ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります   作:あーけろん

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誤字脱字報告、感想、評価、閲覧、ご指摘の全てに感謝を。

※午後5時ごろに誤って一度投稿したものは削除致しました。お騒がせして申し訳ありません…。





優しい夢の終わりとアリウススクワッド

 

 

 

──────アビドス自治区 柴関ラーメン店内。

 

 

太陽はすっかり登り、良い子ならお腹を減らすお昼前。知る人ぞ知る名店であるここ柴関ラーメンでは最も来店数が多い時間帯であり、看板娘であるセリカと大将の二人の活気ある声が飛び交う時間だ。

 

 

「ごめん、聞こえなかった。もう一度言ってくれる?」

「あはは、そんなに大きな耳があるのに聞こえなかったんだ。なんかごめんね?」

「──そう、宣戦布告と受け取って良いよね?」

 

 

──────だが、今日に限っては活気のある声一つ聞こえない。原因は明らかで、店の真ん中でシロコとムツキが睨み合っているからだ。なんで襲撃イベントが起こってないのにこんなに険悪なんだよ…。

 

 

「駄目だよシロコちゃん。ここはお店の中だし、そんな子に本気になったら可哀想だよ?」

「────ん」

 

 

若干落ち着きを取り戻したのか、消えていたハイライトに光が入る─────良かった。とりあえずここの修理代を全額負担しなくて済みそうだ。

 

 

「ちょちょちょ⁉︎ムツキ室長⁉︎いきなり知らない人に声をかけちゃダメでしょ⁉︎」

「いや、アルちゃん。あのお面は─────」

「と、とにかく!私たちも席に座りましょ?ね、カヨコ課長?」

 

 

あぁ、なぜこう言う時の彼女はこんなに安心感があるのだろうか…もう今頭の中には例のBGMが流れている。ここで冷静なカヨコに声をかけるのもポイントが高い。きっとこの後は「そうだよムツキ」と嗜めるような声が─────。

 

 

「……そうだね」

 

 

どの言葉に対しての同意だったのか。

彼女の鋭利だが美しい顔が直近まで近づくと同時に、左腕に優しい体温が伝わる────それは、誰がどう見ても腕を組んでいるようにしか見えなかった。

 

 

「ねぇ、良かったら一緒に食べない?」

 

 

声に湿度があると錯覚するほどに煽情的な声に背筋が震え、同時に対策委員会の面々からの視線も零度を下回るのではないかと思うほどに冷え込む。

 

 

「カヨコ課長まで⁉︎そんな、二人がお面が好きなんて…!」

「鬼方、お前…!」

 

 

流石にこの状況は看過できないと腕を離そうとするが、見かけによらず強く掴まれているせいで解けない。

 

 

「なにその格好?いつものスーツはどうしたの?」

「事情があったんだよ…!それより監視されてたら不味いだろう⁉︎」

「その格好じゃ気づかれないよ。話したいこともあるし、一緒にご飯食べよ?」

「いや、それは…⁉︎」

 

 

直後、反対側にも人肌の温もりを感じる。

 

 

「クロキさんは私達と一緒にご飯を食べるので駄目です!他の人を当たってください!」

「十六夜さんもか…!」

 

 

彼女に張り合ってなのか、普段よりも強く抱きつかれる。だが忘れてはいけないのが今の俺はロボットスーツを着ていない貧弱な男子学生と言うことだ。詰まるところ、何が言いたいかといえば───────。

 

 

(もう指先の感覚がない!頼むから離してくれ‼︎)

 

 

状況は全男性の夢のような状況であるにもかかわらず、掴む力が強すぎて感覚が全くない。ほのかに温度を感じるのが関の山だ。だがそんな事情など気にもせずに二人は火花を散らす。

 

 

「お昼を食べるだけだし、それくらい良いでしょ?」

「今日は私達がクロキさんに構ってもらう日なんです!なので1秒たりとも無駄にできません!」

「束縛の強い女は嫌われるよ?」

「世の中の男の人はそうかもしれませんが、クロキさんは違います!クロキさんはなんだかんだ手のかかる女の子が好きな筈です!」

 

 

あんまりな言い分に意識が飛びそうになる────お願いだから本人を前に性癖を聞かないで欲しい。どの業界でも拷問だからそれ。

 

 

「ん、ノノミの言う通り。クロキは少しくらい面倒くさい女が好きって言ってた」

「えっ?そうなのクロキ君?」

「断じて言ってません!シロコのそれは自転車を点検してる時に、手間のかかる機械の方が味があって好きだって言ったんですよ!」

 

 

なんで先生も乗ってきてるんですか!止めてくださいよこう言う時は!

 

 

「んへ〜。でもクロキ、人助けはいつも笑顔でやるよね?」

「そうですね。なんだかんだ楽しそうにやってますね」

「この前の定例会の時も頼んでないのに進んで校庭で掃き掃除してたしね」

「もう勘弁してくれ……!」

 

 

なんでラーメンを食べにきただけなのにこんなことになっているんだ俺は…?何か悪いことをしたのか?したのか…。

 

 

「ちょっとちょっと〜?なんか理解者顔してるけど、そんなの私達だって知ってるからね?」

「そ、そうです!クロキさんはお腹が空いたと言ったらご飯をくれますし、社長に良くアドバイスをしてあげてます!」

 

 

勇んで張り合うとするムツキとハルカにもう辞めて欲しいと視線を送るが、まるで届いてる風には見えない。このまま精神攻撃で絶命するのか俺は…?

