ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります 作:あーけろん
閲覧、感想、御指摘、誤字脱字報告の全てに感謝を。
※最後に作者あとがきを記載してあります。お暇であれば一読して頂ければ幸いです。
「────歓迎会?」
窓から差し込む日差しが眩しい真夏の部室────つい3ヶ月前に貰ったばかりの都市整備部の教室で作図をしている中、顔をあげて部屋にいる二人の顔を見る。
「そう、折角だからやろうと思って。どこか良いお店知らない?」
「そりゃお店なんて幾らでも知ってるけど……あれ、セミナーに新人なんて入ったっけ?」
この茹だるような気温のせいか、普段の髪型とは違ってポニーテール───健康的なうなじが目に毒───の早瀬会計に視線を飛ばす。セミナーの新人ともなれば俺が知らない訳がないと思っての確認だったけれど、俺の言葉に彼女は深い溜息を溢すばかりだ。
「はぁ、ほんっとにクロキは……」
「歓迎会っていうのは、クロキさんが正式にセミナーの外部顧問になった事のお祝いですよ?」
「…あぁ、そういう事か」
困った様に微笑む彼女───生塩書記の言葉に合点が行き、一つ頷く。そういえばつい先日直接調月会長から資料を受け取った記憶がある。珍しく彼女の顔を見たという印象が勝っていたのですっかり忘れていた。
「しかし、歓迎会ねぇ…」
「なによ、なにか不満なの?」
「不満というか……歓迎会なんて今更じゃないか?俺がセミナーの下で都市開発を進めているのだってもう一年が経つんだし…」
今の立場に不満などある筈もないが、肩書きが変わっただけで歓迎会なんてする必要性があるのだろうか?
「なによ、私達に祝われるのが不満なの?」
「まさか、そういう訳じゃないよ。けど、ただでさえ忙しい二人の時間を俺のために割かせるのは気が引けてなぁ…」
「私達が祝いたいんですよ。それに、クロキさんは最近働き詰めですし少し位は休んでもらわないと…」
「そうよそうよ。先月の実働時間なんて時間外だけでも150時間越えでしょ?少しくらい休まないと身体を壊すわ」
「いやだなぁ早瀬会計。ロボットが働き過ぎで壊れるわけないじゃないか」
「……あんたねぇ」
なんだか呆れられているような視線を感じるがとんでもない。ここにいるのは一体の建築設計ロボットだ。実働時間の届出だって堂々とサバを読んでいるのだ、実際は時間外だけで300は軽くオーバーしている。これがバレたら無理矢理病院に突っ込まれ兼ねないのでなんとしても誤魔化さなくては。
「とにかく、俺の事を祝う歓迎会だったらすまないけど遠慮させてくれ。その方がお互いのためだろ?」
「……ふーん」
俺の言葉に不満気を露わにする早瀬会計だが、生憎考えを変えるつもりもない。明日の夜にはトリニティに発たなければならないのだ、それまでに早急な仕事は終わらせておきたい。
「──ところでクロキさん。話は変わるんですけど、明日は夕方からトリニティに向かうそうですね」
あいも変わらず人の良い笑みを浮かべたままの生塩書記が口を開く。
「あぁ、この前正義実現委員会の羽川副委員長から直々にお願いされてね。治安維持活動後の整備活動を手伝って欲しいんだって」
「そうでしたね───それでクロキさん。トリニティには本当に仕事の付き合いだけで行っているんですか?」
ん?なんか雲行きが変わってきたな?
