「あ、ありがとうございました。良いライブでした」
「まだ始まってない! もう! 新宿だって何回も来てるんだから」
「で、でも夜の新宿は……」
「夜って言ってもまだ五時でしょ?」
「ほら、それよりも早く行くよ!」
「あ、あ……」
虹夏に押されながら、ひとりは新宿FORTに向かう。
「ワクワクしますね! 私達以外はどんなバンドが来るんですかね?」
「喜多ちゃんセットリスト見てないの?」
「私も見てない」
はぁ、と虹夏は嘆息する。
「まあ私も全部のグループを知ってるわけじゃないけど、私達は二番目だよ。シデロスが一番最初でその次私達って感じかな」
「シデロスの次なんですね!」
「まあ順当。最初にある程度盛り上がるグループを持ってこないと」
「それじゃあ結束バンドが盛り上がらないみたいじゃん!」
「そんなことは言ってない」
「もう!」
そんなこんなでFORTに着いた四人は楽屋に向かうと、既にSICKHACkのメンバーが揃っていた。
志麻はひとりたちを目にすると申し訳なさそうな顔でこう言った。
「あの、すまない。順番のことで相談があるんだが」
「順番ですか?」
「ああ、実はヨヨコが風邪をひいてな。シデロスが出れなくなったんだ。それで結束バンドに最初に入ってもらってもいいだろうか?」
「私たちがですか? それは全然いいですけど」
「本当か、ありがとう!」
志麻はペコリと頭を下げ、廣井とイライザの下に足早に戻っていった。
「やったね! 私達が最初だって!」
「私達でこの会場を盛り上げちゃいましょう!」
虹夏と喜多ちゃんはテンションが上がり、ひとりはワタワタとする中、リョウは僅かに顔を曇らせていた。
リハも終わり、時間が八時に近づく頃、FORTの会場は人で溢れていた。
「すごい人だねー」
舞台袖のカーテンに隠れながらお客さんを覗き見ていた虹夏は感嘆する。
「ま、前の時よりもかなり多いですね……」
「ねー、前も大賑わいだったけど今回はぎょうぎゅう詰めって感じだね」
「こんな大勢の前で演奏するなんて……」
「大丈夫だよ、喜多ちゃん! 私達のこと応援してくれてる人達だって沢山いるはずなんだから!」
「だといいけど」
「もうリョウったら!」
ひとりも観客の数に圧倒される。マンゴー仮面を使いたいと思うくらいに、人の数と熱気が溢れていた。
「いやーでもホントこんなに人で溢れてる時なんて初めて見たかも」
「お姉さん……」
ひとりの後ろに歩いてきたお姉さんはライブ前だというのにいつものように鬼コロを持っている。
「さすがお姉さんですね」
「んーこれが全部私達のファンだったらいいんだけどねー」
「違うんですか?」
「違うってことはないだろうが今日の主役は私達じゃないからな」
二人に歩み寄ってきた志麻は頬をポリポリと掻きながら苦笑する。
「主役じゃなくても私達のライブなことに変わりはないネー」
「ああもちろんだ。いつもとやることは変わらないさ」
「いやーさすが頼りになるねー二人とも、頼むよー」
「お前、今日も何か壊したら許さないからな!」
「はい……気を付けます」
調子のよい廣井に対して志麻は鋭い目を向ける。
「あ、あの……お姉さんたちがメインじゃなかったら誰が……」
「ん、ああ、ゲストがいるって言っただろ? そのゲストメンバーのおかげでこんなに超満員なんだけど……」
志摩は壁に掛けてある時計を見やる。
時刻は午後七時五十分。
ライブ開始まであと十分だ。
「そのゲストがまだこないんだよな……遅れるっていうのは聞いたんだけど……」
「酒でも飲んで道分からなくなってんじゃなーい?」
「お前じゃないんだから!」
「まあトリだしそのうちくればいいでしょー」
廣井がへらへらとそう言い、志摩は嘆息する。
「結束バンドの子たちー、そろそろ準備してー」
と、FORTのオーナーこと銀ちゃんが四人に呼び掛けた。
「あ、はい! 今行きます!」
虹夏が元気よく返事をし、四人は視線を合わせる。
「よし、みんないくよ!」
「はい!」
「気負わずにいつも通りで」
「が、がんばります!」