 

 

「────あの、ちょっと良いかしら?」

 

 

キョトンとした顔で陸八魔が手を上げ、心底不思議そうに口を開く。

 

 

「みんなクロキクロキって言ってるけど、どこにクロキがいるの?」

 

 

 

 

──────なんとも言えない空気がお店に流れる。

 

 

 

「…えっ?嘘でしょアルちゃん?この流れで気づかないの?」

「社長……」

「あ、アル様……」

「えっ?えっ?なによみんなして。だってクロキなんてどこにも────」

「ほら、そこにひょっとこのお面を被った人がいるでしょ?あれがクロキだよ、楽園造園室の鏑木クロキ」

 

 

ムツキに指を指されたことで彼女と視線が会う──────あぁ、これでまた一人俺のことをロボットだと信じてくれていた人が減ってしまう。だが、今更否定できる言葉など俺は持ち合わせていない。

 

この後の展開など読めている、「なんですってー⁉︎」と叫んで例のBGMが流れる。そしてなんやかんやあって便利屋68と対策委員会との戦闘が始まるのだ。とりあえずはすぐに隠れられるように障害物を────────。

 

 

 

「…………嘘」

 

 

 

それは、自分の想像とは全く違う声だった。心底驚いたと言わんばかりの彼女がトコトコと俺の前に立つと、ペタペタと俺の身体を触り出す。肩に始まり、腕やお腹や脚、そして胸に手を当てる。

 

 

「ほんとに?ほんとにクロキなの?」

 

 

 

否定したい心をグッと堪え、渋面を仮面の下で作って頷く。

 

 

 

「……そうだよ」

「──────そう。そうなのね」

 

 

妙に納得したような顔付きで頷く彼女─────その直後。

 

 

「なんで言ってくれなかったのよーーーーー‼︎‼︎」

「ぐえっ⁉︎」

 

 

襟元を掴み上げられ、ブンブンと首を振られて視界がぐわんぐわんと揺れる。締め上げられた反動でカエルのような声が出てしまうが、そんな事はお構いなしに彼女は続ける。

 

 

「なんでか皆んなは知ってるし!私だけが知らなかったの⁉︎そんなの酷くない⁉︎というかそこにいる女の子達はなに⁉︎女の子5人に男一人って不健全じゃない⁉︎」

「やめ、陸八魔……吐く…」

「アルちゃんアルちゃん。それくらいにしないとクロキ死んじゃうよ?」

「そうだよ社長。こればかりはクロキが悪いとは思うけど」

 

 

二人の助言でようやく解放され、ふらふらになって床に尻餅をつく────あと10秒遅かったら危なかった…。

 

 

「────えぇ、と。とりあえず自己紹介しない?」

 

 

なんともいえない空気が流れる中、先生が静々と提案する。

 

 

「……そうだね。このままだとお店に迷惑だし」

「…そうね、ごめんなさい。取り乱してしまって」

「ん、良いよ。さっきの言葉には同意できるし」

「確かに、素顔を隠されてるってのはショックですよね」

「だね〜。私も知った時は思いっきり悪戯したし」

「そこはクロキの悪いところだよね。変に秘密主義って言うか」

「わかります!困ったことがあったらなんでも相談して欲しいのに…」

 

 

────どうやら、剣呑な雰囲気が流れたようだ。何が起こったのかは知らないが、流石はみんなのアルちゃんと言ったところだろうか…。

 

 

「それじゃあまずは私から。初めまして、連邦捜査部シャーレの先生です。みんなよろしくね?」

「シャーレの先生……道理で見たことあると思った。サンクトゥムタワー奪還の時の人だね」

「初めまして〜。私は浅黄ムツキ、アルちゃんの会社で室長やってま〜す」

「会社?」

 

 

先生の疑問符に陸八魔が得意気に答える。

 

 

「そうよ!私達は『便利屋68』!お金さえもらえればなんでもやるがモットーの便利屋よ!」

「で、私がそこの課長の鬼方カヨコ」

「ひ、平社員の伊草ハルカです。よろしくお願いします…」

「そして私がその社長の陸八魔アルよ!是非覚えていってちょうだい!!」

 

 

あいも変わらない自己紹介の後、奥空さんが口を開く。

 

 

「便利屋68って……たしかゲヘナでお尋ねものとして手配されてますよね?クロキさんとはどのような関係で?」

「ビジネスパートナーと言った所かしら。クロキを表の顔とするなら、私達はそれを陰からサポートする裏の顔なのよ!」

「て言っているけど、実際は?」

「う〜ん…まぁ間違ってはないかな」

「なんでそんなに歯切れが悪いのよ!」

 

 

裏の顔なんて言っているが、そもそも俺はそんな違法行為を進んでやってない。そりゃふざけた妨害をしてくる奴らはごまんといたが、なるべく穏便にするよう気をつけていた────非合法上等の連中にはそれ相応の報復はお願いしたが。

 

 

「…ま、クロキが多少後暗い事をやってたのは知ってたけど。その知り合いってことね」

「そう言うことよ。そう言うあなた達は?」

「私たちはアビドス廃校対策委員会。で、クロキにはそこの外部顧問をやってもらってるの」

「アビドス……ってことは、再開発関係の繋がり?」

「ま、そう言うことだね」

「そう……貴方達も大変なのね」

 

