かがみ川女子高校スクールアイドル部   作:記録部

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Side:深夜


2024/10/18:屋上庭園ステージイベントキックオフミーティング

 放課後の家庭科室は、深夜たちがスクールアイドル部の活動場所として使い始めて以来、最も賑わっていた。中間テストから解放された影響もあるのか、先ほどから和気あいあいとした空気が漂っている。

 家庭科室にいるのはステージイベントに登壇するパフォーマーたちと、運営を補佐してくれる生徒会の面々。屋上庭園ステージイベントのキックオフミーティングのために集まってもらったのだった。

 

「みんな集まったみたいやし、そろそろ打ち合わせを始めようか」

 

 深夜が声をかけると、ざわめいていた部屋が一瞬で静まり返り、全員の視線が集まる。顔なじみばかりとはいえ、一斉に注目されると少しだけ緊張感が身を包む。

 

「お互い知っちゅう人も多いろうけど、まずは自己紹介からはじめようか。グループで来ちゅうとこは多くなりすぎると訳わからなんなるき、とりあえず代表だけの挨拶で。じゃあまずはうちらから。3年でスクールアイドル部部長の東雲深夜です。一応、屋上庭園ステージイベントのとりまとめさせてもらってます。あと、スクールアイドル部はパフォーマンスします! よろしくねー。じゃあ時計回りでいこっか」

 

 深夜が軽く頭を下げると、会長が続く。

 

「生徒会長の水無月亞里洲(みなづきありす)です。生徒会はステージには立ちませんが、運営をお手伝いさせてもらいます。何か困ったことがあればいつでも声をかけてください!」

 

 続いて、雅が緊張した様子で立ち上がる。

 

「ふ、服飾部部長の、み、宮下雅です。リビルドをテーマにしたファッションショーをやる予定です。みなさんにはモデルとしてもご協力いただけると聞いてます……よ、よろしくお願いします」

 

 雅の声は少し震えていたが、部屋にただよう和やかな雰囲気がそれを受け入れる。

 雅に続くのはアスカだ。二学期になって、夏休み中の派手な髪型から一転して、ちょっとだけインナーカラーがのぞく程度の控えめなスタイルにシフトチェンジしてる。とはいえ制服のちょっとした着崩しだったり、スクバのアレンジだったりと、細部にはロック魂を宿し続けているようだった。

 

「2年の西アスカです。Re-Ariseってバンドでギタボやってます。オリ曲メインのライブをやる予定でーす」

 

 アスカの近くにはRe-Ariseのメンバーたちが集まっている。仲良し5人で組んだバンドだというのでアスカと似たような雰囲気の子が多いのかと思っていたのだが、実際会ってみるとむしろ真面目そうな雰囲気の子たちだったので、想像とのギャップに深夜は少し驚いた。以前、アスカに聞かせてもらった曲はかなりロックなものだったので、彼女たちが実際にステージ上でどんな姿を見せてくれるのか、今から文化祭が楽しみになる。

 

 最後に挨拶のために立ち上がったのは、さっき家庭科室にひょっこりと現れた1年生、日置(ひおき)(くらら)だった。掲示板にはっていたパフォーマー募集ちらしを見てやってきたのだという。

 

「1年の日置空です。ジャグリングやっていいって聞いたので、カチコミにきました」

 

 おかっぱ風に切り揃えた黒髪とちょっと表情の読めないのっぺりした顔が、日本人形を想起させる。

 彼女はおもむろに立ち上がると、鞄からお手玉を取り出して、ポンポンと放り投げた。ぱっと見ではいくつあるかわからないくらいたくさんのお手玉が、8の字を描いて宙を舞う。その鮮やかな手さばきに、拍手が自然と湧き起こる。

 

「よろしくです」

 

 と、短く挨拶をすると、空はお手玉を鞄に戻して席に着いた。

 

「もしかして、これだけ?」

 

 アスカの声には少しの驚きが混じっていた。

 

