ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります   作:あーけろん

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誤字脱字報告、感想、評価、閲覧、ご指摘の全てに感謝を。




柴関ラーメンと便利屋68

 

 

 

「──────もう!本当に信じられない‼︎」

 

 

 

アビドス高等学校敷地から離れた場所──────アビドス砂漠のど真ん中でセリカの叫び声が高らかに響き渡る。

 

 

 

「まぁまぁセリカちゃん。クロキさんらしいといえばらしいじゃないですか」

「だからって!私達を襲ったあいつらにあんなに優しくすることないじゃないですか!」

「ん、そこは同意。クロキは甘すぎる」

 

 

 

ハンドルを握りながら荷台で交わされる会話に冷や汗を流しつつ、流れる外の景色を見る────今日もいい天気だなぁ。

 

 

「クロキ。現実逃避は良くないよ?」

「…はい」

 

 

視線を左に向けると、助手席に座るホシノからの視線が突き刺さった。カタカタヘルメット団の本部を制圧した帰り道とは思えない空気だ。

 

 

──────結論から話すのであれば、俺たちはさっきカタカタヘルメット団の本部を制圧した。いきなり本拠地を攻められるとは露程にも考えていなかった彼女らが、セリカが誘拐されておらず尚且つ先生の十全な指揮とクラフトチェンバーでの支援を受けた対策委員会の猛攻を凌げる筈もなく、あっという間に方が付いた。

 

 

そこまではなんの問題もない。非常にテンポよく進んだと言って良いだろう─────だが、問題はその後だった。原作だとカタカタヘルメット団は敗走した後、カイザーによって雇われた『便利屋68』によって壊滅させられている。その流れに異論はないのだが、ここでせっかく集められている不穏分子を態々散らばらせる事はない。何らかの事情でドロップアウトしてしまった彼女達を再度正道に戻すためにも、ここは一つ自分が築いてきた権力を振り翳そうとしたのである。

 

 

……まぁ、つまるところは引き抜きである。アビドスに展開している他の部隊たちに武装放棄させ、火器弾薬等を全て対策委員会へ寄付するのであればヘルメット団員の全員を楽園造園室で面倒をみると提案したのだ。

 

 

この方法を考え着いた時はあまりの名案に震えたものだ。キヴォトスの治安維持に大きく貢献できる上に100名単位で人材を確保できるのだ。まさに一石二鳥の策と呼べるだろう─────呼べる筈なんだけどなぁ。

 

 

 

「い、良いじゃないか。ヘルメット団の団長も泣いて喜んでたし、俺たちはこれ以上ヘルメット団に襲われる心配もない。迷惑料として当分はアビドス地区の奉仕活動に従事させる事も約束させたんだし。良いこと尽くめだろ?」

「「「「良くない(です)!!」」」」

「…はい」

 

 

対策委員会の息の合った拒絶に息を吐く。どうやらヘルメット団への恨みは相当なものだったらしい。これは機嫌を取るのが大変だな…。

 

 

「けど、実際大丈夫なの?いきなり100人位の生徒達を受け入れて。クロキ君のキャパシティ的に」

「全員が全員私が直接面倒をみるわけじゃありませんよ。何人かで班を分けて、知り合いの職人さんにお願いします」

 

 

楽園造園室所属という旗印を持って行かせるのだ、酷い扱いなどされよう筈もない。伊達にこのキヴォトスを開発していないのだ、伝手など山のようにある。…まぁ、各々の適正からの班を策定する事が大変なのだが。

 

 

「つまり、何人かは直接面倒を見るってこと?」

「えぇ。技術だけでなく管理者も育てないといけませんし」

「……ふぅん」

「なんですか先生。何か懸念点でも?」

 

 

荷台から顔を覗かせる先生にミラー越しで視線を向ける。

 

 

「別に?ただ、クロキ君の下に就く彼女達が心配で」

「ご安心ください先生。ものの1年程度で使える人材に育て上げてみせますよ」

「そう言うことじゃないんだけど……ま、いっか」

「?」

 

 

「心配だなぁ」とやや不機嫌に呟く先生に疑問付を浮かべる。もしかして、先生は俺がパワハラやセクハラをやると思われているのだろうか…?だとしたら心外だ、俺ほどコンプライアンス意識に長けた学生もいないだろう。

 

 

「それより、この後はブラックマーケットに調べに入るってことで良いんだよね?ヘルメット団の彼女達も、雇い主の正体は知らなかったみたいだし」

「そうだね…。これだけ上手くやってるって事は、先生の読み通り大人による仕業の可能性が高いかも」

「彼女達から違法装備も何点か押収できましたし、これの流通ルートを探ればいつかは辿り着けると思います」

「そうね。ようやく尻尾を掴んだわ…!」

 

 

情熱を燃やす彼女達を余所目に、トラックに備え付けられているデジタル時計を見る─────時刻は午後3時過ぎ、セリカのアルバイトが始まるまであと30分くらいか。一度学校まで戻ると遅刻するかもしれないな。

 

 

 

「黒見、もうすぐアルバイトだろ?このまま柴関ラーメンに向かうけど大丈夫か?」

 

 

 

───────暫しの間、トラックの排気音と砂を踏みしめるタイヤの音だけが響く。そしてその刹那、自分は察した。あ、これ不味いこと言ったんだなと。

 

 

「な、な、なんで言っちゃうのよあんたは‼︎‼︎みんなには秘密にしてって口酸っぱく言ったのに‼︎」

「ちょ、危ない危ない‼︎いま運転中だって‼︎」

 

 

