PERSONA3×Blue Archive~Re:Tales Of Our Youth Days 作:花極四季
危なげなく影時間を乗り越えた現在、我々は帰投することなく砂漠内の半ば沈んだビルの一室に身を寄せている。
「さて――我らがリーダーよ、私達の力の一端は見せたぞ。先程得た情報から得た貴様の見解を聞こうじゃないか」
風化しボロボロになったキューブ状の椅子に足を組んで座るマコトが、どこか試すような言い回しでそう問いかける。
「見解って……何を言えば?」
「何でもいい。記憶喪失とはいえ、この力に関しては貴様の方が理解があるのだから、記憶が刺激されたりだったりで思いつくことがあるだろう」
無茶ぶりもいいところである、が――自分がこの件で潜在的に情報を秘めている可能性が高いのも事実。
態度こそアレだが、立場を思えば藁にも縋るという奴なのだろう。
それをおくびにも出さず上からの態度を崩さないのは、一周回って上に立つ者の資質を感じる。
「そもそも、彼をリーダーって言うならせめてその態度やめなさいよ」
「その程度のことで目くじらを立てる奴がこのマコト様を御せる訳がなかろう。これぐらい許容できる器あってこそという奴だ」
「ほんとマジでコイツは……」
とはいえ、自分のようにマコトはそういう人物であると偏見なく受け止められる者もいれば、そうでない人もいる。
事実、額面通りに受け止めるならただ傲慢不遜な奴でしかない。
ネルはともかく、付き合いの長いであろうヒナに関してはこちらと同じ認識に至っていそうではあるが、それはそれとして誰にでもこんな態度であろうマコトの抑えとして立ち回っている風にも見受けられる。
暴力による激しいツッコミもその一環で、それが可能なのも近しい立場である彼女だからと考えるとしっくり来る。
会う度にどこか疲れた様子のヒナを見ていると、風紀委員とI.F.I.C.の二足の草鞋に加えてマコトの子守の結果なのではないかと、当たらずとも遠からずな推測が立つ。
「別に、どんな態度でもどうでもいいよ」
実際、彼女の態度に何か気にする要素はない。
尊大な態度ではあるが、決して蔑ろにしているわけでも見下されている様にも感じない。
言葉だけというには語弊があるが、少なくとも出力される言語に対して悪意が籠っているようには感じない。
だからこそ、ヒナの諫める態度もそこまで徹底したものではないのだろう。
それはそれとして、調子に乗らないように勝手に出てくる杭を打つことは怠ってはいなさそうではあるが。
「そら、リーダー様のお許しが出たぞ。当人の許可があるなら何の問題もあるまい?」
「……結城君、我慢できなくなったら私に言って。相応の報いは与えるから」
「その時はアタシも混ぜろ。というかそういうの関係なく今シバいていいか?」
「……彼女をどうこうするの問題より、早く話を終わらせる方が先ではないか?明日は休みとはいえ、誰もが休日を謳歌出来る身分ではあるまいに」
脇に逸れつつあった流れを、ツルギが間に入って修正する。
戦闘時の荒れ狂う気性は今や鳴りを潜め、冷静さを取り戻している。
彼女の二面性は二重人格というよりも、ハンドル握ると性格が変わる的なアレなのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
今日が初対面なのに彼女の性質を理解出来るはずもないのだから、推測の域をでないのも当たり前である。
そんな彼女の気質に興味がないわけではないが、気安く尋ねられるほどの関係でもないし軌道修正した流れを戻すわけにもいかないので、マコトの問いに素直に答えることにする。
「個人的に気になった点としては……みんなのペルソナは長持ちしていたなと」
「そういえば、我々は一度ペルソナを顕現すれば出ずっぱりなのに対し、お前はペルソナで攻撃する度にいちいち例の拳銃で頭撃ってたな」
シロコがペルソナに覚醒したあの夜、自分と最も近い距離で戦闘していたネルがそう呟く。
「それに……身体能力も。俺はあんな大立ち回り出来るほどの動きは出来ないかな」
