PERSONA3×Blue Archive~Re:Tales Of Our Youth Days   作:花極四季

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13話

 

 あの一件から数日が経ち、今自分は【シッテムの箱】内部に居る。

 目の前にはムスッと頬を膨らませているアロナが仁王立ちしており、対して自分は水浸しな床に自主的に正座し、結果アロナに見下ろされているという異様な構図が出来上がっている。

 

「マスター、何か言い訳はありますか?」

 

「……何も」

 

 例のアロナのご機嫌取りのことを考えてからの数日は、自分の体調が万全になるまでの間、学内でお泊り会をすることになった以外は特筆すべきことはなかった。

 ユメもそれに参加したがっていたが、立場が立場だけにそれは許されることはなく、文字通りの泣く泣くといった様子で帰っていった姿は記憶に新しい。

 シロコの提案で始まった数日間の合宿は、彼女達の普段の生活の一端を知る良い機会だった。

 基本的には自分の知る学生のそれと変わらないが、勉強に関しては教育BDなるものを使用した自主学習が基本であると聞いたときは、どちらかというとサドベリースクールみたいだなと思った。

 しかも廃校ギリギリなアビドスだからというわけではなく、キヴォトスのスタンダードだというのだから驚きだ。

 指導者という存在を含め、徹底して【大人】の存在を排斥している光景は異様の一言だが、数多くの常識外れを目撃してきた自分からすれば、今更レベルではあった。

 そんな青春の一幕を終え、その先に待っていたのは説教タイム。

 夏休みの宿題と同じで、嫌だと面倒だと先延ばしにしても最終的に向き合わざるを得ない現実。

 それが現実逃避と理解しながらも、人は何故やらなければならないことを先延ばしにしたくなるのだろう。

 

「マスター、聞いてますか?」

 

「え?」

 

「……聞いてませんでしたね。まぁ、いいです」

 

 アロナにジト目で見下ろされる居心地の悪さから逃避したいと思考に没頭するあまり、更なる責め苦に苛まれることとなった。

 やはり、問題はすぐに解決するに限ると結論付け、今度こそアロナの言葉に耳を傾けるべく姿勢を整える。

 

「説明してなかった私にも落ち度がありますが、【シッテムの箱】は特殊な構造をしてまして、【影時間】内でも稼働させることが出来ます。同時に、外部の攻撃から守るバリアを常時展開することも出来ます。だから私はてっきり【影時間】の中に持って行ってくれるものだと思っていたのに……」

 

「いや、だって機械は【影時間】では使えないって聞いてたし、だったら邪魔かなって」

 

「邪魔!?だからって部屋に放置はいくらなんでも酷すぎます!OSイジメです!」

 

 うがー、と迫力なく怒るアロナ。

 こちらからすれば理不尽極まりないのだが、子供の情緒であると思えば仕方ないと割り切るしかないのだろう、多分。

 改めて顔を真っ赤にしているアロナを観察する。

 まるで人間と同じような感情を発露する少女は、やはりデータ上の存在とは到底思えない。

 しかし――アロナを悪く言うつもりではないが、正直なところ何故よりにもよって子供の情緒をAIとして採用したのだろうか。

 機械的な反応よりは親しみやすいのは事実だが、本音を言えばやりづらい。

 使用者を的確にサポートするのが役割の筈なのに、説明不足だったりと抜けている部分もありイマイチ頼り辛い上に、今みたいな非合理的な反応をされてしまえばもはやどうしろと。

 

「……ゴホン、すみません取り乱しました。とにかく、【シッテムの箱】の所有者は有効範囲内において超強力なバリアで護ることが出来るんです。具体的には、対艦ミサイルの連続爆撃だろうと耐えられます!」

 

「いや、流石に嘘でしょ」

 

「嘘じゃないです!それを証明できないのが残念ではありますが……それぐらい強力なバリアなので、【影時間】でもマスターは安全を保障します!……電力がある限りですが」

 

