ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります   作:あーけろん

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閲覧、感想、御指摘、誤字脱字報告の全てに感謝を。

※投稿が遅くなりまして申し訳ございません。本話投稿より投稿頻度をもどしますので、今後ともよろしくお願いいたします。

※次回投稿は2月8日を予定しております。あらかじめご了承ください。


キヴォトスに生きるという事

 

 

豪華絢爛なエントランスが一瞬にして廃墟然と化したホテル。高価だったであろう調度品の残骸を踏みながら跳躍し、お父様へと肉薄する。

 

 

「そんなガラクタ達を掻き集めた所で、壁にもなりませんよお父様───!」

 

 

銃撃の雨をも弾く、重さ200kgを超える耐爆仕様の特殊合金傘を振り抜く。戦車すら容易に叩き潰す質量攻撃はしかし、鬱陶しくも彼の周りを動き回るドローンの両腕に容易く受け止められる。

 

 

(この攻撃を軽々と受ける…?戦略分析が甘かったようですね)

 

 

攫う前に殺しては意味がないと緩めていた力を入れ直し、有り余る膂力で圧殺しようと思い立った矢先、視界の端に二機のドローンが映る。

成人男性と殆ど同じ大きさの箱型の包みを構えたそれは無機質な一つ目を妖しく輝かせながら躊躇いなく引き金を引く。

 

大きさこそあれど所詮は携行火器、こちらを傷付けることなどできるわけないと正面のドローンを叩き潰そうとし────瞬間、腹部に感じたことがない強い衝撃が襲う。

 

 

「ガッ────⁉︎」

 

 

視界の端に警告が発せられるとほぼ同時、身体が真横に吹き飛ばされる。その最中こちらを攻撃した正体を確認する。

 

 

(蒸気を放つ、先端が赤熱化した鉄杭ということは…⁉︎)

 

 

こちらを攻撃した兵器に当たりをつけた直後にホテルの壁へ身体が激突し、言いようもない爆音が耳を刺す。

即座にダメージチェックを回すが、そんな隙は与えないと先ほど鍔迫り合いをしていたドローンが同じ鉄包みを抱えたままバーニアを燃やしてこちらに突貫してくる。

 

 

「っ、信じられません!」

 

 

起き上がるとほぼ同時に尻尾を振り被り鉄包みを叩き落とす。叩き落とした鉄包みは落とされた衝撃で内部機構が露出し、その兵器の全容が明らかになる。

 

 

「パイルバンカー…⁉︎銃撃戦が主流のこの世界で、なんのためにそんなものを…⁉︎」

「ゴリアテを始めとした機甲師団を効率よく撃滅するための兵器の一つだよ。射程距離は殆ど0だし、生徒相手には威力が高過ぎて殺しかねないから使えない産廃兵器だけど…効いただろう?」

 

 

冷静な声色と殆ど同じタイミング、割れた窓から私を吹き飛ばしたパイルバンカーが5本ほどホテルの床に突き刺さる。先端が赤熱化してひしゃげたそれを放り捨てると地面に突き刺さったそれをドローン達が拾い上げ、再び装填する。成程、弾数に限りはないという事ですか。

 

 

(ダメージチェック───完了。腹部装甲に亀裂、運動機能が6%低下…。凄まじい威力です、アレを3回受けたら機体が持ちませんね)

「耐えられて後2回と言った所かな。流石は砲撃戦特化型領域支配機、並外れた装甲強度だね」

 

 

瞬間、自分が考えを口に出したのかと口元を手で覆う。しかし、そこには固く引き締められた表情筋があるだけだ。

 

 

「…なんの事でしょう。そんな爪楊枝、あと100回だって耐えられますが」

「そこまでの装甲は君に搭載してないよ。君の役割はあくまで連邦生徒会のクーデターの鎮圧とペロロジラの撃退、後はアトラ・ハシースの方舟を撃ち落とす事だ。それだけの物理火器兵装を積んでいるのに、そんな装甲をつけたら身動きが取れなくなるよ」

 

 

「タンク脚ならともかく、君はいわば重量二脚なんだから」と蘊蓄を語るように綴られる情報に瞼がかすかに動く。

 

 

