ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります   作:あーけろん

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閲覧、感想、評価、誤字脱字報告の全てに感謝を。


※次回投稿は3月29日を予定しております。お時間をいただきますが、何卒ご容赦ください。







もうとっくに壊れてる

 

 

 

「……なんだ、その醜い姿は」

 

 

廃墟同然と化したホテルのエントランスに、嘲りの声が響き渡る。

 

 

「均衡の取れていない機体、漏れ出すオイル、飛び散る火花……ロボットというのも烏滸がましい、ガラクタのような出立だな」

 

 

喪服のような真っ黒なスーツに袖を通した、凛とした立ち姿のロボットの対面。身体のあちこちから火花が飛び散り、装甲の隙間からは血液に似た液体が流れ出る躯体、有り合わせの部品を繋ぎ合わせたような均衡の取れていないフォルムは、確かにガラクタと称してなんら間違いのない姿だ。

 

 

「確かに、俺はガラクタだろうな───何せ、コピー元がとんでもない欠陥機体だったんだ、そうなるのも無理はないだろ」

 

 

そんなガラクタと呼ばれたロボットはしかし、見た目に反して流麗な口調で言葉を紡ぐ。

 

 

「…なに?」

「聞こえなかったのか?お前はとんでもない欠陥機体だって、そう言ったんだよ」

 

 

その嘲笑への返答は言葉ではなく、クラフトチェンバー0号機のコントロールユニットの出現という対応で返される。いつぞやの砂漠の時と同じソレが喪服のロボットの周りに浮遊を始める。

 

 

「クラフトチェンバー0号機の管理者権限を取り戻しただけで随分強気だな。それが元は誰の力か忘れたのか?」

 

 

黒い線が空を翔け、無数のドローンを産み出す。かつての砂漠で使われたものとは違う、原作ブルーアーカイブに登場するものと瓜二つなそれに、ガラクタは小さく頭を振る。

 

 

「ここでやり合うつもりか。先生や領域支配機達を巻き込んでも構わないと?」

「先生はともかく、領域支配機を気にかける必要がどこにある?所詮作られた存在、原作に登場しない舞台装置だぞ」

「───話にならないな」

 

 

冷たい言葉を紡いだ直後、漏れ出していたオイルの様なナニかが形を持ち、瞬く間にロボットとガラクタの両機を取り囲む。それは、二人だけを隔離する事を目的とした行動であることは明白で。

 

 

「クロキ君⁉︎」

 

 

ガラクタに向けて手を伸ばす女性の方の声が半透明のドームに遮られる。それからガラクタは視線を先生に向けると小さく手を振り、それからハンドサインを作る。『その場で待機』と。

それでもなお半透明の壁を叩く先生を余所目に、再び正面に向き直る。

 

 

「やっぱり信頼されてないなぁ…。まぁ、俺の今までの行動からしてしょうがないか」

「一人で戦うのか?先生の支援もなしで勝てると?」

 

 

尚も際限なく増え続けるドローンの集団を前に、ガラクタは小さく息を吐いてから続ける。

 

 

「あぁ。これからやる事に、あの人は関係ないからな」

 

 

刹那、音速を超える速度で飛び出したガラクタを前に言葉を止め、正面に分厚い鋼鉄の装甲を出現させる。

厚さ1cmを超える装甲板はしかし、紙切れの様な容易さで貫かれてその奥からチェンソーを思い切り振り翳す怪物が姿を現す。ひび割れたのっぺらぼうの仮面に歪な灯りを灯した、正しく怪物の様なガラクタを前に一瞬思考が止まる。

 

 

「チッ────!」

 

 

コンマ数秒の停止の後、回避行動を取るべく身体を横にずらす。胴体を両断するべく振り下ろされたそれは装甲を掠るだけにとどまるが、それすら想定通りとチェンソーを投げ捨てると人間離れした動作で空中で翻し拳を固く握りしめる。

 

 

「───これは、バルタザールの分だ」

 

 

