ぼざろ×けいおん!   作:遥崎 歩

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1話

「あああ……どうしよう……」

 ひとりは金沢八景の神社で震えていた。

 手にあるのは一枚のライブチケット。

 震えている理由は明白で前に悩んだ時と同じだ。

 遡ること一週間前、お姉さんこと廣井さんに対バンライブに誘われたことがきっかけだ。

 新宿FORTで開催される対バンライブ、それの参加者として結束バンドとして参加しないか、と言われぼっちたちはもちろん快諾した。

「いやー助かるよー。あと一組どうしようかって考えてたからさー」

「とんでもないです! むしろありがとうございます!」

 鬼コロを飲みながら笑うお姉さんに対してぺこぺことお礼を言う虹夏。

「いやでも本当に助かった。自分達で開催したのに人数が集まらなさそうで少し不安だったんだ」

 SICKHACKのしっかりもの志麻がお礼を言っている虹夏に対して笑顔を向ける。

「今回は滋賀県からゲストを呼んでいてね。その手前集められないなんてなったらどうしようかと……」

「志麻は難しく考えすぎなんだよー。何とかなるって言ってたじゃん!」

「お前が‼ 勝手に‼ 対バン何か組んだからこんなことになったんだろ‼」

 志麻は廣井のほっぺを両手で掴みながら厳しい目を向ける。

「ひやひや、だひゃらごべんて……」

 確かに言われてみればSICKHACkが誘われることはあっても自ら対バンライブを開いてメンバー探しに奔走するなんて言うのは珍しいのかもしれない。

「少しでも多くライブがしたい私達からしてもこの機会はチャンスだよ! 頑張ろー!」

「はい! 楽しみですね!」

「SICKHACkと一緒にライブできるなんて確かに貴重な機会」

「が、頑張ります……」

 と、それぞれ結束バンドも意気込んだのかよかったのだが……。

 一週間前の空想から戻ったひとりの手には変わらず一枚のチケットがある。

「またノルマが……」

 ノルマチケット五枚。

 二枚はファン一号さんとファン二号さんが買ってくれたがそこで残り三枚。

 ふたりとジミヘンはやはりライブ会場に呼ぶことは出来ず、お父さんとお母さんが二枚ずつであと一枚残っている。

「で、でも、一枚くらいならまあ……」

 最悪自分で買って売れたことにすればいい、とひとりは考えた。

「そうだよ。別にそれでも……みんなはどうなんだろ」

 ひとりはスマホを見てみると、「なんか売れた」「友達が来てくれるみたいです!」「私も何とかなったよ!」

 スッ、とスマホをポケットにしまったひとりは俯く。

 どうする、どうする、どうする、売れたってことにして報告しちゃう? と思考がグルグル回転する。

(もしこのまま売れなかったら……)

『ノルマを達成できない人はクビだよ!』

『残念だわ、後藤さん』

『ぼっち、じゃあね』

(ギャー‼)

 どんどんとネガティブな想像が膨らんでしまう。

「はぁ……」

 とため息をつき、目線を上げた時、目の前に目をキラキラと光らせた女性がひとりの顔を覗き込むように見ていた。

「ひっ」

「あ、ごめんごめん。ギター持ってたからつい」

「え?」

「あなたもギター弾くの?」

「え、えっと……」

 知らない人にいきなり話しかけられて会話ができるひとりではない。

「私もねギター弾くんだよ。ギータって言うの!」

 だが、目の前の女性は一人で会話を進めてしまう。

「あ、あの……」

「私さーみんなと観光してたんだけど、はぐれちゃって。あ、私は平沢唯。よろしくね!」

「ご、ごとうひとりです……」

「ひとりちゃんかー! ひとりちゃんはここでギターの練習でもしてたの?」

「え、あ、いや、違くて……チケットを売らないといけないんですけどどうしようって……」

「チケット?」 

 と、首を傾げた目の前の女性はひとりの持っているチケットに目を向けた。

「そのチケットって明日やるライブのやつ?」

「し、知ってるんですか?」

「まあねー、私も明日そのライブに行くんだよー!」

「そうなんですか」

「あ、もしチケット余ってるなら私が買ってもいい? 和ちゃんも見に来てくれるんだけど、和ちゃんの分のチケット貰ってなくて。当日に入れなかったら困るし……あ、和ちゃんって言うのは私の推さ馴染みのことで――」

「あ、ありがとうございます!」

 と、何とか最後の一枚が手から離れた時に、遠くから人を呼ぶ声が聞こえた。

「おーい、唯ー!」

「どこだー、唯ー!」

「唯ちゃーん!」

「唯せんぱーい!」

 聞こえてくるその声に目の前の女性はぴくんと反応する。

「あ、みんなだ。じゃあね!」

 女性はそう言うと「ここだよー」と言って走り出してしまった。

「全くもう、急にいなくなるんだから」

「心配したのよ?」

「どうせまたいつもみたいにお菓子の匂いにでも釣られたんだろ?」

「唯先輩らしいですね」

 神社を離れた少し遠くからそんな声が聞こえてきた。

「今の人も、明日のライブ見に来るのかな」

 自分の分のチケットは買ったけど友達の分を買い忘れちゃったのかな、などと思いながらひとりはギターを持つ。

 これで憂いなくライブに行ける。

「明日のライブ頑張らないと」 

 折角今のお姉さんにもライブを見てもらえるのだから精一杯頑張ろうと、ひとりは練習場である自分の家の押し入れに戻った。

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