「な、なんだよ急に…。そりゃ、勿論そうだけど?」
「そうですか………。そういえばクロキさん、先日深夜に話していた浦和さんという女性のことについてお聞きしたいことが…」
「よし、話し合おうか生塩書記。僕たちは社会的動物だ、何事も対話によって解決できる筈だろ?」
一切口調も変えずこちらに微笑むだけの生塩書記に冷や汗が流れる────不味い、昨夜の浦和さんとの会話を書かれていたということはつまり……。
「ちょっとノア、なによその話?」
「あら、ユウカちゃんも興味があります?そうですね……あれは昨日の深夜、私が夜遅くまで頑張っているクロキさんに差入れをしようとしたら女性とトリニティで密会の約束を……」
「あー!なんだか急に美味しいご飯が食べたくなってきたなー!折角だし大人数で行きたいなー⁉︎」
彼女の言葉を遮るように大きな声で宣う───畜生、こちらを脅す種は最初から仕入れていたのか…。流石は生塩書記、このキヴォトスでも屈指の魔性の女である。
「あらそうですか?よかったですねユウカちゃん、クロキさん乗り気になってくれましたよ」
「それは良いけど、その浦和って女はどこの誰?クロキのなんなの?」
「い、いやぁ……浦和さんはトリニティにいる俺の友人だよ?」
「…友人、ねぇ」
ジト目で俺のことを見る早瀬会計の視線から思い切り視線をずらす───そう、彼女とはただの友達なのだ。
なぜか会う時間帯がいつも夜遅いのと相談内容が楽園開発に非協力的な組織の弱みや穏便な転校の方法と言った重めの話題な事を除けば健全なお友達なのだ────うん?別に健全じゃないな?
「まぁまぁユウカちゃん。そんな女の子一人一人気にしてたら病んじゃいますよ?クロキさんのそっち方面はもうそう言う事なのだと諦めないと」
「け、けど…あんまり節操がないのも考えものじゃない?ここらで一度ちゃんと教えておいた方が…」
「その程度でわかるのなら私達はこんなに苦労してませんよ。とりあえず致命的な事は起こらないよう手は打っていますから安心してください」
「そう……それなら良いんだけど…」
「ちょっと待って?俺としてはその打ってある手について聞いておきたいんだけど……?」
生塩書記の言葉に渋々ながら頷く早瀬会計に声をかける。
言うまでもない事だが、俺が生徒達と懇ろ───この言い方には語弊がある───な関係になることなどありえないことだ。そんな冤罪のためにまた絞られるのは冗談じゃないのだが……。
「───あら、聞きたいんですか?」
「……いや、辞めておこうかな」
妖艶な目線と共に彼女の纏う雰囲気に湿度を感じたので踏み込まない。一流のロボットは危うきには近づかないのだ。
「それは残念───それでクロキさん。この後のお昼はどこか予定があるんですか?」
「お昼?いや、いつも通りミレニアムエネルギーバーでも齧ろうかなって」
俺の机の中にはミレニアム特製の食べたら眠くならないエネルギーバーがダース単位で入っている。3ヶ月は食事に困ることはないだろう。
「ちょっと、あんたまたそんな危険な物食べてるの⁉︎この前処分したのに…!」
「やっぱり早瀬会計だったのか。困るよ、勝手に処分されると…」
「あれは健康被害が出たからセミナーで発売禁止と在庫の回収をした奴なのよ!ほんと、何処から集めてくるのかしら…‼︎」
「えっ、そうなの」
道理でスーパーやコンビニで見かけないわけだ。あれ?そうなると直接卸しにくるあの業者は一体……?
「ちょうど良い機会だわ、クロキ。今から1時間位外に行っててちょうだい。その間にこの部室に違法なものがないか調べるから」
「な、それって査察って事か⁉︎この前やったばかりじゃないか!」
「そんなにすぐ問題物を買い漁るアンタにも問題があるのよ!」
「ぐぬぬ…」
あまりにも真っ当な意見に口が閉ざされる。畜生、違法な物だと知っていたら然るべき所に隠したのに…。
「それでしたらクロキさん、折角ですし何かお昼を買ってきてくれませんか?セミナーからお金は出しますから」
「お昼って、まさかまたこの部室で食べるのか?」
「何か不都合が?」
「いや、不都合ってわけじゃないけど……最近多くないか?食器棚にはいつの間にか二人のマグカップも入ってるし」