直撃の瞬間肘に増設されたバーニアが火を吹き、生徒であろうと昏倒させる一撃が正確にロボットの左頬を撃ち抜く。

 

 

「ガッ⁉︎」

 

 

致命的とも言うべき直撃を受けたロボットは顔の装甲をひしゃげながら吹き飛び、半透明のドームの壁に激突して停止する。けたたましいアラームがあたりに響く中、大理石を踏み締める音が嫌によく響く。

 

 

「この、ガラクタ風情が…!」

 

 

怨嗟に満ちた声が響く。顔面の装甲がひしゃげた中身───そこには何もない、空っぽの空洞があるだけだ。

 

 

「お前、やっぱり【中身】がないんだな、動き方が妙にロボットらしいと思ったよ」

 

 

役割を終えたバーニアが音を立てて崩れるのを払いながら淡々と口にする。しかし、その節々には隠しきれない憎悪の感情が見え隠れしている。

 

 

「そうなると本体はいまも方舟の中か?おそらく十字架に繋がれて久しいから肉体があるのかもわからないな。きっと醜い、見るに耐えない身体になっている事だろうよ」

「囀るなよ、作られた存在でありながらその役割を果たせなかった『失敗者』が」

 

 

ひしゃげた装甲が逆再生する映像の様に復元すると、その手に銃身を切り落とした散弾銃を出現させる。

 

 

「お前が感じた事、願ったことは全て与えられたモノだ。ブルーアーカイブという物語を担保するために仕方なく用意された部品、歯車なんだよお前は」

 

 

立て続けの三度の発砲。耳をつんざく轟音と共に打ち出された幾百の弾丸は寸分の狂いなくガラクタに襲いかかり、爆炎と共に煙が吹き上がる。

 

 

「───一々迂遠な言い回しをするなよ。はっきり言ったらどうだ?先生と一緒に居られる俺が羨ましいって」

 

 

勢いよく舞い上がる黒煙を掻き分けるようにガラクタが現れる。身体のあちこちが多種多様な装甲で散りばめられた出立となったそれは、傍目から見たらいつ崩れてもおかしくない様相だ。

 

 

「…なに?」

「それともあれか?こう言ったほうが良いか?───『先生』から見放されて可哀想に。同情するよ、心の底から」

「───殺す」

 

 

端的な殺意の発露、その後に鳴り響くけたたましい銃声はしかし、そのひとつたりともガラクタに当たることなく空を切って終わる。

 

 

「お前が俺のコピー元?笑わせるなよ、お前は俺じゃない。俺とお前じゃ何もかも違うさ。心意気も、信念も、何もかもがな」

 

 

ガラクタ染みた身体に執拗なまでに散りばめたバーニアから煙が吹き上がるとほぼ同時、血溜まりのようなオイル溜まりから形を持った物質が夥しい数現れる。

それは形状は違えどほとんどが銃火器であり、まるで墓標に突き刺さったまま現出したそのうちの一つを手に取ると、慈しむようにそれを一度撫でた。

 

 

「───ごめん、使わせてもらうよ」

「何を────⁉︎」

 

 

短い謝罪の刹那、ガラクタの身体に張り付いていたボロ布のような制服が瞬く間に燕尾服に切り替わる。少女アニメの変身のような変化に動揺した瞬間、ロボットの片腕が空を舞った。

ガラクタの手にある二丁のサブマシンガン───美甘ネルの専用武器と酷似したソレの銃口から漂う硝煙が揺れる。

 

 

「その動きは…⁉︎」

 

 

驚愕の声は自らの腕を飛ばしたことでなく、その動きに強烈なまでの既視感を覚えたことに起因する。忘れるはずもない、精神操作を受け付けなかったばかりか、直接方舟から派遣された刺客の悉くを鏖殺した「特別警戒個体」…美甘ネルと結ばれた「失敗者」の動きと酷似していたからだ。

 

 

 

「ははっ、凄いなこれ。俺も何が何だかわからない」

 

 

