かがみ川女子高校スクールアイドル部   作:記録部

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Side:深夜


2024/11/03:文化祭Day2

「屋上庭園ステージイベント、開幕です!」

 

 会長の声が屋上から空へと抜け、少し遅れて拍手が広がっていく。

 深夜たちはファッションショーの出番を待ちながら、新校舎側の入り口近くで待機していた。家庭科室から屋上庭園に続く廊下一帯は控え室として扱われ、今は通行止めになっている。その廊下には衣装に着替え終えた出演者たちが待機しており、活気に満ちていた。

 

 窓越しにのぞく空は、雲一つない青天で昨日の大雨が嘘のようだ。先ほどステージの最終確認をした際、心地よい風が通り抜けていて、屋外でのイベントには最高の天気だった。

 

 午前中にセッティングした舞台を取り囲むように、屋上庭園にはすでに多くの観客が詰めかけている。屋上庭園だけでない。反対側の旧校舎の窓際にも、こちらを興味深そうに見ている人たちの姿があった。

 屋上庭園だからこそできるレイアウトをという提案が通り、今回のイベントではどこからでも見やすいようにセンターに舞台(ステージ)が設置されている。

 

「いっぱい人が来てくれて良かったですね」

「朝からみんなでビラ配ったり宣伝したんが効いたがかねぇ」

「お昼時だと人が来ないかもってちょっと心配だったんですけど、杞憂でしたね」

 

 隣に立つ乃々羽の声は、心なしか弾んでいる。深夜も乃々羽も、ファッションショーに備えて既にラブライブ!用の衣装に着替え済みだ。

 

「いよいよだよな」

 

 前で待っているアスカの声は、わずかに震えていた。

 

「雅ちゃんが緊張するのはわかるけど、なんでアスカ(アンタ)が緊張してんのよ」

「モデルなんかやったことないんだから緊張したっていいだろ!」

「まー、アスカはいつもみたくクールぶって、すまし顔で歩けば大丈夫だよ。ほら、くらちゃん見てみな?」

 

 Re-Ariseの面々の視線が、屋上庭園へと続く扉の前で仁王立ちしている空に注がれる。

 空はジャグリングボールをぽんぽんと放り投げていて、白の無地Tを大胆にカスタマイズしたショート丈のノースリーブのトップスからは、細い二の腕や引き締まったお腹がちらちらとのぞいている。短いサスペンダーでつられたパンプキンパンツには幾重にもフリルが施されていて、白のニーハイとの間にくっきりと絶対領域を形成していた。足元にはカラフルなリボンで飾られた白いスニーカーとパステルカラーのレッグウォーマーが踊っている。全体的に明るくポップな雰囲気で、動きやすさと可愛らしさを兼ね備えた、ジャグラー日置空にぴったりの装いだった。

 

「へいじょーしん、ですぜ。西の旦那」

 

 そう言いながら、空はVサインをアスカに向ける。

 

「屋上庭園ステージイベントトップバッター。服飾部によるファッションショーの開幕です!」

 

 会長のアナウンスに続いて、スピーカーから音楽が流れ始める。今回のファッションショーのイメージを基に、アスカたちが選曲した少しロックなそれでいてオシャレ感のあふれる洋楽が屋上庭園に響き渡る。少しハスキーな女性ボーカルの歌声が、「ファッションショー」という雰囲気を場に広げていく。

 

「かがみ川女子高校の中でも特に歴史のある服飾部が、部員0名になったことで休部となったのは3年前。それ以来、文化祭の花形だった服飾部ファッションショーも幕を閉じていました。しかし、その伝統が、今日ふたたび、かがみ川女子高校文化祭で復活します! 新進気鋭のファッションデザイナー、かがみ川女子高校服飾部部長──宮下雅が彩る世界を、どうぞご堪能下さい!」

 

 会長のアナウンスが終わるや否や、空が勢いよく屋上庭園へと飛び出した。いつも通りのひょうひょうとした雰囲気でセンターステージへと続くランウェイを歩いていく。

 センターステージにたどり着くと、手にしたジャグリングボールを軽やかに操り、パシッとポーズを決めてみせた。

 歓声と拍手が、屋上庭園から聞こえてくる。

 

「トップバッターは1年生ジャグラー、日置空! その身にまとっている衣装のベースは、なんと部屋着。大胆なアレンジを施されて生まれ変わった部屋着が、衣装として新たな華やかさを魅せてくれます」

 

 続いて、Re-Ariseの面々がアスカを筆頭に屋上庭園へと繰り出していく。さっきまでの緊張がどこへ消えたのか、アスカは堂々と胸を張ってランウェイを歩いている。その凛々しい姿に、観客から黄色い歓声が上がった。

 

「続いて登場するのは、幼馴染み2年生5人組バンド──Re-Arise! 今回のファッションショーのテーマはリビルド。Re-Ariseが身にまとうのは、彼女たちのバンドTシャツをカスタマイズし、各々の個性を反映したファッションとしてのバンド衣装です」

 

 アスカがセンターステージにたどり着いたのを確認し、深夜もランウェイへと歩を進める。一歩ふみだすと、扉越しにみていたときとは異なり、観客の熱気がダイレクトに伝わってきた。

 センターステージから戻ってきた空、アスカたちとすれ違い、深夜はセンターステージにたどりつく。

 