顔を真っ赤にし、耳を逆立てて覗き窓から手を突っ込んで俺の胸元につかみかかる。目元には恥ずかしさからか薄ら涙を浮かべており、余程知られたくなかったのだとわかる────しまった、昨日の内に話したのだとばかり思っていたが、どうやら違ったらしい。

 

 

「セリカちゃんアルバイトしてたんですか⁉︎なんで教えてくれなかったんですか⁉︎」

「え、いや!それは…!」

「ん、その前にクロキにだけ話した事が気になる」

「そうだね〜。どう言うことかな?セリカちゃん?」

 

 

助手席から身を乗り出してセリカに視線を向けるホシノや対策委員会の面々に、「そ、それは…!」とあたふたと手を振る。失言した手前、これは助け舟を出すべきだろうと慌てて口を開く。

 

 

「俺が柴関ラーメンの大将と知り合いなんだよ。で、大将がアルバイトを探してるって相談を受けたから、それをセリカに紹介したんだ」

 

 

真っ赤な嘘である。実際は俺の仕事以外にも働きたいとセリカから相談を受けて大将へ話を付けたのだ。だが、その事実はセリカと俺と大将しか知らない事実で、彼女達にそれが嘘か本当か調べる方法はない。そして、この流れに恥ずかしがり屋のセリカは絶対に乗ってくる。

 

 

「そ、そうそう!クロキの頼みだから渋々引き受けたのよ!」

 

 

案の定食い気味に乗ってきたセリカに視線を飛ばす。よしよし、良いタイミングだ。

 

 

「ふぅん…。それじゃあ私達に相談しなかったのは?」

「そうです!私も一緒にアルバイトしたかったのに!」

「俺から頼んだんだよ。セリカからアルバイトの話をしたら、みんな協力したがるだろ?でも大将だって対策委員会の皆んなを雇えるほど余裕はない。だから黙ってて欲しいってお願いしたんだよ」

 

 

咄嗟に口から出たカバーストーリーとは思えない程にそれっぽい理由に我ながら舌を巻く。これならバレることはないだろう、誰も傷つかない素敵な嘘だ。

 

 

「────そっか。うんうん、成程ね」

 

 

なんて、俺とセリカの双方を見てニコニコと笑う先生────なんだろう、非常に嫌な笑みだ。

 

 

「セリカちゃん」

「な、何よ?」

「クロキ君から制服が可愛いって言われた?」

「なっ!え、っと、それは……!」

 

 

先生の言葉にしどろもどろになる────うん、言った。なんならアルバイト初日に様子を見に行きがてらその場で伝えた。猫耳ツンデレ少女のミニスカ制服が嫌いな人類はいるのだろうか?いや、いない(反語)

 

 

「クロキ君」

「な、なんでしょうか?」

「セリカちゃんのアルバイトの服装は可愛かった?」

「……………勘弁してください」

 

 

全人類に伝えておきたい。一生懸命働く女の子は皆んな可愛いのだと───────。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「─────うふふ」

 

 

事務所で最も高い椅子───────社長専用の椅子の背もたれに体重を乗せ、妖艶に笑う。今の私は非常に機嫌がいい、すこぶる良い。

 

 

「アルちゃん、ここ最近ずっとあんな調子だね」

「この前大口の依頼が入ったからでしょ。あんまり調子に乗らない方が良いと思うけど…」

「まぁまぁ。あの調子のアルちゃんが1番おもしろ───じゃなくて、頼もしいから」

「聞こえてるわよムツキ室長!いい?今回の大仕事を達成することが出来れば、私たちのアウトローとしての格がまた一つ上がるんだから!しっかり準備しなさいよ!」

 

 

ソファの上で寛ぐ彼女────浅黄ムツキ室長に檄を飛ばす。あ、なんだか今の社長っぽいかも。

 

 

「さ、流石ですアル様!今後の事にまで視線を向けているなんて…!」

「ふふん、当然でしょ?何せ私はアウトロー界のトップを目指しているんですもの!」

「……不安だなぁ」

「それより、準備の調子はどうなの?傭兵達は集まりそうなの?カヨコ課長」

 

 

ソファの縁に背もたれを預けながら端末を操作している彼女、鬼方カヨコに視線を飛ばす。カタカタヘルメット団なんてチンピラ集団、恐るるに足らないけど万が一もある。今はその為にアングラで活動している傭兵達に募集をかけている最中だ。けど、課長の顔色は芳しくない。

 

 

「それが、やっぱり異常に集まりが悪いね。報酬は安めに設定してるとはいえ、ここまで集まらないことなんてないんだけど」

「えっ?そうなの?」

 

 

そう言って見せてくる端末を確認する。えぇと、募集した傭兵が30人で今応募があったのが8人だから……。

 

 

 

「ま、まだ半分も集まってないの⁉︎」

「うん。明後日には襲撃の予定日なのに、これは非常に不味いよ」

「あらら〜。やっぱり報酬あげなきゃ駄目かな?」

 

 

 

どどどど、どうするのよ私⁉︎やっぱり報酬が少なすぎた⁉︎ムツキ室長の言う様に報酬単価を上げる⁉︎けどあれ以上はうちの経営的にも非常に厳しいし……!

 

 

「わ、私が何人か攫ってきましょうか?何人か連れてくれば…」

「そんなことしたら今後傭兵を使えなくなっちゃうよ……」

「けど、なんでこんなに集まらないのかな?ここはブラックマーケットも近いし、安くても働きたい人だって多いんじゃ?」

 

 

そ、そうよ!ここは連邦生徒会の威光も届かない闇の街!働きたい人だって大勢いる筈!

 

 

「それが……ほら。ここ数年活動している都市整備部ってあるじゃん?」

「都市整備部?」

 

 

はて?そんな会社があっただろうか?