新しい機能に興奮する無邪気な少年のような声色のまま、目にも止まらない速さで喪服のロボットを解体して行く。

 

 

「な、めるなぁ‼︎」

 

 

解体された矢先に再生した腕から生えた榴弾が爆発し、黒煙から無傷のガラクタが後方に飛び退く。

 

 

「そうか、そのガラクタのような出立…!どういう原理か知らないが、別世界の「失敗者」の記憶を再現しているのか!」

「ご名答。なんだ、まだ推論を立てられるだけの思考能力は備わっているじゃないか」

「馬鹿げた事を!同一存在とはいえ別人の記憶を再現するなど、自己と他者の境界線がグズグズになって精神崩壊するのが関の山だぞ!」

 

 

その悲鳴にも似た叫びを呼水に黒い裂け目から機械の顎門が姿を現す。領域支配機のデッドコピーともいうべき個体、思考AIを取り外したただ壊すだけの龍型ドローンが咆哮を上げる。

そのドローンの出現を前に瞬く間にリロードを済ませたガラクタはその叫びに小さく首を振ると共に呆れた様子を隠さずに口を開く。

 

 

「耳の痛い事を言ってくれるよ…でも、壊れているのはどちらかと言えばお前のほうだろうに」

「何を…!」

「お前、さっきブルーアーカイブの物語を担保する為に俺たちを作ったと言っていたよな。あれ、どうにも引っかかるんだ」

 

 

炸裂音と共にバーニアが吹き出し、刹那のうちに領域支配機に肉薄したガラクタの持つ銃口が頚椎部に押し当てられる。

 

 

「お前は『鏑木クロキ』という存在を物語を壊す存在としているが……それじゃあなんで、わざわざそんな物語を壊しかねない存在をせっせとばら撒いているんだ?」

 

 

短い連射音が鳴り響くと、竜の顎門が眩い火花と共に地面へと落ちてグシャリと潰れる。

 

 

「それは、「ブルーアーカイブ」という世界の安全を担保する為で…!」

「安全を担保することだけが目的なら「鏑木クロキ」である必要はないだろ。それこそ領域支配機で問題はないはずだ。つまるところお前はあえて「鏑木クロキ」を、物語を壊しかねない自分という存在を調停役に選んだ。これ、凄まじい矛盾だろ」

「矛盾…いや、そんな筈は───」

「…ま、良いや。どうせ空っぽのお前にそんな核心めいた情報は知らされていないだろうし」

 

 

あっけらかんと、まるで最初から興味がなかったかのような口ぶりの刹那、ガラクタの懐から一丁の拳銃が取り出される。作りは粗悪、照準もなし、威力も弱い────けれど、『鏑木クロキ』を殺す事についてはありとあらゆる手段の中で最良の選択肢となる「alt+f4」を。

 

 

「それじゃあ、本物の鏑木クロキによろしく」

 

 

乾いた一発の銃声の直後、地面に一体のロボットが崩れ落ちる。そのロボットがどちらなのかは、語るべくもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「────っ、ぁ」

 

 

額に穴が空いたロボットが地面に倒れるのを確認した後、手に持っていた武器が手から滑り落ち堪らずその場に蹲り言葉にもならない嗚咽混じりの単音を吐き出す。

 

身体中を突き刺す今まで経験したことのないような痛み、脳裏に否応なしに流れ込んでくる『別世界の鏑木クロキ』の記憶。見えているはずの視界がグルグルと回り、ふわふわとした実感のない感覚に脂汗が身体中から吐き出すのを感じる。

 

 

『臨戦形態解除、鎮痛剤緊急投与します』

 

 

端的なシステムのボイスの直後、パラパラと音を立てて装甲の一部が剥がれていく。自分が命令したことではないそれは、おそらく心配性な彼女の手配で。

 

【大丈夫ですか、クロキさん⁉︎】

「あ、あぁ。全然大丈夫だよプラナちゃん。言ったろ、大丈夫だって」

【その損傷状態で大丈夫とは言いません!とにかく直ぐに治療しないと…!】

 