「そうながよ」

「これじゃあスクールアイドル部と愉快な仲間たちじゃん。ジャグラーちゃんを除いたらだけど」

 

 アスカの言葉に、空はすかさず反応する。

 

「身内空間に空気を読まずにやってきたジャグラーちゃんです」

 

 何食わぬ顔で両手でピースを作りつつ空はそう言い放った。その軽妙な返しに、ちょっとした笑いが起きる。見知らぬ上級生ばかりだというのに物怖じひとつしていなさそうな彼女に、深夜はただならぬ大物さを感じていた。

 

「全然ええがよ! 別に身内だけでやっちゅうイベントちゃうきね。たまたまそうなっただけで。ホントは他にもステージイベント応募してて落ちた子らにも声かけたがやけどねぇ……」

 

 深夜は少し苦笑しながら答える。

 他にパフォーマーが集まらなかったのは、ラブライブ!予選や中間テストでドタバタしていたせいで勧誘にあまり力を入れられなかったのは要因のひとつではあるのだが、本質はむしろ別のところにあるようだった。みんな声をかけると一定の興味を示してはくれたのだが、準備や片付けなど含めてみんなでステージを作っていくという話をすると、労力に見合わないと敬遠されてしまったのだ。

 

「うちとしてはもうちょいたくさん集めて、お祭りにしたかったがやけどね」

「初めての試みですし、これくらいの規模感と身内感の方がコントロールしやすくて結果的によかったんじゃないですか?」

 

 会長の言葉に、「わ、わたしも知ってる人が多くて助かります」と雅が少し安心した様子で付け加えた。

 

「ま、今年うまくいけば、来年はやりたいって言ってくれる人も増えるんじゃない?」

 

 確かに初回からパーフェクトを目指すのは欲張りすぎかもしれない。アスカの言うように今回がうまくいけば、来年以降文化祭ではスクールアイドル部が屋上庭園ステージイベントを主催するというフォーマットが定着する可能性は十分ある。

 そう考えると今回の規模感は案外ベストなのかもしれない。

 

「東雲先輩、私からイベントの概要について説明しても大丈夫ですか?」

「よろしく!」

 

 会長が立ち上がると、書記の子が素早く教室前のホワイトボードに向かい、他の生徒会メンバーたちは手際よく資料を参加者たちに配り始めた。流れるような一連の動きは、非常に洗練されていて気持ちが良い。言葉を発さなくても互いに通じ合っていることがひしひしと伝わってくる。

 深夜はその洗練されたプロフェッショナルな姿に改めて感心していた。

 

「それでは、みなさんお手元の資料をご覧ください。ここには、イベントの成り立ちや概要、注意事項などが書かれていますので、確認してくださいね」

 

 会長の落ち着いた声が教室に響き、全員が資料に目を落とす。A4サイズの用紙には、ステージイベントの概要や注意点が分かりやすく整理されていた。生徒会が準備した資料は無駄のない言葉でまとめられていて、一読するだけで全体の流れが理解できた。

 

「まず、当日についてですが、文化祭の両日とも12時から14時の間に屋上庭園でイベントを行います。プログラムは1日目と2日目で同じ内容を予定しています」

「1日目と2日目で内容を変えちゃダメってことですか?」

 

 会長の説明に、空が質問を投げかけた。

 

「いえ、そういうわけではありません。ちょっと説明がわかりにくかったですね。同じ内容というのは、各グループが両日ともパフォーマンスするという意味です。動線を簡潔にするため、パフォーマンスの順番も両日同じにしたいと考えています。もちろん持ち時間の枠内に収まるのであれば、演目の内容を1日目と2日目で変えていただくことは構いません。ただ、大幅なセッティング変更を要するような変更は避けていただけると助かります」

「1日目と2日目に分けずに両日同じメンバーでやる理由ってあるの?」

 

 会長は少し困ったような表情を見せたが、丁寧に答える。

 