「わかったような口を利きますね、お父様。私は洗礼を受けているのですよ、お父様の知るカタログスペック以上の能力を発揮しても不思議ではありませんが?」

「ほら、そうやってムキになって反論する。やっぱり姉妹だね、メルもゲームに負けた時同じような言い訳をしたよ」

「ッ、貴方は────⁉︎」

 

 

瞬間、お父様が呼び出した偽物の領域支配機のうち『F:ケセド』と呼称される個体の瞳が開く。本来はコアが詰め込まれているそこにはコックピットの様に座席が据えられており、それに彼が入り込む。

 

 

「桐藤さんは正義実現委員会を率いて周辺住民の避難を。飛鳥馬、美甘の2人も彼女の補佐を」

「クロキさん、まさか貴方…」

「うん、彼女の相手は俺が1人でやる」

「ば、馬鹿言ってんじゃねぇ!相手はあの領域支配機だぞ、お前1人残して行けるか!」

 

 

悲鳴にも似た拒絶、それに対して『F:ケセド』のコックピットを閉じることで応える。直後、主人を迎えた瞳にも似た機械は本懐を遂げるべく輝き出す。

 

 

『領域支配機だから、だよ。彼女のスペックは全て頭に入っている。彼女を相手に時間を稼ぐのなら俺が最適だ』

「だからって、クロキさんを置いていくなんて…!」

『誰が置いていってくれって言ったよ。俺1人で持ち堪えられるのは精々10分が限界だ、それまでに剣先さんと聖園さん、蒼森さんを連れて戻ってきてくれよ』

 

 

『こんな主人公染みた事、本当に柄じゃないんだ』と悪態を吐くとほぼ同時に、背後に控えていた『F:コクマー』が鋼鉄の顎門を開き咆哮を上げる。その咆哮に呼応する様に彼が『数学者たち』と呼ぶロボット達の関節部位から蒸気が吹き上がり、無機質な一つ目がこちらを見据える。

 

 

「…チッ。おいトキ!このお嬢様連れてさっさと下がるぞ‼︎」

「な、美甘さん⁉︎本当に彼を置いて行くんですか⁉︎」

「置いて行くんじゃねぇ、さっさとやる事やって合流すんだよ!早く正義実現委員会に招集を掛けろ‼︎」

 

 

小柄な見た目からは想像もつかない怪力で桐藤を小脇に抱えるとその場から離脱する美甘。彼女の背後を狙おうと銃口を向けるが、『F:ケセド』から無数に伸びるワイヤーに銃口を逸らされる。

 

 

「っ、小賢しい真似を!」

『行って!此処は引き受けた!』

「───クロキさん、もし貴方が死んだら彼女を殺して私も死にますからね」

 

 

据わった瞳でこちらを一瞥した後、美甘達の後を追って残った飛鳥馬もこの場から消える─────これで正真正銘、このエントランスには私とお父様だけが残った事になる。

それを知ってか、静かな口調でお父様が話し始める。

 

 

『…良かった、聞き分けの良い人達で。これで気兼ねなく戦える』

「生徒の避難のためとはいえ、C&Cのお二人までこの戦場から退けるなんて正気とは思えません。本当は負けたいんじゃないですか?」

『まさか。だって生徒を残したら君は生徒達を優先的に狙うだろ?人質を残して戦う馬鹿はいないさ』

 

 

キッパリと言うお父様に警戒レベルをもう一段階引き上げる。

 

 

「それでも、桐藤ナギサの事まで庇うのは人が良すぎるのではありませんか?彼女は謀反を囁くような危険人物ですよ、残しておいてもこの世界にとって害にしかなりませんが」

『えっ、そんな事やってたの彼女…』

 

 

『意外とやる事やってたんだなぁ』と呑気にしている姿からは桐藤ナギサへの嫌悪感は一切感じられない。わかっていた事だが、彼に生徒への不信感を募らせることは世界を滅ぼすより難しいと見える。

 

 

