かがみ川女子高校スクールアイドル部   作:記録部

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Side:深夜
サブタイトル:常夏サンシャイン


2024/07/05:もうちょっとで夏休み!

「焼け死ぬかと思った……」

「これで梅雨明けしてないとか嘘ですよね……」

 

 長かった期末テストが終わった開放感。待ちに待った屋上庭園での部活動再開。晴れ渡る空、さんさんと輝く太陽。マックスまで上がりきったテンションは30分もしないうちに、殺人的な暑さによって完全に打ち砕かれた。それでも、休憩や水分補給をしながらなんとか練習を続けたが、あまりの暑さに心配して顔を出した須藤先生の指示で、予定より早く練習を切り上げ、家庭科室に避難してきたのだ。

 クーラーの効いた家庭科室は、炎天下の屋上庭園とは打って変わって天国のように涼しい。深夜も乃々羽も汗だくになった練習着を着替えてもなお吹き出す汗を、ノートで仰いでなんとか沈めようとしている。ぐっしょりと汗で湿った下着の気持ち悪さに、深夜の中に早く帰ってシャワーを浴びたいという思いがふつふつとわいてくる。

 

「うち、今日は1リットルくらいポカリのんだと思う」

「わたしもです。Tシャツ絞ったら引くほど汗がでましたよ……ウォータープルーフの日焼け止めしてたんですけど、汗がですぎて意味がなかったですね」

 

 部活前に入念に日焼け止めを塗ったにも関わらず、乃々羽の白い肌は日焼けで赤くなってしまっていた。制服の白シャツとのコントラストが痛々しい。

 もともと少し地黒な深夜は乃々羽ほど明確には日焼けしていなかったが、それでも肌は少しヒリヒリしている。それ以上に、まだ体の中にこもった熱が放出しきれていないような感じがあった。

 

「みなさん、すごいですね……わ、わたしなんかインドア派だから、登下校だけで死にそうになりますよ……」

 

 机を挟んで反対側の席で、スケッチブックに向かってペンを走らせている雅がそう言った。今日から正式に衣装部としての活動を開始したのだ。雅は深夜たちが家庭科室に戻ってきてから、ずっとスケッチブックに向かって衣装デザインのようなものを描いている。

 

「それなー。普通に生きちゅうだけで暑いのに、外で練習するのは地獄よね……」

「わたし、高知の暑さをなめてました」

「東京も今はだいぶ暑いがじゃないが?」

「うーん、気温自体はあんまりこっちと変わらないんですけど、なんだか高知って日差しの質が違う気がするんですよね。こう、焼き尽くしにきてるような」

「わかるー」

「やる気があることは良いことだけど、暑さはやる気だけじゃ乗り切れないから」

 

 麦茶のおかわりを持って須藤先生が準備室から出てくる。ふたりのためにあらかじめ冷蔵庫でキンキンに冷やした麦茶を用意してくれていたのだ。少し塩味をきかせた麦茶のあまりのおいしさに、深夜も乃々羽も一杯目を一瞬で空にして、ずうずうしくもおかわりを所望した次第である。

 

「これ、夏休み中は外で昼練するの無理っぽくないですか?」

「今日の感じだと、顧問としても認められないわね。体力コントロールに慣れてる屋外スポーツ部の子たちでも熱中症になるんだから。スク部は運動部扱いされることもあるけど、こういう外での練習のノウハウとか経験を持ってるわけじゃないし、今日のあなたたちみたいに張り切って頑張りすぎちゃうのよね」

「反省してます」

「そうなると練習メニューも考えなおさないといかんね」

「午前中暑くなるまでは屋上庭園でスペースが必要な練習をして、それからは家庭科室でスペース使わなくていい練習とか、楽曲制作とかインドアでできることするって感じにしませんか?」

