ブルアカ世界に男で転生したのでロボットになります 作:あーけろん
誤字脱字報告、感想、評価、閲覧、ご指摘の全てに感謝を。
『─────ん、つまりクロキは仕事と称してあちこちで現地妻を拵えてるってこと?』
「花の女子高生が現地妻なんて昼ドラ用語を使うんじゃありません!俺と桐藤さんはそんな淫らな関係じゃないから!」
ブラックマーケットから少し離れた場所にある、アスファルトがひび割れている寂れたコインパーキングに俺の声が響き渡る。
『でもでも!将来を誓い合った仲ってそう言うことよね⁉︎』
「その噂が出鱈目なんだよ!相手は押しも押されもせぬトリニティのホストだぞ⁉︎普通に考えれば外部の業者がそんな関係になるわけないだろ!」
この世界で学校とは国家としての意味合いを持ち、そこのトップともなればその扱いは首相や大統領と同じと言えるだろう。そしてトリニティといえばゲヘナと並ぶ巨大なマンモス校であり、キヴォトスでも長い歴史を有する押しに押されぬ超名門校────前いた世界の国家で例えるのであれば合衆国や連邦、連合だ
そこの代表と外部からやってきた冴えない業者が許嫁になるなんてありえない事は、ちょっと考えればわかることだ。しかしそこは花の女子学生、そういうありえない設定の方が噂として面白いのだろう。当人にとっては迷惑極まりないが…。
『クロキさんは恋愛に立場を持ち出すんですか……?』
「い、いや。別に俺はそう言う考えじゃないけど……」
妙に悲しそうな十六夜さんの言葉に言い淀む。立場を超えた恋愛を表現した物語はそれこそ数えきれないほど知っているし、なんなら好みの分類ではあるが…。
「と、とりあえずそこにいる阿慈谷さんにもインカムを渡してあげてくれない?」
『あ、もう貰ってます!お久しぶりですクロキ様!』
対策委員会の声じゃない言葉が耳に入る。
「久しぶり阿慈谷さん────それとはじめに、お願いだから今だけは様付けは止めてくれ…!」
『わ、わかりました…?』
俺の決死の懇願に頷いてくれる──今度桐藤さんにやめてもらうようお願いしてみよう。
『それで、クロキさ────ん達はどうしてブラックマーケットにいるんですか?』
「ちょっと事情があってね…。阿慈谷さんも良かったら手伝ってくれないかな?」
『クロキさ…んのお願いだったら喜んでお手伝いしますけど、何をすれば良いんですか?』
『ん、私達の学校を襲っていた黒幕を探し出す』
『襲撃?黒幕?』
『ま、そこは追々話すよ。それよりあんまりここにいるとさっき倒した不良達が起きちゃうよ』
『そ、そうですね!まずは移動しましょう‼︎』
小鳥遊の言葉を機に、端末上の点が動き出す。よしよし、少々トラブルはあったが、本来の目的であるヒフミと対策委員会の合流は上手く行った。後は流れに任せれば──────。
『クロキ、後で噂の件で話があるからね?』
「…はい」
小鳥遊の言葉に力無く頷く。知ってたよ、うん。
『それで、皆さんとクロキさんはどういった関係なんですか?』
『クロキは私達対策委員会の外部顧問で、色々と協力してもらってるのよ』
『そうだったんですね。そうなると、クロキさんの夢に協力してるってことですよね?』
『確かにそうだけど…ヒフミちゃんもクロキの夢を知ってるの?』
小鳥遊の言葉に『勿論です!』と阿慈谷が返す。
『クロキさん関係のクロノススクールでのインタビューや雑誌の掲載記事には必ず目を通してますから!私も陰ながら応援してるんです!』
『えっ?クロキ君、もしかして結構メディア露出してる?』
先生の問いに「まぁ、それなりには」と歯切れの悪い言葉で返す。取材対応なんて時間の無駄だと思うが、メディアの力というのは馬鹿にならない。殆ど同条件の案件で、テレビに出てた人だから仕事を振るなんて事もザラにある。使えるものは使わないといけないのだ。
『ん、クロキの取材といえばやっぱり情熱キヴォトスが良い。密着取材の中だとあれが一番』
『普段私達じゃ見れないクロキさんが見れますからね!競合企業の社長とバチバチにやり合ってるクロキさんは必見です!』
『へぇ…それって今でも見れるの?』
「動画投稿サイトに有志の人がまとめてくれた奴があるからそこからみるのがお勧めですよ!」
横に座っている奥空さんがやや食い気味に返す。なんでそんなに詳しいの…?