 

 

「うっそ、アルちゃん知らないの?今キヴォトスで一番有名な部活だよ?」

「あ、あれですよアル様。ミレニアム生徒会の外部組織で、キヴォトスの都市整備を一手に担っている」

「…そ、そうね。あの都市整備部よね」

 

 

ハルカの言葉に外見は知ったかを決め込むが、脳内で疑問符を連なる。

都市整備部?なにその部活?都市を整備するの?え?それ部活なの?

 

 

「で、そこの部長……まぁクロキなんだけど、彼奴がフリーの傭兵をお金で囲ってるんだって。詳しく聞いてはないんだけど、傭兵を抱えてどこかの企業と戦争しようとしてるとかしないとか」

 

 

部活なのに企業と戦争?────なにそれ、すっごいかっこいいじゃない!学生という身分でありながら傭兵を率いて企業と戦争を起こすなんて、すっごいアウトローだわ‼︎なんとか協力できないかしら、そんな反骨精神を持つ人だったらきっと分かり合えそうな気がするわ!

 

 

「ふふっ。そうね、それじゃあその都市整備部に話を付けるのはどうかしら?」

「お〜。アルちゃんにしては良い案なんじゃない?」

「い、良いと思います」

「私も賛成。あんまり良い顔はしないと思うけど…ま、社長から頼めば首を縦に振るでしょ」

 

 

珍しく全員が賛同してくれる。ついに私にも経営センスが身についたのかしら?

 

 

「それじゃあカヨコ課長。さっそく都市整備部の部長の連絡先を教えてちょうだい?」

「……何言ってんの社長。連絡先のお気に入りに入ってるでしょ」

「え?私、都市整備部の部長となんて面識ないけど?」

 

 

 

──────瞬間、なんとも言えない雰囲気が事務所に流れる。あれ?私何か間違えたかしら?

 

 

 

「…どうしよカヨコちゃん。アルちゃんクロキが都市整備部の部長を兼任してるって知らなかったみたい」

「どうりで話が繋がらないと思った……どうする?説明する?」

「いや、こうなったら直接本人に気づいてもらった方が良いでしょ」

「どうやって?」

「ちょっと待ってて」

 

 

しゃがんで何か話していたムツキが徐に立ち上がると通信端末を取り出し、慣れた手つきで操作してから耳元に当てる。

 

 

 

「あ、もしもし?久しぶりじゃん。最近顔見てないけど元気?あ、そう?それなら良いんだけど」

「ねぇカヨコ。あれ誰と話しているのかしら?」

「あー……都市整備部の部長だよ」

「嘘っ⁉︎ムツキ知り合いだったの⁉︎」

 

 

思わぬところで彼女の人脈の広さを知ってしまった。部活でありながら企業と戦争しようとしているアウトローの精神の塊のような人と知り合いなんて、やっぱり室長は侮れないわね…!

 

 

「でね〜。いまアルちゃんがさ〜」

「ちょっとムツキ。私も話したいから代わって」

「えっ?あ、ちょっと!」

 

 

何やら親しげに話していたムツキからすっと端末を抜くと「もしもし?」と話し始める。カヨコも知っているの⁉︎まさか、都市整備部の部長は私の大切な部下の引き抜きを考えて……⁉︎

 

 

「久しぶり。こんな夜遅くにごめんね?実は今……うん、うん。それで、社長が話したいらしいんだけど……ありがと。後でこっちから電話しても良い?うん、それじゃあ後で」

 

 

一通り話し終えたのか、端末をこちらに差し出してくる。

 

 

「はい、社長。都市整備部の部長から」

「あ、あなた達、まさか私を置いていっちゃったりしないわよね…⁉︎」

「?何言ってんの?」

「だって!なんだか親しげに話してたし、もしかしたら引き抜きかもって…!」

「……とにかく、話せばわかるよ。社長も知らない人じゃないし」

 

 

宛名の書いていない端末を見る─────とにかく、出ないことにはわからない。カヨコから恐る恐る端末を手に取り、静かに耳に当てた。

 

 

「……もしもし。私、便利屋68の陸八魔アルと申します。実は都市整備部の部長である貴方にご相談が──────」

『………陸八魔か?なんでそんなに畏まってるんだ?』

 

 

穏やかな声色に混じる不思議そうな声。電話先には、慣れ親しんだ楽園造園室の鏑木クロキがいた───────へっ?

 

 

 

「な、なんでクロキがこの電話に⁉︎カヨコは都市整備部部長の電話だって…」

『おう、あってるぞ』

「もしかして私何か揶揄われて……えっ?」

 

 

まるで当然の事実のように、あっけらかんと通話の主が言い放つ。

 

 

『だから、俺が都市整備部部長。ミレニアムサイエンススクール2年生の鏑木クロキだぞ』

「………な」

『な?』

「なんですって〜〜〜〜〜〜〜‼︎‼︎⁉︎」

 

 

衝撃の真実に人目も憚らず大声をあげてしまう。えっ⁉︎クロキが都市整備部部長なの⁉︎企業と戦争をしようとしているあの都市整備部の部長⁉︎

 

 

『ちょ、今は夜中だぞ!もう少し静かにした方が良いって!お前ら仮にも追われる身だろうが!』

「あ、ごめんなさい!私ったら…!」

『……で、本当に知らなかったのか?俺偽名も使ってなかったんだけど』

「ぜ、全然知らなかったわ。てっきり同名なのかと」

『……まぁ、陸八魔らしいと言えばらしいか』

 

 

『全くイタズラ好きだな浅黄は…』としょうがなさそうに息を吐く。

 

 

