ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります   作:あーけろん

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閲覧、感想、御指摘、誤字脱字報告の全てに感謝を。
今話よりアビドス対策委員会編最終章となります。短い間ですが、お付き合い頂ければ幸いです。





終末に抗うシステムとMelchior

 

 

 

 

『───ねぇ、クロキ君』

 

 

砂だらけの教室───いや、アビドス生徒会の生徒会室で砂を箒で掃き出していると、背中から声が掛けられる。

 

 

『なんですか、梔子先輩』

 

 

振り返って声の主───なにやら恥ずかしいのか少し目を逸らし気味でこちらを見ている少女。今現在のこの学校の主人にして生徒会長である梔子ユメへ視線を向ける。

 

 

『さっきから言おうと思ってたんだけど……背中から何本か配線が飛び出てるよ?』

『あぁ、どうりで背部のモーターの調子が悪いと……って、なんでそんな恥ずかしそうにしてるんですか?』

『だ、だって…ロボットの配線なんて実質裸を見ているみたいなものだと思っちゃったから…』

『なに変なこと言ってるんですか!まったく……ほら、先輩も早く片付け手伝って下さいよ。じゃないとまた俺が小鳥遊から怒られますし』

『はーい…』

 

 

それから幾ばくか。静かな教室に箒が床を擦る音だけが響いていると、その沈黙に耐えかねたのか再び彼女から口を開く。

 

 

『それにしても驚いたよ。クロキ君、書類作るの上手だったんだね』

『書類って…あぁ、連邦生徒会に送った支援要請の書面ですか?あんなの誰でも作れますよ』

『でもでも、この前みたいに正式な返事が来たのは書類がちゃんとしていたからでしょ?凄いなぁ、私はそっち方面は全然ダメで』

『正式に却下されただけでしたからなんの意味もありませんよ』

 

 

彼女が言っているのは1週間前に連邦生徒会に送付した支援要請の書類のことだ。出来ることはなんでもやろうと息巻いた彼女の願いから俺が代筆した───絶対に通ることのない書類を丁寧に作ったのは、正直心苦しかったが。

 

 

『そんなことないよ。私は、こうしてクロキ君がアビドスにいて、色々手伝ってくれるだけで嬉しいんだから』

『……そうですか』

 

 

心底嬉しそうに語る彼女に、俺は敢えてぶっきらぼうに返す────正直、今この状況は当初の予定から大きく外れている。本来なら二人の写真を何枚か撮ってそのあと直ぐにゲヘナに向かうつもりだったのに、途中でバイクがガス欠を起こして遭難した結果がこのザマだ。

 

 

『むぅ、そこはもっと喜んでも良いんじゃない?』

 

 

そう言って頬を膨らませている彼女に肩を竦める。

ほんとにこの人は自分の魅力に気づいているのだろうか…?距離感の近いドジっ子属性持ち巨乳先輩生徒会長なんて全人類が好きになっちゃうだろ…もう少し自己分析をしてから立ち振る舞いを考えて欲しいものだ。

 

 

『先輩にはいつも褒められてるので新鮮味が薄れているだけですよ』

『むぅ、可愛げのない後輩だなぁ』

 

 

「えいえい」とポカポカと装甲を叩き不満を顕にする彼女に苦笑する。全く、いつまでもこんな事─────?

 

 

(いつまで?そんなの、彼女が亡くなるまでじゃないのか?)

 

 

そうだ、何を惚けているんだ俺は。今目の前にいる彼女は死ぬ、この世界に定められた運命として。だから俺は、彼女が死ぬ前にせめて思い出を写真として残してあげられれば良いって───。

 

 

『……クロキ君?』

『えっ、あ、はい。なんですか梔子先輩?』

『あ、ううん。なんだか急に止まっちゃったから……もしかして痛かった?』

 

 

そう言って上目遣いでこちらを心配そうに見上げる彼女に「全然大丈夫ですよ」と頭を振る────しまった、気取られたか?