『ありがとアヤネちゃん、今度見てみるね』
『おじさんはそっちより雑誌とかに載ってる単独取材が好きかなぁ。クロキの人間性が良く出てるし』
『そういえば、たまに通販とかで【都市整備部おすすめ!】なんて謳ってる枕とかマットレスがあるけど、あれって本当におすすめなの?』
「黒見、その文言が載ってる商品はぜったいに買うなよ?」
なんで俺がマットレスとか枕をおすすめするんだ…普段からそんな余裕ある生活は送ってないぞ…。
「それより、阿慈谷さんに事情は説明しなくて良いのか?随分と話が脱線してるけども」
『あ、そうでした!それで皆さんがブラックマーケットにいる理由というのは…?』
『ん、違法パーツの流通ルートから私達を襲っている組織のことを探りに来たの』
『襲われてる、ですか…?』
黒見が忌々しそうに話す。
『カタカタヘルメット団ってとこよ。ま、そこは昨日武装解除させたから良いんだけど』
『そのヘルメット団が随分と手厚い援助を受けてたみたいでね。その背後関係を調査しにきたってわけ』
『なるほど…。それで、私は一体何を手伝えば?』
『情報集めを手伝って欲しい。人手はなるべく多い方が良いし』
『…わかりました。助けられた恩もありますし、クロキさんにも頼まれましたから、私でよければお手伝いします!』
彼女の力強い言葉に一人胸を撫で下ろす。これで断られていたらどうしようかと思ったが、やはり彼女は【主人公】と呼ばれるに相応しい逸材だ。
『話も纏ったし、ここは二手に別れようか。私とセリカちゃんとヒフミちゃん、シロコちゃんとノノミちゃんと先生の二つで分けようと思うけど、異論はある?』
小鳥遊の言葉に全員が頷く。
『ありません』
『ん、ないよ』
『私もないわ』
『よ、よろしくお願いします!』
『うん、よろしくねヒフミちゃん』
『クロキとアヤネちゃんはさっきと変わらず、私達のナビゲートをお願いね』
「わかりました!」
「わかった。気をつけろよ」
『それじゃ、一度解散』
その言葉を最後にインカムの全体通信を切り、一息入れる────あとは運良く現金輸送車を目撃してくれれば、晴れて覆面水着団の結成だ。このイベントは今後のためにも絶対に外せない、なんとしても完遂させないと…。
「お疲れ様ですクロキさん、良かったらお茶飲みます?」
「ありがと、頂くよ」
少し温くなったペットボトルを奥空から受け取り、栓を回して一息に呷る。爽やかな渋味が喋りっぱなしで乾いていた喉に染み渡り、一息で半分程空けてしまう。
「ふぅ、生き返った…。ありがと、奥空さんは?」
「私は大丈夫です。それに、ペットボトルは今はそれしかありませんし」
そう言って笑う彼女だが、これから喋ることは増えるだろう。自分だけお茶を飲むなんて気が引ける。
「そんな寂しいこと言うなよ。確か近くに自販機があったと思うから買ってくるよ、待ってて」
「あ、クロキさん!」
奥空さんの制止も聞かずにトラックの扉を開けて外に出る。相変わらずの熱気と砂埃に辟易としながらも歩き出し、先程見た自販機の位置を記憶の中から探し出す。えぇと、確か道路を右に曲がった辺りで───────ん?
トラックから5分ほど歩いたあたりでポケットに入れていた端末が震える。それを取り出して光る画面を見ると、そこには珍しい名前が光っていた。知らない名前ではないので特に迷うことなく通話開始ボタンを押し、耳元に当てる。
「もしもし?白石部長か?電話してくるなんて珍しいね」
『私だってこんな事態がなければ電話なんてしないさ───けどね、昨日の夜送られてきたモモトークを見たら小言の一つも言いたくなるってものさ』
開口一番、不機嫌そうに文句を言い放つ彼女───────ミレニアムサイエンススクール所属、エンジニア部部長の白石ウタハの口調に苦笑いを浮かべる。
「あぁ、例の件ね。やっぱり駄目かな?」
『駄目ってわけじゃないさ。元々は君が作った物だ、私達はそれを管理しているだけだし─────だからって、こんな素晴らしい物を壊すためにアビドスに送ってくれなんて、そんな無体な事はないだろう?』
『そうだそうだー!反対反対〜!』
『は、反対です…‼︎』
彼女の通話口の裏から他の部員の声も聞こえる──────まぁ、技術に生きる彼女達にとって受け入れられないのも無理はない。無理はないが……俺としては転生初期に作ったちょっと痛々しいものなので早めに処分したかったのも本音なのだ。なので、今回の便利屋68との戦闘に使うのにもってこいという訳だ。
「昨日モモトークでも言ったでしょ?それらにはもう価値はないし、管理費だって馬鹿にならない。それならいっそ使い潰してしまおうって話さ」
