ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります   作:あーけろん

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閲覧、感想、御指摘、誤字脱字報告の全てに感謝を。

※本編のプロットがある程度固まりましたので、今回で一旦過去編は区切りとさせていただきます。あとがき最後に予告がありますので、もしよろしければご覧ください。

※次回投稿は10月12日を予定しています。

※10月12日追記
筆者体調不良につき、次回投稿は10月19日とさせていただきます。2度も延期をしてしまい大変申し訳ございません。今後はこのようなことがないよう管理を徹底してまいります。





●嵐とロボットと起爆済みの地雷

 

 

─────それは、一件の着信から始まった。

 

 

 

「電源の復旧はまだ終わらないの⁉︎このままじゃ治安維持すらままならないじゃない!」

「再三業者に問い合わせてますが、この雨で身動きが取れないの一点張りでして…。校内にはそう言った事情に明るい生徒もおらず…」

「普段あれだけ高額な管理費を払っているのに使えない…!それで、食料庫に立て篭もった奴らの制圧はどうなったのですか!そろそろ鎮圧は完了したのですよね⁉︎」

「それが、正義実現委員会は散発的に発生している校内での暴行事件の鎮圧で統制が取れておらず、人員が集められていない状態です」

「まったく、誰も彼も好き勝手に動いて…!」

 

 

臨時に設置された災害対策室で現ティーパーティホストの悲鳴にも似た悪態が響く───無理もない。外部からの電源はおろか、校内の予備電源すら使えなくなってしまう事態なんて想像もしていなかったのだから。

 

 

「とにかく電源を復旧させないと校内放送すらできない…!誰か、直ぐにここに来れるような業者の伝手はありませんか⁉︎」

「…っ」

 

 

そんな、ある種藁にも縋るような言葉に顔が強張る────直ぐにここに来れる、インフラ関係に滅法強い知り合いなら一人心当たりがある。だが、その人物をここで挙げるわけにはいかない。

 

 

(クロキさんは離脱したとは言え元ミレニアム所属の生徒。しかも都市整備部の関係者…もし素性がバレたらまず間違いなく拘束される)

 

 

楽園造園室は先日トリニティ全区画を網羅する伝統と技術の調和を謳った路面電車の計画を公式に発表したばかりで、トリニティのほとんどの人が楽園を造園したいという企業に注目している。そんな中で支部長が正義実現委員会に拘束されたなどという風聞が立てば、ここまで築き上げてきたいろんな企業との信頼関係が一瞬にして無に帰す────それだけは避けなければならない。

 

 

「い、いませんか。そうですよね、そんな都合の良い人がいれば………」

 

 

そんな、諦めたような口振りで話しはじめた───その、刹那だった。

 

 

────ピピピッ。ピピピッ。

 

 

風と雨の音だけが鈍く響く会議室に場違いな程無機質な電子音が響く。全員がその音がどこから鳴っているのか視線を動かして……そして、私の胸ポケットを見やる。

 

 

(……まさか)

 

 

こんな緊急事態にかかってくる一本の電話。酷く嫌で、できれば当たってほしくない人物が脳裏に一人浮かぶが、どうかその人ではありませんようにと願ってそれを取り出す。

 

 

「──────すみません、少し席を外します」

 

 

軽く頭を上げ、早足に対策室の外に出る。それから今も鳴り続ける端末の通話ボタンを押し、なるべく低く不機嫌な声を演出する。

 

 

「もしもし?こんな非常事態に一体なんの用ですか?」

『あぁ、良かった。繋がらないんじゃないかとヒヤヒヤしたよ』

 

 

通話先には予想通りと言うべきか、当たってほしくなかった人物があいもかわらず穏やかな声で話している。

 

 

『いや、そんなに大事な用事ってわけじゃなくてね。ちょっと確認したいことがあっただけなんだ』

「大事な用件でないのなら日を改めていただけると嬉しいです。今立て込んでいますから」

『ごめん、それじゃあ簡潔に聞くね。今トリニティの外で対空演習とかやってる?』

「…対空演習?」

 