「充電式なんだ、アレ……」

 

「それ以外に何があるんですか。超膨大なバッテリー容量、現キヴォトスの充電機器の三倍越えの充電速度、ソーラー充電対応の完璧仕様ですが、【影時間】では充電機器も機能しなければ太陽光もありませんので、完全にバリア頼りってわけにはいかないんですよね」

 

「まぁ、そればかりはね」

 

「それに、充電が切れたら流石の私も何も出来ませんので、【影時間】で有用な情報の閲覧ができなくなります。マスターを始めとして、それ以外のペルソナ使いの体力と魔法を使える精神力の現在量といったステータスもリアルタイムで更新していたりと、一口では言えませんが【影時間】において有用な情報を閲覧可能です」

 

 鼻を膨らませて胸を張るアロナの得意げな様子に流しそうになってしまったが、改めて【シッテムの箱】というかアロナの謎が深まる。

 詳細を確認していないので何とも言えないが、大前提である【影時間】では機械が使用できないというルールから逸脱した特異性に、キヴォトスの技術力を遥かに上回るスペックと、超常現象であるはずの【ペルソナ】のデータすらいつの間にか網羅しているという情報収集能力と、OS内とはいえアロナ自身が自立して外部に干渉することが出来ることからも【シッテムの箱】が機械の範疇を超えたナニかであることはもはや語るまでもないことだろう。

 そんなオーバーテクノロジーを記憶喪失の自分が所有していた。しかも状況からして本来は自分のものではなかった。

 アロナを信用するなら、これほど掛け値なしに【影時間】の探索において助けとなる道具はない。

 それこそ【影時間】の要素を抜いたとしてもお釣りがくる性能。

 こんなもの、一個人が所有していて良い筈がない。

 それを何の因果か、完全に性能を発揮できる自分が所有している。そして、その過程は記憶喪失によってすっぱり抜けていると来た。

 全てがあまりにも"出来過ぎている"。そうとしか言えない。

 

「そういうことなので、今度の探索では私も連れて行ってくださいよ!絶対ですからねっ!」

 

「うん、わかった」

 

 そう返すと、アロナは喜色満面といった笑みを浮かべる。

 実際、使い道があるというなら手放す理由はない。

 ただ、そうなると持ち運びの手段を考える必要がある。

 戦闘に参加する以上、生半可な手段では動きを阻害する結果にしかならない。

 【シッテムの箱】の有用性を説明することも含めて、連邦生徒会側と相談をする必要があるかもしれない。

 その過程でまた面倒なことになる未来しか見えないが、そこはもう割り切るしかないだろう。

 

 アロナが喜ぶ姿を尻目に、自らのポケットをさりげなくまさぐる。

 手に触れた感触で、疑念をほぼ確信に変える。

 それは、なんの変哲もない板ガム。

 アビドスから帰る際に適当な土産として頂いたもののひとつで、【シッテムの箱】内に外部の飲食物を持ち込めるかどうかを確かめるために選んだ一品だ。

 アロナが寝言で呟いていたいちごプリンやらの発言から、食事の概念が存在する可能性は示唆されていた。

 あくまで概念的なもので、実際にAIである彼女が食事を楽しむのか。そもそも食事するための物体が存在し得るのか。

 本来ならばあり得ないと断言出来たのだが、あまりにも常識外れなこともあり試したくなった。

 ただ、元々自分の服装をそのままにこの場に出現させていることから、何かしらの手段で自分の情報を解析して再現しているだろうことから、所有物は持ち込める可能性は考えていた。

 なら何故【シッテムの箱】は手元にないのかは謎だが、あったらあったで鏡合わせみたいな事象が発生しかねないので気にしないでおこうと思う。

 

「アロナ、これいる?いちご味のガム」

 

「え、くれるんですか?是非いただきます!」

 

