ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります   作:あーけろん

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閲覧、感想、御指摘、誤字脱字報告の全てに感謝を。


※後書きに一章を振り返った感想会を掲載しております。お暇でしたら一読くださいませ。



第二章 ミレニアム編
揺れるロボットと扇喜アオイ


 

 

 

────まだ朝日が上りきっていない、早朝特有の冷たい空気を取り込みそっと吐き出す。

 

 

「全く、あの人は……」

 

 

連邦生徒会の拠点から離れた場所に聳えるビルの一室。殆どのビルが暗く眠っている中、一つだけ不夜城のように煌々と輝く一室を眺めて溜息を一つ溢す。リン先輩から夜勤終わりに様子を見て来て欲しいと頼まれたが、予想通りともいうべき光景に呆れの感情しか浮かばない。

 

すぐに携帯端末を取り出してモモトークを開き「全然稼働してます」と文字を打つとものの数秒で既読が付き、それから程なく「私も向かいます。逃げ出さないように先に見張っててください」との言葉に了承の言葉を残す。

 

 

「…さて」

 

 

端末を元の場所にしまうと、件のビルのエントランスに向けて歩き出す。ちょっと前まではここら辺は治安が非常に悪く、荒れ果てていた町並みだったにも関わらず今視界に映るのは整然と整えられた綺麗な町並みだ。とてもつい最近まで戦車や戦闘ヘリが大暴れしたとは思えない。

辺りに屯している不良学生の姿もなく、自動運転のごみ収集車が疎に走り、それに搭載されたドローン達が付随して小さなゴミ一つ残さず回収している様があるだけだ。

 

 

『これでも都市整備の専門家だからね。手隙の間にでも綺麗にしておくよ』

 

 

なんて、両脇に書類の束を抱えて穏やかに笑う彼の姿が脳裏に浮かぶ。手隙にやる規模じゃない、なんて指摘はきっと彼には野暮なのだろう。

 

目当てのビル────「連邦捜査部S.C.H.A.L.E」が入っているそこのエントランスに入る。高い天井、無地だが仕立ての良いカーペット。華美とは言えず、けれども華やかな観葉植物や絵画。件の問題児が職人を連れてものの1時間程度で仕上げたとはとても思えない綺麗な内装に特に目を奪われることなく真っ先にエレベーターホールへと向かう。

 

 

「……ここね」

 

 

人の出入りを感知しすぐに開くエレベーターに乗り、『生徒の方は連邦捜査部S.C.H.A.L.Eへ。大人の方は未来展望室へ』と書かれた張り紙を全く無視し、二つしか無いボタンのうち大人の方向けの方を押し込む。すると扉が閉まり、慣れ親しんだ重力が身体に掛かるのを感じてすぐに扉が開く。

 

 

『連邦捜査部S.C.H.A.L.E分室 未来展望室』

 

 

と簡素に書かれたプレートを一瞥し、目的地の扉の前に立つ。煌々と輝く扉の窓の向こうからは軽快にキーボードか電卓を叩く音、紙に線が引かれる音が際限なく響いている。寝落ちしてしまっていた、なんて言い訳はこれで使わせない。

 

本来なら電話内線で来客を知らせ、家主に鍵を開けてもらうのが当然だが今日の所はそう言うわけにも行かない。胸ポケットに入っているマスターキーを取り出して扉に当てる。

 

『ピピッ』

 

軽快な電子音と共に赤く光っていたランプが緑色に切り替わる。それを見計らって扉を開ける。

 

 

「……驚いた。扇喜財務室長じゃないですか。こんな時間にどうしたんです?」

 

 

ビルの一階層を丸々使った大きな部屋。大量のバインダーが収められた無骨な収納棚にソファと応接机。後は作図に使うであろう巨大なライト付きの机や数えるのも億劫になる程積み上げられたハイエンドサーバーの列。そしてそんな広い部屋の中でこじんまりとした様子で電卓片手にキョトンとしているロボットを見て、皺の寄った眉間に指を当てる。

 

 

「…こんな時間に、じゃないでしょう。貴方、今が何時かわかってるの?」

「えぇ、わかってますよ。今は午前5時23分、早いところだとそろそろ現場が動き出す時間ですね」

「そういう事を言ってるんじゃないの。クロキ、いつからここは不夜城になったのかしら?」

「……あー、なるほど。そう言うことか」

 

 

そこまで言ってようやくバツが悪い笑みを浮かべる。

 

 

「でも、それを言うなら扇喜財務室長こそこんな時間に何してるんですか。駄目ですよ、可憐な女の子なんだからちゃんと睡眠を取らないと。良かったらそこの仮眠室で眠ったら如何です?」

 

 

よくもまぁ可憐なんて言葉を素面で言えるものだといっそ感心してしまうが、それ以外に言いたいことが山程にあるのでこの際無視する。

 

 

「私は今日は夜勤だから今から帰るところよ。それより、何度も言っているけど、その扇喜財務室長って呼ぶのはやめてちょうだい。堅苦しいし、長くて貴方も呼びにくいでしょう」

「別に呼びにくくはありませんよ。それに、今の私の立場で貴女達を気さくに呼ぶのはいささか問題でしょう。呼び方は大事ですよ」

「っ…!」

 

 

そう言って困った顔を浮かべる彼に苛立ってしまう。立場?今更そんなものを彼が気にするのか?

