ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります   作:あーけろん

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誤字脱字報告、感想、評価、閲覧、ご指摘の全てに感謝を。

※後3話で第一章完結予定です。短い間ですが、それまでお付き合いいただければ幸いです。

※11/23日追記 次回投稿予定日時は11月30日となります。何卒よろしくお願いいたします。


覚醒のホルスと梔子ユメ

 

 

 

───なんで、私はこんなにも弱いのだろうか。

 

 

地面にただ茫然と座り込み、嫌になる程青い空を見上げて思う。

 

 

『…ホシノ、私達は先に行くよ。気持ちに整理が着いたら追いかけてきて』

 

 

委員長ちゃんと美甘ちゃんを連れた先生が振り向きながら私に残した言葉が脳裏に反芻する───気持ちに整理なんて、着くわけがない。

 

 

【───俺が、このキヴォトスを楽園にしてみせるよ。もう、誰も死ななくて済む楽園を作ってみせる】

 

 

ユメ先輩が死んで、途方に暮れるしかなかった私とは反対に、クロキは只管に前を向いていた。亡骸を前に誓った誓約を履行する為に、もう誰も悲しまない楽園を作るために。私は、そんな彼の姿に、羨望と恋情を向けていた。ユメ先輩の事をちゃんと『思い出』にして、それを糧に突き進んでいる───そう、思っていた。

 

 

「……でも、違ったんだね、クロキ」

 

 

クロキの心には未だユメ先輩の死が色濃く───決して落ちないインクのようにこびりついていたのだ。その後悔が、彼を今の【(ロボット)】に仕立て上げたのだ。もしそうなら、今のクロキがあるのは私のせいでもある。あの時、先輩と下らない喧嘩なんかしなければ、ユメ先輩は一人砂漠で死ぬこともなく、クロキだって今のように楽園を目指していたわけでもなかったのだから。

 

今のクロキを形作ってしまったのが私であるのなら、そんなクロキの(ユメ先輩の蘇生)を邪魔する権利が私にあるはずもない。そうだよ、それならいっそクロキの夢を手助けして、十字架に張り付けられた彼を守ることが贖罪に─────。

 

 

『────けどね、私はよく知らないけれど、その梔子って人はクロキを犠牲にして蘇ったことを良しとする人なのかしら?』

 

 

「……そんなわけないだろ!」

 

 

砂で出来たアスファルトもどきの地面に拳をぶつける。そんなの、委員長ちゃんに言われるまでもない。彼女は、ユメ先輩は絶対にクロキを犠牲にすることを良しとしない。きっと、いや、絶対に怒るに違いない。今までに類を見ない位怒って……そして、十字架に張り付けられたクロキを前に泣くに違いない。なんでこんなことをしたのかと、力のない拳で何度も叩きながらわんわんと泣くのだろう。

 

クロキの夢を邪魔すればクロキが悲しみ、クロキの夢を叶えたらユメ先輩が悲しむ───これ程酷い天秤もないだろう。どちらもかけがえのないものを天秤に掛けているのだから。

 

 

「誰か教えてよ……私は………」

 

 

───ピピッ。

 

 

「……?」

 

私の言葉に反応したのか否か、視界の右に映るビルの扉が電子音と共に開け放たれる。これほど良い天気なのに窓一つない無骨なビルのその入り口は暗く、どこへ繋がっているのか見当もつかない───けれども、誰かが私を呼んでいるような気がした。

 

ふらりとその場から立ち上がり、その開け放たれたビルの入り口に立つ。開け放たれた扉から覗くのは疎に緑色の非常灯が光る、とても深い地下への入口だった。

 

 

「地下への階段………まさか」

 

 

その階段を見た時、先程クロキが見せてきたユメ先輩が張り付けられている十字架の姿が脳裏に浮かぶ。あのとき写っていた景色は外とは隔離されていて、その場所はどこか広い建物の一室か、それとも地下のどちらかだろう。

 

誰がこの扉を開いたのか、少なくともクロキではない事は確かだ。先程から微かに響く振動は戦闘が続いていることの証左であり、そんな状況で目的地であるその場所に私を呼び寄せる必要性は皆無と言って良い。

 

 

「………」

 

 

酷く怖気が走り、足がすくむ。この先に本当にユメ先輩がいて、十字架に張り付けられていたとして、その景色を見た私は果たして冷静で居られるのだろうか。きっと、クロキは酷く取り乱したに違いない。私も、そんな彼女の姿を見たらクロキの夢を応援するようになってしまうのだろうか……?

