ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります   作:あーけろん

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大変長らくお待たせいたしました。
閲覧、感想、御指摘、誤字脱字報告の全てに感謝を。






神父服を着たロボットとトリニティ

 

 

 

「────おい、おいクロキ」

「……ん。ごめん、寝てたか?」

 

 

静かに肩を揺らされる感覚に瞼を開き、同時にモニターが起動する。視界には流れる景色が一番に映り込み、ここがリニアの中だということがわかる。そうだった、確か聖園さんに連れられてトリニティに行くことになったからリニアで移動することになったんだった。

 

リニアといっても車内はラウンジのような作りで、かの万魔殿の総統が勝手に改装したものを再利用している形だ。ほんと、あの銅像の撤去が間に合ってよかった。

 

 

「別に寝てても良いけどよ、そろそろトリニティに着くぞ。色々と準備があるんじゃないのか?」

「まぁね……って、聖園さんは?」

「正面にいるだろ。よくもまぁ気持ちよさそうに寝やがって」

 

 

視線を呆れ顔の美甘から正面に向き直すと、椅子にもたれかかって寝息を立てている聖園さんの姿を捉える。

 

 

「んへへ、くろきぃ……」

「クロキだとよ。ったく、夢の中でどんな事してるのかね」

「きっと俺をボコボコにしている夢さ、そうに違いない」

「本当にそう思っておいでなら私が取る手段も簡潔になるのですが、如何でしょう?」

「…ちょっとしたジョークだよ飛鳥馬さん。だからその手に持っている鎖をしまおうか」

 

 

ハイライトの消えた瞳で極太の鎖を携えた彼女を嗜める。なんだあの太さ、象でも捕まえるのかな?あいにく今のキヴォトスには人に危害を加える野生の動物がほとんどいないから捕まえる必要はないのだが。

 

 

「にしてもよ、クロキはどう思うんだ?」

「どう思うとは?」

「このお姫様がミレニアムに単身乗り込んできた理由だよ。本当にお前に会うことだけが目的だったと思うか?」

「それは……わからないとしか言いようがないかな。正直、俺としても彼女のことはちょっと測りかねてるんだ」

「そんなこと言って、クロキさんが測れている女の子なんて一人もいないじゃありませんか。身近なメイドからの好意の大きさも知らなかった癖に」

「…なぁ美甘部長。なんだか今日の飛鳥馬さん俺に対して当たり強くない?俺何か彼女にしたかな?」

「したかしてないかで言ったら、間違いなくしたな」

「嘘だろ…全く記憶にない…」

 

 

そういえばミレニアムを出発する時から随分と機嫌が悪かった気がする。何時だ、一体俺は何をやらかしたんだ…?

 

 

「そんなことより、だ。本当に覚えはないのか?こいつこんな呑気な顔してトリニティの3トップの一人なんだろ」

「いや、それが本当にないんだよ。そもそも彼女は色々と掴みどころがないんだ」

「掴みどころがない?どういう事だ?」

「考えが読めないんだ。もう逢いたくないって拒絶されたから、てっきり俺のことが嫌いになったとばかり考えていたんだが…」

「なるほどな。おいトキ、クロキと聖園の関係について知ってることがあったら話せ」

「えっ、なんで俺に聞かないの?」

「長くなりますがよろしいですか?」

「いや、できるだけ簡潔に頼む」

「わかりました。聖園ミカさんはクロキさんが旧セミナーと敵対した時に設立した『楽園造園室トリニティ支部』の活動を支えた生徒の一人であり、不届きにも私より先にクロキさんに告白して玉砕しました」

「よし、大体わかった」

 

 

まるで見てきたかのような簡潔ながらもわかりやすい説明に思わず口が開いてしまう。なんで彼女がそんなことを知ってるんだ?あれか、あの頃からスーツに盗聴器が仕掛けられていたのか?