────楽園造園室代表取締役、鏑木クロキ。私と同じく学生の身分で起業し、今ではゲヘナ中枢である『万魔殿』お抱えの建築家として名を馳せている生粋の職人。ゲヘナ自治区でも楽園を作るものとして高い評価を得ている若き天才建築家だけど、なにも清廉潔白という訳ではない。

 

私達のようなアウトローと手を組み、仕事を妨害しようとする組織を内々に処理しているのだ。建築を妨害しようとする組織や団体の排除や不平等な契約で職人を拘束する悪徳企業などへ圧力をかけたりする等、なかなか表に出せないようなグレーな手法を躊躇いなく取っている。目的のために手段を選ばず、己の信念のために行動するその姿勢は、私の目指す真のアウトローとは違っていても、また輝いて見える生き方だ。そして私は、彼のそういう所が──────。

 

 

『それで、話ってなんだ?夜も遅いし、手短にしてもらえると助かる』

「あ、ご、ごめんなさい!えぇと、実は仕事の為に傭兵を貸してほしくて」

『……傭兵を?』

「えぇ。実は、とある大口から仕事を引き受けたの。安全を取るためにある程度の頭数が欲しくて…」

『内容は?』

「別に、大した仕事じゃないわ。アビドスに屯してるチンピラの掃除よ」

『掃除、ねぇ』

「どうかしら?勿論貸してくれた分の時給はこっちで負担するし、成功報酬の一部を渡してもいいわ。悪い話じゃないでしょ?」

『……ま、確かに悪い話じゃないな』

 

 

口ではそう言っているが、口調からはそんなに乗り気じゃなさそうに見える。私の不安そうな顔がバレてしまったのか、近くでムツキから「スピーカーで」と言われ、その通りにする。

 

 

「あら。あんまり乗り気じゃないのね」

『乗り気じゃない、と言うか……。そもそも、都市整備部で傭兵なんて抱えてないぞ?』

「…えっ?」

 

 

彼の言葉に視線をカヨコに向けるが、彼女は首を振ってから口を開く。

 

 

「けど、巷だと都市整備部が傭兵をどんどん引っ張ってるって噂になってるよ。企業と戦争するためだって」

『………成程、情報操作か。カイザーもいよいよ本気だな』

「え、カイザー?」

 

 

カイザーって、あのカイザー?私達が今回依頼を受けた大口の?カイザーとクロキが戦争するの?

そんな私を気にも止めず、彼は妙に納得した様子で続ける。

 

 

『ま、それは後で対処しよう。そう言うわけなので、今俺の手元に傭兵は一人もいないんだ。力になれず申し訳ない』

「ちょ、ちょっと待って。クロキ貴方、カイザーと戦争する気なの?」

『俺にそんなつもりはないよ。けど、向こうが下手な情報操作を打ってきたって事は、何かしら策があるんだろ』

 

 

あっけらかんとした様子に拍子抜けする──────クロキは凄い。私と同じ学生なのに本気でこのキヴォトスを変えようとしていて、それを実現するために日々努力し続け、結果を出している。だからだろうか、妙に貫禄があると言うか、頼りになると言うか…。

 

 

『ま、こっちはこっちでなんとかするさ。それより、そっちはアビドスのチンピラを片付けるんだってな。必要なら装備の援助くらいするぞ?』

「ほんと⁉︎あ、けど……」

 

 

思いもよらない提案に思わず声色が弾むが、一度抑える。ここで彼の手をとってしまったら、私は彼と並べなくなってしまうのではないか……まぁ、今でも並べてるとは思ってないけど。

 

 

「助かる〜。じゃあじゃあ、この前のめっちゃ光る爆弾送ってよ!」

「ちょ、ムツキ⁉︎そんな勝手に───」

「え〜?いいじゃん、協力してくれるって言うんだし。甘えちゃおうよ」

「だからって……」

 

 

こう言う時素直に頼ることのできる彼女を眩しいと思ってしまう。確かに、せっかくのお誘いだし、成功報酬を貰った後にお金を払えば貸しには──────。

 

 

『けど、アビドスのチンピラと言っても大勢いるだろ?どんな奴らを襲うんだ?』

「えっ?あぁ、カタカタヘルメット団っていう変な名前の奴らよ」

『───そうか。カタカタヘルメット団か』

 

 

ん?何か今返事に間があったような────?

 

 

『……すまないが、そういうことなら協力は出来ない。さっきの話はなかった事にしてくれ』

 

 

その絞り出すような声に、思考が一瞬停止する。

 

 

「ど、ど、どう言うことですか?」

『…カタカタヘルメット団は、今日を持って解散したんだよ』

「そんな話聞いてないけど。ムツキ、聞いてる?」

「ううん。全然聞いてない。アルちゃんは?」

「わ、私だって聞いてないわよ!」

 

 

青天の霹靂、寝耳に水とはまさにこのことだろう。依頼主────カイザーからそんな話は一度だって聞いていない。

 

 

『まだ昨日の今日だし、もしかしたら連絡がなかったのかもしれないな。とりあえず、明日の朝にでも一度確認してくれないか?』

「え、えぇ。わかったわ」

「けど、どうしてクロキがそんな事知ってるの?」

『…今日の昼過ぎに、友人たちと一緒にそいつらの本拠地を叩いたんだよ。その時にな』

「えっ⁉︎そんな事してたの⁉︎」

「クロキは大丈夫なの?怪我とかしてない?」

『怪我なら大丈夫だ、俺は前線に立ってないからな』

「そっか、なら良かった」

 

 

胸を撫で下ろすカヨコだが、彼はそのまま続ける。

 

 

『…で、大事なのはここからなんだが。その解散したヘルメット団の団員は、全員うちで面倒を見ることにしたんだよ」

「はぁ⁉︎」

「え?」

「えぇ⁉︎」

「つつつ、つまり……」

 

