PERSONA3×Blue Archive~Re:Tales Of Our Youth Days 作:花極四季
その代わり、投稿早めってことで許して亭許して。
時間は深夜間近。影時間発生まで数分といったところまで差し迫った時間帯、自分達は再びアビドス砂漠に訪れていた。
集合したのは今日を一日共にしていたネルに始まり、ヒナ、マコト、そして直接の面識は初となる少女――剣先ツルギと合計五人が集合していた。
ペルソナ覚醒者の一人であるシロコは、アビドス学校の周辺でホシノ達とシャドウ討伐部隊を編成しパトロールをするとのこと。
ペルソナ使いとなったシロコは彼女達にとって戦力の要であり、培ってきた連携力も考慮すれば外すという選択肢はないだろうし、当然の判断だろう。
ネルにペルソナをお披露目すると宣言されてしばらくの間は、寮内の設備等の説明を彼女から受けるのでほとんど費やすことになった。
用意されていた資料内容の復習に加え、メイドという家事のエキスパートからのアドバイスやらを受けたことで、家事技能が少し磨かれた気がする。
彼女を通して家事を学べば、生活力向上と共に【魅力】を磨くことができるかもしれない――が、そこは重要な部分ではないので割愛。
因みそのネルだが、偵察という理由で一時離脱している。
影時間でもないのに何を偵察するのか、という疑問を問う前に行ってしまったので、尋ねるタイミングを逸してしまい今に至っている。
ただその偵察とやらは、本来遠隔サポート役である例の天才美少女ハッカーとやらが果たすところを、機材が壊れたという理由からなのは彼女の口から知ることが出来た。
「――さて。初めまして、だな。トリニティの【正義実現委員会】所属の剣先ツルギだ、よろしく頼む」
「俺は結城理、よろしく」
鋭い三白眼に見つめられる形で、互いに握手を交わす。
剣先ツルギ――彼女の基本的な情報は資料で確認済みだ。
トリニティにある【正義実現委員会】という治安維持組織の委員長を務めており、それに相応しい戦闘能力を有していると。
パーソナルデータを抜きにしても、幽鬼のようでありながら威圧感を感じさせる佇まいからは、彼女もまた強者であるということ感じさせる。
「事情は聞いている。君がリーダーとして今後我々の指揮を執ると」
「そのようだね。みんなにとっては不本意なことかもしれないけど」
そんな彼女の背には、身の丈ほどの大剣が背負われている。
男の自分でさえまともに扱える気がしない武骨なそれを、影時間では身体能力が著しく低下するという前提でなお使いこなすというのならば、それだけで彼女の実力が分かるというもの。
そして、それ以上に目を惹いたのは、枯れ木に鋸の刃を取り付けたような羽のような何か。
口にこそ出さないが、彼女を構成する要素全てが恐怖を掻き立てると指摘されても、否定できる材料がどこにもなかった。
「我々は君がリーダーであることを納得した上でこの場に居る。とはいえ、君が全責任を負うという訳ではなく、便宜上の役割というだけの話。上下関係など考えず、役割を果たすだけでいい。不安もあるだろうが、その時は我々を頼ればいい」
「選ばれたからには微力を尽くすよ」
しかし、第一印象だけ見れば威圧的に感じられる風貌であることは間違いないが、実際に受け答えをしてみた限り今まで接してきた学生達と何ら違いは感じられない。
それどころか、ヒナ達と同様三年生ということもあり、言葉の端々から人格者であると感じさえする。
治安維持組織が実力主義だったとしても、それとは別に上に立つ者としての資質がなければ組織は立ち行かない。
故に、委員長に選ばれた彼女にも相応の資質があると自然なのだが、とはいえどうにも第一印象がもたらすイメージが先行してしまう。
こればかりは、今後の交流で人となりを知っていかなければどうにもならないだろう。
「なに、貴様にリーダーとしての資質が欠けていたとて問題はない。何故なら、このマコト様というパーフェクトなリーダーシップを持つ存在がいるのだからな!その気になればいつでも貴様の立場を簒奪できるということ、努々忘れるなよ」
「……彼女の戯言は置いといて、リーダーに選ばれたからって全部自分がやらなければならない、なんてことはないのよ。適材適所を使い分けるのもリーダーとして求められる技能だから、少しずつ学んでいきましょう」
