ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります   作:あーけろん

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トリニティ会議【1日目】

 

 

 

────磨き上げられた廊下をある集団が歩く。

 

 

「それでそれで?鏑木様とは会えたの?」

「全然。いきなり現れた正義実現委員会が駅を制圧したから見えなかった」

「せっかく小テストサボったのに残念だったね」

「本当よ。おかげでこの後補講だし…」

「まぁまぁ、私も終わるまで待ってるから───って、あれは…」

 

 

授業終わりの放課後、様々な生徒が思い思いの過ごし方をする学生の一番楽しい時間とも言えるゴールデンタイム。学生の華とも言える雑談に花を咲かせる生徒達だが、遠くから見えるその集団を見て慌てて廊下の中央を空け頭を下げる。

 

 

「全く、ミカさんは本当に軽率です。あんな往来でクロキさんを押し倒すなんて、彼にふしだらな噂が流れたらどうしてくれるんですか」

「本当ナギちゃんってお堅いね。今時あれくらいのスキンシップは普通なんだよ?」

 

 

額に青筋を立て苛立ちを露わにする桐藤ナギサと、対して口を尖らせ不満を露わにする聖園ミカの二人、言わずと入れたトリニティの生徒会組織であるティーパーティーの重役だ。これだけでも生徒達が廊下を空けるのには十分だが、今回は二人だけではない。

 

 

「だからと言って、あんな往来ですることではないでしょう。ただでさえ今は変な噂がトリニティ内で流行っているんです。軽率な行動は厳に慎むべきです」

「ふーん、ミネちゃんもナギちゃんの肩を持つんだ?」

「私はあくまで一般論を申し上げているだけです」

 

 

蒼森ミネ、トリニティでも有数の組織救護騎士団の団長である。ここ最近はあまり学校にも顔を出していなかった彼女が、ティーパーティーと肩を並べて歩いているという事実だけでも噂好きの生徒達は一週間は話に困る事はないだろう。もっとも、それら集団の先頭にいるとあるロボットがいなければの話だが。

 

 

「……なぁ、やっぱりこの集団で俺が先頭を歩くのはおかしくないか?」

 

 

人形の様な顔立ちのメイドに小柄でスカジャンを羽織った柄の悪いメイドを側に置き、黒一色の神父服に袖を通して銀の十字架のペンダントを首から下げたロボット────鏑木クロキ。トリニティにとどまらず、キヴォトス全体で見ても大規模開発事業において右に出る者なしと謳われた傑物。途方もない資金力と尋常ではない人脈を有し、あの大企業カイザーコーポレーションすらも楽園開発のために踏み潰した危険人物。このキヴォトスで絶対に敵に回してはいけない人物のリストがあるのならまず真っ先に名前を連ねる存在であり、このキヴォトスに住まう人達の生活インフラを握っている魔王的な人物である。

 

 

「いえ、そんな事はありません。もっと堂々としてて良いんですよ?」

「蒼森団長、俺がミレニアムのたかが一外部業者だって事忘れてない…?」

「たかが一外部業者…?誰がですか?」

「俺だよ。こんな時に惚けなくていいんだよ」

「……???」

 

 

そんな、ここにいる全員の力が合わされば生徒の一人や二人を気分で消し飛ばせるような権力集団が固まって歩いていれば、生徒達は道の端に寄って頭を下げる他にない。何名か何処からか取り出した団扇やペンライトを振っている不敬者の生徒がいるが、そんな無法者は音もなく正義実現委員会にしょっぴかれていく。

 

 

「そういえば歌住さんは今日はどうしたの?姿が見えないけど」

「彼女は先に会議室で待機しています……そんなに彼女の事が気になるんですか?」

「一応、神職としては彼女が先輩だからね。敬うのは大切だよ」

「相変わらず律儀ですね、クロキさんは」

「小心者なだけだよ」

 

 

軽口染みた会話を流しながら、トリニティでも取り分け大きな会議室にたどり着くと鏑木が重厚な作りの扉を押し開けその中に入り議場の生徒達に会釈する。

 

 