 

 

「立場と言うのはどう言うことかしら?私たちの間に、貴方は今更立場なんて言葉を用いるのかしら?」

「今だから、ですよ。騒乱罪とか諸々の罪状の適用を免除する代わりに連邦生徒会への奉仕活動に一定期間従事すること…それが私が矯正局に繋がれていない理由なんですから」

「白々しい事を言わないでちょうだい。それを言い出したのは貴方の方でしょう?こちらとしては元々貴方を逮捕するつもりなんてなかったのに…」

「けじめですよ。それに、規律は一律に作用するから規律として機能するんです。例外なんて与えたらそれこそ本末転倒だ」

「っ、あぁ言えばこういう…!」

 

 

あっけらかんと言い放つ彼に一層苛立ちの感情が募る。

どうせ彼は知らないのだ、彼の調書を取って送検に判を押したヴァルキューレ局長の葛藤も、彼の提案に渋々従ったリン先輩の苦悩も。

 

 

 

「…あまり意地悪を言わないで。私も傷つくのよ?」

 

 

その一言に彼は「…あー」と何かやってしまった事を反省するように頭を掻くと、ついで困ったように笑みを浮かべる。

 

 

「参ったな…意識しないとすぐこれだ。ごめん扇喜さん、俺の配慮が足りなかった」

 

 

そう言って席を立ち上がると目線で応接用のソファを示す。

 

 

「さ、とりあえず座って。インスタントで悪いけど、暖かいココアでも淹れるよ」

「…いただくわ」

 

 

特に反抗する事なくその言葉に促されるままソファに向かい、そこに腰掛ける。柔らかな感触と共にふわりと柑橘系の香りがするそこで息を吐くと、ついでココアの甘い香りが漂う。

 

 

「お待たせ、簡単なもので申し訳ないけど」

「別に、貴方に手作りのココアを期待なんてしてないわ」

「ははっ、それもそうだ」

 

 

お盆に二つのマグカップとクッキーの乗ったお皿を乗せてやってきた彼は、青いマグカップとクッキーを私の前に置いて反対側に黒いマグカップを置く。対面のソファに座るとおそらく珈琲だろうそれを一度口に含んで「…うん、暖かい」と言葉を溢す。

 

 

(…やっぱり、雰囲気が柔らかくなってる)

 

 

初めて会った時から彼に感じていた、どこか危うい雰囲気が薄くなり代わりに穏やかな空気感が漂っている。それに、つい先ほどの彼だったら私の言葉にただ苦笑するだけで謝ることなんてしなかったはずだ。いっそ目覚ましいほどの変化とも言える。

 

 

「……飲まないの?」

「あっ、い、いただくわ」

 

 

じっと彼の事を見ていた事に気づき、慌ててマグカップに口を付ける。

 

 

「っ、熱っ」

 

 

特に冷まさず口につけたそれはとても熱く、思わず離してしまう。その様子に彼は微笑むと「扇喜さんも意外とおっちょこちょいなんだな」と笑う。その様につい憎まれ口を叩いてしまう。

 

 

「別に、誰に対しても油断して見せるわけじゃないわ」

「…ん?それはどういう───」

「そんなことはどうでもいいでしょう。それより、どうしてあなたはこんな時間まで働いているのかしら?終業時間は12時間も前に来ているはずなのだけど?」

「終業時間は守るためじゃない、破るためにあるのさ。良く聞くだろう?タイムカードを切ってからが本番だって」

「格好つけてるつもりかしら?全然格好良くないわよ」

「……まぁ、そりゃそうか」

 

 

ばつが悪いのか、マグカップに口をつけて軽く咳払いをすると「ちょっと急ぎの仕事があってね」と話し始める。

 

 

「アビドスの再開発計画についてちょっと横槍が入ったんだ。その調整案と対策を練っていて、気がついたらこんな時間だよ」

「横槍?貴方の計画に?どこの馬の骨かしら」

「ちょ、そんな言い方しなくても…。別に、どこぞの素性が明らかになっていない相手じゃない。真っ当な企業だよ」

「真っ当な企業なら反対なんてしないでしょ。どこの連中かしら?」

「…まぁ、調べたらわかるか。セイント・ネフティス社だよ」

 

 

案外あっさりと話した会社に疑問符を浮かべる。セイント・ネフティス社は元々アビドスに根付いていた土着の企業だが、件の場所が砂に塗れた結果衰退し起死回生の一手として鉄道事業を初めたが大失敗し、現在はアビドスから手を引いた大企業────と、前にクロキが話していた事を思い出す。

 

 

「…どうしてそんな会社が?」

「ん、色々と事情はあるんだろうね。今日…じゃなくて昨日の昼か。突然やってきて色々言われたよ」

「…具体的には?」

「詳細は省くけど、要は再開発計画に一枚噛ませろって話だね。よくある事だよ」

「そんな俗物的な話、どうしてすぐに断らなかったの?」

 

 

鏑木クロキはとりわけ再開発計画に大人や企業の存在が絡む事をあまり好んでいない。開発それ自体に協力してくれる企業についてはその限りではないのだが、その開発計画の立案段階、つまるところ『楽園』の在り方に口を出されたくないのだ。

 

 

「ん、そうだな…。特にこれと言って理由があるわけじゃないよ」

「嘘。何か理由があるんでしょ」

 

 

私の断言にやや上擦った声で彼が聞き返す。

 

 

「…えっ、と。なんで嘘だと思うのか聞かせてもらっても?」

「そうね。理由は色々とあるけど……端的に言えば勘ね」

「勘……なるほど、女性の勘は恐ろしいね」

「そう言うって事は…」

「…そりゃあ、理由もなしにまとまっている再開発計画に調整なんて加えないよね」

「やっぱり」

 

 

そう言うと彼は頭を掻き、一つため息を溢す。

 

 

「どうやらネフティス側は元々カイザーと土地の権利について協議していたらしいんだ。それを横から入ってきて掻っ攫うなんて冗談じゃない、幾らかの土地はこちらに買う権利があるはずって事らしい。正当っちゃ正当な言い分だね」

「信じてるの?」

「まさか。それを言うなら都市整備部も1年前からアビドスの土地について協議してきたんだ。その間にネフティスなんて名前は出てこなかった。たとえ真実だとしても、それはカイザー側と協議するべきことでウチを介する話じゃない」