 

アビドスの再開発が難航している事は周囲の人間には知れ渡っているからこその言葉だ。不甲斐なくて頭が下がる。

だがそんな俺の気持ちとは裏腹に、小鳥遊が明るい声で話す。

 

 

「別に、そんなに大変じゃないよ。クロキも色々助けてくれるしね」

「その通り。私達は私たちのやり方でアビドスを立て直してみせる」

「……そう。貴方達もクロキと一緒に夢を追っているのね」

「─────なんだかよくわからんが、一旦話は落ち着いたようだな」

 

 

 

大将の声と共に醤油ベースの良い香りが漂う。視線をそちらに向けると、そこにはどんぶりを持って笑う大将がいた。

 

 

「ま、とりあえずはうちの自慢のラーメンでも食ってけ。旦那の知り合いらしいからな、ここは俺の奢りだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────

 

 

 

 

 

「──────旦那。あんまり女の子を惑わせちゃ可哀想だぜ?」

 

 

 

大きな机を繋げて便利屋のみんなと対策委員会のみんなが話しているのを眺めながら、私とクロキ君は大将の前のカウンター席でラーメンを啜る────また争うことを避ける為、私とクロキ君がカウンターに移動した形だ。

 

 

「クロキさんってば酷いんですよ!この前急に辞任届をもってきて、いきなり辞めようとしたんです!」

「ん、それでセリカが怒って思いっきりビンタした」

「あ〜だからあのお面なんだ。納得した」

「よくビンタだけで済ませたね。私ならもっと酷いことしちゃうかも」

「もしセリカがやってなかったら私もそうしたかも」

「そうだね〜。ほんと酷い男だよクロキは」

 

 

────向こうはなんだかクロキ君の話題で盛り上がっているようだ。最初の剣呑な雰囲気が嘘のようで、和気藹々としている。もっとも、横で小さくラーメンを啜っているクロキ君は居心地が悪そうだが。

 

 

「…大将、俺は惑わせてなんて」

「ここまで慕われててその言い訳はできねぇぜ旦那。先生も言ってやってくれ」

「えっ?あ、う〜ん…」

 

 

正直なところ大将の言う通りではある。あるのだが……。

 

 

「ねぇクロキ君」

「なんですか?」

「結局、クロキ君ってどんな女の子が好きなの?」

「ッグ⁉︎」

 

 

私の問いが予想外だったのか、大きく咳き込む。慌ててカップを呷ると、恨みがましい視線を私に向ける。

 

 

「なんでそんな事聞くんですか…?」

「さっきの話から気になって。で、どうなの?」

「…そりゃ普通に、俺の事が好きな女の人が好きですよ」

「もっと具体的に」

「具体的にって言われても…」

 

 

クロキ君は気づいているんだろうか。さっきまであんなに和気藹々と話していた声が消え、皆んながじっと見ていることを。ちょうど背中を向けているから気づいていないんだろうなぁ。

 

 

「…月並みにはなりますが、自分に芯がある人が良いですね」

「自分の意思を持っている人ってこと?」

「そうですね。何か目標を持っていると尚良いです」

 

 

「一緒に夢を追う関係って素敵だと思いませんか?」と笑いかけてくる─────きっと、こう言うところが良くなかったんだろうなぁ。

 

 

「クロキ君」

「なんです?」

「あんまり女の子を誑かしちゃ駄目だよ?」

「急すぎませんか⁉︎」

 

 

全然急じゃない。むしろ遅すぎるくらいだ───けど、ここだけで見てもライバルは10人くらいかぁ……頑張ろ。

 

 

「────社長。そろそろ行かないと集合時間に遅れるよ」

「あら、もうそんな時間?」

「あーあ、楽しい時間はあっという間だね」

「そ、そうですね…」

 

 

鋭利な顔の彼女────鬼方カヨコちゃんが立ち上がると、それに続いて便利屋のみんなが立ち上がる。

 

 

「あれ、もう行っちゃうんですか?もっとお話したかったのに…」

「ごめんなさい十六夜さん。これから仕事があるのよ」

「それって楽園造園室関係?」

「えっ、あ、えぇと……」

「ま、そう言うところかな。ほら社長、行くよ」

「え、えぇ。それじゃあ皆んな、縁があったらまた会いましょう!」

「じゃあね〜。シロコちゃんも、決着は今度付けようね?」

「望むところ」

「大将ご馳走様。今度はちゃんと自分たちのお金で食べに来るわ」

「おうよ!また来てな!」

 

 

彼女達がお店から立ち去る中、カヨコちゃんがクロキ君のそばに立つ。

 

 

「じゃあねクロキ。例の件はちゃんと誘導しておくから」

「わかった、こっちも手配しておく。社長達によろしくな」

「うん、任せて」

 

 

抽象的な言葉を交わすと彼女もさっとお店から立ち去る────また悪巧みだろうか。あんまり向いてないと思うんだけどなぁ…。

 

 

 

「…さ、私達もそろそろ行こっか」

「ん、いよいよブラックマーケットだね」

 

 

彼女達につられてホシノちゃん達も立ち上がる。

 

 

「じゃあ大将、私も行くね」

「怪我はしない様にな!」

「それは…うん、頑張る」

 