 

 

「詰まるところ、こいつは玉砕して傷心した最中吐き出した心にもない拒絶を真に受けたとんでもない奴ってことだな」

「はい、そうなります」

「そうか。よしクロキ、お前が悪い」

「なんでさ」

 

 

いつもなら反論しないところだが、今回の件については流石に黙ってはいられない。

 

 

「だって彼女は俺のことが嫌いって言ったんだぜ?それなのにこっちから連絡するなんて…ほら、何かのハラスメントに抵触するだろ」

「しねぇよ。なんだそのハラスメント」

「しないのか?そうなのか…?」

 

 

そう言えば才羽姉妹から借りたギャルゲーの中には拒絶された後無理やり追いかけたらそのままハッピーエンドを迎えた奴もあったな。あれは流石に意味がわからなくて頭を抱えてしまったが…。

 

 

「でも、そうなるとコイツには裏がないと見て大丈夫そうだな」

「おそらくは。多分クロキニウムが枯渇した禁断症状でミレニアムまで強行したのでしょう、同情を禁じ得ません」

「───さーてと、それじゃあ俺もそろそろ準備しようかな」

 

 

なんだか架空の物質の存在を語り出したのでそそくさと席を立ち上がり軽く身体を伸ばす。突っ込んだら負けだ、確実に何か精神的なものが削られる確信がある。

 

 

「ではお手伝いします。何か必要なものはありますか?」

「いや、大丈夫。とりあえずは着替えるだけだからさ」

「…着替え?」

 

 

頭上に疑問符を浮かべる二人を他所目に車両後方に置いておいたスーツケースに近づき、そこにかけられたカバー付きのハンガーを取り上げて中から目当てのものを取り出す。

 

 

「……おい、お前なんだその格好は」

「…そう言えばクロキさんはトリニティにいる時はいつもそんなヘンテコな格好でしたね」

「えっ。この格好そんなに変かな?俺としては結構気に入っているんだけど…」

 

 

白いミレニアムの制服から一転、ほとんど黒ずくめの服装────俗に言うところの神父服に着替えた自分は身体を広げて二人に見せるように身体を回す。

 

 

「別に変ってわけじゃねぇんだが……何というか……」

「えぇ、美甘部長の言いたいことがわかります。何というか、幼少期にお祈りをしにきた幼けな少女達の初恋を残らず掻っ攫いそうな見た目なんですよね」

「そこまでは言ってねぇよ。ただ、ちょっとな…」

「なんだそれ、つまりどういう事なんだ?」

「詰まるところ非常にエッチという事です。そんな扇情的な服を着て暗い顔してたとか御冗談でしょう?いつ襲われても文句は言えませんよ?」

「えっ、何それは…」

 

 

キヴォトスの神父服はセンシティブ判定を貰う程の服装だったのか…?いやそんなわけないだろ。

 

 

「というか、なんで神父服みたいなコスプレに着替えてるんだ。いつもの都市整備部の作業服を着れば良いじゃねぇか」

「コスプレって…これでも俺は正式な神父なんだが。だからトリニティにいる間は正装としてこれを着ているのさ」

「は?お前が本物の神父?冗談言え、お前神様なんて信じてないだろ?」

「いえ、美甘部長。クロキさんの言っている事は真実です」

「もし神様が本当にいるんだったら縊り殺してやりたい位には恨んでるけど、それでも神父にはなれるんだよ。例えばほら、多額な寄付をすればね」

「…で、なんで神父になったんだよ」

「外様の業者だと色々と不便だったからね、トリニティって排外主義みたいな風潮あるからさ」

「それで神父か…相変わらずやることが極端だなお前は」

 

 

感嘆と呆れの混ざった声色────割合でいうと2対8────の声に苦笑する。そんな益のないある種くだらない雑談に花を咲かせていると唐突にアナウンスが鳴り響く。

 

『間も無くトリニティ総合学園・第2楽園区画セントラルステーションへ到着します。降車されるお客様に置かれましてはお忘れ物の無いよう────』

「……んぅ」

「おっ、どうやら眠りのお姫様が目を覚ましたようだぜ」

「キスが必要じゃなくて安心したよ」

「クロキさん?本当に軽率な発言は控えてくださいね?」

「あっ、はい」

 

 

中々良い洒落だと思ったのだが飛鳥馬さんからの評判は頗る悪かったらしい。やはりヒマリの言う通り俺にはお笑いのセンスは無いのだろうか…?