二人はミレニアムでも有数の認知度を持つ有名な生徒なのだ、ロボットとは言え一応生物学上の男性の部屋に入り浸るのはよくない風説を産むのではなかろうか?まして都市整備部はセミナーからの恩恵を受けて作られている、多感な生徒たちにとっては不要な噂の種になりかねないと思うのだが…。
なんて、そんな俺の表情を見た生塩書記が不安気に口を開く。
「…もしかしてクロキさん、こうして私達がここに来ると迷惑ですか?」
「そんなわけないだろ。二人と話すのは俺だって楽しいし……でも、俺にばかり構うと良くない噂話が立つかもしれないだろ?二人は真面目に職務に取り組んでるだけだ、そんな二人に根も葉もない噂が立つのはなぁ…」
「───ほんと、クロキさんは相変わらずですね」
俺の心配をまるでしょうがない子供を見るような目で微笑む生塩書記と、視線を逸らしたらどうしようもないダメな男を見るような視線をぶつけてくる早瀬会計が見えた───なんでさ。
「とにかく!早くクロキは外に行ってて。じゃないとお昼に間に合わなくなるでしょ」
「そうですよクロキさん。これはセミナーから都市整備部への正式な依頼なんですから」
「……了解です」
こうして俺は部室を与えられて3ヶ月目にして5度目の査察を受ける羽目になったのだった────。
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「───暑いよミドリ〜。やっぱり今日は部屋でゲームにしようよ〜…」
「だめだよお姉ちゃん!今日からクレーンゲームのプライズが変わるんだから!」
ジリジリと熱気が肌を刺す夏の季節。空から降り注ぐ眩い日光とアスファルトからの照り返しに襲われながらも私は声を張り上げる。
「クレーンゲーム〜?あれ、今日ってなにかあったっけ?」
「今日からデフォルメロボットぬいぐるみver.鏑木クロキが並ぶの!枯らされる前に早く取りに行かないと…!」
デフォルメロボットぬいぐるみシリーズ───元々はアニメやゲームに登場するロボットを可愛くデフォルメしたものを展開していた人気シリーズだが、昨今はネタ枠としてメディア露出が増えてきた有名人のデフォルメ人形も手がけている。そして今日はその第3弾、鏑木クロキがいよいよゲームセンターに並ぶ日なのだ。
「そんなに急がなくてもクロキのぬいぐるみなんて直ぐに無くならないよ…。この前のカイザーコーポの人の人形だってまだ積んであるじゃん」
「あんな冴えないおじさんとクロキを一緒にしないで。……ほら、これ見て!」
スマートフォンを手早く操作し、モモトークのリプ欄を能天気なお姉ちゃんに見せつける。
「なになに……ゲヘナのゲームセンターのあちこちで開店と同時に取り扱い終了のお知らせで暴動?トリニティでは少ないゲームセンターに長蛇の列?……凄まじいねぇ」
「本当は昨日の夜から並びたかったんだけど、当日の朝8時にならないと取り扱い店舗が発表されないから…」
「だから態々楽園区画から遠く離れたゲームセンターに向かってるのね……あれ?ねぇミドリ」
「こうも人気だと絶対転売ヤーが湧くから絶対早めに確保しないと…最低でも3つ、いや4つは確保したいし……」
「ミドリ、ミドリってば!」
「なにお姉ちゃん。私は今この後のゲーセン巡りのルートを……」
私の肩を掴んで強く揺すってくるお姉ちゃんに視線を向ける。今忙しい─────。
「あそこにいるの、クロキじゃない?」
「───えっ⁉︎」
クロキ、という単語の後指差された方向に視線を向ける。
「───そうなると…」
ミレニアムサイエンススクールの制服に袖を通し、腕には【都市整備部】と銘打たれた緑の腕章を身につけて何かを探すように視線を忙しなく動かすロボット───間違いない、あれはクロキさんだ。
彼の姿を見た瞬間、素早く身を翻してお姉ちゃんの背中に隠れる。
「ちょ、なんで隠れるの⁉︎」
「だ、だって恥ずかしいし……」
「恥ずかしいことなんてないでしょ!ほら行くよ‼︎」
「あ、ちょっと!」
そう言って駆け出すお姉ちゃんの背中をやや遅れて追いかける。
「ク〜〜ロ〜〜キ〜〜‼︎‼︎」
「うわっ⁉︎」
