かがみ川女子高校スクールアイドル部   作:記録部

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Side:乃々羽
サブタイトル:Step! ZERO to ONE


2024/04/22:かがみ川女子高校スクールアイドル部始動!!

「じゃじゃーん」

 

 深夜が取り出した紙には大きく「スクールアイドル部」と書かれていて、深夜と乃々羽をイメージしたかわいらしいデフォルメキャラが文字の周りを踊っていた。

 深夜は養生テープで用紙を扉に貼りつける。

 

「みゃー先輩が描いたんですか、このイラスト?」

「うち、イラスト描くの得意なんよね」

「かわいいですね!」

 

 褒められた深夜は嬉しそうにワハハと口元をゆるめる。屈託のない笑顔に乃々羽は一瞬みとれてしまう。

 

 みゃー先輩の笑い方、癖になるなぁ。

 

 紙を貼り付けると深夜はゆっくりと扉から離れて、胸を張った。

 旧校舎の最奥。3階階段上の存在をわすれられてしまったかのように古ぼけた、物置部屋。今日からここがかがみ川女子高校スクールアイドル部の部室になる。

 

 須藤先生が顧問を引き受けてくれてから、スクールアイドル部承認までの流れは想像していた以上にスムーズだった。生徒会長が言うには、書類を提出すると先週末の職員会議では特に反対意見もでることなく一瞬で認められたらしい。

 

「2024年4月22日。かがみ川女子高校スクールアイドル部、活動開始やね!」

 

 深夜はスカートのポケットから先ほど職員室で受け取った鍵を鍵穴に差し込んだ。カチャリと音がして鍵が開く。深夜がゆっくりと扉をスライドさせると、長い間使われていなかったせいなのか、扉はガタガタと音を立てて開いた。

 扉が開いた瞬間にほこりやカビの混ざったようななんとも湿っぽい匂いが、乃々羽の鼻をついた。

 

 う、これは結構ちゃんと掃除しないとダメなやつかも。

 

 深夜がためらいなく部屋に入って行ったので、一瞬だけためらったものの乃々羽もあとに続いた。室内に入ると匂いはさらに強くなった。

 部屋はだいたい4畳程度。物置ということだったのだが、置かれていたのは椅子が何脚かと、長机が一つ、それに何が入っているかわからない段ボール箱が何箱か程度だった。たいした量の荷物ではなかったけど、もともとの部屋が狭いせいで、深夜と乃々羽が室内に入るとほとんどスペースはなくなってしまった。

 電気のスイッチを押してみるが、電球が切れてしまっているのか明かりがつくことはなかった。

 

「椅子と机は使えそうやね」

「段ボール箱には何が入ってそうですか?」

 

 段ボールを開けると、本やなにに使うのかよく分からないような小道具がぎっしりと詰め込まれていた。風通しが悪かったせいか、多くがカビてしまっていて、乃々羽は触りそうになった手を思わず引っ込めた。

 

「カビがはえちゅうねぇ。これ捨ててええやろうか?」

「こうなるともう使いようはないと思うんですけど、一応先生に確認しないとダメですよね」

「そうやねぇ。じゃあ、うちが段ボールについて聞いてくるから、ののちゃんは段ボール以外の掃除やっちょいてもらえる」

「わかりました!」

 

 深夜と一緒に部屋をいったんあとにして、掃除用具一式を持って乃々羽は部室に戻ってきた。とられて困るようなものがないので扉は開けっ放しにしていたけど、部屋の匂いはほとんど変わっていなかった。

 

 まずは換気しないとかな。

 

 幸い部屋の奥には少し高いところに小さな窓がついていた。ぞうきんで拭いて綺麗にした椅子を足台にして、ようやく手が届くくらいの高さのすべり出しの窓をぐっと押し開けると、雨と海の匂いの混ざった外の空気が一気に部屋に流れ込んでくる。窓を開けたら空気の流れは良さそうで、乃々羽はほっとする。

 

 ****

 

「すっきりしたねぇ」

 

 部室が綺麗になった頃にはあたりはすっかり暗くなっていた。付け替えて新品になった電球が煌々と部屋を照らしている。

 1時間以上換気したおかげで最初ほど匂いはしなくなったものの、それでも長年こびりついたすえた匂いは一朝一夕でなくなるようなものでは無かった。

 

「部室って秘密基地みたいでわくわくせん?」

 

 机1つとと椅子2脚だけの殺風景な狭い部屋。

 それでも「私たち」だけの部室だ。

 

「色々持ってきて、少しずつ良い部屋にしていきたいね」

「まずは消臭剤ですね」

 

 うんうん、と深夜もうなずいた。

 

「練習用品も少しずつ揃えたいですね」

「たとえば、何がいるんが?」

「基本的にはスマホがあればだいたいのことはできるんですけど、やっぱりスピーカーとかはあった方がいいと思います」

「うちにワイヤレススピーカーあるからそれ持ってこようか」

「是非お願いします! あと、鏡はあると便利ですね。リアルタイムで自分の動きを把握できるので、ダンス練習の効率が上がるんですよね」

「鏡ねぇ……さすがにうちにはあまっちゅう鏡はないかな。どっか校内であまっちゃーせんやろうか」

「鏡って余ってますかね……?」

「聞いてみんとわからんねぇ」

「買うとなると結構高いんですよね、鏡。特にダンス練習で使えるくらいの大きなやつだと、かるく数万円くらいしたりします」

「数万円!? ホントに必要やったらバイトしてお金ためるしかないかねぇ」

「効率はちょっと落ちちゃいますけど、スマホで動画撮って見なおすのでもある程度はできますし、当面は鏡無しでいきましょうか」

「了解。じゃ、今日あとはどうしよっか。ゆうても、もう下校時間やき、何かするには時間がないがよね」

「なら、軽く当面の活動方針について話しませんか?」

「そうやね。まずは何を決めないかんかね」

「最初に練習日と練習時間を決めませんか?」

「とりあえずは、月・水・金の放課後でどうやろうか」

「月・水・金ですか?」

 