「続いては、かがみ川女子高校に今年誕生したスクールアイドル部! 先日行われた県大会でも身にまとったラブライブ!用衣装で登場です。この衣装、なんと、一からすべて宮下さんの手で作られたたものになります。ベースのイメージは当校の制服。制服をリビルドしてつくられたスクールアイドル衣装。学校の象徴──スクールアイドルにふさわしい装いとなっています!」

 

 センターステージで深夜と乃々羽は並び立つ。ぐるりと客席を見渡すと、見知った顔が多くいた。クラスメイト、先生、スクールアイドル部を応援する生徒たち──中には熱心にカメラを向ける映像研の面々(きらりとみこと)の姿もあった。その中に、深夜は羽南の姿を見つける。その側には、芝崎を筆頭に文化祭実行委員会イベント班メンバーが並んでいた。食中毒がそれほど酷いものでは無かったことが幸いして、今日はほとんどのメンバーが復帰できたらしい。彼女たちは音楽にあわせて手拍子や声援をおくっていて、ステージを盛り上げてくれているようだった。これが彼女たちなりのお礼の表現なのかもしれないな、と深夜は思う。

 

 歓声を背に受けながら、深夜はランウェイを新校舎へと戻っていく。続いて歩いてくる生徒会メンバーの向こうに、扉越しにじっとこちらを見つめる雅の姿が目に入った。隠し球の着付けが完了したのだろう。

 

 ランウェイを通り抜けたところで、深夜は雅にねぎらいの言葉をかけようとしたが、その目に宿る輝きを見て思いとどまった。キラキラとランウェイとステージを見つめる彼女の姿──この瞬間、この世界に浸るのは彼女だけの特権だ。それを邪魔するほど、深夜は無粋ではない。

 同じく屋上庭園から戻ってきた乃々羽と軽くハイタッチを交わし、ファッションショーの続きを見るために深夜は再び屋上庭園へと視線を向けた。

 

 ***

 

 あっという間にファッションショーは終わりを迎える。

 今は隠し球として登場した千絵ちゃん先生と校長先生が、センターステージで今日一番の歓声を受けていた。二人が着ているのは、かつての服飾部ファッションショーで披露された衣装をリビルドしたもので、そこには雅のリスペクトと意思が込められているように深夜は感じた。

 

「最後に、今日の登壇者をもう一度全員ご紹介します。まずはステージ上にいる須藤先生と校長先生!」

 

 少し恥ずかしそうにポージングする千絵ちゃん先生と、背筋をシャキッと伸ばしてノリノリでポージングする校長先生。その対照的な姿に、観客の歓声もひときわ大きくなる。

 

 コールと拍手に応えて、次々と登壇者たちが舞台に集まってくる。深夜も再び屋上庭園へと繰り出し、ランウェイの新校舎寄りに立った。雅の作った衣装をまとった屋上庭園ステージイベント班のメンバーたちがステージからランウェイまでびっしりと並び、華やかな光景が屋上庭園に広がっている。

 

「そして、このファッションショーを作り上げた服飾部部長──宮下雅!」

 

 マイク片手にステージに上がっていた会長の声にあわせて、屋上庭園の入り口に雅がすがたを現す。

 屋上庭園ステージイベント班Tシャツを着た雅が一礼すると、拍手が一段と大きなものになった。その大きな拍手に少しだけ体を震わせたように見えたが、顔を上げた雅の表情は晴れやかだった。いつものオドオドとした雰囲気はそこになく、雅は堂々とランウェイを歩いてステージに向かって歩き始める。

 

 ステージにたどり着くと、雅は四方に向かって深々とお辞儀をした。

 会長から手渡されたマイクを口元に近づけ雅がゆっくりと口を開くと、拍手がいったん静まる。

 

「服飾部部長の宮下雅です。本日は、わたしたちのファッションショーにお越しいただきありがとうございました。中学1年生の時にこの文化祭で服飾部のファッションショーを見たのが、わたしが洋服づくりをはじめたきっかけです。かがみ川女子高校に入ったら自分もファッションショーをやりたいと思っていましたが、服飾部が休部になってしまっていたことで、その夢を一度は諦めかけました」

 

 そこで雅は一瞬間を置き、感謝の気持ちを込めるように言葉を続けた。

 

「それでも……壇上にいる仲間たちの力を借りたおかげで、わたしが憧れていたかがみ川女子高校の服飾部ファッションショーを、こうして復活させることができました! わたしたちのファッションショー、楽しんでいただけましたか?」

 

 拍手が沸き上がる。

 

「ありがとうございます! このあとは、この最高の仲間たちが最高のパフォーマンスを披露してくれます。どうか最後まで、屋上庭園ステージイベントを楽しんでいってください!」

 

 雅がもう一度深々と礼をすると、それに続いて深夜たちも揃って礼をした。観客からの拍手はさらに大きくなり、一度収まりかけてはまた湧き上がり、屋上庭園は熱気と歓声で満ちている。

 

(あの時、みやびぃに声かけてよかった)

 

 心の中で静かにそうつぶやき、深夜はあの夏の日を思い出しながら、青空を見上げた。

 今日、この屋上庭園で共有した瞬間は、きっと仲間たちとの思い出としてこれからも胸に刻まれていくのだろうという確信があった。

 

(さ、次は空ちゃんのジャグリングやね!)

 

 深夜はわきあがる高揚感を胸に、拍手に応えながら屋上庭園をあとにした。

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