かがみ川女子高校スクールアイドル部   作:記録部

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Side:乃々羽
サブタイトル:フォーチュンムービー


2024/05/01:2024年度全日本スクールアイドル選抜地方大会課題曲発表

 ほわんという音ともにスマホの画面に通知が映し出される。

 

「きた!!」

「何がきたの?」

 

 ダイニングテーブルで芋けんぴをあてにビールをちびちびと飲んでいた乃々羽の母は、突然の大声にも驚いたそぶりを見せなかった。乃々羽がスクールアイドル関連の話でこういう反応を見せるのは日常茶飯事だからだ。

 この前の公演で買ったセン学のTシャツ着た乃々羽は、ソファから体を起こして母の方にスマホの画面を向けて見える。

 

「今年の全ス選の課題曲が発表されたの」

「あーもうそんな時期なのね」

 

 全ス選──全日本スクールアイドル選抜地方大会。毎年6月に予選が、7月末に地方大会兼地方セミナーが行われる二大スクールアイドル大会の一つだ。もう一つがラブライブ!であることはいうまでもないだろう。

 オリジナル曲でのパフォーマンスが求められるラブライブ!とは異なり、全ス選では既存の有名スクールアイドル楽曲が事前に課題曲として指定され、課題曲のパフォーマンスを競うことになる。作詞作曲にハードルを感じることなく一人でも多くのスクールアイドルたちに舞台にたってほしいというコンセプトから、全ス選は課題曲制になっていると乃々羽は聞いたことがあった。

 そして、今日5月1日は、毎年全ス選の課題曲が発表される日なのだ。

 

「今日から5月だし、世間はゴールデンウィークまっただ中ですよー」

「ママ、フリーランスだからわかんなーい」

 

 芋けんぴをぽりぽりとかじる乃々羽の母の頬は少し赤らんでいた。良い感じに酔っ払っているらしい。

 

「で、今年はなんだったの、課題曲」

「なんとー」

 

 乃々羽はどぅるどぅるどぅると口でドラムロールを鳴らす。

 

「&GAIN!!!です!」

「おー、名曲きたね!」

「いやー、ここまで&GAIN!!!が関わってくると正直運命を感じざるを得ないね」

 

 全ス選は誰もが知っているスクールアイドル楽曲が選ばれるとはいえ、まさか大好きな&GAIN!!!が選ばれるとは乃々羽も想像していなかった。

 

 基本的にはラブライブ!全国決勝大会優勝曲や準優勝曲が課題曲に選ばれることが多い中、有名曲とはいえ東北地方大会止まりの&GAIN!!!が課題曲になるのは異例中の異例だよ。

 

 Xやインスタを見てみると、乃々羽と同じように驚いている子たちが多かった。

 

「全ス選の予選っていつだっけ?」

「6月15日だよ」

「何曜日?」

「土曜」

「えーっと、6月15日っと……うん、〆切近い仕事も入ってなさそうだし、見に行けそうかな」

「来なくていいよー。全ス選だし」

「えー、娘のスクールアイドルの初舞台くらい見に行かせてよー」

「まー、来ても良いけど。私たちのパフォーマンスはたぶん見せられるレベルになってないと思うよ。ゆるーくやる感じだし」

「別にパフォーマンスのクオリティなんて気にしないわよ。ママは愛する娘が夢のスクールアイドルとして舞台に立つ姿を見るだけで満足なの」

 

 乃々羽の母は昔から乃々羽が舞台に立つときは必ず見に来てくれていた自称沢渡乃々羽のファン一号だ。小学校高学年くらいの時はそれが少しだけ恥ずかしい時期もあったのだが、中学に入ってからは忙しい中時間を割いて応援に来てくれる母のことを素直に素直に受け止められるようになった。

 

 ま、でも応援うちわとかでガチ応援されるのは今でもちょっと恥ずかしいけど。

 

「というかそういえば全ス選のルールまだ細かく見てないけど、たぶん保護者は見に来れなかったんじゃないかな。在校生オンリーだった気がする」

「そうなの、残念」

「あ、でももし見に来れるなら、セン学は一見の価値ありだよ」

「セン学かぁ。ママが高校生の時からすでに高知のスク部っていえばセン学って感じだった気がするけど、ずっと強いのね」

 

 東京生まれ東京育ちの乃々羽と違って、母は高校卒業まで高知県で過ごしていたので乃々羽より高知県の学校事情には詳しかった。

 

「高知はずーっとセン学一強。この前の公演見た感じ、普通に東京に来ても善戦できるくらいの完成度だったよ」

「そんなにこの前の公演よかったんだ」

「良かった! 気づいたら物販でTシャツ買っちゃってたくらいにね」

 

 乃々羽はSGSICとロゴの入ったTシャツの胸元をつかんで母にアピールする。

 

