かがみ川女子高校スクールアイドル部   作:記録部

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Side:乃々羽
中間テスト明け。かが女スク部、再始動です
サブタイトル:夢☆ONCE AGAIN


第2章:かがみ川女子高校スクールアイドル部リスタート!
2024/05/15:かがみ川女子高校スクールアイドル部再始動です!


「なんとか小雨ですんでよかったねぇ」

 

 タオルでぬれた髪を拭いながら深夜は言った。少ししっとりとしたショートカットが艶っぽさを醸し出していて、乃々羽にはいつも以上に深夜が大人っぽく見えた。

 湿気を含んで少し重くなった木の廊下を踏みしめて、乃々羽と深夜は家庭科室に向かう。今日テストが終わってすぐ二人して家庭科室を訪れてスクールアイドル部の今後について話したいと須藤先生にお願いしたところ、下校時間前なら時間を割けると言われたのだ。

 空はどんよりとした雲に覆われていて、小さな雨粒が窓をぬらしていた。

 

「運動部の人らはもっとすごい雨でも普通に練習するがやきすごいねぇ」

「運動部は雨でも屋外で大会がありますからね」

「スク部の大会は屋内だけなが?」

「全ス選もラブライブ!も今は屋内オンリーですね。昔は外でパフォーマンスしてたりしたこともあったみたいですけど」

 

 天候に左右されちゃいますから、と乃々羽は付け加える。公式大会以外の野外フェス系イベントなどが今でもないわけではないが、そういうのは「有名校」だけが参加を許されるので、かが女には関係がない話だ。

 

「だから雨の屋外練は怪我リスクが上がって、効率が落ちるだけなので正直オススメできないです」

「そうやねぇ。今日もちょっと滑りそうになったりしたもんねぇ」

「怪我なくてよかったです。ホントは今日は練習なしにしてミーティングだけでもいいかなって思ってたんですけど」

「でも今日練習できてなかったら、さすがにはちきれちょったと思う」

「わかります! 正直、テスト勉強期間中もずっと練習したくてうずうずしてましたし」

 

 深夜が同じ気持ちでいたことが乃々羽は嬉しかった。ゴールデンウィークにしっかりと話し合いをしてよかったと改めて乃々羽は思う。

 

「まあ、勉強の息抜きで踊ったり歌ったりは普通にしてたんですけどね」

 

 うんうん、と深夜は大げさにうなずいて同意を示す。

 

「どこでも練習しようと思ったらできるがはスクールアイドルのええとこよね」

「いつでもどこでもステージです!」

「雨の屋上庭園でも?」

「雨の屋上庭園はちょっと……」

「そうやねぇ」

「今日は小雨だったからなんとかなりましたけど、これから始まる高知の梅雨と夏を考えると雨の日の練習場所確保はなんとかしないとですね」

「それだけは今日、須藤ちゃんにしっかりお願いせんといかんね」

 

 渡り廊下を通り抜けて新校舎に入ると、まだ新しいLED電球が廊下を隅々まで照らしていて、あたりがぱっと明るくなる。床材も旧校舎と同じ木のはずなのに、さらさらしていて乃々羽には全く違う素材のように感じた。

 

「それでノノちゃん、テストはどうだったが?」

「ばっちしです! 成績悪くて部活動禁止とかになるのは嫌なので、ちゃんと勉強しましたから。先輩はどうでした?」

「うちも大丈夫よ。こー見えて、成績は結構良い方ながよ」

「こう見えても何も、みゃー先輩はなんでも器用にこなしそうなタイプだと思ってます」

「ノノちゃん、うちのことよう分かっちゅうね。うちは指定校推薦ですーっと大学行くタイプの女やきね」

 

 親指をたてて、キラリと白い歯をのぞかせる。

 ベタベタの演出だけど深夜がやると板についていて、乃々羽シンプルに「かっこいい」と思った。

 

 そうこうしているうちに家庭科室に二人はたどり着いた。

 

「須藤せんせー、来たがよー」

 

 深夜は勢いよく扉をあけると、「おー、涼しい……」と漏らした。

 家庭科室はクーラーがしっかり効いていて、蒸し暑かった廊下とは全然違った快適さだった。

 

「もしかして練習してからきたの?」

 

 奥の準備室から出てきた須藤先生は二人の頭に目線をやると、そう言った。

 黒のサマーニットをグレージュの長いスカートに合わせた須藤先生は、できる大人の女という印象を乃々羽に抱かせる。かが女の先生たちはけっこう服装にこだわらない人が多いので、須藤先生のオシャレさというか大人らしさがより際立つのだと乃々羽は思った。

