ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります 作:あーけろん
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※最後に作者の後書きがございます、もしよろしければご一読ください。
※いつかのアンケート回収。参加してくださった皆様ありがとうございました。
───俺はね、人殺しなんだよ。
酷く土気色の、殆ど病人の様相を呈したその人は宣う。自らは咎人であり、罪人であり、極悪人であると。
───違います。貴方は、誰も殺してなんかいない。その人は不幸な事故に遭っただけです。
私はその告白を否定する。薄っぺらくて、目の前の人を小さく傷つけることしか出来ない薄紙のような綺麗事を。
───その事故が起きると知っていて、それを止める手段も持ち合わせていたのに?
───止められたとも限りません。運命は、時に残酷ですから。
───違うよ伊落さん、そこは本質じゃない。問題は、俺はその事故の存在を知っていて、それを止める手段も持っていたのに何もしなかった事だ。そうだろう?
どうだい?軽蔑しただろう?と、まるでそうして欲しいと言わんばかりの態度に私は首を横に振る。違う、だってその考えはあまりに厳しすぎる。
───それでも、私は貴方が人殺しだなんて思えません。
───…そうか。君は、俺を罰してはくれないんだね。
酷く落胆したような、けれど仕方ないと諦観の笑みを浮かべた彼は傍の仮面に手を付ける。触れれば割れてしまうほど脆い『鏑木クロキ』を守るための、誰もが知る楽園を目指す『鏑木クロキ』の鎧を。
───はい、私は貴方を罰しません。…でも。
椅子から立ち上がり、弱りきった苗木に寄り添うように正面から彼を抱き抱える。冷たい体温、弱々しい鼓動、微かに震える体躯、その全てを包み込むように優しく、けれどしっかりと包容する。
───代わりに、私は貴方を赦します。自分を赦さない貴方の代わりに、私が貴方を赦す言葉を綴ります。
自分でも突拍子もない行動だとわかっている。そこまで付き合いの長くない私に言われても不思議に思うだけかも知れない。
それでも、頑なに仮面を外さず内面を隠し続けた彼が零したたった一度の弱みを見過ごすことなんてできるわけがない。
だって、そうじゃないとあんまりにも救いが無さすぎる。みんな彼の作る世界に救われるだけで彼だけが救われないなんて、そんなの間違っている。
───俺は赦されたい訳じゃないんだ。
───そうかも知れません。それでも、です。
───良い迷惑だよ、本当に。最低だって、この人殺しって吐き捨てて貰った方がよっぽど良いのに。
───そんなこと、口が裂けたって言いません。
───あぁ、本当に。
そんな、何かも上手くいかないと言うように天を仰いだ彼は小さく溢す。
───つくづく、この世界に奇跡はないんだなぁ。
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「…それで、お前は大丈夫なのかよ?」
「なんとかね…いや、ほんと迷惑をかけたよ」
「生徒同士の喧嘩を見たら気絶する癖、まだ治ってなかったんだな」
「リニア敷設の時は毎秒気絶してたからね…」
トリニティ郊外を走る車内、その助手席で呆れ顔を隠しもしない美甘の言葉に肩をすくめて答える。自分自身悪癖だとは思っているのだが、いざその場に鉢合わせると視界がブラックアウトしてしまうのだ。幸い長い間気絶することはないのでそこまで仕事に支障はないのだが、それでも不便なことに変わりはない。