『これだけの性能のドローンを、殆ど武装解除して壊してしまうなんて技術に対する冒涜だよ。壊すにしても完全武装の上で華々しく散らせて上げるべきだ』
「弾代だってタダじゃないんだよ白石部長……。日々予算に余裕のない君達ならそれはわかってるだろ?」
『そういう現実的な話は聞いていない。そもそも、君と言うものは最初に提唱していた【楽園防衛機構】はどうしたんだ?あれから進捗がないようだが?』
「うっ、それは…………」
白石部長の言葉に詰まる。
楽園防衛機構──────作中に登場した要塞都市エリドゥの構想を取り入れた、外敵に対する防衛機構。【王女】や【色彩】、【神名十文字】の来襲からキヴォトスを守る為に作ろうとしていたシステムだ。システムと言っても、難しい仕組みはない。
要は有事の際には自分の作った楽園区画を一部要塞化し、密かに併設させていたドローン製造ラインを起動させる。その後はその製造ラインへクラフトチェンバー0号機を使って無尽蔵に物資を供給し続けて戦闘ドローンを現地作成、相手が斃れるまでゾンビ攻撃を続ける……詰まるところは物量作戦だ。
─────尤も、何百何千とシュミレーションしても【王女】や【色彩】には勿論勝てず、【神名十文字】に至ってはそもそも感化されてしまい敵対されてしまうという致命的欠陥を克服できなかったため頓挫したのだが。
当時はまだ梔子先輩を亡くしてから日が短かった事もあり、自分一人でなんとかしようと息巻いていた青い時期だったのだ。あまりにも痛々しい…思い出しても鳩尾あたりが痛くなる。
そのためその機構が取り付けられた楽園区画は再開発業務の初期の初期の箇所、ミレニアムとトリニティにそれぞれ一つしかない上にその機能の殆どを解体してある。そしていまエンジニア部には俺が死んだ後に防衛機構を管轄するために作った領域支配機が三機安置されてるのみだ。
「…その話はおいおいするよ。とにかく、そこに置いてある三機のうち一機はこっちに送ってくれ。頼むよ白石部長」
『待ちたまえ、まだ話は─────』
長くなりそうだったので一方的に通話を切り、一息吐く────今度予算の横流しをしないと機嫌は取れないかもしれないなぁ。早瀬会計にバレない方法を考えておかないと。
「…お、あったあった」
それから少し歩いて自販機を見つけて、小銭を入れてお茶とジュースを2本ずつ買う。これから長丁場になるかも知らないし、多いに越したことはないだろう。
ペットボトルを抱えながら再び端末を開くと、そこには先程から30分ほど時間が経った時刻が映し出されている────これは早く戻らないと奥空さんを心配させてしまうかも知れない。
「さ、急ぐか」
──────────────────────────
「───────あれ?」
聞き込みを初めて30分程度。まだまだこれからと言う矢先に、ヒフミちゃんが口を開く。
「どうしたのヒフミちゃん?」
「あ、ホシノさん。あれを見てください、あの白色のジャケット」
「…ん?」
ヒフミちゃんの指差す方向へ視線を向ける。そこには、普段から見慣れたジャケットに袖を通している3人組が見えた。
「あれって……都市整備部のジャケットじゃないの?」
「うん、そうだね」
セリカちゃんの言葉に頷く。
白を基調に各所に水色の装飾が引かれた、作業着にするには勿体無い程の出来栄えのそれは、間違いなく都市整備部が作業員に配っているそれだ。背中にはミレニアムの校章が刻まれ、都市整備部の腕章が付けられている事からも間違いようがない。
「ブラックマーケットにまで手を広げているなんて、流石クロキさんです!」
「……いや、なんか様子がおかしいね」
ヒフミちゃんの言葉に首を振る。身につけている服装は確かに都市整備部のそれだが、雰囲気が都市整備部のそれではない。手に持っているのも作業道具ではなく小銃や拳銃といった銃火器類─────現場作業には必要のないものばかりだ。
「妙ね。都市整備部や楽園造園室の現場は基本的に火器持込禁止のはずだけど」
「そうだね────ちょっと話を聞いてみようか」
「え、ちょっとホシノさん⁉︎」
ヒフミちゃんの静止の言葉を聞かず、道路の端で固まっているジャケットを着た3人組に近づく。銃のセーフティを音もなく解除し、盾もすぐに開ける様にロックを外しておく─────後は。
「セリカちゃん、その獰猛な顔はやめてね。警戒されちゃうでしょ」
「でも…!」
「とりあえずは、ね?いきなり戦闘になると聞きたいことも聞けないでしょ?」
「…わかりました」
