「問題は衣装をどうするかよね」
深夜はうーんとうなりがら、向かいに座っている乃々羽の顔をみる。乃々羽は「そうですねぇ……」と歯切れな悪い返事を返した。
外はまだ小雨がぱらついていて、どんよりとした雲が空を覆っている。家庭科室での室内練習を少しはやめに切り上げて、2人は来週に迫った昼休みミニライブについて話し合いをしていた。練習用に深夜が持ってきたワイヤレススピーカーからは、今は乃々羽チョイスのおすすめスクールアイドル部楽曲がとめどなく流れていて、広い家庭科室内に陽気なメロティを響かせている。
ミニライブは生徒会の主催イベントなので機材やステージのセッティング、告知などは生徒会がやってくれることになっているのだが、コンテンツそのものはもちろん自分たちで用意しないといけない。パフォーマンス内容はやれる楽曲が「&GAIN!!!」1曲しかない以上、MCと1曲披露する以外選択肢がないのですぐに決まったのだが、問題は衣装だった。
「やっぱスクールアイドルって言ったらセン学みたいな可愛い衣装のイメージあるがよね」
スクールアイドル部用専用アプリ──スクコネやいろんなSNSでスクールアイドル部の衣装を調べてみても、出てくるのはたいてい趣向を凝らした可愛いらしい衣装だ。この前のセン学定期公演で深夜が見た衣装も負けず劣らず可愛いものばかりだったし、セン学部室に飾られていた他の衣装も「これぞアイドル」と言った感じの衣装だった。
「理想型はそうなんですよねぇ」
「他の学校ってどうやってあんなプロみたいな衣装作っちゅうが?」
「スクールアイドル部のステージ衣装を作ってくれる会社があるので、そこに頼んでるところも結構多いですね。簡単アレンジだけしてもらえるほぼ既製品みたいな衣装でも数万円くらい、フルオーダーメイドだと十万円は軽くこえるのも珍しくないはずです」
「衣装の感じ考えたら、それくらいはするよねぇ……」
クオリティを考えれば決して高くない金額だとは思うものの、高校生が部費の支援もなしに購入するにはさすがに手を出せない価格だ。バイトを何回かやれば買えないことはないだろうけど、そうなると他の活動費にまわせなくなってしまう。
「ドンキとかで売ってるような大量生産コスプレ衣装ならもっと安く手に入りますけど、あれをパフォーマンスで使うのはちょっとオススメしないですね」
「そもそも高知にはドンキないがよね」
「え、ドンキないんですか?」
「来年くらいに知寄町にできるみたいやけど。まあ、安売り店はあるきそういうとこに似たようなものはおいちゅうと思うよ。うちもそういうとこで衣装買ってハロウィンコスプレとかしたことあるし」
深夜は去年羽南たちとコスプレをした時のことを思い出す。ちょっとした遊びで着る分には問題なかったけど、ノノちゃんの言うとおり、あれで歌って踊るのはちょっと無理な感じくらいのクオリティやった気がする。
「長く続いてるとこだと代々受け継いだ衣装を直しながら着てるところも多いと思います。あとは特殊ですけど、セン学みたいに演出班があるような強豪校とか服飾系の学校とかだと自前制作してるところもありますね」
「うちは受け継いだ衣装はないし、自分で作るのも無理よねぇ」
「衣装のお直しくらいの裁縫スキルならありますけど、イチから作るのは無理ですねぇ」
「ノノちゃん、裁縫できる系の子なの?」
「裁縫はスクールアイドル必須スキルのひとつですよ!」
「そうなん?」
「本番直前にちょっとボタンが取れたりどこか破れたりしたときに自分で対応できないとダメですからね。なので、いつでも裁縫セットは持ち歩いてますよ」
乃々羽がポーチから裁縫セットを取り出して見せる。どこかのスクールアイドル部のステッカーが貼られたボックスの中には針や糸、はさみなどが入っていた。
「なにか困ってるの?」
声の方を見ると、いつの間にか準備室から出てきていた須藤先生が立っていた。
栴檀学園スクールアイドル部との合同練習以降、須藤先生はこれまで少しスクールアイドル部の活動に積極的に関わってくれるようになったような気が深夜はしていた。雨練で家庭科室を使わせてもらっている時だけでなく普通に屋上庭園で練習している時でも時々顔を出してくれるようになったし、全ス選予選前に講堂や体育館のステージでリハーサル練習ができないか他の部活の先生たちと掛け合ってくれたりもしている。深夜があの合同練習を経て気持ちが変わったように、須藤先生もセン学のスクールアイドル部を見て何か思うところがあったのかもしれない。
「昼休みミニライブと全ス選予選の衣装をどうしようかってみゃー先輩と相談してたんです」
「うちらお金も技術もないんで。先生の家庭科の先生ですよね? 衣装作りとかできません??」
「なんで私が作る前提なのよ」
深夜は軽く頭をはたかれる。
「ま、さすがに私でも衣装をゼロから作るのはちょっとハードル高いわね。あなたたちで作るのなら、準備室に服飾部が残していった結構いい材料とかミシンとかあるから、そのあたりは自由に使ってもらってもいいけど」
「服飾部ってなんですか?」
「前の家庭科の先生が昔顧問をされてた部活で、自分たちで衣装作ってファッションショーみたいなのしてたらしいわよ。一時期はすごく活発に活動してたみたいだけど、やっぱり服飾のセンスとか技術って個人依存だから、数年前に休部になったみたいね」
深夜が入学したときにはすでに服飾部はなかったので、初めて聞く情報だった。
「王道だけど制服でやったらどう? 新設校とか弱小校だと珍しくないじゃない」
「制服パフォですか……」
乃々羽はあまり気が乗らないらしい。
「制服パフォはやっぱり安直な気がするんですよね……学園祭感が強くなるというか。スクール感は強くだせますけど、アイドル感はあんまり出せないというか」
「うちは悪くない気もするけど。結構アイドルちゃんたちって制服っぽい衣装着てることない?」
「制服っぽい衣装と制服は個人的には別物だと思ってます」
スクールアイドル衣装について、乃々羽なりの強いこだわりがあるらしい。深夜にも他人にはあまり理解してもらえないこだわりはあるので、乃々羽の気持ちはわからなくもない。
「沢渡さんの気持ちは分かるけど、正直あなたたちの懐事情とスキルを考えたら制服をベースに少しアレンジするくらいが現実的な落としどころじゃないかしら。もう時間も無いんだし、ちゃんと本番衣装でリハーサル練習をしておかないと、本番で痛い目みるんじゃない?」
「どうゆうことですか?」
「練習着と本番衣装って、着心地とか動きやすさが全然違うのよ。経験値が多い沢渡さんなら本番衣装着てちょっと練習すればすぐ慣れるかもしれないけど、初心者の東雲さんは本番衣装でちゃんと何回もリハーサルやっておかないと、本番全然思い通り動けなくて大失敗みたいなことは全然普通に起きると思う」
「それはそうですね……今回は制服にしましょうか」
「それがいいと思うわ。全ス選はとりあえず制服で乗り切って、衣装問題はラブライブ!予選に間に合うよう夏休み前くらいまでにもう一度しっかり考えたら良いと思う」
「じゃあ、うち制服ちょっと可愛く映えるようにアレンジできんか考えてみる。こういうの羽南が得意やき、聞いてみるわ」
乃々羽は「お願いします」と頭を下げた。その表情は、制服でパフォーマンスすることをしっかり決意したように見える。
「はい、じゃあ衣装問題も決まったことだし、そろそろ下校時間だから帰る準備しなさいね」
「「はーい」」