「…それで、良い加減桐藤さんは機嫌直してくれないかな?ちゃんと事情は説明したでしょ?」
「………」
バックミラー越しに後部座席で窓に肘を突き、不貞腐れたように拗ねた表情の彼女にご機嫌伺いを投げるが、返ってくる気配はまるでない。外を見ている視線が石のように固定されていて、こちらを見る気配すら感じられない。
「…ううむ、美甘部長からもなんとか言ってくれないか?」
「嫌だね。話してわかるとは思わねぇよ」
「えぇ…」
「私も同意です。というより、ほとんどの生徒は同じ反応をすると思いますよ」
「飛鳥馬さんまで…。まいったなぁ」
取り付く島もない様子の二人にため息を零し、流れる景色に意識を戻す。
都市整備部と楽園造園室が解体され、俺がセミナー所属になった為に直接他校の楽園開発に携われなくなったのは事実だ。しかし、俺がこの3年間苦楽を共にしてきた業者や職人達には今までのノウハウや技術は確かに蓄積されている。俺が外れたからと言っていきなりキヴォトス全体の再開発がストップするわけじゃない。都市整備部解体の際には全ての都市開発のノウハウを関係各社に送るのだから問題はないと思うんだけど…。
「…それで、これからトリニティに向かうのか?」
「いや、その前に教会に向かう」
「教会?」
「言ったろ?今の俺は神父だからね、所有している教会があるんだ」
トリニティで最初の楽園区画───楽園防衛機構を備えた要塞という意味では二つ目にして最後の例になった楽園、通称『楽園第2区画』にその教会はある。第二楽園区画附属中央教会なんて堅苦しい名称だが、市井の人達からは『クロキ教会』と呼ばれているごくありきたりな教会だ。トリニティで一番大きい教会なんて呼ばれているが…まぁ気のせいだろう。
「教会も建ててたのかよ、際限ねぇなお前」
「教会と言っても、ほとんど仕事場だけどね。今はトリニティの生徒に管理を任せてるんだ」
「…シスターフッドの伊落マリー、ですよね。そこの管理をしているのは」
俺の言葉にぴくりと白い羽が動き、不機嫌を隠しもしない声で桐藤さんが口を開く。
「そうだけど……意外だね。面識があったの?」
「えぇ、要注意人物としてリストに名簿がありますから」
「要注意人物?彼女が?」
「えぇ。要注意人物です」
ぶっきらぼうに、まるでそれが当然だと言わんばかりの彼女に疑問符を浮かべる。俺の知っている限り、彼女程職務に真摯であり尚且つ思いやりや常識に富んだ生徒は居ないと思うのだが…。
「…そろそろ楽園第2区画に入るよ。もう少しで着くからね」
そこに言及しようとしたが、第六感とも言うべき直感が触れてはいけないと警告を発したような気がして追求はせず、あくまで視界の説明だけにとどめる。
「これが楽園区画か?随分と古い建物が密集しているように見えるが…」
「私は前に一度来たことがありますが、他の楽園区画と比較しても随分異質ですよね。あまり楽園区画という感じがしないと言うか…」
「楽園第2区画は再整備にあたって原風景との融和が条件付けられてたからね。取り壊した旧街区の素材を外壁に流用してるんだ。だから外観は古くても中身は別物だよ」
クラフトチェンバー0号機がなければ到底不可能だったこの楽園区画は、無理難題を押して作ったものだけあって非常に思い出深い。トリニティ本校でのプレゼンを前に競合他社に拉致されて銃撃されたことで中身がバレたのも今となってはいい思い出だ……良い思い出か?