渋々といった様子で表情を戻す彼女に微笑む────大丈夫だよ、もし懸念していた通りならただじゃおかないから。
「ねぇねぇ君たち、ちょっとお話良いかな?」
「あ?なんだよあんたら?」
リーダー格と思われる一人がドスの聞いた声でこちらを振り向く─────遠目じゃわからなかったけど、これは都市整備部が配っているジャケットじゃない、よく似たコピー品だ。
「随分と良いジャケットを着ている様だけど、君たち都市整備部の関係者?」
「だったらなんだって言うんだよ?」
「もし良かったらどこで工事するのか教えてくれないかな?私達も今日呼ばれててさ」
「……お前らも都市整備部の関係者か?なら証拠を見せな」
「証拠ねぇ……これでどう?」
制服のポケットから都市整備部の腕章を取り出して見せる。
「…銀行前の大通りの道路整備だってよ。詳しくは現場監督に聞きな」
「ありがと─────所で、一つ聞いても良いかな?」
「なんだよ、まだあんのかよ?」
心底イラついた様子の相手に対して笑いかける。
「その出来の悪い劣化コピー品はどこから手に入れたのか教えてよ?」
「なっ─────」
刹那、私の横にいたセリカちゃんが発砲する。突然の奇襲に対応できなかった取り巻きの一人にワンマガジン分を叩き込み、昏倒させる───流石セリカちゃん、容赦ないね。
「てめっ───ガッ⁉︎」
慌てて銃口を向けてきた彼女の顎を銃床でかち上げ、ガラ空きになった胴体に二発至近距離で撃ち込む。大きな音を立てて壁に叩きつけられヘイローが消えたことを見計らい、最後の目標へ視線を向ける。
「よ、よくもリーダーを───!」
手に持っていたライフルを振りかぶっている姿を見てから銃を空に投げ、空いた両手で胴体に二、三発拳を殴りつける。無理やり息を吐き出されて嗚咽にも似た悲鳴を出しながら崩れる額に、空から戻ってきて排莢を終えた湯気の経つ銃口を押し付け引鉄を引こうとした瞬間、悲鳴にも似た懇願が吐き出される。
「ま、タンマ!降参!降参するから!」
手に持っていた小銃を投げ捨てた後、両手をあげて涙目でこちらを見上げる姿を見て引鉄から指を離す。
「手間がなくて助かるよ。とりあえず今から何点か質問するから、嘘は吐かずになるべく早く答えてね。じゃないと…」
「じゃ、じゃないと…?」
投げ捨てられた彼女の銃へ発砲する。可愛らしくデコレーションされた小銃が瞬く間にスクラップにされる様を見て彼女がコクコクと首を縦に振る。
「それじゃあまず一つ。君たちの身分は?」
「よ、傭兵っす。普段から3人で連んでいて、そこで倒れているのがリーダーっす」
「その身につけている服装はどこから入手したの?」
「依頼主から用意されたっす。仕事をする時はこれを着ろって」
「君達の依頼主は?」
「そ、それは……」
言い淀む彼女に対して、銃口でバラバラになった小銃を指す。
「か、カイザー‼︎カイザーPMCのブローカーからの依頼っす‼︎」
「カイザーPMC?」
「PMCって?」
「private.military.company……詰まるところは民間軍事企業の事だと思います。けど、カイザーって事は…」
私達にとってカイザーという言葉で一番聞き馴染みがあるのは、借金相手であるカイザーローンだろう。けど、まさか、そんな事が────。
『ん、ホシノ先輩聞こえる?』
「シロコちゃん?どうしたの?」
脳裏に最悪な予想が走る中、インカムから声が聞こえる。先程の声とは打って変わった冷たい声色だ。
『今都市整備部を騙る傭兵を取り押さえた。このまま処分しても良い?』
「…そっか、そっちでも目撃したんだ」
『そっちでもって…まさか先輩の方でも?』
「うん、今拘束して色々と聞き出してるとこ。あと、処分しちゃ駄目だよ。そんな事したらクロキに嫌われるよ」
『…ん、半殺しに抑える』
その言葉を最後にインカムが切れる。私も人のことを言えないけど、クロキの事になると真っ直ぐだねシロコちゃんは。
「ホシノ先輩、今のは…?」
「うん、向こうでも都市整備部の偽物を拘束したらしい」
「嘘でしょ……」
「驚くのは後。とりあえず今は────」
再び銃口を傭兵に向ける。
「依頼内容を簡潔に教えて。貴女達はなんで雇われたの?」
「あ、アビドスのあちこちで暴れるって仕事っす。詳しい理由は何も聞かされてないっすけど…」
「─────そう」
なんの悪びれもなく話すその口に銃を突っ込まない自分の理性を褒めつつ、大きく息を吸う──────つまり、こいつはあろうことかクロキが必死に築いてきた都市整備部や楽園造園室という信頼を、夢の結晶を、端金で壊そうとしたと言うのか。
「……すぅ、はぁ」
