ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります   作:あーけろん

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誤字脱字報告、感想、評価、閲覧、ご指摘の全てに感謝を。

返信できていませんが、感想には全て目を通しております。いつもありがとうございます。感想で曲や歌詞に例えた方がいらっしゃいましたが、調べてみたらどれも素晴らしい曲でした。ご紹介くださりありがとうございます。
筆者は拙作のプロットを練る際に『誰かの心臓になれたなら歌:GUMI 曲・動画:ユリイ・カノン 絵:片井雨司』を良く聞いていました。ブルアカの世界観に合いそうな曲があったら感想やメッセージで教えて頂けると嬉しいです。






犯した責任と小鳥遊ホシノ

 

 

 

「撤退撤退〜!勝てるかこんちきしょ〜‼︎」

「……ふぅ」

 

 

リーダーと思しき号令によって散り散りになって敗走していくヘルメット団を見送る─────良かった、とりあえずはなんとかなったらしい。

 

 

「お疲れ様でした先生。流石の指揮でしたね」

 

 

私の横で殆どアヤネちゃんと通信しっぱなしだったクロキ君が立ち上がって手を叩く。だが、彼の賞賛に対して私は苦笑いを浮かべることしか出来ない。

 

 

(いやいや、それを言うなら君こそなんでアロナの補助なしであそこまでわかるの⁉︎)

 

 

サンクトゥムタワーの管理権奪還の時から2回目の戦闘指揮であったが、その難易度は最早比べるべくもない。最初の戦闘をハードとするのなら、今回の戦闘はベリーイージーとでも言うべきだろう。

 

 

『先生、十六夜のリロードがまもなく完了します。斉射に合わせて砂狼のドローンで爆撃をかければ前線に圧を掛けられます』

『黒見をもう少し前進させた方が良いですね。タイミングは合わせますので、随意に指揮してください。その時に防壁を展開します』

『砂狼及び小鳥遊の補給は完了してます。後は後衛の駒を二人で飛ばせば総崩れしますね』

 

 

適宜欲しい情報とアドバイスが飛んできて、尚且つ補給までやってくれるのだ。もはやベリーイージーですら過言と言うべきだろう。正直途中からヘルメット団が可哀想に見えてしまった。

 

 

「く、クロキ君は戦闘指揮もできるんだね」

「工事現場を襲われることなんて日常茶飯事でしたから。慣れてるだけですよ」

 

 

先程まで触っていた端末を制服の胸ポケットに仕舞うと、軽く身体を伸ばす。どうやらその端末で『クラフトチェンバー0号機』を使っていたらしい。どこにでも売っているような端末だったのだが、私のシッテムの箱と同様特注品なのだろうか?

 

 

「これはごくごく普通の端末ですよ。そこらへんの携帯ショップで買えます」

「あ、顔に出てた?」

「えぇ。先生も私に似て顔に出ますね」

「クロキ君、ロボットなのに顔に出るの?」

「…私も不思議に思っているんですが、友人にそう言われたんですよ」

「へぇ……。それって女の子?」

「……黙秘します」

 

 

どうやら女の子らしい。アビドスの子たちもそうだったけど、先輩は何人の女の子と関係を待っているのだろうか…。

 

 

「それより先輩、さっきのクラフトチェンバーって…」

「あの、ここで先輩呼びは辞めてください……」

「生徒達がいないから大丈夫ですよ。それで、さっきのが先輩の力ですか?」

 

 

無から突然現れた弾薬や防壁を思い出す。青白い線が空間に走った直後にそれが実体化し、ほとんど瞬きのうちに現れ生徒達を支援したが、あれは殆ど魔法に近いものだと感じた。

 

 

「所詮借り物の力ですよ。それに、シッテムの箱の演算補助がなければあそこまで早く正確に実体化なんてできません」

 

 

胸ポケットから端末を取り出すと、それを私に手渡す。小さな画面には幾千通りのレシピが網羅されており、まるで物質の辞書の様だ。

 

 

「ここに登録されているレシピを出力しているんです。大きな質量のもの、複雑な物体はそれだけ多くの時間が掛かりますが、今回は先生のお陰でその出力時間を大幅に減らせた、という訳です」

「な、なるほど…?」

「簡単にいえば、先生が近くに居ないと使えない力と言うことです。なので、私をあまり戦力に数えないで下さいね」

 

 

なんて事を言っているが、その見た目からいえばどの生徒よりも強そうに見える。何せ全身を鋼鉄のスーツで覆っているんだ、生半可な弾丸など通さないと思うけど…?

 

 

「……あ、そろそろ生徒達が帰ってきますよ」

「わかるの?」

「えぇ、センサーが音を拾いました。おそらくもうそろそろ……」

 

 

クロキ君が端末をしまい、扉へと視線を向けるとほぼ同時にガラガラと強く扉が開かれ、対策委員会のみんなが見える。良かった、見たところ大きな怪我は無さそうだ。

先頭にいるシロコちゃんに向かって微笑み、労いの言葉を紡ぐ。

 

 

「お疲れ様、シロコちゃん。みんなもお疲れ─────」

「ん、クロキ。さっきの力は何?どう言う魔法?」

「あんたこんな力を隠してたの⁉︎秘密主義にも程があるでしょ⁉︎」

「そうですよ!こんなに便利な力があるならもっと早くに言ってくれれば良かったのに!」

 

 

私の横を通り過ぎてゾロゾロとクロキ君に詰め寄っていく。…まぁ、そっか。クロキ君クラフトチェンバーの事をみんなに伝えてなかったんだもんね。

 

 

「ん、良い機会。もう抱えている秘密を全部吐くまで帰さない」

「拘束用の縄ならたっぷりあるんだから!絶対逃がさないわよ…‼︎」

「ちゃんと話す!ちゃんと話すからとりあえずは離れてくれ!圧が凄い‼︎」

「あはは……あれ?」

 