背中からクロキに飛びつき、そのまま身体にしがみつく───良いなぁ。
「その声───才羽姉か⁉︎いきなり飛びついたらびっくりするだろ⁉︎」
「えっへへ〜。久しぶりじゃん‼︎ほら、ミドリも挨拶しないの?」
「あ、えっと…久しぶりです、クロキさん」
おずおずと前に身体を出すと、こちらを見てロボットの視線が細められる。
「久しぶりだね才羽妹。元気にしてたか?」
「あ、はい!その、ちゃんと元気でした」
「そっか、うんうん、それなら良かった」
お姉ちゃんを背中に乗せたまま、少ししゃがんで視線を合わせて頷く。
「…とにかく、才羽姉は早く降りろ。これだけ暑いと俺の装甲も摂氏60℃を超えてるぞ」
「えっ?───うわっ熱っ⁉︎」
「おっと」
慌てて背中から落ちそうになったお姉ちゃんをクロキさんが抱き抱えると、静かに降ろす。
「こら、お前はお姉ちゃんなんだからちゃんとしないと」
「うっ、はぁ〜い…」
「才羽妹も大変だね、手のかかるお姉さんがいて」
「えっと…そう、ですね」
「あ〜!ミドリも酷い!私普段はちゃんとお姉ちゃんやってるもん‼︎」
「はいはい───それで、二人はこんな所にどうしたんだ?ここら辺はまだ再開発も終わっていない区画だけど……」
「あ、それはミドリのお願いでクロキの────」
刹那、余計なことを口走ろうとするお姉ちゃんの口を両手で塞ぐ。余計なことは言わなくても良いのだ。
「せっかくのお休みですし、た、偶には普段と違うゲームセンターに行こうと思いまして」
「なるほど……確かに、ここら辺にも一軒ゲームセンターがあった気がするな」
「そ、そういうクロキさんはどうしてここに?歩いてここまで来たんですか?」
「いや、ここまではバイクで来たんだよ。ほら、あそこに止めてある」
彼の視線の先を見ると、確かにそこには一台のバイクが止められている。
「ちょっと時間が空いてね。お昼ご飯を買いに行くついでに、次の楽園区画予定地を見て回ってたんだ」
「えっ!じゃあここも再開発するの⁉︎」
「明後日の予算審議が通ればね。着工は1ヶ月後、竣工予定はそれから半年位だから…二人が高等部に上がる頃には出来上がってるはずだね」
「そうなんだ!ねぇねぇ、それじゃあ超でっかいゲームセンター作ってよ!地上20階建くらいの!」
「ちょっとお姉ちゃん、駄目だよそんな無理言っちゃ」
ただでさえクロキさんは叶えなくていい筈の私たちのお願いを一つ叶えてくれたのだ、そんな我儘を言って良いわけがない。
「地上20階建は流石に厳しいけど……そうだなぁ、サブカルに特化した商業施設は作っても良いかもしれないな」
「えっ!ほんとほんと⁉︎」
「クロキさん?良いんですかそんな安請け合いして…?」
「まだ楽園の図面は完全には出来上がってないからね。正式に決まったらどんな店舗が良いか聞くかも知れないから、その時は色々教えてくれると助かるよ」
「勿論!ね、ミドリ!」
きゃぴきゃぴと喜ぶお姉ちゃんを横目に私は内心ため息を吐く。
──きっと、クロキさんは私たちだけじゃなくて皆んなにも優しいんだろうなぁ。
「…クロキさん。これは親切心から言うんですけど、あまり八方美人が過ぎると刺されちゃいますよ?」
「え、才羽妹も早瀬会計みたいな事言うんだな…」
「キヴォトス的には刺されるより撃たれる可能性が高いのでは…?」と訝しんでいるクロキさんに一つコホンと咳払いをし、正面から向き直る。
「それよりクロキさん。遅くなりましたが前回のミレニアムプライスの大賞及び殿堂入りおめでとうございます。生放送で見てて私、感動しちゃいました」
「あ、そうだった。おめでとうクロキ!」
「…あぁ、ありがとう二人とも。俺だけの力で勝ち取った賞じゃないから複雑だけど、素直に嬉しいよ」
「楽園区画間を走る高速リニアの敷設───事実上キヴォトス中を網羅する鉄道を一年足らずで作り終えるなんて、流石クロキさんです」
楽園区画直通高速リニア────通称楽園リニアは、開通と同時に瞬く間にキヴォトスの主要な輸送ラインに躍り出た画期的な輸送路だ。各楽園区画に設置された都市運営サーバーを路線上に張り巡らせた有線で統合し一つの巨大な都市演算システム【Casper】を構築し、無人でも秒単位で正確な交通整理を可能とした夢のような交通機関──と、クロキまとめチャンネルで解説していた。