身体能力が全く変化しないということはないが、ペルソナがするならともかく、彼女達自身がするような武器の一振りでシャドウを複数纏めて薙ぎ払ったり、振り下ろしで砂を爆発したかのような勢いで巻き上げるような人並外れた動きは間違いなく不可能だろう。
「それを言うなら、貴方のペルソナもよ。貴方の使うペルソナは、本体の力もそうだけど魔法の威力も私達とは比べ物にならないわ」
「言うほど違ったかな」
「違うわね」
返す刀で否定され、言葉に詰まる。
「貴方が使った炎の魔法、アギだったかしら。私が使う闇の魔法――でいいのかしら。とにかく、マハエイガという範囲型の魔法と比較して、威力と効果範囲共に間違いなく劣っているわ。私はエイガという単体特化の闇魔法も覚えているのだけれど、それと貴方のアギを比較しても、マハエイガ同様全てが負けていると確信しているわ」
「経験の差ということは?記憶喪失とはいえ、その全てが失われるということはあるまい」
「身体が覚えてる、と言いたいのでしょうけれど……肉体と精神は別物よ。勿論、貴方の意見の全てを否定するつもりはないけれど、まだまだ未知の多い現象に対して、私達の常識が通用するという前提で語るべきではないと思う」
「まぁ、そりゃそうだよな。そもそもアタシ達とコイツでペルソナの出し方が違う以上、同じなようで別物って考えても良いくらいだ」
「きちんと検証したわけではないから何とも言えないけれど、出しっぱなしだからといって身体に負担が掛かるとかそういうのはないどころか、むしろ調子が良くなっている辺り、その解釈で進めても良いとは思うわ」
召喚器による疑似自殺とヘイローの破壊。
疑似的な死を再現するという点は共通しているが、その手段には絶対的な違いがある。
何せ彼女達は拳銃で撃ち抜かれた程度で死を実感できない体質を持つ。
外見こそ同じ人でありながら、まるで有名なアメコミヒーローみたいな身体機能を有している彼女達にあって自分にはないヘイローという光輪。
ヘイローが顕在するキヴォトスでは超人的な肉体を発揮でき、ヘイローが消える影時間では弱体化。
ペルソナの発現と共に復活したヘイローを破壊した瞬間、その代替のように現れるペルソナ。
そして、ヘイローが破壊と共に喪失したにもかかわらず身体能力は復調していたという事実から鑑みるに、ヘイローそのものが何かしらの力の要因となっているのではないだろうか。
今の考察を全員に話してみると、一同神妙な面持ちで考え込む。
「――つまり、私達のペルソナはヘイローが形を変えたもので、貴方のペルソナとは同じなようで違う概念だと?」
「テストケースが少なすぎて判断が難しいが、同じ身体的特徴を持ちながら歴然たる身体能力の差がある理由にヘイローが関わっているという点は間違ってはいないだろう」
「ペルソナの性能の差もだが、ヘイローが身体能力を向上させる性質を持つとして、召喚の方法からヘイロー=ペルソナと解釈すると、ヘイローの代わりにペルソナが出現しながら身体能力が喪失しない理由にも説明がつく」
「つーか、アタシ達の身体能力も向上したと言うより元に戻っていると言った方が正しいな。今はそうだな、全身に何重にも重りを付けているような感じだな。それでもペルソナ覚醒前に比べればだいぶ楽になったんだがな」
ネルは飛び上がるように立ち上がり、座り続けて硬くなった身体をほぐすようにストレッチやら歩き回ったりし始める。
「そうだな。君は私達の身体能力を評価してくれたが、それでも普段より数段劣化している。個人差はあるが、少なくとも私はミサイルの一発程度では大したダメージにはならない程度には頑丈という自覚はある」
「比較はしてないが、現状丈夫さだけならキヴォトスの獣人達と大差ないだろう」
「アタシも似たようなもんだ。銃弾バカスカ喰らっても平気で突っ込める身体が、シャドウの殴打はまともに喰らえば怯んじまう程度にしか戻ってねぇ」
「あれでも……?」
「信じられないでしょうが、事実よ、というよりも、それぐらいじゃないと日常的に弾丸蔓延るキヴォトスで治安維持や特殊部隊のトップなんて出来ないわ」
