かがみ川女子高校スクールアイドル部   作:記録部

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Side:深夜


2024/05/25:栴檀学園スクールアイドル部合同練習①

「想像以上やねぇ」

「ですねぇ」

 

 深夜と乃々羽は初めて入る栴檀(せんだん)学園に圧倒される。校門をくぐった先には広い敷地内が広がっていて、大小様々な施設が並んでいる。ぱっと見えるだけでもグラウンドらしきものが3つもあって、建物の数も両手に収まらないくらいだ。

 

 高知市の西の外れにある栴檀学園といえば、部活動だ。野球部やサッカー部は全国大会の常連で、プロ選手も多数輩出している。他のスポーツはもちろんのこと文化部も強くて、スクールアイドル部だけで、演劇部や吹奏楽部など様々な部活がコンスタントに全国で活躍している。

 高知県民である深夜にだってそれくらいの知識はあるのだが、実際学校に来て部活向けに整備された敷地と設備を目の当たりにするとそのすごさにただただ驚くしかない。

 

「かがみ川女子高校スクールアイドル部のみなさんですか?」

 

 圧倒されていた深夜に声をかけたのは、県内でも可愛いと評判の白い長袖のセーラーブラウスとリボン付きのプリーツスカートスカートで構成された制服に身を包んだ、深夜より少しだけ背が低い女の子だった。セミロングの髪をサイドで編み込んで、黒いリボンで結んでいるのがおしゃれに見える。街中で見かけたらつい目で追ってしまいそうな、清楚さが自然とあふれる可愛い子だ。

 

「栴檀学園スクールアイドル部部長、3年の小椋(おぐら)御代(みよ)です。今日はお忙しい中、合同練習にお越しいただきありがとうございます」

 

 小椋御代と名乗った少女は、手をスカートの前で揃えて丁寧に頭を下げる。

 

「かがみ川女子高校3年でスクールアイドル部部長の東雲深夜です。今日は誘ってくれてありがとうございます!」

「1年の沢渡乃々羽です。よろしくお願いします」

 

 深夜と乃々羽もそろって頭を下げた。

 

「お二人だけですか?」

「あとは顧問の先生が来ちゅうけど、今車止めにいっちゅう」

「お待ちしましょうか?」

「先生は来たことあるらしくて、場所もしっちゅうから先にいっちょってって言われてます」

「なら、ご案内させていただきますね」

 

 御代は二人を先導しながら、ゆっくりと歩き始める。背筋がピンと伸びていて、歩き方ひとつをとっても所作が整っていた。見えてくる施設をひとつひとつ説明する御代の後ろ姿やその柔らかく丁寧な話し方に、同じ3年生でも自分とは立ち居振る舞いが全然違うな、と深夜は感じる。

 

 でも、せっかく練習にきたき、最初からもうちょっと壁は壊しておきたいんよね。

 

「小椋ちゃんって部活ではなんて呼ばれちゅうが?」

「おぐ!?」

 

 御代は足を止めて振り返った。

 

「ちゃんづけ、嫌やった? ごめんごめん。うち人と距離詰めるの早すぎ人間って言われちゅうき、もしイヤやったら言うてね」

「いえ、全然、嫌とかではなく。普段呼ばれ慣れてないのでちょっとびっくりしただけです」

「じゃあ普段はなんて呼ばれちゅうが?」

「そうですねぇ。部長とか小椋部長とか……」

「友達からも??」

「小椋さんですかね」

「ホントに友達?」

「友達です!」

 

 ちょっと大きな声で御代が反論する。

 

「あ、やっと素がでた気がする」

「素ってなんですか?」

「小椋ちゃん、だいぶよそよそしかったきね。今日はせっかく一緒に練習させてもらうがやき、もっとフランクに話したいって思っちゅうがよ」

「私のこのしゃべり方はよそいきじゃなくて、癖なんです。でも、せっかく来て下さったのでもうちょっと頑張ってフランクにしゃべってみようと思います。えっと、それで東雲さんはお友達からはなんて呼ばれてるんですか?」