 深夜の提案に乃々羽は思わず聞き返してしまう。

 

「火・木は放課後に受験対策演習があるがよ。終わるのが17時くらいになるき、さすがにそこから練習はきついがよね」

 

 乃々羽は「朝練とか昼練とかやりようはいくらでもありますよ」と言いそうになるのをぐっとこらえた。

 

「土日はどうしますか?」

「土日って学校あいちゅうがやろうか。まあ、空いちゅうとしても、最初は大会とかあるわけでもないし、土日まで練習せんでええがやない?」

「雨が降ったらどうします?」

「屋上庭園でやるがはむりよねぇ。とりあえず部室集合で何するか考えようか」

 

 ワハハと深夜は笑った。

 

 適当だなぁ、と少しあきれたあと、乃々羽ははっとする。

 

 かが女(ここ)清学(あそこ)じゃないんだ。むしろ、土日も天気も関係なく、毎日、朝・昼・放課後、練習するのが当たり前だった中学時代がむしろ特殊だったんだよね。

 楽しくやるのが一番。それもスクールアイドルだし。競技としてじゃなくて楽しくスクールアイドルするのが、一般的なスク部だし。せっかく一からまたスクールアイドルをやりなおすんだから、楽しくやらないとね。

 

「ということで天気にかかわらず、月・水・金の放課後はとりあえず部室集合やね」

「わかりました」

「それで、最初は何から活動はじめようか」

「みゃー先輩は完全にスクールアイドル初心者ですよね?」

 

 深夜はうなずいた。

 

 清学だと初心者はまずはみっちり基礎練だったけど、あれは「ラブライブ!優勝!」ってモチベーションが部内に浸透してたからだよね。

 

「なら、最初はなにか一曲練習してみませんか? 実際の曲をやってみるのって、スクールアイドル活動を学ぶのに一番いいと思うんです。やっぱり歌って踊るのがスクールアイドルの醍醐味ですからね!」

「賛成!」

「で、やる曲なんですけど、個人的には決まっていて」

「「&GAIN!!!(アゲイン)」」

「ハモったねぇ」

「ハモりましたね」

 

 深夜と乃々羽は顔を見合わせて笑った。

 

「うちらの出会いの曲やし、まずはアゲインよね」

「それもあるんですけど、&GAIN!!!って、初心者にはいろんな意味で良い曲なんです。歌もダンスも難しすぎず、簡単すぎずでちょうど良いレベルなんですよね。それに、スクールアイドル曲としては抑えておきたいポイントもしっかり入ってますし、勉強って言う意味でも初心者オススメスクールアイドル曲リスト上位にきます」

「そうながや」

「有名曲なので練習用動画とかも結構そろってますし、シンプルに練習環境が整ってるのも花丸ですね!」

 

 乃々羽は練習用動画や歌詞・楽譜などのサイトのリンクをまとめて、深夜にLINEする。

 深夜の横に椅子を寄せて、ひとつひとつのリンクについて丁寧に説明した。

 

「とりあえずは&GAIN!!!をひととおり歌って踊れるようになることを目標にしましょう。それで、パート訳なんですけど、私がニーナパートでみゃー先輩がイズミパートで良いですか?」

「ニーナ? イズミ?」

「背が低い方がニーナで高い方がイズミです。私と先輩の身長的に、それでやるのがいいかなって」

「うちは特にこだわりないき、それでええよ」

「了解です!」

 

 下校時間を告げるチャイムが鳴った。

 

「時間やね」

「次回の練習日はあさっての放課後ですかね?」

「あさっては遠足じゃない?」

「そうでした。牧野植物園に行くんでした。3年生はどこに行くんですか?」

「クラスごとに違うがよね。うちのクラスは馬路村に行くがよね」

「うまじむら……?」

「ごっくん馬路村、知らん?」

 

 知らないと言う顔をする乃々羽に、深夜がスマホの画面を見せてくる。黄色とオレンジが特徴的なジュースだった。名前にうまじむらが入っているということは、村の特産品なのだろう。

 

「馬路村はだいぶ遠いき、水曜は練習無しやね」

「じゃあ次は金曜日ですね。ちょっと時間もあいちゃいますし、&GAIN!!!を自宅練してくるので大丈夫ですか?」

「OK!」

 

 2人は鍵をかけて、部室をあとにする。

 

「せっかく話題にでたき、ごっくん馬路村買って帰ろうか」

「近くでも売ってるんですか?」

「コンビニに普通に売っちゅうよ」

「そうなんですね」

「ののちゃんには高知のこと色々教えんといかんね、これは。ノノちゃんからスクールアイドルを教えてもろうて、うちが高知のことを教える。うぃんうぃんの関係やね!」

 

 人影のない下校時刻の旧校舎に、2人の賑やかな声と足音が響いた。

 

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