 

 

───ホシノちゃん。

 

 

「──ユメ、先輩…?」

 

 

突然聞こえるユメ先輩の幻聴に頭を振る。また私が勝手に作り出した幻聴…?いや、そうじゃない─────まさか、先輩が私のことを、呼んでいるの…?

 

 

「───ッ」

 

 

別に、幻聴に誘われた訳じゃない。誰に言い訳をするわけでもないけれど、その暗い階段へと脚を踏み出した。

 

 

「どれくらい続いているの…?」

 

 

疎に灯る緑色の灯りを目印に、ただ階段を降る。地上から響く振動も殆ど感じなくなった事からかなりの距離を降った筈だけど、未だ終わりは見えてこない。

 

 

「………」

 

 

こうして一人地下に続く階段を降っている中、ふとクロキのことが頭を過った────クロキは、どんな気持ちでこのキヴォトスを生きていたんだろうか。

私は、クロキが居たから、夢にひた走る彼の姿を見ていたから、ユメ先輩の死を多少は受け入れることができた。それじゃあ、彼はどうだったのだろうか。未来を知っていて、それでも彼女を救えなかった彼は、どんな気持ちだったのだろうか。

 

 

 

────そんなの、考えるまでもない。私が自分を許せなかった様に、彼もまた、自分を許せなかった筈だ。

 

 

「……灯り?」

 

 

嫌になる程見てきた真っ暗な景色の一部に、白い光を放つ入り口を見つける。どうやら、無限に続くと思われてきた階段もそこで終着のようだ。

最後の段差を降り、その入り口の前に立つ。

 

 

「…それで、あなたはどこの誰なのかな?」

 

 

階段を降り切った矢先、その入り口に黒い影が現れる。仕立ての良いスーツから覗く肌は黒い靄のようで、顔と表現するべき場所には白い光がぼんやりと浮かぶ異形の存在に拳銃を突きつける。

 

 

「お待ちしておりました、小鳥遊ホシノさん。私の名は黒服。こうして直にお会いするのは初めてですね」

「……私の事知ってるんだ」

「勿論です。このキヴォトスに聖人が現れなければ、私は貴女を────いえ、今この話は関係ありませんね」

 

 

何やら意味深な事を言っている口振に不快感を覚えるが、引金に指は掛けない。

 

 

「…聖人っていうのは、クロキのこと?」

「えぇ、その通りです。このキヴォトスに現れた唯一にして無二の救世主です」

「…随分な言い草だけど、あんたはクロキのなんなの?」

「私は彼の一ファンですよ。それ以上でも、それ以下でもありません」

「…そう」

 

 

その言葉、声に嘘偽りは感じない。突きつけていた拳銃を降ろして「それで」とこちらから口を開く。

 

 

「黒服って言ったよね。それで、この先には一体何があるの?」

「ククッ、それは行けばわかります。この先は些か迷路のように入り組んでおりますので、こうして私が迎えに来たのですよ。貴女とお話したいこともありましたので」

「…まどろっこしいのは好きじゃないんだけど」

「時間がないのは承知しておりますが、ここはどうか私の話に付き合って頂ければ」

「…手短にお願いね」

 

 

腕を広げて先を促す彼────黒服の誘導に促されるまま、暗い階段の踊り場から脚を動かす。

白い光を放っていたそこは極めて先進的な廊下のようで、眩いほどの蛍光灯が敷き詰められており、どこか研究所染みていて人の生活感をまるで感じない不気味な場所だった。

 

 

「…それで、ここはどこなの?」

「ここは『審判の都市』……より正確に言うのであれば、【決戦都市『第一楽園区画』】、そのドローン供出通路です」

「ドローン供出通路…?」

「トリニティやミレニアムにある初期段階の楽園区画にも設置されているものですよ。かの聖人は貴女達生徒に頼らずこの世界に到来する終末に対抗するべく数多の手段を講じてきました。今地上で猛威を奮っている領域支配機や楽園区画、地上に張り巡らされたリニア鉄道……詰まるところは彼が戦うための武器と言うべきものです」