 

非常に言いづらそうな口振りで、彼は最も怖い未来予想図を口にする。

 

 

『……もし依頼が撤回されないのなら、俺たちは敵同士と言うことになる』

 

 

その言葉を最後に、尋常じゃない早さで端末の消音ボタンをムツキが押し笑顔で言い放つ。

 

 

「アルちゃん。今回の依頼は断ろう。あまりに割に合わなさすぎる」

「む、ムツキ室長⁉︎」

「…私もムツキに賛成。幾らなんでも楽園造園室とやり合うなんて馬鹿げてるよ」

「カヨコ課長まで⁉︎」

 

 

確かに、私だってクロキと戦いたくはない。けど、私達は既に依頼を受けてしまったんだ。それを今更断るなんてハードボイルドの精神に欠けるというか…。

 

 

「よく考えてアルちゃん。楽園造園室───ひいてはクロキと争うことになったら、最終的にはあの風紀委員長が出てくるんだよ?」

「うっ⁉︎」

「ゲヘナにある楽園区画、その最初のエリアを爆破したチンピラがどう言う目にあったかは、今更言わなくてもわかるでしょ?」

「ヒイィ⁉︎」

 

 

未だ楽園造園室としての実績がなかった頃に起きた、チンピラによる楽園爆破事件は、多くの生徒達を恐怖に陥れた。なにせあの多忙を極める風紀委員長が烈火の如く怒りながら、態々下手人を一人一人探し出しては直々に手を下したのだ、その恐怖は計り知れないだろう。

そして、その風紀委員長と鏑木クロキは非常に親しい仲と言われている。クロキが襲われたともなれば、彼女は一目散に飛んでくるはずだ。そうなったら勝ち目なんてない。

 

 

「け、けどぉ…」

「……はぁ。とにかく、この事は明日依頼主に相談する。クロキには依頼主のことは話さずに。これで良い?」

 

 

カヨコの提案は問題の先延ばしだが、この場では最も良い案に思える。とりあえずはそれなら同意しつつ、端末の消音ボタンを再度押す。

 

 

「ごめんなさい、急に」

『それは別に良いんだが……結論は出たのか?』

「とりあえず、明日依頼主に確認してみるわ。もし変更がないと言われたらその時は…」

 

 

正直、彼と争うのは心苦しい。けど私は真のアウトローを目指し、金さえ貰えればなんでもする『便利屋68』の社長だ、一度受けた依頼を知り合いだから戦えないなんて言い訳はしたくない。

そんな私の心情を知ってか知らずか、変わらない口調で彼が話す。

 

 

『あんまり気にするな。こう言う世界だ、争うこともあるだろ』

「けど……」

『別に、今回の件で交友がなくなるわけじゃない。ま、戦わない事が一番だけどな』

 

 

こんな状況でも変わらない彼に安心感を覚えながらも、同時に罪悪感を感じてしまう。こんな事になるなら、依頼なんて受けなかったのに。

 

 

『話してくれて助かったよ……けど、最後に聞かせてくれ』

「何かしら?」

『今回の依頼はカタカタヘルメット団の殲滅だけか?他に何か依頼を受けてないか?』

「他の依頼…?」

 

 

視線を他のみんなに向けるが、全員が首を振る。

 

 

「いえ?特に受けていないわ」

『───そっか。ありがとう』

 

 

『夜も遅い。君達もそろそろ寝ろよ』と短い挨拶を最期に、彼の声が途切れる。

 

 

「アルちゃーん?依頼が続くんだったら、本気でクロキとやり合うの?リスクしかないと思うけど?」

「そうだよ社長、考え直した方が良いと思うけど」

「……いいえ。寧ろ、ここで途中で降りれば、彼からの信用もなくなるかもしれないわ」

「そんなことないと思うけど…」

「とにかく、まずは明日確認してから考えましょ?もし変更がないようなら……その時は、悪いけど腹を括ってちょうだい」

 

 

 

──────翌朝、依頼主から返信が届く。

 

 

『依頼内容に変更なし』

 

 

……この日、私達は【クロキ(楽園造園室)】と戦うことが決定した。

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

 

 

────アビドス高等学校旧図工室。

 

セリカのアルバイトのゴタゴタを乗り越え、生徒達を全員家まで送り届けてここに戻ってきて一人息を吐く。先生はシャーレに用事があるとのことで公共機関まで送り届けたので、今校舎にいるのは俺だけということになる。

 

 

「─────止まらないだろうな」

 

 

手短な挨拶の後端末の通話を切り、疎に雲が浮かぶ空を見る─────便利屋68は陸八魔アルを筆頭にした集団だ。普段頼りなくとも、彼女が決めたことには逆らうことはしないだろう。そこが彼女達の強みでもあり、恐ろしいところでもある。

 

 

……だが、今回の通話には非常に大きな価値があった。まさに値千金と言っても良いだろう。『便利屋68』はアビドス襲撃の依頼をカイザーから受けていないという事実───はっきり言って、これは非常にまずい。あまりに不味すぎる。

 

おそらくは早期に子飼いのPMCを展開するつもりだ、厄介極まりない。あからさまな情報操作も他の勢力からの介入を抑制するためのものだろう。流石、大企業様はやり口が汚い。

 

 

「そうなると問題は山積みかぁ…」

 

 

対策委員会編は始まりの物語と言うこともあって、多くのキャラクターとの関係性の始まりを担っている。そこをスキップさせた結果、どう言う結果に繋がるのかは全く見当もつかない。

 

 

「対策委員会のみんなや先生との繋がりを持たせるにはどうするべきか…」

 

 

