かがみ川女子高校スクールアイドル部   作:記録部

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Side:深夜


2024/07/16:第2回セン学合同練習①

「この前とくらべると見違えるくらい良くなってますね」

 

 深夜の隣に御代が腰をおろした。手にしたピンク色の可愛らしい水筒は、先ほど冷水機で補充していたものだ。御代はこくん、こくんと音を立てて冷たい水を流し込む。涼やかな喉の動きが、その肌の白さを一層際立たせ、透き通った汗が首筋を伝っていく。

 飲み終わると、御代はひとつ息をつき、涼しげな瞳で深夜に微笑んだ。

 

「それはみょーちゃんたちも同じやない?」

 

 深夜たちは栴檀学園スクールアイドル部との2度目の合同練習のために、再び栴檀学園を訪れていた。前回とは違い、練習の合間の休憩でもしっかりと会話ができるくらいの体力の余裕が深夜には残っている。

 

 今回の合同練習は、須藤先生が直接櫻木先生と話をつけてくれたおかげで実現したものだった。深夜たちの知らないところで、須藤先生はいつの間にか櫻木先生と仲良くなっていたようだ。学生には見えない大人同士の付き合いというものがあるのかもしれない。

 

 当の須藤先生は朝から櫻木先生につきっきりで、その指導法をじっと観察し、いろいろと質問をしては、積極的に櫻木先生の知識や技術を吸収しようとしている。

 

「お世辞ぬきでみゃーさん体力ついてきちゅうと思うよ!」

 

 3年の丸木さんが、通りすがりに一言そう言って去っていく。

 

「私もそう思います」

「まー、毎日ちゃんと走っちゅうきね。あと、炎天下で練習してたら嫌でも体力つくがよ」

「屋上庭園でしたっけ? 私たちもたまに屋外イベントに出ることはありますけど、真夏の炎天下はさすがに経験がないですね」

「みょーちゃんも一回真夏の屋上庭園で練習してみたらええがの。セン学のありがたみがわかるき!」

 

 クーラーの効いた広いダンススタジオ。余計なことに気を回さず練習に集中できる土台。練習に真面目に取り組むようになった今だからこそ、前回以上に設備の整った環境での練習のありがたさが身にしみる。

 

 話し合いで真っ昼間の屋上庭園練習は避けるようになったとはいえ、午前中や夕方は天気が良ければ屋上庭園での練習は続けていた。深夜の肌がこんがりとした健康的な小麦色の肌が、屋上庭園の日差しの強さを物語っている。

 一方、向こうで一年生たちに混じって談笑している乃々羽は、同じように練習しているはずなのに、入学当時と変わらない透き通った白い肌を保っている。体質の違いなのか、乃々羽も何日かは肌が赤くなるものの、色はつかない。そんな彼女の肌を見ていると、羨ましいという感情が自然と湧いてくる。

 

「ラブライブ!予選の準備すすんでます?」

「全然。まだ曲ができてないきねぇ。いまノノちゃんが頑張って作曲しちゅうけど、なかなかうまくいかんみたいながよね。セン学はどうなが?」

「曲作りは演出班とけーちゃん先生が担当してくれるので、実はラブライブ!用の楽曲は4月にはできあがってるんです」

「はや!」

「全ス選と平行しながらみんなで曲入れもしてて、今は最終メンバー選出のためにみんなで切磋琢磨してるところですね」

「メンバー選出?」

「ラブライブ!は最大20人構成なんですよ。うちは今パフォーマーが26人いるので、どうしても6人は出られないんです」

「へー、そーながや。うちら2人しかおらんき上限があるとか全然気にしてなかった」

「昔は人数制限なかったらしいんですけど、なんでも100人くらいでパフォーマンスして運営とトラブルになった学校があったみたいで、最近はずっと20人上限ですね」

 

 御代の言葉に、ステージ上に100人のスクールアイドルが押しかけている光景が頭に浮かんできてしまい、深夜は思わず苦笑した。

 

「メンバー選出っていつ決まるが?」

「8月中旬に部内最終審査があるんですよ。それからはポジション固定で完全にラブライブ!まで駆け抜ける感じになりますね」

 

 ラブライブ!予選を待たずして、8月中にはステージに立てない子が決まってしまう。その事実に、深夜は無条件でラブライブ!のステージに立てる自分がどれだけ恵まれているかを痛感する。もちろん、セン学を選んだ子たちはステージに立てないリスクを承知の上で、セン学を選んでいるのだ。例え、仲の良い3年の誰かがステージに立てなかったとしても、それに同情する必要がないことは深夜も理解している。

 

「そういえばトラウマ、乗り越えられましたか?」

「トラウマ?」

「その、全ス選の……」

「あー、全ス選のか。どうやろうねぇ。やっぱりもう一回ステージ上がってみんとわからんね。顧問(すどうちゃん)は、ホームな雰囲気が作れたらうまくいくんじゃないかって言っちゅうけど、どうやろう」

「ホームな雰囲気?」

 

 須藤先生から言われたことを、深夜は御代にかいつまんで説明する。

 

