ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります   作:あーけろん

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誤字脱字報告、感想、評価、閲覧、ご指摘の全てに感謝を。


※12/15日追記 次回投稿は12/22を予定しております。何卒よろしくお願いします。



愚かで不出来な救世主と先生

 

 

 

(あれがシロコちゃん⁉︎嘘でしょ、だって身長や身体つきが───)

 

 

私が願った奇跡────その存在が、私の前で領域支配機と対峙している。先ほどの声、そして纏う雰囲気はシロコちゃんそのものだが、それ以外は彼女と似ても似つかない。

 

すらりと伸びた手足に長く綺麗な銀色の髪、豊満な体付きに纏う雰囲気はなんだか魔性を放っているようにすら感じる。これが、あのクロキくん一直線だったシロコちゃん……?

 

 

「おい先生、罷り間違っても介入しようと思うなよ」

「美甘ちゃん…?」

「傍目から見てもわかる───あれはやべぇ。まず間違いなく、この場にいる誰よりも強い」

 

 

やや私よりも前に立つ彼女が静かな口調で漏らす。視線は彼女達二人を掴んで離さず、両手の銃のトリガーに指をかけたままだ。

 

 

「誰よりも………それって、Melchiorよりも?」

「今の状態ならな。けど、あれって確か龍に変身するんだろ?その状態ならわからねぇ」

 

 

二人は静かに対峙しているだけで、銃口すら向け合っていない。そんななか、ふと領域支配機が突如目を見開く。何かに驚愕したようなその表情は「…ありえません」と言葉を吐き出す。

 

 

「瞳孔、心拍、静脈───そのどれもが、貴方が砂狼シロコであることを証明しています。ですが、それはありえないのです。なぜなら、砂狼シロコという存在は先程私が打倒したのですから」

「ん、強くなって帰ってきた…じゃ、納得しない?」

「そんな漫画みたいなことが起こり得るはずがありません。まして今のあなたは肉体的にも非常に成長している────つまり、いえ、ありえない仮定ではありますが……」

 

 

惚けたような表情のまま、彼女はその後の言葉を続ける。この場にいる彼女以外の全員が思っていることを。

 

 

「───貴女は、未来からやってきたのですか」

『…その通り。流石、この世界でもメルの分析は正確』

 

 

彼女の問いに答えたのは推定シロコちゃんではなく、その首にあるチョーカーから聞こえる若干の砂嵐が混じる男性の声だ───いや、と言うよりも、その声はこの場にいる誰もが聞き馴染んだ声だった。

 

 

「その口調、私をその名前で呼ぶ………お父様、なのですか?」

『……すまないが、その質問に俺は答えることができない。俺から一つ言えることは、今そこで寝転んでいる馬鹿の言うことを聞く必要はないってことだけだ。それは、自分だけじゃなくてみんなを不幸にさせる天才だから』

「…それは」

「────無駄口を利いている暇があるの?」

 

 

驚愕に歪む彼女の額に銃口が突きつけられる。

 

 

「私は、貴方がクロキの命令に絶対に逆らわないことを知ってる。今そこで寝ているクロキを奪い返すためには、言葉じゃなくて弾丸が必要なことも」

「…どうやら、未来でも直情的な部分は変わっていないようですね。恩義を忘れ、お父様の悲願すら慮れない様では獣となんら変わりません」

「…大切なものを失って泣くくらいなら、私は獣でも構わないよ」

 

 

 

再び剣呑な雰囲気が流れる中、私は二人が話す言葉を整理するのに精一杯だった。彼女が未来からやってきたシロコちゃんであること、そして彼女はクロキ君のような何かを従えていて────?