 

 

「あれぇ…?もう着いたの…?」

「おはよう聖園さん。うん、もうすぐ着くよ」

 

 

寝起きでふにゃふにゃな様子で話す彼女に優しく語りかけると、やがて彼女も意識がはっきりしてきたのか目線に力が入る。

 

 

「うそっ⁉︎どうしよう、まだお化粧とか全然してないのに⁉︎」

「ちょ、聖園さん?別にお化粧とかしなくて良いんじゃ…」

「そう言う訳にはいかないの!ごめんねクロキ、ちょっとお化粧室借りるね‼︎」

「あっ…」

 

 

まるで弾かれたように化粧室に飛び込む彼女を半ば呆然と見送る。美甘もあまりに突然な様子に目を丸くして「おいおい、随分だな」と肩を竦める。

 

 

「あんな落ち着きのない様子でトリニティの3トップとか、本当に務まってるのか?俄には信じられねぇぜ」

「いや、でも実際彼女は優秀だった。と言うより、ティーパーティーは全員が能力面ではずば抜けてるよ。一緒に働いてきた俺ならわかる」

「そうかいそうかい…ん?ちょっと待て、ティーパーティー全員?」

「何か変なこと言ったか?」

「十分変なことだろ。なんでお前がティーパーティー全員の能力を知ってるんだ?」

「そりゃ一時期一緒に働いてたからね。懐かしい、エデンフロントの事務所で机を並べて色々と話し合ったんだよなぁ…」

「……こりゃ我らが会計殿の施策もあながち強行的とも言えないのかもな」

「ん?何か言った?」

「なんでもねぇよ馬鹿」

「痛っ」

 

 

いきなり足の甲を踏んできた彼女に困惑の視線を向けるが、当の本人は知らぬ存ぜぬでそっぽを向いてる。いきなり振られた仕事にストレスが溜まっているのだろう、無理もない。思えば彼女には色々と負荷をかけ過ぎてきた、であればフォローは必須か。

 

 

「そう言えば今度ミレニアムで体験型の室内アトラクション施設ができる…と言うより作ったんだけど、美甘が良ければ───」

「お前も一緒に来るんなら行ってやっても良いぜ」

「……はい、予定を空けておきます」

 

 

一瞬頭の中に浮かんだタスクとスケジュールの波が悲鳴をあげた気がするが、努めて無視する。1日は24時間あるんだ、なんとか出来るさ。

俺の了承に振り向いた彼女は屈託のない笑みを浮かべて「忘れんなよ?」と肘で小突いてくる。

 

 

「ちょっとそこの二人とも。イチャつくのも良いですがちょっと状況は芳しくないですよ」

「んだよトキ。状況って───なんだ?随分外が騒がしいな」

 

 

話している最中、車体が完全に停止すると同時に外の様子が変な事に気づく。

 

 

「先ほどのお転婆さんの様子がちょっと変だったのでモモトークを調べていたのですが、2時間ほど前にこんな投稿がありました」

 

 

飛鳥馬さんの見せてきたモモトークの画面には『トリニティ総合学園 ティーパーティー広報部』のアカウント名とその下に投稿された文字と写真が写っている。

 

 

『気になる彼とトリニティで打ち合わせ‼︎今からリニアに乗ります‼︎」

 

 

「…なんだ、これ」

「ネル先輩、ちょっと窓の外を見てもらって良いですか?」

「窓の外……?」

 

 

飛鳥馬さんの言葉に従って視線を窓へ向ける彼女とは対照的に俺は天井を見上げる。大体予想が付く外の光景は、できれば視界に入れたくない。

 

 

