「ミヤ、初心者なのにちゃんと最後まで頑張ってついてきて偉かったよ」
最後は立っているのがやっとのところまで追い込まれた深夜は、練習が終わって30分近く経ってなお、まだ少し足下がおぼつかないでいると、玄関まで見送りにきていたけーちゃん先生がねぎらいの声をかけてくれる。
「ミヤがこれからどんなスクールアイドルを目指すとしても、まず大切になってくるのが体力と基礎技術。今日朝みっちり3時間かけてやったのはそのための練習。うちは多分全国で一番基礎練に時間を割いてるスクールアイドル部だと思うから、今日と同じ練習を学校に戻ってもちゃんと続けられたら、必ず実力はあがるよ。私が保証する。うちの子たちの中にもパフォーマンスの経験が一切なかった子たちはいるけど、しっかりうちの練習についていった子は、ちゃんとスタメンとして舞台に立ってる。どうしても最初のうちは目先の派手なテクニックとか演出とかに憧れやすいし、基礎練は地味で楽しくないの分かるけど、努力で身につく体力と基礎技術は絶対に裏切らないからね。特に初心者のうちは基礎練をおろそかにしないように」
「はい!」
正直なところ今日一日、自分が全然ついていけていなかったことは深夜自身が一番よく分かっている。それでも少なからず頑張った部分を褒めてくれて、絶対に上達するという太鼓判をおしてくれるけーちゃん先生の言葉は深夜の胸に刺さる。
今日はついていけなかったけど、次は絶対についていく。
その決意を胸に、絶対に基礎練をおろそかにしないようにしようと心の中で繰り返す。
「ノノハはすっごくよかったね。現時点でのパフォーマンス力は全国の高校1年生スクールアイドルの中では間違いなくトップクラスだと思う。でも、かが女でスクールアイドルをするなら、ノノハは単なるパフォーマーじゃダメ。コーチにもマネージャーにもならないといけないよ。それはとっても大変なことだけど、ちゃんとやりきることができたら今までのノノハには見えなかったスクールアイドルの新しい良さと面白さを見つけることができると思う」
乃々羽も思うところがあるのか、けーちゃん先生のアドバイスを何度も何度もうなずきながら聞いている。
「今はふたりの間に実力差があるから上手くいかないことも多いよね。でも今日のふたりを見てたら、私はこれからのかがみ川女子高校スクールアイドル部がすごく楽しみになったよ。頑張ってね!」
何か相談ごとがあったらいつでも連絡してきてと背中を押してくれるけーちゃん先生に深々とお辞儀をして、ふたりは文化部棟をあとにする。
「「「みゃーさん!」」」
名前を呼ばれて振り返ると3階の窓から3年生たちが手を振ってる。
深夜が手をあげて応えているのをみて、「いつの間にあんなに仲良くなったんですか?」と乃々羽が笑う
「え、普通じゃない? うち全員とLINEとインスタ交換したけど」
「先輩、やっぱりコミュ力お化けですね……」
「ののっち!」
乃々羽を呼び止めたのはりんだった。まだ練習着を着ていたので、急いで走ってきたのかもしれない。
「連絡先交換しよ!!」
スマホを差し出す倫。乃々羽には拒否権がないようだ。
乃々羽は肩をすくめてスマホを取り出す。
「次は絶対負けんきね! うちもっともっと練習してもっとうまくなるき!」
そう言いながら、笑顔で倫は去っていった。
「ノノちゃんもモテモテやね」
「そういうのじゃないです」
「きりんに気に入られたみたいですね」
いつの間にか深夜の横には御代が立っていた。
あの激しい練習のあとだというのに、顔色一つかわっていない。
「また是非、練習にきてくださいね。お二人なら私たちはいつでも大歓迎です。乃々羽さんはきりんや他の1年生の良い刺激になるので」
「あれ、うちは?」
「みゃーちゃんは……」
「悩むほど!?」
「ふふふ、冗談です。みゃーちゃんのひたむきさやまっすぐさ、誰とでもすぐに仲良くなれるところ、スクールアイドルとしてすっごく魅力的だと思いますよ。これで次お会いした時にもっとパフォーマンス力が上がっていたら、私たちもうかうかしてられませんね」
「次はちゃんとうちもみょーちゃんの眼中に入るようにするきね」
「楽しみにしてますね」
クラクションをならしながら須藤先生の車がロータリーに入ってくる。
「次は全ス選予選の会場ですね」
「LINEも送るき、既読スルーせんとってね」
差し出した深夜の手を御代がとる。二人は笑顔で握手を交わして、分かれたのだった。