「や、久し振りだね歌住さん」

「…お久しぶりです、鏑木さん」

「…う、うん。あの、何かあった?」

 

 

椅子に深く座り目を閉じたままの彼女に、鏑木は何か違和感を感じる。

 

 

「先ほどマリーに連絡をしたんですが、かなり憔悴した様子だったんです…クロキさん、何かマリーにしましたか?」

「えっ、伊落さんが…?」

「えぇ。最初は気丈に振る舞っていましたが、あれは相当参っていました」

「……それは」

 

 

鏑木は咄嗟に先ほどの会話の事が、謝罪が脳裏に過る。いや、でも彼女を傷つける様なことなど何一つとして言っていないと思考が早急に結論を導き出すが、それを頭を振って掻き消す。そんな訳がないと思考を切り替え、彼女は頭を下げる。

 

 

「……ごめん。それは、多分俺のせいだ」

「…貴方のことですから悪気があったわけではないと理解していますが、あまり彼女を困らせないであげて下さい。彼女は、本当に貴方の事を想っているのですから」

「うん、後でちゃんと話を聞くよ」

 

 

そんな、困った様に言葉を紡ぐ歌住の姿と脳裏に涙を流す伊落の姿を幻視し鏑木の心臓が悲鳴を上げるが努めて無視する。後でしっかりと話し合わないといけないと脳裏でのタスクを切り替え、今は会議に集中すべく一度思考の端に追いやる。

そのまま会議室の壁で直立している黒髪の少女に向き直り、掛ける。

 

 

「羽川さんもさっき振り。今日は会議参加するの?」

「えぇ、桐藤様より参加する様仰せつかっていますので」

「そっか。それじゃあ今日はお手柔らかにね」

「…それはこっちの台詞です」

 

 

ミレニアムのメイド二人へ怪訝な表情を送る羽川、そんな簡単な挨拶もそこそこに、各々がネームプレートを置かれた席のとおりに静かに着席していく。

今回の全体会議の参加者は桐藤ナギサ、聖園ミカ、蒼森ミネ、歌住サクラコ、羽川ハスミ。そして鏑木クロキであり、彼の背後1m程度に美甘ネルと飛鳥馬トキが待機している。

 

 

「……さて、皆さん集まりましたので今日の会議を始めたいと思います。ですが、事前に提出しました議題の前に一つ極めて重大な伝達事項がございます」

 

 

不満を隠そうともしない桐藤の視線が鏑木に向けられる。

 

 

「…本当に最初に伝える事かな?俺としては最後に軽く話せれば良いと思ってたんだけど」

「極めて重要な案件です。ひいては今後のトリニティ運営にも直結します」

「…それもそうか」

「なになに?何か重大な話?」

 

 

机に肘を立てて頬杖を突きながら話す聖園へ鏑木は苦笑し、「えー、と」とやや歯切れが悪い口振りで続ける。

 

 

「先に話しちゃうんだけど、近々都市整備部と楽園造園室は解体される事になったんだ。詳しい伝達事項は会議の最後に話すけど、質問事項があれば今簡単に答えますので遠慮なくどうぞ」

 

 

─────パサリ、と紙が床に落ちる音が静寂な会議室に響く。

 

 

「……え、えぇと。すいません、よく聞こえませんでした。もう一度言ってもらえませんか?」

 

 

恐る恐る、先程の言葉は何かの聞き間違いだと信じたいと言わんばかりの羽川が手を上げる。

 

 

「都市整備部と楽園造園室が解体される─────」

「しょ、正気の沙汰ですか⁉︎いまこの状況、このタイミングで⁉︎」

 

 

淡々と事実を述べようとしたロボットに被せるように蒼森の激昂が飛ぶ。頰が紅潮し、わなわなと肩を震わせている姿からは怒り以外の感情を受け取る事が難しい。

 

 

「すぐにミレニアムに抗議しましょうクロキさん!お一人で心細いと言うのであれば私も一緒に…!」

「あー、いや。その件については既に了承しちゃったんだ。命令書にもサインしちゃってね」

 

 