最悪先生だけならどうとでもなるが、便利屋と対策委員会のみんなとどうやって繋がりを持たせるべきか……いや?待てよ?そういえばこの後電話するって─────おっ。

 

図った様なタイミングで端末が震える。それを取り出して宛名をみると鬼方と文字が光っていて、迷うことなく通話ボタンを押す。

 

 

『もしもし?クロキ?』

「さっきぶりだな。いまひとりか?」

『うん、散歩してくるって言って。クロキは?』

「アビドス高校の教室で一人だよ、外をぼんやり眺めてる」

『…じゃあ、さっき言ってた友だちって』

「察しの通り、対策委員会の皆んなだよ」

『相変わらず交友関係は広いんだね、ちょっと妬けるかも』

「なんなら今度紹介しようか?きっと馬が合うと思うけど」

『遠慮しておく』

 

 

ぜひ遠慮して欲しく無かったが、なんとなくそう言われる気もしていたのですぐに切り替える。

 

 

『それより、さっきの話だけど…』

「あぁ。あくまでも予想だけど、そっちの依頼が撤回されることはないだろうな」

『…じゃあ、やっぱり戦う事になるんだね』

「彼女たちは武装を解除されている。それでもやるのか?」

『社長は一度受けた依頼は絶対やり遂げるらしいよ。…どうするの?』

 

 

彼女のその言葉には複数の意味があると読み取れる。

一つはカタカタヘルメット団の事だ、武装解除されている彼女達が便利屋に勝てる道理はない。だけど、俺が何もせずにただ襲われることを良しとしないことも知っているので、何か策があるのかと聞いているのだ。

二つ目は今後の楽園造園室とのやりとりだ。分不相応に地位だけは得てしまったので、交戦状態にあることを周囲───特に風紀委員会に知られたくないのだろう。策略家の彼女らしい心配と言える。

 

 

「とりあえずヘルメット団は全員ミレニアム行政区に逃す。このままアビドスにいたらゴタゴタに巻き込まれるだろうし」

『方法は?』

「砂漠地帯で固めて、大型輸送ヘリでまとめて輸送する。陸路はハルカもいるから色々危ないし」

『…そこは同感』

 

 

伊草ハルカ────彼女一人の火薬の携行量はこのキヴォトスでも群を抜く。素直に陸路で向かったら最後、全員ドカンと爆発されてしまう恐れがある。それは今後の為にもなんとか避けておきたい。

 

 

「けど、それだけじゃお前たちもただ任務失敗ってことになる。流石にそれは忍びないし、どうせならカイザーから金は多く搾り取って欲しい」

『…依頼主の事、知ってたんだ』

 

 

彼女の驚きの声に「まぁね」と続ける。

 

 

「アビドスに介入している企業は限られるし、実はつい先日そこの代表と焼肉に行って、喧嘩してグラスを投げられたんだ。やりあおうとする企業なんてそこしか思い浮かばなかったよ」

『また危ない事を……。それで、なにか妙案はあるの?』

「カタカタヘルメット団の基地跡地にミレニアム製のドローンを配備しておく。それを適当に壊してデータを抜き取ってくれ、色々とカイザーが欲しがりそうな情報を入れておくから」

『それを渡せば良いってことね』

「ヘルメット団の口封じなんてチンケな仕事を失敗してもお釣りが来る程の功績だ。喜んで追加報酬を払うだろうさ。それで便利屋の仕事は終わりだ」

 

 

何やら色々と手を回しているようだが、良い機会だ。偽の情報の一つも混ぜておこう。

 

 

『……それで、その後の情報操作なんだけど』

「そこは心配しないでくれ。風紀委員には上手いこと言っておく」

『悪いね。社長のわがままに付き合わせちゃって』

「こういうのも助け合いだよ。俺だって、最初は色々と助けてもらったんだから」

『…ありがと』

 

 

彼女達を風紀委員会に差し出す気は更々ない。諸々の火種は全部カイザーに背負ってもらうとしよう。

 

 

「それと、念の為配備するドローンは俺の知る限り最も高性能なものを置いておく。その方が信憑性も増すからな」

『わかった。社長的にも、そっちの方が気合いが入るでしょ』

「頼む。…鬼方には色々と世話をかけるな、何かと助けてもらってばかりだ」

 

 

便利屋68と付き合っていく中で、彼女の存在は欠かせない。頭がよく回り、仲間想いで、そして融通が利く。こうして電話してくれたのも便利屋の皆んなを想ってのことだろう、その信頼には答えなければならない。

 

 

『私たちの方が助けられてるよ。今の事務所を紹介してくれたのだってクロキじゃん』

「それ、結局陸八魔にはバレてないのか?」

『バレてないよ。良い事務所が格安で貸し出されてるって社長が見つけてきたんだもん』

「そりゃ良かった。流石に同年代の女性が一つのカップラーメンを4人で分ける生活はあまりに気の毒だからなぁ…」

『今でも経営は火の車だからね…。そういえばこの前社長が──────』

 

 

それからとりとめのない会話を30分くらい続け、もうそろそろ切ろうかとした時にふと妙案が浮かぶ。

 

 

「そういえば、明日のお昼って決まっているのか?」

『お昼?別に決まってないけど?』

「それなら柴関ラーメンってお店が良いぞ。安い上に美味しいし」

『…それって、クロキも一緒に?』

「流石にそれは難しいだろ…。監視の目があったら言い逃れできなくなるぞ』

『冗談だよ。わかった、社長にも言ってみるね』

 

 

明日は対策委員会のみんなと先生がラーメンを食べに行きながらセリカと合流し、そのままブラックマーケットへ調査に行くと言っていた。俺はまぁ………ミレニアムの仕事があるからといえば、鉢合わせになる事はないだろう。

 

 

 