 

そこで、その中に一人足りていないことに気づく。視界を入り口に向けると、そこには銃を降ろしたまま立ちすくんでいるホシノちゃんの姿があった。

 

 

「ホシノちゃん?どうしたの?」

「……えっ。あ、いや。なんでもないよ〜」

 

 

私の言葉にはっとした様子で、直ぐに銃をロッカーにしまうと「ほらほら皆んな、クロキから離れるよ〜」と号令を掛ける。

彼女の言葉に渋々と言った様子で離れるのを見て、一度咳払いをする。

 

 

「いろいろ聞きたい事はあると思うけど、まずはみんなお疲れさま。それでこの後なんだけど……」

「先生。とりあえず一息着いた所ですし、時間も丁度いいのでお昼にしませんか?」

「え、もうそんな時間?」

 

 

時計を見ると12の数字に短針が差し掛かろうとしていた。戦闘している時は気が付かなかったが、どうやらそれなりの時間になっていたらしい。けど、このままお昼を食べに行くと言うのも気が引けるし、なにより…。

 

 

「お昼より先にお話した方がいいと思います。クロキさんにはほんっとうにお話ししたいことがいっぱいありますし」

「そうよそうよ!こんな気持ちのまま美味しくご飯なんて食べられないわ‼︎」

「ん、ノノミやセリカの言う通り。もしクロキが変な事を言ったらお店ごと吹き飛ばしかねない」

 

 

彼女たちは現に怒り心頭と言った具合だ。こんな状態で外に食べに行くと言うのは流石に教職者として看過できない。

だがそんな私の考えを読んでか、クロキ君が続ける。

 

 

「流石にこの状態で外に食べに行くと言うわけにはいかないと思いますので、今日は出前を取りましょう」

「クロキ、苦し紛れの嘘はよくない。ここはずっと昔から出前の配達圏外」

「……確かに、普通のサイトを使えば確かにここは圏外だ。けど俺は人脈作りに命をかけてきたんだぞ?如何様にも手段はあるさ」

「…へ?」

 

 

「出前を取るために築いた人脈じゃない事は間違いないけどな」と軽口を叩く彼に、生徒達が少し呆気に取られる。

 

 

「く、クロキさん。なんだか雰囲気が変わりました?少し砕けたような気が…」

「ん、柔らかくなった感じ?」

「セリカちゃんが思いっきり叩いたから壊れちゃったんですか?」

「ノノミ先輩⁉︎た、確かに思いっきり叩きましたけど、それは…!」

「はいはい。とりあえずはお前たちはシャワー浴びてこい。適当に好きそうな奴頼んでおくから」

 

 

ぱんぱんと手を叩くと、壊れた視線がこちらを向く。

 

 

「先生も、一緒に浴びてきちゃってください。側から見ても砂だらけですよ」

「クロキ君は良いの?」

「ここ、シャワールームは女性用しかないんですよ。私はそもそもこの様に機械の身体なので心配は無用です」

 

 

彼の言葉に渋々頷く。ま、まぁそう言うなら……。

 

 

「いんや、私はここでクロキを見張ってるよ。万が一にも逃げようとしたら事だし」

 

 

しかし、そんな中で一人小鳥遊さんが声を上げる。

 

 

「……ま、そう思うのも無理はないか。わかった、じゃあそれ以外のみんなはさっさと行ってこい」

 

 

そしてクロキ君も特に抵抗することなくそれを受け入れる────なんだろう、いま何かアイコンタクトしたような気が…。

 

 

「さ、先生も行きますよ!クロキさんと何を話していたのかしっかり聞いちゃいますから!」

「ん、キリキリ吐くべき」

「あ、ちょっと待って!クロキ君、クロキ────」

 

 

肉食獣の様な視線を私に向ける二人を前に、頼れるロボットへ助けを求める視線を向ける。しかし、そんな頼りになる人形ロボットは両手を合わせて申し訳なさそうに頭を下げるだけだ。

 

 

「う、裏切り者〜〜!」

 

 

女子高生にあるまじき膂力に引き摺られ、私はシャワールームに連行されるのだった────────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────珍しいな。プライベートチャットを使うなんて」

 

 

生き残ったモニター上部に映るメッセージ『この後二人きりで話したい』という文言を一瞥した後、ホシノヘ向き合う。極々一部の人にしか伝えていない秘匿回線で、通知音も鳴らずに視界に映るものだ。お陰でみんなに怪しまれずにこうして二人きりになれた。

 

 

「……うん。まぁね」

 

 

みんながいなくなって二人きりとなった対策委員会の教室。どこか表情に影のある彼女は徐に振り向くと、その扉に鍵を掛ける────ん?

 

 

「た、小鳥遊?」

「ホシノ」

「…えっ」

「ホシノって呼んでよ、クロキ」

 

 

鍵を閉めた後、詰め寄る様に自分の前に立つ。僅かに俯いているせいではっきりと顔が見えないが、微かに震えているその声に僅かな抵抗の気持ちもない。

 

 

「……ホシノ」

「────ッ!」

 

 

名前を呼んだ刹那、正面から強い力で抱きしめられる。持てる力を全て使っているのだろう、装甲が一部悲鳴をあげているが、それを指摘するほど野暮じゃない。

 

 

「なんだよ、辞任届って。そんなこと考えているなんて、一言も相談してくれなかったじゃん」

「…ごめん」

「ユメ先輩が死んで、もう先輩の事を覚えているのは私とクロキだけなんだよ?それなのにクロキがいなくなっちゃったら、もうユメ先輩のことを覚えてるのは私だけになっちゃうんだよ。私だけしか、ユメ先輩を思い出せなくなっちゃうんだよ?」

「……ごめん」

「それに、あんな魔法みたいな力。なんで今まで教えてくれなかったの?信用してくれてなかったの?ずっと一緒にいたのに」

「………ごめん」

 

 

わずかにくぐもった彼女の言葉に、俺はただ謝ることしかできなかった。

 

 

「───本当に悪いと思っているのなら、脱いでよ、そのスーツ」

「っ、それは……」

「先生とは素顔で話したんでしょ?先生には出来て、私とはできないの?」

 

 

どこか縋るような態度に、わずかな時間天井を見上げる─────俺は、この3年間と言う時間で何をしていたのだろうか。

 

【楽園】という舞台装置を作るために、人脈を広げるという理由だけで彼女達に近づいた。【奇跡(大人のカード)】を持たない俺が【ブルーアーカイブ(物語)】に生きる彼女達を救う為にはそれしか方法がないと思っていた。───だが、結果はどうだ。俺は物語を守ろうとして、その実壊していたのではないのだろうか?