 

 

「───では、こちらも最初から全力で参ります」

 

 

直後、自然では起こり得ないような風が巻き起こり、領域支配機を中心に回り始める。手に持っていたライフルを砂の地面に投げ捨て、その場に片膝を折る。両手を固く握り合わせ、祈るように言葉を紡ぐ。

 

 

「──楽園の守人の到来を告げる。それは救世主の降臨を告げる白の福音であり、楽園の空を守護する流麗なる第三の龍なり」

 

『擬態解除、洗礼艤装着装』

 

 

直後、纏っていた風が砂嵐となって彼女を瞬く間に覆い隠す。わずか3秒ほどの一瞬とも言える時間───それが、彼女が楽園の守護者である事を証明するのにかかった時間だった。

 

砂嵐が晴れた後、そこにいたのは可愛らしい少女ではなく、芸術品とも言うべき造形美を讃えた白龍だった。

 

 

「貴女方がなにであろうと、私はお父様を守る盾であり剣なのです。彼の願いを妨げると言うのであれば、こちらとしても容赦は致しかねます。どうか、お覚悟を」

『──戦闘補助モード起動。構えろ、シロコ』

「…ん」

 

短い返答の後、彼女の周りを浮遊していたドローンがピタッと止まり、狙いを目の前の白龍に向ける。対する白龍は翼を大きく広げ、その翼膜と称する部分に配置されたレーザー兵器を起動する。

 

 

─────ギ、ギィ。

 

 

まさに一触即発のその時、この場にいるみんながその二人に注視しているその時だった。モーター特有の機械同士が擦れる音が響いたのは。

 

 

【───せ、先生!先生‼︎】

「な、なにどうしたのアロナ⁉︎今は────」

【極めて大きな質量物体がこちらに向かってきています!とにかく急いでこの場から避難してください‼︎】

「質量物体って────」

 

 

「───偽りの預言者の到来を告げる。彼は違いを痛感する静観の理解者であり、楽園に蜷局を巻く白痴の蛇」

 

 

 

付近の建物を薙ぎ倒しながらこちらに直進する巨大物体。トラクターや戦車よりも巨大なそれは砂の都市を蹂躙しながらこちらへと突撃し、爆煙ともいうべき砂混じりの暴風が襲い来る。

 

 

───あ、これは間に合わない。

 

 

先を見通すことのできないそれはいっそ砂の壁とも言うべきもので、巻き込まれたら助からないことを確信させる程の規模だ。近くには風を避けられるだけの建物はなく、砂が広がるのみ────所謂詰みという状況だった。

 

 

「────クラフトチェンバー起動」

 

 

どこからか聞こえたその声と共に、私たちの周りに縦横無尽に白線が走る。まるで空をキャンバスにしているかの様な線は瞬く間に形を持ち、私達を覆う様な巨大なドームを形成する。

 

 

「これは、クロキ君の────」

 

 

私の言葉は直後、凄まじい勢いで砂の粒子がぶつかる音にかき消される。生徒達の銃撃戦に勝るとも劣らない爆音に耳を塞ぐが、それも長くは続かず時間にして30秒ですっかり収まる。音が収まると同時にドームが再び白線になるとそのまま掻き消え、そこにはなにもなかったかの様な青空が広がるのみだ。

 

 

 

「今のは、一体─────っ⁉︎」

 

 

身体を起こし、皆んなの無事を確かめようと視線を回す。その時、自分達を遥か上から睥睨する視線に気がつく。

 

 

「な、なにこれ…?」

 

 

蛇を模した巨大なロボットが、四つの瞳で私達を見下ろしている。普段ならかっこいいと騒ぐ所だけど、そんな状況ではないことは重々承知していた。

 

 

「これは、神聖十文字か……?」

「…いえ、よく見てください。細部の装飾が異なっていますし、ヘイローがありません。おそらくクロキさんが廃棄区画で開発していた兵器でしょう」

「…あの野郎、あんなものまで模倣してたのかよ。とんでもない奴だな」

 

 

飛鳥馬ちゃんと美甘ちゃんの会話からそちらに視線を向けると、そこには生徒達が揃っていた。よかった、みんな無事で……。

 

 

「───これは、【F:ビナー】?なぜここに…?」

「俺が呼んだからだよ。この状況、君だけだと荷が勝ちすぎてると思ってね」

 

 

翼を硬く飛ばしていたMelchiorの疑問に言葉が返る。それは、みんなが聞きたかった声でもあり、そして、この状況では一番聞きたくない声だった。

 

 

「…おいおい、これはどう言うことだ?あいつは今頃夢の世界にいるんじゃなかったのか?」

「…錠前さん。ちゃんと薬は打ち込んだんですよね?」

「それは間違いない。2日は昏倒する強度だぞ、なぜもう動けるんだ…?」

「……クロキ、なの?」

 

 

そんな、蛇型巨大ロボットの首の下。何事もなかったかのように首に手を当てて肩を回すその出立は、まさに、鏑木クロキその人だ────なのに。

 

 

(なんなの、この違和感は…?)