『…それじゃあ、そろそろ切るね。おやすみクロキ、仕事がんばってね』

「おやすみ。良い夜を」

 

 

どこか寂しそうな声を最後に通話が途切れると、「…さて」と上を向く。

 

 

「とりあえず、現時点での原作との差異を確認しておくか」

 

 

黒板の前に立ってチョークを手に取り、軽快な手つきで文字を連ねていく。

 

 

 

①セリカ救出作戦

 ↓

②便利屋68襲撃

 ↓

③ブラックマーケット

 ↓

④ゲヘナ襲撃

 ↓

⑤ホシノ離脱

 ↓

⑥救出

 

 

 

「…覚えている限りはざっとこんな感じか」

 

 

その中で①にバツをつける。もう発生しないイベントだし、発生させる必要性も低い。②にはサンカクを書く。自然発生しないイベントだが、重要性が高いためどこかでリカバリーが必要となるかもしれない。③、④に関しては何がなんでも発生させなければならない最重要イベントだ。これは第3章エデン条約編や最終章で非常に大きな意味を持つ。⑤、⑥に関していえば微妙な所だ。そもそも今のホシノが対策委員会を離脱しようと考えるのかどうか…。

 

 

「結局、そこは行き当たりばったりか」

 

 

こうして改めて羅列してみると、随分と原作と変わってしまったものだと自嘲する。この対策委員会編をハッピーエンドに終わらせるためには、もう流れに身を任せるだけでは不可能だろう。打てる手は打っておくべきだ。

 

 

「ペロロ…様限定グッズの情報は既に流してある。後は彼女が来るかどうか……ま、来るか」

 

 

いつか、間近で彼女の宣言を聞きたいなと思い、黒板の文字を全て消した─────────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────で、なんで俺はここにいるんだよ」

 

 

視線を横に向けると、そこには縄で簀巻きにされているお面の少年─────クロキ君がシロコちゃんに担がれている。彼女は彼を持てて嬉しいのか、随分ご満悦そうだ。

 

 

「今日は校舎で仕事してるって言ったじゃん!なんで連れてきたんだよ⁉︎」

「ん、クロキは私たちアビドス廃校対策委員会の外部顧問。一人だけ仲間外れになんてしない」

「そうです!私たちはずっと一緒なんですよ!」

「怖いよ!たかがラーメン屋に行くだけでこの話はもはや狂気だよ‼︎」

 

 

ジタバタと陸に打ち上げられた魚のようにビタンビタンとしているが、彼女が離す気配は微塵もない。寧ろ鮮度が良いのを喜んでいるようにすら見える。

 

 

「ん、クロキが感情豊かで嬉しい」

「そうだね〜。特にここ最近は元気がなかったし」

「人を簀巻きにして運びながら言う言葉か⁉︎」

「柴関ラーメンって何がおすすめなんですか?」

「初めては普通に柴関ラーメンがおすすめ」

「おじさんは何にしようかな〜?」

 

 

これが普段の日常なのだろう、対策委員会のみんなを見ていると自然と笑みが溢れる────それと同時に、クロキ君がこんなに仲が良い彼女達を置いて消えようとしていた事実に若干の苛立ちを覚える。今度ちゃんとお話しないと…どうせこんな風になってる女の子が山のようにいるんだろうし…。

 

 

「ん、着いた」

 

 

シロコちゃんの言葉に視線を上げると、そこには芝犬の顔が大きく書かれた看板に『柴関ラーメン』と掲げられている─────犬がラーメンを作るのは果たして大丈夫なのだろうか。まぁキヴォトスだし、大丈夫なのだろう、うん。

 

 

「あれ?誰かお店の前で待ってますよ?」

「珍しい、最近は並んでるのを見なかったのに」

 

 

趣のある店構えの前に、四人の少女達がいるのが見える。見た目は委員会の子たちと変わらないけど、学生服は着ていない。ヘルメット団の中の人だろうか、なんて思考が脳裏を過ぎる。

 

 

「や、やっぱりいないのね…」

「何度見てもいないよ。言ったでしょ?あいつは来ないって」

「でもでも、そんなこと言って様子を見にきてるかも…。ほら、この前の結成周年パーティの時だって…」

「アルちゃん乙女だね〜。あぁいう女誑しを好きになると後が怖いよ?」

「ムツキ、そう言うこと言わない」

「はーい」

 

 

誰かを待っているのだろうか、お店に入る気配はない。

 

 

「社長。後ろつかえているよ」

「あ、ごめんなさい。私ったら…」

 

 

白髪の子が私達の存在に気がついたのか、先を譲ってくれる。

 

 

「ありがとね〜」

 

 

ホシノちゃんが会釈して扉を先に開ける────そういえば、クロキ君が全く喋っていない様な…?

 

 

「……………」

 

 

視線を向けると、さっきの鮮度はどこに行ったのか、まるで死んだ魚のようにシロコちゃんの腕の中で静かになっている。

 

 

「あれ?」

「ん、なに?」

 

 

シロコちゃんがお店の中に入ろうとした矢先、一際身長が小さい少女が簀巻きにされているクロキ君に近づく。あちこちから見て「ふんふん…」と何かを確かめている。

 

 

「…なに?もう行っていい?」

「あ、ごめんごめん!簀巻きにされてる男子生徒なんて珍しくって!何か悪いことしたの?」

「…ひとりぼっちになろうとした罪?」

「なにそれ!面白いこと言うね!」

 

 

言葉だけ見れば和気藹々としているが、雰囲気は剣呑としている。簀巻きのクロキ君の何が彼女の逆鱗に触れたのかはわからないけど…。

 

 

「先生、早く入ろ」

「あ、うん」

 

 