最も常識的な判断ができるヒナからそう保証されては、もはや疑う余地もない。
以前アロナがシッテムの箱のバリアについて、対艦ミサイルの攻撃にも耐えられると説明していたことを思い出した。当時は大げさな表現だと思っていたが、実際にミサイルに生身で対抗できる人物が複数存在すると知り、その認識を改める必要が出てきた。
例題にミサイルが挙げられたということは、実戦に近い威力の攻撃を受けて検証されているということだ。つまり、キヴォトスではそのような強力な攻撃が、頻度は不明ながら日常的に起こり得るということを示している。
実際、キヴォトスでは銃撃戦が挨拶代わりだと何度も聞かされてきた。
無気力病の影響で最近は減少しているらしく、私自身はまだそのような危険な場面に遭遇していない。
しかし、銃撃戦が日常なら、ミサイルが使用されることも十分あり得るのだろうと、自分の中の常識が徐々に書き換えられていくのを感じる。
シャドウとの戦闘も確かに命を賭けた戦いだが、危険度で比較すれば、むしろキヴォトスでの日常生活の方が遥かに危険かもしれない。
「──おい、こっち来てみろ。静かにな」
歩き回った末に壁に寄り夜景を眺めていたネルからの言葉に一同何事かと互いを見合わせるも、その真剣な声色から何かあると判断し、指示に従い彼女の隣まで身体を寄せる。
砂と廃墟ばかりで凡そ生命の息吹を感じられない光景の中、米粒ほどのサイズで動く何かが視界に映る。
一方向に動くそれの後ろには等間隔に刻まれた点のようなものが続いており、恐らくあれは足跡だろう。
「あれは……」
「ロボットだな。砂塵対策かかなり着込んではいるが、僅かに見えるパーツを見る限り軍隊のそれだ」
マコトの呟きに自分を除く全員が無言で頷く。
自分も特別視力が悪い自覚はないので、彼女達の優れた身体能力の延長なのだろう。
「よく見えるね」
「目の良さはは戦局に大きく影響するからね。伏兵や遠距離のスナイパーの位置を把握したりと、割と重宝しているわ」
「などと言ってるが、コイツ自身はそれらの射撃を敢えて受けて敵の位置を把握するという頭の悪い戦法を愛用してたりする。笑えるだろう?」
「……別にいいじゃない、効率的だし。別に許可制でもないのだから、やりたい人がやればいいのよ」
「誰もがお前みたいなゴリラじゃないんだ。いや、私のしたことがゴリラに失礼だったな」
「やめろ、話が進まん」
恒例となったヒナとマコトの言い争いが始まったが、ツルギの小声ながらに低く重い一括によりすぐさま収まる。
「私の記憶違いでなければ、あれは【カイザーコーポレーション】お抱えの武装組織で使用されているパーツだと思うのだが」
「そうだな……確かにそう見えなくはないが、この距離では偽装かどうかまでは判断がつかん」
「でもよ、偽装するにしたってよりによってカイザーお抱え部隊を選ぶのはあまりにもリスキーだろ」
ふと話題の中に挙がったカイザーコーポレーションに意識が向く。
確かあそこは、アビドスの借金問題に大きく関わっていた筈だ。
しかし、それ以外のことは知らないことに気付く。
「カイザーコーポレーションって?」
「キヴォトスで多数の事業に手をかけた大企業で、それらを総括してそう呼ばれているわ。民間軍事会社や兵器販売に始まり、銀行経営や最近はリゾート開発にまで着手しているようね。多方面に事業の手を広めているから、一般人にも広く名が知られているわね」
「見たことないか?タコのロゴマーク。あれがカイザーのグループ企業で使われいるシンボルだ」
思い返すと、紫関ラーメンを食べに行った際に町中にちらほらと見かけた気がする。
まったく意識していない状態でそれなのだから、意識して観察すれば果たしてどれだけ見つかることやら。
「カイザー自体は新気鋭というほどではないが、老舗といえるほど息の長い企業を手掛けているわけでもない中堅どころなのだが――そうとは思えないレベルの資本とその節操のなさで上手く成り上がっている。その飛ぶ鳥を落とす勢いな事業拡大っぷりから、カイザーは裏であくどいことに手を染めているなどという噂も絶えない」