「うちは、みゃーって呼ばれちゅう」

「私もみゃー先輩って呼んでます」

 

 ひょこひょうと後ろをついてきていた乃々羽が合いの手を入れた。

 

「猫の鳴き声みたいで可愛いですね」

「やろ? 小椋ちゃんもうちのことみゃーって呼んでいいきね」

「みゃーさん?」

「もっとフランクに」

「みゃーちゃん?」

「まあ、今はそれぐらいが落としどころかね。小椋ちゃんのあだ名はどうしようかねぇ」

 

 深夜はあごに手をあてて、少し考える。

 

「安直やけど、みょーちゃんとかどう? みゃーとみょーでお揃いみたいでよくない?」

「みょーちゃん、みょーちゃん」

 

 御代は念仏のようにぶつぶつとみょーちゃんと繰り返した。

 あまりの入れ込み具合に深夜はちょっと心配になって声をかけようとすると、

 

「いいですね!」

 

 ぱっと顔をあげた御代は目を輝かせていた。

 

「私、ずっと友だちにあだ名で呼ばれたかったんですよね。でも、何故か小さい頃からみんな名前か名字でしか呼んでくれなくて……さっきもいいましたけど、部員もあだ名で呼んでくれないんですよね。他の子たちは普通にあだ名で呼びあってるんですけど」

 

 御代のなんとなくただよう上品さというか清楚さのようなものが、あだ名で呼びにくい雰囲気を作っているのだろうと深夜は思ったけど、口には出さない。

 少し話題を変えようと思い、セン学のスクールアイドル部について聞くことにする。

 

「セン学って部員何人おるが?」

「パフォーマーが26人、演出班が4人の30人です」

「演出班??」

 

 聞き慣れない単語に困惑する深夜に、「セン学みたいなスクールアイドル強豪校だと、衣装作りとか楽曲作成とかをメインにして実際のパフォーマンスはしない部員がいるんです」と乃々羽が教えてくれる。

 

「学年でいうと、1年生が13人、2年生が11年、3年生が6人ですね」

「多いねぇ」

「高知県だと圧倒的ですけど、全国で見たら50人を超えてるような強豪校も少なくないので、特別うちだけが多いという訳でもないんですよ」

 

 ひときわ新しい建物の前で御代が足をとめた。

 5階建てのモダンなデザインの建物は、一言でいうとかっこよかった。

 

「ここが普段私たちが活動している文化部棟です」

 

 案内されるままに中に入る。タイルのような模様が入った床が敷き詰められており、壁は打ちっぱなしのコンクリートのようだった。それは、およそ深夜の「学校の建物」のイメージからはかけ離れたものだった。

 

 かが女も結構新しくて綺麗な方やと思っちょったけど、別格やねぇ。

 

 玄関でスリッパにはきかえて、御代のあとをついていく。人が十人以上は乗れそうな大きなエレベーターで3階まで連れて行かれる。

 

「ここがスクールアイドル部のフロアです」

「フロア?」

「3年前にこの棟が建ってから、この階はスクールアイドル部専用になったんです」

「専用!?」

「1階が吹奏楽部、2階が演劇部、3階がスクールアイドル部、4階と5階はその他の文化部に割り当てられているんです」

 

 御代はひとつずつ部屋を案内していく。

 シャワー完備の更衣室、見たことがないトレーニング機器が並ぶトレーニングルーム、高価そうな楽器や器材がならぶ録音スタジオ、配信ができそうな映像器材が設置されたブース、どこかのアイドルグループが活動に使っていてもおかしくないくらい本格的なミニステージ。衣装などが所狭しと並べられた広いスペースでは演出班の生徒たちが何やら作用をしている。

 

 ただただ設備の充実度合いに圧倒されている深夜に「プロでもここまでそろってるとこは中々ないと思いますよ」と乃々羽が耳打ちする。

 

 そうして最後に案内された部屋に入ると、そこは一面鏡張りのダンススタジオになっていた。中では既に練習着に着替え終えた栴檀学園スクールアイドル部の面々が、ストレッチなど各々和気藹々と準備をしている。

