護衛ってことね」

「いえ、正確に言えばそれは違うのです」

 

 

軽やかな動作で両目にピースを作ると、なんてことないように言い放つ。

 

 

「実は私、本来の主人からクロキさんの保護────もとい、誘拐を指示されていたのです」

 

 

あまりにもあっけらかんと言い放つその態度に一瞬呆気に取られる。

 

 

「………う、嘘でしょ」  

 

 

瞬間、クロキ君が両手をついて崩れ落ちる────無理もない。助けてくれたと思っていた彼女が、実は魔の手の一人だったのだから……と、いうよりも。

 

 

(あれ?もしかしてクロキ君って本当に危うい立場にいる?)

 

 

瞬間、脳裏にかつて連邦生徒会の主席行政官のリンちゃんから言われた言葉が蘇る。

 

 

【彼の所属はその報告書の通りミレニアムですが、その活動範囲はミレニアムだけに留まりません。トリニティやゲヘナ――あとはアビドスといった他の地域にも多大な影響力を持っているのです。それこそ、水面下で彼の転校を目論む勢力がいる程に】

 

 

────これはいよいよ本当に、クロキ君から今まで関わった生徒達の関係図を作ってもらわないと不味いかもしれない。

 

 

 

「…ふぅ。それで、どうしてトキちゃんは誘拐を諦めたの?」

「諦めたと言うより、条件を達成できていないので誘拐できないんです」

「条件?」

「はい。というのも、クロキさんを誘拐する際に絶対にこれを付けろと渡されたものがありまして」

 

 

そういうと懐から手のひらサイズの機械を取り出す。外見だけではなんの用途に使うのか検討もつかないけど…?

 

 

「これは調月会長が自ら作った高精度のハッキングとジャミング機能を兼ね備えた画期的なものなのですが……」

 

 

そういうとその機械をクロキ君に当てる────当然だけど、今のクロキくんはロボットスーツを着ていないのでそれが取り付けられる筈もない。

 

 

「と言うわけなので、この機械を取り付けられないと私はクロキさんのことを誘拐できないのです。これは困りました、そうなると後はクロキさんのお世話をする以外にやることがありません」

「──────調月会長、今頃泣いてるんじゃないかなぁ…」

 

 

多分、それはクロキ君が言っちゃいけない言葉なんじゃないかな?

 

 

「ん、多分クロキがいっちゃいけない言葉だと思う」

「そうね、間違いないわ」

「ですね……」

「えぇ…?」

 

 

意図せず私の心を代弁してくれた彼女達に内心サムズアップしつつ、「それで」と口を開く。

 

 

「錠前さんと飛鳥馬さんはこれからどうするの?」

「…私は誘拐しようとした理由の説明責任があるからな。それに、クロキに対する贖罪も終わっていない」

「私はクロキさんの唯一のメイドなので。主人の側を離れるメイドがどこにいるでしょうか」

「だよねぇ………クロキ君」

「あ、はい。なんでしょうか?」

 

 

 

 

「この後先生として、君にはたっぷりお話があります。彼女達の寝室を作り次第、職員室まで出頭してね?」

「───────はぃ」

 

 

彼の言葉は、とてもキヴォトスの半分を作り替えた偉人のものは思えないほど弱々しいものだったと明記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「──────ねぇ、足元に転がっている彼等は一体どこの誰かしら?」

 

 

アビドス地区、旧カタカタヘルメット団前哨基地──────都市整備部部長であり楽園造園室室長の鏑木クロキから指定を受けたポイントに到着すると、そこはまさに地獄絵図のようだった。

 

 

「……傍目から見ても気絶してるだけに見えるけど、かなり手酷くやられているみたいだね」

 

 

火の手を上げる装甲車や戦車と言った機動兵器の数々、地面に倒れ臥す15名程度の大人と思しき人物達。全員がタクティカルスーツを着込む重装備をしている事から、事前に伝えられていたカタカタヘルメット団の関係者とは思えない。

 

 

「アルちゃーん、この人達の身分証あったよ。はいこれ」

「あら、仕事が早いのね、ありがと……って⁉︎」

 

 

ムツキ室長から手渡されるカードに視線を落とすと、そこには「カイザーPMC」と刻印されている──────これ、私達の依頼主のカイザーコーポレーションの子飼いの軍隊組織じゃない⁉︎な、なんでこんなところに⁉︎

 

 

「…そっか。最初からバレていたんだ」

「ど、どう言うことかしらカヨコ課長⁉︎」

「わかんないのアルちゃん?要は私達、カイザー達に嵌められていたって事だよ」

 

 

クスクスと口では笑っているけど、目は笑っていない彼女に視線を向ける。

 

 

「私たち、最初からクロキと繋がりがある事はバレバレだったんだよ。事前に伝えた作戦予定地域に、こうして連中が寝ていることが何よりの証拠でしょ?」

「大方、私達の事を誘き出して捕まえてクロキの人質にしようとしていたって事でしょ────汚い大人、反吐が出る」

「えっ?えっ?そ、それじゃあ依頼料は……?」

 

 

彼女達の言葉に、私は最悪の未来を予知する─────と、と言うことは…。

 

 

「うん、びた一円も入ってこないだろうね!」

「な、なんですってーーーー⁉︎」

 

 

どどどど、どうするのよ⁉︎私たちただでさえ火の車なのに、ここで依頼がぽしゃったらいよいよ明日の食事も───────!