「ほう、寝食忘れる勢いで他の誰よりも風紀委員として活躍している奴の言葉とは思えんな」
「生憎、後ろでドンと構えていられるほど暇じゃないの。なら、そのパーフェクトなリーダーシップとやらであの子達の統率をしてくれないかしら。そうすれば私達も悠々自適と暮らせるのだけれど」
「人を率いる才と猿の調教の才は別物だ。それに、私は奴らの母親でも飼育員でもないのだから、そんな責任を負う謂れはない」
「それが仮にも【万魔殿】の議長のセリフ?」
「こんなもの、我が野望成就のため席のひとつでしかない。そうでなければ、何が嬉しくてこんな面倒な肩書欲しがるものか」
見慣れたというほどではないマコトとヒナの言い合いが繰り広げられる。
短い付き合いながらも、見慣れた光景と言ってしまえるほどに繰り返されるそれを見て、ある種の安心感すら覚える。
とはいえ、言い争いを放置するのも健全とは言い難いので、強引に話題を転換する。
「それにしても、またここなんだね」
影時間に関わる形としては二度目となった夜の砂漠の光景を見渡す。
変わらず荒廃的で不気味さを漂わせており、それこそ影時間でもないにも関わらずシャドウが現れそうな程度には、ここに生命と呼べる要素が薄い。
幽霊と比較するのは語弊がありそうだが、そういった怪異めいた存在が現れるお約束なスポットとして選ばれそうと言われれば否定はできない。
「色々都合が良いからね。見ての通り遮蔽物のない空間、万が一の周囲の被害を考慮しなくて済む環境――というのも勿論なのだけれど、ここでなくてはならない明確な理由もあるわ」
「と、言うと?」
「どうしてか、アビドス砂漠はシャドウの発生頻度が各学校の自治区と比較して高いのよ。人口が多い場所ほどシャドウの数は少なく、逆にここみたいな場所はシャドウの温床になりやすい傾向にある。だから必然的にアビドス砂漠にシャドウが集まりやすいというのが連邦生徒会側が出した推論よ」
「……各自治区にも人通りの少ない場所は点在するが、それでも人通りが皆無というわけでもないし、少し足を延ばせば届く程度の距離にあるから、対策に当たりやすい。だが、こんな広大な砂漠だと出現位置も予測がつかないし、放置すれば数は次第に増えていく。故に、定期的な間引きが必要になる」
ヒナの説明に続く形で、ツルギが話を続ける。
「だが、如何に寂れたとはいえアビドスはれっきとした所有者の存在する土地だ。今は実質連邦生徒会の管轄とはいえ、正式に所有権を返還している以上、そう簡単に他校の生徒の侵入は許可できるものではない。観光目的ならいざ知らず、戦いに赴くのだからそれに伴う保障なども考慮しなければならない」
「つまり、そういった条件を限定的に無視して各学校への介入を許された組織が【I.F.I.C.】ってこと?」
こちらの結論に、全員が頷く。
そう聞くと一見して凄い組織に聞こえるが、色々な問題も抱えていそうではある。
「とはいえ、表向きはその名が冠する通り連邦生徒会直轄の治安維持部隊であり、私達は資料上その存在を秘匿されている。理由は様々だが、率直なところ政治的な要素が八割で感情の問題が二割だ」
「感情……?」
「ずっと昔から、ゲヘナはトリニティが気に食わない、その逆も然りという思想が罷り通っているんだ。程度の違いはあるが、末端から上部に掛けてその思想は浸透している。空崎ヒナが都合が良いと言ったのは、ここが滅多に人が訪れない場所だからというのもある。ゲヘナトリニティ両者で知名度のある存在が、共通の目的で手を取り合うという行為を許容できない奴等は腐るほどいる。たとえそれが自分達に利する行為であると理解しても、感情がそれを許さないんだ」
ツルギは深い溜息と共にそう説明する。
治安維持組織の長という立場上、そういったいざこざとも幾度と関わってきた経験を思い出してのものだろう。その姿は酷く哀愁に塗れている。
「加えて、互いの学園の規模としても比肩することから必然的に対立関係が発生してしまう。気に食わない相手より下だなんて考えたくもないということだろうが……私から言わせてもらえば、自己の研鑽を怠り世間の風潮に流されるだけの蒙昧としか思わん。まぁ、私の立場からすれば下が愚かな方が扱いやすいがな」
不快さを隠そうともせず、鼻を鳴らしながらマコトが補足する。
