PERSONA3×Blue Archive~Re:Tales Of Our Youth Days   作:花極四季

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二次創作なんだから、原作で不憫な人は盛ってもいいって。ユメ先輩ならそう言った。


11話

 

「はい、というわけで初めまして!私は梔子ユメ、大人一年生やってます!」

 

 敬礼と共に笑顔で快活な自己紹介をする、梔子ユメと名乗ったアクアグリーンの長髪の女性。

 その雰囲気は【大人】を名乗るにはあまりにも純朴で、言うなれば子供っぽさが全然抜けていない。

 今はアビドスの制服を着用しているので、着慣れていないであろうスーツと違って動きにも勢いを感じるし、雰囲気とも合致していてとてもしっくりくる。

 スーツを脱いだ理由は、ただでさえ砂漠という炎天下の環境でスーツ着用していたことと、急いでここに来ようとした結果、暑さに耐えきれなくなって着替えたのだが、肝心の着替えを持っていなかったので急遽体格が近いノノミの予備を引っ張り出してきたという次第だ。

 

「君のことはリンちゃんから聞いてるよ。ごめんね、あの子結構強引なところあるというか、責任感が強すぎて結果重視になっちゃうところがあるから……」

 

「あの女のことなんて庇う必要ありませんよ。連邦生徒会所属である以上、相応の責任を負うことは承知なんですから」

 

「そうですよ!こっちは被害者みたいなもんなんですから、優しくする必要なんて――」

 

「駄目だよ。たとえ彼女達に打算があったとしても、私達が負い続けるはずだった負債を返済してくれたのは事実だし、そこを無視して感謝を忘れるようなことはやっちゃ駄目。そんなことをしていると、ほんの些細なことをあげつらってばかりで正しさを直視できない人間になっちゃうから」

 

 ホシノとセリカの連邦生徒会への非難を、ユメが毅然とした態度でたしなめる。

 そこには、ともすれば情けないと言われても仕方ない、先程までのなよなよとした雰囲気の女性の姿はどこにもなく、【大人】と呼ぶに相応しい在り様を示していた。

 その雰囲気を察してか、二人とも俯いて何も言えずに居る。

 信条としては納得できないが、それはあくまで感情論で合理性に欠けるものであるとは理解しているからこその沈黙するしかできないのだろう。

 

 対してユメの彼女達へ向けた発言。

 決して強い言葉ではないが、言葉の重みはしっかりと感じられる。

 事実を俯瞰し、連邦生徒会とホシノ達両者の立場に立って諭す姿は【大人】らしさを感じさせるには十分な貫録を放っている。

 年上としての経験の差か、或いは彼女達さえ知らない苦労が彼女を成長させたのか。それを初対面の自分が推し量ることはできないが、第一印象が大きく変化したことは間違いない。

 

「ユメ先輩の言う通り、歴代のアビドス生徒会長がカイザー・コーポレーションから暴利な借金契約を結んだことで、借金の利子の返済で資金のほとんどが吸い上げられてしまい、本命である借金の返済は遅々と進んでおらず、もし完済できていなければ今頃9億に届いていた可能性さえ考えられます」

 

「アヤネちゃんの言う通り、現実問題私達ではどうにかできる問題じゃなかったのを、どうにかできると信じて愚直に進んでいただけで、やってることはただの悪足掻きだったって、今は思うな」

 

「っ――、じゃあ、私達のやってたことは全部無駄だったって言うんですか!他でもない、誰よりも借金返済に邁進していた貴方が!!」

 

 机を両手で叩く勢いで、ホシノが立ち上がる。

 怒りとも悲しみとも取れる表情でユメを睨みつけるホシノ。

 その視線に対し、ユメは誤魔化すでもなく真っすぐ見つめ返す。

 

「無駄ではないよ。だって、私達が早々に諦めていたら、こうしてみんなに会えるようにはならなかっただろうから」

 

 でも、それは結果論でしかないよね?と冷静な声色でユメは続ける。

 