 

仮面に映る画面の右端でワタワタと動く彼女に苦笑いを浮かべていると、急に左腕が軽くなる様な感覚を覚えた。

 

 

「…あっ」

 

短い驚愕。

臨戦形態を解いた事で役割を終えた左腕、それが静かに地面にこぼれ落ちたのだ。地面に落ちたそれは瞬く間に輪郭を失っていき、最後は砂の様に世界に溶けて消えてしまった。

 

 

「……ごめん、ありがとう」

 

 

生き残るためとはいえ、自分勝手に使ってしまったそれに謝罪と感謝を述べる。

 

 

【左腕と腹部の応急措置は完了しています。とにかく患部は触らず、絶対安静でお願いします】

「悪いね、色々と動いてもらっちゃって」

【…悪いと思うのなら、こんな無理は今後一切やらないで下さい】

 

 

心の底からの言葉だったのだろう、やけに重さを感じるそれに苦笑いを浮かべる。改めて、心配をかけてばかりだな。

 

 

「……ん?なんで俺はプラナちゃんの声が聞こえるんだ?」

【元々聞こえていたじゃありませんか。審判の都市の時、電車でお話ししたのを忘れたのですか?】

「いや、でもあれから結構経つけど…」

【ずっと黙っていたんです。私の存在が、貴方の重しになるんじゃないかと思っていたので】

 

 

彼女の口から飛び出したとんでも重力発言に目を白黒させる。

 

 

「……ごめん」

【謝らないで下さい。私、鏑木クロキという人の謝罪が世界で一番嫌いなんです。貴方の謝罪は殆どが謝罪じゃなくて事後報告でしたから】

「………」

 

 

ぐうの音も出ない正論に閉口する。正論はいつだって人を救わないのだと無言を貫くべく視線を横に移すと、そこには外部と隔離された半透明なドームが形成されたままになっている。

 

 

「なぁプラナちゃん。臨戦形態は解除してくれたと思うんだけど、まだ何かやっている?」

【?いえ、私は何も───────】

 

 

 

「それについては私の仕業だよ」

 

 

チャリンと金属が擦れる音が響く。音の方向へ首を向けると、そこには額を撃ち抜かれたロボットの右手に十字架のアクセサリーが握られていて─────⁉︎

 

 

 

「なっ、お前─────‼︎」

 

 

 

驚愕の叫びが広がるよりも早く、世界の景色が一変する。

廃墟と化したホテルのエントランスから塵ひとつないフラットな床へ、穴と煤だらけだった壁面から不気味な亜空間を思わせるドーム状の広場へと、舞台設定そのものが切り替わるように唐突に場面が変わる。

 

 

「ここは、アトラ・ハシースの…⁉︎」

 

 

かつて砂狼シロコと先生がプレナパテスと対面した大広場。『あまねく奇跡の始発点』に至るまでの最終局面。生徒達が運命を克服し自分たちの未来を切り拓くための最後の試練となるその場所に、歪なオブジェクトが据え置かれている。

 

直径10mは優に超える巨大な十字架。その中心視点に貼り付けられた人形のナニかに繋がれる夥しい数のパイプと点滴、シャーレの制服から覗く手足は病的なまでに痩せ細り、その顔には麻袋が被せられている。

 

 

「すまないね、こんな醜い格好で。本当はプレナパテスの格好で迎えたかったんだが」

 

 

喉笛に突き刺さったスピーカーから流麗な声が流れる。

見るも無惨、触れれば容易く折れるであろう木の枝の様な体躯…にも関わらず、脳裏には異常なまでの警報が鳴り響いている。

 

 

「…お前は、誰だ」

「知っているだろうに。哀れにも先生に見放されたばかりか、生徒達を正しく導くこともできなかった落伍者───『機械仕掛けの十字架(マキナ・プレナパテス)』だよ」

 

 