『まぁ、彼女達はまだ幼いからね。間違いだって起こすさ。そんな間違いを引き返せる範囲に抑えることが大人の役割ってものだとは自覚しているよ』

「幼い…?世論を誘導し、外圧を使って外堀を埋めるような卑しい女が…?」

『なりふり構わない所なんて特にそうじゃないかな、もっとも、相手は慎重に選ぶべきだと思うけどね』

「貴方は甘すぎます。だから無謀にも生徒達が勘違いするのです」

『この世界はあまりに厳しすぎるから、誰か一人は飴をあげる人が必要なんだよ。幼い君にはまだわからないかも知れないけど、いずれわかる時が来るさ』

 

 

そんな軽口の応酬の直後、『F:ケセド』から伸びていていたワイヤー───否、ケーブルが彼の周りを固める『数学者たち』と呼称されるドローン達の頚椎部に繋がる。

 

 

「っ、何を…」

『【数学者たち】はヒエロニムスを殺しうる牙として思考、設計したドローンだ。…さて、作中でも『大人のカード』を使わなければ届かない詰みポイントを踏破するための牙が、ただの劣化アビ・エシュフだと思うかい?』

【鏑木クロキの生体パルス確認。頭部擬態装甲剥離】

 

 

直後、軽い破裂音と共に5機のドローンの一つ目と思われていた装甲が割れ、中から全く別の顔が姿を現す。細身のフォルムに人間を模した二つの目、どこか無骨な印象を受けるその造形はとあるロボットと酷似していて───。

 

 

「お父様と、同じ顔…?」

【ケセドより神託を受領。リミッター解除、攻撃対象を領域支配機へ設定】

 

 

直後、甲高い機械音と共にケセドの蓋が硬く閉じられる。

 

 

『これで君は数学者たちを、俺の分身を倒さないとここに到達できない。悪いけど、俺の失敗作処分に付き合ってもらおうか』

【人工筋肉稼働、擬似神経回路接続────ヘイロー、点灯します】

 

 

5体のドローンの頭上にそれぞれ不定形に揺れる輪っかが出現し、それと同時に肌に威圧感ともいうべき重圧がのしかかる。もちろん単体で私に敵うはずもなく、脅威で言えば小鳥遊ホシノや空崎ヒナとも比べるべくもない。

 

 

「…やはり、私はお父様と争うべきではありません。だって、そんな怪物を作らなければならない程この世界に怯えていたのなら、それはもう死んでいるも同義じゃありませんか」

 

 

───それでも、命の鼓動すら感じるほど精密に作られた機械人形が、ただ『ヒエロニムス』という障害を排除するために作ったとさも当然のように宣うその狂気が、執念が、妄執が、私に恐怖を与える。

 

何がクラフトチェンバー0号機がなければ簡単に攫えるだ、冗談じゃない。

今私の目の前にいるのはこの世界を救うことを誓った救世主が膝を折った成れの果てだ。自らを幸福の殉教者に仕立て上げたその精神性は、紛うことなくこの世界でも屈指の異端そのもの。

 

 

『争うつもりがないのはこちらも同じだ。…それで、君は壊れたクソ野郎から何を命令されて俺を襲っているのかな?』

「命令?とんでもないことにございます、私はただ貴方の心からの願いを叶えて差し上げるためにこちらに参ったのです。貴方の願い────この世界から消え去りたいという願いを」

 

 

頭によぎる恐怖を小さく頭を振って追い出す。

そう、ただ私はお父様の崇高な願いを叶えるために此処にいるのだ。それが誰かに命令されたなどと、ありもしない空想を前提で語られても困る他にない。

 

 

『…成程、俺の自己模倣AIを拡大解釈した上で洗礼を受けたのか。おまけに自己の存在を悟らせることもしない、と─────反吐が出るな』

「ッ」

 

 

小さいながらも確かに吐き出された拒絶の言葉、それに込められた感情の大きさに思わず身体が強張る。

 

 

『悪いけど、今の俺は死ぬつもりはないよ。俺には、どうしても果たさなきゃいけない約束があるんだ』

「約束…ですか?」

『そう。かけがえのない約束が────何があっても先生を、このキヴォトスをハッピーエンドに導く。そのためには俺の存在全てを賭けなきゃいけないんだ』

「ハッピー、エンド……」

 

 

──────その宣誓の刹那、脳裏に私の知っている、けれども知らない声が響く。

 

 

 

【  それなら尚更、お前が死ななきゃダメじゃないか  】

 

 

 

 