「今んところは噂レベルだけど、火の無いところに煙は立たないとも言うしな。まっとうに成長したっていうなら良かったねで済む話だが、立場上世間話の域を超えたネタは耳に入っちまう」
各々から好意的には思えない反応が返ってくる。
これが十把一絡げな誰かの発言なら、世間のイメージやらも含んだ真贋入り乱れた内容だろうと切って捨てるところだが、こと彼女達の意見ともなればそれだけで信憑性が生まれる。
「結城君は知らないと思うけれど、悪人が跋扈する場所として有名なところにブラックマーケットが挙げられるわ。闇ブローカーを始めとした裏商売が当たり前のように展開されていて、そこではキヴォトス人ですら危険性のある違法弾薬といった危険物を取り扱っていることもザラなの。だからこそ踏み入れる者も少ない上、徹底して情報の漏洩を防ぐことに余念がない。下手に手を出せば、次の日には行方不明だなんて決して与太話ではないわ」
「実際、そういった話には枚挙に暇がない。敢えて隠し立てしないことで脅威を見せつけているのだろうが、それ以上に」
「ゲヘナの情報部は優秀だが、それでも片手間で情報を得られるほど容易い場所ではないのは確かだ。本腰を上げればいざ知らず、現状リスクを抱えてまで調査する理由もない」
「アタシは仕事柄ブラックマーケットと関わることはあるが、どちらかと言うとケチな悪党が隠れ場所に使うからってだけで、詳しい市場事情とかは門外漢だ」
各校を代表とする面々が口々に語るのだから、ブラックマーケットが危険な場所であることは嫌でも理解できた。
「――で、そんな非合法の坩堝みたいな場所に、色々と後ろ暗い噂の立つカイザーコーポレーションが果たして関わっていないと思うかって話」
「ま、普通は疑うよな」
「それを言ったら多かれ少なかれどの企業にも言えることではあるが……それよりも、砂漠の横断という危険行為を単独かつこんな深夜に隠れるように敢行するなど、怪しいことこの上ない。とはいえ、憶測で語れるほど容易い話題でもなし。この件は一旦持ち帰ってみないことにはどうしようもない」
「下手に接触して何かあれば色々不都合が起こるのはこちらも同じ、か。仕方ないわね」
「ならばせめて情報共有用の証拠だけでも確保したいな。スマホで撮れるか?」
「無理だ。距離が遠すぎてピンボケするし、それ以前にフラッシュ機能でバレかねない」
「ヒマリに連絡入れてハッキング掛けてもらおうにも、そもそも監視カメラがあるような場所でもなし。八方塞がりか」
皆が頭を悩ませているところ、ふとシッテムの箱の存在を思い出す。
シッテムの箱を通じてアロナに文章データで語り掛ける。
『アロナ、【シッテムの箱】に写真撮影機能はある?』
数秒の間を置き、まるで慌てたかのように怒涛の文章が飛び込んでくる。
まさか寝ていたのだろうか。いや、時間帯的に寝ていてもおかしくはないのだが、一応あんなでもデジタルデータ扱いの筈。
果たしてどこまで生身の人間と同じ接し方をすべきなのかと悩んでいると、返信が返ってくる。
『え、えっとですね!【シッテムの箱】にそういった機能はありませんが、画像の解像度を引き上げたり、写真のフラッシュ機能を停止するアプリを他の媒体に送信することは可能です!ものの数秒で完了するので待っててください!』
どうやら可能らしい。
何気に初めてシッテムの箱の高度な機能を実用した気がする。
「ねぇ、誰のでもいいからスマホ貸して」
「別にいいけど、どうするの?」
「多分、さっきの問題を全部解決できるから」
こちらの抽象的な物言いに訝しげながらも、ヒナがこちらにスマホを手渡してくる。
アロナの指示に従い画面を操作した結果、宣言通り数十秒でアプリの送信が完了した。
「これ……凄いわね。倍率限度もそうだけど、天体望遠鏡レベルではっきり見える」
「うおっ、マジだ。しかもフラッシュも焚かないし、何ならそれ以外にも機能あるしで有料アプリでもこんなスペック出せねぇぞ」
「それどころか、スマホのスペックを超越していると言われても納得できる程度には隔絶している。これを君が、というよりもその【シッテムの箱】とやらがやったのか」