 鏡の前では先についていた須藤先生が、以前深夜に声をかけてくれたセン学の顧問の先生と何やら話をしていた。

 

「かがみ川女子高校スクールアイドル部のお二人をお連れしました」

 

 御代がそう言うと、スクールアイドル部の面々は一斉に立ち上がって「よろしくお願いします!」と声を揃えて挨拶をする。とくに示し合わせたわけでもないのに、ぴったりと息があうところが強豪らしいなと深夜は思った。

 

 セン学の顧問の先生は須藤先生との話を止めて、こちらに向かって歩いてくる。

 背はそこまで高くないけど、ジャージ姿でもにじみ出るスタイルの良さとピンと伸びた背筋が、一本心の通ったような強さのようなものを醸し出している。

 

「こんにちは! 総監督の櫻木(さくらぎ)(かつら)です!」

 

 凜とした、よく通る声だった。

 

「東雲深夜です!」

「沢渡乃々羽です!」

 

 櫻木監督の声につられて、いつも以上に二人の挨拶も大きくなる。

 二人の気合いの入った挨拶が気に入ったのか、監督はにこっと笑った。

 

「良い挨拶だね! ミヤとノノハ。今日はよろしくね。うちでは生徒たちのことは名前で呼ぶようにしてるけど、今日はそのスタイルで大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です!」

「今日は練習にきてくれてありがとう。うちの練習は全国レベルだから、もしかしたら最初はキツさに面食らうかもしれないけど、今日一日、頑張ってついてきてほしい」

「「はい!」」

「でも無理は厳禁。どこか炒めたり、熱中症になったりしたら本末転倒だからね。自分の限界を知るのも良い勉強だから。できる範囲の全力で食らいついてほしい」

「「はい!」」

「もしついてこれなかったとしても、心配しなくて大丈夫だから。今日一生懸命練習したことは絶対二人のこれからに役立つからね。一緒に楽しく、一生懸命練習していこう!」

 

 櫻木監督の言葉には熱さと力があった。監督の一言一言がぐさぐさと深夜の心に刺さって、今日一日頑張ろうという気持ちがふつふつとわいてくる。

 

「じゃあ着替えたら、早速練習を始めようか! ミヨ、着替えてる間にミヤとノノハに今日の練習メニューについて簡単に説明してあげてね」

「「よろしくお願いします!!」」

 

 深夜と乃々羽は深々と頭を下げて、部屋を出た。

 深夜と同じ気持ちなのか、心なしか乃々羽のステップにも気持ちが入っているようにみえる。

 

「監督、すごくかっこいい人やね」

「けーちゃん先生はカリスマですからね」

「けーちゃん先生?」

「代々みんな監督のことをけーちゃん先生って呼んでるんです。たぶん昔の先輩が、お名前の桂をけいって間違えて呼んだんだと思います」

「みんな監督のことあだ名で呼びゆうが?」

「監督がそう呼んでほしいっておっしゃってるので、そうしてます。けーちゃん先生は厳しいですけど、優しいし熱いし、何よりスクールアイドルに対する情熱がすごいんですよね」

 

 けーちゃん先生について語る御代の目はきらきらと輝いている。よっぽどけーちゃん先生のことを敬愛しているらしい。

 

「ラブライブ!全国優勝校でのコーチ経験もあるんですよ。けーちゃん先生にどうしても指導してもらいたくてセン学を選ぶ子は多いんです」

「みょーちゃんも?」

「もちろん私もそうです。私なんか先生の指導を受けたくて、横浜から越境留学しちゃいましたから」

「え、みょーちゃん横浜出身なが? 家ごと引っ越してきたってこと?」

「セン学は他の部活も越境留学生が多いので、留学生用の寮があるんですよ。だから今は寮生活してます」

 

 わざわざ寮生活をしてまでして受けたい指導を、たまたま高知でスクールアイドルを始めたからというだけの理由で、今日は受けられるのだ。その幸運をちゃんと活かせるかは今日一日の自分の頑張り次第だと、深夜は思う。

 

 よーし、今日一日、絶対にやりきるきね!

 

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