 言うが否や駆け寄ってきてガムを手に取るアロナ。

 美味しそうにガムを噛む光景を見て、物理的な食の概念があることも確認できた。

 取り敢えず、今度はもう少しマシなものをお土産にしよう。子供のご機嫌取りにはこれが一番有効だろうし。

 打算的と言われればそれまでだが、実質彼女に生殺与奪を握らせるも同義なのだから、彼女とは良好な関係を築くことは決して悪いことではない筈だ。

 そんなことを考える必要もないぐらい関係を良好にできればいいのだが――そこはまぁ、少しずつやっていこう。

 

 

 

 

         ~Now Loading~

 

 

 

 

「――話は伺いました」

 

 あれから七神リンとコンタクトを取る打ち合わせを終え、連邦生徒会のとある一室で二人きりによる情報の擦り合わせを行っている。

 【シッテムの箱】の有用性を最低限の情報だけを開示する形でリンに伝えた結果、溜息と共にリンの眉間に皺が寄っていく。

 

「貴方に関係する事柄にいちいち反応していたら時間が幾らあっても足りませんので、まことに不本意ながらあえて(・・・)詳細な言及は避けますが――それが事実なのであれば、我々の行動範囲も大きく広がることになりますね」

 

「信用するの?実際に確認してないのに」

 

「完全に受け入れてはいませんよ。頭ごなしに否定しないというだけです。【影時間】も【ペルソナ】も我々の常識から外れた現象ですが、事実として存在している以上それに付随する情報もまた真実である可能性はある。否定するだけなら後でも幾らでも出来るのですから、どんなに荒唐無稽であろうとも切り捨てず精査しなくてはならないのです。我々に選り好みする余裕などありはしないのですから」

 

 吐き捨てるようにそう語るリンの疲れた表情からは、彼女が背負っている重責の一端を感じ取ることが出来る。

 如何にも生真面目そうで遊びのない性格をしていることもあり、余裕の無さはそれを多少裏付けていると言える。

 それに、理由があるとはいえホシノが連邦生徒会を毛嫌いしていたことを思えば、程度の差こそあれど嫌われ役としての側面を担っているのも大きそうだ。

 キヴォトスの行政をすべて運営している立場というのは、必然的に学生側からの突き上げの対応に追われる関係ということでもある。

 学園単位が国のようなものと解釈するなら、連邦生徒会は世界中の国家の行政管理を一挙に引き受けているようなもの。

 深く考えずとも、その運営が如何に困難であるかはわかる。

 それどころか、まともに維持が出来ている時点でおかしいと言っても過言ではないレベルの所業と言って良い。

 平時でさえそうなのに、そこに【影時間】といった途方もない問題が舞い込んでいるのだから、最早御労しいという言葉でさえ生温い。

 

 ユメがこの状況を正しく理解した上でホシノ達を諫めたのかは知らないが、どうしても下の立場からでは見えない問題というのはある。

 ましてや、自分も含めて所詮は子供。学生という型に嵌っている限りは得られない人生経験というものも確かに存在し得る筈。

 それは連邦生徒会にも言えることで、リンが幾ら理知的で大人びた雰囲気を纏っていようとも子供は子供。

 青春を謳歌すべき時間を捨て、時を同じくして青春を満喫している同世代の少女達のために滅私奉公し、しかしその貢献が少女達の心に必ずしも響くわけではない。

 大人になれば必然的に味わう苦難を、子供である彼女達が先走って背負っている。背負わざるを得ない社会構造になっている。

 何故、そこまで頑張れるのか。その立場を進もうと思ったのか。選んだことを後悔しているのか。

 同情や興味本位とは違う、もっと別な衝動が内側からせり上がってくる。

 まるで、彼女の苦労が我が身のことのように心に染み入っている。

 