 

 

(【クロキ】というキャラクターはこの世界にはいない、か…)

 

 

脳裏に先生の言葉が走る。……そうだ、俺はなんでそんな単純な事に気がつかなかったのだろう。俺の愛した世界には、俺のようなハリボテは居なかった。俺のような半端者はいなかったんだ。

 

 

「…少し離れてろ」

 

 

名残惜しそうに離れるのを見計らい、首元のボタンを押し込む。機械音声による認証の後蒸気が首から漏れ、モニター電源が落ちた事を確認してから仮面を外す。

 

 

「…えへへ。クロキの素顔、本当に久しぶりに見た」

 

 

肉眼で改めて見た彼女の目元は真っ赤になってしまっていたが、自分の素顔を見ると嬉しそうに目尻を下げる。

 

 

「…こんな顔、なんの面白味もないだろ。どこにでもいる普通の顔だ」

「そんなことないよ。私の、大切な友達の顔だもん」

「…そっか」

「本当に久しぶりだなぁ…。ねぇ、少し触っても良い?」

「お、おい…」

 

 

自分の言葉を待たずに、彼女の柔らかい掌が自分の頬に触れる。感触を確かめるように、存在を確かめるように撫でるその手にくすぐったさを感じながらも、振り払うことはしない。

 

 

「あ、ちょっと髭が生えてる。駄目だよちゃんと手入れしないと」

「触らないとわからない程だろ?気にするほどじゃない」

「じゃあ、私だけが知ってるんだ。なんだか嬉しいかも」

「随分倒錯的だな…。華の女子高生なんだから、もっと普通の事に嬉しさを感じた方が良いぞ」

「普通のことって?」

 

 

間近にオッドアイの綺麗な瞳が自分の情けない顔を映す。彼女の吐息すらかかりそうな距離で、彼女が小首を傾げる。

 

 

「そうだな、例えばテストで良い点を取るとか」

「うちの学校、授業なんてないけど」

「…ごめん、そうだった」

「他には?」

「美味しいものを食べるとか」

「あ、それで思い出した。この前送ってくれた蜂蜜のヨーグルト、凄く美味しかったよ」

「それなら良かった。そう言えばお前ちゃんと食べてるのか?なんだか身体が細くなった気がする」

「……気になるなら触ってみれば?ほら、お腹周りとか」

 

 

ベルトを緩めて砂だらけのシャツをたくしあげ、白くて華奢なお腹を見せてくる───が、その前に視線を逸らす。全く、どうしてキヴォトスの連中は肌を見せる事に抵抗がないんだ…。

 

 

「…あんまり揶揄うなよ。俺がロボットじゃなかったら襲ってるぞ」

「そう言って、クロキ手を出して来ないじゃん。ヘタレ」

「っ、お前なぁ…!」

 

 

抗議の視線を向けようとした矢先、彼女の蠱惑的な瞳が自分を射抜く。

 

 

「─────私なら、良いんだよ?」

「……そんな事、言うなよ」

 

 

シャツをたくしあげているその手を降ろさせ、彼女の柔らかな頬に触れる────駄目だ、そんな感情は持つべきじゃない。

 

 

「聞いてくれ、ホシノ。俺は、この世界が好きだ」

「………」

「道ゆく生徒はみんな銃をぶっ放すし、殆どの大人は責任を果たさない。そんなふざけた世界だけど、俺にはこの世界が宝物のように輝いて見えるんだ。それこそ、何をしても守りたいと思えるほどに」

 

 

このキヴォトスで3年間もがいてきたのだってそうだ。先生へ全てを託そうとしたのも、そうする事がより確実に事が運ぶと確信していたからだ。けど、先生の言葉で目が覚めた────俺も当事者として、この世界を【楽園】に導かなくてはならない。そう、何をしてもだ。

 

 

「だからごめん。今は、ホシノの事だけをみている訳にはいかない。俺は、この【ブルーアーカイブ(物語)】を狂わせた責任を取らないといけないんだ」

「……それって、いつ終わるの?」

「……このまま推移すれば、おそらく来年中には決着が付く筈だ」

 

 

【色彩】の到来とその撃退────そこが、自分の知っている物語の終着点だ。そこに辿り着くまで俺は止まらない。止まれない。それこそ何を失ってでも、泥水を啜ってでもあのハッピーエンドに辿り着いて見せる。

 

 

「…ずるいなぁ」

 

 

一言、それだけ言ってホシノが背後を向く。

 

 

「そんな顔で言われたら断れないよ。ほんと、酷い男」

「…ごめん」

「謝らないでよ。あーあ、私クロキに恥かかされちゃった。これ、ちゃんと責任とってくれるんだよね?」

「出来ることならなんでもするよ。ホシノの頼みだったらね」

「約束だよ?」

「あぁ、約束だ」

 

 

すると彼女が振り向いてこちらを向くと、小指をこちらに差し出す。

 

 

「じゃ、指切りしよ?破ったらC4爆弾飲むって奴」

「ほんとこの世界物騒だな……。うん、わかったよ」

 

