「なんとかならんが?」
「無理」
スマホの向こうの羽南の声は、取りつく島もないほどあっさりしたものだった。深夜は自室のベッドにごろんと寝っ転がり、軽くため息をつく。
「大講堂でのフリーステージイベント枠は書類審査と抽選で決める。で、スク部は抽選で落ちた。だから、大講堂でのフリーステージイベントはできない。以上」
「おっしゃる通りで」
始業式後の文化祭フリーステージイベント抽選会の結果、スクールアイドル部は残念ながら落選となった。スクールアイドル部だけではない、雅の服飾部もアスカのRe-Ariseも落選となり、深夜の関係者は全員落選してしまったのだった。もちろん公正な抽選の結果であり、それを覆そうという意思はさすがに深夜にはなかった。
だが、それでも何か方法がないかと考えてしまうのが性分だ。
「うちが聞きたいんは、ステージイベント以外でパフォーマンスやる方法がないかってことながよ」
「
「そっかー」
深夜の淡い期待は一瞬で砕かれる。
深夜はもう一度ため息をついて、スマホを枕元におく。
残念だけど、仕方ない。
通話を終了させるために言葉を発しようとしたところで、スピーカーから羽南の声が続いた。
「まあ、今までのは副実行委員長兼イベント班長としての話。友だちとしてなら、アイディアは出せなくはないかな」
「なんか方法あるが?」
羽南が続ける言葉を期待しながら、深夜はスマホを再び手に取った。
「大講堂以外の場所でイベント班管轄外でやるなら、制度上は問題無いはず」
「どういうこと?」
「クラスの出し物で演劇とかしてたりするとこあるじゃん。アレだってパフォーマンスだけど、別に禁止されてないわけ。普通に出し物として許諾を受けてる。要は、クラスの管轄下で自分たちの場所を使ってやるのはOKってこと。だから、スク部の管轄でスク部の活動場所を使って出し物をする分には、基本的に
言われてみれば当たり前のことだったが、深夜には目からうろこだった。大講堂でのステージパフォーマンスという凝り固まった先入観が、深夜の目を曇らせていたのだ。
「じゃあ、うちらが屋上庭園使ってパフォーマンスする分には問題無いってこと?」
「まー、一応そうなるね」
羽南の答えには少し含みがあった。
「一応?」
「屋上庭園は通路とか休憩所としての役目もあるから、人通りとかにはちゃんと配慮しないといけないわけ。あと、スク部がパフォーマンスするとなったら音もそれなりに出て周りのクラスの出し物とかに影響があるかもだから、そこら辺もあらかじめ配慮が必要だよね。あとは、当然機材とかの手配も考えなきゃだし。あ、屋外だし雨天時どうすんのとかまでちゃんと考えとく必要もあるか。そこらへん全部をしっかりつめて、文実を納得させる必要があるわけ」
「ちょっと待って、メモとるき」
深夜はベッドから飛び起きて、机に向かう。
羽南の言葉を思い出しながら、キーワードをルーズリーフに殴り書きした。
「まあ屋上庭園でパフォーマンスすることについては、昼休みミニライブを取り仕切ってる生徒会がくわしそうだし、一回生徒会に相談してみたら?」
「ん、そうする」
生徒会長はスク部の活動に好意的だし、相談したら力を貸してくれそうだと深夜は思う。
「ちなみにいっこ聞きたいことがあるがやけど」
「なに?」
「屋上庭園使って今回の抽選に落ちた子たちにもパフォーマンスさせてあげることってできん?」
「あー」
羽南は一瞬黙り込んだ後、ゆっくりと、一つ一つ考えるようにして言葉をつむいできた。
「クラスと違って部活が出し物をする場合は、その部活に関係する出し物をするってのが建前になるわけ。他の文化祭だったら運動部が焼きそば売ってたりとかしてたりするけど、うちじゃそういうのないでしょ?」
深夜は去年の文化祭を思い出してみる。たしかに、サッカー部はPKチャレンジ、ソフト部はストラックアウトだったりと、その部に関する出し物をしていた気がする。
「ま、簡単に言えば部活の出し物として部活と関係ないことするのはちょっと違うよねってこと」
「じゃあ、うちらがスクールアイドルのパフォーマンスをすることはできるけど、他の子たちをステージにあげるがは許されんってこと?」
「んー、厳密には違う。ようは、文実が納得出来る「筋」があればいいわけ」
「筋?」
深夜は羽南の言葉の意味が分からず、オウム返しのように尋ねた。
「私、そんなに詳しくないけどスクールアイドルって、元々はご当地アイドルみたいに学校を盛り上げることを目的とした存在だったんでしょ?」
今のスクールアイドルはラブライブ!に出るための部活としての意味合いが強いが、学校を応援したいというのがそもそもの始まりだと深夜は聞いたことがある。たしか、入学者が減っている学校を盛り上げるために学生たちが行った活動が、スクールアイドルの始まりのはずだ。
「だから、スクールアイドル部の活動としてかがみ川女子高校の文化祭をさらに盛り上げるイベントを企画します!って趣旨でやれば良いってこと。それだったら、文実も納得出来るし、筋は通るよね」
「そんな裏技みたいなこと文化祭実行委員会の副委員長が提案してええが?」
抽選会までもうけて大講堂でのフリーステージイベントの選抜を行うようになったのには、深夜の知らない歴史というか経緯があったのではないかと、深夜は想像する。もしそうだとしたら、羽南の提案する深夜たちにとっての起死回生の一手は、文化祭でのパフォーマンスに抜け道を作ってしまう「これまでの文化祭実行委員会の歴史を否定する行為」になる可能性があった。
「友だちの力になってあげたいじゃん」
「羽南……」
「ウソだけど」
「えー!」
「毎年、ちゃんとやりたいのにやれない子たちの舞台がないのって、これまで文実でも結構問題になってきてたのね。こっちとしても別にイジワルで落としてる訳じゃないんだけど。ま、さすがにこれは文化祭にふさわしくないとか、こいつらは絶対文化祭当日仕上げられなくて逃げるみたいなやつは問答無用で一次審査で落としてるけど。
「じゃあ、うちが屋上庭園イベント企画しても羽南の迷惑にはならんが?」
「なんないよ」
羽南の断言に深夜はほっとする。
「むしろ、深夜が責任もって落ちた子たちの面倒見てくれるんなら正直助かるんだよね。で、良い前例作ってさ、来年以降も続く文化祭の伝統にしちゃってよ」
「それならええけど。じゃあ、とりあえずノノちゃんとかと相談して、その方向で進めてみるわ」
スマホの向こうから聞こえる羽南の「やっちゃえやっちぇ」という軽い言葉に、深夜は小さくうなずいた。目の前にはまだ多くの問題が残っているが、なんとかなる気がしてきた。
「ま、またなんか聞きたいことあったらいつでも相談してよ。私も出来る範囲で手伝うからさ」
「ありがと。助かる」
「じゃ、また明日学校で」
「うん、お休み」
深夜はスマホを耳から離し、ベッドに転がった。
ラブライブ!予選にテレストとの合宿、それに文化祭か。二学期は忙しくなりそうやね。
深夜は小さく笑いながら、ベッドの上で軽く伸びをした。