 瞬間、軽い頭痛と共に脳裏に過る映像。

 ほんの一瞬の光景だったが、自分が仲間であろう誰かと共にシャドウと思わしき相手と戦いボロボロになっている姿があった。

 仲間達の背格好から、彼らが同年代であると察する。

 死と隣り合わせの状況。【影時間】という常人には認知できない時間軸での死闘は、決して不特定多数の誰かに称えられるものではない。

 それでも、彼らは身の丈をも遥かに上回る大きさのシャドウに立ち向かっていた。

 青春真っ盛りの年代の少年少女達が命のやり取りをしている光景を見て、その選択の意味を問うことは、リン達に感じた疑問に触れることと同じであることに気付く。

 単純な話、立場や境遇は違えども、選択の果てに報われるかもわからない道を選んだ者同士であったというだけのこと。

 つまり、記憶の底に沈んでいた情報を通じて、彼女に共感していたのだ。

 

「……大丈夫ですか?」

 

「うん、少し眩暈がしただけだから」

 

「貴方はこれからも【影時間】で前線に立つ身なのですから、体調管理も仕事の内になりますよ」

 

「結局、自分は正式にメンバーとして加入することが確定したってことでいいの?」

 

「はい。というよりも、どう足掻いても貴方なくしてはこれからの展望を語ることは出来ませんよ。以前から構想があったとはいえ、そこに【シッテムの箱】なるトンデモないものが舞い込んできたのですから」

 

 ぐうの音も出ない正論に沈黙することしかできない。

 

「正式な発表こそ後日になりますが、今後の【影時間】の探索隊のメンバーのリーダーは貴方となります。【ペルソナ】に誰よりも精通しているであろうこと、【シッテムの箱】によるメンバーの情報管理が可能な点、我々生徒よりも肉弾戦が不慣れである点、他にも色々ありますが、諸々を総括した判断によるものです」

 

「記憶喪失だけどね」

 

「それを加味しても、貴方の存在は非常に有益なんです。その自覚を持って今後は行動していただければと。具体的には可能な限り一人で行動することは避けること。【シッテムの箱】に防御機構が備わっているとはいえ、あくまでも道具ありきである以上不測の事態は起こりえるもの。そもそも貴方自身どこまでが防衛が機能するかも把握していないのでしょう?なら猶更単独行動は避けるべきでは?」

 

「まぁ、そうだね」

 

「理解していただければ幸いです。基本的には交流も兼ねて【I.F.I.C.】の誰かを護衛にすることを考えていますが、貴方自身が信頼に値すると判断した友人に協力を仰いでもらっても構いません。勿論事前に話を通してもらい、場合によっては却下させていただきますが」

 

「当然の判断だと思うし、問題ないよ」

 

 むしろ囚人のように徹底した生活プランを強要される覚悟ぐらいはしていたので、思いのほか扱いが緩いので拍子抜けしたぐらいだ。

 自惚れでなければ、それぐらい自分の立場と役割は慎重に扱うべきものだ。

 とはいえ、ただでさえ彼女達は忙しい身の上。

 下手に扱おうものならばそれこそ要らぬ問題が発生する可能性もあるので、敢えて宙ぶらりんにして様子見しているとも考えられる。

 

「それと、ここからが実質本題なのですが……結城さんの正式な居住区が決まりましたので、今後はそちらで生活して頂くことになります。それがこちら――連邦生徒会直営の複合施設【C.A.N.A.A.N.】です」

 

 リンが自身のスマホを操作してその画面を見せ付けて来る。

 画面には巨大なビルを下から見上げる構図のサムネイルが映し出されており、その出来栄えからして長い年月と緻密な構想によって建てられたものであるとなんとなくわかってしまう。

 リンの操作によって移り変わる画面を追っていった限り、複合施設の名の通り学習施設にトレーニングルーム、果てはゲームセンターのような娯楽設備すら用意されているまるで夢のような場所だ。

 

「……ここに住むの?そもそもなんでこんな大層なものを?」

 

「まぁ、尤もな疑問ですね。……物凄く簡単に言いますと、物凄くお金を掛け途方もない規模で作られた隠れ蓑なんです、ここ」

 