脳裏に走る嫌な感情を大きく息を吸って吐き出す。駄目だ、この感情はクロキが望んでいない。
「…最後に一つだけ。そのカイザーPMCって所の斡旋人はどこにいるの?」
「く、詳しい場所は知らないっす!ただ、銀行近くにカイザーの管理している事務所があるって噂があるっす!」
「……ありがと。もう良いから、今着ているジャケットをここに置いて倒れている二人を担いでどこかに行って」
「は、はいっす!」
倒れている二人を担いで早足に立ち去る背中に向けて「それと」と続ける。
「もし依頼を続けるのなら、次は容赦しないから」
「き、肝に命じておくっす────!」
あっという間に見えなくなった後姿を見送り、大きく息を吐く。
「二手に分かれたばかりだけど、シロコちゃん達と合流しよう。一度情報を共有しておきたいしね」
「……ヒフミはどうするの?その、これ以上は────」
セリカちゃんの言葉に心の中で同意する。多分、これからアビドスは慌ただしくなる。流石に部外者である彼女を巻き込むのは────。
「いえ!こんな話を聞かされて、何もせずに帰るなんてできません!」
そんな私たちの気持ちを知ってか知らずか、彼女が力強く言い放つ。
「けど、ヒフミちゃんはトリニティの生徒だよ。私達アビドスには───」
「確かに、アビドスにとっては私は部外者かもしれません。ですけど!」
「クロキさんの夢を応援している一人として、ここで引き下がるなんて出来ません!私なんてなんの取り柄もないかもしれませんが……お願いします!何か手伝わせて下さい‼︎」
─────その言葉は、確かに私の胸を強く打った。
トリニティとしては関係ない。けど、クロキの夢を応援する一人の人間として協力したい。この言葉に、一体どれだけの力があるだろうか。
(クロキの嘘つき。誰も救っていないなんて、そんな事ないよ)
あの時、教室で懺悔する様に独白した彼を心の中で叱責する────だって、この言葉はクロキがいなかったらきっと聞くことが出来なかったはずだから。
「…ありがとう、ヒフミちゃん」
「えっ?私はまだ何も…」
「さ、そうと決まれば善は急げだよ。急いで合流しよう」
───────────────────────────
「─────それじゃあ、情報共有を始めよっか」
寂れたコインパーキングの敷地内で、太陽の日差しを浴びながら口を開く。対策委員会のみんなにヒフミちゃんを新たに加えた全員が揃い踏みしているが、みんなの表情は非常に暗い。
一瞬だけクロキ君の方へ視線を向けるが、そこには指を顎に当てて何か考え込んでいる姿が見えるだけだ。
「まずは私達の方からなんだけど……これを着た生徒達を見つけたよ」
ノノミちゃんの手に持っているジャケットを見る。私は初めてみるが、これがクロキ君の都市整備部で配布しているジャケット、そのコピー品とのことだ。これを見つけた時のシロコちゃんの俊敏さは凄まじく、ものの数十秒足らずで4人もの生徒達を制圧してしまった──────余程気に入らなかったんだろう、彼女の手元に残っている一着を除いて残りはビリビリに引き裂いてしまった程だ。
「私達の班もそれを着た人を見つけたよ。どうやら手広くやってるみたいだね」
「カイザーPMC………裏サイトを調べたらすぐに出てきました。大企業カイザーコーポレーションのグループ会社の一つで、子飼いの軍隊組織の様です」
キヴォトスという学園都市にPMCがある事自体驚きだけど、問題はそこだけに留まらない。
「そして、私達が借金をしているカイザーローンの親会社でもある……そうですよね」
「……そうなります」
ノノミちゃんの言葉にアヤネちゃんが重々しく頷く。
アビドス廃校対策委員会が借金をしている相手が『カイザーローン』……ヒフミちゃん曰く有名な闇金融とのことだ。
そしてそこの親会社であるカイザーコーポレーションのグループ会社であるPMCが都市整備部の評判を落とすべく暗躍を始めた──────これだけの相関があって無関係な訳がない。
「そうなると、一連の動きはカイザーコーポレーションが仕組んだ事だと結論付けて良いね。先日私が上げた条件にも全部一致してるし」
「けど、その目的がわかりません。なんでクロキさんの部活を騙る必要があるのか、私達の学校を襲ったのか……」
「理由なんてどうでもいい。大事なのは、カイザーの奴等が私達に牙を剥いたこととクロキの夢を汚した事。この事実さえあれば良い」
極めて冷たい声でシロコちゃんが賛成する。
「カイザーコーポレーションを叩き潰す。今すぐ、奴らがクロキの事を騙る前に」
「……いや、その前にやることがある」