「一年足らずでできたのはハイランダー鉄道学園からの技術提供やゲヘナやトリニティと言ったマンモス学校の協力があったからだよ───まぁ、そのお陰で色々といらぬ苦労もあったんだけどねぇ…」
「いらぬ苦労、ですか?」
「あぁいや……ま、話しても良いか」
そういうとクロキさんは徐に振り向くと近くにあった自販機を指差し、続けて口を開く。
「これからゲームセンターに行くんだろ?それなら冷たい飲み物でも飲みながら話そうか。俺が奢るよ」
「そんな、悪いですよ」
「良いの良いの。年下は素直に奢られるのも甲斐性の一つだよ」
「あ、じゃあ私コーラが良い!」
「はいはい、才羽妹は?」
「じゃ、じゃあ私はメロンソーダを…」
「わかった、それじゃあ少し待っててくれ」
そういうと小走りで自販機に駆けていくクロキさん───その隙に私はお姉ちゃんの耳にそっと口を当てる。
「お姉ちゃん、わかってると思うけど今からクロキさんの人形を取りに行く事は絶対秘密だからね?」
「え?なんで?」
「なんでも!わかった⁉︎」
「わ、わかったよ…」
「お待たせ二人とも……何か話してたか?」
「いえ何も」
「あ、そう?それなら良いんだけど……ほら、コーラとメロンソーダ」
「ありがとクロキ!」
「ありがとうございます!」
私達にそれぞれコーラとメロンソーダを渡し、クロキさんは残ったお茶の封を開ける。私もそれに倣って封を開けて口の中に流し込むと、冷たい甘さと炭酸の爽快感が喉元を過ぎる。
「……それで、なんで今回の鉄道敷設に苦労したかと言えば、それは誰がどれだけ費用を負担をするのかという話になったからなんだ」
「費用の負担、ですか?」
「そう。全ての楽園区画に鉄道を張り巡らせる計画だから、当然ながら莫大な費用が必要になる。勿論ミレニアムの都市整備部だけの負担だけで作ることはできないから、主要なマンモス校───この場合はトリニティとゲヘナに協力を求めたんだ」
「なるほど。つまり、其々の学校がお金を出し渋ったんですね」
なんてひどいことをするのだ、クロキさんがせっかくキヴォトスを良くしようと頑張っているのに、それにお金のことでケチを付けるなんて…。
「───いや、その逆なんだ」
「…逆?」
「ゲヘナとトリニティ両校がどちらも全額費用を負担すると言って聞かなかったんだよ」
「……?」
予想外の言葉に疑問符を浮かべてしまう。
えぇと、つまりそれぞれ両校が莫大な費用を負担しようとしたって事?
「これも全部あの阿呆───万魔殿の羽沼総統が変な事を言い出したのが原因なのさ。せっかくエデン条約前に公式で両校の会談の場を設けられたと喜んだのに…」
「えっ、それの何が問題に…?」
「問題しかないだろう⁉︎俺は今回の一件が両校の友好のきっかけになるようにと態々鉄道を計画したのに…。週一回の会議が毎回売り言葉に買い言葉で酷い有様だったんだ。おかげで水面下で両校のご機嫌取りをする羽目になった」
「トリニティもトリニティだよ…聖園さんは兎も角、桐藤さんや百合園さんも喧嘩腰を崩さなかったんだから…」と嫌な事を思い出したかのような遠い目線をするクロキさん。
「…お姉ちゃん。これって」
「うん。まぁ十中八九クロキが悪いね」
「だよね」
「えっ、なんでさ」
「それがわからないからクロキなんだよ?今度ギャルゲー貸してあげるからそれで自分を客観視すると良いと思う」
そんなお姉ちゃんの言葉にクロキはキョトンとすると、次にニヒルな笑みを浮かべる。
「…ははぁ。才羽姉、さては俺のことを何かとんでもないクソボケだと思ってるな?」
「えっ?そりゃもちろん」
「甘いね才羽姉。俺は俺の事を客観視出来る男だよ、何せロボットだからね。だから当然、俺が世間一般の観点において所謂モテている状態にある事は十分理解しているさ」
「…なっ」
クロキさんのその言葉に上擦った声が意図せず漏れる。そ、それじゃあまさか私の気持ちも…⁉︎
「───けどな、それは俺がこのキヴォトスに楽園を作っているからなのさ」
「───は?」
瞬間、私の顔を覆っていた熱が一瞬で冷たくなった。