「…トリニティにとっても偉人であるクロキさんを独占するなんて、ミレニアムは何を考えているんですか。到底理解に苦しみます」
その言葉を皮切りに視線を窓から車内に戻し、鏡越しに俺の視線とぶつかる。
「今クロキさんから職責を奪うなんてリスクしかありません。彼を慕う人が多い学校ほど、ミレニアムに憎悪を募らせることになる。そうなったら最悪キヴォトスが…」
「わかってるよ、んなことは。それでもやらなきゃいけない理由があるって事だ」
「…ずるいですよ。偶々彼がミレニアムに居たばかりに」
美甘部長の強い言葉に目を伏せて、それっきり口を閉ざしてしまった桐藤さんの姿に心に鉛が落ちたような錯覚に陥る。楽園造園室で一緒に仕事をしていた時は忙しくとも楽しそうに、それこそ無邪気に笑っていた彼女の姿を思い起こせばこそ胸が痛む。
早々に都市整備部の看板を取り戻さないとな、そう意気込みを新たにするとほぼ同時。楽園区画の中心部から程近い中央公園に隣接された目的地である教会が車窓から覗く。
「…おい、なんだありゃ。あれが教会か?」
「そうだけど、変かな?」
「あの大きさは教会と言うより聖堂ではないかと。周りにも似たような建物がありますが、あれは違うのですか?」
「あそこら辺は教区といって、シスターフッドの生徒達が研修で使用する施設の密集地だよ。自分で言うのもあれだけど、中々渾身の出来だから後で見てみてね」
なにせあそこは足りない知識を総動員して一から作った教会街区なのだ、石畳の道や街灯、街を飾る街路樹や硝子細工にも意匠を凝らしている。確か昨年のキヴォトス100景にもノミネートされているから、出来栄えは保証されていると言って良い。
いずれ先生とトリニティの生徒があの街で会話してたら良いなぁという理想を詰め込んだ街並みなだけあって自信は大いにある。今度さりげなく先生を誘ってみるか。
「……おい飛鳥馬。わかってるな」
「はい、戦力分析を念入りにするよう申請は挙げておきます」
要らぬ心配をする二人を他所目に教会近くの関係者駐車場に車を止め、エンジンを切る。駐車場から見上げる教会は確かに立派だが、肝心の長がこんな体たらくでは建物に申し訳がないとも思う。やはり伊落さんを正式に長にするべきか…。
「…ここに来るのは久しぶりですね。ここに立ち入ると、シスターフッドの生徒達から嫌な顔をされますから」
「嫌な顔って……気のせいじゃない?」
「いいえ、彼女らはここを神聖な場所と捉えていますから。クロキさんの作った街の一部だと言うのに、嘆かわしい事です」
「ここだけでなく、楽園すべてが素晴らしいでしょうに」とやや呆れた口調にはこちらが困惑するしかない。ただの趣味全振りの街並みなのに、もの好きは何処にでもいるものだなぁと何処か他人事のような感想が浮かぶ。
「くくく、クロキ神父⁉︎あの、クロキ神父ですか⁉︎」
「ん、君は…」
酷く上擦った声と共に地面に物が落ちる音が鼓膜を叩き、そちらに視線を向けるとシスターと思しき生徒があわあわと興奮した様子でこちらを見ている。
「しばらくミサはお休みになられると聞いていましたが…もしかして今日から再開されるのですか⁉︎」
「いやいや、今日はちょっと野暮用でね。伊落さんは教会にいる?」
「は、はい!大聖堂にいます!よろしければご案内しましょうか⁉︎」
「いや、大丈夫…それより、ここで油を売っていたらまた歌住さんに叱られるよ?」
「へっ⁉︎お、覚えて…⁉︎」
「さ、早く行ったほうが良いよ。お友達にもよろしくね」
地面に落とした教材を拾ってあげると顔を真っ赤にし、「し、失礼します〜!」と風のように立ち去った彼女の後ろ姿に手を振る。