「はい、それには理由がありまして。屋外ステージなので、天候によってはパフォーマンスが中止になる可能性があります。万が一、1日目に雨が降って中止になってしまった場合に、2日目が予備日になるようにしているんです」

「ふ、二日目も雨が強かったらどうなりますか?」

 

 緊張した面持ちで雅が質問する。

 

「1日目が雨で中止になって、2日目も雨が降ってしまった場合は、家庭科室(ここ)を予備の会場として使用します。ただ、その際は皆さんに演目の規模を縮小していただくことになるので、あらかじめご理解いただけると助かります。あと、朝は天気が良くてもにわか雨が降ったりする可能性もゼロではないので、当日になって突然の演目の中止や変更などが発生するかもしれません。もしご家族やご友人が見に来られるようでしたら、あらかじめ雨が降った場合のことを伝えてください」

「予定時間は雨が降ってるけど待ってたらやんだ場合、時間を変えて屋上庭園でやるのは無理ですか?」

「そうしたいのはやまやまなんですけど、時間帯が12〜14時なのにはふかーい理由があるんです……」

 

 空の鋭い指摘に会長は一瞬言葉に詰まって、ちらちらと深夜の方に目線を向けてきた、すぐに深夜がその意図を汲み取って口を開く。

 

「まあ簡単に言うと、文化祭実行委員会の顔を潰さんためやね」

「顔を潰す?」

 

 事情を知らないアスカが怪訝そうな顔をする。

 

「それ以外の時間帯やと大講堂でステージイベントやっちゅうがよ」

 

 アスカが「あー、なるほど!」と大きな声を出した。どうやら事情を理解できたらしい。背景を知らない空はまだよくわからないのか、変わらずこっちをじっと見つめている。

 

「うちら大講堂イベント落ちたがやのに、裏技つこうて文化祭でのパフォーマンスにこぎつけたみたいもんやき。もともと実行委員会に目をつけられちゅうがよね。大講堂で他のパフォーマンスが行われている時間に、こっちが同時にステージをやりよったら、流石に向こうに真正面から喧嘩ふっかけることになるきね……」

「なるほど。政治の話ですね」

 

 空が独特の言葉使いで返してくる。

 

「それに屋上庭園は通路としても重要な役割も果たしていますから、なるべくパフォーマンス時間を固定してほしいという要望も実行委員会から来てるんです」

「理解しました。では、パフォーマンスの時間はどれくらいになりますか?」

「2時間で4組ですから、1組あたり20分くらいの時間配分を考えています。ですが、入れ替えやセッティングの時間もあるので、実際にはもう少し短くなるかもしれません」

 

 会長が再度確認するように、全体を見回す。

 

「他に質問がある方はいらっしゃいますか?」

 

 特に手が挙がることもなく、メンバー全員が静かに頷いた。

 

 屋上庭園ステージイベントの運営について、ここまで生徒会が主導して計画を進めてくれたおかげで、イベントの全体像がかなりクリアになってきた。深夜は生徒会に対して感謝の念を抱きつつ、同時に彼女たちの手際の良さに頼もしさを感じていた。

 

「それでは、ここからは具体的なスケジュールや必要な機材の確認、準備や片付けなど細かな部分を決めていきたいと思います。まずは各グループから、パフォーマンス内容について詳しくお話しいただけますか?」

 

 みんな無言で頷いた。

 

「じゃあ、スクールアイドル部さんからお願いします」

 

 会長の呼びかけに、深夜と乃々羽は立ち上がった。

 

「よっ、ラブライブ!高知県代表!」

 

 アスカの掛け声とともに、たくさんの拍手が一斉に響いた。ちょっと照れくさいけど、それ以上に仲間たちに祝福される嬉しさが深夜を包み込む。

 あたたかい拍手に包まれながら、改めてこのメンバーで屋上庭園ステージイベントを成功させたいという思いが、深夜の中で強くなっていくのをひしひしと感じていた。

 

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