「セン学は誰かずば抜けて上手い人がいるって感じじゃなかったんだけど、箱としての総合力の強さをひしひしと感じるパフォーマンスだったよ。方向性としては清学系かなぁ。一糸乱れぬ全体パフォで押し切るタイプ。でも逆に言うとセン学が地方予選止まりなのは、セン学にはずば抜けて上手いとか目を引く人がいないからかも」

「オダルリちゃんみたいに?」

 

 久々の聞いた名前に乃々羽はうっとなる。

 ──小田桐瑠璃(おだぎりるり)。清学時代に乃々羽のことをかわいがってくれた一つ上の先輩。

 

瑠璃先輩(あのひと)は別格」

「連絡とってるの?」

「こっちきてからは特に」

 

 あんなにお世話になったのに薄情ねぇというママの言葉をスルーして、みゃー先輩に全ス選の課題曲が&GAIN!!!に決まったことをLINEで送る。乃々羽はついでにカレンダーを確認して、重大なことに気づく。

 

 あれ、もしかして次の部活まで2週間くらいあいちゃう? 

 

 金と月は休みで部活ないし、週明けからはテスト前期間&テストで1週間以上部活禁止だし。

 

「うーん、&GAIN!!!だったら、みゃー先輩もなんとか本番までにそれっぽくは出来そうかなぁ。フォーメーションはそんなに難しくないし」

 

 今日の練習でのみゃー先輩を思い出して想像する。

 

 一ヶ月でなんとかなる、かな……? 

 

「みゃー先輩ってどんな子なの?」

「みゃー先輩? うーん、コミュ強カースト上位オタクにやさしいゆるギャルって感じかなぁ。根っこのとこから陽の気があふれてる感じで誰にでも好かれるタイプの人だと思う。あと背が高くて、おしゃれで、シンプルにお顔とスタイルが良き。瑠璃先輩とはまた違った、なんとなく人の目を引く雰囲気をもってる舞台映えするタイプかな」

「べた褒めじゃん。スクールアイドルに向いてそうな子だね」

「うーん、どうなのかなぁ……天性のものはもってると思うけど、正直練習量的にステージで戦えるレベルにたどりつけない気もするし、たどり着いたとしても結局パフォーマンスが足を引っ張っちゃう気がするし。未経験者が高校3年生からスクールアイドルはじめるのって、正直大分きついよ」

「ノノがしっかり教えてあげたらいいじゃない」

「うーん」

 

 乃々羽を首をかしげる。

 

 そもそもみゃー先輩がどこまで本気でスクールアイドルやりたいのかよくわからないんだよね。

 

「みゃー先輩自体、そんなガチでスクールアイドルやりたいって感じじゃなさそうなんだよね」

「ノノはどうなの?」

「私も今は楽しくやれればそれでいいし。そりゃあ舞台に立つ以上は良いパフォーマンスにしたいって気持ちがない訳じゃないけど、そのためには嫌なこと沢山乗り越えなくちゃだし。今こうやってゆるーく週3回くらい和気藹々、スクールアイドル活動するのもこれもまた青春って感じがして悪くないんだよね。スクールアイドルってさ、アマチュアだからプロみたいにパフォーマンスを追い求めなきゃいけないわけじゃなないし、向き合い方もそれぞれのスクールアイドル次第だし。むしろその向き合い方の多様性がプロアイドルにないスクールアイドル文化の良さだと思うんだよね。ガチ勢だけだとスクールアイドル文化ってすたれるじゃん」

「ノノがしたいようにしたらいいわよ。正直ママはノノがまたスクールアイドルやってくれてるだけで嬉しいし。もう二度とやらないと思ってたから」

「私もそのつもりだったんだけどねぇ。何故か気づいたらスク部に入ってたんだよね」

「ノノをもう一回スクールアイドルにしてくれたみゃー先輩には感謝だね」

「そーそー。だから、今の私の目標は、スクールアイドルに興味を持ってスクールアイドルをはじめてくれたみゃー先輩が、スクールアイドルを好きになって、やって良かったって思いながら卒業してもらうこと! なので、適当にゆるーくやります」

 

 そうなると良いわねぇと言いながら、ママは冷蔵庫にビールをとりにいく。飲み過ぎはよくないよーとその背中に声をかけていると、みゃー先輩からLINEの返信が届いていた。

 みゃー先輩御用達のスタンプの連投のあとに、日曜日あいてる? というメッセージが続いている。

 

「ママー、週末ってなにか予定ある?」

「ママはおばあちゃんのとこに少し顔出すつもりだけど、別にノノはこなくても大丈夫よ」

「りょうかーい」

 

 みゃー先輩にあいてます! と返すとすぐに「じゃ、日曜あそびにいかない?」と返信が返ってきた。

 ラブライブ!公式スタンプで了解ですと返して、乃々羽はスマホを胸の上に抱く。

 

 日曜あった時に、みゃー先輩にどんな感じで活動していくかもう一回ちゃんと話そっかな。

 

 そんなことを考えながら、乃々羽はこれからの練習プランについて思いはせるのだった。

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