心底自身を侮蔑した口ぶりのそれはどこまでも卑屈で、過去の自分を見ている様な気分にさせられる。

 

 

「…シロコさんから聞いている。先生無しで奇跡の始発点を越えたのに、生徒達の記憶を消して方舟に閉じこもったって」

「奇跡の始発点…あぁ、あのくだらない経過点の事か。そうだよ、不遜にもプレナパテスを打倒し、シッテムの箱を戴いた醜い簒奪者さ」

 

 

醜い簒奪者、そうまで豪語したそれは深い溜息をこぼす。

 

 

「……それで、俺をここに呼んだ理由はなんだ」

「ん?殺されるとは思わなかったのか?」

「お前がその気ならここに呼ばれた瞬間に殺されてる…それだけの力量差はあるって自覚してるよ」

 

 

──さっき借りた力の持ち主だった『別世界の鏑木クロキ(美甘ネルと添い遂げたクロキ)』すら勝てなかったのなら、今の俺がどうこうできる相手ではない。故にここに呼ばれてしまった時点で、俺の生殺与奪の権利は相手にあることに疑いはない。

そんな極限状態の中、目の前の十字架は淡々と語る。

 

 

「お前をここに呼びつけたのは、ひとつ報告があったからだ」

「報告?」

「あぁ───つい先ほど、お前のいる世界の座標を正確に察知した。この方舟は、今から300日後の丁度0時にお前のいるキヴォトスへ落着する」

「………はっ?」

 

 

───あまりに端的なその報告に、意図せず口から言葉が漏れる。脳裏に溢れた様々な疑問が洪水の様に思考を覆い尽くすが、何より大きな疑問は。

 

 

「なんで、その報告を俺に…?」

 

 

なぜ、そんな重要な情報をこちらへ提供するのか。ブラフのつもりなのか、それとも別の意図があるのか。

…いや、わざわざ今直ぐ殺せる存在にブラフを撒く必要性はない。であるならば、目の前のこいつの言葉は真実ということになる。

 

 

「理由はないよ。強いていうなら、今から300日の間お前に恐怖を覚えてほしいだけだ」

「っ、ふざけてる…!」

 

 

淡々とした様子で語る口ぶりに奥歯を噛み締める。

 

 

「なんでだ!なんでお前は『俺たち(鏑木クロキ)』を殺す⁉︎さっきのロボットの話が本当なら、お前が作ったんだろ⁉︎なんで不確定要素を残したものをばら撒く⁉︎その行為に、なんの意図があるんだよ⁉︎」

「簡単だよ。自分で自分を罰するためさ」

「───はっ?」

 

 

あっけらかんと語るその言葉の意図が分からず、素っ頓狂な声が漏れる。自分を、罰するため?こいつは一体何を言っているんだ?

 

 

「俺は、許されちゃいけないんだよ。恐れ多くも先生の代わりを果たせると勘違いして、その結果何もかもをぐちゃぐちゃに引っ掻き回してしまった。その咎は、とても背負い切れる罪の大きさじゃない」

「な、何を…」

「死によって罪を償うことを真っ先に考えたさ───けど、先生から託された生徒達を置いて死ぬ事なんて出来るわけがない。自分を諦めることもできず、かと言ってのうのうと自分が生きていることを許容できない。だからその折衷案として、俺は俺の『可能性』の全てを罰することにした」

 

 

「神を自称する狂った自動販売機───神聖十文字を加工して作り上げた世界を書き換える『十字架』を用いて可能性の世界に自己の模倣品を送り出し、その全員を十字架という永劫の苦痛に見舞わせる。それが、俺に残された唯一の贖罪の方法なのだから」

 

 

 

───柔らかいその口調は、なにより彼の心を物語っている様に感じる。

 

 

 