「な、なんだこの人だかりは⁉︎おいクロキ、一体なんだよこれ⁉︎」

「何も言わないでくれ、俺だって辛いんだ…」

「お前の名前や顔写真が入った団扇振ってるやつとかペンライト振り回してる奴もいるんだぞ⁉︎何やらかしたんだよお前⁉︎」

「クロキさんはトリニティではアイドル的な扱いを受けてますからね。リニアで向かうことがバレてしまえばこうなることも止むなしでしょう」

「なんだそれ、トリニティは一体どうなってるんだよ…?」

 

「あちゃー。来るとは思ってたけど思ったより集まっちゃったなぁ」

 

 

戦々恐々している美甘の声とは打って変わって呑気な声と共に化粧室の扉が開き中から聖園さんが現れる。つい先ほどまで寝起きだったとは思えないほど綺麗な顔立ちに思わず感嘆してしまうが、こちらとしてはそれを素直に褒める状況ではない。

 

 

「聖園さん、こう言った情報はSNSにアップしちゃダメだって桐藤さんから言い含められていただろ?」

「え〜?でも私特に個人名とか出してないよ?」

「匂わせ、と言う奴ですね。SNSで男の存在をアピールする高等テクニックの一つです。さすがティーパーティー、抜け目ない」

「感心してる場合か!こんな不特定多数の中の護衛任務とか冗談じゃねぇぞ!」

「…心苦しいけど警備のドローンを使うしかないか。あんまり手荒なことするのは気が引けるけど」

 

 

そう言ってタブレットを取り出してセントラルステーションの警備システムにアクセスしようとした矢先「もう大袈裟だなぁ」と朗らかに笑う。

 

 

「大丈夫だよ、トリニティにはクロキをどうこうしようとする勢力なんてないし、個人でもそれはそうだよ」

「確証がねぇだろうが。お前、クロキが怪我でも負ったら責任取れるのか?」

「クロキが傷物になったらちゃんと責任は取るよ?」

「そういう話をしてねぇだろうが。…おいクロキ、こいつ外にほっぽり出してミレニアムまで戻るぞ。危機感が無さすぎて話にならねぇ」

「流石に外交問題になるでしょ。ちょっと落ち着いてくれ」

「でもよ⁉︎」

「まぁまぁ。ここは任せてくれ」

 

 

髪の毛が逆立ちそうになっている彼女を嗜め「…さて、と」と彼女に向き直る。

 

 

「とりあえず外の人混みをどうにかしてくれないかな?其方でどうにか出来ないようならこちらで対処するけど」

「もう、クロキ一体どうしちゃったの?前もこのくらいの人だかりができた時は何事もなかったじゃん」

「前とは状況も立場も変わったんだ。…あんまり自分に無頓着でいられなくなった、と言うのが本音だけど」

「?」

「いや、迂遠な言い回しをする暇なんてなかったね。とにかく、これは話し合いじゃなくて要請と捉えてもらって良いよ」

「……ふーん。クロキ、なんか変わったね」

「変わらざるを得なかったんだ。ごめんね、失望した?」

「うぅん、そう言う冷たい感じはむしろ好きかも」

 

 

そう言って何やら思考を巡らせる彼女────その間際、リニアの外からよく通る声が響く。

 

 

「正義実現委員会だ‼︎直ちに列車から離れろ‼︎指示に従わなければその場で拘束するぞ‼︎」

 

 

車窓に視線を向けると黒色の制服に袖を通した一団が列車に近づいている人混みを制圧すべく声をあげている。

 

 

「なんだ?」

「正義実現委員会、トリニティの治安維持活動を担っている治安組織ですね。しかし随分と対応が早いと言うか…」

「……なぁんだ、もう来たんだ」

 

 

心底つまらなさそうに言葉を吐き出す彼女とほぼ同時、リニアの出入り口が開かれる音が鼓膜を叩く。それから程なく客室を繋ぐ扉が開け放たれると流麗な声が響く。

 

 

「───ごめんなさい、お迎えに上がるのが遅くなりました」

 