「隠れ蓑……?」

 

「以前話したと思いますが、【影時間】関係のあらゆる情報は可能な限り秘匿するように徹底しています。しかし、問題の規模が規模だけに各学園の代表との情報共有やらで、どうしても直接の接触が必要になる場面は出てきてしまいます。ゲヘナとトリニティといった学園同士の軋轢が少なからずある代表であろうとも、この問題が他人事でない以上個人の感情で会合を拒否することも実質不可能。だからこそ、会合等の情報も徹底した秘匿が求められます。そうでなければ、要らぬ争いの火種を蒔くことになりかねませんから」

 

「トップがそれを望んでなくても、部下が暴走するとかそんな感じ?」

 

 うんざりとした表情でリンは頷く。

 多分、似たような事例は枚挙に暇がないのだろう。

 

「今回ほど大きく事態が前進したことは予想外でしたが、いずれは秘密基地的な場所は用意すべきだとは考えていたので、各学校からの交通の便の都合やそれに伴う秘匿性の担保といった問題をどうにか解決しようと考えた結果――もういっそのこと、大々的に場所を公表して誰でも出入りできるような場所にすれば、逆に目立たないのでは?という建設室長の発案が採用された結果ですね」

 

「だから隠れ蓑、か」

 

「とまぁ、そんな一見雑な発案ですが、【C.A.N.A.A.N.】に訪れる生徒が増えれば増えるほど彼女達の管理がしやすくなりますし、【影時間】の探索において有用な設備を公然と配備することも出来ますので総合的に見ればプラスなんですよね。ただ、これを実現するにあたっての打ち合わせやら予算の捻出やらで奔走した結果、それを最後に退任して私が後釜に据えられて今に至るという感じですね」

 

 地図の概要を見る限り、平等とはいかずともあらゆる学園からアクセスがしやすい立地であることはなんとなく察知できる。

 そんな優良な土地ともなれば競合率の高さもそうだが、それの確保や本命であるビルそのものや施設へ投入する資金も捻出しなければならない。

金の問題だけに留まらず、他にもその土地が欲しいであろう企業等から水面下で争うことも考えられることから、その負担は想像を絶するものだろう。

 正直色々と迷走している感は否めないが、果たしてこの大掛かりな施設がその苦労に報いるほどの価値が生まれるのかは自分達の働きに掛かっていると言っても過言ではない。

 

「本当ならば連邦生徒会の管轄外の要因は排除したかったのですが、そうなると外部との交渉やら要らぬ対立感情を煽るなどといった細かな問題が出てしまうので、厳選した商業施設に関しては利益の一部を還元することを条件に許可を降ろしています。それらの利益は【I.F.I.C.】の活動資金として運用する手筈となっています」

 

「なんか、隠れ蓑目的で建設したのに本末転倒に片足突っ込んでる気がするんだけど」

 

「……そうですね。今回のように我々は立場上【大人】との諸々の事業に関する運営等で対話を行うことはありますが、やはり相手は狡猾といいますか、商談やら交渉などで言葉巧みに踊らされることはままあります。誠に遺憾ですが、子供の自分達に出来ることにはどうしても限界がありますので。それに、規模も規模ですし一度企画が動き出したからには止められるものでもありませんし」

 

 キヴォトスは学園都市であり、学生が主体の国家の集合体のような体制であると思いきや、明らかに学生ではない【大人】も幅を利かせているという。

 それに関して、自分の常識と食い違う点以外は別段おかしなことはない。

 だが、そうなるとキヴォトスにおける【大人】の地位や立場とはどのようなものなのだろうか。

 言葉だけ聞けばキヴォトスはネバーランドのような子供の楽園という風に聞こえるが、実際はきちんとした社会構造が成り立っており、しかし単純に子供と大人の立場を反転させたかといえばそうでもない気がする。