 

この人は一体何を言っているのだろうか?こんな人が吹き飛ぶ様な嵐の中で演習をやる様な頭のネジが外れている人などいるわけがない。第一、こんな暴風雨の中で空から何かがやってくるわけがないのだ、対空演習などする必要性がない。

 

 

「…やっていませんが、それが何か?」

『そっか、それなら良かった。後1分もしないうちに到着するから、詳しい話はトリニティ校内でやろうか』

「トリニティ校内─────ッ⁉︎クロキさん⁉︎あなたまさか…⁉︎」

『それじゃ、また後で』

 

 

短い挨拶の後切られる通話に歯噛みする。不味い、彼はここに来る気だ。トリニティの状況は一切伝えていないのにどうしてなどと取り留めのない思考が繰り返される。

 

 

「とにかく早く帰って貰わないと。幸いこの非常事態です、彼一人返すくらいなら……?」

 

 

しかし、ここで疑問が浮かぶ。後1分でこちらに来ると言っていたが、外はご覧の通り酷い嵐だ。そんな状況にも関わらず態々対空演習の有無を確認してくるなんて正気の沙汰とは思えない。規模感のおかしい彼であっても常識から外れたことはあまりしない彼だ、必ず理由があるはず。

 

 

「────?」

 

 

顎に指を当てて思考の海で考えを巡らせている矢先、叩きつける暴風雨の中に異質な音が混じるのが聞こえる。極めて機械的な、それでいて聞き馴染みのない駆動音。それと同時に対策室の中からザワザワと動揺の声が漏れ出す。

 

 

「……ま、まさか」

 

 

非常に、非常に嫌な予感がしつつも対策室の扉を開け再び中に入る。中にいる生徒は話し合うことも忘れ「何あれ、機械のお化け?」「ミレニアムの新兵器なんじゃ…⁉︎」「この嵐でも空って飛べるんだなぁ」と惚けた様子で外を見ている。

私もそれに倣って外を見る────そこには、巨大な機械仕掛けの亀とも言うべき巨体が雨で泥濘んだ校庭に着地している姿が見て取れた。

 

 

「あ、あわわ、あわわ…」

 

 

思考が許容限界を超えたのか、優雅さのカケラも感じない顔で半分泡を吹いている委員長を見て一つ嘆息する。

 

 

「委員長。先ほどおっしゃられた業者ですが、私に一人心当たりがあります」

「ハッ⁉︎桐藤さん、それは本当ですか⁉︎」

「えぇ、能力は申し分ありません。人格も優れていますし、頼って問題ないかと」

「そ、そうですか!それで、その人はいつこちらに来れるのでしょう?」

 

 

一度視線を外に着陸した機械仕掛けの亀に向ける。そこから現れた白色の雨合羽を着たロボットが校舎に入ろうとする姿を指差し、端的に告げる。

 

 

 

「おそらくあと1分もしないうちにここに来ますよ」

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

──────聖園ミカからの救援要請は心情を除いたとしてもまさに渡りに船だった。

 

 

キヴォトス内でも特に規律と伝統を重んじる『トリニティ総合学園』。荘厳な歴史に覆われた彼女らの懐に入る事はまさに至難の業、それこそ正攻法では関係業者になるまで一年はかかると見込んでいた最中のこの嵐。運はこちらに味方していると見て間違いない。

 

 

「…やだやだ。脳内で理論武装しないと人助けもできないのかね」

 

 

そんな、ある種取ってつけたような簡素な理論を頭の中で組み立てる自分に嫌気が差す。良いじゃないか、理由なんて困っている生徒を助けたいだけで。こう言うところで変に小心者だから、やはり物語の主人公はできないだろうと一人嘆息する。

 

 

「───さて、と」

 

 

暴風雨とも呼ぶべき嵐が表面装甲を撫でていく中、簡単に外からトリニティ校舎に視線を向ける。

事前の連絡の通り校内は暗闇に閉ざされており、割れている窓ガラスが散見される。雨風の音に混じっていくつかの銃声も聞こえることから内部では混乱による小規模な銃撃戦も散発しているのだろう、桐藤さんは頭を抱えているに違いない。