バタリと音を立てて椅子に倒れ掛かり、両手で顔を覆う。指の隙間から覗かれる瞳は信じられないと言わんばかりに開かれ、未だ現実を受け入れられないでいる。

 

 

「あっ、えっと、確かに都市整備部は解体されるけど楽園の管理はちゃんと別の人に引き継ぐから。そこは安心して────」

「そんな話はどうでも良いんです、少し黙っていてください」

「えっ」

 

 

「それが一番大事なのでは…?」と一人ごちるロボットを傍目に、会議は徐々に回り始める。もちろん、ロボットの予期しない方向へと。

 

 

「やはりミレニアムに脅されていたんですね、頑なにミレニアムから離れない所で怪しいとは思っていたのですが…」

「歌住さん?別に俺は脅されていないからね?」

「ですがよく話してくれました。大丈夫です、これからはシスターフッドがきちんと責任を持って保護しますからどうか安心してください」

「あれ?俺ミュートモードに切り替えてたっけな…?」

 

 

両手を胸の前に合わせ慈愛の笑みを浮かべる歌住に言葉が返ってこないことから首のミュートモードを気にする。もちろんミュートにはなっていない。

 

 

「保護と言う形を取るならやはりティーパーティーで身分を預かるべきでしょう。彼の功績を鑑みれば国賓待遇でも文句は出ないと思いますが」

「あ、良いじゃんそれ。夢の共同生活だね」

「桐藤さん?それは悪ノリで言ってるんだよね?聖園さんも、友人の男女で共同生活は成立しないからね?」

 

 

何やら雲行きの怪しさを感じているロボットの背後に控える二人のメイドは一つ嘆息するとお互いに見合う。

 

 

「結局こうなりましたか…。どうします部長、予定通り始めますか?」

「あぁ、頼むわ」

「承知いたしました」

 

 

どこで言葉を選びを間違えたのかなと一人反省会を始めようとしているロボットの肩に手を置き「皆さん、少しよろしいでしょうか」と飛鳥馬が口を開く。

 

 

「今回ミレニアムよりクロキさんの護衛を拝命しました、飛鳥馬トキと申します。差し当たってなぜ今回ミレニアムが都市整備部解体という蛮行に踏み切ったのかを簡単にご説明させていただきます」

「ご説明って…そんな大層な理由があるの?」

「ございます。今回の解体は、ひとえに鏑木クロキという稀有な才能を潰さないための荒療治なのですから」

 

 

徐にメイド服の懐に手を入れ、そこから手持ち型の空中投影型プロジェクターを取り出すとそれを起動する。

 

 

「…これは?」

「これはここにいる鏑木クロキの1日の活動をグラフにしたものです」

「えっ、なんでそんな物を…?」

 

 

大勢の生徒を前に自分の活動グラフが表示されている現状に戸惑いを隠せないロボットだが、これを目の当たりにしている生徒の表情はぴたりと固まる。

 

 

「………あの、質問よろしいでしょうか?」

「えぇ。どうぞ」

「その、このグラフはクロキさんの活動をグラフにしたものという認識でよろしいでしょうか?でないと、その、あるべきものがないと言うか…」

「いえ、このグラフは正真正銘、我々と同じ24時間を表した円グラフです」

 

 

わずかな戦慄の感情を隠しもせず言葉を紡ぐ羽川に、静かに飛鳥馬は首を横に振るう。多種多様───ではなく、殆ど一色に埋められたシンプルな円グラフ、そこには『再開発業務』と大きく書かれただけで、後は目を凝らさなければ見えない程度に『食事』や『メール返信』の色が散りばめられている。そして肝心な事だが、この円グラフには『休息』や『睡眠』という単語は、どこにも書いてない。

 

 

「………クロキさん、これは本当ですか?」

「えっ、あ、いやこれはあれだよ?本当に忙しい日だけだよ?」

「嘘です。一週間のうち5日はこんな感じです」

「あ、飛鳥馬さん?誇張は良くないよ…?」

「誇張でもなんでもありません。なんならここでクロキさんの一週間をタイムラプスした物を流しても良いんですよ?」

 