「そこまでわかっててどうして…」

 

 

それを言うと彼は苦笑して続ける。

 

 

「自らの力を過信して突っぱねるだけで物事は好転しないって事を、最近になって痛いほど理解したからね。なるべく穏便に事を済ませるための儀式ってやつさ」

 

 

そう言って笑う彼に私は呆気に取られる。

 

 

「言っておくけど、彼等にアビドスの土地を一片たりとも譲るつもりはないよ。あそこは草の根一つ、砂の一粒まで俺が所有する。そのための手段は惜しまないつもりだよ」

「…随分入れ込んでいるのね、アビドスに」

「まぁ、ね」

 

 

そう言って気恥ずかしそうにする彼の姿に、何故だか無性に神経がざわつく。

 

 

「それは、この前の報告書に上がってきた梔子ユメって人がいるから?それとも小鳥遊ホシノがいるから?」

 

 

言ってから、私は自分の言葉の失言に気づく。こんな事を聞くべきじゃないのに、なんて思っても言ってしまった事実は変わらない。

私の問いにキョトンとした後、少し迷っているのか指を顎に当てる。「うーん、言語化難しいな…」と言葉を濁すが、やがてこちらに向き直る。

 

 

「違う、と胸を張って言い切る事はできないかな。その二人が俺にとって大切な友人な事は事実だし、扇喜さんに嘘は付きたくない」

「…そ、そう」

「でも、それだけが理由じゃないんだ。都市整備部の部長として、楽園造園室の社長として、そしてなにより『楽園』を目指すロボットとして、あそこを砂まみれのままにはして置けない。これも、紛れもない俺の本音だよ」

 

 

そう言い放つ彼の言葉には一切の迷いがなく、本当にアビドスを、あんな砂しかない荒廃した土地を楽園に変えられると信じそのために全力を注いでいる。

 

───駄目だ、この光は麻薬だ。

 

この人の願いはあまりに綺麗すぎる。夜空に浮かぶ流麗な星ではなく、青空に浮かぶ燦々と輝く太陽のように、焼いて、焦げて、決して消えない痕になる。

 

 

「…狡いわ、貴方」

「えっ、今の言葉に狡い要素なんてあった…?」

「その態度がずるいのよ。さっきみたいに私に嘘はつきたくない、だなんて…。私以外にそう言う事を言ったら勘違いされるわよ」

「えぇ、何を勘違いされるんだ…?」

 

 

あいも変わらず女心の欠片も理解していない唐変木の言い分に一つため息こぼす。意識が変わったとしても、性根まではすぐに変えられないということか。

 

 

「話を戻すけど、貴方も少しは自重してちょうだいね。ただでさえ今私たちは関係各所から色々と苦言が飛んできてるんだから」

「苦言?なんで?」

「なんでって…。違法な過重労働でロボットを酷使してると言われてるからよ」

「違法な過重労働って大袈裟な。都市整備部の立ち上げの時はこんなもんじゃなかったよ?」

「貴方が分身してると噂された時のことね…。とにかく、貴方はもう少し周りと歩幅を合わせて。連邦生徒会の中にだって、貴方の事を怖がってる生徒だっているんだから」

 

 

それだけ言い放って再びココアに口を付ける。彼の働きっぷりを鑑みれば、今度連邦生徒会から完全休養日を設けるよう布告を出させないと不味いかもしれない。

 

 

「……さて、それじゃあ扇喜さんからお叱りの言葉も賜ったことだし、俺も休もうかな」

「ええ、是非そうして」

 

 

空になったマグカップを机に置くと、静かにソファから立ち上がる彼に頷く。

 

 

「扇喜さんはこれからどうするの?」

「私はもう少しここでゆっくりしてるわ。勝手に帰るから、貴方は寝てて良いのよ?」

「まさか、客人を残して寝るほど無礼じゃないつもりだよ。…そうだな、それなら雑談がてら手慰みで作ったサンクトゥムタワーの改修案でも見てもらおうか」

「手慰みでサンクトゥムタワーの改修案…?」

 

 

なんだろう、今の話し言葉の中に途方もない矛盾が込められていたように感じた。

 

 

「───でしたら、私も混ぜて頂きましょうか」 

 

 

彼が机から投影用のプロジェクターを持ち出した矢先、出入り口から凛とした声が聞こえる。どうやらようやく到着したらしいその人物の名前を呼び、そちらへ振り返る。

 

 

「お疲れ様です、リン先輩」

「えぇ、ご苦労様です───どうやらちゃんと逃さず捕まえておいてくれたみたいですね」

 

 

そう言って微笑む彼女に釣られて私も笑みを浮かべる。もっとも、件のロボットは「あれ?七神さんも来たんですね」と呑気な様子だ。

 

 

「えぇ、丁度渡しておきたいものがありましたので」

「渡しておきたいもの?」

「えぇ、本当はすぐに渡すべきものだったのですが、少々デザインに難航した様子で」

 

 

紙袋を携えて訪れた彼女はそれをクロキに手渡すと、彼はなんの葛藤もなくそれを開いて中を検める。

 

 

「…なるほど、そう言うことか」

「もしよろしければ今ここでジャケットだけでも羽織ってはどうでしょう?サイズも気になりますし」

「サイズならこちらで合わせますよ───っと」

 

 

袋から取り出した白いジャケット────ミレニアムの知性ある意匠とは別の、理性と冷徹の印象を与える私たち連邦生徒会のそれに袖を通し、彼は困ったように笑う。

 

 

「…ちょっとデザインが格好良すぎませんかね?これじゃあ服に着られてるみたいだ」

「そんなことありませんよ、よく似合ってます」

「…まぁ、七神さんがそう言うのであればそういうことにしておきましょうか」

「えぇ。是非そうしてください」

 

