「みやちー、ちょっと相談いい?」
昼休みを知らせるチャイムが鳴り、家庭科室に移動しようとしていた深夜はきらりに呼び止められる。きらりは今日はしっかり巻いた髪に小さなお団子をアレンジした髪型にしていて、いつも以上にギャル感のある仕上がりになっていた。
「どうしたが? きらりが改まって相談とか言うと裏がありそうで怖いね」
深夜は自分の席に戻ると、きらりは前の席に腰掛ける。香水だろうか、淡く清々しいな香りがふわりと舞った。きらりは両手を机に乗せると、イタズラっぽい目をこちらに向ける。派手にデコレーションされたネイルが日差しを受けてキラキラと輝いていて、きらりらしさを引き立てていた。
「いやー、別にそんな怖いことじゃないってー。ちょい、みやちとスク部に映像研としてお願いしたいことがあるんだよね」
「何?」
「スク部の密着ドキュメンタリー撮らせてもらえん?」
「密着ドキュメンタリー」
「うん」
「これまでちょこちょこ撮っちょった動画とは何が違うが?」
「撮影回数が多くなったり、時間が長くなったり。あと、最終的には20分くらいの動画にまとめる予定だから、単に撮るだけじゃなくて、インタビューしたりもするかも」
「本格的やねぇ」
「うちの映像研は結構ガチ勢多いからね。下の子たちからドキュメンタリー作りたいって話があってさ。それで題材いろいろ検討してたんだけど、最終的にスク部が第一候補に上がったんだよね」
「なんでうちらなん?」
「前の昼休みミニライブからちょこちょこスク部のショート動画撮ってSNSにあげてるじゃん」
「そこまで再生数伸びんかったやつやっけ?」
映像研は、学校の管理のもと、TikTokなどのSNSで学校アカウントとして動画や写真の投稿も行っている。きらりが会長だからかはわからないが、スクールアイドル部については比較的動画を投稿してくれる頻度が高かった。実際、昼休みのパフォーマンス以降、練習風景などのショート動画を積極的にアップしてくれている。ただ、昼休みパフォーマンスの動画はTikTokで1万再生ほどいったと報告を受けたが、他の動画はせいぜい数千再生がいいところだったはずだ。
「それがさぁ、最近じわじわ再生数伸びてきてるんだよね」
そう言いながら、きらりは過剰なまでにデコレーションされたスマホをこちらに差し出してきた。画面を見ると、確かに、どの動画も以前見せてもらった時の倍以上の再生数になっているようだった。
「なんでやろう。ラブライブ!が近いからやろうか」
「わっかんない。フォロワーとかリアクションも少しずつ増えてきてるから、純粋にスク部にファンがついてきてるのかも。でさ、映像研的にも作った動画をいっぱい見てもらえるのは嬉しいんだよね」
「わかる。うちもあんまり動画とか上げんけんど、昔上げた踊ってみたが結構再生された時は、嬉しかったがよ」
当時の深夜は再生数が増えるのが楽しみで、一日に何度も動画の情報を確認していた。あまりに頻繁すぎて、羽南には「もうやめたら?」と呆れられ、最終的には「動画投稿禁止令」まで出される羽目になったのも、今では良い思い出だ。
再生数には抗いがたい魔力があるがよね。
身をもって学んだからこそ、きらりの言っていることはよく分かる。
「だから、せっかくドキュメンタリー作るなら、ちゃんと多くの人に見てもらえるスク部を題材に撮りたいってなったわけ」
「なるほど。なんかそう思ってもらえるんは光栄やね」
「で、大丈夫そ?」
「うち的には全然かまんけんど、一応ノノちゃんと千絵ちゃん先生にも聞いてみんと。まあ、ふたりとも絶対いやとは言わんと思うけんど。昼休みに会うき、聞いてくるわ」
乃々羽が「もちろん大丈夫です!」と即答している場面が、深夜の頭にありありと浮かぶ。
「千絵ちゃん先生には詳細話した方がいいと思うし、アタシも着いて行っていい?」
「ええよ」
「ありがと」
「ふたりで何話してんの?」
お弁当袋を片手に、羽南が机の横に立っていた。
「きらりがうちをモデルに動画撮ってくれるがやって」
「みやちじゃなくてスク部ね」
「へーいいじゃん。完成したら私にもみせてよ」
「YouTubeにあげるつもりだから、はーなんも拡散協力よろ」
「私SNSしてないから」
「SNSしてなくてもリアルで拡散はできるっしょ」
「りよ。後輩とかにすすめとくよ。あ、そだ、みゃー、芝崎が屋上庭園ステージのことで話したいことがあるって言ってたから、またちょっと連絡しといてあげて」
「おっけー」
さらっとした会話のやり取りだけして、羽南はすぐに去って行った。最近の羽南は昼休みも放課後も文化祭実行委員会の仕事で忙しく、文字通り駆け回っている状態だ。今日もきっと実行委員会室でお弁当を食べながら、イベント班の子たちとミーティングでもするんだろう、と深夜は思った。
「うちらも家庭科室行こうかね。きらりはお弁当やっけ?」
「うん。アタシも家庭科室で食べても大丈夫そ?」
「大丈夫!」
そう言って、二人は並んで教室を後にした。
***
「ドキュメンタリーですか!? もちろんオッケーです!!」
家庭科室で待っていた乃々羽の想定通りの即答に、思わず深夜は笑ってしまった。