サブタイトル:Private_Wars
「ひゃー、すごい雨やねぇ」
「昼前から雨、つよくなりましたよね」
水滴を払いつつ傘を鞄にしまう。生憎の雨にもかかわらず、開演前のロビーは多くの人で賑わっていた。
「あ、物販ありますよ!」
乃々羽の指さした方向を見ると、ちょっとした列ができていた。
「物販?」
「名門スク部だとオリジナルグッズ販売があるんですよ。タオルとかTシャツとかペンライトとかですね。それで活動費を稼ぐんです」
「プロのアイドルみたいやねぇ」
「名門スク部は下手なプロアイドルより、プロっぽい活動してますからね」
「会場もオレンジホールやしねぇ」
「ここって大きいんですか?」
「高知のライブ会場の中やと2-3番くらいに入ると思うがよね」
入り口で500円を払って、会場内に入る。500円とはいえ入場料がかかることに深夜は驚いた。乃々羽を見ると特段気にする様子もないので、名門スクールアイドル部の公演ではこれが普通のことらしい。
ホールに入ると大きな会場の座席にはちらほら空席はあるものの、大部分が埋まっていた。深夜がオレンジホールにくるのは、小学生の頃に友だちのピアノの発表会を見に来て以来のことだった。久々に見ると、改めてその広さに驚く。
「思ったより沢山人くるがやね」
「キャパ1500くらいらしいので、700人くらいですかね。OGとか保護者とか学校関係者とかで200人くらいはいると思うので、実際の客数としては500人くらいって感じでしょうか。ネットで調べて見たら使用料金もそんなに高くないみたいなので入場料で十分元がとれてそうですね」
「一般の人もくるがやね」
「高知でスク部やってる子とかスクールアイドル好きな人はだいたい来てるんじゃないかと思います。あとセン学スク部は歴史ある名門ですし、箱推しファンも結構いると思いますよ」
深夜にとっては初めて聞く話で新鮮だった。
「自由席みたいですけど、どこ座ります?」
「どこがオススメなが?」
「シンプルにファンサとか顔とかみたい、近さとか臨場感を求めるのだとやっぱ前方ですね。適度に楽しむなら真ん中で、俯瞰してステージと観客の反応を見たければ後方がオススメです。あとは左右よりはセンターブロックの方がやっぱり見やすいと思います」
「じゃあ、真ん中あたりの空いてるあそこにしようか」
「はい!」
ふたりでならんで腰掛ける。乃々羽は鞄からタオルやライトを取り出して準備を始める。
「そういうの持ってくるがやね」
「みゃー先輩の分も持ってきてるので、よかったらどうぞ!」
手渡されたペンライトには「2022年ラブライブ!全国決勝大会」と書かれていた。乃々羽の言われる通りにボタンを押すと、ライトの色が赤、緑、青と様々な色に切り替わる。乃々羽はメンバーカラーや学校カラーに合わせて色を変えるんですよと終えしてくれた。
「ちょっと待ってくださいね、スクペディアによるとセン学の学校カラーは……」
「待って、スクペディアって何?」
「スクールアイドルアプリ──スクコネの中にあるスクールアイドル関連の
「変わった趣味をもっちゅうね」
「スクールアイドルの知識増やすの好きなんですよねぇ」
恍惚とした表情で乃々羽はスクペディアについて語りはじめる。深夜にとっては聞きなじみのない単語がどんどんでてくるが、乃々羽が本当にスクールアイドルが大好きでスクペディアも愛していることは伝わってきた。
「は、脱線しました。スクペディア情報だと、セン学の学校カラーは青みたいですね」
「他にどんなことがのっちゅうが?」
「セン学の基本情報だと創部30年をこえる高知で一番歴史があるスク部で、ラブライブ!にも第1回大会から参加してるみたいです。ラブライブ!高知県予選は10連覇中ですし、ラブライブ!全国決勝大会も1回出たことがある超名門校ですね」
「セン学って全体的に部活が強いイメージやったけど、スクールアイドル部も強かったがやね」