 

すると徐にリン先輩がクロキに手を差し出す。

 

 

「改めて、今度ともよろしくお願いしますね。クロキさん」

「えぇ、微力ながら全力を尽くしますよ」

 

 

その差し出された手を優しく握り返す。

 

 

 

「…これで私の用事の半分は終わりました」

「…?半分?」

「えぇ、半分です────それじゃあクロキさん。とりあえずそこに正座してください」

「…なんだろうこの感じ、ものすごい既視感を感じる。具体的にいうとミレニアムで」

「それは良かった、私としてもやりやすくて助かります。…さて、それではここ数日の貴方の過剰労働についてお話があります。よく聞いてくださいね」

「……あっ、はい」

 

 

 

……結局、私は淹れてもらったココアが完全に冷め、自分で淹れ直したノンカフェインのカフェオレも冷め切るまでその説教を眺めていた。もちろんロボットに同情する余地などなく、むしろ理路整然と彼を説き伏せる彼女に関心したほどだ。流石主席を務めるだけあり、キヴォトスで最も有能で、そして最もな問題児をここまで完璧に説教できるのだなと、人ごとながら思ったのだった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「────んぅ、もう朝…?」

 

 

柔らかなベッドで身を捩り、枕元に置いてある携帯端末を開く。普段の時間よりやや早い時刻を示すそれを見て一度唸る。抗いがたい二度寝の誘惑が脳裏に囁かれる────が、お腹の虫が鳴き、食欲と睡眠欲を天秤にかけた結果布団から立ち上がる。

 

この世界にやってきた時に借りた自室……ではなく、職場に併設された寝室のベッドから立ち上がる。仮眠のためにと作られたこの場所だけど、最近はあまりに居心地が良すぎて部屋を解約しようとすら思っている。

 

 

「…んー、ま、いっか」

 

 

やや焦点の合わない瞳で寝室に置かれた姿見を見やる。薄手の寝巻きがややはだけ、セミロングの髪はとっ散らかってる。本来なら最低限の着替えを済ませるべきだが、今はとりあえずお腹の虫をあやすのが先だろうと気にせず寝室の扉を開いて職場に出る。

 

 

「確かまとめて買っておいたカップラーメンがまだ……」

「駄目ですよカップラーメンばかり食べちゃ。朝ごはんなら買っておきましたから、とりあえず着替えてきてください」

「ほんと?実は飽きてて─────えっ?」

 

 

本来聞こえてはいけない声に冷や水をかけられた様に意識が覚醒する。

 

 

「おはようございます先生。今日はいつもより早いんですね」

 

 

淀みのない言葉運びとすらっとした立ち姿…それは、私の先輩にして現在の部下にあたるロボットに他ならなかった。

 

 

「く、クロキ君⁉︎ななな、なんでこっちにいるの⁉︎」

「ちょっと報告したいことがあったので書類だけ置きにきたんですよ。物音は立てていないつもりだったのですが、起こしてしまいましたかね?」

「ううん、それは全然──────っ⁉︎」

 

 

そこまで話してようやく先ほどの姿見に映った自分の姿を思い出し、慌てて胸元を両手で隠し、身体を捩る。

 

 

「だ、駄目だよ女性の寝室に入ったら!い、いくらなんでも急すぎるし、他の生徒に悪いと言うか…!」

「…?えぇ、だから仕事場にいるんですが」

「そうだったね!ごめんねこんな格好で外に出てきちゃって!」

「いえ、ここは先生の家のようなものですから気楽な格好でいいんですよ」

「そうだけどそうじゃなくてね⁉︎」

「まぁまぁ、とりあえずは着替えておいてください。その間にお湯を沸かしておきますから」

 

 

あっけらかんと言い放ち私から視線を逸らし給湯室へ向かう─────わかっていたが、このロボットには性欲がないのか?一応20代前半のうら若き女性のあられもない姿を見たはずなのだが、赤面どころか動揺するそぶりすらない。いや、ロボットなら性欲などなくて当たり前だが、目の前のロボットはハリボテなのであって然るべきなのだが…。

 

 

「…釈然としない」

 

 

とりあえず渋々寝室に戻り、備え付けられたクローゼットからいつもの制服セットを引っ張り出して手早く着替えを済ませて再び寝室から出る。この時にはもう眠気なんて消え去り、ただやるせない感情だけが残っていた。

 

 

「改めておはよう、クロキ君」

「えぇ、おはようございます先生。…なんで不満気なんです?」

「それがわからないから不満なんだよ」

「…なるほど、わからないということがわかりました」

 

 

湯気の経つケトルを持ったまま首をかしげるロボット。無知の知を学んだところで私のこの気持ちが晴れるわけでもなく、深い息を吐いて「それで」と話しかける。

 

 

「どうしてクロキ君はこんな時間にこっちにいるの?今日はミレニアムに戻る日じゃなかったっけ?」

「ちょっと急ぎの仕事ができてしまいまして、徹夜で片付けていたんですよ。ミレニアムへは午後に楽園リニアで顔を見てきて、すぐに戻ってきますよ」

「リニア?ヘリは使わないの?」

「えぇ、リニアの中で打ち合わせがあるので」

 

 

そう言っている間にも紙コップに封を切ったインスタント紅茶のバッグを落とし、湯気の経つお湯を注ぎ入れている。

 

 

「どうぞ先生。熱いから気をつけて」

「…ありがと」

 

 

手渡された紙コップを受け取り、静かに口に運ぶ。柔らかな紅茶の風味がゆっくりと口の中に広がり、ほっと一息つく。

 

 

「色々頼っちゃってる私がいうのもあれだけど、働き過ぎは身体に毒だよ?ちゃんと休まないと」

「えぇ、肝に銘じておきます」

「…絶対肝に銘じてない」

 

 

朗らかな口調で目元が細められる彼に小言を溢す。

私の職場──連邦捜査部S.C.H.A.L.Eに彼が所属してはや3ヶ月が過ぎた。アビドス砂漠での出来事、彼曰く『盛大な自殺劇』が一応の終結を迎えてからこうして過ごしている。

 

 

「まぁまぁ、とりあえずは座ってください。朝ご飯でも食べながら話しましょう」

「今度リンちゃんに告げ口して完全休養日を作るんだから」

「怖いことを言わないでください…」

 

 

彼に促されてソファに座ると、机には一通りのものが揃っている。目玉焼きの乗ったトーストに出来合いのサラダ、後は綺麗に切り添えられた苺とアロエのヨーグルト───朝からこんな豪勢なものを食べるなんて、いつから私は貴族になったのだろうか?

