サブタイトル:きっと青春が聞こえる
「ひる姉、お風呂あいたよー」
深夜は階段をのぞき込むようにして、大声で二階にいる姉を呼んだ。深夜には
リビングでは母と父が仲むつまじく並んでソファに座って映画を見ていた。深夜は二人を横目に、一番上の姉が昔一瞬だけ使ったあとクローゼットの奥でずっと眠っていたヨガマットを床に引き、スマホをマットの前に立てて準備を整える。YouTubeで出てきたスクールアイドル部向けのストレッチ動画を流しながら、動きをまねし始める。
「今日もストレッチしゆうがやね」
深夜が振り返ると、いつの間にか降りてきていた姉が後ろに立っていた。
「ストレッチだけじゃなくて、今日も走りにいちょったがで」
ソファに腰掛けていた母が深夜のかわりに答えた。
「え、走るのも続けちゅうが?」
「続けちゅうよ。まあ、ゆうても近くを15分くらい走っちゅうだけながやけど」
「ほえー、頑張っちゅうねぇ」
歳が離れているせいもあるのか、昔から姉たちは深夜に対して異様に甘かった。何かするたびに褒められるので自己肯定感は高くなるのだが、その一方で大げさすぎると感じる気持ちもないわけではない。
「まだ二日目ながやけど。うち、どんだけ続かんと思われちゅうが?」
「ごめんごめん。みゃーが自発的になんかやるがが珍しくて驚いちゅうがよ」
「部活の後輩ちゃんが毎日のランニングとストレッチはやっちょった方がええって言うき」
「スクールアイドル部やっけ?」
「そうそう」
「部活も続けちゅうがやね」
「続けちゅうし、本気やよ。テスト明けから練習も毎日になるが」
「へー。スクールアイドルって何練習するが?」
「なにってそりゃ歌ったり、踊ったりするがよ」
「みゃー、踊れるが?」
「まだ全然やき練習頑張らないかんがよ」
深夜は深呼吸しながら開脚前屈を試みるが、ほとんど曲がらなかった。見かねた姉が背中を押してくれるが、ぐえという情けない声がでるだけだった。
「それにしても、みゃーがアイドルねぇ」
「文句あるが?」
「いや、むしろ似合っちゅうと思うよ」
「小さい頃からよーマイクもって歌いよったしねぇ」
母が相づちをうつ。
「しちょったしちょった。あれはかわいかったねぇ」
「えー、全然覚えてない」
静かに映画を見ていた父にも母が同意を求める。父もうん、と小さくうなずいたあと言葉を続けた。
「まあ、深夜が好きなこと見つけられたがやったら、なんでもええがよ」
「そうねぇ。でも、勉強もちゃんとしなさいよ。もう3年生ながやき」
「わかっちゅうって。ちゃんとテスト勉強もしちゅうろ」
「勉強おろそかにして推薦かからんなんてことがないようにね」
「はーい」
スクールアイドル、進路。やりたいこと、やらなくてはいけないことが深夜の前にはちらついている。どれもまだ漠然とした形でしか見えないけど、漠然としたものを一生懸命追い求めるのは望んでいた青春そのもののような気がして、不安より楽しさの方が勝る。
「そのままプロアイドル目指したらええがよ」
「そんな簡単じゃないがよ、アイドル道は」
「駆け出しスクールアイドルがいっちょ前のこと言いよるね」
姉は笑いながら風呂場へ消えていった。