 

 

あれはクロキ君だ、それは間違いない。それなのに、喉の奥に骨が刺さっているような不快感が離れて消えてくれない。そして、その違和感は他の生徒達も感じていた。

 

 

「クロキさん───いえ、貴方は誰ですか?」

「…………」

 

 

飛鳥馬ちゃんの質問に彼は答えない───そして「……はぁ」と深いため息を吐き出すと、忌み嫌う口調で話し始める。

 

 

「先生の着任、領域支配機、楽園リニア、擬似神聖十文字、そして十字架───これだけの要素が揃っていて、なんでこんな所で足踏みをしている?全く、無能もここまでくると頭痛がしてくるな」

 

 

唾棄すべき邪悪と言わんばかりのその口調───それを聞いた瞬間、私の頭に一つの確信が浮かぶ。この人は、クロキ君じゃない。

 

 

「……誰なの?貴方」

「……ヘイローのない女性?いや、そんなまさか、そんなことが…?」

「っ、質問に答えて。貴方は誰なの?」

「──は、ははっ。成程、そう言うこともあり得るのか。へぇ、確かにあり得ない話じゃない。だからこの世界の俺は……全く、度し難いな」

 

 

私の質問にも答えず一人納得した様子で首を振る。

 

 

「…あぁ、質問の答えがまだでしたね。私は鏑木クロキですよ、他の誰に見えます?」

「……見えなかったから、質問したんだよ」

「成る程。ですが、他に答えようがありません。完成された作品に混入された害虫、美しい絵画を汚す薄汚い泥はねです」

「…その口調で確信したよ。君は、クロキ君じゃない」

 

 

私の断定に、彼は困惑した口ぶりで返す。

 

 

「…何を馬鹿な。鏑木クロキという存在はこうでしょう?」

「違う。クロキ君は確かに自分が大嫌いだけど、そんな、楽しそうには言わない。もっと苦しそうに、今にも倒れそうな声で自分を傷つけるんだから」

「そんなわけ────」

 

 

彼の言葉が甲高い銃声に掻き消される。

 

 

「……驚いた。なんで君がこの世界にいるんだ、シロコ?」

「───その質問を、貴方が私にするの?」

「まさか、まだ世界を渡り歩いているのか?俺を壊すための手段を模索するために?」

 

 

壊す、という言葉に彼女の表情が歪む。それじゃあ、あれも未来のクロキ君って事…?

 

 

「…壊すんじゃなくて、取り戻すために、だよ」

「理解できないな。ただ俺の事を忘れるだけで幸せに生きられるのに、ハッピーエンドを迎えたのに、その後日談で苦しむなんて間違っているよ」

「…何がハッピーエンドなのかは私が決める。それに、只の分割精神である貴方にはなんの興味もないから。私が欲しいのは、今もあの方舟で十字架に貼り付けられたあの人だけ」

「──相変わらず聞き分けのない事だ。君らしくて好感が持てるけどね」

 

 

その言葉と共に彼の周りに再びタブレットが浮遊し、頭上にヘイローらしき物体が出現する。

 

 

「端末が一つ足りない…。破壊されたのか、クラフトチェンバー0号機を使ってもこの様とは酷いと言わざるを得ないな」

「お、お父様……?」

「ん?あぁ、メルキオールか。とりあえず君はホシノと同化して…………?」

 

 

そこまで言ったあたりで言葉に詰まる。

 

 

「…なんでだ、なんでこの場に小鳥遊ホシノがいない?梔子先輩の蘇生の話をしていないのか?いや、そんな訳はない。ならなんで彼女が───」

「…まさか、梔子先輩を選ばなかったのか?俺の事を選んだのか………?」

「く、クロキ君……?」

「………は」

 

