かがみ川女子高校スクールアイドル部   作:記録部

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Side:乃々羽


2024/10/01:県予選の招待状

「朝練おつかれー」

 

 朝練から教室に戻ってきた乃々羽に、何やら楽しそうに話していた各務とみことが声をかける。その姿を見て、乃々羽は足早に席に戻り、鞄から例のブツを取り出した。少しドキドキしながら、それを手にふたりのもとへと歩み寄る。

 

「各務、みこち、ちょっといい?」

「どしたー?」

「今週末、ラブライブ!の県予選じゃん。それでさ、ふたりが見にきてくれたらなーって思って」

 

 乃々羽は小さなカードを2人に差し出した。

 

「招待状?」

 

 各務がカードに書かれている文字を読み上げる。

 

「うん。まあ、別に県予選はフリー観覧だからホントは招待状なんかいらないんだけどね。みゃー先輩と話して、お世話になった人とか来てほしい人に招待状を渡そって決めたんだ」

「別にオレらスク部のためになるようなこととかしたことかないぞ」

 

 冗談っぽく各務が言う。

 

「お世話になった人カテゴリじゃないって。わたしの来てほしい人って誰かなって考えたときに、真っ先に思い浮かんだのが各務とみこちだったの。ほらさ、友だちにはちゃんとしたスクールアイドルのわたしを見てほしいっていうか……」

 

 乃々羽は自分で言っておきながら、少し恥ずかしくなって、声が小さくなる。そして、「で、これそ?」 と二人から視線をそらしながら、少し濁すように言葉を継いだ。

 

「あったりまえじゃん!! 友だちの勇姿を応援しなくてスクールアイドルオタクなんて名乗れないし!」

「オレも行くよ」

「ホントに!? ふたりが来てくれるの嬉しい! 実は断られるかもってちょっとドキドキしながらこれ作ってたから」

 

 招待状を用意しようと決めたのは、先週の昼休みミニライブが終わったあとだった。深夜と一緒にデザインしたカードに、デコレーションを加え、ひとりひとりへのコメントを丁寧に書き込んでいく。一枚一枚に気持ちを込めて作った分、思ったよりも時間がかかってしまったのだが、それもまた楽しい作業だった。

 

「いやー、こっちこそ、招待状つくってくれてありがと。ファンサ良すぎて、ちょっと完全にかがみ川女子高校スクールアイドル部に落ちたかもしれん……」

 

 みことは鞄から小さなバインダーを取り出し、その中に招待状を丁寧にしまい込んだ。その一連の動作がやけに手慣れていて、まさにスクールアイドルオタクらしいムーブだなと乃々羽は思う。

 推しグッズを大切に扱うように、みことが自分たちの招待状をしまい込んでくれる。その事実に乃々羽は思わず口元を緩めてしまう。こういう風に扱ってもらえるのは、ちょっと嬉しい。

 

「てか、もともとオレら応援に行くつもりだったがよ」

「え、そうなの?」

「オレはみこにしつこく誘われてやけどね」

「みこちが各務誘ったんだ」

「誘ったのはたしかにわたしだけど、各務もフツーに行く気だったじゃん!」

「あれ、みこちってソロ勢じゃなかったっけ? 各務を連れてくのはオッケーなの?」

「わたしは今でもソロ勢だし同担拒否勢だ!」

 

 何が誇らしいのかは乃々羽にはよく分からなかったが、みことは胸を張ってそう答えた。

 

「まあでもさ、この前のミニライブすっごく良かったから。親友があんなすごい頑張ってスクールアイドルやってる訳だし、ちょっとでも自分にできることがあれば力になりたいじゃん。ラブライブ!って関係者観客が多ければ多いほどホーム感あって勝ち抜きやすいって言われてるでしょ。だから、一人でも多くの人連れてかなきゃって思って、各務にも声かけたんだ」

「たしかにこの前のミニライブめっちゃ良かったし、オレも正直スク部のこと気になってたんだよね。で、みこに誘われたから行くよって言ったわけ」

「面と向かって褒められるとちょっと照れるね……」

「この前のミニライブはそれだけのライブだったの! わたし、たまに気づいたらミラミラ歌っちゃってるもん」

「みらみら?」

「ノノたちのオリジナル曲だよ」

「あー、あれなー。めっちゃ良かったよな。オレはどっちかというと踊っちゃってるわ」

 