 

 

「とにかく電力の復旧が急務だな」

 

 

普段の恩返しに丁度良いとトリニティの校舎へと足を進ませる。こんな嵐でも、いや、嵐の中だからこそ一層の権威を感じる校舎の中に踏み入り、軽く雨合羽の雨粒を振り払っていると、規則的な足音が耳を叩く。聞き馴染みのあるその規則的な音に視線を上げると、そこには予想通りとも言うべき人物が苛立ちを隠しもせずこちらを眺めていた。

 

 

「……ようこそ、トリニティ総合学園へ」

「や、桐藤さん。さっきの電話ぶりだね」

「えぇ、そうですね」

「……なにか怒ってる?嫌な事でもあった?」

「えぇ、ありました。自分の立場も理解せず軽率に行動しているうつけ者がのうのうと挨拶をしてくる事態が」

「────えぇ、と。もしかしなくても俺の事だよね?」

「っ、当然じゃないですか!」

 

 

確認のための疑問符が余程気に食わなかったのか、普段の彼女らしからぬ様子で声を荒げる。

 

 

「どうして来てしまったんですか!よりにもよってあんな目立つような乗り物で!ご自分の立場を忘れたんですか⁉︎」

「…忘れてないよ、忘れてないからここに来たんだ」

「忘れてない⁉︎よくもまぁそんなことが言えますね!良いですか、貴方はミレニアムの────」

 

 

 

「キヴォトスにいるみんなを幸せにする。それじゃ、俺がここに来た理由には不足かな」

 

 

不躾だったが、あえて言葉を遮るように言い放つ。

 

 

「そ、そうではなく!もっと他に方法があったでしょう!誰か別の業者にお願いするとか、ドローンで遠隔でやるとか…!」

「…桐藤さん、それ本気で言ってるの?」

 

 

あまり言いたくないが、この嵐の中トリニティ総合学園という巨大な学園のインフラを復旧できるのは俺しかいない。そもそも他の業者は『借り物の奇跡』を持っていないし、ましてや企業という営利団体がトリニティに目を付けられるというリスクしかない火中の栗を拾うような愚行を犯すわけがない。

ドローンに至っては論外だ、こんな極限状態の最中、現場での調整もなしに満足に運用などできるはずもない。

結局誰か一人はここに来なければならなかった。そして来れるのが俺だけだった、ならば俺がくるのが至極当然だろう。

 

 

「だからって!貴方が来る必要はなかったじゃないですか!所詮嵐ですから後1日もあれば過ぎ去ります、それまで我慢すれば…!」

「ここで対処しないと校舎まで駄目になるよ。排水設備、結構限界が近いんだろ?」

「そ、それは…」

 

 

ここまで彼女が言葉を重ねる理由は、ひとえに俺の身を案じてくれているのだろう。そんな彼女にこんな正論を叩きつけたくない、正論はいつだって人を救わないのだから。

 

 

「…ごめん、心配してくれるのに聞いてあげられなくて」

 

 

着ていた雨合羽を脱ぎ捨て、失礼を承知で土足のまま校舎に上がり俯く彼女の頭を抱き抱える。

 

 

「く、クロキさん…⁉︎一体何を…⁉︎」

「…やっぱり、ちょっと震えてる。この雨の中暖房も使えないんだ、そりゃ冷えるよね」

「そ、それはそうですが…、いえ、そうではなく…!」

 

 

彼女が震える理由は寒さによるものだけではないだろうが、あえてそこには触れない。すぐに俺に連絡することもできたはずなのにしなかった彼女にも葛藤があったはずだ。目に見えている救いの手に手を伸ばさないのは、相当の覚悟を要する。

抱き抱えていた彼女を離し、両肩に手を置いて静かに口を開く。

 

 

「大丈夫。なんとかしてみせるよ」

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「────では、貴方が桐藤さんの言う伝手という事で間違いないのですね」

「えぇ、微力ながらお力添えさせていただきます」

 

