かがみ川女子高校スクールアイドル部   作:記録部

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Side:乃々羽
サブタイトル:START:DASH!!


2024/04/12:はじまり

「ノノちゃーん」

 

 屋上庭園のベンチに腰掛けてスマホをいじっていた深夜は、乃々羽に気がつくと大きく手を振った。乃々羽はぺこりと軽く頭を下げ、小走りで深夜の元に駆け寄った。

 

「よく来たねぇ」

 

 田舎のおばあちゃんが孫を迎えるかのような優しい声に、乃々羽の緊張は少しだけ和らいだ。それでも、深夜と会うのはまだ2回目。しかも相手は最上級生だ。緊張しないわけがない。体育会系の環境で長く過ごしてきた乃々羽にとって、先輩という存在は絶対的なものなのだから。

 

「学校には慣れた?」

 

 深夜に促されて、乃々羽はベンチに腰掛けた。気を使って少しだけ間をあけて座ったのだが、深夜が自然と間を詰めて肩が触れ合うくらいの近さになった。

 スクールアイドル好きの乃々羽には、アイドルとしてどんな魅力があるのだろうと人を自然に分析する癖がある。深夜は、ワハハという笑い声が似合いそうな人懐っこい笑顔や、こうやって自然とパーソナルスペースに入ってくる距離感の近さが、アイドルとしての魅力になりそうだと乃々羽は分析した。

 

「はい、いえ、まだ全然です」

「そりゃそっか。まだ入学してから二日やもんね」

「はい」

「そんな緊張せんでもええよ」

「あ、はい、東雲先輩」

「うーん、やっぱかたいね。とりあえず、まずは東雲先輩呼びはやめよっか。みんなみやとかみゃーとか呼びゆうき、適当に呼んでくれてええがよ」

「じゃ、じゃあ……みゃー先輩で」

 

「みゃー」という響きは、深夜の穏やかで明るい印象にぴったりだと思ったので、乃々羽は「みゃーせんぱい」という呼び方を選んでみた。

 

「おっけー。じゃ、それでいこっか。うちはノノちゃんって呼ぶけどええ?」

「全然問題なしです!」

 

 乃々羽は改めて近くで深夜を見た。ヘアピンで左側だけ耳にかからないように留められた黒髪ショートカットはボーイッシュな印象を与える。一方で、少し垂れた目と眉が深夜の優しそうな雰囲気に合っていて、親しみやすい顔立ちだ。アイドル級の美少女というわけではないけど、メイクもヘアアレンジもばっちり決まっている。乃々羽は、深夜が女の子にモテるタイプの女子だと思った。

 

「そういえばノノちゃん標準語やけど、もしかして東京から引っ越してきたが?」

「はい。高校進学にあわせて、母と一緒に先月こっちに引っ越してきたんです」

「これ、もしかして聞いちゃいかんやつやった?」

 

 乃々羽はあわてて手を振り、全力で否定した。

 別に高知に引っ越してきたのは、そんな重い事情があるわけではなかった。

 

「いえ、全然。もともと母が高知の出身で、祖母がちょっと体壊したりもあったのでこっちに戻ることにしたんです。それで、私もちょうど高校進学の時期だったので、かが女受験して受かったので一緒についてきたって感じです」

「そうなんや」

「じゃあ、ノノちゃん的には高知はほとんど知らんがやね」

「はい。なんで、学校に慣れるのもそうなんですけど、高知にも全然まだ慣れてないっていうか。正直、みゃー先輩の高知なまりもちょっとまだ慣れない感じがあります。ちゅうとかやきとか、東京だとほとんど聞いたことがなかったので」

「まあ、高知弁はちょっと癖が強いきね」

 

 深夜はワハハと笑った。それは、乃々羽がイメージしていた通りの笑い方だった。

 

「それでノノちゃん、スクールアイドル部の件、考えてくれた?」

「はい、あの、その前に一つお聞きしたいんですけど」

「なんでも聞いて!」

「みゃー先輩はどうしてスクールアイドルをやろうって思ったんですか? かが女ってスク部ないですよね」

「うんそうやね……ってなんで、かが女(うち)にスクールアイドル部がないこと知っちゅうが?」

「全日本スクールアイドル部協会のサイトとかラブライブ!の大会サイトとかスクコネとか見てみたんですけど、ヒットしなかったので」

「全日本スクールアイドル……?」

 

 深夜の顔には疑問符が浮かんでいた。

 

「全日本スクールアイドル部協会です。夏の全ス選、あ、全日本スクールアイドル選抜地方大会を開催をしたりしてる、全国のスク部をとりまとめてる団体ですね。全ス選に絶対出ない特殊なスク部以外は基本的に登録してるはずなので」

「へー、そんなんがあるがやね」

 

 深夜はスマホを取り出し、何やらメモしているようだった。

 

「もしかして、みゃー先輩ってあんまりスク部のこと詳しくない感じですか?」

「うち、スクールアイドルのことちゃんと知ったのつい最近ながよ。この前ののちゃんとハモった曲の動画が、TikTokでたまたま流れてきて、そこでがっつりハマってやりたくなったがよね」

「あー、わかります。その気持ち。『&GAIN!!!』はなんというかその、魔力みたいなのありますよね。アレ見ると『スクールアイドルやりたい!』って気持ちがふつふつとわいてくるんですよね」