「末期だったアビドスにノノミちゃんを始めとした新入生が入ってくるなんて、本当に奇跡だったと今でも思う。努力が実を結んだ、自分達が耐え忍んだから――終わった後ならどうとでも言えるけど、そうならない可能性の方が圧倒的に高かった。本当に、運が良かったんだよ」

 

 自分達の見通しの甘さと行動がもたらした結果を羅列し、容赦のない現実を突きつけていく。

 運が良かった――そう締めくくった言葉にこそ、彼女の言いたいことが集約されているのだろう。

 子供特有の、しかし成長と共に中途半端となった全能感で一心不乱に突き進むには、彼女達が背負った問題は大きすぎた。

 

 目標があった時は、それだけを見ていれば良かった。目標に夢中になっていれば、他のことからは目を背けていられるから。

 だけど、ふと立ち止まって振り返った時。

 自分が進んだ道に残された足跡が、真っ白なキャンパスに残る点々とした染み程度の変化しか与えていないと知った時。

 一生のうちで四分の一にさえ満たない青春時代を、一時の感情で無駄な足掻きと共に浪費したと理解してしまった時。

 果たして、ほんのひと欠片でも後悔の念を抱かないと言えるだろうか。

 そんな呪いを後に遺し、後輩に押し付けてはいさよならなんてこと、彼女達が出来るだろうか。

 ――出来るわけがない。もし出来るようなら、とっくにアビドスを見限って転校しているに決まっている。

 故に、そんなことをすればきっと、彼女達は一生をその呪いに苛まれることになる。

 年月を経て記憶が摩耗しようとも、ふとしたきっかけで思い出し苦しむということがずっと続くかもしれない。

 その思い出が濃密であるほど、呪いもまた増幅する。

 連邦生徒会の借金肩代わりによってリセットにまで秒読みというところまで来られたのは、確かに彼女達が努力して維持してきたからだろう。

 しかし、【影時間】の一件がなければどうだろうか。

 連邦生徒会側が借金を肩代わりをする理由もなく、ジリ貧になるだけの毎日が続いていたのは容易に想像できる。

 少なくとも、彼女達が卒業しようとも借金が完済されているなんて、文字通り奇跡でも起きない限りはあり得ない。

 その事実を無視し、連邦生徒会に反感を抱くというのは、まさに恥知らずな行いであるのだとユメは言いたいのだろう。

 

「――なんて偉そうに言ってるけど、峠を越えて初めて自分を客観視できた今だからこそ言えることだから、どの口がって話だよね~」

 

 そう頭を掻いて笑うユメからは、先程までの年長者としての威風堂々さは霧散しており、部屋中を支配していた緊張感もすっかり消え去っていた。

 まだまだ言うべきことはあるだろうに、それでも敢えて口にしなかったのは、彼女達に考えるという選択肢を与えたかっただろう。

 第三者が提示した答えは、たとえ正論であろうとも自分自身で導いた答え以上に納得できるものではない。

 だからこそ、自分で答えに至ることが肝要なのだと。

 

「……変わりましたね、ユメ先輩」

 

「そんなことないよ。変わりたいとは思うし、そう心がけてはいるけどね。今までの私じゃあ駄目だってことは私が一番わかってるし、ホシノちゃんにずっと迷惑かけてばかりにもいかないもんね」

 

 朗らかに笑うユメ。

 優しくも芯を感じられる、こちらを慈しむような笑み。

 その笑顔の中にどのような感情を秘めているのか、それを推し量れる者はここにはいない。

 