 

トリニティ災害対策室の中。冷静さを取り戻したティパーティーの一人と何人もの正義実現委員会や生徒に囲まれた中で静かに頷く。

 

 

「それでは、失礼ながらお名前をお伺いしても?」

「楽園造園室トリニティ支部支部長の鏑木クロキです、どうぞよろしくお願いします」

「…楽園造園室、というと路面電車を敷設しようとしている、あの?」

「そうです。さすがお耳が早い」

 

 

クロキさんの同意に対策室内の空気が若干軽くなる。何処の馬の骨ともわからない業者より、風聞でも知った名前が出てきたことに安堵したのだろう。

 

 

「そうですか。このような緊急事態にもかかわらずご協力いただき深く感謝いたします。…それにしてもお若いですね、私達とそんなに歳が変わらないのでは?」

「えぇ、おそらく変わらないかと。年齢は若いですが、仕事はきっちりこなしますので」

「心強いです。…そうですね、それではまず電力の復旧をお願いしてもよろしいでしょうか?どうにも電気がつかないと色々と不便でして」

「えぇ、構いませんよ。丁度先ほど回路が繋がりましたので」

「はい?」

 

 

よく聞き取れなかったと聞き直した直後、暗く閉ざされていた校内に再び灯りが灯る。まるで手品のようにクロキさんの言葉によって復旧したそれに周囲はざわめき始める。

 

 

「えっ、あ、えぇ…?」

「状態を考えるに予備電源施設は水没しているでしょうしすぐには使い物になりません。ですので力技ではありますが他所から大型バッテリーを持ち込んでそれを繋げました」

 

 

「敷設予定の路面電車用に買い込んでいた巨大バッテリーです。一日二日程度なら持つでしょう」とあっけらかんと言い放つ彼に一つ嘆息する。あぁ、始まってしまった。

 

 

「排水設備の方ですが、こちらは水抜き用のドローンを使って対処します。ひとまずはこれで急場を凌ぎつつ、別口で排水路を確保します」

「そ、そんなことが可能なのですか?」

「とりあえず150台ほど即座に動かせます。問題ありません」

「150...」

「あぁそれと、生徒達への精神安定も兼ねて甘味の差し入れを行いたいですね。ついでお弁当の配給も」

「えっ」

「極限状態というのは精神を削りますからね。差し入れは大事でしょう」

「えっ、えっ…?」

 

 

ひどく困惑した様子の委員長が私に視線を向けるが、それに対して私は首を横に振ることしかできない。ごめんなさい、私のクロキさんはこういう時加減できない性質なんです…。

 

 

「配給に向けて色々と人員配備をしないといけませんね。それと校内の補修作業も並行して行かないとですし」

 

 

「決めなくてはいけないことは山積みです。委員長、少しお時間いただけますよね?」

「わぁ…ぁ…」

 

 

私は静かに委員長に合掌する。クロキさんは他人に仕事のペースを合わせることは絶対にしない、というよりできない。きっと委員長はこの後怒涛の時間を過ごすんだろうなと静かに目を伏せる。

 

 

「さぁ気張っていきましょう!困っている生徒は星の数ほどいますよ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

─────────2時間。尚も続く暴風の中訪れたロボットがトリニティの問題を解決し、とりあえずの落ち着きを学園が取り戻すまでに掛かった時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

「いやぁ、とりあえずなんとかなって良かったよ」

 

 

私達以外誰もいなくなった対策室の中で彼の安堵した声が響き渡る。

 

 

「えぇ、確かになんとかはなりましたね。…それでクロキさん、少しお伺いしても?」

「ん、何かあった?」

「電力を早々に復帰させたのは流石です。その後いち早く支援物資を配給したこともすごく正しいことだと思います」

「そうだね」

「……ただ、講堂を簡易的な映画館にしたのはやり過ぎだったのでは?そこまで頼まれてませんよね?」

「資材が余ってたし、投射機だって古い型のやつだよ?ちょっとしたサービスだって」

「トリニティ全部の教室にバックスクリーンを設置したのは?」

「災害時は常に新しい情報に触れないといけないからね」

「家庭科室に最新の機材を入れたのは?」

「お料理研究室の人に頼まれたからだね」

「────はぁ。良いように利用されてますね」

「いやぁ、むしろこんな緊急事態でどさくさに紛れて頼まれるなんて思わなかったからさ。感心してつい…ね」

 