「それが良いと思うわ。実質的な練習時間は短くなるのが不安かもしれないけど、熱中症で倒れたり体調崩したりして、何日も練習できなくなる方が総合的にマイナスだから」

「わたし、れ、練習の邪魔じゃないですか?」

「むしろ家庭科室は今は衣装部の部室ながやし、みやびーが嫌だったらうちらが出て行くのが筋ながよ」

「わ、わたしは、全然邪魔じゃないです。む、むしろ、みなさんの姿を見てるとインスピレーションがわくというかなんというか……これまで、衣装作りはひとりでしかやってこなかったので、こういう、ちょっとにぎやかな感じ、憧れてたんです」

「くぅ、みやびーはノノちゃんとはまた違ったかわいさがあるがよねぇ」

「わかります」

 

 乃々羽もうんうんとうなずいた。当の雅はというと、「かわいい」という言葉に照れてしまったのか、頬を赤らめて下を向いてしまった。

 

「みやびーは夏休み中はどうするが?」

「い、いちおう毎日学校にきて、基本はこれまで個人でやってきた服作りを部活動としてそのまま続ける感じです。うちにおいてある材料とかも学校に持ってきていいって、須藤先生が許可してくださったので……」

「そうながや」

「なので、も、もしお時間あれば、たまに衣装合わせに協力してもらえると嬉しいです!

「もちろんです! 私、はやく宮下先輩の作った衣装着てみたいです」

「き、期待に応えられるよう、が、がんばります……」

「うちらはここからはラブライブ!一本目指して頑張るがやけど、衣装部はどうするが?」

「そ、そうですね……前も少しお話したんですけど、憧れだった文化祭でのファッションショーを復活させたいと思ってます。やっぱり、そこが原点なんで……」

「その気持ちわかります!」

 

 乃々羽は雅の手を取り、目を輝かせながら語り始めた。いつか深夜も聞いた、乃々羽が初めてスクールアイドルに憧れたステージのことを雅に熱く伝えている。その熱量に最初は気圧されていた雅も、次第に自分の文化祭ファッションショーへの憧れをより熱を込めて語り返していた。

 強い推しを持つ者同士、共鳴するところがあるようだ。推し活とはあまり縁がなく、スクールアイドルをしている今でも特に特定のスクールアイドルの推しがいない深夜にとって、推しを持つ二人の姿はなんだか少しまぶしく見えた。

 

「そういえば、ス、スク部は文化祭はどうするんですか?」

「あー、全然考えてなかったねぇ」

「文化祭っていつでしたっけ?」

「11月1週目の土日よ。ちょうどラブライブ!県予選と地方予選のど真ん中になるわね。県大会を勝ち抜いてたら地方予選前のリハーサルに、勝ち抜けなかったら東雲さんの引退ステージになるのかな」

「どっちにしてもうち的には、かが女のみんなにオリジナル曲を披露する機会としてちゃんとやりたいね」

「そうですね。何分くらい出番をもらえるかわかんないですけど、&GAIN!!!とラブライブ!用のオリ曲披露する感じでおいおいつめていきましょう」

「あ、も、もしステージ使うなら、来週の終業式のあとの説明会に出た方がいいみたいです」

「そんなのあるがや。というか夏休み前ってはやくない??」

「な、夏休み前に説明会して、夏休み中に申込みと実行委員会による抽選があって、夏休み明けに枠が確定するって聞いてます」

「抽選?」

「実績のある部活動は固定枠があって、それ以外の自由枠は原則抽選で決まるみたいね。たしかそんなことを職員会議で聞いた気がするわ」

「てことは、うちらも服飾部もどっちも枠をとれない可能性もあるがやね……」

「こればっかりは運なので仕方がないですね」

 

 ようやく夏休みが来たと思ったら、もう秋のことを考えなくてはいけない。残された時間の短さを、深夜は最近、以前よりずっと感じるようになっていた。だからこそ、こんな何気ない日常の、放課後のちょっとしたやりとりも、何だかとても大切なものに思えてきた。

 

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