 

 乃々羽は大きくうなずいてみせた。

 

「うちもその魔力にやられて、スクールアイドルやるってなったがよ。友だちも誘ってみたがやけど、さすがにみんな受験とか部活とかで忙しいって断られて。そしたら、たまたま屋上庭園(ここ)でののちゃんとハモったから、この子やったらって思って誘ったがよね」

「ノノちゃんはスクールアイドル好きってことは、高校はいったらスクールアイドルやるつもりやったが?」

「わたしは……えっと、その、やるのは専門じゃないっていうか、見る専っていうか……だから、高校でスクールアイドルやるつもりはなかったんですけど……」

 

 乃々羽の答えは歯切れが悪かった。中学までスクールアイドルを目指してがっつり活動してきたことは、それとなく伏せた。隠したわけではないけれど、今はまだ自分の中で消化しきれていない経験だったし、ほぼ初対面の先輩にあえて話すほどのことでもないと思ったからだ。

 

「みゃー先輩に声をかけてもらったあと家で考えたんです」

 

 おととい深夜に声をかけられた時のこと、そしてその後LINEでスクールアイドル部に改めて誘われた時のこと。そのときの感情を正直に乃々羽は思い出す。

 

 別にスクールアイドルをやるのは、嫌じゃなかったんだよね。

 高校に入ってこれといって新しくやりたいことがあるわけじゃないし。

 東京にいたときみたいに、ラブライブ!全国決勝とか優勝を目指すみたいに本気でやるわけじゃない。高知(ちほう)で楽しくまったりやるスクールアイドル活動も、それはそれで一つの形だと思う。

 スクールアイドル好きとして、そういうゆるいスクールアイドル部活動も経験しておくのも悪くないかも。

 

 そう思ったのだ。

 

「わたし、みゃー先輩と一緒にスクールアイドルやろうと思います」

「え、ほんまに!」

 

 深夜の顔がぱっと輝き、乃々羽に思いっきり抱きついてきた。

 深夜のぬくもりと、香水のさわやかな香りがぱっと乃々羽を包み込む。

 

「じゃあ、ノノちゃん、改めてよろしくね!」

 

 深夜は乃々羽を話すと頭を下げた。

 

「こちらこそよろしくお願いします!」

 

 あわてて乃々羽も頭を下げる。

 

「それでこれからのことやけど。スクールアイドル活動やるにはスクールアイドル部に所属しないといかんのよね?」

「厳密にはスク部に入ってなくても、スクールアイドルって名乗ることは問題ないですね。スクールアイドルはあくまでも『アマチュアとしてアイドル活動をしている高校生』の総称ですから。ただ、学校公認のスク部以外だと夏の全ス選にも秋冬のラブライブ!にも出られないので、普通スクールアイドルやりたい子はスク部に入ると思います。プロ志向の子はスクールアイドルじゃなくてプロ活動しちゃいますし、スク部入ってないスクールアイドルは校内活動や地域活動、自主配信とかだけをアマチュアとしてやってるかなり特殊な子ですね。そういうのがやりたい子たちも基本的には全ス選とかラブライブ!には出るので、スク部に入ってないスクールアイドルって全国的に見ても10人もいないんじゃないですかね。私も正直見たことないです。なので、みゃー先輩が特に『絶対に大会に出ない!!』みたいな強いこだわりがないなら、普通にスク部を作って、かがみ川女子高校スクールアイドル部としてスクールアイドルするのが良いと思います」

「なるほど。やっぱ、ちゃんとスクールアイドル部を作るのが最初にやらないかんことなんやね」

「そうですね。さっきも言いましたけど、学校公認じゃないとそもそも大会に出られませんし。大会に出られないと、活動の目標とかもたてにくいんですよね。それに活動費とか活動場所のことを考えても、やっぱりちゃんと部活として活動した方が何かと便利だと思います」

「そりゃそうよね。部活でもないのに勝手に学校の敷地使って練習しよったら、さすがに学校に怒られる」

 

 深夜はふたたびワハハと笑う。

 

「よし、じゃあスクールアイドル部を作るかね!」

「部活ってどうやって作るんですか?」

「わからん!」

 

 深夜は胸を張ってそう言った。「わからん」という言葉とは裏腹に、その姿は実に堂々としていた。

 

「もしかしてみゃー先輩って、結構勢いで動くタイプですか?」

「ばれたか。でも、勢いは大事やよ。やってみる、ダメだったらそれはそれで勉強になるし」

 

 深夜は立ち上がる。

 

「うち、部活やっちゅう子とか生徒会やっちょった子にちょっと聞いてみるよ。週末で調べれると思うから、来週の月曜日に申請とかいろいろやろうか」

 

 今日いろいろと動くんじゃないんだ、というストイックな考えが乃々羽の頭をよぎった。

 清学(あそこ)基準で考えちゃダメだ。かが女(ここ)は楽しくまったりスクールアイドルする場所なんだから。

 

「ノノちゃんはスク部が承認されたあとにどんな活動するかとか、ちょっと週末考えよってもらえる?」

「はい!」

 

 そんな少し黒い考えに深夜が気づいていないように見えて、乃々羽はほっとした。

 

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