 そう言いながら、各務が未来ミラーのサビの振りを軽く踊ってみせた。普段はスクールアイドルになんて全く興味がない、どちらかというとがっつり脳筋体育会系の各務が、ちょっと照れくさそうに振り付けを真似してくれるのが妙に新鮮で、乃々羽の口元は自然と緩んでしまう。

 自分たちの曲が、友だちの日常に溶け込んでいる。

 それが、乃々羽にはたまらなく嬉しかった。

 

「出番の時間ってもう決まってる?」

「うん。うちは8番目で昼休憩明けの1発目だったよ。だから13時開始で確定」

「最高の順番だ!」

「そうながや」

「昼休憩の時間でちゃんと準備ができるし、時間がちゃんと分かってるから、かが女だけ見に来たい人にも声かけしやすいから」

「なるほどなー」

「ラブライブ!って、たしか舞台前の座席がパフォーマンスする学校の関係者用座席に指定されてるんだよね。出番ごとにちゃんと入れ替われるように5分くらいは時間とられてるんだけど、実際は途中で席移動したりするのってちょっと気が引けたりするじゃん? 朝イチと昼休憩明けはそういうの気にせず最初から前に陣取れるから、見る側にとって気楽なんだ」

 

 みことの解説をふんふんうなずきながら、各務は熱心に耳を傾けている。

 

「県予選のレギュレーションによると、前4列の100人分くらいが関係者向け座席に設定されてるっぽいよ。まあ、100人も埋められるのは高知じゃセン学くらいだと思うけど」

「100人か……」

「うちだとまだ全然スクールアイドルの文化が根付いてないから、知り合いが2-30人来てくれたら御の字って感じかな」

「学校によってそんなに違うがや。ま、仮に人数が少なくてもオレらがその分しっかり応援するからさ!」

「ラブライブ!ってペンラとかリウムもOKだよね?」

「うん。UO系とか長物系は禁止みたいなレギュレーションはあるけど、普通のやつは問題無く使えるよ」

「ペンラ? リウム? ユーオー?」

 

 聞き慣れない単語の羅列に戸惑う各務に、みことが「こういうのだよ」とスマホの画面を見せて説明する。

 

「色は青とピンクでいい?」

「特に決めてないけど、かが女的にも今回の衣装的にもそうかも」

「色とかあるんだなー」

「学校カラーは決まってるとこ多いよ。高知だとセン学の青が有名かな」

「じゃ、配る用にリウム沢山もってこ!」

「気持ちはありがたいけど、リウムも安くはないから無理しなくていいよ」

「大丈夫! うちの推しアイドルちゃんたちと色かぶりしてるから、実は家にめっちゃ在庫あるんだ!」

「沢山持ってってどうすんの?」

「ペンラ持ってない人に配る!」

「何のために?」

「みんなでペンラふった方が一体感あって楽しいから! それに、舞台から自分たちの色がたくさん見えた方がアイドルちゃんも嬉しいはずだし」

「そうなが?」

「アイドル系はそういう文化だからね。あと、舞台からそろってるペンラの色見ると綺麗だしテンション上がるのはホント」

「そうながや。観戦ひとつとってみても、いろいろあるもんだなぁ。オレ、スクールアイドルの試合見に行くの初めてだから、マジで楽しみになってきたな……」

「せっかくだし、うち以外も見ていってよ! セン学とか体育会系と張り合えるぐらいの練習量だし、絶対各務も気に入ると思う。まあ、今回はセン学は1番手だから朝イチ10時から来なくちゃだけど……」

「わたしは朝イチからラストまでずっといるつもり!」

「どうしよっかな」

「ずっといよーぜー、かーがーみー」

「わーった、わーった。せっかくだし、がっつり見るよ。でも、メインはノノハたちの応援だかんな」

「当たり前じゃん! でも、前列100人ちゃんと埋めたいなー。声かけもっと頑張ろっかな」

「無理しなくていいよ! わたしは、ふたりに来てもらえるだけで十分嬉しいからさ」

「無理はしないけど、もうちょっと頑張ってみる」

「そだな。オレも先輩とかに声かけしてみるわー」

「ありがとね、ふたりとも! 楽しんでもらえるように最高のパフォーマンスみせるから期待しててね!」

 

 乃々羽は週末の県予選に向けて、ますますやる気がみなぎってくるのを感じていた。

 

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