辛辣な物言いではあるが、差別行為に対する非難感情自体に嘘はなさそうだ。
だが、それを言うなら同じ在籍先の三人にもその例が当て嵌まる。
今までの態度から鑑みるに、そういった思想に染まっているようには思えないが。念のため問いかけてみる。
「それなら、三人はその辺りどうなの?」
「私はぶっちゃけどうでもいい。我が覇道を阻むならば誰であれ敵だし、そうでなければ気にも留めん。勝手にやってろとしか思わん」
「私個人としては、トリニティ自体に隔意はないわ。ただ、マコトと違ってこれはどうにかするべき問題だとは思ってる」
「彼女と同意見だ。ただ、こちらは外部より内部での派閥争いをどうにかするのが先だと思うがな」
三者三様の回答だが、共通して風説に惑わされない自意識が感じ取れる内容である。
そこはやはり、年長者かつ責任感ある立場が広い視野を生んだ結果も大きいのだろうが、それ以上に彼女達自身の意思が強いのだろう。
ふと、ネルが何故偵察として離脱したのか。その理由が万が一にも事情を知らない誰かが彼女達が合流して、何かしようとしている光景を見られないためのものではないかと当たりを付ける。
「――お喋りはそこまでにしとけ。そろそろ時間だ」
偵察から帰還したネルが静かにそう告げると、途端に喧騒は鳴りを潜める。
どこか気の抜けていた表情も引き締まり、歴戦の戦士を彷彿とさせる。
「逸れ生徒はいたか?」
「いねぇよ。好き好んでこの時間にここに来るような奴らなんて、アタシ達ぐらいだ」
「逆に言えば、ここにいるということは何かしら事情を知っている可能性もある。現状秘匿性を求められている以上、そういった相手を見逃すのは許容できないのだから、やらないわけにはいかないわ」
「それに我々の知らない【影時間】適性者が見つかるかもしれない。そうでなければ【象徴化】するだけなのだから、被害を考慮する必要もない」
その会話から間もなくして、深夜0時――影時間が訪れる。
世界が薄緑に満たされた途端、周囲から感じる肌を刺すような感覚。
それが敵意や殺気のようなものであることは、経験則で理解できた。
「結城、下がってろ。コイツらはアタシ達がやる」
「……わかった」
ネルにそう宣言され、自分は彼女達から距離を取る。
元よりそれが目的であったとはいえ、不安はある。
だが彼女達の自信に満ち溢れた表情を見てしまっては、何も言うことなどできない。
「待ち侘びたぞ、シャドウ共め。この力を使いたくてウズウズしてたんだ」
指数関数的に数を増やすシャドウを前に、マコトが力強く一歩前に出る。
「ハァ、まるで子供ね」
「だが、コイツの言い分も理解できる。ここにいる全員、これまで幾度と辛酸を舐めさせられたのだからな」
「……そうね、確かにその通りだわ」
「つーわけで折角のお披露目だ、なら精々派手にいかねぇとな!」
四人が横並びとなり、波涛の如く押し寄せるシャドウと対峙する。
彼女達はシャドウを眼前に見据え、身構える。
瞬間、彼女達の頭上に【影時間】に侵入してから消失していたヘイローが燦々と浮かび上がる。
彼女達は片手でヘイローを掴み、引き千切るように力強く腕を振り抜き、叫ぶ。
「「「「ペルソナ!!」」」」
砕けたヘイローが光の粒子となり、膨れ上がった粒子が結合し、新たな形に変容していく。
四者異なるシルエットのペルソナが、彼女達の背後に悠然とした佇まいで浮遊している。
「一番槍は頂くぜ――【カイネウス】!!」
ネルのペルソナ――カイネウスは、長身の美しい女性の容姿に加え、その下に体型が判別できないほどに重厚な鎧を纏い、手には水色の三叉槍を携えているのが特徴的で、男女両方の要素を感じさせる造形をしているように見える。
ペルソナと共に躍り出たネルは、その手に握られた鎖を鞭のように振り回し、シャドウの先鋒を薙ぎ払っていく。
その隙を突こうと飛びかかってくるシャドウを、カイネウスが諸共に串刺しにしていく。
「【カイネウス】、【二連牙】ァ!!」
ネルの叫びと呼応するように、カイネウスが群体として固まっていたシャドウを二連の刺突により粉砕する。
「終わりじゃねぇぞ、【マハジオ】!!」
カイネウスが高らかに槍を掲げると、その切っ先を起点に周囲に電撃が降り注ぐ。
電撃を食らい足を止めたシャドウを鎖によって薙ぎ払う。
