PERSONA3×Blue Archive~Re:Tales Of Our Youth Days 作:花極四季
それに伴って文章量も減るので、もっと更新スピードも上げていきたいところですが、まずはシンプルさを追求していければなと。
「よぉ」
「久しぶり、ネル」
以前と変わらぬ様子のネルが軽く片手を挙げてこちらへと挨拶をしてくる。
昨日は身の回りの整頓やマニュアルを読み耽るだけで終わってしまい、翌日となり今日は何をすべきかと思案しながら身支度をしていると、リンからモモトークが送られてきた。
その内容は、ネルがこの寮に訪れるので、彼女達から今後の【I.F.I.C.】の活動に関する説明がなされるというもの。
何故彼女なのかというと、どうやら今後彼女がこの寮の生活関係の管理を行うとのことで、自分が訪れる以前より視察は済んでいるのだという。
「その様子だと、怪我はもう大丈夫そうだな」
「おかげ様で」
「そいつは良かった。キヴォトスの中ならともかく、あの世界だとアタシも身体強度はお前と大して違わないからな。情けない話だが、自分の身を護るので正直手一杯だった」
「あれだけのシャドウが相手なら、しょうがないよ」
「しょうがない、で済ませてたら何も変わらない。だから、お前が休んでる間にアタシ達も色々動いてたんだ。それらも含めて、色々説明しなくちゃならないことがあるから、取り敢えず立ち話も何だし座ろうぜ」
「了解」
ネルに促されるまま、ロビーに当たる場所に設置されたソファに身体を預ける。
沈み込む感覚に身を委ねた自分に対して、座ろうと提案したネル自身は何やらキッチンの方へと脇目も振らずに進んでいく。
「座ってていいぞ。アタシがお茶出してやるから。あ、何飲みたいか言ってくれ」
「……じゃあ、緑茶で」
「りょーかい」
オープンキッチンの奥でネルが手際よく作業を進めている光景を呆然と眺める。
正直な所、彼女の家庭的な面を目の当たりにして驚いている。
ネルは身長こそ高いとは言えないが決して幼い容姿ではない。
むしろ凛々しいとさえ形容できる顔つきと男勝りな口調、加えて龍と桜をあつらえたデザインのスカジャンを羽織っている姿は、いっそ男性的とさえ言える。
そんなイメージとはかけ離れた繊細かつ無駄のない動きでお茶やお茶請けの準備を進めていく姿を見て、視線は自然とスカジャンの下に着たメイド服に注がれる。
メイド服とスカジャンという二つの属性、イメージの対極にあるそれらが喧嘩することなく共存している。
故に、普段の男性的なイメージから埋没していたメイドという属性が持つ要素を見落としていた。
静謐な空間に響く湯の注がれる音が止み、銀のトレイに二つの湯呑と和菓子がネルの手によって運ばれてくる。
運ぶ姿勢もそうだが、音のない空間で食器音どころか足音ひとつ響かせない徹底ぶり。
美しいという言葉が素直に出てきそうなほどに、所作のひとつひとつが素人目に見ても洗練されている。
本職のメイドとはこういうものなのかと感心してしまうほどに、彼女はメイドだった。
「……んだよ」
こちらのまじまじとした視線に気付いたネルが、むず痒そうに表情を歪める。
「いや、本職は凄いなって」
「別に、大したことじゃねぇよ。会議の時の資料にも書いてから知ってると思うが、アタシが所属してる組織――【C&C(Clean & Clearing)】は【ミレニアムサイエンススクール】に奉仕することをモットーとしているが、その本質は秘密裡な武力制圧組織だ」
トレイ上の荷物を置き終えたネルは、こちらと対面になるようにソファに座り込む。
その際も服やスカートに折目がつかないように丁寧に修正している。
ただ、初対面の時の態度が今とは真逆だったこともあり、意図的かはともかくオンオフを切り替えてはいるのだろう。
「ミレニアムは技術畑な生徒が多数を占めている分、他校と比較すると生徒個人の戦闘力は低い。その分それらの技術で補ってるが、誰もが戦闘に転用できる技術を学んでいるわけじゃない。【千年問題】っつー難題を解き明かすためさまざまな方面からアプローチをかけるために、一見下らない研究でも成果を出す限りは投資している変な寛容さが魅力のひとつではあるんだろうが……まぁ、それはいい」
ネルは自分用に注いだ緑茶に口をつけ、再び話を進める。
「ミレニアムは三大校の一角として数えられているが、そうたらしめるのは技術力だ。キヴォトスで最新技術を搭載した製品が出れば、それの七割がミレニアムが関わっていると言っても過言ではないぐらい影響力がある。そうなると当然、その技術や人材を欲する奴らも生まれるわけだ。その欲望のあまり、時には人道に悖る所業でその手を伸ばしてくる輩を秘密裡に処理するエージェント。それがアタシ達ってこと」