 

 

 

「はははははははははッ‼︎なんだそれ、なんだその不出来な物語は⁉︎あぁ、醜い、酷く醜い、こんなのブルーアーカイブじゃない!清く清純な、透き通る様な青春の物語じゃない‼︎‼︎‼︎」

 

 

 

その様子は、まさしく狂気だった。自分の頭を何度も殴りつけ、地団駄を踏み、空に絶叫する姿は、物語に登場する狂信者の様だった。

 

 

 

「生徒達が好きなのは先生だ、断じて鏑木クロキなんていう粗大ゴミじゃない。生徒達が信頼を寄せるのは先生だ、絶対に鏑木クロキなどという愚物じゃない。生徒達が想いを馳せるのは先生だ、先生であるべきなんだ─────正さないといけない。物語を、正しい在り方に戻さないと。こんな、こんな解釈違いな物語を許容できるわけがない」

 

 

『F:ビナー戦闘形態に移行。目標設定、十字架広場までの撤退支援』

 

 

制止していた蛇型のロボット『F:ビナー』が徐に顎を開き、その喉奥にある巨大な砲門を露出させる。

 

 

「っ、お父様!それは危険すぎます、生徒達を悪戯に傷つけることは……!」

「俺が十字架に繋がれれば全て無かったことにできる。問題はない」

「お、お父様……⁉︎」

 

 

砲門に光が集まり、巨大な光へと変貌する。

 

 

【ま、不味いです!計測するのも馬鹿らしいくらいのエネルギーが確認されています!直撃したら非常に不味いです‼︎】

「っ、みんな!とりあえずこの場から逃げるよ‼︎」

「まずはあんたが逃げねぇとだろうが!」

「っ、ネル⁉︎」

 

 

小柄な彼女が私を担ぐと、その場から立ち去るべく疾走する。しかし、そんな私達の前に幾百のドローンの大群が肩を並べる。みんな、クロキ君の姿を模したドローン達だ。

 

 

「っ、そう簡単には逃してくれねぇってか…!」

「離れて、斉射で吹き飛ばす!」

「そんな時間はありません!もうすぐ光が───‼︎」

 

 

 

極光を湛えた砲門がこちらを睨み、その光の奔流が放たれる─────まさに、その時だった。

 

 

 

「───解釈違い、ですか。私から言わせてもらえば、今の貴方の有り様のほうが余程解釈違いというものです」

 

 

 

静かな、けれども確かな怒りを秘めたその言葉の直後、ビナーの右頭部に爆発が発生し巨体が揺れる。砲門の光は軌道をずらし、遥か空へとその光の柱を伸ばす────今の、声は、確か…。

 

 

「……黒服、だと?何故、何故お前が邪魔をする?お前は、俺と同じ先生の狂信者の筈だろう?」

 

 

クロキ君を模した誰かの視線を辿ると、そこには予想通りの人物が、全く予想外のものを引き連れていた。

 

 

「最初に出会ったのが先生であれば、確かに私は先生の才覚に瞳を焼かれた事でしょう。ですが、私が最初に焼かれたのは今は眠る救世主です。一度焼けたものは、二度は焼かれないものでしょう?」

 

 

黒いスーツに黒い靄の身体、そしてその背後に控える、黒く輝く翼を備えた龍。硝煙が立ち込める大きく開いた顎を閉じると優雅な所作で長い尾を揺らすその出立は、どこかの美術館に飾られていそうな優美さを感じる。

 

 

「Balthasar…⁉︎そんな、お父様の命令なく起動するなんて……⁉︎」

「ククッ、いささか以上に苦労したとの事ですが、こうして用意した価値はあった様ですね」

「…洗礼も終えてない領域支配機を持ち出した所で、何が変わるものか」

 

 

彼のその言葉を体現する様に、ビナーの抉れた頭部が瞬く間に復元されていく。まるで傷が逆再生される様な異様な速度で修復され、物の数十秒で元の完璧な状態へと戻る。

 

 

 