 

機械の手袋を外し、少し汗ばむ手で彼女の小指に触れる。

 

 

「じゃあ行くよ?ゆびきーりげんまん」

「嘘ついたらC4─────」

 

 

刹那、小指が離れて頬に柔らかな感触とともに彼女の吐息が掛かる。一体彼女が何をしたのか、それを理解するまでにそう時間はかからなかった。

誓いの文言は最後まで続くことなく、彼女は照れくさそうに笑う。 

 

 

「えへへ、これが私の初めてだから。大切にしてね?」

 

 

俺は彼女のその言葉に、ただ声を震わせて一言呟いた。

 

 

「魔性の女だ………」

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

─────アビドス廃校対策委員会本部。

普段は5人で活動している部室に新たに二人を迎えてやや狭くなったそこで、大人の女性が口を開く。

 

 

「─────それじゃあ、今後の方針について話し合おうか」

 

 

その声色は至極真剣で、聞いてる人が聞けば自然と背筋が伸びるだろう。ここが連邦生徒会の会議室と言った場所ならば、きっと効力があったに違いない─────だが残念、ここは連邦生徒会ではなくキヴォトス屈指の戦闘力を誇るアビドス高等学校なのだ。厳しい環境に適応した屈強な戦士である彼女たちは、言葉だけでは動かない。

 

 

「ん、先生」

「なにかな?シロコちゃん」

「早く食べないと無くなる。ここは早い者勝ち」

「嘘でしょ⁉︎この流れで食べ始めることある⁉︎」

 

 

机に所狭しと並べられた色とりどりの料理─────鏑木クロキが伝手を使って用意されたそれをみんなが思い思いに食べる中、先生と呼ばれた女性が驚愕の声を上げる。

 

 

「あ、この小籠包美味しいですクロキさん!どこのお店ですか?」

「『赤虎餃子』ってお店だよ。この前現場の人に教えてもらったんだ」

「ねぇねぇクロキ。この天丼って玉ねぎ入ってる?」

「入ってないんじゃないかな?」

「そ、ありがと」

「この唐揚げも美味しいですよ〜。ホシノ先輩もどうです?」

「それじゃ一つ貰おうかな」

「え、えぇ…」

 

 

戦闘を終えた直後と言うのにその緩い雰囲気に呆気に取られるが、その目の前にお弁当が差し出される。

 

 

「さ、先生もどうぞ。まずは食べちゃいましょう」

「……うん」

 

 

肉厚のとんかつが2枚も入った豪勢なお弁当を受け取るといそいそとそれを開き、割り箸を割る。そのままカツを一切れ口に入れる────あ、美味しい。

 

 

 

「それにしても、こんなにたくさんどうやって準備したの?結構あっという間に来たし」

「そうです。また魔法───じゃなくて、クラフトチェンバーですか?」

「いや、クラフトチェンバーは使ってないよ。流石に得体の知れないもので作ったものを食べさせるわけにはいかないし」

「ん、じゃあどうやったの?」

「別に、難しいことじゃない。ただお願いしただけだよ」

「お願い?」

 

 

壊れたマスクは開閉に難があるのか、極めてゆっくりと箸を進めるクロキが続ける。

 

 

「ゲヘナに本店を持つ出前サイトがあるんだけどね、そこの社長にお願いしたんだよ。5人くらい配達員をアビドスに派遣してくれないかって」

 

 

餃子を口に入れて「うん、美味しい」となんでもない風に言っているが、そんな簡単に社長と渡をつけられる学生がどこにいるのだろうか。クロキ以外の全員の心が一致した瞬間だった。

 

 

「ま、流石はクロキってとこだね」

「それより、なんだかさっきから食べにくそうですけど大丈夫ですか?」

「あぁ、ちょっと開閉部分が不具合を起こしちゃって」

「…それって、もしかしなくても私のせいよね」

 

 

尻尾と耳を下げ、申し訳なさそうにするセリカに「いや、それは違う」とやや食い気味に続ける。

 

 

「これは俺の弱さが招いた事だよ。だからセリカは悪くない」

「けど、カッとして叩いちゃったのは私だし…」

「お願いだから気にしないでくれ。おかげで目が覚めたんだから」

 

 

クロキの言葉にセリカが俯く。その表情は見れないが、先生はそれを見てある種の確信を抱く─────きっとこう言うところが悪さをしたんだろうな、と。

 

 

「でも食べにくいのは事実ですよね?いっそ仮面を外したらどうです?」

「……ナンノコト?」

「いや、もう今更ですよ。私たちみんな、クロキさんが私たちと同じ生きた人間ってことは知ってますから」

 

 

アヤネの言葉にがっくりと肩を落とすと「…そっかぁ」と力なく呟く。彼はどこか残念そうにしているがとんでもない。残念でもないし当然の帰結である。

 

 

「でも、素顔を晒すのはちょっと……。俺のポリシーというか性癖に反するというか…」

「なによそれ。変なところでこだわりがあるのね」

「あ、じゃあこう言うのはどうですか?」

 

 

ノノミが席を立ち、ロッカーで何かを探す。一分程度で「ありました!」と取り出したそれは、よくお祭りの出店で売られているひょっとこのお面だった。それをみたクロキは露骨に嫌そうな顔をする。

 

 

「……なにそれ」

「お面です!」

「いやそれは知ってるけど、それをどうしろって?」

「これを被るんです!そうすれば素顔を隠すことができますよ!」

「……えぇ」

 

 

非常に、非常に嫌な雰囲気を漂わせているが、そんなことはお構いなしにクロキに詰め寄る。

 

 

「さ!早くつけてください!絶対似合いますから!」

「このお面が似合ったらそれはそれで問題でしょ⁉︎ちょ、ホシノはどう思う?」

「ん?良いんじゃない。そっちの方が涼しそうだし」

「決まりですね!さぁさぁ!」

 