 

災害については確かになんとかなった。

電力は復旧したし、排水機構だって今日と明日嵐が続いたとしても保たせられる程度には回復した。校内で散発的に発生していた暴行事件は統制を取り戻した正義実現委員会によって鎮圧され、食料庫に立てこもっていた生徒はクロキさんによる説得で事を荒立てる事なく解決した。それだけ聞けば無事終わったと安堵の息を吐くところだが、そこで終わらないのが目の前の人だ。

 

 

「ここは私の学校でもあるんです、あんまり勝手な事をやられても困りますよ」

「ごめんって。…でも、実際ちょっと気になってね。重要な部分…それこそ玄関口やよく見られる場所は手入れされてるけど、逆に目につかない場所はほとんど手付かずだった」

「…流石、めざといですね」

「本職だからね。コストパフォーマンスを考えれば悪くない手なんだけど、学舎って事を考えると…」

「クロキさん?何かよからぬ事を考えてませんか?」

「いや?悪いことは考えてないよ?」

「では何を考えていたのか教えていただいても?」

「んー、まだ秘密だね」

「秘密って…!貴方そう言って正義実現委員会の羽川さんや剣先さんとの関係も隠してましたよね⁉︎救護騎士団の蒼森さんとだってあんなに楽しそうにして…!」

 

 

何やら思案顔で考えている時の彼は大抵ろくなことを考えていないのだ、ここらできちんと確認を取っておこうと追求のために口を開く……その直前だった。

 

 

 

「あのー、ここに鏑木クロキってロボットはいますか…?」

 

 

控えめなノック音と共に静かに扉が開かれ、そこから見慣れた桃色の髪とあどけない顔付きに緊張の色を載せた幼馴染が顔を出す。

 

 

「み、ミカさん?どうしてこちらに…」

「あっ、やっぱりここに居た!」

 

 

私の姿…ではなく、私の横にいたロボットの姿を視認するとぱぁっと表情が明るくなり、軽快な足付きで教室に入ってくる。

 

 

「クロキー!来てくれてありがとー‼︎」

「ん────ちょ、聖園さん⁉︎」

 

 

軽快な足取りのままクロキさんに飛びつくと、彼はいきなり飛びつかれた勢いを殺すためにその場で2度3度くるくると回る────────はい?

 

 

「いきなり電気が復旧したし、知らないドローン達があちこちの教室で工事しているのを見てもしかしたらと思ったんだけど、本当に来てくれたんだね!」

「いや、そりゃ来るよ…困っているって言ったのは君だろう?それより離れてくれ、他の人に見られたら色々と不味いだろう」

「え〜?どうしようかな?」

「……ミカさん、とりあえず離れてください」

 

 

何やらふざけたことをやっている幼馴染を諌める為に彼に抱きついている彼女の肩に手を掛ける───さっさと離れてください。

 

 

「あ、ナギちゃん。ナギちゃんもお疲れ様、ひと段落ついたみたいだね」

「えぇ、クロキさんのお陰で。それより離れてください、クロキさんだってお疲れなんですよ?」

「そうなの?クロキ、私に抱きつかれて嫌…?」

「いやですよねクロキさん。はっきり言ってやってください」

「………ゴメンネミソノサン、チョットハナレテネ」

 

 

急にカタコト言葉を話し出すとその場にミカさんを降ろす。そうです、それで良いんです。

 

 