 

 

「ちょ、クロキ君?いつも言ってるけど、こんなに豪華にしなくて良いんだからね?」

「ほとんどコンビニで買ってきたものですから気にしないでください」

「後でお金払うから、いくら使ったのか教えてね」

「ご冗談を。私は美食研究会と一緒に食事に行って、彼女等が何度店を爆破しても笑顔で修理代金と料理代を出すんですよ?」

「それは本当に怒った方がいいと思う……じゃなくて!年長者として、何より先生として生徒に奢られるのは良くないと思う!」

「そんなこと気にしなくとも…。それに知ってますか先生?私の都市開発の予算表では100万以下の予算は端数として切り捨てるんですよ。誤差ですよ誤差」

 

 

そんなことを宣う彼に頭をかかえる。そうだった、目の前の彼は普段数十億単位のお金を動かしているんだった。

 

 

「そんな規模感の話をしないでね?…いいの?今ここで話さないと今度仮眠室に忍び込んで枕元に勝手に置いちゃうけど」

「えっ、良いんですか?」

「…えっ?」

 

 

私の言葉に彼は嬉しそうに笑う。えっ、実はまさかそんなにお金に困って────?

 

 

「じゃあ私も普段のお仕事代と称して毎晩枕元に茶封筒を置いて良いってことですよね。楽しみだなぁ、推しに貢ぐってやってみたかったんですよね」

「……うん、お願いだからやめてね」

 

 

彼ならやりかねない、というより許されたら絶対にやる確信があったためここで話を終わらせる。今日の代金は今後差し入れで分割で支払っていくとしよう。

 

 

「さ、くだらない話はそこそこに、食べましょうか」

「うん、いただきます」

 

 

彼の言葉に促されて私と二人で手を合わせて各々食べ始める。ふんわり柔らかな食パン──自分じゃあんまり買わないお高めの食パンに齧り付き、小麦の甘みを口いっぱいに感じる。

 

 

「そう言えば、どうしてクロキ君はミレニアムに行くんだっけ?またユウカに呼び出し?」

「違いますよ。明後日からトリニティに出張ですので、その報告とミレニアムの中にある急ぎの仕事を引き上げてくるんです」

「仕事を引き上げる?」

 

 

トリニティに向かうことは知っていたけれど、仕事を引き上げるとはどういうことだろうか?

 

 

「えぇ、今週からミレニアムでは部活動の査察期間とミレニアムプライスの準備に入るんです。で、私はその期間ミレニアム本校舎には立ち入れないんです」

「それは、どうして?」

「まぁ色々と紆余曲折はあるのですが…要は部活動間の公平を保つための措置ですね」

「…なるほど、そういうことね」

 

 

部活動間の公平を保つ措置、その言葉を聞いて私は一人納得する。

ミレニアムプライスという年に一度開かれるお祭。多くの部活動が1年間の研究成果を発表し大賞を目指すというその行事。工業系の学校なら何も珍しいこともない、極々良くあることだろう────けど、今のミレニアムはその輪の中に加えてはいけない例外が存在している。

 

そう、今目の前でのんびり苺を頬張っているロボットだ。

 

 

「私は前々回、前回とぶっちぎりで大賞を取っています。そのため、今年からは殿堂入りという形で審査には参加せず、特別審査員という形で招かれています」

「審査に私情が入らないように、ってことか。徹底してるね」

「えぇ、非常に好感が持てます。そんなわけで、その間はミレニアムに立ち入らないようにするんです。トリニティへ行くのもそれが遠因ですね」

「そっかそっか。…ちなみに、それは誰が言い出したの?」

「それはもちろん私ですよ。どうです、流石の気遣いでしょう」

 

 

そう言って自信気に胸を張る彼に一つため息を溢す。きっとその提案を受けた時のノアとユウカは酷い顔をしたに違いないと心の中で憐憫の意を示す。

 

 

「クロキ君、悪いことは言わないから今日はなるべく早くユウカ達に会いに行ってあげてね」

「えっ?どうしてです?」

「クロキ君がクロキと呼ばれないために、だよ」

「…なんだか今日の先生は少し言葉回しが多い気がしますね」

 

 

なんて唐変木の戯言を聞き流し、テキパキと朝食を済ませる。少し冷めてしまった紅茶を傾けると「…先生、少し真面目な話なんですが」と彼が話し始める。

 

 

「おそらく…いえ、間違いなく私がトリニティに発つあたりで貴女宛にミレニアムのとある部活から手紙が届きます」

「手紙?」

「手紙です────このキヴォトスの命運を左右する、一通の手紙が」

 

 

ロボットが身体を前傾姿勢に直し、大きく息を吐く。それは彼が至極真面目な話を始める前の合図だった。それに合わせて私も姿勢を直し、彼に向き直る。

 

 

「いつだったか、アビドス高校の生徒会室で話したことを覚えていますか。このキヴォトスに訪れる終末について、みんなに話した事を」

「…もちろん。1日だって忘れたことはないよ」

 

 

忘れられるはずもない。だって、それは目の前の彼を今も苦しめている未来なのだから。

 

