2024/04/09:Day 0(Side:乃々羽)
ずっと追いかけてきた夢を諦めたとき、人生は絶望に包まれるんだって思ってた。
でも、夢を諦めても普通にお腹は空くし、普通にくだらないことで笑えるし、夜もぐっすり眠れるし。むしろ朝練がなくなった分、睡眠時間は増えたくらいだし。
人生の半分以上を捧げてきたスクールアイドルへの思いなんて、その程度のものだったのかもしれない。
ホントはもうずっと前にダメだって気づいて心の底ではあきらめてしまっていたから、今さらどうってことないくらい受け入れてしまっていたのかもしれない。
はたまた、そもそも作り手としてではなく単なる受け手としてスクールアイドルが好きだっただけだったのかもしれない。
どれが正解なのかも、この中に正解があるのかも、正直、わからない。
ただ実際のとこ、スクールアイドルを辞めてもふつーに人生は続いていて、スクールアイドルを辞める前と世界は何にも変わってない。
何より、私自身が何も変わってない。
今だってこうやって「スクールアイドル神曲セトリ」をふつーに聞けちゃうんだもんなぁ。
スクールアイドルをあきらめたら、悔しさからスクールアイドルを嫌いになるかも、距離を置いちゃうかもなんて思ってたのに、そんなこと全然ないんだもん。
「はぁ……」
少しだけ、不安になる。
もし、明日からはじまる新しい生活で、また何か好きなものに出会えたとして。それが今回みたいに終わりを迎えたとき、また同じように何も変わらないんじゃないかって。変われないんじゃないかって。
少しだけ、嫌な気持ちになる。
自分が好きなことにそれくらいの熱量しかそそげないような、淡白な人間だという現実に。
「けっこう熱量高めの強火オタだと思ってたんだけどなぁ……」
壁にかかったセーラー服が目に入る。
今日の入学式の記憶がぼんやりと浮かんだ。
田舎特有の広い敷地にたつ立派な学校。高い建物がほとんどなくて見晴らしの良い校舎。ほのかに香る海の匂い。飛び交う高知なまりの言葉。なんとなく垢抜けてないクラスメイトたち。
15年暮らしてきた東京とはまったく違う環境。
明日から本格的に始まるわたしの高校生活。
本当だったらラブライブ!に挑む3年間に心躍らせていたはずなのに。わたしはスクールアイドルを諦めて、この
東京からママの地元の高知に引っ越してきて、環境は大きくかわった。東京じゃ当たり前だったことがたぶんこっちでは当たり前じゃなくて、東京じゃ当たり前じゃなかったことがたぶんこっちでは当たり前で。
そんな大きな変化があってなお、わたしの人生はなに一つ変えられないのかもしれない。
最初の数ヶ月の違和感さえ乗りきってしまったら、たんたんと日常をすごすようになって、そのうちスクールアイドルを追い求めた日々はぼんやりした過去になってしまって、ただ普通のJKとして生きていくんだ………
曲が切り替わって、透き通った声が鼓膜を震わせる。
特徴的な2人の声の重なり。
「「&GAIN ! ! !」」
ギターサウンドとともに華やかなAメロが流れ始める。
第15回ラブライブ!東北地方予選で披露された伝説の曲。
星の数ほどあるスクールアイドル曲の中でも、一番大好きな、大切な曲。
「アゲイン。もう一度」
わたしにも、もう一度はあるのかな。
希望を抱きたい気持ちと諦めの気持ちが胸の中でぐちゃぐちゃに入り交じる。
もう一度。
もう一度。
「アゲイン。もう一度」
わたしに、もう一度はあるのかな。