 

 

『…ホシノちゃんも言っていたんだけど、クロキ君。たまに難しい顔をするよね』

『か、顔ですか?俺はロボットですよ、そんな表情なんて……』

『ううん、してるよ。───鈍い私にだって、わかる事はあるんだよ?』

 

 

そういって寂しそうに微笑む彼女に、俺は何も言えなくなってしまう。

 

 

『クロキ君が何かに迷っていることはわかってるんだ。それが私たちに話せないことも』

『………それは』

『私達は他人だもの、話せないことの一つや二つはあるよ───でも、でもね。自分から一人ぼっちにはならないで欲しいんだ』

『ひとりぼっち、ですか…?』

『うん。私には、偶にクロキ君が自分から孤独になろうとしているように感じるんだ』

 

 

そう続ける彼女はとても寂しそうで、俺がなにか悪いことをしているような気分になる。俺がこの世界で独りなのは事実なのに。

 

 

『ハリボテのロボットスーツを着ても良いし、学校から飛び出すのも良いと思うんだ──けど、孤独は駄目だよ。そんなの寂しすぎるよ』

『そんな事、俺は考えて……』

 

 

ない、そう言い切ろうとした瞬間目の前に掌が差し出される。

 

 

『だから、改めて私と友達になろう?』

『…と、友達?』

 

 

あまりに突然の言葉に思わず聞き返してしまう。それでも彼女は喋ることを辞めない。

 

 

『うん。もしクロキ君がさっきみたいに難しい顔をしながら孤独になろうとしたら、私が手を引っ張りに行くよ。だから、私が困ったらクロキ君が私を助けてね?』

 

 

あまりに強引な論法。孤独ってどんな条件だよとか、それって友達っていう体裁を利用した体の良い無償労働契約では、なんて茶化しながら断る言葉は無限に脳内にあるのに────。

 

 

『……わかり、ました』

 

 

その差し出された掌を握り返して、改めて彼女の顔を見た。

 

 

『うん!改めてよろしくね、クロキ君‼︎』

 

 

この世界で初めて出来た友達の彼女は、お日様の様な屈託のない笑みを浮かべていた。そしてそれは、この世界に降り立って初めて確りと、原作なんて色眼鏡を通さずに正面から見た笑顔だった─────。

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

───俺のような異分子にすら優しかった彼女を助けられなかった。

 

 

 

───困ったら助けて欲しいと頼まれたのに。

 

 

 

───友達だったのに。

 

 

 

───もう沢山なんだ、誰かが死ぬのも、誰かが苦しむのも。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「───清算の旅路ですか。そう言えば、そんな事も言われましたね」

 

 

 

砂で作られた異質な都市の真ん中───私の指差す先のハリボテのロボットが徐に口を開く。

 

 

『Melchiorは現在便利屋68と対策委員会が対応しています。ですがあまり時間は…』

「わかってるよアロナ……こうなった以上あまり時間はかけられない」

 

 

事前にウタハちゃんとヒマリちゃんから聞いた情報────曰く、楽園防衛機構には強烈な個による強行突破が最も有効な戦術との事だ。

巨大な都市運営を担う演算機構を持って都市の至る所に作られたドローン製造ラインを起動させ、無尽蔵の兵力で侵入者を圧殺する。これが楽園防衛機構の本質だ。

 

 

(ここに彼女がいない以上砂からドローンを作り出すことは出来ない───つまりは)

 

 

視界の端に映る3人の生徒──空崎ヒナ、美甘ネル、小鳥遊ホシノ。いつかの屋上でクロキ君が言っていたキヴォトスでも指折りの実力者がいる。ただ…。

 

 

「クロキ…ユメ先輩、私は……私は……」

 

 

未だ動揺から瞳孔が定まらない彼女───ホシノは戦える状態にない。今の彼女にクロキ君と戦って欲しいなんて言えるわけがない。

 

 

「ヒナちゃん、ネルちゃん。お願い、協力して──私は、目の前にいるあの人を止めたい」

「…言われるまでもないわ」

「ハッ、ここ最近のあいつのクソボケ行動には嫌気がさしてたんだ。楽園防衛機構だが領域支配機だがしらねぇが、私が一番強いって事を証明してやる」

 

 

二人が鋭い目つきのまま銃口をクロキ君に向ける。

 

 

「先輩、お願いですから抵抗しないでください───本当なら、私は先輩となんて戦いたくないんですから」

「……俺は、俺に課された役割を全うしなくてはならないんですよ」

 

 

役割、なんて言葉を吐き出す彼に私は声を荒げる。

 

 

「役割なんて…!先輩はただ責任から逃げてるだけじゃないんですか⁉︎」

「いいえ先生───私はやらなくてはならないんですよ」

 

 

懐から黒く単調な端末───クラフトチェンバー0号機の操作端末を取り出す。それは、開戦の合図だった。

 