 

アルバイトの制服からいつものアビドスの制服に着替えたセリカちゃんも合流し、いつもの対策委員会が勢揃いする。

 

 

「ここからブラックマーケットまではどうする?歩いて行く?」

「ちょっと距離があるからな。トラックを手配するからそれで行こう」

「ん、運転はまたクロキ?」

「いや、今回は奥空さんにお願いするよ。俺は助手席で仕事してる」

「わかりました、運転は任せてください!」

「ごちそうさまでした。ラーメン美味しかったです!」

「おう!またみんなで食べに来てくれよ!」

 

 

大将の温かい言葉を背にお店から出る。外はまだ燦々と太陽が照りつけており、冷房が効いていた店内から打って変わって蒸し暑い空気が襲う────やっぱりアビドスは暑いなぁ。

 

 

「もう少しでトラックが来るから、それまで待ってよう」

「これなら店内で待たせてもらった方が良かったかしら?」

「流石にご迷惑ですよ…」

「ん、先輩はどう思う?」

「…………」

 

 

シロコちゃんの問いに彼女は答えない。不思議に思って彼女に視線を向けると、どこか遠くを睨みつけているようにみえる。

 

 

「ホシノ先輩?」

「…えっ?あ。あぁ、何?」

 

 

ノノミちゃんの心配そうな声に我に帰るが、どこか間の抜けた声で返す。

 

 

「そんなに大した事じゃないけど……どうしたの?何かあった?」

「────うぅん。何でもないよ、ちょっと疲れちゃっただけ」

「しっかりして下さいよ。これからブラックマーケットなんですから…」

「あはは、ごめんごめん」

 

 

頭を掻いて笑う彼女────だけど、その態度がどうしても気になって彼女が見ていた場所に視線を向けようとした矢先に「先生」と声が掛かる。

 

 

「今は駄目だよ」

「………わかった」

 

 

全く主語のない言葉だが素直に頷く。私じゃ気が付かない何かに気付いたのだろう、ここは彼女に従うべきだ。

 

 

「あ、トラックが来ましたよ!」

「もう来たの?随分早いじゃない」

「今時の自動運転は進んでるからな」

 

 

視線の先に淡い水色の軽トラックが見える。あれがクロキ君の借りたもののようだ。私達の前にそれが止まると誰もいない運転席が開き、そこに奥空さんが乗り込む。

 

 

「久しぶりの運転ですね。いつもクロキさんが運転していましたから」

「ごめん、ちょっとどうしても急ぎの仕事があってね」

「また区画整理ですか?」

「───ま、そんなとこかな」

 

 

クロキ君が助手席に乗り込むと同時に私達もいつかのように荷台に乗り込む。それから直ぐに軽快なエンジン音と共に景色が動き初め、気持ちのいい風が頬を撫でる。

 

 

「…あれ?クロキさん、それって教会ですか?」

「…ん?あぁ、まぁそんなとこ」

 

 

 

その言葉に習って私も覗き窓から彼の端末を見る。そこには荘厳だが美しい外見の建築物が映っていて、彼が作る論理的かつ合理的な建物とはまた違った素晴らしさを持っている。

 

 

「そこって、確かトリニティの古聖堂じゃないですか?」

「古聖堂?」

「歴史あるトリニティでもかなりの歴史を持つ建物です。確か昔、大きな会議をする時に使われたものだったような…」

「そうそう、流石奥空さん。博識だね」

 

 

そのまま電源の着いたタブレットを私に手渡す。そこには大量の画像フォルダや設計書、原価計算表などが羅列されている。

 

 

「ここは昔、トリニティで開かれた第一回公会議の時に使われた歴史的建造物なんだよ。近々使う予定があるからってことで修繕を頼まれたんだ」

「使う予定?」

「そ。内容はまだ秘密だけどね」

 

 

彼に端末を返すと、再び操作を始める─────いま思うと、こうして仕事をしている彼を見るのは初めてかもしれない。石のように静かになり、黙々と作業をしている姿はどこか機械的な印象を受ける。

 

 

「ん、先生。その状態のクロキに話しかけても曖昧な答えしか返って来ない」

「シロコちゃん」

「集中するとこうなっちゃうんですよね」

 

 

ノノミちゃんがクロキ君の頬を突いても特に反応はない。凄い集中力だ。

 

 

「……頼りになりそうだなぁ」

 

 

頼れる先輩の横顔を見て、再び流れる景色に視線を戻した───────。

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

 

見渡す限りの砂と廃墟──────アビドスでも初期に砂に埋もれてしまった廃墟。その中でも一際高い建物の中で溜め息を吐き、双眼鏡越しに対象を見る。

 

 

 

「……ふざけた奴だ」

 

 

ひょっとこのお面を被り、周りの生徒達と談笑している目標───────鏑木クロキを見る。お面を被っているせいで表情は見えないが、周りの雰囲気から和やかな空気が流れていることがわかる。

 

 

「ど、どうします?撃ちますか?」

「駄目だ。今撃ったところですぐに逃げられるし、目的はあくまで拿捕だ」

 

 

横で狙撃銃を構えるヒヨリに視線を向ける。もし一人だったら攻撃を仕掛けていたが、今はタイミングが悪い。

 

 