「…そう」

 

 

私達に頼らず、と言うことはクロキは私の事は当てにしてなかったという事だ。普段は頼りにしているなんて言っていながら、結局一番大事な事は一人で片をつけようとしていた。本当に酷い話だ、私は、クロキに頼まれたら世界を相手にだって戦えるのに。

 

 

「……ですが、かの聖人はそれらを全てゴミ箱に捨ててしまいました。これでは意味がないと断定し、このキヴォトスに到来した新しい才覚……『先生』に全てを託そうとしたのです。私は、それが許せなかった」

 

 

そう言う黒服の口調はとても悔しげで、直に感情が伝わってくる。

 

 

「ですから私は証明したかった。彼の作ったものは価値があると、この世界を救うに足る性能を有している、と」

 

 

「彼が領域支配機を破棄した時は正気を疑いましたよ」と首を振るその姿に、なぜか少しだけ親近感が湧く。…確かに、クロキは偶に悪癖として完璧主義が出てくるところがある。

 

 

「だから私は彼の破棄した領域支配機を回収し、それを修復しました。そして今地上にいるメルキオール……彼女の性能を見て私の想いは確信へ変わりました。彼の能力が、清廉な想いがあればこのキヴォトスを完全な楽園に変えられる───そう踏んで私は彼をこの審判の都市に招いたのです。我々と手を取り合って共にこの世界を救おうと、我々も共に世界を憂う同志であることを示すために」

 

 

それだけ言うと黒服は急に立ち止まり、僅かに上を見上げた。

 

 

「…ですが、彼は私の手を取らなかった。それどころか、十字架を見た彼は自らを完全な救済装置─────つまりはロボットに作り替えてその奇跡を先生に託そうとしたのです。私のやった事は、完全に裏目に出てしまった」

「……それは」

「この状況は、言わば私の善意が招いた結果なのです。故に、私はその清算をしなければならない」

 

 

黒服がこちらを見やる。異形の顔の朧気な白い光に力が入ったような錯覚を覚えると、続けて彼が口を開く。

 

 

「私が考えるに、今の彼に言葉を届かせられるのはこのキヴォトスに一人しかいません。このキヴォトスで最も繋がりが長く、彼が聖人として覚醒するに至った出来事に立ち会った人物……つまり貴女だけなのですよ、小鳥遊ホシノ」

「………無理だよ、私の言葉じゃ彼は止められなかったんだよ」

 

 

あの時、クロキに縋った私を彼は振り払った。自分の事は忘れて幸せに生きてなんて、一生かかったって出来っこない無理難題を押し付けて。

 

 

「クロキは、ユメ先輩が好きだったんだよ。だから、自分が死んででも彼女を蘇らせようとしているんだ。それを邪魔するなんて……」

「……それは違いますよ、ホシノさん。彼は、彼女を好いていたから生き返らせようとしているわけではありません」

 

 

断定する彼の口振に、頭の血液が沸騰する様な感覚を覚える。

 

 

「っ、なんでそんな事が言い切れるの⁉︎クロキはいつだってユメ先輩と楽しそうに話していた!私のことなんて放って、二人きりで買い物にだって出かけてた!今だって先輩を生き返らせるために私を────‼︎」

「領域支配機に残されていた彼の模倣AIには、極めて強い罪の意識が刻まれていました」

「だから、それはユメ先輩を死なせたから…!」

「彼女を死なせた事が大元の理由ではあるのでしょう。ですが、彼が楽園を目指したのは、彼女の死を悼んだことよりも大きな原因があるのですよ」

「それじゃあ教えてよ!なんでクロキはユメ先輩を生き返らせようとしているの⁉︎」

「貴女ですよ」

 

 

 

「……えっ?」

 

 

静かに、黒い指が私の事を指差す。

 

 

「小鳥遊さん、貴女の事を想って彼は梔子ユメの蘇生を成そうとしているのですから」

「…そ、そんなわけない。だって、だってクロキは」

 