 

「2時間くらいがっつりしてきました」

「テスト期間できなかったぶん、発散したがです」

「若さよねぇ」

 

 須藤先生はしみじみとかみしめるように言った。

 二人は先生にすすめられるがままに席に座る。「よかったら食べて」と差し出されたのは、チョコとプレーンが市松模様になったクッキーだった。ひとつ口に運ぶとほんのりとした甘さとサクサクした食感が口いっぱいに広がる。練習終わりの疲れた体にほどよい甘さがしみこんで、乃々羽は手が止まらなくなりそうになるのをなんとか抑える。

 

「それで、部活について相談があるってことだったけど、具体的にはどういう要件かしら?」

 

 セン学の公演を見て感じたこと、ゴールデンウィークに二人で話し合って方針を決めたことなど、深夜と乃々羽はこれまでの経緯を話す。須藤先生は特に口を挟むことなく、真剣な顔で二人の話を聞いてくれた。

 

「……という訳ながです」

「練習をちゃんとやるのは良いことね。それで、具体的には私にはどうしてほしいの?」

 

 深夜が乃々羽をちらっと見る。深夜が言おうとしてることを理解して、乃々羽はうなずいて応えた。

 

「えーっと、まずは今日みたいな雨の日の練習場所を確保したいがです」

「部室じゃダメなのかしら」

「せんせー、部室一回来てみてくださいよ。あそこで踊るがは無理です」

「そんなに狭いの?」

「狭いなんてもんじゃないがです。うちとノノちゃん二人はいったらぎゅーぎゅーですよ」

 

 深夜は身振り手振りで部室の狭さを伝えようとする。

 

「たとえばなんですけど、雨の日だけ家庭科室の隅を使わせてもらうことってできますか?」

 

 乃々羽は深夜をサポートする形で口を開くと、目線を家庭科室の端の空きスペースにおくった。それほど広いスペースではないが二人で踊る分には十分な広さがある。

 

「いいわよ」

 

 須藤先生の回答は意外にもあっさりしたものだった。

 渋られると思っていた深夜も乃々羽も想定外の回答にびっくりする。

 

「ホントですか!?」

「今は休部になっちゃったけど、昔は服飾部が部活動に使ってたみたいだし、活動場所としては問題ないんじゃない? 私は準備室で仕事してることが多いから、大きな音出したり、暴れたり、備品を壊したりしないなら、家庭科室(こっち)は雨の日くらい使っても問題ないわよ」

「やったー!!」

「ただ、わたしが家庭科室にいるときだけになっちゃうけどね」

「それだけでも十分です!」

 

 一番の難題が解決して乃々羽はほっと胸をなで下ろす。ほかにもいくつかお願いしたいことはあるけど、雨の日の練習場所さえ確保できればあとは些細な問題だ。

 

「あとは土日の練習なんですけど……」

「土日も練習したいの?」

「はい。うちが初心者なんで、なるべく練習時間をとりたいがです」

「土日かぁ……土日になると、顧問が学校に出てきて監督しないといけないのよね」

「そうながです」

「難しいとは思いますが、可能な時だけでもいいのでお願いできないでしょうか?」

 二人ともこちらのお願いは須藤先生に休日出勤をお願いすることになる以上、練習場所確保以上にハードルが高いことはわかっていた。ダメだったらダメだったら、自主練なりでなんとか乗り切るしかない。

 

「さすがに毎回は難しいけど、大会前とかの練習を追い込まなきゃいけない時期限定だったら、協力してあげられるかも」

「「ありがとうございます!」」

「練習したいときは、はやめにスケジュールくんであらかじめ連絡しておいてね」

「わかりました!」

「あと、土日関係でちょっとご相談が……」

 

 ここぞとばかりに深夜はたたみかける。

 

「実はこの前の公演でお会いした栴檀学園スクールアイドル部の顧問の先生に、一回練習に参加しにこないかって誘われちゅうがですけど、それが5月25日の土曜ながです」

「セン学……」

「先生ついてきていただくことって可能でしょうか?」

「セン学かぁ……」

 

 須藤先生は高校時代高知県でスクールアイドルをやっていたらしいし、セン学にはなにか思い入れがあるのかもしれない。

 

 須藤先生はスマホを取り出して画面を確認しながら「25日は予定入ってないもんなぁ……」とこぼした。

 

「わかった。ついていってあげる」

「神様……」

「ただの顧問です」

「顧問様……」

「セン学の先生に私からも連絡しておくから連絡先教えてもらえる?」

 

 深夜はスマホを須藤先生のスマホに近づける。どうやら連絡先を須藤先生に送ったようだった。

 