 

「つまり、君の知る未来の出来事がもうすぐ始まるってこと?」

「そうです。失敗したら取り返しのつかない事象…私のいた世界では『捻れて歪んだ終着点』と呼ばれていたターニングポイントです」

「…そっか。いよいよだね」

「ですが、私の知る未来と今の状況はいささか以上に逸脱しています。私の事前知識は、この際役に立たないと思ってください」

「うん、わかってるよ。あの時君を砂漠から引っ張り上げた時から、そんなものに期待してないから」

「…流石です、先生」

 

 

そういって笑う彼に一つ頷く…と、同時に一つの疑問が浮かぶ。

 

 

「それじゃあクロキ君はなんでわざわざ自分からミレニアムに入れないようにしたの?そんな重大なことが起こるんだったら、むしろ側にいた方がいいと思うんだけど…」

「そう思うのはもっともですが、今回の場合私の存在はむしろ雑音になると思うんです」

「雑音?」

「えぇ。前に話したかもしれませんが、実は私は一度ズルをしようと思ったことがあるんですよ」

「ズル?」

「そうです。まぁ端的に言えば、先に終末の要因になる存在を回収して目覚めないようにしようとしたんですね」

「…それは、また」

 

 

クロキ君らしからぬ強行的な手段に首を傾げる。

 

 

「仰る疑問は尤もです。…ですが、私に取って彼女の覚醒は本当に死活問題だったんですよ」

「そうなの?」

「えぇ、覚醒した瞬間ほとんど詰みが確定します。ホワイトグリントと会敵した粗製リンクスみたいなものです」

「あれはどんなリンクスでも死んじゃうから…じゃなくて、そんなにやばいの?」

「激ヤバです。なので、なんとか覚醒を防ぐために手段を選ばず色々やったんですが…」

 

 

肩をすくめておどけて見せる。

 

 

 

「全くダメでした。なんの成果もなく、ただ時間と資金を浪費するだけに終わりました。私の心をへし折ったポイントの一つですね…そしてその上での仮説ですが、重大な要素が動くためには一定の要素が必要なのではないか、というのが私の結論です」

「要素、ね」

「ゲームで言えば、特定のパーティメンバーを連れないと起動しないギミックのようなものです。とにかく、そんなメンバーを集めるために私の存在はまず間違いなく邪魔になります。なのでミレニアムから一度距離を置こうと思った次第です」

「…うん。意図はわかった、それがクロキ君の考えなら私はそれを尊重するし、私もその考えは正しいと思う」

 

 

物事を動かすためには正しい順序を踏む必要があるが、しかし、彼はそれを踏み倒すだけの影響力を持ってしまっている。だから一度距離を置いて、物語が進行するのを待つという選択は間違いじゃない。

 

 

「…また大変になりそうだね」

「ですがやり遂げなければなりません。なんとしても」

「うん。頼りにしてるよクロキ君」

「えぇ、微力を尽くします」

 

 

 

穏やかな朝の一幕。それは、再びの波乱が巻き起こる嵐の前の静かさだった──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

『───まもなく、ミレニアム行きのリニアが発車いたします。ご乗車になられた方は荷物を固定し……』

 

 

聞き慣れたアナウンス…というより、俺自らが録音したそれを聞きながらエスカレーターに乗る。お弁当を買っていたら少し遅れてしまったが、なんとか間に合いそうだ。

 

 

「…お、いたいた」

 

 

ビニール袋に入った二つのお弁当とお茶のペットボトルを一瞥し、再び正面に向き直る。視界がエスカレーターから広々としたホームに開けると、そこには一人の女性が静かに佇んでいる。

 

楽園リニアが乗り入れるホームはいつも人が賑わっているのだが、ここは一般客が立ち入ることのできない貨物用のホームだ。搬入作業用のドローンが稼働しているのみで、人影は彼女しかいない。

 

 

「ごめん、待たせたかな?」

「…ん、別に待ってない」

 

 

すらりと伸びた手足に大人と見紛うほどに成熟した身体、銀色の長い髪を背中まで伸ばし物憂気な表情で佇んでいた彼女は俺の姿を目視するとふわりと花のように笑う────これが砂狼さんの未来の姿なんて信じられるだろうか?

 

 

「それにしてもよかった、ここに来るまで迷わなかった?」

「大丈夫、記憶通りだったから」

「…そっか、それならよかった。さ、そろそろ出発だから急ごうか」

「ん」

 

 

二人並んでホームを歩き、忙しなく作業するドローン達を横目に先頭車へと歩く。人は搭乗できない貨物リニアだが、その先頭車両だけは人も乗れるように設計している。運搬効率が落ちるからと渋ったのだが、万魔殿のとある誰かからの強い要望で作らざるを得なかった。可愛い後輩を連れて彼らはよく利用しているらしいが、まぁそれは今は良いだろう。

 

 

「お弁当買ってきたんだけど、シュウマイ弁当でよかった?」

「うん、ありがと」

 

 

リニアの扉の前に立ち、機械の掌を扉にかざす。認証が一瞬で終わり赤いランプから緑のランプに変わると扉が開き、そのまま車内へ足を踏み入れる。

 

 

「…うわぁ」

 

 

車内に入ってまず目に入ったのは金色のとある阿呆の肖像だった。あまりに場違いなそれに思わず頭を抱える────そう言えばこのリニアはゲヘナにも乗り入れしているやつだった…。

 

 

「これもクロキの趣味?」

「そんなわけないだろう⁉︎クソッ、最近管理を怠っていたツケがこんなところで…!」

 

 

最初は肖像に気を取られていたが、車内を見渡したらその悉くが改造されている。本来は並んでいた席のほとんどが取り払われ、車両の右半分が高そうなソファと机。左側には煌びやかなグラスが並ぶカウンター、そのさらに奥にはその阿呆の絵と子供がクレヨンで描いたであろうロボットの絵が額縁入りで飾られてる。あの絵は後で写真撮っておこう。