クロキ君が反対意見を口にする。らしいとは思ったけど、表情は暗い。
「どうして?状況証拠から見てもそのカイザーが黒幕で間違いないのに」
「十中八九カイザーが黒幕なのは間違いないし、奴らと決着を付けなきゃいけない事は否定しない───けど、それは今じゃない。今じゃないんだ」
「今大事な事は、今回の件で一番に割を食う人達を少なくする事だ。悪いけど、そこは譲れない」
ひょっとこのお面が全員のことを見据える。
「カイザーがどれだけの傭兵を雇ったのか、その規模感はわからない。けれど依頼内容が都市整備部を騙り、無作為に暴れることなら一番被害を被るのはアビドスで暮らす人達だ。それは避けないといけない」
「避けたいって……そんな事できるの?」
「………こんな回りくどい事をするって事は、カイザーコーポレーションは俺のことを攻撃する大義名分が欲しいんだ。なら、それをこっちから提供してやれば良い」
「…けど」と何か思い悩んでいる。しきりにこっちを見ている事から、何か私に関係していること。とりわけ未来に関する事なのはわかるけど───。
「────クロキ君」
「っ、先生。自分は………」
「良いんだよ。クロキ君は、クロキ君の思うようにやって」
彼から私に向けられる感情、それは恐怖だ。自分が何かをしたら、取り返しのつかないことになってしまうかもしれない恐怖。…でも、そんなのは皆んなが持っている当たり前の感情だ。彼だけが未来に責任を負わなくていい、それは私達みんなで背負うべきものなんだから。
「─────ありがとうございます、先生」
短い感謝の言葉─────その直後だった。
「まずはみんな─────本当にごめん‼︎」
見事なまでの直角90度の深々としたお辞儀に、思わず呆気にとられてしまう。
…えっ?いきなり謝罪?
「え、えぇと?それは一体何に対しての謝罪なのかしら?」
「実は、俺はカイザーコーポレーションがカタカタヘルメット団を使ってアビドスを攻撃していたのは知ってたんだ‼︎」
「……はぁ⁉︎なにそれ、どう言うこと⁉︎」
「そのままの意味だ!俺はそれを知ってて、みんなにそれを隠していたんだ。謝ってすむ問題ではないけど、本当に済まなかった‼︎」
セリカちゃんに詰め寄られる彼だが、姿勢は変わらず直角のままだ。
「…ん、黙っていた理由は?」
「黒幕を本来知り得ない方法で知ったら、俺の知っている未来に辿り着けないと思ったのが一番の理由───いや、違うな。本当は、一人でなんとか出来ると驕っていたんだろうな」
「裏でカイザーの理事と会談もしたし、カイザーコーポレーションの子会社とバチバチにやり合ってたしな」と申し訳なさそうに話す。
「けど、結局失敗した。本当に情けない限りだよ、未来人気取りで一人で勝手に動いて失敗したんだから」
「………それで、なんでクロキはそれを今話したの?何か理由があるんでしょ」
「今のこの状況は、まず間違いなく俺の落ち度だ。それに無関係の人達を巻き込みたくない───けど、カイザーに喧嘩を売るためにはどうしても対策委員会の、いや、ホシノの協力が必要なんだ。そのために、この話をした」
クロキの言葉に対してホシノちゃんの顔は優しいままだ────流石、一番付き合いが長い彼女は薄々気づいていたのかもしれない。
「…ま、とりあえずは顔をあげてよ。その状態じゃまともに話もできないし。ね、みんなも良いでしょ?」
「ん、私は構わない」
「私も大丈夫です!クロキさんの秘密主義は今に始まったことじゃありませんから」
「…ここで怒っても事態は進展しないし、今回は許してあげる」
「セリカちゃんの言う通りですね。色々と言いたいことはありますが、ここは飲み込みます」
「わ、私はそもそもなんの話だか…」
「…そう言うわけだからさ、とりあえずは顔をあげてよ」
「…ありがとう」
ホシノちゃんの言葉に静々と頭を上げるクロキ君。
「それで、対策委員会じゃなくて私個人に協力して欲しいことって?」
「────正式なアビドス生徒会のメンバーは、最早君だけだ。そんな君に、ある行政令を発布して欲しい。自治区を統括する生徒会ならどこでも持ち得る、ごくごく普通の行政令を」
「とある事って?」
「指定地区の再開発事業の発布──────要は、アビドス高等学校主導の再開発事業の開始の宣言だよ」
……またとんでもないことを言い出したな、この先輩は。
「どうしてそれがカイザーに喧嘩を売ることになるの?」
「今、このアビドスの土地の殆どはカイザーが所有している。所有権を持たない自治区が勝手に再開発事業の発布をすれば、それは土地の所有者に喧嘩を売る事と同義だからだ。それの代表業者に俺を指名してくれれば良い」