そして、そのエージェントのリーダーこそが目の前の少女――美甘ネルということになる。
とはいえ、いまいちピンと来ない。
決して侮っているわけではない。実際にシャドウとの戦いを経てその身のこなしを見た以上、そんな言葉は口が裂けても言えない。
だが、彼女が如何に優秀であろうとも自分の常識からすれば彼女は学生でしかない。
目の前の幼さが残る少女がミレニアムを悪の手から護るエージェント、そんな漫画やアニメでしか目にしないような組織のトップだなどと言われても、言葉だけで納得できる筈もない。
とはいえ、それを口にすれば間違いなく不快感を与えるだろと、何事もなかったと言う風に話を進めていく。
「エージェントって、秘密にしないといけないんじゃ」
「あん時の資料に乗ってたし、今更だろ。確かに秘匿性は求められるが、格の高い学園の上層部は間違いなく把握してるだろうし、それならそれで見せ札として使えばいい話だ」
それに、と付け加え、そこで言葉は止まる。
言いあぐねているというか。つい口走った接続詞の扱いに困っているように感じられる。
「――いや、なんでもない。それより、本題に入っていいか?」
露骨な話題転換。しかし、それを阻む理由は無い。
「うん。リンから話があるとは聞いてるけど」
「それなんだが……正式にお前が【I.F.I.C.】のメンバーとして登録された。そして、そのリーダー役にお前が選ばれた」
「そっか」
「……驚いてないな、予想してたか?」
「そうだね。自分が信用できない立場だってことは理解してるし、そうでなくても受け入れないという選択肢もないしね」
記憶喪失ながらに影時間やシャドウに関する情報を持つことを仄めかし、その対抗策となる力を持つ存在。
そんな毒にも薬にもなりかねない劇物である自分を縛る鎖として、リーダーという責任ある立場を宛がった、という辺りか。
謎の多い存在を重要なポジションに収めるのはリスクを孕む行為だが、責任が伴えば自然と周囲から注目が集まる。
こちらにも一定の利がある上に、何なら彼女達の危惧は杞憂でしかないので実質ノーリスクで恩恵に預けられているに等しい。
リンが上手い具合に事を動かしてくれたというなら、感謝でしかない。
「お前はそれでいいのかよ」
「別に嫌々ってわけじゃないよ。……多分なんだけど、記憶喪失以前も似たポジションにいた気がするんだ。だからすんなり受け入れられたというか」
「……まぁ、確かに。実質初見のシャドウ相手に欠片も動揺せず命張れた辺り、記憶がなくても身体が覚えてる程度にはアイツらと戦ってきたんだろうな。そういう意味では、アタシらの誰よりもリーダー適性はあるってことか」
「逆に、ネル達こそそれでいいの?」
「他の奴らは知らねぇが、アタシに不満はねぇよ。リーダーつっても何も世界の命運を背負うとかじゃねぇんだから、誰かがやれることをやりゃあいい。適材適所って奴だ」
「世界の、命運……」
キヴォトスに蔓延る影時間とシャドウという脅威の最前線で戦ってきたネルの言葉だ、それは真に迫るものなのだろう。
だが、その危機感の薄い言葉に妙な違和感を感じる自分がいる。
ただの考えすぎなのか、それとも記憶ではなく経験を伴った肉体が発する警告なのか。
「ま、そういうことだ。色々不安が尽きねぇとは思うが、これからよろしく頼むぜ、リーダー」
少女然とした笑顔と共に、ネルから手を差し伸べられる。
差し伸べられた手を取り、互いに強く握手をする。
彼女とはまだ短い付き合いだが、不思議と彼女から向けられる好意は他の生徒と比べて強く感じる。
その理由は不明だが、彼女から向けられる強い信頼に報いたいとは思っている。
瞬間、頭の中に覚えのある少女の声が響く。
我は汝…… 汝は我……
汝、新たなる絆を見出したり……
絆は即ち、まことを知る一歩なり。
汝、"剛毅"のペルソナを生み出せし時、
我ら、更なる力の祝福を与えん……
「――それに、アタシらもお前が休んでいる間、ただボーっとしてた訳じゃねぇ」
コミュ発現の余韻に浸っていると、ふとそんな言葉が聞こえてくる。
声の主に視線を合わせると、先程とは打って変わって自信に満ち溢れた不敵な笑みに変貌している。
「今夜はお前のリーダー就任発表に加えてもうひとつやることがあるんだ」
「やること?」
「ああ、アタシ達もいつまでも防戦一方のままじゃいられねぇ。そのための手本は見せられたんだ、モノにするしかねぇだろ?」
表情はそのままに、おもむろに掌をヘイロー付近に伸ばしたかと思うと、そのまま強く握り締める。
「今夜見せてやるよ。アタシ達の――ペルソナをな」