「女の子───特に高校生や中学生と言った思春期の過渡期にいる所謂少女はとりわけ周りとは違う特別な存在に惹かれやすい。そう、詰まるところ俺のような他の生徒とはいささか立場が違う男性にね。けれどそれはその人に惹かれているわけではなく、その人の立場に惹かれているのであって、それは正しい恋心ではない。いわば恋に恋している状態なのさ」
「俺だって男の端くれ、ギャルゲーの一本や二本はクリアしてる……まぁ尋常じゃなく時間がかかったが…。こうして知見を得た結果、俺が今置かれている状況はいわゆる物珍しさによるモテ期……つまりはジャイアントパンダに向けられるそれと極めて酷似していると言える。まぁつまり、俺が楽園を作り終わって表舞台から消えればそんな麻疹のようなものはすぐに消えて───」
「────はいクロキ、シャラップ」
「むぐっ」
そっとお姉ちゃんの掌がクロキの口を覆う───危なかった、あともう少し彼の独りよがりのご高説を聞いていたらこの場でわからせなきゃいけない所だった。
「とりあえず、今度モモトークで絶対にやるべきギャルゲーを送っておくから。絶対にやってね」
「うん、絶対だよ」
「えぇ…?」
そんな話をしていると視界に目的地であるゲームセンターが見えてくる───少し名残惜しいけれど、どうやらここでお別れらしい。
視線を再びクロキに向けると、そこには端末を取り出して視線を落としている姿が見える。どうやら連絡があったらしい。
「すまない二人とも。少しくらい一緒に遊びたかったんだけど、呼び出しがあったから行かないと」
「気にしないでください、ジュースありがとうございました」
「今度はちゃんと時間を作っておいてね!いつものゲームセンターで待ってるから!」
「あぁ、それじゃあここで。暑いから熱中症には気をつけるんだぞ」
それだけ言い残して小走りでバイクの元へ戻っていく彼に手を振って見送る。少し経って遠くにエンジン音が聞こえたのを最後に、視線をゲームセンターに戻す。
「……それにしたって強敵だね、クロキのあの価値観は」
「乙女ゲームだったら全ルートを回収してようやくルートが解放されるタイプだね。親友枠か先生枠だよあれ」
「ちゃんと作戦練らないと……そうだ、乙女ゲームで思い出したけど今度さりげなくお弁当とか作ってあげるのはどうかな?」
「ミドリ料理できたっけ?」
「…が、頑張る」
「…ま、地道にやるしかないねぇ」
二人でため息を吐き脚を正面に向ける。忘れていた夏の暑さが再び襲ってきたのを肌で感じながら、小走りでゲームセンターに向かって行った─────。
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「────緊急事態だと呼ばれて来てみれば…」
頭に被っていたヘルメットを脇に抱えて正面にいる悪戯っ子の笑みを浮かべる彼女───明星ヒマリさんへ溜め息混じりの視線を向ける。
「あら、なんだか不機嫌ですね。何か嫌なことでもありましたか?」
「そうだな。強いて言うのなら、緊急事態だと言っていた本人が目の前で元気でいる事かな」
「あら、きっとどこかの超絶可愛い美少女に騙されたんですね。可哀想に……もし宜しければ私が慰めてあげましょうか?この可憐なお膝を今だけ貴方だけのものにしてあげましょう」
「結構だ───全く、寂しいなら最初からそう言えば良いのに」
「何か言いましたか?」
「いや何も。それより、はいこれ」
ヘルメットとは反対の手に持っていたビニール袋を彼女に差し出す。
「あら?なんでしょうこれは?」
「ここに来る途中、馴染みのお弁当屋さんに急いで包んでもらったんだよ。明星さん、いつもならそろそろお昼だと思って」
「…あ、ありがとうございます」
静々と俺からビニール袋を受け取る彼女───計算通り、彼女は純粋な善意には弱い。精々居た堪れない感情を味わってもらうとしよう。
「あら、そちらの袋は?」
「これか?これはこの後セミナーの二人と一緒に食べる時のお弁当だよ。二人に頼まれてね」
「───ふ〜ん」
俺が机の上に置いた袋を一瞥し、急に不機嫌になる──なんだ、もしかして一個じゃ足りなかったのか?