 

瞬間、鏑木クロキの脳裏に過ったのは二つ。このまま飛鳥馬の誇張表現だと言い張るのか、それともこれが真実だと白状するのか。従来の彼であれば迷う事なく前者を取っていた筈だが、一度大きく息を吐く。

 

 

「……まぁ、あれだ。キヴォトスを楽園にするためにはちょっと位自分を蔑ろにしないと…ね?立場があるみんなならわかってくれるよね…?」

 

 

ナヨナヨとした様子で軽口を叩くような口振りの鏑木は「うんうん、そう言うこともある」とみんなが頷くと信じての発言だった────最も、そんなおめでたい理想はロボットの頭の中だけなのだが。

 

 

「……前々から思ってはいたのです、クロキさんはいつお休みになっていたのか、と。そこまで自分を追い詰めていらしたなんて、知りもしませんでした」

「いやいや蒼森さん、俺は別に自分を追い詰めてなんてないよ?」

「普段しっかりしたお方ですから必要ないと思っていたのですが───もっとも救護を必要としていたのは、私の身近にいたのですね。灯台下暗しとはこのこと、自身の目の節穴振りに頭を痛めます」

 

 

沈痛な顔持ちのまま椅子に立てかけてあるライオットシールドを手に取る蒼森。身の危険を感じ椅子から立ち上がる鏑木。あまりの情報に固まる聖園や歌住、ニコニコと微笑んでいるが青筋を浮かべている桐藤。状況はあまりに混沌としている。

 

 

「ですがご安心を。遅れはしましたが、私がきちんと責任を持って救護いたします。クロキさんは私に身を委ねるだけで良いのです。きちんと責任を持って、私自ら救護してみせます」

「身を委ねるだけなのに完全武装は必要ないよね⁉︎ネル、トキ!彼女を止めてくれないか⁉︎」

「危なくなったら止めますのでご安心ください」

「そうだな。見た所ナースのようだし加減はわかってるだろ」

「彼女の救護を生で見た事がないからそんな呑気な事が言えるんだよ!あっ、ちょっと待ってミネ!まだ俺にはやる事が────────⁉︎」

 

 

救護騎士団団長ご乱心により会議は中断。議事録にはそう締め括られた会議はひとまず終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「────やってくれたね、二人とも」

 

 

木製のベンチに深く座り込み、曇天の空を仰いで側にいる二人へ恨み節をぶつける。

結局会議は乱心した蒼森さんを止めるべく合流した剣先委員長と聖園さんが交戦したため会議室が半壊して強制的にお開きとなってしまった。そして彼女が乱心した理由は何か問われれば、それは少々生徒達にはショッキングなタイムスケジュールが公にされたからに他ならない。

 

 

「恨み言なら好きなだけどうぞ。ですがセミナーに通報しても護衛を解任することはできませんよ」

「…そうなるとセミナーの二人、ひいてはヒマリからデータを受け取っていたんだね。全く、人のプライバシーをなんだと思ってるんだ」

「いくら言っても改善しないお前にも非があるとは思うけどな」

 

 

半目でこちらを非難するような視線を向ける美甘だが、今回に限って言えば非難したいのはこちらの方だ。

 

 

「見てよこれ、さっき公布された発表。『トリニティ内で労働している鏑木クロキを見つけたら正義実現委員会に通報を』って。俺は犯罪者にでもなったのか?」

 

 

お陰で職人さんや提携企業に電話一本入れても『上からの指示でお取次する事はできません』と門前払いは当たり前、メールを打っても返信すら返ってこない。こう言う時のトリニティの一体感は本当どうにかならないものかと頭を痛める。そのせいでこうしてベンチで曇天を見上げるしかやることがないのだから、全くお笑い種としか言いようがない。

 

 

「この一週間でできたはずの企画や提案が水の泡だよ…。せっかくトリニティに来たのにあんまりだ…」

「……その、つかぬことを聞くのですがよろしいですか?」

「ん、何か気になることでもあった?」

「いえ、そう言えばなぜクロキさんは再三に渡るセミナーからの補助人員の補充を頑なに拒否されたのかと疑問に思いまして」

「あぁ、そんなこと」

 