 

どうでも良いように言い放つホシノだが先生は勘づいていた。これ実は期待してるな、と。つけて欲しいんだな、と。

 

 

「せ、先生は!?こんなひょっとこのお面より、この機械の顔が良いですよね⁉︎」

「うーん………」

 

 

クロキの言葉に首を捻る────実際のところ、先生としては機械の顔の方が好みだった。実際かっこいいし、全身を覆う機械鎧はそれだけで浪漫に溢れるものだったからだ…だが。

 

 

「うん、ひょっとこのお面の方が良いかな?」

 

 

他の生徒たちからの期待の視線に負け、お面を支持する。この言葉を最後にぐったりと項垂れると「嘘でしょ…」とこの世の終わりみたいな声を上げる。

 

 

「決まりですね!さ、早くつけてください!」

「ん、つけないなら無理矢理でもその仮面を剥がす」

「それは勘弁してくれ!わかった付ける、付けるから!」

 

 

ノノミから手渡されたお面を受け取ると一度教室から出ていく。それから数分経った後、再び教室の扉が開かれる。

 

 

「……どうです?絶望的に似合わないと思うんですが」

 

 

顔だけでなくスーツ全てを脱いだのか、人間の身体にすこし緩いミレニアムの制服に袖を通してひょっとこのお面を被ったクロキが現れる─────だが、それを見た対策委員会の感想は自ずと一致した。

 

 

 

「…うん。似合うね」

「なんかしっくりきますね!」

「ん、これからアビドスではそれでいると良い」

「ま、まぁ似合ってるんじゃない?」

「……嘘でしょ」

 

 

「俺にはもう女子高生がわからん…」と頭を抱えるクロキに先生は合掌する。多分似合うと言っているのは、彼女達しか知らないクロキの格好を知れたからだと思って。

 

 

「どうせならアビドスの制服を着るべき。丁度男物の予備があったはず」

「良いですねそれ!さ、さっそく着替えましょう!」

「…もうどうとでもしてくれ」

 

 

もはや抵抗の意思を無くしたのか、されるがままにされるクロキを見て先生は心の中で一つの事を思う。今度シャーレの制服も着てもらおう。

再びノノミから制服を渡されて渋々アビドスの制服に着替えると、「…さて」と話し始める。

 

 

「食べながらですが、そろそろ今後の方針について話しても良いんじゃないでしょうか?もうそろそろ片付くと思いますし」

「そうだね。みんなも良いかな?」

「異議なーし」

「ん、問題ない」

「私も良いわよ」

「はい、大丈夫です」

「大丈夫で〜す」

 

 

各々が食べながらだが、ここで対策委員会の話し合いが始まる────「その前に」とシロコが口を開く。

 

 

「ホシノ先輩、クロキと二人で話している時何かあった?」

「んえ?何が?」

「先輩からクロキの匂いが凄くする。…もしかして、抜け駆けした?」

「…さぁ?どうだろうね?」

「…ん、あとでちゃんと話してもらう」

 

 

シロコの指摘に飄々とした態度だが、クロキ君は傍目からわかる程冷や汗を流してる────この後絶対詰められるんだろうなぁと先生は確信する。

 

 

 

「───それじゃ、アヤネさん。いつも通り号令をお願い」

「あ、はい!それでは……」

 

 

割り箸を置き、一度席を立つ。

 

 

「これより、アビドス廃校対策委員会の定例会議を始めます。皆さん、よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「─────さっきのヘンテコ集団、えぇと。カタカタヘルメット団からの襲撃は最近多いんだっけ?」

「そうですね、特にここ最近は激化しているように感じます」

「その原因はわかる?」

「いえ、そもそも私達の学校を狙っている理由も明白じゃないので…」

「なるほどねぇ…」

 

 

食事を終えた空箱を纏めながら、彼女らの話し合いに耳を傾ける。先生はアヤネからの言葉に少し考えるそぶりを見せた後、「それじゃあ」と口を開く。

 

 

「さっき使ってたあのロケット弾頭、あれってこのキヴォトスだと普通に流通してるの?」

「…そんなに流通しているものではないと思います。高額なものですし」

「じゃあそこにヒントがある訳だ……クロキ君」

「なんですか?」

「クロキ君って、敵は多い方だと思う?」

「……?」

 

 

敵が多い…?一体どう言うことだ?確かにカイザーや敵対企業の数は少なくはないけど…。

 

 

「あぁごめん、少し抽象的過ぎたね。つまり、クロキ君の夢に敵対している人はどのくらいいるのかって事」

「…なるべく敵は作らない様にしていましたが、少なくない数がいると思います」

「そっか、ありがと」

 

 

それだけ聞くと再び考え始めるが、少し経つと立ち上がってホワイトボードの前に立つ。

 

 

「今の情報からわかることは大きく分けて二つ。ヘルメット団がどこかから支援を受けていることと、そしてその支援相手はクロキ君を恨んでいるどこかの企業の可能性が高いってこと」

 

 

先生の確信めいたその口調に、背筋が凍るような感覚を覚える──おいおい、嘘だろ?まだセリカの救出作戦すらやってないんだぞ。なんでその結論に辿り着ける?先生は俺に気を遣ってか、未来に起こる出来事は何一つとして聞いて来ていないのに。

 

 

「ちょっと待って。なんでそんな事がわかるの?確かにヘルメット団がどこかから支援を受けてることはわかるけど、それが企業とはわからないじゃない」

「態々ヘルメット団なんて半グレ連中を使ってるところが大人のやり口だし、生徒ならクロキ君の事を妨害しようなんて考えないよ。だって彼、楽園の設立者って異名がつけられるほど慕われてるんだし」