「むぅ、つまんないの」

「それよりミカさん、先ほどの言葉はどういう意味ですか?貴方がクロキさんを呼んだんですか?」

「そうだよ?助けてって言ったら『待ってて、すぐに行くから』って言ってくれたの。格好良かったなぁ…」

「…はぁ。考えなしもここまでくると呆れますね」

「むっ、考えなしってどういう事?」

「クロキさんはトリニティの関係者ではないんですよ。ちょっと歯車が違えば侵入者として拘束される可能性すらあったのに、どうして軽率に彼に連絡したんですか」

「だって、困ったら頼って良いって言われたもん。ナギちゃんは言われなかったの?」

「勿論言われています。ですが、それに頼らないという事だって大切じゃないですか。彼におんぶに抱っこでは対等な関係を築けるはずがありません。大体ミカさんは軽率なんです。そんなだから校舎であんな破廉恥な─────」

 

 

そこまで言ったあたりで「あの〜…」と力ない言葉と共に右手を上げたロボットが視界に映る。

 

 

「…何か?」

「いや、お話の最中非常に申し訳ないんだけどちょっと喉が渇いてね。折角だし、桐藤さんの淹れた紅茶が飲みたいなぁ、なんて……」

「……わかりました。クロキさんが私の淹れた紅茶が飲みたいというのであれば仕方ありません」

「あれ?ナギちゃん今独占欲見せつけた?」

「気のせいです。さ、ミカさんにも付いてきてもらいますよ。お話ししたい事は山ほどありますので」

「えぇ〜⁉︎」

「早く行きますよ。このままではクロキさんが干からびたロボットになってしまいます」

「ロボットは干からびないよ〜⁉︎」

 

 

嫌がる彼女の首根っこを掴み、教室の外に出る。そのまま近くの給湯室に向かうべく足を進めようとした矢先、視界に一人の生徒が映る。

 

 

「失礼、ボランティアに来たという鏑木クロキという人物はこの先の教室にいるのかな?」

「えぇ、そうですけど…」

「わかった、どうもありがとう」

 

 

簡単な挨拶もそこそこにパタパタと教室に走って行く金色の髪の毛を後ろから眺めると「ねぇ、ナギちゃん」と掴んだ首根っこから声が聞こえる。

 

 

「さっきの人、同じ学年の百合園セイアちゃんだよね。サンクトゥスの有名人」

「えぇ、その筈です。最近学校に来ていないという話でしたが…」

 

 

百合園セイア。広大なトリニティの中でも有名人であり、トリニティ三代派閥におけるサンクトゥスで現在のティーパーティーを差し置いて最も人望を集めている人物だ。

 

 

「あれだよね、確か未来予知ができるとか」

「えぇ、そんな噂話は聞きますね。ですが最近休みがちだった彼女がどうしてこんな嵐の日に限って…」

 

 

普通の生徒であれば運がなかったで済ませられる出来事だが、噂の通り未来予知ができるのであれば態々こんな嵐の中登校してくるはずがない。そうなると未来予知自体がやはり眉唾物であると考えるのが自然だが…。

 

 

「…嵐じゃないと会えない人と会う為、とか?」

「嵐じゃないと会えない人?なんですか、それは」

「いや、ごめん。私も何言ってるかわかんないや。なんとなく勘で言っただけ」

「勘って……勘?」

 

 

嵐の中でしか会えない人…普段は学校にいない人。そんな人は────。

 

 

 

「…クロキさん?」

「へっ?」

「そうです、先ほども言っていたじゃありませんか。クロキさんはどちらにいるのかと」

「それじゃあ百合園ちゃんはクロキに会う為に学校に来たって事?あの二人知り合いなの?」

「それはわかりません。ですがその可能性は十二分にあります」

「…どうするナギちゃん。それでも紅茶を淹れに行く?」

「……背に腹は代えられません。静かに後を付けますよ」

 

 

「流石ナギちゃん、話がわかるね」としたり顔で微笑む幼馴染を一瞥し、先ほど百合園さんが向かっていた教室…つまるところ対策室へと戻る。

 

 

────!