 

まるでタブーを描くような神妙さで聞いてくるものだからどんな質問が飛んでくるのかと身構えたがどうやら杞憂だったようだ。

 

 

「理由は二つ。一つは協力業者ならともかく、内部である都市整備部に人を入れるとクラフトチェンバー0号機の存在が明るみに出る可能性があったから」

「それは…確かに懸念すべき事項ですね」

 

 

クラフトチェンバー0号機の存在の秘匿は本当に死活問題だった。それこそ隠れ蓑として作った大規模プラントが完成するまでは大手を振って使う事ができなかった程だ。

 

 

「二つ目は都市整備部のあつかう情報の機密度が他の部活と比較にならないほど高いからだね」

 

 

都市整備部は世にも珍しい他校の再開発も担う部活動である。故に他校の極秘事項とも言える防衛設備やインフラ設備の現状、現在の人口総数と言った情報も豊富に取り扱う。そんな機密情報の塊のような作業をする部活動に軽率に人を入れるわけにはいかないのだ。

 

 

「…クロキさんの癖に妙に説得力のある理由ですね」

「えぇ…?俺のことを何だと思ってたの…?」

「私も意外だったな。てっきり生徒は生徒らしいことをしてほしいから巻き込みたくないみたいな事を言うのかと思ってたぜ」

「都市整備部は部活動だけど実態は企業そのものだよ。感情で処理して良い話じゃないし、そもそも生徒のみんなにも手伝ってもらってたしね」

 

 

つまる所、俺がやっている業務というのは俺にしかできない事をやっているわけなのだ。故に人手を増やしたところで俺の睡眠時間は1秒だって増えはしない。

 

 

「ですが、それではクロキさんの負担が大きすぎるのではありませんか?とてもお一人で背負うべきものでは……」

「人は誰しも何かを背負っているものだよ飛鳥馬さん。それこそ君達C&Cはミレニアムの治安を、ティーパーティーの桐藤さんはトリニティの伝統を────そして、俺はキヴォトスの繁栄を」

 

 

キヴォトスを楽園にし、ブルーアーカイブという物語を完全無欠のハッピーエンドへと導く。あの日、先生と交わした約束は未だ俺の胸の中できちんと熱を保っている。

 

 

「だから俺は止まらない。速攻でミレニアムをもっと良い学校に作り変えて、すぐに都市整備部の看板を取り戻すさ」

「……そ、そうですか」

 

 

そう意気込んでみたのは良いものの、肝心の飛鳥馬さんはそっぽを向いている。

 

 

「飛鳥馬さん?なんで顔を逸らしてるの?」

「ちょっと目にゴミが入ったんです、気にしないでください」

「大丈夫?目を見てあげようか?」

「大丈夫ですから。その、あまりこっちを見ないでください」

「えぇ…」

 

 

俺の中では結構良い事を言ったつもりだったのだが、どうやら彼女には響かなかったらしい。ちょっとばかり落ち込むが、まぁ彼女らしいと言えばらしいので特段傷つく事はない。

 

 

「あー、いちゃいちゃしてる所悪いんだがよ。こうして私たちを連れて人気のない外に出たって事は何か話があったんじゃないのか?」

「いちゃいちゃって…まぁいいや。そうなんだ、ちょっと二人に頼みがあってね」

 

 

そこでようやく本来の用事を思い出し、内ポケットから2本のUSBメモリーを取り出し其々二人に差し出す。

 

 

「これは?」

「トリニティ内に隠蔽した兵器群の隠し場所が記されてるメモリだよ。二人には悪いんだけど、各々ポイントを虱潰しに巡って兵器の廃棄処理をお願いしたいんだ。もう俺には必要のないものだからね」

「兵器ってお前…⁉︎そんなものまで用意してたのか⁉︎」

「ちょ、ちょっと美甘部長。声が大きいよ」

 

 