 たかが二年の差。されどその差には隔絶とした開きがある。

 子供と大人という、言葉にすればなんてことのない違い。

 しかし、学園都市という学生が主体の世界で生きてきた彼女達にとって、その恩恵を失った先にある未来は決して眩いばかりのものではない。

 たとえ【大人】として名乗るにはあまりに未熟だとしても、子供であることを言い訳にすることが出来ない以上、あらゆる責任は自分が背負わなくてはならない。

 誰かの庇護下ではなく自立した個人として生きるということの苦労は、所詮子供でしかない自分達には正しく理解することは出来ない。

 故に、今の梔子ユメを正しく評価できる人間は、この場には当人しか存在しえない。

 たとえそれが、学生時代に最も苦楽を共にしたであろうホシノであろうともだ。

 ホシノ自身もそれを理解してか、悔しそうに拳を膝上で震わせている。

 自分が一番ユメ先輩を理解している。今日が初対面の自分でさえ、少ない言葉からもそのような自負を感じたのだから、彼女からすれば足元が崩れたような感覚を覚えたのではないだろうか。

 

「――それで!ユメ先輩はどうしてこちらに?」

 

 再び陰鬱な雰囲気になりそうだったところに、アヤネの叫ぶような問いが差し込まれる。

 明らかに意図的な話題転換だが、周囲もそれに乗っかるように言葉を続けていく。

 

「そうですよ、卒業してから結構忙しくしている筈なのに、こんなところで油売ってていいんですか?」

 

 

「あっ、そうそう!――実は私、バイト先が決まりました~!」

 

 ユメが満面の笑顔でピースサインを突き付ける。

 その言葉に真っ先に反応したのは、やはりホシノだった。

 

「ば、バイト先って、また変な勧誘とかそういうのじゃ――」

 

「違うよ!つい先日のことなんだけど、つい残高の確認を忘れて最低限しかお金持って行かなかったせいで、ご飯代を工面する余裕がなくて、空腹なままウロウロしてた時、通りがかった店長さんに奢ってもらったんだ。その流れでバイトとして採用してもらったんだ」

 

「いや、それモロ怪しい流れじゃないですか!というか、なんでご飯すら買えない程度のお金しか持ってないんですか!」

 

「え?だって、ホシノちゃんが『ユメ先輩はうっかりでクレジットカードとか失くしそうですから、普段は最低限の現金とプリペイドカードを使うように』って言ってたから……」

 

「――そ、それでも!最悪スマホがあるんですから、銀行なり行けば済む話ですよね?コンビニからだって引き出せるんですし」

 

「スマホにも登録なんてしてないよ、それじゃあカード持ってるのと何も変わらないし。それに、プリペイドに事前にお金入れてなかったのは自分のミスだし、じゃあ引き出せばいいやってするなら、プリペイドしか持ってく意味もないでしょ?だから、反省の意味も込めて我慢してたんだ。次はこういうミスをしないようにって」

 

 ホシノは脱力しながら音を立てて着席する、

 客観的に見ても馬鹿真面目というか、融通が利かないようにしか見えない行動。

 しかし、それは彼女なりに自立しようと努力しているが故の選択であると知れば、強く言い返すことも難しい。

 易きに流れることを常としてしまえば、それは堕落の道へと繋がる。

 些細なことだろうと、それが火種となればいずれ全身を焼き尽くす炎と成り替わる可能性がある。

この程度なら妥協しても良いだろう――そんな逃げの思考に慣れてしまえば、それが許されない状況で理想的な選択を取れなくなりかねない。

 故に、敢えて苦難に身を置く選択を否定してしまえば、それこそ甘やかしにしかならない。

 ホシノは先程ノノミに向けた自身の言葉を顧みたことで、自分の言葉になんら説得力がないことに気づいたからこそ、口を閉ざすしかないのだ。

 

「――それで、そのバイト先ってどこなの?」

 

 そんな中、誰もが疑問に思っていた点をシロコが問いかけると、ユメは両手を叩いて語り始める。

 

「よくぞ聞いてくれました!実はみんなも知ってるとこなんだ~、どこだと思う?」

 

 その問いに、各々が頭を悩ませる。

 候補が多すぎるのか、これといったものが出てこない。

 

「はい、時間切れ!正解は~……『紫関ラーメン』で~す!!」

 