 

私の目の前に、一枚のタブレットが差し出される。差出人はもちろん、目の前の黒服だ。

 

 

「これは、領域支配機に刻まれていた模倣AIの思考アルゴリズムを解析したものです。これを見れば、彼の思考の一部を知ることができるでしょう」

「で、でも、そんなのは───」

「部外者ですが、貴女にはこれを見る資格があると思いますよ。この3年に近い時間を、彼と過ごしてきた貴女なら」

 

 

クロキの心を覗き見るようなものではないか、という罪悪感を感じていたことすら見透かしているような言葉に喉が詰まる。見ても良いのだろうか、でも、そんなのは……。

 

 

「ホシノさん」

「っ…わ、わかった」

 

 

その言葉に押されるようにおずおずとそれを受け取り、正面に見据える。

 

 

「…ごめんねクロキ。機会があれば、ちゃんと謝るから」

 

 

今はここにいない彼に謝罪の言葉を述べた後、右上のボタンを押して画面を起動する。起動と同時にドキュメントアプリが開かれ、特に操作することもなく目当ての画面が開かれる───そこには、紛れもない彼の心が記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

────あぁ。俺は一体、何を勘違いしていたのだろうか。

 

 

 

『ユメ先輩…!ユメ先輩…‼︎』

 

 

身体中が砂に塗れ、静かに眠るように斃れる彼女────梔子ユメの死体に縋り付き、ポロポロと大粒の涙を溢している小鳥遊を見て思う。俺は、何を勘違いしていたんだろう。

 

 

『クロキ、ユメ先輩が、ユメ先輩が……‼︎』

『……あぁ』

 

 

俺の名を呼ぶ声に呆然としながら応える。

彼女の涙と鼻水に塗れたその顔を見る───凛々しい顔立ちは最早みる影もなく、ただ失くしてしまった物の大きさに耐えかねている幼気な少女が、そこにはいるだけだった。暁のホルスとか、キヴォトス最高の神秘とか、そんな異名をつけられるような強者の風格などまるでない。年相応の、少女がいるだけだった。

 

 

 

(…俺のせいだ)

 

 

 

なんで梔子先輩が死んで、小鳥遊が泣いているのか────その理由など、最早問うまでもなかった。

俺が、彼女が死ぬ事をわかっていた俺が、何もしなかったから。

 

 

(何を、何をやっていたんだろうな、俺は)

 

 

備える時間はあった。手段だって、あの怪しげなクラフトチェンバー0号機などと言うものを使えば手は無限にあった。

なんて言い訳をすれば良い?ここで彼女が死ぬことは運命(原作)に定められていたから、俺は何もすることが出来なかった─────俺は、目の前で泣いている彼女にそう言って言い訳をするのか?

 

 

(冗談じゃない……冗談じゃない……‼︎)

 

 

噛み締めていた奥歯が割れ、口の中に鉄の味が広がる。

どこか彼女達を、画面の向こう側にいるキャラクターだと認識していた俺を助けてくれた梔子先輩を死なせて、挙句の果てにはそんな優しい彼女を慕っていた小鳥遊を泣かせて───俺は、なんの為にこの世界に産まれたんだ?

 

 

梔子先輩の身体に縋り付く小鳥遊の姿を見て切に思う。ありえない仮定だとして、こんなに悲しむ彼女の姿を見るくらいなら、いっそ俺が死ぬべきだったのだ。そうしたら、小鳥遊は大好きな梔子先輩と一緒にいられたのに。

 

 

(…意義を、果たさないと)

 

 

俺がこの世界に産まれてきてしまった意義を果たさなければ、価値を示さなければ、俺は、梔子先輩や小鳥遊から受けた恩を、この世界に返さないといけない。

 

 

「私のせいだ…私がユメ先輩と喧嘩なんてしなければ…」

「自分を責めるな小鳥遊。お前が悪いわけじゃない」

 

 

だって悪いのはこの結末を知っていながら何もしなかった俺なのだから。

 

 

「でも!でも私は……!」

「こうなるなんて誰も予測できなかった。小鳥遊には非がない」

 

 