「転ばないようにね〜」と軽口も添えると、別に良いのに態々振り向いてペコペコと頭を下げる姿に苦笑する。
「…ふぅ、怖がらせちゃった。悪い事したかな」
前にトリニティ本校で会った時はもう少し気さくに接してくれたのだが、俺も立場が出来てしまってそうもいかなくなってしまったのだろう。気を使わせてしまって申し訳ない、なんて小さな罪悪感が心に響く。
「何処がだよ、お前目ん玉ついてんのか」
「落ち着いてください美甘さん、気持ちは重々分かりますが彼はそう言う人間です」
「クロキさん、誰にでもああ言うことするのは止めた方が良いとあれ程…」
「えぇ…」
彼女達は今時の女子学生をなんと思っているのだろうか。
歌住さんという上司と仲の良い人なんて立場的には上司となんら変わらないだろう。あれこれ恋愛的に考えるのは女子高生的には微笑ましいが、勘違いされる方はたまったものではないだろう。
「彼女はシスターフッドの生徒で、態々挨拶に来てくれただけだよ。ほら、俺って歌住さんと仲が良いしね」
「ただの挨拶でどうして頰を赤らめると…?」
「小走りで来てくれたんでしょ。職務に忠実な良い子なんだよ彼女、この前会った時は───」
「いや、クロキ、お前はもうしゃべるな。これ以上自分から株を下げる必要はねぇ」
「なんでさ」
至極当然の疑問を投げ掛けるが、横に佇む飛鳥馬さんに肩を掴まれて静かに首を横に振られる。
「それがわからないからクロキさんと呼ばれるんです。そろそろ学習しましょうね?」
「り、理不尽すぎる…」
あまりに理不尽な物言いにがっくりと肩を落とし、反論のために再び口を開こうとしたが、なぜか脳裏に大きなバッテン印を作る先生の姿を幻視して留まる。まぁあれだ、ここで食い下がるのも大人気ないという物だろう。
「…さ、さぁ。気を取り直して教会に向かおうか」と、ややぎこちない動作で冷たい視線の3人の前を先導する。ナノミリ単位で調整しているはずのスーツがややぎこちないのはきっと気のせいにちがいない。
「ミレニアムとはまた違った美しさですね、ここは」
石煉瓦で組まれた街路を先導しつつ教区を歩くと感嘆したように飛鳥馬さんが声をあげる。
「石煉瓦で組んでるって割には足の突っかかりがないな。どう言う仕組みなんだ?」
「仕組みっていうほどの物じゃないよ。ちょっと特殊な素材を使ってるだけ」
「特殊な素材?」
「そうそう、ミレニアムでも開示してない特殊な素材なんだよ。クラフトチェンバーを使った特殊な成分配合で─────あ」
「……ほう?ミレニアムでも開示してない特殊な素材を他所様の学校で惜しみもなく使ってるんだな?」
ピキピキと額に血管を浮かび上がらせている美甘部長から全力で目を逸らす。しまった、ついいらぬ事をはなしてしまった。
「…ったく。今に始まった事じゃないけどよ、お前って本当に秘密主義だよな」
「そ、それは……」
ため息を溢す美甘に言葉が詰まる。
なにも、俺は秘密を打ち明ける事を躊躇しているわけではない。ただ秘密にしているということはそれ相応の危険性、つまるところ打ち明けたが故に巻き込んでしまう事を恐れているのだ。
わかりやすいもので言えば各種擬似神性十文字の隠し場所や電磁砲や大陸間迫撃砲と言った学校間の軍事バランスを容易に覆しかねない超兵器の存在もそうだし、他にもゴニョゴニョとしか言いようがないものをごまんと抱えているんだ。それを「打ち明けます」なんて言うのは、寧ろ不親切だと思う。
「ごめんネル、でも俺は…」
「いいよ別に。けど、こっちとしても聞きたいことはガンガン聞いていくからな。共有不足で地雷を踏み抜きたくねぇし」
「お、お手柔らかに頼むよ」
「お前の態度次第だな」