────⁉︎

 

 

「何か聞こえてこない?」

「確かに聞こえてきました。クロキさんの声でしょうか…?」

「急ごう。ちょっと良くないことが起きてるのかも」

 

 

そういうミカさんの言葉に頷き、歩む速度をやや早める。そして対策室の教室の前に辿り着き、その教室のドアにつけられた覗き窓から中の様子を二人並んでこっそりと見やる────そこには、百合園さんが鏑木さんを押し倒している光景が広がっていた。

 

 

「────この時を待ち侘びたよ。私の運命が嵐に乗ってやってくる…まるであの時の再演をしているようだ」

「運命⁉︎再演⁉︎君は何を言っているんだ⁉︎」

「なに、些細な事だよ。あの時は奪われてしまったが、今度は誰にも君を奪わせはしない」

 

 

 

「────今度こそ、私が君を幸せにしてみせるよ」

 

 

 

「「─────は?」」

 

 

 

 

 

 

 






百合園セイア
現キヴォトスにおいて唯一の個別ルート経験者。予知夢で別世界の自分が経験した出来事を追体験しているため鏑木クロキことミレニアムラクエンヅクリを運命の相手と信じて疑っていない。ティーパーティの中で一番鏑木クロキに向ける矢印が大きい。百合園セイアルートの鏑木クロキは教会の下でセイアへの愛を誓った翌日、聖母像の下で自らこめかみを撃ち抜いた遺体が伊落マリーに発見されている。


機械仕掛けの十字架
個別ルートに到達した鏑木クロキを文字通り根絶させている。その殺戮にはただの一人の例外もなく、除外規定もない。百合園セイアルートにおける伊落マリーや美園ミカルートにおける桐藤ナギサのように鏑木によって幸せになれなかった、選ばれなかった少女達が一人でも存在している限り、機械仕掛けの十字架は動き続ける。










「お久しぶりです、クロキさん。こうしてエデンフロントでお話しするのは一年振りでしょうか」


愛憎渦巻くトリニティへの訪問。それはキヴォトス動乱への引金となった。


『緊急ニュースです。本日正午過ぎ、楽園通りで大規模なテロが発生しました。本日行われていたティーパーティの会議を狙ったこの事件ですが……えっ⁉︎あ、し、失礼しました。今回のテロで死者はいなかったものの、都市整備部の鏑木クロキ氏が意識不明の重体で救護騎士団に搬送されたとの情報が入ってまいりました。繰り返します、都市整備部の鏑木クロキ氏が───」

「こんにちは、錠前サオリ。わたしはBalthasar、崇高なるお父様に作られた領域支配機の次女であり、現アリウスの生徒会長です♪」


精神的支柱を欠いたキヴォトス。そこに追い打ちをかけるようにミレニアムから正式に声明が発表される。


『ここに都市整備部および楽園造園室を解体を宣言すると共に、鏑木クロキの身柄はミレニアムで厳重に保護するものとします。今後どんな勢力であろうと外部勢力との鏑木クロキとの接触を禁じ、破るものには相応の報復処置を取らせていただきます』


ミレニアムによる宣言によってさらに混迷に陥るキヴォトス。そんな中、連邦生徒会の防衛室長によってある秘密作戦が敢行される。


「これより、ゲヘナ・アビドスによる合同作戦『要石奪取作戦』を開始します。作戦指揮はこの不知火カヤが務めます」


「ごめんねネルちゃん。私達にはクロキが必要なんだ、だからそこをどいてよ」
「おいおい、連邦生徒会様が他校の政治に首突っ込むのかよ。ならこっちだってやる事は一つだよな⁉︎」
【楽園防衛機構・型式美甘】(アーキタイプ・ミレニアム)起動確認。作戦行動を開始します』


ミレニアムでぶつかり合う最強達。それに立ち向かうのはもやしな生徒とひ弱な先生と愉快な仲間達。


「ククク、さぁ行きますよ先生‼︎いざクロキさんのもとへ‼︎」
「うぁ〜ん‼︎私たちはただ部費が欲しいだけなのに〜‼︎」
「久しぶりの肉弾戦、腕が鳴りますね」
「メルちゃん⁉︎お願いだから手加減してね⁉︎」


『ブルアカ世界に転生したのでロボットになります/第二章前編 すれ違う願い』次回より投稿開始。
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