「…けど、本当にあれがそうなの?あんな格好するなんて信じられない」

「先に現地で集めさせていた情報から間違いない。格好についてはこの際問題にしない方が良いだろう」

「…そっか」

 

 

ミサキの少し寂しそうな声に後ろ髪を惹かれながらも、再度目標を見る──────その時、青と黄色の視線と目が合った。

 

 

「────────ッ」

 

 

直後に手に持っていた双眼鏡を地面に叩き割り、荷物をまとめる。

 

 

「リーダー、どうしたの?」

「護衛に気づかれた。場所を移動する」

「まさか、気のせいじゃないの?ここから対象までの距離は2kmは離れてるよ」

「─────気のせいなものか」

 

 

オッドアイと呼ばれる異色の瞳孔──────そこに含まれていた感情は、強烈なまでの敵意だった。地下にいた頃でも感じた事のない程の敵意。あれが気のせいである筈がない。

 

 

「あれが要注意リストにもあった小鳥遊ホシノか……」

 

 

アビドス廃校対策委員会唯一の三年生であり、同委員会の委員長。そして、公式記録上の鏑木クロキと最も長い関わりを持っている生徒だ。

戦闘記録を確認すれば嫌でも理解する───間違いない、あれが鏑木クロキを確保する上で最大の障害となり得る。

 

高層ビルの一室から朽ちた雑居ビルの部屋に移動し、壁を背にもたれかかる。

 

 

「…それで、これからどうするの?」

「────正面から対象を確保することは避けるべきだ。対策委員会の戦闘力には目を見張るものがあるし、なにより不確定事項がある」

「シャーレの先生、だね」

「そうだ。ここ数日対象と行動を共にしているが、その目的や能力が不明瞭だ。命令を受ける際にも要注意リストに名前があった」

「そ、そうなると一人でいるところを強襲するしか方法がないんじゃ?そんな隙ありますか…?」

「このままだと厳しいだろう。だから、あいつが一人になる状況を作る」

 

 

懐から1枚の写真を取り出し、それを床に置く。

 

 

「これは?」

「アビドスで活動していた【カタカタヘルメット団】というチンピラだ。こいつらを利用する」

「……利用って?」

「つい先日、このカタカタヘルメット団は対策委員会によって武装解除された。それだけなら利用しようもないが……」

 

 

敢えて一度息を吸い、聞き間違いのないようはっきりと口にする。

 

 

「それと同時に、対象の経営する楽園造園室に保護される運びとなったらしい」

「えっ」

「…そう」

「………」

 

 

反応は様々だが、皆思うところはあるのか表情は暗い─────そうだろう。私たちは暗がりのままなのに、あんな連中が光の下に出ようとしているからだ。

 

 

「このヘルメット団は現在アビドス砂漠の駐屯地に集められているらしい。ここを襲撃し、人質にして対象を誘い出す」

「でも、本当に来るかな。保護したとは言え、つい先日まで不法行為を意にも介してなかった屑の集まりだよ。幾らクロキでも……」

「クロキという名前で呼ぶなと言っただろう、ミサキ。あれは対象だ」

「っ、ごめん」

 

 

失言をした彼女を叱責する。

 

 

「…でもでも、私もその通りだと思います。幾ら対象といえ───」

「いや、奴は必ず来る─────必ずだ」

 

 

【俺の夢はね、このキヴォトスにいる皆んなが笑って過ごせる世界を作ることなんだ。そこに例外はないし、つくるつもりもない。少数を犠牲にした上で成り立つ世界が、楽園である筈がないからね】

 

 

古びた建物の中、暖かい暖炉を前にマグカップを傾けながら楽しそうに夢を語る姿が脳裏を過ぎる──────よせ、考えるな。希望を持つな、あれは麻薬だと散々自分に言い聞かせたじゃないか。

 

 

「…姫はどう思う?」

「………」

 

 

頭によぎる幻想を振り払う為に姫に話を振る。彼女の手話による答えは肯定─────────クロキと出会った頃は少なくはあったが会話していたのが、今では前と同じ手話でしか話さなくなってしまった。

 

 

「あ、あの〜。一つ提案しても良いでしょうか?」

「なんだヒヨリ、言ってみろ」

「ヘルメット団って、構成員は完全に管理されてるわけじゃないんですよね?それだったら、私達が紛れ込むこともできるんじゃないかなって…」

「紛れ込んでどうするつもりだ?あれだけの大所帯を対象が全て管理するとは思えないが」

「い、いえ。ですから……そのぉ……」

 

 

急に歯切れが悪くなる彼女─────だが、それにミサキが続く。

 

 

「……つまり、ヒヨリはこう言いたいんでしょ。そのままヘルメット団の構成員として保護して貰えば良いって」

「────なんだと?」

 

 

一体何を言っているんだ、ヒヨリは?