「お願いはこれで全部?」

「あと、もう一つお願いがありまして……」

「ここまできたらあと一つくらいいいわよ」

「実は部費がなくて活動費が足りなくなりそうなので今のうちに短期バイトをしようと思っちゅうがですけど、許可いただけますか?」

 

 これもテスト期間中に二人で話し合ったことだった。

 かが女は原則バイト禁止なのだが、部活動費など特定の目的であれば、教師の許可の下バイトを許可されることがあると校則には定められている。

 

「何のバイトするつもりなの?」

「友だちの家がやっちゅう農園の収穫手伝いです」

「ビラ配りとかティッシュ配りとかじゃなくて?」

「短期OKで高校生可なバイトとしては、農業は実入りがいいがですよ。二人で土日数日頑張ったら、部活をやる分くらいは稼げるがです」

「知り合いかつ農業なら危なそうなことはなさそうだし、いいわ許可してあげる」

「「ありがとうございます!!」」

 

 深夜がバイト許可願いを手渡すと、須藤先生は判子を押しにいったん準備室に戻った。

「何でも言うことを聞いてくれるスドウチャンやね」と深夜は乃々羽に耳打ちする。

 

 押印した書類を手に須藤先生は戻ってくる。

 

「で、あなたたちが本気でスクールアイドルをやる気になったのはいいけど、具体的にこれからどういう目標に対してどういう活動をしていくつもりなの?」

 

 書類を手渡しながら須藤先生はそう言った。

 

「前にもお伝えしたように全ス選予選に目標を置くのは変わりません」

「全ス選の目標は?」

「ちゃんと舞台に立ってパフォーマンスを完遂することです」

「県大会突破じゃなくて?」

「現実的な話としてあと一ヶ月でそのレベルまではいけないと思います。それに、今年の全ス選四国地方のセミナーは高知開催なので、勝ち抜かなくても現地参加できるんですよ。なので、勝ち抜きはそれほど重要じゃないかなって思ってます」

「今年は高知なんだ。ラッキーだね」

 

 話についていけてないという顔をしている深夜のために、乃々羽丁寧に説明することにする。

 

「全ス選って全国って名前はついてるんですけど、実際は全国を10個の地方に分けた地方大会なんです。夏前に県大会があって、夏休み中にその年、その地方ごとに決まった県で地方セミナーが行われるって感じで進みます」

「昔は夏ラブライブ!って言われてたくらい、普通に全国規模の競技大会だったんだけどね。途中で運営母体が変わってから、ラブライブ!と明確に色分けするために、競技大会からスクールアイドルの実力底上げのためのセミナー中心にシフトしたのよ」

 

 昔の名残で全ス選って言ってるけどホントは地ス選が正しいの、と笑いながら須藤先生は解説する。元スクールアイドルだけあって、須藤先生の説明は思っていた以上にしっかりしていた。

 

「一応県ごとに代表校は決めるんですけど、ひとつの楽曲をしっかり学ぶことが大会の理念なんです」

「どういうこと?」

「全ス選は審査員制で、県大会ではパフォーマンスについて良いところや悪いところ、今後どうしていったらいいかなど具体的なアドバイスをしてくれるんです。あと、初心者や未経験者、指導者のいないスクールアイドル部とかでもちゃんと実力をつけられるように、楽曲練習動画やテキストなんかも参加校はネットで無料でみられるようになってます」

 

「前に先輩に送ったやつですね」と乃々羽は付け加える。

 

「同じ楽曲のほかの学校のパフォーマンスを見ることで、自分たちに何が足りないかとか何がやりたいかとかを認識しやすいつくりにもなっているのよね」

「すごい考えられちゅうがですね」

「で、夏休み期間に地方ごとにその年の持ち回りの県で一泊二日のセミナーが開催されるんです。勝ち抜き校は宿泊費とか無料で現地参加出来て、最終日にパフォーマンスを披露します。県予選敗退校も開催県の学校は現地で、それ以外の学校は自腹現地もしくは無料オンラインでセミナーに参加できるんです」

「そのセミナーが今年は高知開催ながや」

「そうなんです! なので県予選突破できなくても今年は現地でセミナーに参加できるんです!」

「セミナーって具体的には何するが?」

「普通に歌ったり、踊ったりの練習もありますが、メインは作詞・作曲、衣装製作、演出とかの「どうパフォーマンスを作っていくか」ですね」

「沢渡さんが言ってることをまとめると、全ス選は「ひとつの課題曲を深掘りすることで自分たちでオリジナル曲をつくってパフォーマンスを仕上げる一連の工程を学ぶ大会」ってことなのよ」