 それに、彼女達が【大人】と口にする度に滲み出る嫌悪のような感情。

 形容しがたい敵愾心のようなものさえ言葉に乗せられいる気さえ感じるそれからは、この歪な社会構造から噴出する闇のようなものを彷彿とさせる。

 

「……少し喋り過ぎましたね。ここまで語っておいてアレですが、貴方はこういった問題とは関わる必要はありません。私達が貴方へ望むのは【影時間】への対策であり、それ以外は求めていません。我々にとって益をもたらすのであれば、貴方がキヴォトスで何をしようとも自由ですし、例え貴方が何者であれ受け入れるという結論は出ています。ですが――」

 

「その期待に応えられなかった場合は――ってことでしょ」

 

「ええ。今の貴方は連邦生徒会が発行した身分証明によって、学生であると同時に連邦生徒会の業務を担う嘱託として公的に扱われています。この歪な身分を発行するにも非常に苦労したのですから、それに見合った働きをして下さい」

 

 淡々と冷静にそう言い放つリン。

 こちらを追い詰めるような発言ではあるが、逆に言えばこれは期待の裏返しでもある。

 利用価値があるとはいえ、不審者以外の何者でもない自分が受けるには過剰な待遇だ。

 それこそ、奴隷もかくやといった待遇であっても文句を言えない立場なのだから、彼女の温情には感謝以外の言葉はない。

 

「ありがとう、連邦生徒会長」

 

「……肩書で呼ばずともいいですよ。これから幾らでも顔を合わせるのですから、肩書で呼ばれるのは非効率的です。とはいえ、あくまで今みたいに1対1の時だけです。公的な場では弁えて頂ければと」

 

「了解」

 

 瞬間、頭の中に覚えのある少女の声が響く。

 

 

 

 我は汝…… 汝は我……

 

 汝、新たなる絆を見出したり……

 

 

 

 絆は即ち、まことを知る一歩なり。

 

 

 

 汝、"刑死者"のペルソナを生み出せし時、

 

 我ら、更なる力の祝福を与えん……

 

 

 

 

 シロコの【魔術師】に続き【刑死者】のアルカナタロットが発現した。

 これは【力】の源泉でもあり【絆】を証明するものである。

 だからこそ、明らかに好意的とはいえないリンと【絆】が結ばれるなどと思ってもいなかった。

 態度とは裏腹に心を許しているのか、或いは【絆】と一言で言っても色んな形があるという話なのか。

 リンの表情を伺うも、そこから彼女の真意を測ることは出来ない。

 でも願わくば、普遍的な意味での【絆】であると信じたい。

 

「……なにか?」

 

「いや、何も。それより、移住の件だけどいつから?」

 

 まじまじと観察していたので訝しまれたが、適当に誤魔化す。

 

「貴方に不都合がないのであれば、今からでも問題ありません。生活に必要な一式は既に配置済みなので。これが部屋の鍵です。それと、現地までのルートの情報を送りたいので【モモトーク】を教えていただけますか?」

 

「【モモトーク】?」

 

「ご存じありませんでしたか。【モモトーク】はキヴォトスの学生の中で流行しているコミュニケーションアプリです。今後学生と交流するのであれば必須と言っても過言ではないので、宗教上の理由でもない限りは導入をおススメします」

 

「ピンポイント過ぎる宗教だね……っと、これのこと?」

 

「そうです。では、私の指示通りに登録をお願いします」

 

 リンに指示されるがままに未だに不慣れな手付きでタッチ操作していくと、あっという間にリンのモモトークアドレス登録まで完了した。

 

「――これで終わりです。この通り特別難しい操作はありませんので、今後友人を登録する際には不都合はないと思います」

 

「何から何までありがとう」

 

「いえ、必要なことなので。今後必要な連絡はモモトークを通しますので、御見逃しなきようお願いします」

 

 そんな事務的な対応を最後に、新たな居住地となるビル【C.A.N.A.A.N.】に向かう準備をすべく、仮宿だった一室へと歩を進めた。

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