「……それより、解釈違いだと?一体、俺の何が解釈違いだというんだ?俺が、俺だけが鏑木クロキだ。楽園を作る、ハッピーエンドをもたらす、物語を正す存在だ」

「笑わせないでいただきたい物ですね。貴方が自らを『鏑木クロキ』と名乗るのであれば、まずはその在り方を考えるべきでしたね………あぁ、もしかしてその在り方すら忘れてしまったのですか?」

「っ、減らず口を…‼︎」

 

 

ビナーの周囲に数えるのも億劫な程の砲門が出現し、黒服へと向けられる。

 

 

「砲撃特化型領域支配機───方舟を撃ち落とすその龍でも洗礼がなければ神秘のない只の兵器に過ぎない。所詮、今のそれは出来損ないが用意した失敗作だ、直ぐに鉄屑に変えてやる」

「…いえ、残念ですが既に貴方は負けていますよ」

「何を─────⁉︎」

 

 

黒服のその言葉を皮切りに、空中に描かれていた白線がパラパラと跡形もなく掻き消えていく。それと同時にロボットスーツの誰かも苦しそうに膝を折りくぐもった声を上げる。

 

 

「っ、なんでクラフトチェンバーの権能が……⁉︎」

「クラフトチェンバーと言えど万能の機械ではない。物質の出力には極めて高度な演算処理能力が必要となるのは、貴方も知っている事でしょう?」

「まさか、あのクラフトチェンバーの演算処理に介入したというのか⁉︎そんなことが出来るわけが……⁉︎」

「できるのですよ。貴方の作り出した最初の領域支配機であれば」

 

 

最初の領域支配機、その言葉が出た時にシッテムの箱───もとい、アロナから【先生‼︎】と声が響く。

 

 

【上空に巨大な反応があります!もしかしてあれが……!】

「上空……⁉︎」

 

 

視線を上に向けると、そこには彼女の言葉通り大きな物体が浮遊している。翼の代わりに巨大なブースターを備え付け、背中に大きな円形のレーダーを装着した灰色の龍───あれが、電子特化型領域支配機Casparだという事はわかる。

 

 

「これで、貴方はもうクラフトチェンバーを使用する事は叶わない。所謂詰み、という事です」

 

 

黒服の言葉は、確かに説得力があった。クロキ君がこれだけの生徒達を相手にできていたのはほぼ無尽蔵に戦力を供給することができていた事に起因している。未だ彼の下にはMelchiorも擬似神聖十文字も控えているが、補給がないのであれば上から圧殺できる。それだけの戦力が、今の私たちにはあった。

 

 

「────クラフトチェンバーが使えない?たったそれだけで、俺が物語を諦める理由になるわけないだろう?」

 

 

───なんて、自分の頭の中でご丁寧にフラグを立てたその矢先だった。

 

 

安っぽい金属音が聞こえると同時に、クロキ君の掌からアクセサリーが溢れる。金属のチェーンに繋がれた、真っ黒な十字架のペンダントだった。それを両の掌でしっかりと握り合わせる。

 

 

『っ、止めろ‼︎‼︎』

「っ───‼︎」

 

 

機械音声に釣られた様に未来シロコちゃんがクロキ君目掛けて引鉄を引く。

 

 

「っ、させません‼︎」

 

 

しかし、その弾丸は白龍の大きな翼で遮られる。直後、機械音声から『ダメだメル‼︎』と鋭い声が飛ぶ。

 

 

『そいつの洗礼は、君の意識を───‼︎』

「護衛ありがとうメルキオール─────さぁ、始めようか」

 

 

そんな、ひどく嬉しそうなクロキ君の声と共に、Melchiorの白い身体に変化が訪れる。

 

 

「な、なんですかこれ⁉︎お父様、お父様⁉︎」

「何も心配しなくていい。もともと君は物語を守るためだけの機械だったんだ。元に戻るだけだよ」

 

 

メルキオールの尻尾に突如、暗い虹色の様な色が体全体に張り巡らせられる様に走る。それは綺麗な白色を蝕む毒の様で、実際に苦しいのか翼や尻尾をあちこちに振り回している。

 

 

「き、消えていく───私の、意識が……⁉︎」

『タブレットだ‼︎とにかくあいつのタブレット───あいつとこの世界を繋ぐ楔を破壊しろ‼︎じゃないと………‼︎』

「───もう遅いよ。出来損ないの俺もどき」

 