「…ちょ、ちょっと待って下さい!アビドスの土地をほとんどカイザーが所有している⁉︎それ本当なんですか⁉︎」
クロキ君が頷く。
「信じられないと思うけど、事実なんだ。それは土地の登記簿を調べればわかる」
「そ、そんな──────っ、それじゃあ!今までクロキさんがここを開発できなかった理由って⁉︎」
アヤネちゃんの驚愕の言葉に静かに頷く。
「…流石に土地の所有権がないと手の加えようがなかったんだ。ごめん、俺の力不足だ」
彼の申し訳なさそうな声を前に、私は一人自分の中で納得していた。
だからクロキ君はあの時、クラフトチェンバーの前で話せないと言ったのか。この事実を私に知らせたら、土地の所有者からカイザーの存在がすぐに露見するから。
「……それでカイザーに喧嘩を売って、勝機はあるの?相手は大企業だよ?」
「真っ向から戦っても勝機は薄い。だけど、今回の件については勝負にはなると思う」
「どう言うこと?」
「今回の衝突でカイザー側が欲しいのは多分、俺の身柄だ。俺がいなくなれば、それだけで今後の商売のやりやすさが100倍は違うからな」
「…もしかして、結構嫌がらせしてた?」
「まぁ、それなりには」
あっけらかんと言い放つ姿に「絶対にそれなりじゃないでしょ…」と一人呟くセリカちゃんに同意する。うん、私もそう思う。
「カイザー側は今回かなり無茶をしている。都市整備部を騙って騒ぎを起こそうとするなんて顕著な例だし、カタカタヘルメット団を支援していた事実だって直に明らかになる。大企業とはいえ、ここまで大きく動けば証拠の隠滅を完璧にはできない」
「…成程、つまりは連邦生徒会やヴァルキューレの介入を待つってことね」
「裏取りにも多少は時間が掛かると思うから、それまでは時間を稼ぐことになる。そこが勝負になると思う」
「それまでの間、アビドスからクロキがいなくなるのはどう?どこか別の行政区に隠れちゃうとか」
「流石に他所の学区に迷惑は掛けられないよ。これは私たちアビドスで解決しないとね」
ホシノちゃんの言葉に頷きつつ、一つの懸念事項を口にする。
「連邦生徒会からの調停を待つのは良いとして、再開発事業の公布はいいの?聞いた感じ、土地の所有権はカイザー側にあるんでしょ?」
「……そこは正直痛い所ですね。知らなかったでは済まされませんし、私への処分は勿論ですがアビドス高等学校への何らかのペナルティがあるかも知れませんが─────そこはなんとかします」
「なんとかするって…、クロキにしては珍しく曖昧な答えね」
「…すまん」と素直に頭を下げる─────こう言う素直な所もクロキ君らしいと思っている自分がいる。
「…ん、けどわかりやすくて良い。いつも通り、クロキの現場を私達が護るだけ」
「それもそうですね。相手がチンピラか軍隊かだけの違いです!」
「その二つは大分違うんじゃ…?」
ヒフミちゃんの言葉に頷く。どうにも対策委員会のみんなは偶に脳筋になるきらいがある。
「まずは再開発命令を出して、交戦予定地にいる人達には一度退去してもらおう。幸いミレニアムに楽園区画予定地があるから、そこを仮の住まいにしてもらおう」
「もう建物はできてるんですか?」
「これから作る。交戦予定地の住人なんて5千人もいない筈だから、その程度の人たちが過ごせる避難街なんて遠隔でも半日あれば出来る」
そうだった、この先輩建築については常軌を逸しているんだった。
「避難はそれで問題ないと思いますけど、戦力についてはどうします?流石に軍隊相手にこの人数だけでは……」
「あの、それだったらナギサ様に相談するのは如何でしょう?きっとお力になってくれるかと…」
ヒフミちゃんが手をあげて発言する。確かトリニティのホストの筈だ。クロキ君とも仲が良いようだし、確かに力を借りるのは悪くない手だ。けど……。
「うーん、おじさんは反対だな。リスクが大きすぎる」
「…すまない阿慈谷さん、俺もホシノに賛成だ。表立って協力を要請するのは控えるべきだと思う」
「えっ⁉︎ど、どうしてですか⁉︎」
「トリニティという学校の力が強すぎるんだよ。特に、今の正義実現委員会には歴代最強と謳われている剣先さんがいる。彼女とPMCの陸戦兵器群が市街地で衝突する様は見たくないかなぁ…」
「直すのは簡単だけど、街には思い出もあるからなるべく壊したくはない」と続ける。
「直接の支援は厳しいけど、弾薬や迫撃砲は何個あっても良いからね。そこは阿慈谷さんから桐藤さんに話してもらえるとありがたいかな」
「わ、わかりました!お任せ下さい!」