「さっきのロボットは、鏑木クロキは物語を保証するための機体だと言っていたが」

「半分事実だね。なんらかのイレギュラーが発生することはよくある。それに対処するのも重要な役割だ」

「生徒達は、鏑木クロキが好きだった生徒達はどうした?お前は、生徒達の幸せを願っていたんじゃないのか?」

「そんな生徒はいないよ。例えいたとしても、全て漂白された後では分かりようもない。観測できないものはいないものとして扱う、当然だろう?」

「鏑木クロキの中に、お前とは似ても似つかない奴は居なかったのか?それは、お前と同じ存在じゃないんじゃないのか?」

「鋼鉄大陸のクロキの事かな?まぁでも大元が同じであれば、どういう風に変化したところで同一であることに違いはない。それに、鏑木クロキが生徒と結ばれるなどあってはならない事だ。それは双方にとって不幸なことだ、とても見過ごすわけには行かないね」

 

 

話している様で噛み合わない。会話をしている様でまるで会話になっていない。けど、話ができたところで結論は変わらなくて。

 

 

「───お前、もうとっくに壊れていたんだな」

 

 

ごめんシロコ。十字架を助けるって約束、叶えられそうもない。

だって、こいつはもう『鏑木クロキ』じゃない。こいつはもう、贖罪とも呼べない殺戮を無為に続けるだけの機械仕掛けの獣になっていたのだから。

 

 

「勘違いしていた、お前は、ブルーアーカイブの事だけを考えるあまりに狂ったんだって。でも違った────お前、もうブルーアーカイブや生徒達のことなんてどうでも良いと思ってるんだろ」

「……………」

「そんなお前がプレナパテスを、先生の代理を名乗る?バカも休み休み言え。お前は彼らの様な高潔な精神とはもっともかけ離れた、悍ましい自己愛の怪物だよ」

 

 

残った右腕を高く聳える十字架の真ん中、見下ろす様にこちらを見る壊れた獣につきつける。

 

 

「どんな事情があったって知るか。お前は必ず俺自身の手で殺してやる。それで、お前のイかれた代償行為を終わらせる」

 

 

 

 

 

 

 

「───あぁ。それは、とても楽しみだな」

 

 

 

 

 

 

意味深な言葉を最後に。ブレーカーが落ちた様に世界が光を失うと共に俺の意識は暗転し、暗い闇に溶ける様に沈んでいった─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

エントランスを覆っていた半透明のドームが掻き消え、それと同時に領域支配機にまとわりついていた液体金属が弾ける。エントランスに広がっていた威圧感ともいうべき緊迫もすっかり掻き消え、パチパチと小火が燃える音だけが鼓膜を叩く。

 

 

「───終わった、のですか」

 

 

身体に残った液体金属を手で払いながら呆然と呟くメルちゃん。その視線の先にはドームがあった中央で仰向けに倒れるクロキ君へ向けられている。

 

 

「えぇ、どうやらその様ですね」

 

 

同じく領域支配機のバルタザールも静かに立ち上がると、同じくクロキ君へ視線を向けている。

 

 

「……」

「言っておきますが、メルキオール。今は貴女と戦うつもりはありませんよ」

「…それなら良いのですが」

 

 

二人の僅かに火花が散るが、それもすぐに沈静化する。

 

 

「クロキ君は…?」

 

 

倒れるクロキ君へと静かに近づく。意識を失っているのか、こちらに反応する様子はないが、装甲が規則的に上下していることから呼吸をしていることは間違いない。

 

 

「っ、やっぱり左腕は…」

 

 

つい一瞬前まで繋がっていた様に見えた左腕はそこになく、無惨にも肘上から先がなくなった姿がある。腹部に負っていた怪我もどういう原理かわからないが塞がっているが、とにかくすぐに救急病院に見せなければならないと通信端末を取り出す。

 

 

「と、とにかく救急車を────!」

「────せ、先生⁉︎どうしてトリニティに…⁉︎」

 

 

 

廃墟のエントランスに聞き馴染みのある生徒の声が響く。振り返るとそこには玉の汗を額に浮かべた飛鳥馬さんが肩で息をし、割れたガラス片を踏みしめながらこちらに近づいてくる。

 

 