「そうなんですか?」
「運動部も文化部もどっちもすごい力いれちゅう学校やったと思う。たしか、県外生向けに寮もあるがよね」
「スク部にも越境してきてる子たちもいるみたいですよ」
「へぇ」
「高知はずっとセン学スク部一強なので、高知でスクールアイドルやりたかったらとりあえずみんなセン学目指すって感じみたいですね」
開演を知らせるブザーがなった。
場内のライトがゆっくりと消えていくと、にぎやかな空気が一気に静まりかえる。
「はじまるね」
乃々羽は静かにうなずいて、ペンライトを青にする。深夜もあわてて青色に変えた。
ゆっくりと緞帳があがって、薄暗い舞台上が少しずつ見えてくる。広い舞台いっぱいに並ぶ、同じ衣装をまとった女の子たち。ざっと見た感じだと2-30くらい。なにかフォーメーションのようなものを組んでいた。
音楽がかかって、舞台がぱっと明るくなった。音楽にあわせて舞台上の生徒たちが一糸乱れぬダンスをはじめる。
……なにこれ。
深夜はあっけにとられる。
アゲインを見たときとも、ノノちゃんのパフォーマンスをみたときとも違う。音に、動きに、声に、空気に、ただひたすらに圧倒される。
手にしたペンライトを振ることすら忘れて、深夜は舞台上のスクールアイドルたちに目を奪われた。
***
「すごかったですね!!」
2時間ちかい公演はあっという間に過ぎ去った。
歌やダンスといったスクールアイドルとしてのパフォーマンスを中心に、MCやちょっとした学校や部活紹介のコーナーもあり、構成もさながらプロアイドルのライブそのものだった。
「オリ曲もいろんな構成でやってくれましたし、カバー曲も名曲ばっかりでしたね。&GAIN!!! もありましたし!」
あの解釈はまた新しいですね……などと乃々羽はブツブツと怒濤の独り言を続けていた。
「みゃー先輩?」
「みゃ──先輩っ!」
「わっ」
いつの間にか目の前に乃々羽の顔があった。
「どうしたんですか? 公演終わってからずっと心ここにあらずって感じですよ」
「いや、すごかったなって思って」
「レベル高かったですよね。最近全国決勝大会に出れてないって聞いてたのでちょっとアレかなって思ってたんですけど、普通に良かったですよね。これは今年は全国決勝大会候補になりそうですね……1年生とかのパフォーマンスレベルも高かったですし、指導体制がちゃんとしてるんでしょうね」
乃々羽は興奮しているのか、語りが止まらない。
すごかった。楽しかった。わくわくした。
それと一緒に。深夜の頭に「あの子たちと一緒の舞台に立つが?」という単純な疑問がわいてくる。
アゲインの数小節をあの子たちと比べものにならないくらい低いレベルでやるのに四苦八苦しちゅううちが、あんなすごいパフォーマンスを手を変え、品を変え2時間近くやりゆう子たちと同じステージに立つが?
不安なのか。実感なのか。どう解釈していいか分からない感情が、楽しかった以上に深夜の頭を支配する。
「私、ちょっと物販見てきてもいいですか? やっぱ公演みちゃうとグッズほしくなるんですよね!」
「じゃあ、うちはここで待っちゅうよ」
ロビーの柱にもたれかかる。さっきまで舞台にたっていた生徒たちもロビーにでてきていて、楽しそうに家族や友だちと話している。こうしてみるとホントにごくごく普通の女子高生だ。その普通の女子高生たちが舞台上ではホンモノのアイドルだった。
それが、スクールアイドル。
うちは、ホントにスクールアイドルながやろうか。
「ちょっといい?」
スーツ姿の女性がいつの間にか横に立っていた。
年の頃は40くらい。どこかで見たことがあるような顔だと思って記憶をたどると、舞台に最後に出てきて挨拶をしていたセン学スクールアイドル部の顧問だったことにきづく。
「あなた、かがみ川女子高校の子だよね。もしかして、スクールアイドル部だったりする?」
「はい」
「良かった! じゃあ、ちょっとだけ話してもいいかしら?」