なんて豪快に笑う彼女に冷や汗を掻きつつ、石煉瓦の道を抜けて目的の教会まで辿り着く。大きな教会の入り口の前にある広場には幼学年の生徒達がボールを蹴っていたり絵本を読んでいたりと思い思いの時間を過ごしているが、誰か目敏い一人が「あ‼︎」と驚いたような声と共にこちらを指差すとわらわらとこちらに寄ってくる。
「あ、クロキ神父だ!」
「こんにちは〜!」
「こんにちは!」
「今日は教会で紙芝居を読んでくれるの?」
「この前の悪代官ロボットがどんな痛い目に遭うのか楽しみにしてるのに〜!」
ちみっこい生命体がキャッキャっと群れてくるのを「ごめんね〜、今日は仕事なんだ」といなしながら教会の入り口に向かう。
「悪代官ロボット…?私の知ってる童謡にそんなものがでてくるものはありませんでしたが…」
「無駄です桐藤様、どーせクロキさんのオリジナル脚本ですよ。悪代官の名前はクローキとかそんなんでしょう」
「おいおいトキ、いくらこいつがクソボケとは言えこんなちっちゃい子達にそんな拗れた紙芝居読ませないだろ」
「…アハハ」
タイトルは『未来は誰のものでもない──先生奮闘記──』。
未来を見ることのできる鏡を手に入れた悪代官クローキが好き勝手悪事を働き、それを止めるために心優しい先生が生徒達を引き連れて立ち向かう熱い物語なのだ。この前の第2部で鏡を壊し悪代官クローキを捕まえたので、これから凄惨な仕返しを描写するところで止まっている。諸々を終えたら必ず完結させるので子供達には今しばらく待っていて欲しいところだ。
頭の中でどうやって悪代官クローキに罪を償わせようかと思案しようとした所で教会の戸をくぐり、中に入る。
入り口から奥の教壇に伸びる汚れひとつないカーペット、それを中心に左右に伸びるマホガニー製の椅子が連なる。視線を左右上下に向ければ天使が模られた流麗なステンドグラスが鈍色の空でなお輝き教会内を照らす。
「…荘厳ですね」
ぼそりと呟く飛鳥馬さんに「そうだね」と軽口を叩く。確かになんど見てもこの光景には圧倒される。まるで別世界に来たようだと、見当違いな感想すら浮かんでくるほどだ。
「作ったのは貴方でしょうに」
「それはそうなんだけどね…」
ジト目でこちらを諌める視線に苦笑で返し、視線を正面に向き直す。まっすぐ伸びたカーペットの先にある教壇。その奥に掘られた女神と天使の彫刻を飾り立てるパイプオルガンの煌めく配管、そして一人のシスターが静かに膝を降り祈る姿が映る。
【私は貴方を赦します。自分を赦さない貴方の代わりに、私が貴方を赦す言葉を綴ります】
「……ッ」
その姿に、小さくない痛みが胸の奥に生じる。
誰もいない深夜、竣工式を明日に控えた封鎖中のこの教会で吐露した懺悔を、梔子先輩を殺した自分を呪う呪詛を聞かれてしまった彼女。今回のトリニティへの訪問は、彼女に会うことも目的の一つだった。
「…ごめんね、待たせちゃった」
小さく、側にいる3人にも聞こえないような極小さい声で呟く。モモトークで伝えることも出来たが、それではあまりに無機質すぎると直接ここに足を運んだ。
そんな俺の言葉に反応したように祈りを終えた少女は静かに立ち上がり、振り返ってこちらを見やる。
「お待ちしておりました、クロキ神父。そしてお久しぶりです」
そういって慈しむように微笑む彼女に、伊落マリーに俺は意を決したように口を開く。
「久しぶり、伊落さん。少し今良いかな?」
─────────────────────────────
────久しぶりに出会った彼は、珍しいことに客人を連れてこの教会にやってきた。
「お久しぶりです伊落さん。相変わらず職務に精がでますね」
「桐藤様…?珍しい、今日はクロキ神父とご一緒なのですね」
「えぇ。少し用事がありまして」