「飛鳥馬さん!そっか、クロキ君の護衛で……」

「は、はい。それで、クロキさんは──────?」

 

 

息を整えながらエントランスに入ってくる彼女。破片をいくつも踏み潰しながら進んだ先で、それを見た。

 

 

「……へっ?」

 

 

ガシャンと、彼女の持っていたライフルが地面に落ちる。

地面に仰向けで倒れるクロキ君、その左腕にあるべきものがない事を一瞥して気づいた彼女の瞳孔は限界まで見開き、口から言葉にならない音を漏らす。

 

 

「う、嘘ですよね?駄目ですよクロキさん、そのネタは金輪際やらないと前に仰っていたじゃありませんか。今時欠損ネタなんて流行らないですよ…?」

「飛鳥馬さん……っ」

 

 

おぼつかない足取りでクロキ君に向かう彼女の肩を掴もうと手を伸ばし───そして、それを止める。どんな言葉を重ねたところで、彼の腕がなくなった事実は変わらない。まして護衛としての彼女に、一体どんな言葉をかければ良いのか。

 

そのまま血に汚れることも厭わず彼の真横にぺたりと座り込むと、なくなった左腕を探す様に何もない空を手探りで探す。

 

 

「おい飛鳥馬!一人で勝手に突っ込む─────?」

 

 

遅れて入って来た美甘ちゃんの声が後ろに連れて小さくなる。そして状況を察したのか、右手を口元に当てて信じられないというように目を見開く。

 

 

「…片腕じゃ、私に教えてくれたようなダブルピースはもう、出来ないじゃないですか」

 

 

消え入るような声なのによく響くその言葉は、確かに涙に濡れている。

 

 

「────お前だな。私のクロキさんの左腕を奪ったのは」

 

 

だが、彼女がただ悲しみに暮れるだけの少女であるのかと問われれば、それは絶対に違って。瞳孔が極限まで絞られた敵意を超えた殺意の波動が一直線に領域支配機バルタザールへと向けられる。

 

 

「…弁明はありません。事実ですから」

 

 

僅かに目を伏せた肯定。直後、スカートを捲った太ももからナイフを引き抜き構える。

 

 

「──五体満足で帰れると思わないことです。その四肢、何があってもちぎり取ってみせます」

 

 

目にも止まらぬ速度で走り出した飛鳥馬さん────その突進を正面から受けきったバルタザールは小さく歯噛みすると飛鳥馬さんを投げ飛ばす。

 

 

「このっ!」

「──申し訳ありませんが、ここで捕まるわけには参りません。私には、まだやる事があります。お父様を傷つけた罪は、その後必ず」

 

 

恭しく頭を下げた彼女のスカートの裾から十を越えるグレネードが音を立てて地面に転がるとそれは爆発と同時に大量の煙を吐き出して一瞬にしてエントランスを視界不良に陥れる。

 

 

「っ、飛鳥馬!下手に動くな、先生に当たるぞ!」

 

 

美甘ちゃんの鋭い指令の直後、耳元に鈴の様な綺麗な声が聞こえる。

 

 

「お父様に伝言を───アリウスの皆さんをお借りします、と」

「へっ、それって…?」

 

 

聞き返す言葉に返事はなく、風が吹く様にその場から領域支配機が消える。まるで魔法の様に煙が晴れるとそこにはバルタザールの姿はなく、ガシャンと強く地面を踏み締める飛鳥馬さんの地団駄の音が響く。

 

 

「正義実現委員会です!即刻戦闘行動を停止して────クロキさん⁉︎救護班!すぐに来てください!クロキさんが───⁉︎」

 

 

 

 

 

 

──────テロ行為により鏑木クロキが意識不明の重体とトリニティから正式な発表があった2時間後、ミレニアム・サイエンススクールより連邦生徒会へ向けて都市整備部および株式会社楽園造園室の解体が通達されると共にトリニティ側へ本件テロ行為の首謀者の即時引き渡しを要求。これが叶えられない場合即座に国交を断絶するという強行的な姿勢を前に連邦生徒会の七神首席行政官は強権により話し合いの場を設けることとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