「ん、クロキを恨んでいると考えている理由は?」

「こんな砂しかない敷地を襲うなんて今のところそれ以外に考えられないって言うのが理由かな。ここは楽園造園室の建築資材プラントだってあるし、連邦生徒会の威光から遠い砂漠の地。襲う価値は十二分にあると思う」

「…確かに、大いに考えられるね」

「そうですね、そう考えると色々と説明がつきます」

 

 

まだ確信的な情報を得られていないにも関わらず、ここまで明瞭な答えを導き出すことができる─────やはり、連邦生徒会長の見込んだ才能は伊達ではないようだ。

 

 

「まずはヘルメット団の支援元を探すことから始めよう。ここら辺で裏の情報を扱っている場所はある?」

「ん、それだったらブラックマーケットを探るのが良いと思う。あそこは裏の情報を扱ってる所がある」

「そうですね。あそこだったら色々と情報が集められそうです」

「ブラックマーケットかぁ……」

 

 

……不味い。このまま行くとセリカの救出劇がないままブラックマーケットに突入してしまいかねない。なんとか修正するべきか……ん?そう言えば、何か違和感があるような気がする。何か重要なイベントをこなしていない様な………あ。

 

 

「そ、そういえばセリカ。先生に借金の事は話したのか?」

「え?そりゃ話したわよ。あんたを嵌める作戦会議の最中で」

「………えぇ」

 

 

なんてことないような感じで言い放つ彼女に脱力する。あの、君原作だと怒り心頭だったような気が…?

 

 

「い、意外だな。部外者の介入はあんまり好まないと思ってたから、てっきり怒り出すのかと」

「あんたの辞任の話がなかったらそうなったかもね」

「う、それは…」

「私たち、昨日いーっぱいお話ししたんですよ?先生本人の事とか、クロキさんとの出会いの話とか」

「ん、もう知らない仲じゃない。同士とも言える」

「あ、そう……」

 

 

たった1日足らずでアビドスの生徒達と関係を築けるなんて、先生のコミュ力がお化けすぎる。

…だが詰まるところ、ある程度信頼関係を築けている以上セリカ救出劇は必ずしも発生させる必要性はない、と見るべきか。

 

 

「ブラックマーケットを調べるのも大事だけど、その前にヘルメット団の本拠地は叩いておきたいね。留守の校舎を襲われたら大変だし」

「ん、それなら早い方がいい。補給ならクロキのおかげで心配要らないし」

「決まりですね!それならまずは敵基地の詳しい場所の把握から始めましょう!」

「それなんだけど……クロキ君」

「え、なんでしょう?」

 

 

突如として会話の主体に繰り上げられる────一体俺に何をさせようというのか。

 

 

 

「クロキ君なら、ヘルメット団の本拠地の見当がついてるんじゃないかな?」

 

 

 

先生の言葉に、思わず息が止まる。

 

 

「……そう思う根拠はなんでしょうか」

「根拠なんてないよ。でも、君はこのキヴォトスを【楽園】に作り変えようとしている。そんな君が、ドロップアウトした生徒達の居場所を把握していないとは思えなくて」

「私だって人間です、そんな、他人に迷惑をかけているような人まで助けようだなんて傲慢な考えは持ってませんよ」

「───ううん。君は皆んなを救おうとしてる筈だよ」

 

 

先生のその断定と言える言葉に、両の手を上げる─────参った、降参だ。

 

 

「……降参です、先生。その通り、ヘルメット団の本拠地の場所は正確に把握しています」

「やっぱり。もぅ、なんで惚けたの?」

「なんだか悔しかったので……すみません」

「…えぇとつまり、今からでも敵本拠地に殴り込みを掛けられるって事?」

 

 

セリカのその言葉に頷く─────もう、ヘルメット団の壊滅は避けられないだろう。原作でも彼女たちはカイザーに雇われた『便利屋68』によって襲撃されている。要は、その後の受け皿を作ってやれば良い。それは、俺にしかできないことだ。

 

 

「決まりだね。それじゃあ早速準備しよっか」

「ん、まずはヘルメット団を潰して、裏にいる組織を炙り出す」

「いっぱいご飯も食べましたし、腹ごなしの運動です!」

「この後用事もあるんだし、手早くすませてやるんだから!」

 

 

ホシノの号令によって委員会の各々が準備を始める。おそらく、今日がカタカタヘルメット団の最後の1日となるだろう。彼女達は今日何を思っているのか、なんて取り留めない事を思いながら、自分も準備のために席から立ち上がった────────。

 

 

 

 

「その前に、クロキには話があるから座って?辞任届の件についてたっぷりと話がある」

「………はい」

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「─────忌々しい。さっさと借金まみれの学校など捨ててしまえばいいのに」

 

 

ヘルメット団から上がってきているアビドスの連中の報告書を見る────全く使えない連中だ。ここまで支援してやっているのに、未だ忌々しい楽園造園室のプラントは疎か校門すら破壊できていないとは。

 

 

「…まぁいい。もうまもなくPMCの武装配置が完了する。そうすれば奴らの最期だ」

 

 

未だに介入の名目は考えていないが、そんなものは後でいくらでも捏造できる。アビドスの連中は所詮は物事を知らない餓鬼だ、知恵比べで負ける道理はない───そうなると、必然的に課題は絞られてくる。

 

 

「問題はクロキがどう動くか、だ…。アビドスの殆どの土地は我々が保有している以上大規模な事はして来ないはずだが…」

 

 

 

 

 

 

 

『────まだいたんですか?』

「ッ───!」

 

 

つい先日の、冷たい機械の様な視線が脳裏を過る─────用心するに越したことはない。あいつさえ封じてしまえば、アビドスは落ちたも同然だ。

 

 

「不良共を煽って楽園区画でボヤ騒ぎを起こさせるか…?いや駄目だ。ゲヘナの風紀委員長を敵に回したくはない」

 

 