シロコちゃんに促され、私も店内に入る。その時の彼女の視線が気になったが……まぁ、覚えておくだけで良いか。

 

店内に入ると、まさにラーメン屋と言わんばかりの内装が広がる。なのに全然暗くなく、寧ろ明るい印象を受ける。こう言う部屋を何度か見たことがあるけど……そっか、これクロキ君がデザインした店内だ。

 

 

「いらっしゃいませ〜!何名様ですか……って⁉︎」

「ん、きたよセリカ」

「きゃー!似合ってますねセリカちゃん!」

 

 

黒のミニスカートにエプロンとバンダナを付け、いかにもラーメン屋の看板娘と言った風体でセリカちゃんが現れる。その姿に対策委員会のみんなは興奮気味だ────確かに、クロキ君が気に入りそう。

 

 

「な、なんで来たのよ!まさかクロキあんた…!」

「……ゴカイデス」

「…うん?何か元気ない?」

「おかしいですね…。さっきまであんなに鮮度…じゃなくて、元気があったのに」

「シロコちゃん縄締めすぎた?」

「私が加減を間違えるわけない。きっと外的要因」

 

 

担いでいたクロキ君を降ろし、縄を手早く外す。

 

 

「セリカちゃん!話してるのも良いけど、案内頼むよ!」

「あ、はい!…じゃあ案内するから着いてきて」

 

 

厨房の中から元気のいい声が聞こえると、そこには看板にもある柴犬の大将が湯切りをしている─────やっぱり、犬なんだね。

 

 

「あれ?お友達かい?ってことは…旦那の言っていた対策委員会の子たちか‼︎」

 

 

セリカの様子から嬉しそうに笑うと、視線が私とクロキ君に向けられる。

 

 

「そっちの2人は……?」

「あ、大将!この二人は…」

「ん、先生とクロキだよ」

「先生と……クロキ⁉︎ってことは旦那か⁉︎」

「……はい、お久しぶりです大将」

 

 

クロキ君の姿に心底驚いたのか、まさに空いた口が塞がらないと言った様子だ。確かに、ロボットからお面の少年に変わったらそりゃ驚くか。

 

 

「びっくりしたよ!あんた、ロボットじゃなかったんだな!」

「えぇ、まぁ…。あの、この事はなるべくご内密に」

 

 

心底申し訳なさそうに頭を下げるクロキ君に、大将も首を捻る。

 

 

「えらい事情があるんだなぁ…」

「ん、クロキ、先生早く座る」

「早く座った方が良いですよ?」

 

 

視線を戻すと、空いている隣の席を叩くシロコちゃんとノノミちゃん。これは、つまり──────。

 

 

「先生、先に選んでください」

「えっ⁉︎」

「これは私の知ってる未来でもあったイベントです。なので、先生が選ばないといけません」

「こんな事まで未来予知にはいってるの⁉︎」

 

 

 

なんだろう、急にクロキ君の知っている未来の出来事が軽くなってしまったような気がする。それとも、ここでの選択肢が未来に大きな影響を与えるのだろうか…?

 

 

 

「駄目、クロキが先に選ぶべき」

「そうですよ〜。昨日の助手席はじゃんけんで決めたんですから」

 

 

 

そんな私の悩みなど関係ないと言わんばかりの指摘にクロキ君が項垂れる…まぁ、そうなるよね。

 

 

「いや、流石にその席に6人は狭いだろ。俺と先生はカウンターで…」

「ダメだよクロキ君。こう言う時でもちゃんと交流を深めないと」

「……ぐぬぬ」

 

 

まるで決死の覚悟を抱くような息を吸う。そして数秒悩み、彼が指差した場所は────────。

 

 

 

「お面のおにーさん?そんなに悩む位そっちが嫌なら、私の横で一緒に食べない?」

 

 

刹那、先程お店の前に立っていた彼女達の一人が手をあげて立ち上がり、年齢に見合わない妖艶な笑みを浮かべる。

 

 

「──────は?」

「──────ふぅん?」

 

 

挑発とも言える言葉に、シロコちゃんとホシノちゃんが立ち上がる。

────やっぱりクロキ君の関係者だったらしい。今度関係者リストを全部作って貰わないといけないかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






鏑木クロキ
キヴォトスに生息している魚。釣り上げた地域には街が産まれる縁起物。魚のため猫や動物に狙われやすい。思いつきの妙案は大体手酷い失敗をする。


陸八魔アル
便利屋68の社長。鏑木クロキと同様学生の身分で起業した。上記鮮魚とは非常に良い関係を構築しており、依頼をよく引き受けている。都市整備部のクロキと楽園造園室のクロキを同名の別人だと思っていた。当然のように中に人が入ってることは知らない。間近で覚悟ガンギマリロボットを見てきたので原作よりも覚悟強め。


浅黄ムツキ
一目でお面がロボットの振りをした精神異常者だと見抜いた。彼女らとクロキが楽しそうにしているのがなんとなく鼻についたとのこと。アビドスの彼女らに喧嘩を売った自覚はある。


鬼方カヨコ
夜な夜なクロキに電話をかける生徒の一人。中に普通の人が入っていることは知っている。


伊草ハルカ
クロキから火薬の携行量で一目置かれている。彼女の扱いを間違えれば最後、楽園が軒並み爆破されることを知っているため要注意リストに名前がある。


小鳥遊ホシノ

ヘルメット団壊滅時の助手席じゃんけんの勝者。



砂狼シロコ

ん、喧嘩なら買う。



大将
一度クロキから弟子入りを頼まれているが、それを断っている。その時の言葉は「俺は賢くねぇが、だからこそわかることもある。旦那、あんたにはまだやるべき事がある」とのこと。
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