直後、思考の片隅に残っていた躊躇いや恐怖心が消え失せる。思考が先鋭化し、まるで何者かに導かれている様に身体が軽くなる。

 

 

「それは貴方の願いではありません、貴方は願わされている、利用されているだけです。私は、貴方をこの狂った世界から、自己愛しか持ち合わせていない気狂いの衆愚共から解放してみせます」

『…嫌だな。ここまで言われてるのに、君のことが嫌いになれそうにない。親心ってのは、どうやら想像以上に大きいらしいね』

 

 

彼の軽口に取り合うこともなく、手に持っていた鋼鉄の傘を投げ捨てる。

 

 

「それが今のお父様の本気だというのなら、手心を加えるのは此処まで───ここからが、領域支配機の本領です」

 

 

空に無造作に走る白線の数々、クラフトチェンバー0号機の権能。お父様の手から零れ落ちた奇跡そのもの。空をキャンパスに描かれた白線は縦横無尽に空を走り、それを私の手元に落とす。

 

 

『…おいおい。ソレを君が使うのは反則だろ』

 

 

上擦った彼の言葉。それもそうだ、何せこれは本来勇者を自称する終末兵器が駆る…さしづめ『勇者の剣』。名もなき神々の女王の依代が使う専用武器。

 

 

「クールタイムなしの光の剣────さて、どれだけ耐えられるでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「───し、死ぬかと思った…」

 

 

未だ焦点の定まらない身体を揺らしながら千鳥足で歩を進める。

 

 

「だ、大丈夫ですか?申し訳ありません、私の飛行が荒っぽいばかりに…」

「ううん、大丈夫。むしろこんな体たらくでこっちこそごめんね」

 

 

しかし、横で肩を落としてしゅんとしている大きな幼女(生後半年)を前に気弱な姿を見せるわけにはいかないと強がりを見せる。ただ一つだけ言いたい事があるとすれば、人が乗っている中で360°デンプシーロールはやめて欲しかったな。

 

 

「それにしても、いつ見ても立派な洋館だなぁ」

 

 

アビドスの海岸から遠く離れた小さな孤島。どっかの自称平凡なロボットが作ったため地図にも載っていないそこにはトリニティでもそうお目に掛かれないであろう立派な洋館が一つ建っている。

 

『悪の組織といえばやっぱり洋館』と唐変木ロボットのよくわからない美学によって造られたものだが、彼等にこんな上等な建物が必要なのかは甚だ疑問だ。

 

 

「この洋館はお父様が桐藤ナギサから『二人で住むならどんなお家が良いでしょうか?』とやや重めな質問を投げかけられた時に話を逸らすために書いた設計図をもとに作られています。手慰みで書いたものすら有効活用するなんて流石はお父様です」

「うん、それ絶対言っちゃダメだからね…」

 

 

少女の純情を裏切って作ったそんなご立派な洋館に向かって歩いていると独りでに両開きの木製の扉が開き、その奥で恭しく頭を下げる人影を…否、異形の影を見る。

 

 

「お待ちしておりした、先生。急な呼び出しにも関わらず御足労いただきありがとうございます」

「お礼ならここまで運んでくれたメルちゃんに。…それで、クロキ君に聞かせられない話っていうのは?」

「もちろんお話しします。ですが取り敢えずは中へ、今日は少し冷えます」

 

 

手を広げてこちらを招く彼に一つ頷き、中へ入っていく。

どこか重圧を感じる玄関を潜って視界にまず真っ先に入るものは鏑木クロキ君の大きな肖像画……うん、帰りたくなってきた。

 

 

「黒服、何あれ」

「ん?あぁ、我らが救世主の肖像画ですが、それが何か?」

「そうじゃなくて、この前飾ってた絵と違うんだけど」

「それはそうでしょうとも。これはワイルドハント芸術学院に依頼して作らせた特注品です。教師のような出立の彼も素敵でしょう?」

「それだけのお金はどこから出てきてるのよ…」

「クククッ、それはもちろん動画の広告収益ですよ」

「もうやだこのオタク…」

 

 

大きな肖像画を見て椎茸目をキラキラと輝かせているメルちゃんの手を引っ張り黒服の後に続く。

厳かだが華やかさも感じる長い廊下にはいくつもの額縁が並んでおり、そこには絵に限らず何かの設計書や図面、写真と言ったものが並べられている。言わずもがな、全てクロキ君関連の資料だ。