そういって半歩クロキ神父に近づく彼女にわずかに心が軋むが、にこりと微笑む。いけません、この感情は悪だと自分で決めたではありませんか。
「そちらのお二人は…?見たところトリニティの生徒ではないようですが」
「彼女達はミレニアムの生徒で、俺の護衛だよ」
「美甘ネルだ。ま、あんまり関わりはないと思うがよろしくな」
「飛鳥馬トキです。……ふぅむ」
「な、なんですか?」
挨拶もそこそこに冷たいが精巧な人形のような印象の彼女が私の周りをふんふんと回り、まるで物色するようにしげしげと視線を送ってくる。
「…匂いますね」
「に、匂う?」
「えぇ、とても匂います。憎きライバル梔子某から感じ取ったプレッシャーと同じ…貴女、クロキさんのことが好きですね」
「え、えっ⁉︎」
カッと目を見開いた後、とんでもない事を宣う彼女に顔どころか耳の先まで急激に熱を持つ感覚を覚える。私がクロキ神父のことが好きだなんて、そんな…⁉︎
「ちょっと飛鳥馬さん⁉︎伊落さんになんてこと言ってるのかな⁉︎」
「間違いありません。私のセンサーはビンビンに警鐘を鳴らしていますよ」
「そのセンサー壊れてるから修理に出しといてもらえるかな⁉︎」
「む、心外です。私のセンサーは一分の狂いもありません」
胸を張る彼女に対しクロキ神父は「そう言う問題じゃなくてだね…!」と頭を抱えている。その姿に普段のクロキさんとは違う、何処か違和感を覚えて顔の熱が急になくなっていく。
「あぁもう良いや。とにかく3人とも、悪いけど一度席を外してもらえるかな。ちょっと大事な話があるんだ」
「お断りします」
「嫌だね」
「嫌です」
「なんでさ!」
息のあったコントのような拒絶にクロキ神父の声が教会内に響き渡る。
「私たちは護衛だぞ?そうそう簡単に持ち場を離れられるか」
「同感です、護衛の仕事を甘く見ないでください」
「私はトリニティの長として対外校の役員を監視する義務がありますから」
「みんなそれらしい理由を挙げてくれる…!」
「なんでこんな時は連帯感があるんだ…!」と頭を抱える彼に近づき、「あの、私は別に大丈夫ですよ?」と助け舟を出すが、彼は首を横に振るだけだ。
「…大事な話なんだ、そんなに時間は取らないから」
「大事な話って、おいお前。さっきの話は───」
「──頼む、この通りだ」
腰を90°曲げた綺麗な姿勢に、3人が息を飲む。
「…チッ、おい行くぞ」
「部長、ですが…」
「このままじゃこいつ土下座までしかねないだろうが。あたしはな、クロキが頭を下げる姿が大嫌いなんだよ」
「……終わったら呼んでくださいね、クロキさん」
不服極まりない様子だがそれでも了承したのか、メイド服を着た二人が入り口に向かう。
「……私も外で待っていますから」
その二人の後を追うように桐藤様も入り口に向かう。その間際鋭い視線が私に向けられるが、それも一瞬ですぐに入り口に足を進める。
「…それじゃあ伊落さん。ちょっといいかな?」
「えっ、あ、はい」
広い教会で私と二人しか居なくなった教会で彼は近くの椅子を指差し、そこに座って横を手で叩く。あれ、確かその場所は……。
「覚えてる?今から一年前、俺がここで自分勝手に吐き出した事を」
「…はい」
どこか懐かしむように話す彼の雰囲気に益々違和感が募る。会うたびに焦燥し、やつれていった彼が、まるで蝋燭が消える間際に眩く輝くような危うさが無くなっている────私がどれだけ言葉を尽くしてもどうしようもなかったのに。
「あの時は本当に驚いたよ、いきなり抱きしめられたんだからね。シスターなんだから、もっと身体は大切にしないと駄目だよ?」
「あ、あれは私でもどうかしてたと言いますか…!」
揶揄うような口調の彼に顔が赤くなる。たまに彼はこちらの気持ちを知っているのかいないのか、こう言った悪ふざけをしてくるのだからタチが悪い。