自分が吐いた言葉の悍ましさに吐気がする。いっそここで全てを正直に白状したら、彼女は俺を殺してくれるだろうか?…いや、そんなのは俺が救われるだけだ。そんなのは意味がない。それに、彼女の綺麗な、優しい掌を俺の汚い血で汚すわけにはいかない。終わらせるのなら、それは俺が手を下すべきだろう。

 

 

「っ、なんでクロキはそんなに冷静なの⁉︎ユメ先輩が死んで、悲しくないの⁉︎」

「そりゃ、俺だって悲しいし、今にも吐きそうだよ……でも、これで俺がやらなきゃいけないことははっきりしたから」

「やらなきゃ、いけないこと……?」

 

 

俺の襟を掴み上げた手を離し、呆然とした声で彼女が聞き返す。

この『ブルーアーカイブ』には悲劇が、苦痛があまりに蔓延っている。何故ならこの世界にまだ頼るべき『大人』───詰まるところ『先生』が居ないから。

 

彼女の死で、俺の勘違いは完全に晴れた。俺は『先生』がこのキヴォトスに着任するまでの間、この世界から悲劇を根絶しなければならないんだ。いずれ来る先生が、手を差し伸べられる生徒を守るために。

 

 

───俺が、先生に原典以上の『ブルーアーカイブ』を手渡してみせる。

 

 

「決めたよホシノ。俺は────俺が、このキヴォトスを楽園にしてみせるよ。もう、誰も死ななくて済む楽園を作ってみせる」

 

 

ごめんホシノ、全部終わったらちゃんと話すよ。俺がユメ先輩を見殺しにしたことを、何もできなかったわけじゃなくて、何もしなかった出来損ないのロボットだった事を。

 

きっと、この話をしたら君は怒るだろう。怒って、激昂して、もしかしたら俺の事を殺すかもしれない。それは正しい怒りで、仮にその時が来ても俺は一切の抵抗をしないだろう。でも、俺は君に、いや、生徒に殺されるわけにはいかないんだよ。だって、それは優しい誰かの傷になってしまうから。

 

このキヴォトスを楽園にして、梔子先輩から貰った恩を返して、そして全部を『先生』に明け渡したら、俺はちゃんとケジメを付けるから。

 

 

「……ごめん、ごめんなホシノ」

 

 

絶対に彼女に聞こえないような声で懺悔の言葉を吐き出す。

だから、今この瞬間だけ、俺がこの世界に生きる罪悪を、どうか見過ごしてくれ───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「────なに、これ」

 

 

 

それを見た時、私の心を支配したのは、困惑と怒りだった。

 

 

「こんな……こんなのって……!」

「…お分かりになったのでしょう。あの人は、梔子ユメの為に事を成そうとしているわけではない、と。自らが犯してしまった罪を贖う為に、貴女の為に事を起こしているのだと」

「クロキは罪なんて背負ってない!私だって、クロキがユメ先輩を殺したなんて微塵も思ってない‼︎」

「我々がいくら言ったところで変わりません。クロキさんは自らを怠惰な殺人者と定義付けました。その罪を贖う為に、このキヴォトスを楽園に変えようとしているのですから」

「────ッ‼︎」

 

 

手に持っていたタブレットを地面に叩きつけ、来た道を戻る為に踵を返す。

 

 

「どちらに行かれるのですか」

「そんなの、クロキの所に決まってる!伝えないと…!私が、ちゃんと伝えないと……‼︎」

 

 

クロキが殺したわけじゃないって、クロキは、この世界に生きていて良いって、私が、私が伝えないといけないんだ。私は貴方を恨んでいない、そんな事をカケラでも思った事はない。だって、彼は私が苦しい時、ずっとそばにいてくれた。私の事を助けてくれた。なんでそんな彼を私が、私が恨まないといけないのか。

 

 

あの時、あの場所で、一度クロキが死んだあの瞬間に立ち会った私だけが───‼︎

 

 

「でしたら、その前にもう一人の当事者にお話を聞いた方がよろしいと思いますが」

「───えっ?」

 

 

機械的な音と共に黒服の背後の扉が静かに開かれる。無機質な廊下から見えるそこは広く、体育館程の広さがあるだろう────そして、その中心にそれはあった。

 