 

 

「…それで、話ってのはなんなの?またクロキ君談義とかだったら今すぐ帰るからね」

「救世主談義は是非やりたい所ではあるのですが、あいにく今日は私以外のゲマトリアは全員出払っておりまして」

「…そう、それならいいけど」

 

 

普段ならここで追求の一つも入れる所だが、今日の彼の様子を見て止める。異形の顔だが、その顔には僅かに焦燥が浮かんでいる事がわかるからだ。飄々とした態度を崩さない彼がここまで慌てているのにはなにか理由があるのだろう、それもとびきりヤバいヤツが。

 

 

「時に、先生はあの砂漠……クロキさんと戦った日のことを覚えていますか」

「…覚えてるよ。忘れるはずがないでしょ」

 

 

『───清算の旅路、と先生はおっしゃいましたよね。もしこれが旅路とするのなら………ここが終着駅です。俺は自己の存在を懸けて、この世界から災厄と終末を取り除く』

 

 

真っ白な装甲を、死装束を着込んだ少年を取り戻すための戦い。歪んだ自己罰の結果壊れてしまったロボットを引きとめるためのそれは、正直今でもたまに夢に出るくらいにはトラウマだ。

 

 

「では、その最終局面に現れたあの解釈違いについても当然覚えておいでですね」

「解釈違い…あの偽物か。もちろん覚えているよ」

 

 

自らをハッピーエンドに導く存在と豪語した存在。クロキ君と呼ぶにも抵抗があるそれを、ゲマトリア一党は酷く嫌悪している。

 

 

「我々ゲマトリアはあの解釈違いがどこからやって来たのか、それを研究していました。審判の都市に残された残滓を回収し、それを解析していく最中───我々は一つの懸念を発見しました」

「懸念?」

「我々と共にクラフトチェンバー0号機を作った鏑木クロキの『前任者』、詰まるところ聖人である今の彼が肉体を得る前の人格についてです」

 

 

クロキ君が今の『鏑木クロキ』になる前の人格───って。

 

 

「前のクロキ君ってゲマトリアと協力してたの⁉︎」

「えぇ。聖人から聞いていませんでしたか?」

「聞いてないよ⁉︎もぅ、あの子はまた説明を省いて…!」

 

 

頭を抱えて天井を見上げるが、それを構わず黒服は続ける。

 

 

「聖人の人格が宿る前の彼は静かな少年でしたが、その瞳には狂気とも呼べるものが映っていました。曰く、自分には神様の声が聞こえると」

「よくそんな危ない生徒を引き込んだね…」

「彼の語った計画が魅力的だったのですよ。自らの肉体を依代に神様をキヴォトスに降臨させると話を聞けば、手の一つも貸したくなるのが我々ゲマトリアです」

「悪の組織だねほんとに」

「ですが、今にして思えばそこに疑問を持つべきでした」

 

 

そう言うと懐から小さなチップのようなものを取り出す。

 

 

「これはクラフトチェンバー0号機の設計書、前任者が書き上げた奇跡の産物です」

「設計書…⁉︎」

 

 

いとも容易く取り出したそれの正体に思わず目を見開く。もしかしたらと思っていたけど、本当にあるとは思っていなかったからだ。

 

 

「それじゃあ、それさえあればクラフトチェンバー0号機を量産する事が…」

「原理的には可能です───しかし、そんなことをするつもりは毛頭ありませんが」

 

 

そう言ってチップを再び仕舞い込み、黒服にしては珍しく深い息を吐き出す。

 

 

「彼はこの設計書を『神様のお告げで書き上げた』と言っていました。本来であれば疑問に思うべき事象…しかし、そのあまりの出来栄えに疑念よりも好奇心が勝ってしまった」

「……さっきから前任者の話しかしてないけど、それがあの偽物とどう関係があるの?」

 

 

私の問いに、彼はあっさりと答える。

 

 

「つまるところこうです。あの時聖人を乗っ取った解釈違いは、前任者にお告げを与えていた『神様』そのものだったのではないか、と」

 

 

────なんだ、それは。

 

 