急に大きな声を出す彼女の耳元で話しかけ嗜める。幸い収音スピーカーから周りに人がいない事を確認していたので良かったが、これが正義実現委員会にでも聞かれていたら事だ。

 

 

「前にちらっと話したけど、俺が知ってる未来だと近い将来トリニティで大規模な戦闘が発生するんだ。その対策として各所に配備していたんだけど…」

「事情が変わった、って事か」

「そういう事。変に誰かに見つけられて利用されたら目も当てられないから、こうして潰してほしいってわけ」

「ったく、本当に面倒ごとだなおい…」

「兵器というのはどのようなものなのですか?」

「本当に多種多様だから一言では言い表せないかな…。強いていうなら学校間の戦力の天秤を揺らす程度には強力な武装だよ」

「本当の厄ネタじゃないですか」

 

 

来るべきエデン条約編。そこで現れる聖徒の交わりこと『ヒエロニムス』やベアトリーチェを攻撃するために用意した兵器群だ、並の生徒が扱える代物ではないが、不確定要素もある以上壊しておくに越した事はない。

 

 

「で、それは全部で何箇所あるんだよ」

「えぇと、確か全部で23箇所かな」

「23…⁉︎」

「随分溜め込みましたね」

「謝って済む話じゃないけど、当時は本当に必死だったんだよ…」

 

 

笑い事でも何でもなく、ヒエロニムスを打倒するためにはそれくらい必要だと信じて疑ってなかったのだ。それほどまでにアレは俺にとって絶望の象徴だった。

 

 

「なので、二人には悪いけど其々分担して兵器の破壊もしくは解体を依頼するよ」

「クソッ、面倒事を押し付けやがって…!」

「クロキさんは同行してくれないのですか?」

「俺が一緒だと変に目立つし、隠密行動なら2人とも得意でしょ?何せC&Cのトップエージェントなんだから」

「変なところでおだてやがって。…で、その間お前の護衛は誰がするんだよ?」

「護衛なら必要ないよ。君達が帰ってくるまで、俺はこのトリニティから出るつもりは無いからね。精々用務員室で大人しく待っているとするさ」

 

 

そこまで言うと2人は差し出したUSBメモリーを受け取り、各々ポケットの中にしまい込む。

 

 

「夜までには戻る。それまでトリニティ校内から、というより部屋から出るなよ」

「ここまで面倒な事をお願いするのですから、ご褒美は期待しても良いんですよね?」

「ご褒美って…ま、俺にできる事ならね」

 

 

そういうと「言いましたね、二言は認めませんから」と言い残し音もなく飛鳥馬さんが目の前から消える。相変わらず強かな少女だなぁ。

 

 

「…んじゃ、私も行ってくるか」

「うん、頼むよ美甘部長」

「わかってるよ。それとなクロキ」

「ん?」

「ご褒美の件、私にもちゃんと用意しておけよ」

 

 

少し恥ずかしげにそう言い残し、彼女も目の前から消える。そして彼女の言い残したことを脳裏に反芻させ、そっと息を吐く。

 

 

「…さて。俺にできることなら良いんだけど」

 

 

家が欲しいとか言ってくれればすぐに用意するんだけどな、なんてありえない想像を働かせ、曇天の空を見上げた────。

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

────アリウス分校、某所。

 

 

 

「────さぁ、みなさん。いよいよ時が来ました」

 

 

鈴のように綺麗な、そして良く通る声がアリウス分校の生徒達に浸透する。

 

 

「決行は明日、楽園第二区画で行われるティーパーティー会議場を襲撃し我らがお父様をこの地に招待いたします」

 

 

技術の最先端を行くミレニアムですら配備を完了していないステルス迷彩を搭載した機動兵器群を従える機械龍の軍団は、その主君の訓示を物音ひとつ立てずに静聴する。

 

 

「言うまでも無い事ですが、相手も死力を尽くして妨害してくる事は疑いありません───故に、私自ら先陣を切り抵抗勢力を側から削り落とします」

 

 

何も無い空に白線が伸びると、彼女の手に身長の倍ほどの巨大なライフルが現出する。空に書いた絵が実現するような様は、正に神の御業と言って差し支えないものだ。

 