 

「ッ、二人とも‼︎」

 

 

私の声とともに二つの影が瞬く間にクロキ君に接近する。ヒナちゃんは銃床、ネルちゃんは拳で正確に端末を狙い────そして。

 

 

 

パキン

 

 

 

クロキ君の手から離れた端末は、意図も容易く、まるで最初から価値などなかった様にあっさりと粉々になった。

 

 

「…えっ」

 

 

あまりに呆気ない終幕。端末を破壊した二人はそのまま組み押さえるように彼に肉薄する───その刹那、壊れた端末とは反対の手で太陽光で黒く反射する物体が見えた。

 

 

 

「っ、二人とも!そっちは───‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───造り物の奇跡をここに。我は、偽りの先達者ならん」

 

 

『生体認証完了。臨戦形態へ移行開始』

  

 

 

 

 

祈りのような、呪いのような口振りとともに彼が端末をタップする。機械アナウンスと共に瞬く間にクロキ君を覆うように分厚い装甲板が地面から出現し、視界から彼が消える。

 

 

「一体なんだ畜生!」

「一度離れて…様子がおかしい」

 

 

壁に阻まれて弾かれた二人が私の側に近寄ると、再び無機質な声が響く。

 

 

『全楽園区画より演算能力の抽出───完了。クラフトチェンバー0号機リミッター解除、全火器兵装出力可能状態───移行完了。領域支配機との戦術リンク───Melchiorリンク確立。Balthasar、Casper共にリンク不確立』

「───俺だって、貴女や生徒達と戦いたくなんてありませんよ。でもしょうがないじゃないですか。目の前に全部を解決できる、万能の願望機があるのにそれに縋らないでいられるほど、この世界に希望を持っていません」

 

 

悲痛な、けれども覚悟に満ちた声が聞こえる。

 

 

『楽園防衛機構『第一楽園区画』との接続完了。敵対勢力測定───測定完了。戦術目的設定───梔子ユメの完全蘇生及び全世界から鏑木クロキに関する記憶の抹消』

「記憶の、抹消……⁉︎」

 

 

何?彼は一体何をしようとしているの…?

 

 

『臨戦形態───移行完了。全戦闘システムオールグリーン』

 

 

そのアナウンスを最後に彼を覆っていた隔壁が地面に崩れる。灼熱の砂漠になお白い蒸気が噴き上がり、朧げにその輪郭がはっきりして行く。

 

 

「俺は、選択を間違えました。姿を見せるべきじゃなかった、繋がるべきじゃなかった───関わるべきじゃ、なかった。完璧な楽園を作るために、俺の記憶が邪魔をすると言うのなら……それすら無くしてしまえばいい」

 

 

ミレニアムの制服を来ていた筈の服装はなんの特徴もない黒地のスーツになり、黒が主だったロボットの装甲は殆どが白色化している。何より顕著な変化といえば、顔を構成していた部品が全て消え去り、のっぺらぼうの様に無機質なディスプレイとなっている。

 

 

「清算の旅路、と先生はおっしゃいましたよね───もしこれが旅路とするのなら、ここが終着駅です。俺は自己の存在を懸けて、この世界から災厄と終末を取り除く」

 

 

朧げにディスプレイの右眼に当たる部分に黄色い瞳のような光が灯ると、周囲に3枚のディスプレイが出力され彼の周りを浮遊する。

 

 

「そうすることで初めて、この世界が正しく楽園になるところを見届けて初めて───俺は、この世界に存在して良かったと思えるはずなんですから」

 

 

その言葉とともに砂の大地に鉄屑の花々が咲き誇り、彼の頭上に黒色の無機質な輪っかが出現する。その後瞬く間に銃を携えたドローンが────クロキ君のスーツを模したそれが出現する。それが、私達とクロキ君との、戦争の合図だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

 

 

─────この感じ、お父様が臨戦形態になった…?