「それで、戦力の補充ならミレニアムのエンジニア部を頼ろうと思う。あそこのドローン群なら十二分にPMCとやりあえる筈だ」
「ん、クロキはドローンを持ってないの?」
「作業用のやつなら山のようにあるんだけど、戦闘用はなぁ……。ないことは無いんだけど、あんまり出したくない」
「ん、それはなんで?」
「トリニティの介入を許容できない理由と同じ、とだけ言っておくよ」
「?」
────やることが見えてきたように思う。
「ヒフミちゃんはトリニティに戻って弾薬類の支援の要請を。私達は交戦予定地域の策定と避難誘導だね」
「うん。ごめんねヒフミちゃん、手伝うって言ってくれたのにこんな事をお願いしちゃって」
「いえ!これも私にできる事だと思うので!絶対にナギサ様から協力の約束を取り付けて見せます!」
「…それじゃあクロキ。カイザーに喧嘩を売るのはいつにする?」
ホシノちゃんの言葉に少し悩んだ後、はっきりと口にする。
「明日だな。明日の正午、都市整備部として正式に声明を出す」
「…わかった。それじゃあその前に、カイザーが都市整備部を騙って街で暴れようとしていた証拠を集めないとね」
「ん、そうと決まれば」
シロコちゃんがカバンから色とりどりの布を取り出し、それを対策委員会のみんなに配る─────あれって、確か……。
「斡旋人の場所は傭兵たちから聞き出している。表立って喧嘩を売る前に、まずは証拠を集めよう」
「ごめんヒフミ。ヒフミの分は作ってなかったから、これで我慢して」
「え⁉︎あの、これって…⁉︎」
各々が手渡された布─────目出し帽を付け始める。ヒフミちゃんに至っては聞き込み前に買ったたい焼きの紙袋だ。改めて見ると、花の女子高生たちとは思えない格好だなぁ…。
「…成程、こう言う感じで要素回収がされていくのか。運命ってのはやっぱり侮れないな」
「クロキ君⁉︎どう言う意味それ⁉︎」
「それじゃあさっきと同じく、アヤネとクロキはバックアップをお願い」
「ん、今から事務所を襲うよ」
鏑木クロキ
9話にしてようやく自分から事態を動かそうと決心したハリボテロボット。だが3年に渡る行為の結果が帰ってくるのはまだ先のお話。飛鳥馬トキとアリウススクワッドがアビドスに来ている事は当然知らないし、今回の宣戦布告でも関係各所が支援物資とかドローンを融通してくれるだろうな程度で考えている。数話後に胃が死ぬ。
楽園防衛機構
【先生】が現れなかった際の保険。【奇跡】を持たない無力な少年が代わりに求めた暴力装置。クラフトチェンバー0号機の兵器転用計画の集大成。【女王】や【色彩】に対抗するために設計、構想したものであったが、そもそも原作時空でキヴォトスを吹き飛ばした神秘に勝てる戦力を個人が用意できているのであれば、調月リオによってバッドエンドは回避できているはずであると結論付けて廃棄した。現在の楽園学区にはこれらの機能は失われており、ただ居心地の良い都市となっている。
領域支配機
クラフトチェンバー0号機のホルダーの死後、楽園を守るものとして設計された三機のユニット。計画初期ではミレニアム、トリニティ、ゲヘナにそれぞれ配備され有事の際にはクラフトチェンバー0号機を稼働し、幾万の戦闘用ドローンを引き連れて脅威を排除すべく行動する。もっとも、作中でも語ったとおり【神名十文字】の有する【感化】への対抗策が作れなかった為、現在は武装の殆どを解除されミレニアムのエンジニア部で保管されている。三機にはそれぞれ鏑木クロキの人格を模倣、学習したAIを搭載しているが鏑木クロキが死亡しない限りは起動することはない。作った本人は夏休みの自由工作の宿題を捨てるノリで便利屋68に処分をお願いしようとしている。アビドス編のラスボス。
ミレニアムオオフトモモ
鏑木クロキによるカイザーコーポレーションへの事実上の宣戦布告を唐突に聞かされて聞いて失神する予定。おいたわしや…。
アビドススナオオカミ
ん、現地妻制度なら私も立候補する。
鏑木クロキまとめチャンネル
動画投稿サイトに週一で投稿されている、ずんだの妖精による鏑木クロキ解説動画。鏑木クロキが作った施設や建造物の解説が主だが、たまにインタビューや取材をまとめた動画なども投稿されている。解説の時の写真が深夜に撮影されたものが多い事以外は好評を博している。黒服が投稿している。
カイザー側の勝利条件
・鏑木クロキの抹殺、もしくは身柄の確保
・アビドス廃校対策委員会の無力化
都市整備部勝利条件
・連邦生徒会による調停までの時間稼ぎ
・鏑木クロキの身柄の保護
・PMCの無力化
介入予定組織
・ミレニアム
・トリニティ
・ゲヘナ
・アリウススクワッド
・ゲマトリア