「…なに、それ」

「前任者の語る『神様』はこの世界に干渉し、鏑木クロキという人格をこの世界に呼び寄せた。そして砂漠でなんらかのトリガーが作動し、『神様』本人が顔を出した。そのトリガーが何なのかはわかりませんが…」

「例えそれが本当だとしても、それは神様なんかじゃない。悍ましい怪物かナニかだよ」

「それは同感です。しかし、状況は刻一刻と悪化の一途を辿っているのです」

 

 

長い廊下を歩いた先、洋館には不釣り合いな現代的なエレベータを前にたどり着くとそれは自動で開いて私たちを迎え入れる。それは行き先を押すことなく自動で降り始め、軽い浮遊感を覚える。

 

 

「状況の悪化って、何があったの?」

「それは今から見ればわかりますよ」

「……?」

 

 

黒服の言葉に疑問符を浮かべた直後、エレベーターの扉が開かれる。許可なき者は誰も入ることのできないゲマトリアの研究施設を兼ねた彼らのアトリエ。そこに足を踏み入れた直後、最初の違和感に気づく。

 

 

「あれ?ここに飾ってあった領域支配機はどうしたの───って、まさか⁉︎」

 

 

エレベーターを降りてすぐ左。ガラス張りの格納庫に鎮座していた黒龍と灰龍の姿が見えないことに疑問を零し…そして、すぐに先ほどの黒服の言葉を理解した。

 

 

「えぇ。先生の懸念の通り、領域支配機二機は忽然と姿を消しました。そして、最後に映った映像がこちらです」

 

 

いつのまにか黒服が持っていたタブレットに映し出されたモノ。そこにはゴシック調の黒ドレスに身を包んだ少女と白衣に袖を通し博士帽を崩して被る少女が映し出されている。双方とも毛色は違うが作られたように目を惹く美貌、背中に生える歯車をあしらった大きな翼、そして頭上に輝くヘイロー。

 

 

「人型になってる……⁉︎それじゃあ今領域支配機は…⁉︎」

「行方知れずとなっています。今マエストロ、デカルコマニー達が行方を────」

 

 

黒服の懐から音が鳴る。携帯端末の着信音だったのだろう、「失礼」と短く言葉を残した黒服がこの場から離れるのを横目にがらんとした格納庫へ視線を向ける。

 

 

「先生、大丈夫ですか?」

「あぁ、うん。大丈夫だよ。それよりメルちゃんこそ大丈夫なの?その、お姉さん達が行方不明で」

「姉様たちの心配もありますが…私が心配しているのはお父様のことです」

「クロキ君?どうして?」

 

 

白く綺麗な長い髪を揺らし、空っぽになった格納庫からこちらに向き直る彼女は宣う。

 

 

「だって、この状況で姉様達に洗礼を施したのがあの時私を蝕んだアレだと言うのなら、その目的はまず間違いなくお父様の殺害ないし存在の抹消でしょうから」

 

 

そういう彼女の瞳は静かで、なんの感情の起伏も感じ取れない。そんな彼女に何か言葉を尽くそうとした矢先、黒服が「すいません」と話し始める。

 

 

「先生、メルキオール。少し先を急ぎますので付いてきて下さい」

「何かあったの?」

「マエストロより連絡です。トリニティ管轄下第二楽園区画にて領域支配機バルタザールと聖人が交戦を開始した、との事です」

 

 

端的な報告。そして、それがどれだけ危機的な情報なのかを瞬時に理解する。が、それと同時にこの場で一人止めなきゃいけない少女の手を掴む。

 

 

「───ッ」

「待ってメルちゃん!」

「離して下さい先生!とにかく今はお父様の下へ行かなければ…!」

「ここからトリニティまでメルちゃんの速さでも20分は掛かる、行っても間に合わないよ!」

「だからって…!」

 

 

こちらを引き離そうとする彼女に「そうです、メルキオール」と黒服が言葉を投げかける。

 

「あなたが飛んだのでは間に合わない───ですので、ここは一つ裏技を使いましょう」

「裏技?」

「えぇ、そのセッティングもありますのでとりあえずは先のモニタールームへ。そこで状況を把握しましょう」

「…嘘だったらこの施設を破壊してまわりますからね」

 

 