 

 

唐突な状況変化に戸惑いながらも、砂の都市を時速60km程度の速度で疾走する。お父様が祝詞────あの人は呪詛と呼ぶ────を紡いだと言うことはつまり、臨戦形態へ移行したことを意味する。

 

 

『聖徒との交わり』『名もなき女王』『神聖十文字』『アトラ・ハシースの方舟』───【先生】がこの世界に訪れなかった場合に、これらの脅威を排除するためにお父様が用意した決戦形態。キヴォトスを作り変えるためのクラフトチェンバー0号機の全能力を障害を排除するためだけに運用する、極めて暴力的なシステム。そして私達領域支配機はそれを補助するための機体なのだ。

 

 

「……急がないと」

 

 

何があったのかわからないが、あの形態になったと言うことは極めて危険な状態ということだ。とにかくお父様と合流を────。

 

 

「───っ⁉︎」

 

 

速度を上げるために脚部にブースターを出現させる────その間際、視界の端にこちらを射貫くべく直進する弾丸を視界に捉える。

 

弾道計算───右眼底直撃。攻撃力───極めて大。神秘───濃密。要回避行動。

 

 

「この、弾丸は……‼︎」

 

 

コンマ数秒のうちに脅威計算を終了させ、同じだけの時間で右腕に耐貫通装甲を展開する。傘のように開かれた装甲は凄まじい音を立てて弾丸と衝突し暫く拮抗したのち、視界一面に爆発が広がる。

 

…私は覚えている、この弾丸を。私が───否、私が私になる前の最期、私の顎を砕き、右の顔面を吹き飛ばした忌々しいそれを。

 

 

「──あら、防がれたのね。あの時みたいだったら楽だったのだけれど」

 

 

私とは違う砂の大地を踏みしめる音に視界を向ける───下品なファーを付けた似合わないコートを肩から羽織り、不敵に微笑むその姿に意図せず歯が剥き出しになる。

 

 

「陸八魔、アル……‼︎」

「怖いわ、そんなに睨みつけて。龍の姿の時の方がまだ可愛げがあったんじゃない?」

 

 

ある種煽りとも取れるその言葉に思わず竜形態に変貌しようかと手に力を入れる──けれど、ここで一つの疑問が生じる。

 

 

「……失礼しました。ですが一体、どういうつもりですか。ここはお父様の楽園です、何故私に銃を?」

「…あら、何も知らないのね。貴女」

「それはどういう────」

 

 

彼女に向けて足を一歩踏み出すと同時に無機質な機械音が響く。まるで何かが起動した音に思考が一瞬止まるが、即座にその音の正体をこの身で理解する。

 

 

「ッ⁉︎」

 

 

突如視界を覆う爆炎と衝撃に吹き飛ばされ、地面を転がる。機体ダメージは極めて小だが────それでも、その爆発が何を意味しているのかはすぐに理解した。詰まるところ、目の前にいる彼女………陸八魔アルは、私に、楽園を担うお父様に仕えるこの私に、弓を引いたと言うことだ。

 

 

「何も知らないなら知らないままで良いわ。でもね、私は貴女をクロキの下には行かせられないの。悪いけど、付き合ってもらうわよ」

「───万年赤字無能経営者が大きく出ましたね。貴女程度が私の脚を止められると思いましたか?」

「ま、万年赤字無能経営者⁉︎なによそれ、そんな悪口酷くない⁉︎」

 

 

視界の範囲に彼女の一党───便利屋68の姿は見えない。こそこそと隠れて足止めに徹するつもりか。

 

 

「…洒落臭い」

 

 

小さく吐き捨てると同時に右手に巨大な鉄の塊────否、剣斧を出現させる。

一々小細工に付き合っていられるほど今は時間に余裕がない。彼女たちには悪いが、ここは搦手を使ってでも押し通らせてもらう。

 

 

「ちょ、何その鉄塊は────⁉︎」

 

 

出現させた剣斧の柄を音が出る程握り締め、強く地面を踏みつけて彼女へ刹那に肉薄する。

 

 

「あ、死─────」

「あ、アル様‼︎」

「駄目だよハルカちゃん!あれはブラフだよ───‼︎」

 

 

視界右のビルの3階、二本奥の路地に平社員と室長を確認。振り抜く直前で手元にあった剣斧を消失させ、彼女の耳元で囁く。

 

 

「上司想いの良い社員ですね───尤も、教育が行き届いていない様ですが」

「っ、貴女……‼︎」

 

 

白眼の視線に色が戻り、こちらを睨みつけながら振り抜く拳を軽々しく掴み上げる。

 

 

「なっ」

「勘違いしていませんか?貴女達は」

 

 

まるで真綿の様に軽い彼女を近くのビル───伊草ハルカのいるビルに投げ込む。

 

 

「ちょちょ、嘘でしょ〜⁉︎」

「アル様‼︎───グッ⁉︎」

 

 