「ど、どうした?もしかして一個じゃ足りないのか?それだったら俺の分を──」
「貴方は私のことをなんだとおもっているんですか!……そうではなく、私と一緒にお昼は食べてくれないのですか?」
「えっ?あ、あ〜…」
どこか寂しげに上目遣いでこちらを見上げる視線に言葉が詰まる。参ったな、余計な一言だったか…。
いや、待てよ?明星部長はミレニアムでも覚えがめでたく、早瀬会計や生塩書記も知らない仲じゃない。一緒にお昼を食べることになんの弊害があるのだろうか、いや、ないだろう。
「そうだ、それなら明星さんも一緒にどうだ?何か重要な会議がある訳じゃないし、もし暇だったらだけど───」
「行きます」
「まぁ忙しいだろうから無理には………えっ」
「行きます」
「…あっ、うん。じゃあそうしようか」
彼女には珍しく食い気味の返事に思わずたじろいでしまう──そ、そんなに他人との会話に飢えていたのならヴェリタスのみんなにそれとなく会話を増やして上げるよう言っておくか…。
彼女は受け取ったお弁当を横の机に置くと「……それで」と改まって俺のことに向き直る。
「クロキ、これから真面目な話をします」
「…なんだよ、薮から棒に」
「良いから。とりあえずはそこの椅子にでも座ってください」
彼女のいつにもなく真剣な表情にどこか気圧されながらも、渋々指さされた椅子に座り彼女と目の高さが一致する。
「話というのは他でもありません。クロキ、ここ最近の貴方は些か頑張りすぎです」
「…と、言うと?」
「キヴォトス中に張り巡らされたリニア、キヴォトス各所に作られ続ける楽園区画───これらは全て貴方の夢が形になっていることです。貴方の最高の相棒としても鼻が高いです」
「そりゃどうも」
「……ですが、その夢のために自分を大切にしていないことは些か以上に問題です。私は知っているんですよ、貴方が実働時間で大サバを読んで申請していることを」
「うっ、それは…」
俺が言葉に詰まった様子を見て彼女は深く溜め息を吐くと、柔らかくて白い掌が俺の機械の掌に載せられる。
「きっかけは貴方一人が抱いた夢かもしれません───ですが、今このキヴォトスにはそんな貴方の背中に惹かれて一緒に楽園を作ろうとしてくれている人が大勢います。勿論私もその一人です」
「…明星さん」
「わかりますか?もうあなた一人だけの夢じゃないんですから、もっと自分を大切にしないといけないのですよ。キヴォトスに楽園を築くためには、長い長い年月が必要になりますから」
普段浮かべている悪戯っ子のような笑みも鳴りをひそめ、ただ純粋にこちらを心配する声色にこちらが申し訳なくなる───しまった、どうやら不要な心配をさせてしまったらしい。
「……そっか、そうかもしれないな」
「えぇ、そうですとも。それで、目の前に偶には構ってほしい天才美少女病弱ハッカーがいるのですが、如何でしょう?」
「そうだなぁ……それなら今度の休校日、一緒にトリニティの楽園区画に行ってみないか?明星さん、まだリニアに乗ったことなかっただろう?」
「良いですね。それなら私、トリニティの昔ながらの街並みも見てみたいです」
「幾らでも案内するよ。友人も紹介したいし」
「あ、それは結構です」
「えぇ……?」
それだけ言うと彼女が俺の手のひらから手を離し、少し離れる。
「さ、そろそろ貴方の部室に向かいましょうか。私の予想ではお怒りの早瀬さんが首を長くしてお待ちでしょうから」
「えっ、やっぱり怒っているの…?」
「えぇ。貴方の工事履歴と実働時間が合っていない事にいち早く気付いた筈でしょうから」
「…なぁ明星さん。今回の説教はどれくらいの長さになると思う?」
「さぁ?少なくとも過去一番の長さになることは疑いありませんね」
「──甘いものも買ってくるんだった…」
彼女の言葉に付け焼き刃の不正などするべきじゃないと肩を落とし、明星さんの背中に回って車椅子を押す。いつも以上に重い足取りのまま、俺は俺の部室へと歩みを進めた──────。
ミレニアムラクエンヅクリ(幼体)