 

「先程本人と会いましてね、なんとか調整を終わらせた次第です。今なら、貴女でも接続できる筈です。彼に次いで、このキヴォトスで一際強い神秘を保有する貴女であれば」

 

 

なにやら黒服が話しているが、うまく情報を掴むことができない。視界が正面に固定され、呼吸が浅くなる。

 

 

「…ユメ、先輩」

 

 

その無機質な広場の中心。真っ黒な十字架に縛り付けられている人物の名前を呼ぶ───私にはわかる。そこにいるのは間違いなく、私の大切な、本当に大切な先輩だった。

 

 

「……では、私の案内はここまでです。マエストロも到着したようなので、加勢に行かなければ。彼でも領域支配機を2機扱うのは骨が折れるでしょうから」

 

 

静かな足取りで私と歩いてきた道を戻る彼は、去り際に「あぁ、それと」と振り返りながら口を開く。

 

 

「十字架の洗礼を受けた『暁のホルス』───どれ程の力を持つのか、ぜひ私に見せてください。そして証明してください。貴女が、救世主に望まれた存在であることを」

 

 

それだけ言うと今度こそ視界から消える。私はそれを見送ることなく、ゆっくりと十字架に近づく。十字架との距離を縮めるほど、彼女に近づけば近付くほど、それが本当にユメ先輩なんだと実感が沸く。

 

 

「………そっか。クロキは、これを見せられたんだね」

 

 

成程確かに、いきなりユメ先輩のこんな姿を見せられて、生き返らせることができるなんて言われたら、何をするかなんて簡単に想像がつく。これはあまりに酷い、いっそ残酷と言って良い景色だ。

 

いよいよ彼女の貼り付けられた十字架の足元まで辿り着き、貼り付けられているユメ先輩を見上げる。

 

 

「ユメ先輩、今会いに行きますからね」

 

 

そして無機質な、只管に黒い十字架に触れる─────そして、一瞬にして景色が切り替わる。

 

 

「─────ッ、ここは…?」

 

 

眩い光に目を細めると、辺りの景色が完全に切り替わっているようだ。そして、私はここに見覚えがあった。

 

 

「アビドス生徒会室…しかも、あの時のままだ」

 

 

窓から覗くいやになるほど青い空に砂に塗れた廃墟の街並み。都市整備部のプラントは愚か、校庭に張り巡らされているバリケードすら見当たらない。生徒会長の机の上には食べ掛けのお菓子やジュースの空き缶が疎に見受けられる──どれも、ユメ先輩が好きだったものばかりだ。

 

 

「っ、クロキ…?」

 

 

視界をソファに向ければ、今の高性能スーツではなく、かつてのハリボテのロボットスーツが首を垂れてソファの背凭れに倒れ込むようにいる。

 

 

「───懐かしいよね。クロキ君、校舎の掃き掃除が終わったらいつもそこで疲れ果てて眠っていたね」

 

 

─────急に聞こえてきたその声に、私は息を飲み込んだ。だって、それは私がもう一度聞きたいと願って、そして叶わないと諦めていたものだったから。

 

 

「体力ないのにいつも率先して掃除してて偉かったよね」

「っ、あれは、私がいつも口を酸っぱくして言っていたからですよ。そうしないとクロキ、いつも写真しか撮らなかったから」

「あれ?そうだったっけ?」

「そうですよ。あ、貴女が、いつもクロキを甘やかすから、私が厳しくするしかなかったんです」

「そんなこと……あったっけ?」

「えぇ、そうでしたよ。だからクロキはいつもユメ先輩に甘えてて」

「ふふっ、そうだったね。…ほんと、懐かしいね」

 

 

思い出を確認するような会話の後、彼女が長い髪をたなびかせながら振り向く。

 

 

「───久しぶりだね、ホシノちゃん」

「っ、ユメ先輩……‼︎」

 

 

優しげに微笑む彼女の胸元に、銃を捨てて飛び込む。彼女は優しげに私を抱きしめると、私の頭を撫でる。

 

 