私にとっては軽くても、彼女たちにとって人一人が投げ込まれると言うのは大変な質量となる。本来であれば避けるのが正解だが───データベースにある伊草ハルカという少女は、陸八魔が傷つく事を決して良しとしない。

 

 

「───お父様は便利屋の中で貴女を一番警戒していました。予測がつかない上に携行火薬の量が尋常ではないと」

 

 

投げ込んだビルの中に飛び移ると、投げ飛ばされた陸八魔アルを受け止めて背中から壁に激突した彼女に寄り添う陸八魔の姿がある。

 

 

「ハルカ大丈夫⁉︎ハルカ‼︎」

「あ、アル様こそご無事ですか…?んぐ、すいません、うまく受け止められなくて…」

「私の事は良いの!今は貴女が───っ⁉︎」

「──ですから、便利屋68と戦うとして最初に取るとしたら、やはり貴女でしょう。伊草ハルカ」

 

 

手に長槍型のスタンバトンを出現させ、その切先を蹲る彼女へ向ける。

 

 

「私はMelchior───お父様からこのキヴォトスの空を任された、空域特化型領域支配機です。万全な状態であれば、貴女達に負けるはずがないじゃないですか」

「っ、この…‼︎」

 

 

苦し紛れに陸八魔アルの放った弾丸が頬に当たり、跳弾して床の砂にめり込む。

 

 

「そんな神秘の篭っていない弾丸など、毛ほども効きません───なぜ私に弓引いたのかは知りませんが、とりあえずは眠ってもらいます。大丈夫、次に目が覚めた時は清潔な病室のベッドの上ですよ」

「に、逃げてくださいアル様…!あいつの狙いは私です…!」

「そんな事出来るわけ───」

 

 

そんなやりとりをしている最中、二人の意識を刈り取るべく砂の床を踏み抜き、スタンバトンの切先を振り上げて2人目掛けて振り上げる。

 

 

 

「────ん、二人とも伏せて」

 

 

直後、風を切る音と共に窓からドローンが姿を見せる。記録によれば、あれはアビドス対策委員会の切込隊長────⁉︎

 

僅かな思考の間際、振り向いてスタンバトンを槍投げの要領でドローンへ投擲し、プロペラ部分を的確に撃ち抜く。

 

 

「もう遅い」

 

 

その言葉の通り、推力を失ったドローンから複数発のミサイルが発射される。

 

 

「っ、この距離なら二人とも無傷では───⁉︎」

 

 

腕を正面で交差して防御体制を取りながら視界を背後に向けると、そこには二人を抱えて立ち去ろうとする砂狼と鬼方の姿が映った。追撃しようにも威力計算では正面のドローンには多分に神秘が含まれており、直撃した場合ダメージは避けられないとアラートを吐き出している以上下手に動けない。

 

 

「ん、私は仲間を見捨てることなんてしない」

「悪いね、あんた一人で受けて」

 

 

その言葉を最後に視界が爆炎に支配され絶え間ない衝撃が身体を揺らす。時間にして数秒の事象ではあったが、今の攻撃が、この身体に初めて傷をつけたことは計算ではなく本能で理解していた。

 

 

ダメージコントロール……終了。右腕機能性3%低下。耐火コーティング12%消失。稼働率依然として問題なし──けれど。

 

 

「──アビドスも敵対している、と言うことですか」

 

 

状況が依然としてわからない。便利屋68もアビドス廃校対策委員会もお父様と極めて───それこそ決して叶わない恋心を抱くほど友好的だった筈だ。それがどうしていきなり武力行使を……?

 

 

「……駄目、相変わらずお父様とは繋がらない」

 

 

先程から通話を鳴らしているが、お父様と繋がる気配はない。よほど切羽詰まっているのか、それとも何か私でも感知できない程精密な通信妨害が施されているのか……。

 

先程から追撃の気配はない。おそらく先程の伊草ハルカの負傷が想定外だったのだろう、仕切り直しをするべく動いていると見て良い────尤も、それに付き合う必要など更々ない。

 

 

 

「扉との接続は問題なし───ここらは少し障害物が多すぎますね」

 

 

 

 

 

「教えてあげましょう。何故私達が、領域支配機などと言う仰々しい名前を与えられているのかを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「それで、これからどうする?」

「どうするもなにも、とにかく仕切り直すしかない。貴女も見たでしょ、馬鹿みたいに大きな鉄の塊を振り回して人を軽々と投げ飛ばす姿を。あんな化け物と正面切って戦ったらあっという間に挽肉にされる」