 

腰まで伸びた手入れの行き届いたベージュの髪に白い花をあしらったカチューシャ。キヴォトスという見目麗しい美少女が集う中でも一層美しさのパラメーターが割り振られた美貌に微笑を湛えている彼女に、俺は小さく息を吐いて彼女の名前を呼ぶ。

 

 

「久しぶりだね、桐藤さん」

「全くです、すっかり私の事を忘れてしまったのかと思いました」

「まさか、忘れるわけないじゃないですか」

「本当ですか?いつも私の事を考えて下さっていましたか?」

「いや、流石にそこまでは…」

「そうですか?それは残念です」

 

 

頰を膨らませ可愛らしく怒っている素振りを見せる彼女。見た目上は和気藹々とした談笑────だが、俺はそんな彼女の背後に控える集団、ひいてはその先頭の彼女に視線を向ける。

 

 

「羽川さんも久しぶり。ごめん、態々迎えに来てもらって」

「いえ、これくらいのことは」

 

 

言葉こそこちらに向けているが、羽川さん達正義実現委員会の一団の視線は聖園さんに向けられている────なるほど、この様子を鑑みるにやはりミレニアムへ聖園さんが単独でやってきたのは間違いないようだ。

 

事態を何となく把握したのか美甘も飛鳥馬さんも懐の得物には手をつけていない。さすがはエージェント、状況判断が早くて頼もしい限りだ。

 

 

 

「…それでミカさん。何か言いたいことはありますか?」

「えー、何が?」

「惚けないでください。先ほどミレニアムのセミナーから凄まじい抗議文が届きましたよ。いきなり他校に押しかけるなんて、一体何を考えてるんですか」

「ナギちゃんだって勝手にミレニアムに行ったじゃん。ナギちゃんは良くて私は駄目なの?」

「私は情勢を考えてのことです、貴女のような独りよがりの目的で遊びに行ったわけではありません」

 

 

まさに一触即発とも言うべき緊張感が車内に走る────これは助け舟が必要だな。

 

 

「……さて、と。お話し中のところ申し訳ないけどそろそろ移動しても良いかな?せっかくトリニティに来たんだ、仕事が山積みだよ。桐藤さんとも打ち合わせしたいことはいっぱいあるしさ」

「ごめんなさいクロキさん。ですが今は───」

「いーや、待てないね。こう見えて最近一日3時間くらいしか寝てないんだ、これ以上予定が押して睡眠時間が削られたら仕事に支障を来たす」

「えっ、ちょっとクロキさん…⁉︎」

 

 

怖い顔で聖園さんを睨んでいる彼女の両肩を掴んで押し出すように動き出す。

 

 

「あっ、ちょっとクロキ…!」

「ごめん聖園さん、ちょっと桐藤さんと内密な話があるんだ。終わったらトリニティに行くから、いつもみたいにお茶菓子を用意してもらえるかな?」

「っ、でも…!」

「…ごめんねミカ。でも今二人が話しても喧嘩にしかならないから少しでも時間を空けたほうがいいと思うんだ」

 

 

俺の提案が心底不服なのか頰を膨らませる彼女を嗜める。二人が口喧嘩を始めたらいよいよ長くなるのだ、悪いがここは分断するに限る。

 

 

「……わかった。その代わり早く戻ってきてよ」

「わかってるよ。それじゃあ後で」

「待ってくださいクロキさん!私の話はまだ…!」

「はいはい、後でちゃーんと話は聞くから」

 

 

そのまま押し出すように彼女と一緒に客室から出る。良かった、とりあえずは酷いことにはならなそうだ。でも後が怖いから、機嫌取りを考えなくちゃなぁ…。

 

 

 

 

「───ズルいよ。いつもいつもナギちゃんばっかり」

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「───全く!いつもながらミカさんの勝手な行動には頭を痛めます!クロキさんもそう思いますよね⁉︎」