「ホシノちゃん、髪伸ばしたんだね。似合ってるよ」

「そんな事より、私に言うことがあるんじゃないんですか⁉︎」

「えっ?あ〜…死んじゃってごめんなさい?」

「軽い‼︎‼︎私が、私達がどれだけ苦しんだかわかっているんですか⁉︎」

「うっ、ご、ごめんね……」

「なんで一人で砂漠に行っちゃったんですか⁉︎せめてクロキに一声かけてくれたら、今頃は……‼︎」

 

 

力のない拳でポカポカと彼女の豊満な胸を叩く。そう、あの時、貴女が死ななければ今頃はクロキだって───⁉︎

 

 

「ッ、クロキ……そう、クロキです‼︎聞いてくださいユメ先輩、あの唐変木が……‼︎」

「うん、知ってるよ。事情はさっき来た黒服って幽霊みたいな人に全部聞いたから」

 

 

そういうと彼女は優しい手つきで私の肩を掴んで身体を離すと、過去見たことのないような真剣な顔付きで口を開く。

 

 

「聞いてホシノちゃん。私はね、クロキ君の事を───」

「恨んでいない、でしょ」

 

 

彼女に被せるように口を開く。そんなの、彼の名前を呼んだ時の表情でわかっていた───というより、聞かなくたってわかっていた。この人が、クロキの事を恨むわけがないのだから。

 

 

「そう!流石ホシノちゃん!」

「でも、クロキは止まりませんよ。今だってみんなを敵にして……」

「…それなんだけどね、ホシノちゃん。なんだか、良くないモノがクロキくんに纏わりついているみたいなの」

「良くないもの?」

 

 

曖昧な言葉に首を傾けると、彼女は続ける。

 

 

「うん。正体はよくわからないけど、黒い靄?みたいなものが纏わりついてるの」

「そうは言っても、そんなの私は……」

「と、とにかくそれらしいものがあるの!だから、先ずはそれを除去しないと!」

「見えないものを除去しろと言われても……」

「正体はわからないけど、どこから出てるかはわかるよ。彼の周りを浮遊しているタブレット端末───えぇと、クラフトチェンバー?の端末から流れ込んでいるみたい」

「タブレット端末…クラフトチェンバー0号機の操作端末ですね」

 

 

クロキの言う【魔法】の力。確かに理屈はよくはわからないとは言っていたけど、あれに何か仕掛けが…?

 

 

「だから、とにかくあれの端末を全部破壊しないと!」

「簡単に言ってくれますけど、いまのクロキは手がつけられない程厄介なんですよ?」

「うっ、それはそうだけど…ほら、私だって頑張れ〜って応援するし!」

「応援だけですか…」

「ご、ごめんね。力不足で…」

「…いえ、寧ろ心強いです」

 

 

ユメ先輩が応援してくれるのであれば、私は万物を退けられる。それが、たとえこの世界の終焉に抗うものであったとしても。

 

───でも、ここでクロキと戦うと言うことは、つまりは。

 

 

「…ユメ先輩は、良いんですか?」

「──良いんだよ。私が死んじゃったのは、他でもない私のせいだし。その為にクロキ君が消えるのなんて、絶対に絶対に間違ってるから」

「でも、クロキは貴女のことを……」

「…そうだね。だから、クラフトチェンバーの端末を全部壊した後、彼をここに連れてきて欲しいんだ」

「連れてきて、どうするんですか?」

 

 

彼女が胸を張って言い切る。

 

 

「お説教するんだよ。先輩としてちゃんとお説教して、叱って──そして、うんと強く抱きしめてあげるの。もう頑張らなくて良いって、自分の人生を生きて欲しいって。私のことは忘れて……ううん、偶に思い出す位で良いよって」

「…自分のことは忘れて欲しいとは言わないんですね」

「だ、だってそれは寂しいし……」

「…まぁ、ユメ先輩らしいといえばらしいですね」

 

 

なんと言うか…うん。凄くユメ先輩らしい。

 

 

「…こんな事言うのもよくないと思うけど、ホシノちゃんこそ、クロキ君と戦うことになるけど良いの?」

「良くないです───って言ったら、貴女は困るでしょう?」

「うっ、それは……」

 

 

生徒会室の床に投げ捨てた銃を拾い上げ、各種動作を確認する───うん、問題ない。その後、生徒会室の教室から廊下に出る扉の前に立つ。

 