それでもあの時抱きしめたことを後悔しているかと問われれば、間違いなくしていないと答えるだろう。それほどまでに、あの時の彼は危うかったのだ。
「あの時、俺は君に酷い事を言ったよね。今更かもしれないけど、本当にごめん」
「い、良いんです。クロキ神父も、その、余裕が無かったんだと思いますし」
「…そうだね。あの時は、本当に目先のことでいっぱいいっぱいだった。誰かの善意を素直に受け取る器量すら無かった」
「いや、本当に恥ずかしい限りだよ」と頰を掻く姿に、私は焦燥を募らせる。なら、今の貴方はどうしてそんなに落ち着いているの?なんて疑問が胸中を埋め尽くす。
そんな私の疑問を払拭する為に、彼は口を再び開く。
「今日は謝罪と、感謝を伝えに来たんだ。意図していなかったとは言え、君には、マリーには随分と重たい物を背負わせてしまっていたから」
「お、重たい物って…」
あっけらかんと、まるで一つしかないと言わんばかりの口調で続ける。
「俺が梔子先輩を、人を殺したって事を懺悔したことだよ。君に、生徒に伝えて良い事じゃなかった」
「……えっ」
口から意図せず言葉が漏れる。
「詳しいことは話せないんだけど…うん、自分でようやく納得できたんだ。落とし所を見つけたと言うか、ぶん殴られて目が覚めたと言うか…」
清々しいと、まるで過去の思い出話を語るような気恥ずかしそうに語るその口調に、私はただ圧倒されている。
────伊落さん、こんな事を君がする必要はないんだよ。
夜、無理にでも時間を作って毎日彼と通話した。帰ってきたのはやんわりとした拒絶だった。
「本当はすぐにでもモモトークで話すべきだったんだけど、これは直接会って話をした方がいいと思ったんだ」
高い天井を見上げ語る姿は本当に憑き物が落ちたように晴々としていて、つい一年前の土気色の病人のような仕草はまるで感じられない。
─────ごめん伊落さん。こんな事を君に頼んでしまって、本当に申し訳ない。
少しでも彼の助けになる為にこの教会の管理を無理にでも請け負った。彼からは感謝ではなく深い謝罪を受け取っただけだった。
「誰かに話しても良いと言ったのに、君は誰にも言わなかったね。本当にすごいと思うよ。これだけ大きな秘密を誰にも話さないなんて、誰にでもできることじゃない。本当に尊敬するよ」
そういって手放しで褒める彼に、私は顔を青ざめさせることしかできない。だって私は、私だけがクロキさんの本当の秘密を知っている事に密かに優越感を感じていたのだから。なんて不道徳、なんて不義理、天罰が降ったとしても文句は言えないだけの咎人だ。
「とにかく、本当にマリーには感謝しかないよ。今まで一人で背負ってくれて、本当にありがとう。でも、俺はもう大丈夫───」
「……れなんですか」
それでも、たとえどうしようもない咎人だとしても。
「…マリー?」
「…誰なんですか」
彼はどうあっても赦されてはくれない。そう思っていたから、赦されてくれないのなら、せめてその罪は私だけが一緒に背負って行きたいと願っていたのに。
「誰なんですか、貴方に赦しを与えたのは」
「……赦し、か。そうだな、色々な要素は重なったんだけど、強いてMVPを言うなら───」
「先生、かな。あの人が居なかったら、きっと俺はこの世界にもう生きていないから」
頰を掻いて恥ずかしそうに語らう彼に、私は目を細めて微笑む。
「───そうですか。今度、その恩人を紹介してくださいね」
鏑木クロキ
過去の行いは絶対に帰ってくることを身を持って証明し続けているロボット。因果応報とはこのこと。モモトークで伝えた所で結果は一緒なので、結局は軽率に懺悔した独り言をよりによってキヴォトスでも5本の指に入る慈愛と責任感あふれる伊落マリーに聞かれたのが悪い。つまりはロボットが悪い。