 

 

「そんな事が出来るわけがない。私達は一度あいつを殺しかけているんだぞ」

「た、対象─────じゃなくて、クロキさんならわかってくれますって。ヘルメット団なんてチンピラも助けるんですから」

「…私も、一考の余地はあると思う」

「ミサキ、お前────」

「だ、だって!だってこんなの不公平です‼︎」

 

 

突如ヒヨリが立ち上がり、大きな声を出す。

 

 

「私たちだってクロキさんと一緒にいました!一緒にご飯だって食べて、いっぱいお話しました!なのに今もこうしてジメジメした暗がりを生きていて、寝床は石のように硬いし、ご飯だって冷たいレーションのままです‼︎」

「……やめろ、ヒヨリ」

 

 

頼むから、その口を閉じてくれ。

 

 

「あのカタカタヘルメット団とかいう連中だって、やった事は私達と大差ないはずです!なのにクロキさんの手で暗がりからひっぱり出されて……!きっとあの子たちは普通に学校に通って、あったかいご飯を食べれて、ふかふかのベッドで眠れるんです!私達だって──────!」

「やめろと言っているだろう‼︎」

 

 

立ち上がって彼女の前に立ち塞がる。

 

 

「もうマダムから言われた事を忘れたのか⁉︎私達が寝返れば、アリウスは総力をあげて楽園地区を攻撃する!そうなったらあいつの築き上げてきたものは、あいつの目の前で瓦礫に変わる‼︎瓦礫に変わった楽園を前に絶望するあいつの顔が見たいのか⁉︎」

「うっ…」

「対象が───クロキがマダムと敵対した時点で私達に和解という文字はないんだ!それならせめて、私達の手で崩れゆく楽園を見せないようにしようと決めただろう!」

 

 

彼─────鏑木クロキの願いは叶わない。この世界には理不尽や憎悪が溢れていて、いつかは全て無に帰る。みんなが笑って過ごせる楽園なんて夢物語だ。

いつか全てが瓦礫に変わるのだとして、それをあいつが見たらどう思うのだろうか。必死になって築いてきた楽園が崩れてなくなった時、クロキがどんな顔をするのか─────そんな姿は見たくもないし、考えたくもない。

 

 

「…クロキの優しい夢物語は、私達の手で終わらせる。そのために、私達はここにいるんだ」

 

 

それが、一時の夢を見せてくれた彼に対してのせめてもの恩返しだと思って──────。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

──────ブラックマーケット。

 

 

キヴォトスでも数多ある非合法組織が多く屯する、連邦生徒会の威光が届かない影の濃い場所。事前に話は聞いていたけど、確かに治安は非常に悪いと言わざるを得ない。

 

道の片隅にはスケバンと思しき生徒たちが何人もいて、露天に並んでいる商品はみるからに怪しいものばかりだ。私のいた世界で言うところの繁華街の治安をより悪くしたような場所だが、肌を露出した女性の姿は見えないことからこのキヴォトスではそういった商売はあまり盛んではないことが窺える。

 

 

「ここが噂の───確かに雰囲気悪いわね」

「ん、キヴォトスでも有数の裏市場だからね」

「アビドスの中にこんなところがあったなんて…」

「ま、私たちはあんまり外の世界に興味がなかったからね」

 

 

みんなも来たのは初めてらしく、慎重な足並みで市場を進んでいる。

 

 

『あんまり路地裏とかには行かないように、表通りを歩くようにしてください』

「うん、ありがとう」

 

 

耳につけてあるインカムからクロキ君の声が聞こえる────ブラックマーケット郊外からアヤネちゃんとクロキ君がサポートしてくれているのだ。

 

 

「それで、とりあえずどこから探そうか?」

「武器商人から当たるのが鉄板だと思いますけど…そんな知り合いいますか?」

「うーん……クロキ、誰か知ってる?」

『裏商人は流石に…。とりあえず裏サイトから有名店を何店舗かピックアップしたので、そこを当たってみてください』

「ん、ありがと」

 

 

端末上に何点かの位置情報が送られ、それを頼りに歩き出す────その前だった。

 

 

「た、助けて下さい〜〜!」

 

 

ブラックマーケットに似つかわしくない声に視線を回すと、誰が出した声なのかはすぐにわかった。

 

 

「あれ、正面!」

 

 

身綺麗な白の制服を着た少女が3人のスケバン染みた少女たちに追われている───今時あんな格好してる生徒がいるんだなぁ。

 

 

「追われてるみたいだね」

「ん、どうする?助ける?」

「そうだね、流石にそのままは寝覚めが悪そうだし」

『了解。防壁を展開する』

 

 

その声の直後、手に持っていたシッテムの箱を起動する。ごめんねアロナ、また手伝ってあげて。

 

 

「ごらぁ待てや────グッ⁉︎」

「ブベッ⁉︎」

「ゴハッ⁉︎」

「はぁ…!はぁ…!…へぇ?」

 

 

必死に走っていた少女が私達の前に止まると肩で息をしながら背後を振り向く──────突如として現れた防壁に顔から突っ込んでいるスケバンの3人がいた。あれ絶対痛いよね…。

 

 

「大丈夫?なんだか追われてた見たいだけど」

「あ、ありがとうございます…!けど、あれは…?」

「ん、私たちの頼れる脚長おじさんのやつ」

「あ、脚長おじさん…?」

 

 

ホシノちゃんとシロコちゃんが少女に近づく───あれ、この制服どこかで…?