 

 

「あの野郎、今度あったら文句言ってやる…!」

「…まぁ、むしろ話しやすいとも言える。こういうVIP席みたいなのもあった方がいいんじゃない?」

「……まぁ、それも一理ある」

 

 

取り敢えずあの悪趣味な肖像と肖像画はスクラップにするとして、他の内装はまぁセンスを感じなくもない。素材は良さそうだし、華美さを取っ払って実用性を突き詰めれば良い感じになるとは思う。

 

 

「ん、とりあえず座って?時間は有限」

 

 

先にソファに座り、隣をポンポンと叩く彼女に逆らうこともなく隣に座る。それからすぐに扉がロックされ、車体が緩やかに動き始める。

 

 

「…まずはありがとう、忙しいのに私と会ってくれて」

「いや、それはこっちの方だよ。先生から君の話を聞いて、ずっと探していたんだ」

 

 

嘘じゃない、事実俺は彼女のことをずっと探していた。忙しい業務の合間を縫って関係各所を探り、それこそあちこちに捜索用のドローンすらばら撒いたりもした。それでも見つけられず途方に暮れていたのだが、つい三日前に机の前に手紙が置いてあったことでようやくコンタクトを取ることができた。

 

 

「色々と聞きたいことがある、って顔だね」

「それはもう、ね」

「ん、クロキならそうだと思う───でも、私と話す前に貴方は彼と話すべきだと思う。その方がきっと良い」

「彼…?」

 

 

俺の知らない存在を口にすると、徐に彼女は首に巻いてあるチョーカーを取り外してそれを机の上に置く。遠目からは気が付かなかったが、何やら機械の部品が取り付けられているようだ。

 

 

『───初めまして、この世界の鏑木クロキ。まずはこうして、銃口を突きつけ合わずに話すことができることを嬉しく思うよ』

 

 

徐に話し始めたその声に、俺は背中から嫌な汗が噴き出すのを感じる───だってそれは、多少の雑音が混じっていても聞き間違うはずもない、俺自身の声そのものだったからだ。

 

 

「こ、これは一体…⁉︎」

『俺は戦術支援デバイスk.k…まぁ名前なんて彼女が勝手につけたものだ。それ自体にそんなに意味はない』

「戦術支援、デバイス…」

『簡単に言えば領域支配機に取り付けられていたお前の自己模倣AIの成れの果てだ。今はこうして砂狼にくっついて世界のあちこちを巡っている』

 

 

いきなり飛び出た情報に脳髄を殴りつけられた錯覚に陥り、頭に手を当てる。

 

 

「領域支配機に取り付けられたAIがなんでそんな…」

『俺のことは別に大した情報じゃない。問題はどうして俺のような存在が必要となってしまったのか、だ』

「…私達は、方舟を打倒する手段を模索している。空高く私達を見下ろしている、私の大切な人を助けるために」

 

 

彼女の弱々しいその言葉に、俺はただ耳を傾けることしかできない。

 

 

『今からお前に、いずれこの世界に来る本当の敵の正体を教える。いずれ必ずお前を、「青春の物語」を壊したお前を殺しに来る化け物の存在を』

 

 

そのAIは謳う。いずれ自分を殺しに来る怪物の正体を。

 

 

「私たちにできることなら何でもする、だからお願い────十字架に縛り付けられた貴方(機械仕掛けの十字架)を助け出して、私達の元に返して欲しい」

 

 

 

 

 





鏑木クロキ

キヴォトスの全土を再開発するべく諸々活動しているロボット。ミレニアム郊外に途方もない巨大な建造資材プラント『楽園の素』を有する都市整備部の部長。圧倒的な質と量、そして速度を実現した資材供出は瞬く間に他の競合他社を薙ぎ倒し、あっという間にキヴォトス唯一の立場を得た。そのため現在のキヴォトスでは建物を作る際には都市整備部もしくは楽園造園室を通さなければ生コンひとつ入手できない。結果して悪質な業者はそもそも資材を入手することができなくなり腕の良い職人だけが残った。


巨大な資材プラント

ミレニアムにいる天才達からクラフトチェンバー0号機の存在を隠匿するために作り上げたハリボテのプラント。莫大な電力を使用するクラフトチェンバーを隠すために途方もない規模のものを作ったのだが、その管理権限を失った現在はこちらが実となっている。当事者が「何事も予備が大切なことを実感しました。やはりワンオフは良くないと思うので、自分の役割を担える予備を作ろうかなと思います」と宣ったところ、やはり先生から笑顔で説教された。


扇喜アオイ

連邦生徒会の中で一番鏑木クロキと仲が良いと自負している。事実財務室長の役職から某ロボットとの繋がりは深いが、過ごした時間の長さは七神リンよりかは少ない。連邦生徒会に職場ができてからは時たま用事もなく鏑木クロキの元を訪れ、会計処理関係を手伝っている。ミレニアムの算術使いと鉢合わせた際にはロボットの身体がびちゃびちゃになった後砕け散る。


七神リン

鏑木クロキが連邦生徒会に参加することになって一番喜んだ人物。テンションが上がって先生に長文モモトークを送ったがすぐに我に返って送信を取り消した。しかし喜んだのも束の間、某唐変木がみんなに迷惑をかけたの本当だ、だから俺を有罪にしてくれと頭を下げてきた。もちろん徹底して拒否したが、「…こんなことを頼めるのはリンだけなんだよ、お願いだ」と言われて泣く泣く書面にサインした。そのため某ロボットには当たりが強い。