「まぁまぁ、落ち着いて。ほら、そういう天真爛漫な所も彼女の魅力だろ?」

「だからと言って最近は度が過ぎています!」

 

 

ぷんぷんと効果音が聞こえてきそうな程気持ちよく怒っている彼女を嗜めながら、道路を走る車の中からトリニティの景色を────『楽園第二区画』を見やる。キヴォトスというある種荒んだ世界にも関わらず街並みはほとんど変わっておらず、当初のまま維持しているのは凄まじいことだと改めて思う。管理しているトリニティには頭が下がる。

 

 

「ミカさんもそうですが、クロキさんこそどう言うつもりですか?先ほどの二人…あれは護衛ですよね?どうしていきなり護衛をつけ始めたのですか?」

 

 

後ろを走る車に視線を向けて不満の言葉を口にする彼女に内心冷や汗を流す。あの二人、特に飛鳥馬さんに至っては平気で人のことを盗聴するんだぞ、この会話を聞かれていたらどう思われるか…。

 

 

「あー、ちょっと事情があってね」

「事情って…この前の砂漠の一件が関係しているのですか?」

「えっと、それは…」

 

 

まぁ強ち間違ってはいないのだが、直接的な関係性があるのかと問われればないと言わざるを得ない。だが都市整備部がなくなってセミナーの一員になったから護衛を付けました、なんて今の彼女に言ったら何を言い出されるかわからない。流石に軟禁されるのはもうごめんだ。

 

 

「まぁ、そんな所かな」

「…本当ですか?そもそも砂漠の件は不可解なことが多過ぎます。いきなり現れた砂上の都市と言い、突然空が夜空になったり…一体何があったのですか?」

「…悪いけど、それを俺の口から話すことはできないんだ」

 

 

クラフトチェンバー0号機、向こう側の自分、領域支配機────あの時間はあまりに刺激が強すぎる。緘口令が敷かれているのもそうだが、これ以上彼女に心労を掛けるわけにはいかない。

 

 

「…まぁ、クロキさんならそう言うでしょうね。ですが、その件について私からも話があるので」

 

 

俺の曖昧な答えに嘆息した後、なにやら意味深な言葉を残して視線を正面に向け直す。同時に見慣れた景色が車窓に流れ始める、どうやら目的地に着いたらしい。

 

つい一年ほど前は殆ど缶詰していた思い出の場所────エデン・フロント。トリニティで俺が初めて建築した大型複合施設であり、現在の「第二楽園区画』の都市運営システムを担っている重要な施設だ。

 

止まった車から軽快な足取りで降りると「私は先に事務所で紅茶を淹れてきます。後で護衛の方と一緒に来てくださいね」と足を早める彼女の後ろ姿を見送る。

空を見上げれば先ほどよりも分厚い雲が空を覆っている。これは一雨降るかもしれない。

 

 

「ここがエデン・フロントか。聞いてたよりは普通の建物だな」

「まぁね。当時の俺にはこれが精一杯だったんだよ」

「この規模で精一杯ってのも変な話だけどな…。それより、お前こそ大丈夫か?」

「?」

 

 

メイド服にスカジャンと風変わりな格好のメイドである美甘の言葉に疑問符を浮かべる。

 

 

「なんだか声に元気がない、とネル先輩はおっしゃっているんです。まさか気づいていないんですか?」

「えっ。そんなつもりは無いけど…」

「いいえ。まず間違いなく今のクロキさんは元気がありません。何があったんですか?あの女に嫌なことを言われたとか?」

「ちょちょちょ、武器を持ち出すのはやめてね。彼女とはなんにもないよ」

「…本当ですか?」

「うん─────でも、そうだな」

 

 

アサルトライフルを取り出す彼女を嗜めた後、視線を裏口から施設正面玄関へと向ける。トリニティの生徒はもちろん、他にもロボットや動物が施設の中に入っていく姿、そしてそこに浮かべている表情を見る。

 

 