 

「トリニティの羽付き共に教えてあげましょう、領域支配機の戦いを」

 

 

神様に作られた美貌にギザ歯を浮かばせた領域支配機は嗤う。十字架によって歪まされた教理に、未だ終わりは見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────トリニティ総合学園、ティーパーティー茶会室

 

 

 

 

「─────実際、いい案だと思うんだよね」

「いい案、と言うのは?」

 

 

曇天の空に面した茶会場、湯気の立つティーカップを前に聖園は脚をぶらつかせながら呟く。

 

 

「クロキをティーパーティーで保護するって事」

「…本気で言っているんですか?」

「ナギちゃんこそ、あの会議で言った事は本気じゃなかったの?」

 

 

そんな聖園からの試すような視線に一度息を呑み込み、逡巡や葛藤を合わせて心の中に落とす。

 

 

「…あれは、あくまで背後にいたメイド達への牽制です。本気な訳ないじゃないですか」

「でも、そうなったらいいなって思ってるんでしょ」

「っ、それは…」

 

 

実際、彼女の言葉は正しい。百合園セイアの急病によって得たティーパーティーホスト代理の立場、そしてそれに伴う責任や業務の増加。何でも相談できて、そして何よりとても頼りになるお手伝いロボットの存在は、桐藤にとって正に喉から手が出るほど欲しい。

 

 

「…ですが、その理由付けはどうするのですか。猛反発は避けられないと思いますが」

「ミレニアムがクロキを囲い込もうとしてるのは事実だし、トリニティ側としての抗議としたら充分じゃない?今のクロキはセミナーでも何でも無いんだし」

「他校が黙っていませんよ、それこそ下手をすれば戦争に…」

「だから、トリニティがミレニアムに代わって都市整備部を管理すればいいんだよ。そうすれば他所の学校は今まで通り都市整備部の恩恵を受けられるでしょ?」

「………それは」

 

 

普段の彼女なら破天荒な話だと一蹴できていたが、妙に自信のありそうな話し方に思わず思考を割いてしまう。

 

 

「…ま、決めるのはナギちゃんだけどさ。おそらくミレニアムは二度とクロキを外に出さないと思うよ。ここで何もしなかったら、もうクロキには会えなくなるかもしれないね」

「そ、そんな事は……」

「ない、って言い切れるの?」

 

 

聖園からまっすぐ向けられた声に、桐藤は逡巡し───そして、搾り出すように呟いた。

 

 

「……少し、考えさせてください」

 

 

 

 






鏑木クロキ
いっそミレニアムを退学してシャーレに所属した方が丸く収まるのでは?とか考えているロボット。実際それが正解ではあるがミレニアム陣営からの凄絶な引き止めがあるため不可能ではある。対応をミスった瞬間生徒から襲われて専用武器を持ち出す羽目になる。ギャルゲーの攻略を完璧にしてから行動に移すのが吉。


機械仕掛けの十字架
百合園セイア急病の張本人。夢見によってクロキに助言するべく深く潜った百合園を捕捉し、彼女を幽閉している。自身の元から離れてしまったプラナを探しているが、未だ見つけられていない。


桐藤ナギサ
冷静に見えて結構限界が近い。間近でロボットが爆発四散しようものならとんでもないことになる。


トリニティへ隠した秘密兵器
対ヒエロニムス戦の質量兵器群。対地ミサイルや自立運用戦闘ヘリ、改良型ゴリアテで構成された殺意の塊であり、トリニティの約3割を焦土に変えることのできる。なお、飛鳥馬美甘両名に破棄を依頼したポイントは生徒でも扱うことのできる兵器の保管場所であり、第2擬似神性十文字及び第4擬似神性十文字の保管場所は明かしていない。


第2擬似神性十文字
起動コードは『彼は王国を守りし古代の守護者であり、異端を排斥せし煉獄の汽笛』


第4擬似神性十文字
起動コードは『彼は慈悲深き苦痛を持って断罪する裁定者であり、楽園を蓋する静謐の貝』

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