 

「戦いますよ、ユメ先輩が望んでくれるのなら。クロキに、貴女の気持ちを、私の想いをちゃんとぶつけてきます」

「ホシノちゃん……うん、お願い、絶対、ぜーったいに勝ってね!」

「はい───それじゃあ、行ってきます」

 

 

彼女の激励を背に、その扉を開く。

眩い光を正面から浴びて、再び瞳を開いたそこは、先程と変わらない無機質な広場だった。

 

 

「……身体が軽い」

 

 

先程まで体全体を覆っていた倦怠感が綺麗に無くなったばかりか、身体が羽のように軽くなった印象を覚える───本当、私って結構単純なんだな。

 

 

「──待っててねクロキ。今、会いにいくから」

 

 

強く地面を蹴り付け、地上に出る階段へと向かう。私の想いを、ユメ先輩の気持ちをあの唐変木で、朴念仁なロボットに伝えるために、私は走り出した───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






鏑木クロキの原典、或いは原罪

救えなかった事ではなく、救うべく手段を講じなかった自分に絶望した青年。原作通りの展開を望み、その通りになった結果、それがどれほど残酷な行為なのかを認識してしまった転生者。原作の悲劇は見過ごせると思っていた、耐えられると思っていたが、目の前に泣き崩れる幼気な少女を目撃した刹那、自分がとんでもない人手なしで、怠け者で、愚者なのかを悟ってしまった。
彼女達を物語の登場人物として見れなくなってしまっていたことを梔子ユメが死んだ時にようやく認識したが、覆水は盆に帰らず、失くしたものは決して帰ってこない。キヴォトスを、世界を愛していた彼は一度失ってしまった物の大きさに耐えかねて、これ以上の悲劇がなくなるような楽園を作るべく動き出した。罪人が生徒達を導いてはいけない。それならばせめて、いずれ来るキヴォトスの指導者である『先生』に最高の環境を譲り渡すために。もう、絶望に打ちひしがれる少女達を見たくなかったから。


鏑木クロキという青年

誰も悲しまない楽園を目指した心優しい青年───というより、自らに厳しすぎた青年。本来背負わなくても良い罪を背負い、自らを怠惰な殺人者と定義付けその罪滅ぼしの為に只管に奔走していた。誰も責めない、責められない状況にも関わらず一人自分を責め続けた結果、本来築き上げてきた功績と共に与えられる賞賛は寧ろ彼を呪う言葉へと変わり、自身に向けられる好意は自責の念に変わってしまった。梔子ユメを殺してしまったという呪いを解くまで、彼にはどんな賞賛や好意さえも届きはしない。学名キヴォトスクソボケトウヘンボクロボ。


機械仕掛けの救世主

人格データ及びシッテムの箱のインストールを完了。完全覚醒まで残り30%。



小鳥遊ホシノ(臨戦)with背後霊梔子ユメ

梔子ユメから洗礼を施された臨戦ホシノ。弾薬十全、精神万全、目的意識明確な、正しくキヴォトスに存在する中で最強の生徒。迷いの晴れた彼女は、立ち塞がる全てを排除し、キヴォトスクソボケトウヘンボクロボを止めるために動き出した。


マエストロ

領域支配機を連れて『審判の都市』に到着。黒服と合流した後、救世主の最高傑作の真価を発揮すべく準備中。



バッドステータス『存在しない殺人者』解除方法

1、クラフトチェンバー0号機操作端末の完全破壊(残数2。ヒヨリ撃破1)
2、小鳥遊ホシノの覚醒(タスク完了)
3、十字架内での梔子ユメとの再会
4、機械仕掛けの救世主の完全顕現の阻止




Q 、梔子ユメが死亡しなかった場合鏑木クロキはどうなるんですか?

A、ミレニアムからアビドスに転校してタピオカや白いたい焼き、マリトッツォをキヴォトスでゴリゴリに流行らせて売り捌き早々に借金を返済する。なんやかんやあって梔子ユメを皮切りにアビドス高等学校の共有財産に成り果てるが、解釈違いを起こした異世界の自分にぶち殺される。





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