「実質的にはラブライブ!参加のための勉強会ですね」

「なんでラブライブ!が出てくるが?」

「ラブライブ!ってオリジナル楽曲でしか参加できないからなんですよ」

「そうなん?」

「&GAIN!!!も完全オリジナル曲なんですよ」

「あれを高校生が歌詞から曲から振り付けまで全部自分たちで作ったが?」

「正確にはちょっと違うんですが、だいたいその認識であってます」

「それってめちゃくちゃハードル高くない?」

「高いんですよ! だからラブライブ!は正直参加するだけでも十分すごいんです!」

 

 他の演奏系とかダンス系の全国大会を見てみても、高校生レベルでオリジナル曲での参加が義務づけられている大会はほとんどない。ほとんどが既存曲や、既存曲のアレンジ曲をパフォーマンスするのだ。その点、オリジナル曲でしか参加が許されないラブライブ!のハードルの高さは際立っている。

 スクールアイドル部といえばラブライブ!というイメージはあっても、その難しさと特殊性はスクールアイドル部以外の人間にはあまり理解されていないのが実情だ。

 

「逆にその参加ハードルの高さが、スクールアイドル文化を広げる邪魔になるのよね。全ス選は少しでもそのハードルを下げてスクールアイドルの間口を広げるために、どうやってオリジナル曲を作って舞台上のパフォーマンスにつなげるかまでをひとつの楽曲を通じてしっかり学ぶことが一番の理念になってるのよ」

「はえー。だからラブライブ!参加のための勉強会ながですねぇ」

「なので今回は勝ち抜きとかは一切気にせず、目標はただ&GAIN!!!を一生懸命練習して、それを舞台上で披露することにしようと思ってるんです」

「なるほどねぇ。やっとノノちゃんの言っちゅう意味がわかったわ」

「先生も沢渡さんの言ってることに賛成だけど、ひとつだけアドバイスがあるかな」

 

 まさか須藤先生からアドバイスがあるとは思っていなかったので、乃々羽は驚いて須藤先生の顔を見た。

 

「全ス選予選はたしかに勝ち抜きが必要な大会じゃないけど、うちみたいな弱小校にとってはちゃんとした舞台に立てる数少ない機会なの。それをただ「舞台に立ちました」で終わらせちゃうのは、もったいないと思う。舞台未経験の状態でああいう大舞台に挑むと、たいてい緊張とか興奮とかのせいで「立ったこと」だけしか得られないのよね。単なる経験じゃなくてラブライブ!を見据えてその先までしっかり学びたいなら、小さくてもいいから全ス選前になにかしらの舞台を経験しておくべきだと思うわ」

 

 須藤先生の的を射た指摘に、乃々羽はその点について完全に抜け落ちていたことを反省する。

 

 私はもう清学の沢渡乃々羽じゃなくて、かが女の沢渡乃々羽なんだから。ちゃんとかが女の目線で考えないとね。

 

 名門校(きよがく)では当たり前のことが、かが女(ここ)では当たり前じゃない。それはこれまで経験したことのないスクールアイドルの新しい側面でもあり、乃々羽は少しだけわくわくしていた。

 

 それにしても須藤先生、思ってた以上にスクールアイドルに詳しいな……もしかして、先生も弱小校でスクールアイドル頑張ってたのかなぁ。

 

「たまに帯屋町のアーケードとかで弾き語りやっちゅうの見かけるけど、ああいうのってスクールアイドルやとできんやろうか?」

「うーん……ああいうのは場所使用の申請が必要なことも多いですし、場所が使えたとしても部活としてやるとなると学校側の申請も通さないといけないので、かなりハードルが高いと思います。東京とかだと毎週末どこかしらで小さなスクールアイドル部イベントをやってるんですけど、こっちじゃ調べた限りそういうのは全然やってないみたいで、そういう方向も難しいですよね」

「高知はスクールアイドル過疎地だからそういうのはほとんどないのよね。それこそセン学とかだと、お祭りとかでパフォーマンスしてたりはするけど、弱小校が出られそうな校外イベントは聞いたことないかな」

「なのでやるとなると校内のどこかを使ってミニライブをするくらいだと思います」

「大会前に講堂とか使ってそういうのできんか調べてみようか」

 

 長くなりそうだというのを感じたのか、須藤先生が準備室からお茶を持ってきてくれる。

 おいしいお茶とクッキーをつまみながらの新生かがみ川女子高校スクールアイドル部の作戦会議は、下校チャイムが鳴るまで続くのだった。

 

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