伊落マリー
トリニティを襲った大雨から学舎を救ったロボットがいきなり神父になったためシスターフッドから監視員として派遣された哀れな少女。キヴォトスの幸福を願う完璧超人の姿を見て尊敬の念を募らせるが、偶然特大級の地雷を踏み抜いて無事真っ黒コゲになってしまった。個別ルートでは誰もいない教会で二人だけの幸せな結婚式を挙げる。なおその一週間後鏑木クロキは行方不明となり、二度と二人が会うことはない。
鏑木クロキのゴニョゴニョ
臨戦形態とは別の決戦形態をはじめとしたとても人様に向けてはならない兵器群を始め、特定の特記戦力の生徒用にチューニングを施した対色彩兵装『アーキタイプシリーズ』など。領域支配機と楽園防衛機構による終末への対抗を画策する前、超兵器を用いて色彩を打倒しようと画策していた初期段階の産業廃棄物。下手に廃棄することもできないため各所に隠蔽されている。
桐藤ナギサの要注意リスト
・百合園セイア
・聖園ミカ
・歌住サクラコ
・蒼森ミネ
・羽川ハスミ
・伊落マリー
・浦和ハナコ(赤字)
・阿慈谷ヒフミ(横線が引かれている)
・下江コハル
Q.このポンコツロボット本当にギャルゲーやったの?
A.終始頭に疑問符を浮かべながらクリアしました。感想は「女の子の心理がちょっと良くわからなかったけど、楽しかったよ」とのこと。
Q.トリニティでの銃撃の経緯は?
A.
クロキ「流石に本校の定期改修工事の入札資格は取れんかったな〜。しゃあない、切り替えていこ」
↓
ナギサ「今度のトリニティ本校の定期改修の計画案があがってきましたよ」
↓
クロキ「なんやこの水増ししすぎて水しかない工事内容は⁉︎」(代表業者突撃)
↓
業者「いやいや(笑)親の力で路面電車作ってチヤホヤされてるボンクラにはわからんか〜(笑)うちで勉強するか?(笑)」
↓
クロキ「水害処理している時に気がついたけど、お前の担当した現場の施工不良率えげつないやん。これ告発するから楽しみにしててな」
↓
業者「ふざけやがって」(拉致監禁発砲)
↓
クロキ「グエー」(流血&中身バレ&救援要請)
↓
ホシノ(臨戦)「私 の ク ロ キ に な に を す る」
↓
トリニティ「いくら不正があっても、実績のない人に任せるわけには…」
↓
クロキ「実績ならあるで」(正体明かし及びトリニティに二つ目の楽園建設宣言)
↓
クロキ「代表業者獲得‼︎」
↓
ミレニアム「は???????」(トリニティ突撃)
※以下作者あとがき
皆様お久しぶりです、作者です。
最後に後書きをかいたのが長期にお休みをいただく前の4月なので、実に7ヶ月振りなります。時間が経つのは本当に早いですね。
さて、今回は今後の展開についてご報告がありましたのであとがきを書かせていただきました。後3話程度でトリニティ編は終了し、それからミレニアム編に移行します。その際、いつかの話で書かせていただいたあらすじの通り大きめな戦闘を挟みますが、先に注意喚起としてこの戦闘で主人公は瀕死の重症を負います。その際ある程度ヘイト描写が入ってしまうと思いますので、苦手な方は読み飛ばすか後書きに簡単に顛末を記載するのでそれをご覧いただければと思います。
なるべく明確なヘイト描写は入れたくないのですが、今回に限っては避けられないので先にお伝えしておきます。あまり詳しくは言えないのですが、十字架に繋がれた誰かさんとの会話がありますのでご容赦いただければ幸いです。
それでは皆様、寒くなってまいりましたので嫉妬の炎をメラメラと燃やすトリニティで暖を取りましょうね。