ゲヘナの風紀委員会─────その委員長である空崎ヒナが楽園区画の防衛に執心しているのは周知の事実だ。現に今までに2度不良どもを暴れさせた事があるが、委員長自らの手で瞬く間に鎮圧された。あの時もかなり危ない橋を渡ったんだ、バレた時のリスクが大きすぎる。

 

 

「クソッ!何もかもクロキのせいだ‼︎あいつがいなければ宝物は今頃───!」

「─────お困りですか?カイザーPMC理事」

「…っ⁉︎」

「ククッ、そんなに驚かないでください。私ですよ」

 

 

突如、音もなく自身の横に人影が現れる。すわ襲撃かと身構えたが、その異形の顔を見て椅子に座り直す。黒い靄のような輪郭に白い瞳のようなものがぼんやりと浮かぶ存在───自らの事を【黒服】と呼称している化け物だ。

 

 

「貴様か……。呼んだ覚えはないぞ」

「いえ。随分お困りのようでしたので。その悩み、よろしければお手伝いしましょうか?」

「……何?」

 

 

いつにもまして協力的な姿勢に疑問符を浮かべる。いきなり現れた上に自ら協力を申し出るだと?一体何を考えているんだ?

 

 

「要は鏑木クロキ─────かの【聖人】を無力化すれば良いのでしょう?それであれば一つ手立てがあります」

 

 

【聖人】との呼称に違和感を覚えるが、それより問題はクロキの無力化だ。それさえ叶えばなんでも構わない。

 

 

「…言ってみろ」

「私の知り合いに、彼にご執心の人が居ましてね。そこの子飼いの生徒を使いましょう。彼女達なら彼の弱点になり得ます」

「…そいつらは使えるのか?」

「えぇ。ですが、その後の彼の身柄は私共に預からせていただきます。【十字架】にくくるためにも、むざむざ死なせる様な事は絶対に避けなければならないので」

「2度と表に出て来ないようにしてくれれば処理は任せる。それで、その子飼いの連中はどんな奴らなんだ?」

「憎悪を植えられた少女達、とだけ伝えておきましょう」

 

 

あくまで詳細を伝える気はないのか、はぐらかすような口振りに鼻を鳴らす。まぁいい、なぜこいつが私に協力するのかは知らないが、使えるものは使うまでだ。

 

 

「しかし、意外だったな。貴様のような奴でも鏑木クロキに興味があるとは」

「えぇ。何せ彼はここ数年でキヴォトスを【楽園】へと作り変えた、紛うことなき【聖人】ですから」

「くだらない、聖人だと?あいつはただ建築ができるだけの奴だろうに」

「ククッ。確かに、側から見ればそう思われるでしょう」

 

 

あまり感情を表に出す奴ではないのだが、今日のこいつは非常に上機嫌だと言うことがわかる。一体鏑木の何がこいつの琴線に触れたのか、そこはわからないが…。

 

 

「それでは、私は少し準備がありますので。これにて失礼します」

「あぁ。くれぐれもしくじるなよ」

 

 

宵闇に消える黒服を見送り、椅子の背もたれに体重をかける。もう直全てに決着が付く。忌々しいクロキの絶望に染まる顔を想像しながら、傍にある赤ワインのグラスを呷った────────。

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────トキ。今から貴女に任務を与えるわ」

 

 

 

ミレニアムタワー最上階の一室。灯りの点いていない生徒会長室で、赤い吊り目の少女がそばに従うメイドの少女へと口を開く。

 

 

「はい、なんなりと」

「アビドスにいる鏑木クロキを誘拐…いえ、保護してエリドゥまで連れてきなさい。勿論、なんの痕跡も残さないように」

 

 

あまりに唐突な命令に、普段ならば絶対にしないであろう確認の言葉を紡ぐ。

 

 

「…よろしいのですか?」

「言葉は尽くしたわ。それでも首を縦に振らないのであれば、あとは力で解決するだけよ」

「お言葉ですが彼────クロキさんが強制されて協力するとは思えませんが」

「そうね。…でも、これは彼の為でもあるのよ。クロキの人助けならミレニアムから出なくても出来る。それこそ、あのスーツを遠隔操作すれば良いのだから」

「それは……」

「私が……いいえ。私だけが彼の才能を正しく評価している。彼を野放しにしておくなんて正気の沙汰とは思えないわ」

 

 

「ヒマリは彼の才能をわかっていないのよ」と呟く彼女───リオの言葉にトキは静かに唇を噛む。彼女はきっと知らない、普段の彼がどれだけ優しく、お節介なのか。それこそ、監視されているとわかっていながらその監視者と一緒に屋台でラーメンを食べる程に────私に笑い方を教えてくれるほどに。

 

 

「……承知しました。必ずやご期待に添えて見せます」

 

 

だが彼女は忠実な従者なのだ。己の心情を盾に命令に背くわけには行かないと心の中で自分を律する。

 

 

「武装の使用は全て許可するわ、随意に使用しなさい。アビドスの生徒───特に小鳥遊ホシノは注意すること。あれはクロキに近すぎる」

「わかっています」

「それなら良いわ。それと、これを渡しておく」

 

 

リオの手から掌サイズの機械が渡される。

 

 

「これは?」

「高精度のハッキング装置とジャミングを併せ持ったものよ。誘拐前には必ずこの機械をクロキにつけること。いいわね」

「わかりました。それで、作戦開始はいつから?」

「現時刻を以てよ。頼むわ、トキ」

「…はい、お任せください」

 

 

身を翻して生徒会長室から立ち去るトキを見送る。

 

 

 

「もう、ヒマリにも理解してもらおうとは思わないわ。でもクロキ、貴方ならきっと…」

 

 

決して叶うことのない願いを口にして、彼女は瞳を閉じた─────────。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

─────────トリニティの辺境。登記がされていない為都市整備部の開発が進まない廃墟然とした区画のビルの一部屋。各々が仰々しい鉄のマスクをつけた少女達の中で、長い髪の少女が静かに話し始める。