 

 

「ったく、なんだよこれ…!おい!お前らがこれを作ったのかよ⁉︎」

「なんだ、まだ元気じゃん。クロキ、あれの材質何で作ったの?」

『防爆性の合金で作ったんだが…あんまり反発性はないみたいだな』

「えっ?クロキ?クロキって……」

 

 

スケバンの彼女達が徐に立ち上がると、怒り心頭といった様子でこちらを睨みつける。

 

 

「なんだかしらねぇが邪魔しやがって…!とっととそこにいる奴を渡しな‼︎」

「渡したらどうするの?」

「決まってんだろ!その制服はキヴォトスでも屈指のお嬢様学校のトリニティの奴だ、攫って身代金をがっぽり頂こうって寸法よ!なんなら分け前を────」

 

 

ホシノちゃんが話を最後まで聞くことなく、右手を上げる。

 

 

「ごめんね、うちはそう言うのはやってないんだ─────対策委員会、戦闘開始だよ」

 

 

そしてその腕を振り下ろす──────その直後、スケバンたちの背後に高い防壁が出来上がる。彼女達を囲うように産まれたそれにはどこにも逃げ場がない。

 

 

「な、なんだこれ!おい、とりあえずここを離れて──────」

「ん、鴨撃ちだね」

「蜂の巣にしてやるんだから!」

「な、なんだかごめんなさいね〜?」

「謝らなくて良いんだよノノミちゃん───任意に撃ってよし」

 

 

直後、夥しい銃弾の嵐がスケバン達を襲う。時間にしておよそ30秒くらいだろうか。各々が斉射を終えたそこには、目を回して地面に倒れ伏しているスケバンがいた────なんだろう、某錬金術アニメの殲滅戦を思い出しちゃった。

 

 

「よし、みんなお疲れ。セーフティはちゃんと確認してね」

「ん、容易い」

「ほんと、クロキの力って便利よね」

「ですね!」

 

 

みんなが銃火器を確認している間に、震えている彼女に近づく。何かのキャラクターなのだろうか、ヘンテコな鶏を模したカバンを背負っている少し変わった少女だ。

 

 

「えぇ、と…大丈夫だった?」

「え、あ、はい!助けてくれてありがとうございます!」

「怪我はない?結構追いかけ回されたみたいだけど…」

「怪我は大丈夫です、少し疲れちゃっただけで…。それより皆さんは…?」

「私たちはアビドス廃校対策委員会。君を助けたのは…成り行きだね」

「な、成り行きですか…」

 

 

少しばかり動揺している彼女だが、事実なのでそれ以外に言う言葉がない。

 

 

「それより君は?あんまりここらじゃ見ないような格好だけど…」

「あ、申し遅れました!私、トリニティ総合学園の2年生の阿慈谷ヒフミと言います!改めまして、助けて下さってありがとうございました!」

 

 

深々と頭を下げる彼女に「そんなに頭を下げなくても大丈夫だよ」と声をかける──キヴォトスじゃ珍しい、極々普通の子に見えるけどなんでこんな所に…?

 

 

「それで、なんでヒフミちゃんはこんなブラックマーケットに?トリニティじゃここが危ないところだって教わらなかったの?」

「いえ、危ないところなのは知っていたんですけど…とある筋から限定ペロロ様グッズの情報を入手しまして……」

「──ペロロ様?」

 

 

聞き馴染みのない言葉に首を傾げると、「えぇ〜⁉︎知らないんですか⁉︎」と声を上げる。

 

 

「これです!これがペロロ様なんです!」

「…えっ、これが?」

 

 

背中に背負っていたやや不気味な鳥を模したカバンを見せてくる────あ、これがそうなのね。

 

 

「あ!知ってます!モモフレンズですよね!」

「そうですそうです!」

「ホシノちゃん、知ってる?」

「いんや?おじさんはそう言うのはさっぱりだから。それこそ先生は?」

「私はまだこの世界に来てから日が浅いから…」

 

 

ノノミちゃんやヒフミちゃんの反応を見る限り非常に人気のあるコンテンツなのだろうが……あ、そうだ。

 

 

「クロキ君はモモフレンズって言葉知ってる?」

『まぁ、聞いた程度なら。動物を模したキャラクター達が登場する作品だったと記憶してますが』

「そっか、クロキ君もずっと忙しなく働いてたから知るわけないか」

「…あ、あの!」

 

 

インカム越しにクロキ君と会話していると、急にヒフミちゃんが私の前に立つ。

 

 

「先程からクロキってお名前を聞きますけど、それってもしかして鏑木クロキ様でお間違い無いですか?」

 

 

────────ん?

 

 

「えぇ、と。ヒフミちゃん?今なんて言いました?」

「え?」

「ん、聞き間違いじゃなければクロキ『様』と聞こえた」

「私達の聞き間違いかしら?それだったら良いんだけど…」

「あ、アヤネちゃん。横にいるクロキを捕まえておいて」

『大丈夫です!もう確保済みです!』

 

 

インカムからはクロキ君の『誤解…誤解なんです…』と啜り泣く声が聞こえるが、もうここまできたら誤解の可能性なんて皆無だ。

 

 

「…さて、ヒフミちゃん。助けてあげたんだし、ちょっとお話聞かせてもらえるかな?」

「は、はい!私でよければ!」

「ありがと───それじゃまず、ヒフミちゃんはクロキと面識はあるの?」

「はい、あります。モモトークも交換してますよ」

「そうなんだ。ちょっと試しに送ってみて貰える?」

「わかりました。少々お待ちください…」

 

 

手慣れた手つきで取り出した端末を操作する────あの操作の仕方、結構頻繁に連絡を取っているかお気に入りに登録してるね。

 

 