「――え」

 

「――ぇえええええええええええ!?」

 

 誰となく呟かれた疑問符の後、跳ねるように立ち上がったのはセリカだった。

 

「あ~、でも納得です。柴大将なら、お腹空いてる人居たら見捨てませんよね」

 

「で、でも!なんてよりによって同じバイト先なのよぉ!」

 

 セリカの狼狽の理由が判明した。

 確かに、知り合いかつ卒業した先輩がバイトの後輩として入ってくるなんて、気まずいなんてどころではない。

 

「あ、セリカちゃんと一緒だったんだ。大将さんが『最近バイトの子のシフト入りがまばらになって業務に少々影響が出ていた』って言ってたけど、まさかセリカちゃんだったとは思わなかったよ」

 

「う……」

何気ないユメの発言にセリカは頬を痙攣させる。

 セリカのバイト頻度が下がった理由は、十中八九【シャドウ】関連だろう。

 場合によっては緊急性のある事案もあるだろうし、心情はともかく実質のアビドスの権利を所有している連邦生徒会からの依頼、ましてや生き死に直結する内容ともなれば、どちらを優先すべきかと言われれば言わずもがな。

 基本的にシャドウが深夜帯の事象であるとしても、日中の行動が深夜のパフォーマンスを損ねることもある以上、やはりバイトの頻度が下がるのは仕方ない部分はある。

 

「だから色々教えてもらうこともあるだろうけど、よろしくお願いしますセリカ先輩」

 

「い、いやいやいや!確かに実績的にはそうかもしれませんが、所詮バイトですよ!?」

 

「それでも経験者には敬意を払わないと。私、能力があっても年下ってだけで認められないのって良くないことだと思うから」

 

 それは果たして、経験則か。

 彼女の言葉を翻すと、能力がなくとも年上というだけで敬えという風潮が、キヴォトスにも蔓延しているという事実を物語っている。

 所変われば品変わるとはいうが、こういう悪習慣ほど変わらないものなのだと思わず辟易する。

 良くも悪くも彼女達は少数精鋭ということもあり、年功序列とは縁遠い関係性を築いているように感じられるが、組織や派閥のようなものができるような学園ともなれば、それこそ社会のそれと大差ない人間関係が構築されていたとしても不思議ではない。

 

「ユメ先輩、セリカはそういうのに慣れてないから少しずつ慣らしていくべき」

 

「う~ん、シロコちゃんがそう言うなら……」

 

 ユメは少し残念そうにしつつも、素直にシロコの言葉に引き下がる。

 その時、ふと隣にいた自分と目が合う。

 数秒の視線の交差の後、こちらに顔を近づけてまじまじと見つめてくる、

 何かうんうんと唸っているが、その奇妙な行動を前に動向を見守ることしかできずにいる。

 

「気のせいかもしれないけど、どこかで見たことある気がするんだけど……思い出せないなぁ~」

 

「やっぱり、ユメ先輩もそう思いますよね!」

 

 沈んだ調子だったホシノが水を得た魚のようにユメに同意する。

 ユメとの共通点があるというだけで、幼子のように――否、ペットが飼い主に尻尾を振るようにはしゃいでいる。

 それだけ、ホシノにとってユメの存在は特別なんだろう。

 

「でもなんていうか、こう……醤油ラーメンと塩ラーメンぐらい違うというか。私の感じてる認識とズレてる感じもするんだよね」

 

「なんでラーメンで例えてるの?」

 

「紫関ラーメンでバイト始めた影響でしょうね……いや、影響されすぎじゃない?」

 

 セリカが呆れて肩を竦めているも、バイト先がプラスに認識されているからか、口元には笑みが浮かんでいる。

 

「そ、それにしてもホシノ先輩だけではなくユメ先輩もとなれば、偶然とは思えませんね」

 

「ん。でも私達はそんな共通認識がない。そこに謎を解く鍵がある」

 