そのまま黒服によって先導されるまま小走りで地下を進む最中、「それで」黒服に向き直る。

 

 

「クロキ君の周りには誰がいるの?彼のことだから生徒の誰かと一緒でしょ?」

「会敵直後はミレニアムのC&Cと一緒だったそうですが、現在は1対1で臨んでいるそうです」

「一人で領域支配機と戦ってるの⁉︎」

「えぇ、確かにお一人ではありますが…見えました。あそこがモニタールームです」

 

 

人感センサーで反応したそれは独りでに開き、私たちを招き入れる。

 

 

「クロキ君は───?」

 

 

正面にある大きなモニターはすでに点灯し、トリニティでの戦闘を映し出している。しかし、そこに映っていたのはまるで想定していなかった映像だった。

 

 

「クロキ君が、3人いる…?」

「あれはクロキさんではありません。彼の作ったドローンですよ」

「えっ、それじゃあクロキ君はどこに?」

「あそこです、あの瞳にも似た機械。おそらくあそこにいるはずです」

 

 

どこから撮っているのかわからないそれは、俯瞰的に戦場を映し出していた。クロキ君に酷似したドローンが3体、内一機は右腕が消失している。そんなドローンの背後には大きな瞳にも似た怪物と領域支配機とはまた違った機械の龍が控えているが、その両機ともに装甲の一部が融解して赤熱化している。

 

対する領域支配機と目される黒髪の少女は額に汗を滲ませながら体よりも大きな棺桶にも似た銃を振り回し戦場を駆け回っている。呼吸が上がっていることから疲労しているのだろうが、動き方のそれは人間離れしていて目で追うのがやっとだ。

 

 

「トリニティに配備してきた予備戦力の全てを持ち出していますね。数学者たちまで持ち出すとは…領域支配機が相手となれば当然ですが、いささか分は悪いようです」

「お父様……」

「えっ。クロキ君が戦っていることに疑問はないの…?」

 

 

私の想像では持てる知識を総動員して領域支配機から逃げ回っていると思っていたのだが、ここまで正面切って戦っているのなんて想定外にも程がある。

 

「聖人は戦えばほとんどの学園には勝てますよ、何を言ってるんですか」

「そうですよ先生。お父様はその気になればキヴォトスの半分を敵に回しても勝てるんですから」

「うぇぇ…?」

 

 

もしかして私はまだクロキ君の半分も知らないのではないか、なんて感情が浮かぶ。何度も膝を突きつけて話しているが、どうやらまだ足りなかったらしい。

 

 

「ですが、このままいけば確実に殺されるでしょう。いくら聖人とはいえ、彼にも不可能はある」

 

 

そんな黒服の言葉を証明するように、領域支配機が放った極光がドローンの内一体を貫いて爆散させる。

 

 

「先生、一つ頼まれてはいただけないでしょうか?」

「クロキ君の救出でしょ。もちろん、私は行くよ」

 

 

私のあっけらかんとした言葉に、黒服は驚いたように少し固まる。

 

 

「相手があの領域支配機だとしても、ですか」

「私とクロキ君は一蓮托生の身だからね。…それに、砂漠で彼と戦った時よりは余程気が楽だよ」

 

 

そうだ、相手が領域支配機だとかは関係ない。私はあの砂漠を乗り越えたんだ、今更この程度で怯んでなどいられない。

 

 

「…そういうと思っていました。流石は聖人が心より望んだお人です」

「それで、裏技というのは?」

「審判の都市で用いた奇跡の御業…つまるところはテレポートです。我々ゲマトリアの叡智と船の演算機能があれば、人二人くらいなら送り届けられる筈です」

「またとんでも技術を…わかった。どれくらいで準備できる?」

「すぐにでも。そこに二人並んでください」

 

 

モニターを背に私とメルちゃんの二人が並ぶ。

 

 

「飛んだ先は既に死線です───メルキオール、先生と聖人を頼みます」

「お任せください。この命に代えても、二人をお守りしてみせます」

 

 

その宣誓の直後、目の前に先の見えない黒い靄が出現する。かつて審判の都市で初めてメルちゃんが現れた時と同じものだ。

 

 

「現地にはマエストロも待機しています、予後のことは彼にお任せを。それではご武運を」

 