ペルソナに覚醒したばかりとは思えないほどに立ち回りが洗練されているのは、短期間の努力以上に彼女が培ってきた戦闘経験によるものだろう。
しかし、やはり単身ということもあり無傷とはいかないようで、動きに阻害が生まれない程度の傷は増えつつある。
「彼女に続くわよ【エシュバアル】、【マハエイハ】!!」
ヒナがそう叫ぶと、怨念のような漆黒がシャドウ達に群がっていき、内に取り込まれると悲鳴と共に消滅していく。
ヒナのペルソナ――エシュバアルは、人間の形でありながら左右の片方が悪魔のような異形のシルエットをした姿をしており、それはまさに人魔一体といった言葉が相応しい、人型の白と悪魔の黒というコントラストが印象的なペルソナである。
「【ディア】」
ヒナが小さくそう唱えると、暖かな光がネルを包み込み傷を塞いでいく。
傷が塞がれていく感覚を理解してか、返礼と言わんばかりにシャドウに猛攻を繰り出していく。
自らは主体とならず、攻撃と回復を使い分け味方のサポートに徹しており、前線で暴れるネルほどの派手さはなくとも、確実に戦果に貢献している。
そして、ヒナの魔法によって空白となった戦場に今まで待機していたツルギが力強い跳躍で飛び込む。
まるで罠に掛かったと言わんばかりに、逃げ場を塞ぐようにツルギを中心にシャドウが四方八方から群がってくる。
しかし、彼女に焦りはない。
むしろ、その表情は先程とは一転して獰猛さを露出しており、まるで獣のように舌なめずりさえしていた。
「ケヒャハハハハァ!【ヘルヴォール】ッ、【暴れまくり】ィ!!」
まさしく狂気という言葉が相応しい絶叫を皮切りに、ツルギのペルソナ――ヘルヴォールが彼女と背中合わせの姿勢で文字通りシャドウを蹂躙していく。
ヘルヴォールは、ネルのペルソナ同様に中性的な雰囲気こそあれど、軽鎧を纏った男装の麗人といった風に女性的な面が比較的強調されているののだが、それ以上にその手に持つ魔剣と呼ぶに相応しい禍々しいオーラを放つ長剣の存在が目を惹く。
ツルギもまた、猫背を更に曲げた前屈一歩手前の体勢で、肩に担ぐように構えた長剣を力任せに振り回し、撫で斬りにしていく。
「【五月雨斬り】ィ!!【ミリオンシュート】ォ!!」
ツルギの指示の下、斬撃、刺突、殴打――あらゆる物理的手段でヘルヴォールがシャドウを蹂躙していく。
それに身一つで追従――否、それ以上の勢いで殲滅していく様は、まさに嵐のそれだ。
「さて――貴様らと違い槍働きばかりの脳ではないことを見せてやろう」
そんな戦場に満を持して現れ、マコトは両腕を胸元で組む姿勢で戦場を見渡し、ペルソナもまた同じ構えを取る。
しかし、彼女と異なりその腕は十本生えており、残りの八本の腕には剣や槍、果ては杖といった無数の武器を装備した黄金一色の猿人の戦士が戦場を俯瞰している。
召喚者同様に不敵に笑う表情とその黄金の姿からは、自己顕示欲と手段を選ばない思想が表れているように見える。
「【アンジャネーヤ】、【デビルスマイル】だッ!!」
号令と共に細剣の切っ先をシャドウに向けた瞬間、マコトのペルソナ――アンジャネーヤもそれに倣うように無数の武器を突きつける。
瞬間、シャドウの眼前に黒い靄のようなものが現れ、それに包まれたシャドウ達は驚き竦みあがり一斉に動きを止める。
動きを止めたシャドウに後続のシャドウが突進し、土砂崩れのような山が出来上がる。
そこにすかさずヒナの魔法が叩き込まれ、再び前線に空白が生まれる。
「良い追撃だ。褒美だ、受け取れ。【タルカジャ】」
その言葉と共に、ヒナの周囲に赤いオーラのような纏われていく。
「……感謝するけど、いちいちやめてくれないかしら、それ」
「貴様らが出来ない搦手と補助を果たしているんだ。そら、まだまだおかわりは来るぞ?」
「……あとで覚えておきなさいよ」
マコトの尊大な態度に辟易しながらも、その鬱憤を晴らすように魔法を放つ。
すると、先程とは比べ物にならない威力でシャドウが吹き飛んでいく。
恐らく、マコトが唱えた魔法が魔法の威力を高めてくれているのだろう。潜在する怒りの結果ではない、筈だ。
――そうして、彼女達は破竹の勢いで大群のシャドウを殲滅。
当初不安を抱えて始まったペルソナお披露目会は、結局すべて杞憂と言わんばかりの結果を叩き出し、平穏無事に幕を下ろしたのだった。