 そこで一同悩み出すも、答えは出ない。

 そもそも一番謎に近い二人がわからない以上、残りの四人でどうにかなるわけもない。

 

「まぁ、それはおいおいとね。それよりも――結城君、それにみんな」

 

「何ですか?」

 

「結城君に、アビドスの街並みを紹介がてら散歩しない?」

 

 

         ~Now Loading~

 

 

 ユメの提案により、あの場に居た全員で市街地を練り歩いていた。

 当初は病み上がりの自分に配慮して提案が却下されそうな流れだったが、自分の体調が思ったより問題なかったのと、数日経てば連邦生徒会までとんぼ返りしなくてはならない関係上、この機を逃せばしばらくはこうして会う機会もなくなるだろうと、無理を通してもらった結果外出を許可された次第である。

 しかし、日傘やクーラーボトルといった暑さ対策のグッズを持ち歩くことを前提としているため、周囲の様子からすれば中々に目立つ風体をしている。

 

 加えて、自分は銃弾一発で致命傷になる耐久力という事情もあり、不自然にならない程度に自分を中心に彼女達に囲われるように陣形を組んでの移動となっており、まるで要人の護衛のような待遇である。

 正直申し訳ないという気持ちでいっぱいだが、好意を断った結果事故に遭ったとして、こちらの自業自得だと彼女達が受け入れるかどうかという問題もある。

 銃撃や爆発でまともに傷つかない肉体というのは【死】への認識を狂わせるには十分な要素だと考えている。恐らく車に全力で轢かれようとも、そこまで問題にはならないだろう。

 彼女達にとって【死】とはどのようなものかは不明だが、少なくとも自分の認識とは隔絶としたものであることは間違いない。

 自分にとって身近に迫る【死】であろうとも、彼女達にとってはそうではない。

 この点において、彼女達と分かり合えることはない。――【影時間】を知らない者達を除いて、だが。

 とはいえ、恐らく現状彼女達が外的要因による【死】を目の当たりにしたことは無いはずだ。もしそうであるなら、先の散歩に対する問答でも言動や行動に影響が出ていたはず。

 

 ――故に。彼女達の選択の果て、それが誰かの【死】の要因の呼び水となったと認識したとき。彼女達の精神に果たしてどれだけの傷を与えてしまうか、まるで想像がつかないのだ。

 自分のような出会って数日の相手ならそこまででもないだろうが、それが絆を深めた相手だったとなれば、死者の幻影に支配されることで現実逃避したり、極端な自罰思考に走ったりなどしないなどと誰が言い切れる?

 【死】と縁遠ければ遠いほど、そうなる可能性が高まると考えるのが自然だろう。

 実感はともかくそれを理解しているからこその対応と考えれば、これは彼女達の心を守るためでもあるので、やはり受け入れない理由はない。

 

 それはそうと、アビドスの市街地は思った以上に賑わっていることに驚いた。

 砂漠化した影響で学生が転校し、都市の大半が砂に埋もれたにも関わらず、その被害を免れた場所はしっかりと機能していた。

 あるいは、残された人達が無事だった場所に一挙集中したことで、一見すれば賑わっているように見えているだけか。

 自分の目と足で砂漠を歩いた経験もあり、アビドスの広大さはある程度把握しているつもりだ。

 しかし、それさえ氷山の一角であると考えれば、この広さでは到底収まりきらないレベルの密集地対になっていても不思議ではないのだが、やはり砂漠化の影響で人が離れたり不幸な事故に巻き込まれたりと、理由は幾らでも思いつくし、人口の少なさが嚙み合わない理由としては決して的外れでもないはずだ。

 

「それで、どう?アビドスの街並みは」

 

「正直、もっと荒廃してると思ってた」

 