 

激励の言葉と共に揃って靄の中へ足を踏み入れる。

身体をスライムのような粘度の高い物質がまとわりつくような感じにぞわぞわとするが、それも構わず進み続ける。

 

時間にして1分ほど靄の中を歩き続けると、先に光を見つける。「あれが出口です」と先行した彼女の後を追い、早足で突き進む。

 

 

「───出た!クロキ君は⁉︎」

 

 

モヤから飛び出た矢先、焼け焦げた匂いに鼻を覆いながら周囲を見渡す。ほとんど廃墟と化したその場所で視線を巡らせ────そして、ついに目的の人物を見つける。

 

 

「見つけた、クロキ君────?」

 

 

地面に膝をつきながら領域支配機へと向き合い右手を伸ばす彼。

彼を見つけられた嬉しさに最初は笑みがこぼれたが、その足下に流れる夥しい赤い液体に気がついて表情が固まる。

 

領域支配機へと伸ばす右腕、その反対側にあって然るべきものが見つからない。

 

 

「……なんで」

 

 

左腕欠損。楽園を作る少年の腕がなくなった事実を理解した時、初めて私は理解した。

 

 

この世界は、あまりにも少年にとって過酷すぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






鏑木クロキ(トリニティ・決戦形態)
キヴォトス全体でも10本の指に入る程度には強い。具体的には正面から打ち合って臨戦ホシノを20分間は足止めできる程度の実力。神聖十文字を模した『F:ケセド』に搭乗し、数学者たちを有線接続で操作する。ケセドを通じて神託を受信した数学者たちは単独で正義実現委員会の上澄程度の能力を有しているため、アビドス三章でホシノに立ち塞がった奥空アヤネを10倍強くしたものに感覚としては近い。神秘を意図せず行使できる現状では特に神聖十文字相手に滅法強く、その気になれば一人で全ての神聖十文字を殲滅できる。


先生
キヴォトスがどういう世界なのかを改めて理解らされてしまった先生。心がざわついているが、言わずもがな簡単に左腕を吹き飛ばされたロボットが悪い。こんな事になるのなら色仕掛けでもなんでも使ってずっと側にいてと願えば良かったと後悔している。


数学者たち、又の名を戦闘用ドローン【鏑木クロキ】
神秘を授けることに成功した場合はこれをキヴォトス中で活動させる事を想定していたため外装部分はほとんど鏑木クロキそっくり。審判の都市で産み出された鏑木クロキそっくりのドローンの原型機でもある。
わざわざ場所を設けて満面の笑みで明星ヒマリと調月リオに試作品を披露した際に双方から10万文字を超える長文お気持ち批判文を受け取ったため泣く泣く外装部分に偽装装甲を取り付けた経緯がある。鏑木クロキが気分でつけた偽物のヘイローが搭載されていたが、本文では本物のヘイローが点灯している。


明星ヒマリ
鏑木クロキのバイタル値が異常値を叩き出した為急いで現状を確認したら左腕のセンサーが丸々消失しており、現状を察して卒倒。現在はエイミに連れられて保健室に搬送された。今度丸腰で出逢ったら監禁コース。


調月リオ
こっそり鏑木クロキの様子を伺っていたが、いきなり左腕が吹き飛んで泡を吹いて倒れた。領域支配機Casparによって蘇生処置を受けて現在は体育座りをしている。

ワイルドハント美術学院
建築技術の学生講師として一月だけ鏑木クロキが在籍していたが、時代を先駆ける寵児の授業と言うこともあって抽選が加熱し、暴動が起きかけたためひっそりと姿を消した。ラクエンヅクリらしい去り方とも言える。


ハイランダー鉄道学園
突然自動運転が停止した楽園リニアの復旧作業に血眼になって取り組んでいる。今度クロキにあったら絶対に文句を言ってやると橘姉妹は誓ったとか。


プラナちゃん
鏑木クロキの左腕が消失した直後に嘔吐、その後ドス黒い瞳をしたままクラフトチェンバー0号機へのハッキングを開始。利用可能まであと1分程度。



Q.クロキ君あっさり負けすぎじゃない?

ヒント.鏑木クロキはフロム系ボスであり、ジャンルもACではなくブラボ。




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