 

 

 

「────命令が来た。一度トリニティから離れ、凍結中だった【人狩】を再開せよ、との事だ」

 

 

【人狩】という単語に、もともと重かった空気がさらに重くなる。何故ならそれは、かつての知り合いの捕縛を意味する作戦名であったからだ。

 

 

「…大人しくしておけば命を狙われることなんてないのに。クロキってほんと馬鹿だよね」

 

 

肩口で切り揃えられた髪と、そこから覗く耳には大量のピアスがつけられ、気怠な表情の少女が心底失望したように続ける。

 

 

「や、やっぱりこうなっちゃうんですね…。もうお話しすることは出来ないんですね…」

 

 

ピアスの少女──────戒野ミサキの言葉に続く。被っている帽子をより深く被り、この世の終わりと言わんばかりに声を震わせる。

 

 

「……サオリ。作戦再開の理由は聞いてないの?」

 

 

槌永ヒヨリの様子を見て、顔全体をマスクで覆った秤アツコが心配そうに話す。その口調からはやりたくないという意思が滲み出ている。

 

 

「聞いていない……第一、知る必要性もない」

 

 

サオリと呼ばれた彼女は胸ポケットから一つの物を取り出す。緑色の紙の箱に入れられている、俗に言う煙草と呼ばれるものだ。本来なら極めて厳重に管理されており、私たちのような生徒には決して手に入らない代物だが────それを、彼は自分たちに惜しげもなく手渡した。自分が裏切ったらこれを持って連邦生徒会に訴え出れば良いと、そう言伝を残して。

 

 

『学生がやる非行っていうのは、飲酒に煙草が精々なところだよ。それ以上はやりすぎだ』

 

 

脳裏に彼が残した言葉が走る────結局、全ては無意味だ。彼の保険も、彼の理想も。そして、私たちの思いも。

 

 

 

その緑色の箱を握りつぶしてから踵ですり潰すと、黒のキャップを深く被り直す。

 

 

 

「全ては虚しいだけだ……それは、あいつの馬鹿げた理想も例外じゃない」

 

 

 

斃れるのなら、せめて私たちの手で終わらせよう。きっと、彼もそう望んでいるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






先生
答えを導き出すのが上手いフレンズ。近くに転生者という答えを知っている人がいながら、願いのために敢えて答えを聞かない先輩想いの良い後輩。アビドスの生徒達とはクロキという共通の話題を使って仲良くなったが、彼女達のエピソードを聞いているうちになんで引退できると思ったの?と本気で心配した。好きな惣菜は大きなエビフライ。


鏑木クロキ
先生や生徒のおかげで当事者意識を持ち始めた精神異常者。なんだか決意を固めたように振る舞っているが、ようやくスタート地点に立っただけである。これからが地獄だぞ。アビドス対策委員会の面々からはきっちりお話しされた模様。生徒たちからの気持ちにも薄々気づいているが、それは彼女達の事情が特殊で、それを承知の上で利用した自分に応える資格はないと本気で思っているクソボケ種のマスター個体。討伐したら金一封が出るとかでないとか。好きな惣菜はメンチカツ。


学名:アビドスオメンカブリ
霊長目ヒト科オメン属ユメガタリ種。アビドスに生息するひょっとこのお面がチャームポイントの生き物。センセイオンナタラシと行動を共にし、生徒に補給を行い時たま建物を生やす。ミレニアムラクエンヅクリと同じ場所には現れないため、一部の学者たちからは同一個体のフォルムチェンジなのではないかとの説が提唱されている。ミレニアムに生息するミレニアムオオフトモモや他の生物が当該生物を目撃すると激昂し、住処に連行するとの報告から当該生物を挑発するフェロモンを発生させていることが明らかとなっている。


小鳥遊ホシノ
すっかりウェルダンに焼かれてしまった可哀想な少女。クロキからの魔性の女認定の栄えある二人目。なお、当該現場は密室であったため事実を知るのは二人だけである。事に及んだ少女曰く「死ぬほど恥ずかしかった」とのこと。


黒見セリカ
ファインプレー選手その2。渾身の平手打ちでミレニアムラクエンヅクリの目を覚まさせた。アルバイトのことを話しているのはクロキだけなのだが、その地雷は後日起爆する。


飛鳥馬トキ
調月リオの命令によって鏑木クロキを監視および護衛していたC&C5番目のエージェント。クロキと一緒に食べた寂れた屋台のラーメンが思い出。とある事情によって一週間ほど寝食を共にし、その時に笑い方を教えてもらった。例によって例の如く、クロキにとっては大したことじゃないと認識されている。


調月リオ
ヒマリがクロキの一番の理解者であるならば、リオはクロキの才能の一番の理解者になるだろう。故に、二人は絶対に分かり合えない。


黒服
鏑木クロキを【聖人】と呼ぶ黒ずくめの怪しげな男?であり、クロキの作る建築物の大ファン。夜な夜な人気のいなくなったタイミングで同僚と一緒に写真を取って回っている。


聖人と十字架
人の身でありながら奇跡を求めるための祭具。前任者の求めた神秘の再来に不可欠な代物。磔にされるべきは、救世を成す救世主のみ。


錠前サオリの煙草
トリニティの聖園ミカにアリウススクワッドの面々を紹介された際に渡したもの。自らの地位を担保とし、信頼を得るために非常に苦労して用意した一品で、『非行はこれくらいにしておけ』という彼の願いが込められていたものでもある─────なお、実態はサオリがタバコ吸ってたらかっこいいだろうなぁ、なんて安易な思考によるものである。なお、実際に連邦生徒会に訴え出れば、その時点で5名を保護できるよう手筈を整えていた。サオリはこれを踏み潰したが、現在離脱中の構成員を含めた他の四名は残してある。


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