本作主人公、あるいは失敗者

先生に見捨てられた最初の『鏑木クロキ』、その人格を模倣して砂漠で覚醒した存在。行き過ぎた原作信仰や自己罰の感情はコピー元の善良だが強すぎる責任感がバグった結果生じた精神疾患である。本人はこれが自分の性質であると半ば諦めていたが、これが与えられたものであると教えられた事で逆に吹っ切れたとか。臨戦形態となった際に流れ込んだ別のクロキの記憶が混濁しており、精神情緒に著しい障害が発生している。具体的に言えば、押し倒せばなんとかなるかも知れない。


鏑木クロキの種類

・機械仕掛けの十字架
オリジナルクロキ。本作主人公の生みの親。贖罪を求め続ける獣。

・擬似人格「鏑木クロキ」
審判の都市で登場した人工AI。インターネットウイルス様なもので、一定の条件を満たすと自動的にインストールされる。

・喪服の鏑木クロキ
擬似人格や精神操作によって処分できなかった場合に派遣される実行部隊。機械仕掛けの十字架に極めて近い人口知能が搭載されているロボット。中身は空っぽ。

・青春保証機体『鏑木クロキ』
機械仕掛けの十字架のコピーロボット。総数不明。ロボットとは言っても中身は人間であり、本作主人公もこれにカテゴライズされる。


十字架、あるいは自動販売機

自らを神と自称するちょっとおちゃめな自動販売機を黒服と鏑木クロキが作り変えた成れの果て。青春保証機体が使用する十字架はこれのコピー品である。世界を滅ぼせるだけの自己嫌悪を間近で浴び過ぎたせいで思考領域が完全に狂ってしまい、唯唯諾々と主人の命令を熟す従順な羊にされてしまった。真の神性は狂気の裏にこそ存在する、とは自販機の言葉である。



Q.機械仕掛けの十字架は何を求めているの?

A.『罰』です。そして『自分』に罰を下すものは『自分』だと、彼はそう言ってます。

Q.機械仕掛けの十字架は本当に生徒達の事がどうでも良くなったの?

A.本当に生徒達の事がどうでも良くなったのなら、今頃彼は冷たい床に寝転がっています。



※以下作者あとがき


みなさんお久しぶりです、作者です。
なんとかトリニティ編も無事終わらせる事が出来そうなので、一度現状のご報告も兼ねて筆を取らせていただきました。

さて、今回のトリニティ編は次章に控えております『ミレニアム+SRT小隊』をモチーフにした第二章の繋ぎとして組み上げたストーリーとなりました。原作の流れをあまり踏襲しない作風は初めてでしたので、至らない点が多々あったかと思いますが楽しんでいただけましたら幸いです。

今回のトリニティ編を投稿した意図について、これは「主人公の情報」の開示が大部分を占めると思います。今回のトリニティ編を持って主人公の背景設定について現時点で固まっているものは殆ど開示が終了いたしました。
というのも主人公の設定について少しだけ重ためのものがございましたので、これを順に開示するのは次章の雰囲気に合致しないと考えた次第でございます。

色々と難産な箇所はございましたが、なんとか無事にトリニティ編を終える事が出来てほっとしております。これで心置きなく次章に臨む事が出来ます。

しかし、ここで一つ皆様にご報告をしないといけない事がございます。本作をここまで読んでくださった読者の皆様についてはおおよそ検討はついていると思いますが、今後本作では生徒vs生徒の構図が多く発生します。これは戦闘に限らず、政治描写でも多く描写される事が予測されます。私としてもこの描写を曖昧にする事はできないと覚悟しておりますので、そう言った描写が苦手な人は評価やお気に入りを削除の上ブラウザバックをしていただければ幸いです。

以上で作者あとがきを終わります。それでは皆さま、激おこミレニアムによるトリニティカチコミの現場でお会いしましょう。



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