 

 

砂狼の言葉に頭を振る。社長が一人で勝てるとは思わなかったけど、まさか投げ飛ばされるとは…。彼女の、領域支配機の性能を甘く見ていたのかもしれない。

 

 

「どうだった、生きた人間のまま空を飛んだ気分は?」

「本当生きた心地がしなかったわよ!あれと正面切って啖呵切るのなんて二度とごめんだからね⁉︎」

 

 

正しくほうほうの体でビルから駆け出しながら砂の街並みを疾走する。直後、小さな虫を模したドローンが同じ速度で並走してくる。

 

 

『皆さん、天才以下略の明星ヒマリです。誘導ご苦労様でした。対象は現在もビルの中、引きつけには成功したと思われます』

「ちょっと貴女!聞いてないわよ彼女があんなに強いなんて!お陰でうちのハルカが…!」

「あ、アル様、私は大丈夫ですから…」

『一番危険な役目を背負わせてしまい申し訳ございません。ですが、一度彼女を撃破している貴女でなければ誘導は難しかったでしょう』

「だからって…」

『今私たちが一番避けなければいけないことは、クロキと領域支配機を合流させる事です。もし二人の合流が成れば、おそらく手がつけられなくなります───誰も、クロキを止められなくなるのです』

 

 

沈痛な口調のまま閉められたその言葉に、社長も口を閉ざす───そう。これは絶対に、絶対に勝たなければならない戦いなんだ。負けたら最後、私達はもう2度と彼と会えなくなってしまうのだから。

 

 

「…それで、これからはどうするの?」

『とにかく今は指定したポイントに走ってください。各所に戦力を配備し、順繰りで攻撃を加えます。今の彼女はあまりに万全です、今のまま正面から撃ち合うなんて事は────』

 

 

その言葉の直後、私達の走っている場所が────都市全体が揺れ始める。

 

 

「ちょ、今度は何⁉︎」

『この反応──気をつけてください。まさかこれは───」

 

 

白い弾道と風切り音と共に音声が途切れる。狙撃、でもこの距離であんな小さい物体を狙撃するなんて───。

 

 

「っ、鬼方伏せて‼︎」

 

 

突然の警告に転がるように地面にふせる。刹那、私の真上を白い弾道と共に直径2cm程度の円柱が通り抜けて行く。

 

 

「…一体、どこに逃げようと言うのですか」

 

 

本来なら聞こえるはずのないはずの場所───空の上から声が聞こえ、其方を振り向く。

 

 

「…そんなの反則でしょ」

 

 

何事もないかのように空を歩き、硝煙漂うライフルの銃口をこちらに向ける姿に思わず悪態を吐く。空域特化型領域支配機とはいえ、まさか人型のまま空を飛べるなんて聞いていない。

 

 

「近くの建物に走って。ここじゃ狙い撃ちにされる!」

「建物───あぁ、もしかしてこのビル群の事ですか?」

 

 

直後、指を弾く音が空に響く───その瞬間、街並みを覆っていた砂のビル群が瞬く間に姿を消し、何もないような更地がどんどん広がって行く。

 

 

「…それで、一体どの建物に逃げ込むおつもりですか?」

 

 

彼女がそう話す時にはもう、私達が逃げ込めるようなビルは周囲の何処にも残っていなかった。

 

 

「……クロキ、こんな化け物を作っておいて何が自分は何もできなかっただよ。後で思い切りビンタしてやる」

 

 

周囲に障害物なし。相手は空中から正確にこちらを撃ち下ろせる上に、こちらは主火力が爆弾である以上攻撃があそこまで届かない。頼みの綱だった砂狼のドローンも先程の一瞬でプロペラがやられてすぐには使えない────これは、いよいよ不味いかな。

 

 

「殺しはしませんが、楽園に弓を引いた罰です。肋骨の2、3本は覚悟してくださいね」

「…よく言うよ。クロキが何をしようとしているのか知りもしないくせに」

「…お父様が、なんだと言うのですか」

 

 

彼女の顔が険しくなる。せめてもの時間稼ぎだったけれど、どうやら効果があったらしい。

 

 

「知らないんだ、お父様なんて仰々しい呼び方をしている癖に」

「っ、減らず口を…!」

 

 