 シロコの問いに、素直な感想を返す。

 賑やかさもそうだが、街に入ってからは砂粒ひとつ見かけないのもその感想に拍車をかけている。

 暑さも街に入ってからはだいぶ落ち着いているし、元々砂漠の環境じゃなかったこともあって暑さの影響自体はそこまで広がっていないのかもしれない。

 それに、情報でこそ把握していたが、見渡せば二足歩行の動物やら明らかにロボットな見た目の人物?が当たり前のように闊歩している光景は、ここが自分の常識とは異なる土地柄であることを改めて思い知らされるには十分すぎるものだった。

 

「最初に砂漠に埋もれた都市を見たなら、そう考えるのも仕方ない。でも、実際は割と無事な場所も多い」

 

「相対的に、だけどね。砂嵐が起こる前のアビドスは、他の学園の追随を許さないほどの規模を有していたらしい。そういったことを伝える資料も軒並み砂に埋もれたから、その辺りの情報も外部から取り寄せたものがほとんどでどこまで正確かも定かじゃないんだよね」

 

「でも、土地の広大さや倒壊した建物の位置関係から鑑みて、規模に関しては嘘ではないと思います」

 

「……でも、だからどうしたって話よね。全部過去の栄光でしかなくて、今じゃ残ってる人達は地元愛が強いだけだったり、離れるに離れられない事情のある人ぐらいで、そうでない人達は早々にここを切り捨てた。それぐらい芽のない場所だって思われてるし、その認識は余程のことがない限り変わらないと思う」

 

「セリカちゃん……」

 

 セリカのどこまでも現実的な言葉に、誰も言い返すことができないでいる。

 否定したくても、現実がそれを許さない。

 愛や希望で奇跡が起こるなんて、フィクションにしか存在しない絵空事だ。

 理想を語るには、それに見合う力が必要だ。

 彼女達には、それがない。

 

 銃弾すら物ともしない肉体を有していようとも、それだけで社会の仕組みや自然現象に抗えるわけがない。

 生まれながらに社会に身を置くことが義務付けられてしまうこと、それは必ずしも自分に恩恵をもたらすだけの都合の良いものではない。

 今に掛けて連綿と続く社会が築いてきた無数の【契約】によって、人々は法に護られると同時に法に縛られることとなった。

 法の範疇ならば多少の問題ごとであろうとも対応が出来るが、法が許さない事柄に関しては一切の庇護が与えられない。

 そうすることで社会全体の秩序を保ち、その法則が揺らぐことは社会という概念が続く限り無い。

 

 究極的な話、社会という秩序を保つためならば殺人であろうと時には許されてしまう。

 ――否。そうなるべく人民の心を操り、白を黒であると認識させることで秩序を維持しているだけに過ぎない。

 その最たる例が戦争であり、自分の知る歴史のひとつには、戦争中に多大な功績を挙げ英雄ともてはやされた人物が、戦争が終結した途端に戦争犯罪人として処罰されたという例がある。

 本来殺人は許されないと嘯きながらも、それがいざ秩序を乱す存在が相手となれば、ありとあらゆる手段でその存在を否定する。

 法は人間のためではなく、社会秩序の維持の為に存在するものである。

 人間は社会を動かす部品のひとつでしかなく、決して法の下愛玩されるだけの存在などではない。

 社会秩序の過程で出る条件にしがみ付くことで安全を保障しているのであって、決して自分達を無条件に護ってくれる盾などではない。

 恐らくではあるが、多少の法解釈の差異はあれども、社会が形成されている以上この条件は彼女達にも適応されていると考えて然るべきだろう。

 故に、彼女達が目指す理想を実現させるには、法の許す範囲でどうにかするしかない。

 

 現実問題、彼女達の力だけではアビドスの借金を返済することは出来なかった。

 だから連邦生徒会が肩代わりし、権利こそ剥奪されたようだがそれを返還する条件も提示されている。

 ハッキリ言って、彼女達が選択できる数少ない条件からしてこれは破格なものだ。

 本来ならばあくせく働いて、生活が破綻しない程度に借金返済との兼ね合いをしながら少しずつどうにかしなければならない問題を、連邦生徒会が一括してくれているのだから。

 

