かがみ川女子高校スクールアイドル部   作:記録部

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Side:深夜


2024/11/17:地方大会まであと1週間

「つかれたー」

 

 深夜は家庭科室のテーブルに突っ伏した。向かいではきらりが素早い指さばきでスマホを操作している。今日撮った動画を編集しているようだ。

 丸一日かけて行われた地方大会に向けたテレビ局との打ち合わせがようやく終わって、深夜は疲労困憊だった。とはいっても、映像に関することは、きらりたち映像研がしっかりサポートしてくれたので、深夜たちは少し意見を出す程度で済んだのだが。

 

「お、みやちが疲れてるのめずらし」

「はじめてのことばっかやったきねぇ。きらりがおって助かったがよ」

 

 深夜は今日一日を振り返る。

 まず驚いたのは、やってきたスタッフや機材の多さだった。地方大会のパフォーマンスをラブライブ!協賛のテレビ局が映像配信することは知っていたが、もっと簡易的なものだと思っていたのだ。当日はさらに人も機材も増えるらしい。

 はじめはその本格さに圧倒されていた深夜だったが、「サッカーとか野球も地方大会レベルだとがっつり中継されてるじゃないですか。それと一緒ですよ」と乃々羽に言われ、腑に落ちた。言われてみると、ラブライブ!県予選でもカメラが入っていてかが女のパフォーマンスが夕方のニュースで少しだけ放映されていたので、地方大会レベルになるとこれくらいは当たり前なのかもしれない。実際に地方大会はオンタイムではないものの、高知県代表校(かが女とセン学)のパフォーマンスが、当日夕方のニュース枠でフル尺で放送されるという。

 

(ラブライブ!ってホントにすごい大会ながやね)

 

 スクールアイドルとラブライブ!という市場の大きさを深夜は改めて実感していた。

 

「テレビ局の人たち、やる気ある人たちで良かったねー」

 

 きらりは手元の名刺をくるくると回しながら、つぶやいた。乃々羽もポケットからもらった名刺を取り出し、そこに書かれた地元テレビ局名とディレクターという肩書きを見つめる。撮影の指示を的確に出していたディレクターは、Tシャツにジーンズとラフな格好ながらも堂々としたオーラをまとっていた。

 

「ディレクターさんが千絵ちゃんの知り合いとか、世間せますぎん?」

「それなー。セン学で同級生だったんだっけ」

「そーそー。同じスク部やったがやって」

 

 ディレクターと話している時の千絵ちゃん先生は、今まで見たことがないくらい自然な様子だった。もしかしたら、アレが先生の殻を脱ぎ捨てた「須藤千絵」本来の姿なのかもしれない。深夜は先生のスクールアイドル時代の写真や動画は見たことはなかったが、楽しげにやりとりする二人の様子から、彼女たちがスクールアイドルとして一緒に活動していた頃の姿がぼんやりと脳裏に浮かんだのだった。

 

「スクールアイドル部のことわかってる人がディレクションしてくれるのはありがたいよね」

「しかも、めっちゃアツい人やったきねぇ。帰り際も『最高のステージをしてくれたら、それを最高の形で伝えるから任せてね!』って言いよったし」

「映像の作り手としてそう言い切れる自信に憧れるなー」

 

 きらりの気持ちは深夜にも少しわかる。御代やはじめのような強豪校の仲間(ライバル)たちとやりとりする際、彼女たちから「全国決勝大会のステージに立つ」という強い自信を感じとることがある。それが羨ましくもあり、そこにいたれていない自分がもどかしくもあるのだ。深夜もこの半年一生懸命努力してきたものの、正直なところまだ道半ばだと感じている。

 

「うちら、きらりたちのドキュメンタリー楽しみにしちゅうよ」

「それは任せて! 映像配信じゃテレビ局にはかなわないけど、みやちたちのドキュメンタリーは絶対にいいもの作るからね。あとさ、地方大会直前に二人のインタビューも撮りたいんだけど、どう?」

「インタビュー?」

「うん。言葉じゃないと伝わらない部分もあるからさ」

「うちはええよ。ノノちゃんにも聞いてみよっか」

 

 深夜は準備室の近くで一年生たちと談笑している乃々羽に呼びかけ、インタビューの件を簡単に伝える。

 乃々羽は二つ返事で了承してくれた。

 

「助かるー。みやちにはきらりがインタビューするし、乃々羽ちゃんにはみことがインタビューするから」

 

 それなら確かに緊張せずに話せそうだと、深夜はホッとする。

 