先生

鏑木クロキに重たい感情を向けられているのでは?と感じている。実際向けられているのは間違いないが、その気持ちはアイドルとか偶像に向けられる憧れに極めて近い。某幻影使いから憧れは理解から最も遠い感情であることは学んでいるのでなんとかしたいが、現状を打破する方法がないため途方に暮れている。彼女の望む関係性は未だ遠い。


早瀬ユウカ

鏑木クロキの連邦生徒会の所属に最後まで徹底して拒否を表明していた少女。某ロボットの身を案じていた彼女がこれ以上の労働は本当に死んでしまうと断固反対の姿勢を貫き、すわ連邦生徒会と戦争してやる所まで行ったが某ロボットが自ら説得してなんとかことなきを得た。


明星ヒマリ

眠ると砂に飲み込まれる鏑木クロキの姿がフラッシュバックして飛び起きてしまう為あんまりよく眠れていない。焦燥した精神から自分がクロキの一番の理解者でありたいという願いを叶えるためにクロキのパソコンをハッキングし、その中にあった『㊙︎秘蔵ファイル』なるフォルダを閲覧してしまう。見た者全てを不幸にすると言わんばかり入っていた累計2TBにも及ぶ鮮明な引継書と簡潔に書かれた遺書を目撃して嘔吐する。夥しいドキュメントの山の中に入っていた一つの動画ファイルには素顔の鏑木クロキが白い顔で笑いながら自己の原罪を告解しているとか。



クラフトチェンバー0号機

完全に機能を停止している────と見せかけて現在も絶賛稼働中。二人の少女に悪夢を見せている。















※以下作者の感想です。


みなさんお久しぶりです、作者です。年が明けたかと思えばもう1月が終わり2月を迎えたことに驚きを隠せません。本当に時間が経つのはあっという間ですね。
ですが、そんな早い時間の中でも思い返すこと10ヶ月程前、第1話を書き上げて投稿ボタンを押した時の緊張は今でも手に取るように覚えています。

当時はブルーアーカイブのアニメが始まった直後という事もあり、この界隈が非常に盛り上がっていました。かく言う私もそんな熱狂に当てられた多くの人の一人であり、その熱に浮かされるまま本作の一話を書き上げました。元々私は『リコリス・リコイル』と『marvel』作品のクロスオーバーssをちまちま休みを使って書き溜めていたので、何かやりたいと思った時に真っ先にss執筆が手段として上がりました。今思えば、主人公がロボットスーツを着ているのはその時の設定の名残りなのかも知れません。
そうして興が乗るまま指を動かして一話を書き上げ、振り返って内容を推敲した時の気持ちは一つでした。

つまるところ「令和の時代にこの主人公は受け入れられるのだろうか…?」という一点です。

これは私の純粋な癖なのですが、自分はクソボケ系キャラが好きなんです。性別の差なく、年齢問わず、他人からの好意に鈍感なキャラクターが好きなんですよね。そしてそのクソボケが光属性なら尚更好みです。

ですが時は令和、アーマードコアⅥが現実のものになり女子高生もガンダムに乗る時代です。こんな、ある種使い古されたともいうべき属性が受け入れられるのかという懸念が常にありました。投稿したら一斉にバッシングを受けるのではないか、という後ろ向きな思考が一切なかったと言い切ることはできません。

それでも投稿に踏み切れたのは、やはりこのハーメルンという環境があったからだと思います。ここは良くも悪くもいろんな人の癖が絡み合っている場所ですから、受け入れられなくとも地雷作品として笑われてやろうとどこか達観した気持ちでいました。もちろん批判される恐怖自体はあったので、少しの葛藤はありましたが。

そんな気持ちで書いた作品が、今となってはお気に入りが1万を超える作品になったことは正直驚いています。嬉しさと驚きを比率で表したら3:7程度で驚きが勝つくらいには驚愕しました。特に1話を投稿してすぐに日刊1位にランキング入りした時は何かの間違いだろうと何度も目を擦ったことを覚えています。

そんな嬉しさと驚きに始まったこの作品ですが、同時に今までとは別の恐怖が産まれました。それはつまり「皆様の期待に答えられるだろうか?」という感情です。

特に印象深いのは本作第17話『切られた火蓋と先生』で明確に生徒vs主人公の構図を描写した時は「本当にやって良いのか…?」と何度も書き直したことです。既に削除してしまいましたが、代替え案として最初から機械仕掛けの十字架を起用するパターンも用意していた程、この描写を入れるべきか悩みました。

いつかの後書きで書いた通り、元々やるべきことだと決めていましたがここまであからさまに対立構造を作る必要があったのかは正直今でもわかりません。ですが、今思えばちゃんとやり切って良かったなと思っています。あくまで振り返って思うことなので、結果論だとは思いますが。

一章を振り返って思い返せば、私は非常に運が良い作者と言えるでしょう。
ハーメルンを普段お読みになっている方なら分かるかと思いますが、いまブルーアーカイブというタイトルはこのサイトの中である種覇権と呼んでいいほどの勢いを持っています。日々面白い作品が更新され、数多の作品が生まれる中で最新話を投稿すれば多くの人に見てもらえ、感想を送って貰える。これって非常に恵まれていることなんだと思います。

いつまで続けられるのかはわかりませんが、微力の及ぶ限りこの幸運に報いれるよう頑張っていきたいですね。なにより私自身鏑木クロキというキャラクターが作る物語が好きなので、続きを読むためには自分で書くしかありません。誰かに続きを書いてもらうことができないのが残念でなりません。

サイトが閉鎖した時の自分用として本作をキチンとイラストをつけた本にしてみたい気持ちもあるのですが、私の周りにはそういった創作活動をしている人はいないのでやり方が皆目見当もつきません。第一章も無事に締めたことですし、ぼちぼち調べていこうかなと思う次第です。

長々とした長文でしたが、これにて感想を終えます。拙い作品ですが、これからも応援してくれると嬉しいです。



あーけろん











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