「なるほど……ホームバフ、アウェイデバフみたいなのは確かにありますよね」

「セン学もそうなが?」

「どこだって多かれ少なかれそうですよ。まあ、うちは逆にそれがプレッシャーになっちゃう子もいますけどね」

「あー、たしかにセン学の応援はすごかったねぇ……」

 

 深夜は四月に見たセン学の定期公演思い出す。観客席には老若男女たくさんの人たちが詰めかけており、中には熱狂的と言えるほどアツい声援をとばしていた人たちもいた。

 

「応援してもらえること自体はとてもありがたいんですけどね。「セン学はこうあるべき」みたいな一家言あるOGとか古参勢とかもいらっしゃるので、そこら辺はちょっとだけ大変です。みゃーちゃんならそういうのも全部吹き飛ばしちゃうかとしれませんけど」

「みょーちゃんの目にうちがどう映っちゅうのか気になるねぇ」

「みんなを巻き込んで楽しませるのが得意な人だって思ってます」

「そう?」

「今日だって、服飾部の方が一緒に来てるじゃないですか。みゃーちゃんが誘ったって聞きましたよ」

 

 今日は深夜と乃々羽だけでなく、雅も一緒についてきている。スクールアイドル部ではないからと遠慮していた雅を無理やり連れ出したのは、まさに深夜だった。最初はかなり人見知りしていた雅だったが、演出班の部屋に入るとたくさんの衣装がディスプレイされており、それを見た瞬間、目を輝かせた。それからというもの、雅はずっとその部屋にこもっている。

 

「みやびーは、どっちかって言うと向こうから来てくれたがやけどね」

「声のかけやすさとか声をかけられたあとに巻き込む力とか、それって努力してもなかなか身につかないことですよ。うちの子たちも、みゃーちゃんにかなりメロメロですし」

「そうなが? じゃあ、みょーちゃんも?」

「どうでしょう」

 

 御代は「秘密です」と口に人差し指をあてて小さく笑う。普段マジメな御代だからこそ、こういうさりげない仕草が余計に深夜の心を揺さぶる。

 

「なので、須藤先生のおっしゃってるように、学校中をスク部に巻き込んじゃったらいいんじゃないですかね。スク部の楽しさに巻き込んで、みんなで青春のステージを作る。みゃーさん、そういうの好きじゃないですか?」

「なんでわかるが?」

「秘密です」

 

 また御代は可愛らしく笑った。

 直接会ったのはまだ数回だというのに、御代とはすごく波長が合う気がしている。御代はこれまでの深夜の友達にはいないタイプの子だ。それなのに、いつのまにか毎日LINEでくだらないやりとりをするくらいには仲良くなっていた。

 

「でも、みゃーちゃんが全ス選を乗り越えられてて安心しました。LINEとかが元気すぎたから、逆に心配してたんですよ、みんな」

「ごめんごめん。終わって何日かは流石に落ち込んでたけど、今ははよう次の舞台に立ちたいって思っちゅうから心配せんで。まあ、でも、うちのバッチバチに仕上げた&GAIN!!!を見せられんかったのは残念やけど」

 

「じゃあ、午後はお互いに衣装着て本番っぽく&GAIN!!!やろうか!」

 

 情熱に満ちた熱い声が降ってくる。さっきまで向こうで須藤先生と話していた櫻木先生が、いつの間にか目の前に立っていた。

「舞台でおった後悔は舞台で晴らさないとね! ミズキ、午後に講堂かホールか使えないか確認してもらえる?」

 

 たまたま通りがかった演出班トップでマネージャー長のミズキに、櫻木先生は声をかける。

「けーちゃん先生、いつも突然なんだからー」と、ぶつくさ言いながらミズキは部屋を出ていくが、その顔はまんざらでもない感じだった。

 

「講堂かホールがとれたら、ガチで本番みたいにやろう。ダメだったらミニステージでね!」

 

 そう言い残すと、櫻木先生は颯爽と去っていった。

 

「驚いたでしょ。けーちゃん先生はああ言うところあるんです」

「うちらとしてはめちゃくちゃありがたいがやけど、けーちゃん先生もみょーちゃんたちも、なんで特に面識となかったうちらにここまで良くしてくれるが? メリットなくない?」

「メリットがないわけじゃないんなですよ。高知のスクールアイドル部が盛り上がって全体のレベルが上がれば、私たちもさらにレベルアップできるので。なんだかんだ言ってここ10年1度もセン学は全国決勝大会に進めてないんですからね。そこをこえるにはみんなで一緒にレベルアップしないと」

 

 高知県のスクールアイドル業界全体のことまで考えてるのか、と深夜は驚く。

 

「というのは建前で」

「建前なが?」

「ライバルだけど仲間。うちの部訓なんです。だから、シンプルにスクールアイドル好き同士、仲良くしたいし、力になれることがあったら手伝いたいんです。先生もここにいる子たちもみんな、スクールアイドルが大好きですから!」

 

 ライバルだけど仲間。

 

 御代の言葉を深夜は心の中で繰り返し、かみしめた。

 

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