「じゃあ、来週金曜日の放課後でよろしくー」

「おけー。来週、来週かぁ……」

「どしたん?」

「もう地方大会まで1週間きったんだなって思って」

「今さらー?」

「なんか県大会おわってから、やけに時の流れがはやい気がするがよ」

 

 オレンジホールのステージに立ったのがついこの間のことのように感じるが、それすらもう一月以上も前の話になるなんて深夜には信じられない。特に文化祭以降、時間が過ぎるスピードがさらに加速したような気がしていた。周りの空気も地方大会に向けたものにガラッと変わったからかもしれない。

 

 そんなことを考えながら部屋の後ろに目を向けると、ステージ衣装を熱心にいじっている雅の姿が目に入る。深夜にはすでに完璧に見える衣装だったが、雅はまだ納得がいかないらしい。なんでも、屋内ステージで照明を受けることを想定して作っていたため、屋外では少し控えめに見えてしまったのだという。

 

 雅の横では、雅の手つきを興味津々という表情で、今や服飾部の一員となった空が見つめていた。文化祭の翌日に「たのもー」と入部届を片手に家庭科室にやってきた空に、その場にいた全員が驚かされたことを思い出す。ファッションショーを通して、自分も服を作ってみたいと思ったのが入部の決め手になったらしい。

 最初は全然性格の違う二人がうまくやれっていけるのか少し心配したのだが、杞憂にすぎなかったようだ。雅と空はずっと前から二人でやってきたかのような雰囲気で作業を続けている。人見知りの雅とそれを気にしない空のコンビは、思いのほか相性が良かったらしい。

 

 協力してくれているのは雅たちだけではない。今日は家庭科室にはいないが、Re-Ariseのメンバーも宣伝活動をメインに手伝ってくれている。深夜は知らなかったのだがRe-AriseにはそれなりのSNSフォロワーがおり、彼女たちの協力のおかげで学校公式TikTokの再生数も一段伸びたと、きらりが笑顔で語っていた。

 

 さらに、生徒会や文化祭実行委員会も設営や運営の準備を進めてくれている。文化祭実行委員会のメンバーを加えた新生屋上庭園ステージイベント班は、今では「ラブライブ!地方大会準備会」と名乗っているのだと、生徒会長が胸を張って話していた。

 

「みんな来てくれるろうか」

「当日?」

「最近、誰も来てくれん夢みるがよ」

 

「みやちにもそんな繊細メンタルあるんだ」と、きらりがけたけたと笑う。

 

「うちらの出番、ちょっと中途半端な時間やき、どうかなって思って」

「本番はみんな見に来てくれるんじゃない?」

 

 地方大会自体は13時から始まるが、かが女の出番は18校中10番目の15時。観覧に来てくれる人たち向けには、14時半の集合を呼びかけている。

 

「それよりきらり的には、終わったあと結果発表までけっこう時間があるのが気になるとこなんだよね」

「結果がどうあれ、見に来てくれた人とは結果を分かち合いたいけんどねぇ」

 

 結果発表は屋上庭園ではなく、みんなで配信映像を見られるように、講堂でスクリーンに配信を投影する予定になっていた。深夜たちも他校の採点をしなければいけないので、自分たちの出番の前後を除けば基本的に講堂で待機することにしている。

 本番から17時の結果発表まで約2時間の間が空くため、採点の合間をぬって講堂で写真撮影会やサイン会を企画しているが、それがどれだけ来場者たちにとって魅力的なのかは深夜にもわからない。

 

「うちももっと宣伝頑張らんとね」

 

 自分たちのパフォーマンスが地方大会を勝ち抜けるレベルかどうかの自信はなかったが、深夜には「かが女の子たちが一緒に楽しんでくれるものになっている」という確固たる自信があった。

 

 その楽しさを、一人でも多くのかが女関係者たちと共有したい。

 来てくれたみんなの思い出になるような、最高に楽しい時間を作り上げたい。

 それこそが、三年間過ごしてきたかがみ川女子高校に対して深夜ができる、唯一の恩返し。

 

 だからこそ、一人でも多くのかが女関係者に地方大会のパフォーマンスを見に来てもらいたかった。

 

「じゃ、まずはショート動画一本とっとこっか?」

「まかせて!」

 

 きらりの明るい声に背中を押されるように、深夜は体を起こして背筋を伸ばした。

 あと1週間、自分たちにできることはすべてやる。

 深夜は静かに心の中で決意を新たにした。

 

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