「――はい!暗い話はダメダメ!せっかくの散歩なんだから、もっと明るくいかなきゃ!」

 

 先頭を歩いていたユメが両手を叩き、沈みかけていた空気を引き戻す。

 彼女の行動ひとつで彼女達の気持ちが持ち直したところを、この短期間で何度も見てきた。

 ムードメーカーというか、ある種のカリスマというべきか。

 未だ暗雲のただ中にいる彼女達にとって、雲間を割く光のような存在こそが梔子ユメなのだ。

 それを当人が把握しているからこそ、こうして定期的に彼女達に会いに来ているのだと考えると、一見頼りない雰囲気に反して随分と思慮深く視野の広い女性だと思う。

 二年の社会生活がそうさせたのか、ホシノも把握していなかった彼女の気質なのか。

 なんにせよ、自分にとっても梔子ユメは信用に足る人物であると思える程度には、心を許せる存在となっていた。

 

「あっ、そうだ!せっかくついでに【紫関ラーメン】に顔出していかない?私が奢っちゃうよ~?」

 

「えっ、いいんですか?」

 

「それなら、遠慮なく大盛りにする」

 

「いえでも確かに、もうお昼時ではありますが……」

 

 ユメの提案に対し嬉しそうにする面々と、それに反してアヤネの遠慮しがちな視線がこちらに向けられる。

 自分が病み上がりであることを心配してのものだろう。

 

「体調なら問題ないよ。食事も、正直あの程度じゃ足りないぐらいだったし」

 

 これは彼女達に遠慮してではなく、紛れもなく本心である。

 食後から二時間程度しか経過していないが、もう腹の虫が収まらない状態になっていた。

 食事内容もそうだが、どうやら自分は健啖家だったようで単純に自分の許容量が大きいのかもしれない。

 特に根拠は無いけど、今なら大食いチャレンジもいける気がする程度には飢えている。

 

「おっ、男の子だね!じゃあ、満場一致ってことで、いざレッツゴー!」

 

 意気揚々と歩きだすユメについていくうちに、あれよあれよという間に目的地である【紫関ラーメン】に辿り着いた。

 紋切型のような和風な門構えの頭上には、青色の和装に白いバンダナを頭に巻いた柴犬が腕組をしている木彫りの絵柄と共に、【紫関ラーメン】の名前が大見出しで展開されていた。

 柴犬も一見してマスコットキャラクターかと思えたが、獣人の存在を知った今ではそんな安直なことはないだろうと短慮に走りそうになった思考を制する。

 

「ヘイ大将、やってる~?」

 

 ユメを先頭に暖簾を潜ると、カウンター席と相席用のテーブルがバランス良く敷き詰められた、如何にもラーメン屋といった雰囲気の空間が広がっていた。

 昼時ということも相まってそこそこに賑わっており、客がラーメンを啜る姿が目につく。

 夢中になってラーメンを食べる姿と、店中から漂うラーメンの匂いの相乗効果で余計に食欲が刺激される。

 それは彼女達も同様だったようで、落ち着きのない様子で視線を揺らしている。

 

「おっ、ユメちゃんじゃないか!それにセリカちゃんどころか、生徒さん達まで。それに――彼は見ない顔だね、知り合いかい?」

 

「うん、昼食時だったのと紫関ラーメンを紹介したいってのもあってね」

 

「そりゃあありがたい。千客万来大歓迎!ましてやユメちゃん達の友達となれば、俺も全力で腕を振るわないとな!」

 

 ユメとそのような会話の応酬を繰り広げているのは、先程見たばかりの木彫りの柴犬そのままの姿の獣人。

 その見た目こそ自分の知る柴犬同様の愛嬌にまみれているが、発せられる言語は自分達と同じであり、声色も成人男性のそれである。

 身体の大きさも相まって、それこそ彼が着ぐるみで作業していると言われても信じるレベルで自分の常識とは乖離した光景だった。

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