「はい、今送りました」

「アヤネちゃんどう?」

『ちゃんとスタンプが送られてきてます!同姓同名という可能性はありません!』

『ち、違うんです……俺が別に様付けで呼ばせてるわけじゃなくて、トリニティの生徒たちが勝手に……』

「ん、様付けで呼ばれるほど慕われてることの方が問題」

「やっぱりこのままじゃ、クロキさんが他所の学校に取られちゃうかも…」

 

 

シロコちゃんのその言葉に首を大きく振る─────どこに様付けで呼ばれる生徒がいるのだろうか。

 

 

「あ、あの…それじゃあやっぱり貴女達も…」

「そう、私達もクロキの関係者」

「やっぱりそうなんですね!良かったぁ、ここで共通の知り合いと出会えるなんてついてます!」

 

 

胸を撫で下ろして笑う彼女だが、本当に助かったのかはわからない。もしかしたらスケバンに攫われた方がマシだった未来になる可能性だってなくはない。

 

 

「それで、クロキはトリニティでみんなから様付けで呼ばれてるの?」

「えぇ、と、そうですね。基本的には呼ばれています。呼んでいないのはティーパーティーの皆様だけだと思います」

「ティーパーティー?」

『トリニティの生徒会のことかと。あそこは昔からそれぞれ三つの派閥から代表者を選出して、その3名で自治区を運営するんです』

「お洒落な名前だね…」

 

 

…しかし、そうなるとクロキ君は少なくともその生徒会の誰かと仲が良いのだろうか。トリニティといえば確かリン行政官からの報告書にもあったが、極めて長い歴史を持つお嬢様学校だ。外部の生徒であるクロキ君がそこの生徒達から様つけで呼ばれるなんて尋常ではない。

 

 

「クロキ君はトリニティでどんな事をしているの?」

「色々とされていますよ。うちの学校って歴史が長いので壊れていたり古くなった箇所が多かったんですけど、クロキ様が来てからそういう所を全部直してくれたんです!」

「うんうん、他には?」

「他には……トリニティ地区中に路線バスを走らせてくれたり、トリニティでは珍しい新しいものがいっぱい入ってる大型複合施設を作ってくれたり、正義実現委員会の公安活動で壊れた街を直してくれたり、最近はシスターフッドの学生寮の建て直しとかしてくれました!」

 

 

───────こうして他人から彼の実績を聞くと、本当に常軌を逸しているとしかいえない。

 

 

「ん、そうやってクロキはまた粉を掛けたんだ」

「ほんと、誰かれ助けないと気が済まないのかしらあいつ…」

「でも、それだけで外から来た生徒が様付けで呼ばれるかな?トリニティって歴史ある学校だし、ミレニアムの生徒とそんなに相性がよくないと思うけど」

「あぁ、それはとある噂が原因なんですよ」

「噂?」

 

 

ホシノちゃんの言葉に、ヒフミちゃんがあっさりと話す。

 

 

「ナギサ様とクロキ様はトリニティに末永い繁栄を齎すために、将来を誓い合った仲だって噂です。まぁ、パテル派はこの噂に猛反発してるんですけどね」

「─────────へぇ」

 

 

 

クロキ君、良い加減にしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







鏑木クロキ
何度楽園を壊されても、その度にそれを作り直し障害を踏み越える意思をアリウスの彼女達に示すことができなかった落伍者。その隙をベアトリーチェにつけ込まれ、アリウススクワッドに銃を向けられた。彼女達に望まない銃口を向けさせたベアトリーチェの事を憎悪しており、カイザーPMC理事以上に不倶戴天の敵として認識している。【先生】に全てを託した後はこの憎悪は忘れようとしていたが、当人によって表舞台に引き戻されたので憎悪は継続中。機会があったら差し違えてでも殺してやると息巻いている。


ベアトリーチェ
【聖人】の遺伝子と真正の姫である秤アツコの遺伝子を掛け合わせた赤子を使って更なる神秘の高みを目指そうとし、アリウススクワッドと鏑木の接触を許した。【聖人】を汚す行為だと黒服達から猛反発されたが、単独で事に及んだ。鏑木クロキによる徹底的な拒絶と妨害により計画は頓挫したが、その嫌がらせとしてもっとも長い付き合いだったスクワッドの彼女らに命を狙わせた。生徒の願いを物としか思っていない精神性をクロキから憎悪されており、キヴォトスで唯一殺意を向けられている人物とも言える。


錠前サオリ
美しい夢が醜い現実によって壊される前に終わらせようと考える健気な少女。ベアトリーチェから弾道ミサイルと自爆テロ要員のアリウス分校生徒を見せられており、寝返ったら楽園を瓦礫に変えると脅されている。なお、ベアトリーチェの計画については聞かされていない。


槌永ヒヨリ
うわーん!私もあったかいご飯を食べてふかふかのベッドで眠りたいです!


阿慈谷ヒフミ
作中屈指のアウトローお嬢様。桐藤ナギサ経由で鏑木クロキと知り合った。部屋中にペロログッズを飾るために内装工事をお願いしたこともある。数学と理科の宿題でわからないものがあったら一番に連絡する位の関係性。


トリニティの例の噂
ある時期を境に流れ始めた噂。噂の当人である桐藤ナギサはこの噂について反応しておらず、公式にはなんらも発表していない。噂の出所はフィリウス分派と囁かれているが、真偽は不明である。





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