「さっきリニアで聖園さんに言った言葉を思い出してたんだ。自分に無頓着じゃいられなくなった、って。それは俺が正式にセミナーの一員になったから言った言葉だったんだけど……もしかしたら、もっと早く気づくべき事だったんじゃないかって」

「えっ?何を今更?」

「遅すぎるだろ、私達が何度口酸っぱく言ってきたと思ってやがる」

「……君たち容赦ないね」

「私達に容赦がなくなったのは貴方のせいですよ、クロキさん」

 

 

至極当然のような口振りでこちらを非難する二人に肩を竦め、そのまま続ける。

 

 

「恥ずかしい話だけどさ、俺は作った施設を利用する人達の顔なんて見てこなかったんだ。利用者数とそれに伴う社会変化、それにしか興味がなかった」

「酷い話ですね」

「全く同感だ…でも、先生と話した後ならそれが悪いことばかりじゃなかった事もわかってる。言いたくないけど、俺が楽園を作る前はキヴォトスの治安は終わってたし。ただやり続けたことにも意味はあったんだ」

 

 

思考は間違っていたかもしれない。でもやり方を俺は間違えた訳じゃなかった。それは断言しても良いんじゃないだろうか。

 

 

「……つまり、クロキさんはこう言いたい訳ですか。都市整備部を残しておいた方が良かったと」

「…どうだろう。その判断は今すぐには下せないかな」

「意外ですね。否定されるものとばかり」

「もうちょっとやりようはあったと思っただけだよ。都市整備部が大きくなり過ぎたのも事実だし、俺と言う存在に首輪をつけたいセミナーの意図は理解できる。その理由もね」

 

 

都市整備部の解体は避けられなかった。だがそれを交渉材料に何かもう少し譲歩を引き出すべきだったのではないか。そんな小さなささくれのような後悔とともに、電話口での親方の激怒が胸に突き刺さる。

 

 

「…どうすんだ、お前は」

「どうもしないよ。ただ、トリニティの一件が終わったらミレニアムの大改造に注力するつもり。アビドスはちょっと後回しになるなぁ…」

 

 

決まった話を後から蒸し返すような馬鹿ではない。だからまずは自らの自由を獲得するためにミレニアムの大改造を進め、早瀬会計達セミナーに再度教えなければならないのだ、俺が誰でどこの生徒であるのかを。

 

 

「…ま、取り敢えずはこの出張から無事に帰ることからだね。護衛頼むよ、二人とも」

「おう、任せろ」

「おまかせください。貴方だけのメイドとして完璧に仕事はこなしてみせます」

 

 

力強い笑みを浮かべる二人に頷く。

ま、この二人の全力護衛を突破することができる奴なんて神秘を得た領域支配機でもなければ不可能だ。問題はないだろう。

 

 

「さ、そろそろ桐藤さんの所へ行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





Q.鏑木クロキが転生前に好きだった生徒は誰?
A.桐藤ナギサと七神リン。もっとも感情は梔子ユメの死によって文字通り洗浄されたため何の意味もない。

Q.都市整備部の解体にクロキが反対した場合どうなっていたの?
A.ミレニアム内で擬似神性十文字を司るクロキとC&C他ミレニアム主要メンバーとの全面戦争。最終的に動かないロボットが一体増える。

Q.領域支配機『Balthasar』、『Caspar』の目的は何でしょうか?
A.機械仕掛けの十字架によって洗礼を受けた領域支配機は自らに搭載された鏑木クロキの模倣AI、そこに刻まれた最も強い感情に従って行動する。『Balthasar』は『希死願望』に基づく鏑木クロキの殺害。『Caspar』は『自己否定』に基づく鏑木クロキに纏わる全ての記録の抹消。

Q.鏑木クロキが特定の誰かと幸せに添い遂げるシナリオはありますか?
A.ございます、と言うよりほとんどはハッピーエンドです。ハッピーエンドを迎え幕が降りた後に舞台裏で殺されているだけです。

Q.この朴念仁ロボットをわからせるために必要なものは何でしょう?
A.泣き顔と包丁。拳銃でも可。



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