 

その毒とも言うべき虹色は全身を瞬く間に全身を覆い、力無く龍が地面に倒れ込む────そして、凄絶な咆哮と共に再びその巨体を起こす。

 

 

「今度はなんなんだよちくしょう⁉︎」

「見てください!あの蛇の色も…!」

 

 

その咆哮に感化された様にビナーも、予め作られていたドローンも同じ色に変色していく。それどころか、何もない虚空から人型の物体が続々と出現し、あっという間に私たち全員を包囲する。

 

 

「この現象は……」

「あぁ、この時点だとまだ把握してきれていないのか。これは感化………詰まるところ、メルキオールの中にあった鏑木クロキの模倣AIの最も強い感情…つまり罪悪感を無機物に伝播させて従えているんだ」

「無機物に、感情を与える……⁉︎」

 

 

何それ、そんなの反則でしょ⁉︎ラスボスだってそんなインチキ能力持ってないよ⁉︎

 

 

「そのまま大人しくしていれば襲う事はない。十字架の接続が終わるまで、そこで待ってていてくれ。大丈夫、傷も記憶も思い出も、いらないものは全て無くしておくから」

 

 

そう言って踵を返すその後ろ姿に手を伸ばす─────そんな、もうだめなの?もう諦めるしか───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────うへぇ〜。なんか、ちょっと見ない間にイメチェンした?私はあの白色の姿の方が好きだったんだけどなぁ」

 

 

 

 

そんなうっすらと覆う絶望の最中にいた私達の元に、一人の呑気な声が響く。それは踵を返したクロキ君の脚を止めるには充分なインパクトを与えたのか、ゆっくりと振り返る。

 

 

 

「……そうか。この世界の君は、俺の夢を応援してくれないんだったな」

「私の憂さ晴らしのためにこんなにお人形を並べてくれるなんて気がきくじゃん。ま、そもそもはこんな気持ちにさせたクロキが悪いんだけど」

 

 

 

直後、2回の発砲と共に背後を囲んでいたモヤのような存在が吹き飛ばされ、その声の主が現れる。

 

 

 

「───来たよクロキ。やろうか、喧嘩」

 

 

 

煙を漂わせる薬莢を排出した彼女は、勝ち気な笑みでそう宣った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







戦術支援システムk.k

シロコ(テラー)の世界の領域支配機から強奪したクロキの模倣AIを改良(調教)した個体。本体が願いを叶えた結果生徒達がどうなったのかを直に確認した唯一の個体であり、数多ある世界の中で唯一常識人枠と言っていい個体。ただ留意すべきはクソボケ行為は無くなったものの根本的に女心に疎いため、女性関係についてアドバイスしても大抵碌なことにならない。


砂狼シロコ(テラー)

始まりの世界からあちこちを転々としている放浪者。時たまクロキのいない世界で先生に呼ばれては聖徒の交わりやプレナパテスを打倒している。クロキからもらった無線機が宝物で、寝る時にいつも耳元に置いている。いつか、優しい声がそこから聞こえることを願って。



空域特化型領域支配機Melchior(反転)

クロキの洗礼によって在り方を歪められてしまった白龍。流麗な白の体はもはや見る影もなく、ひたすらに自らを苛む自己嫌悪の感情を吐き出すべく暴走している。本来の彼女は夢を見ている、鏑木クロキに優しく抱かれ、髪を梳かしてもらっている夢を。


鏑木クロキ(偽物)

壊れてしまった舞台装置。クラフトチェンバーを使い世界に干渉し、物語の不純物である存在、詰まるところ鏑木クロキを殺害してまわっている。



小鳥遊ホシノ(臨戦)with梔子ユメ

どうこねくり回しても精神状態が万全で目的意識も明確な彼女に勝てるビジョンが浮かばなかった。アビドス第三章公開前の時点では鏑木クロキの横に立つのは領域支配機ではなく闇落ちした彼女だった。




Q、何が始まるんです?

A、ただの喧嘩です(勝負になるとは言っていない)








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