本編約一年前の姿。梔子ユメ死後それなりの時間が経過し、楽園の設立もある程度順調であることから精神状態が最も健全な状態。カビの生えた知識で恋愛観を語るとんでもないモンスターであるがそんなに害はない。これから一年を掛けてアリウススクワッドとの決裂、調月リオからの要塞都市建設の誘い、聖園ミカとの交渉決裂とそれに伴う百合園セイアの隠居、不知火カヤからのクーデター勧誘、カイザーとの交渉決裂などのイベントを得て成体となっていく。
才羽姉妹
昔馴染みのゲームセンターが再開発でなくなることに憤慨し偽造した反対の署名を都市整備部に持ち込んだ事をきっかけに鏑木クロキと関係を持った。その後、なぜか偶然偶々都市予想図が元データごと吹っ飛んだので一から作図し直したとのこと。施設は老朽化していた為取り壊しとなったが、ゲーム筐体は全て急遽都市計画図に盛り込まれたレトロゲームセンターに移送された。部屋でゲームする以外には基本的にこのゲームセンターに入り浸っている。鏑木クロキの強火ファン。
浦和ハナコ
夜な夜な鏑木クロキに電話を掛ける生徒の一人。鏑木クロキがトリニティで初めに友好を結んだ少女であり、トリニティで楽園区画を広げられるよう密かに手伝いをしている。強大な才能ゆえに孤独を感じていたが、間近で自分と同等以上の才能を待っているが腐らず夢に邁進している一般ロボットを見てしまったため無事真っ黒焦げにされてしまった。会うたびにどうすればミレニアムに転校できるか聞いているが色の良い返事は聞けていない。
楽園リニア
楽園区画を繋ぐ高速リニアの俗称。正式な名前ではないが市井の人々にはこの愛称で親しまれている。キヴォトスの楽園化の為に敷設した────だけでなく、各楽園に設置された都市運営サーバーを統合し巨大な演算能力を確保するために作り上げた鏑木クロキの決戦用システム。楽園区画を広げれば広げるほど演算能力が拡張され、キヴォトスの半分を覆う現在に置いてその演算能力は要塞都市エリドゥすら容易く凌駕する。
怪しげな業者
ホログラムで偽装したゴルコンダ&デカルコマニー。受け取りの際に貰う手書きのサインは毎回保存している。
※以下作者後書き
ここまで閲読いただき、誠にありがとうございます。
私が初めて投稿したのがブルアカアニメが始まった頃だったので、もう初投稿から5ヶ月程度が経っている事に驚きを隠せません。ここまで投稿が続けてこられたのも皆様の暖かい応援があってこそです、この場をお借りして改めてお礼申し上げます。
さて、今回後書きについてなのですが、簡単に今後の本編の展望をお話したいと思います。
正直にお話いたしますが、今回のアビドス編のラスボスは拙作主人公である鏑木クロキ本人です。また、話し合いだけで解決することもありません。ちゃんと生徒達と戦います。
拙作は基本的にプロットはないのですが、この展開だけは最初から決めておりました。ですので、今後の展開について見るに耐えない、期待外れだと感じた読者の皆様におかれましては、期待を裏切る形になってしまい大変恐縮ですが評価や感想を取り消して頂ければ幸いです。
なぜこのような展開を盛り込んだのかと聞かれれば、それは私にとってブルアカとは間違いと更生の物語だと考えているからです。先生ではない男主人公を題材として扱い、尚且つ転生者として原作知識も持っていると定めた時からこれは外してはいけないと常に考えておりました。また、今後の展開のためにもどうしても必要だと考えておりますのでご理解頂ければ幸いです。
ここで一つ申し上げておきたいのは、私はブルーアーカイブという物語は登場人物の中で明確な愚者が誰もいない事が醍醐味の一つだと考えていることです。その人を取り巻く状況、考え方、そう言ったものが複雑に折り重なった結果の群像劇こそブルアカメインストーリーの面白い所だと感じております。ですので、主人公がアビドス本編のラスボスだからと言って、明確な悪や愚か者として描写するつもりはありません。ありがたいことに感想欄で幾つか本作主人公側の目線に立った意見も見られまたしたので、そこのご期待には添えるよう全力を尽す所存です。
長々とした長文で恐縮ですが、これで後書を終わります。それでは皆さま、激おこ生徒vs臨戦鏑木クロキ編でお会いしましょう。