彼女の銃口が私を向く。そう、意識を私に向けろ。そうしたら必ず何かが起こる。

 

 

「大体、その言い方は好きじゃありません。アビドス廃校対策委員会も、便利屋68も、お父様に恩義こそあれ弓を引く理由などないではありませんか」

 

 

彼女の視線が私から横に向けられる。

 

 

「例えば砂狼さん。貴方は良くお父様に自転車の様子を見てもらいに家に来てもらっていますが、その時必ずシャワーを浴びさせて着替えを新品のものとすり替えているじゃあありませんか。お父様はそれに気づいていながら敢えて触れない優しさを見せていたのに、どうしてこんな事を」

「───わ、わたしはそんなことしていない。出鱈目を言わないで」

「鬼方さんだって、便利屋68の経営相談とかこつけて、よく二人で食事に誘っていますよね。保護猫に名前をつける時だって、子供に名前をつけるくらい真剣に考えてとやや重めの発言してお父様を困らせておきながらこの様な無法…許して置けません」

「重い…⁉︎」

 

 

え、私クロキにそんな事思われていたの…?

 

 

「私はお父様の娘として、恩知らず達に容赦などしません。多少の痛みは覚悟してください!」

 

 

未だ煙の立つ銃口が私に向けられ、その引鉄が引き絞られる。炸裂音がやけにスローに感じる最中、打ち出された円柱は寸分違わず私の胸部に飛来する。

 

 

キィン

 

 

衝撃に備えて瞳を閉じたが、一向に痛みが襲ってこない。恐る恐る視線を上げ、彼女がいたであろう場所に視線を移すと───。

 

 

「──お待たせして申し訳ございません、準備に少し手間取ってしまいまして」

 

 

清廉で、けれども力強い声と共に二つの影が私達の前に現れる。

 

 

「私、この格好好きじゃないんだけどなぁ。重いし硬いし」

「エンジニア部が有り合わせの機材で特急で用意した対領域支配機の兵器群です。我慢してください」

「わかってるよ───私だって、我儘言ってられる時とそうじゃない時の違いくらいはわかるからさ」

「…まさか、そんな。貴女達までお父様の敵となると言うのですか」

 

 

領域支配機の動揺を他所に、メイド服を来た彼女達は高々に宣言する。

 

 

「えぇ、そうです。私達C&Cは、現時点を持って貴女達楽園造園室の敵となりました。どうかお覚悟を、機械仕掛けのお嬢様」

 

 

 

 

 

 

 






鏑木クロキ

古来より「楽園を作る」と宣った人物はラスボスか若しくはそれに類する存在となるが、当該ハリボテロボットも例に漏れずちゃんと敵となった。ある種フラグ回収とも言える。この世界で初めて出来た友達を死なせて以降、この世界に自分がいる理由について千は下らない自問自答の末精神性が変貌した、ハッピーエンドの狂信者。誰よりもこの世界は幸せにならなくてはならないという強迫観念に迫られている怪物である。


鏑木クロキ(臨戦形態)

死装束と見間違う程に白い装甲をその身に纏う、キヴォトスの外からやってきた異端児。広大なキヴォトスの半分を占める居住区画兼学園である『楽園』の主人であり、いずれ来たる終末へ抗う存在。全楽園から供出される莫大な演算能力を用いてクラフトチェンバー0号機から無尽蔵の兵器を呼び出す、只人の身でありながら奇跡に手を伸ばした愚者。際限なく集約される演算機能により発生するラグを放出するために足元には常に鉄屑の花々が咲き誇り、頭上には光輪を模した出力機が出現する。付近に領域支配機が存在することによって本来の性能を発揮するため本機単体の戦闘力はそれほど高くない。



祝詞、もしくは呪詛

臨戦形態へ移行する際の起動コード。本人による音声および静脈認証が条件。先生が着任しなかった場合の保険である自分が勘違いを起こさないためにこの文言を設定した。


鏑木クロキ型ドローン

出力するまでにコンマ5秒もかからない壁用のドローン。破壊される間際に鏑木クロキの声帯で破壊した生徒の下の名前を呼ぶ用に設定されている。人の心がない。


Melchior

鏑木クロキによって与えられた自らの性能に絶対の自信を持っているため、銃火器ではなく近接武器を多用する傾向にある。領域支配機それぞれに搭載された「地形を有利なものに変更する」能力を用いつつ、正面から敵対勢力をすり潰す。案外口が悪い。


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