 

 

「…それより社長。まずは目先の【コイツ】でしょ」

 

 

カヨコ課長の言葉に従い、目の前に佇む物体─────────この惨状を作り出した張本人を見やる。

 

 

【人物認証開始───────確認完了。部活名『便利屋68』社長『陸八魔アル』、同部室長『浅黄ムツキ』、同部課長『鬼方カヨコ』、同部平社員『伊草ハルカ』。待機モード終了、戦闘モードへ移行】

 

 

無機質な音声と共に、広場中央に鎮座していた物体─────目視にて全長5mはあるだろう巨体が蒸気音と共に動き出す。

 

 

「ね、ねぇ。あれってクロキの作ったドローンなんでしょ?もうあれと戦う必要なんて無いんじゃない?」

「さっきからクロキに何度も連絡してるけど、全く応答がない────向こうでも何かあったのかも」

 

 

折りたたんでいた幕の様なもの───────否、大きな白翼を広げるとそれの正体が明らかになる。

 

先端に戦斧を取り付けた優美な長い尾を靡かせ、付近にあったプレハブ小屋を一瞬で両断し、丸くなっていた爬虫類を模した身体を倒し四つの鋭利な爪を持つ腕で身体を支える─────嘘でしょ?身体を広げたらもっと大きいの⁉︎

 

 

 

【武装状況確認───────終了。火力兵装無し、近接特化補助戦闘AIを起動。命令コードにより、殺傷兵装の全ては使用停止。高周波尾斧及び腕部振動爪は停止】

 

 

固く折りたたんでいた長い首が動き出し、蜥蜴を模した鋭利な黄金色の瞳が私達を睥睨する。

 

 

【『領域支配機(エリア・ドミナンス)』起動─────これより、作戦行動を開始します】

 

 

───────動き出したそれは、美しい白龍そのものだった。

 

 

「へぇ、クロキこう言うのも作れたんだ。良いね、かっこいいじゃん」

「そんな事いってる場合じゃないでしょ⁉︎どどど、どうするの⁉︎あんなのに勝てるの⁉︎」

「落ち着いて社長。さっきのアナウンス聞いてなかったの?あれにはほとんど武装は積んでないし、殺傷武器も使用しないって」

「えっ?そうなの?」

「それに、これはチャンスじゃない?」

 

 

既に拳銃を構えるカヨコ課長────というより、私以外の皆んながやる気に溢れている。

 

 

「あれがクロキの持つ一番強いドローンって言ってた────つまり、あれに勝てればクロキは私たちの強さを再認識するんじゃないかな?」

「………な、成程!確かにそれもそうね!」

 

 

クロキが私たちの強さを再認識すれば、もっと依頼をくれるかも知れない。そうしたらいずれは…!

 

 

「あらら、アルちゃんってやっぱり単純だよね」

「そこが社長の良いところでもあるよ─────さ、号令をお願い」

 

 

その声に促されるまま、ライフルの銃口を目の前の白龍へと向ける。

 

 

「良いわ、クロキに私達の力を見せつけるチャンスよ!戦闘開始‼︎」

 

 

引鉄を振り絞り、徹甲弾を放つ────これが、長い夜の始まりを告げる合図だった。

 

 






鏑木クロキ

自分が助かるよりも生徒達が助かる事に喜びを感じる精神異常者。優先順位という名前のシーソーが完全に破綻している。伸ばした掌を握り返してくれた彼女に非常に感謝している。それこそ、助けられた少女以上に。


飛鳥馬トキ

ちゃっかり鏑木クロキのメイドのポジションを確立しようと目論んでいる策士系メイド。立体駐車場という閉鎖空間であったためアビ・エシュフの部分展開で戦闘を行った。調月リオから鏑木の監視を依頼された際にアリウススクワッドに襲撃される彼のことを目撃し、彼女らと戦闘している。クロキの頼み事というバフを受けた為戦闘で錠前を圧倒したが、武装が同じならもっと良い勝負をする。


錠前サオリ

初手ミレニアムラクエンヅクリによる精神デバフを喰らったため十全に戦闘能力を発揮できなかった。彼女はクロキが諦めることを諦めた、ただそれだけだ。この後は便利屋68でアリウス分社として活動する。


槌永ヒヨリ

前話に続き2連続MVP。この後美味しいカレーをたらふく食べる。



陸八魔アル

なんだかんだクロキのドローンには勝つ。今後も彼女は白眼からは逃げられない。



マエストロ&黒服

意図せず手に入った鏑木クロキの最高傑作のうちの一つである『Melchior』に狂喜乱舞している。曰く鏑木クロキの作った三機の領域支配機を『神の子』と呼称しており、いずれ覚醒する『救世主』を祝福し守護するものだと囁いている。


領域支配機『Melchior』

全長5mを超える白龍を模した戦略兵器。楽園防衛機構草案段階ではトリニティに配備される予定だった。将来襲い来る弾道ミサイルを迎撃するためにその武装の殆どは空域支配用のもので固められており、単機でキヴォトスの空を支配しうる性能を有している。尚、神秘を有していない現在の状況では当然ではあるが『色彩』は愚か『神名十文字』にも勝つことは出来ない。鏑木クロキの人格を構成する要因の一つである『罪悪感』を色濃く学習している。



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