ぼざろ×けいおん!   作:遥崎 歩

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3話

 舞台の幕が上がり、四人の姿がライトアップされる。ざわざわとしていた声はシンと鳴り止み、視線の全てが舞台に注がれる。今までのどのライブよりも多い観客だ。

 喜多の口上と虹夏のツッコミ、それらは華麗に流される。

(やっぱりまだMCで笑いは取れないんだ……)

 以前なら消えてしまいたい、とそう思っていたところだろう。

(だけど……)

 怖いけれど顔を上げる。観客は三百人以上、ファン一号さんと二号さん、お父さんにお母さん、少なくともひとりを見てくれる四人はどこかにいてくれるのだろうけれど三百人以上いる中ですぐに見つけることはできない。

(それでも……)

 ひとりは右斜め後ろにいる虹夏に身を向ける。

 虹夏も僅かに緊張していたようだが、ひとり、喜多、リョウの視線を向けられ強く頷く。

「ワン、ツー、ワン、ツー、スリー、フォー!」

 ドラムスティック同士が弾け音が響く、それと同時にひとりは身を前に戻し、視線を斜め下に向けて右手に握るピックを弾く。

「突然降る夕立あぁ傘もないや嫌―空のご機嫌なんか知らない――」

 ギターと孤独と蒼い惑星。

 結束バンドの最初のオリジナル曲にして、星歌に認められライブの出場権を勝ち取ったデビュー曲のような存在。 

 まずはこの曲でいこう、とみんなで満場一致だった。

「――!」

 だが……。

 観客の反応はマチマチ。ちゃんと聞いてる人が二割。パンフやスマホを見ながらこれから出てくるアーティストの話をしている人たちが八割。

(どう……して……)

 初ライブの時とは違う。

 喜多の歌も悪くないし、虹夏とリョウの演奏も息は合っている。ひとりだって緊張はしているが普段通りの演奏が出来ているはずだ。

 それでも観客は舞台の四人に対して注目をしていない。

(どうして……キチンとしっかり演奏をしているのに……)

 ひとりは思わず体が強張る。

 そんなひとりを横目にリョウは僅かに顔を歪めた。

(新宿FORT、ここはスターリーとは違う。元々スターリーでバイトしてたりした私や虹夏は常連のお客さんと面識があったし、最初のライブでも最低限の注目は向けてくれてた。だけどここは……)

 新宿FORTは自分たちにとってアウトロー。

 そして、今日のライブのメインはSICKHACKと遠方から来るゲストアーティスト。

 ゲストアーティストが誰かなのか、リョウは知らなかった。だが、舞台に立った時、観客の何人かが「HTT」と書かれた団扇を持っているのを見つけた。ロックバンドのライブに団扇なんて、とも思ったがリョウは「HTT」が指すグループを知っている。

(他の三人は知らないだろうけど……)

 SICKHACKとゲストのHTT。

 それらをメインに見に来た観客からすれば、結束バンドの演奏は未熟にもほどがある。

 重い空気の中で一曲目が終わり、喜多はMCを行おうとするが、上手く言葉が出てこない。

 超満員なので再入場は難しく、出て行く人がいない分、冷たい空気は変わらない。

「え、えっと……それじゃあ次の曲いきます!」

 喜多が言葉を振り絞り、二曲目に進む。

「あのバンド――の歌がわたしには甲高く響く笑い声に聞こえる――」

 一曲目よりも硬い演奏。

(間違ってない……ミスしてないはずなのに……!)

 ひとりの焦燥は当然で、ミスはしていない。いつもの通りに出来ている。そのはずなのに、上手くいかない。

 なんでこんなにも上手くいかないのか、ピックを持つ手に力が入る。

 だがそれでも、微妙の空気の中で二曲目も終わってしまい。次が最後の曲。

「それじゃあ、次が最後の曲です!」

 喜多は頑張って声を出すが、観客の大多数の心は既に離れてしまっている。

(これじゃあ……) 

 解決策を見いだせず、そのまま最後の曲に入る、その時。

「楽しんでいこー!」

 舞台袖から声が届いた。

 虹夏の手が止まり、カンカンとなるはずだったカウントを刻むドラムスティックはぶつかり合わずに触れ合った。他の三人の視線もその声の方に向く。

「もっと楽しんでやろー!」

 その声を出していたのはリハにはいなかった女性。

(あの人……) 

 昨日、ひとりのチケットを買ってくれたお姉さん。

 観客だと思っていたその女性が舞台袖から声を掛けている。

「平沢唯……」

 リョウがぼそりとこぼす。

 

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