「そうだね。自分でも出来るかどうか賭けだったけど」
現状シッテムの箱――というよりも、それを管理するアロナが漠然と凄いということは理解しながらも、何ができて何ができないのかという部分はまったく把握できていない。
アロナに聞いてみるべきなのだろうが、逆に情報過多で混乱しそうな予感もする。
普通の携帯機器でさえ全部の機能を使いこなせる気がしないのに、それを遥かに上回るスペックのものなんて持て余す未来しか想像できない。
「だが、これで奴の姿を収められる。ヒナ、とっとと写せ。それと終わったらそのアプリを寄越せ」
「アプリに関してはお断りよ。悪事に加担する気はないわ」
「な、何に使うなど言ってないだろう。頭から疑うのは良くないぞ?」
明らかに何かするつもりだったと言わんばかりの動揺を見せるマコトを無視し、ヒナは目的の写真を複数枚撮影する。
その写真を通じて、ようやく彼女達が見ていた世界を共有することができた。
「取り敢えず、連邦生徒会に報告だな。そうすれば自然とアビドスにも話が行くだろうし、対応はそっちに任せようぜ」
「そうだな。アビドス敷地内の問題となれば、私達が介入できる要素はない。私達に出来ることは、この情報を伝え、助けを求められた時に応えることだけだ」
学園を跨いだ案件ともなれば、自分達のような特殊な立場でも簡単には動けない、
直接シロコ達に報告したいところではあるが、精査の取れていない情報を教えるのはむしろ悪手になりかねない。
「そんなことより――確か明日だったか?例の連邦生徒会が建てた施設が開店するのは」
「【C.A.N.A.A.N.】だったかしら。私達は直接関与していないから詳細は不明だけれど、例の地下施設に私達用の部屋も用意されているようだし、今後拠点として運用することを考えるとそろそろ実際に確認する必要がありそうね」
「確かあそこだけは例外的に銃の所持を禁じられるんだったか。キヴォトスでは異例中の異例の処置だが、一度その価値を知れば誰も文句など言えなくなるだろう」
「更に万全を期して直属の特殊部隊を警備として配属するときた。全部ひっくるめて如何にあのビルが連邦生徒会にとって重要な建物かを理解できる知能があれば、大人しく従うだろう」
「生徒なら誰でもミレニアムクラスの技術設備が使えるってなればその恩恵はキヴォトス全体に影響出るのは間違いねぇし、万が一暴れて設備が使えないなんてことになりゃあ責任問題は個人に留まらないだろうな」
「たった一人のやらかしであらゆる学園から吊し上げされる可能性が生まれるとなれば、その扱いも慎重にならざるを得ない。誰でもとは言っているが、実際は学園側から足切りが行われるだろう」
「因みに我がゲヘナに関しては対象に厳選に厳選を重ねている。億が一にも与り知らぬところで我が栄光に傷がつくようなことがあってはならんからな」
「……まぁ、連帯責任の範囲が広すぎる以上対処は必要よね。たまには役に立つじゃない」
「ふん、私頑張ってますアピールなんて女々しい真似するわけなかろう。貴様が認識していないだけで、私は常々忙しいんだ」
銃の持ち込み禁止――自分にとっては当然の規則だが、キヴォトスの住民たちの反応を見る限り、彼らにとってはそうではないようだ。
この常識の違いがどれほどの影響を及ぼすのかは定かではない。しかし、寒い日に薄着で外出することを避けるように、自己防衛の手段を手放すことは、彼女達にとって大きな不安やストレスとなるだろう。
そして恐らく、その決断を下したのは同じキヴォトス人である誰か――ほぼ間違いなく連邦生徒会関係者だろう。
その人は既存の常識にとらわれない柔軟な思考の持ち主であり、同時にこのような大胆な方針を実行に移せたということは、その人が強い権力と多くの人々を説得できる人望を兼ね備えていたことを示している。
最初はリンの提案かと考えたが、彼女は連邦生徒会長という重圧を跳ね除けてまで既存のルールから大きく外れた大胆な政策を打てる人物には思えない。
決してそれが悪いと考えているのではなく、あくまでも得手不得手や適性から外れているというだけの話だ。
「――さて、そろそろ動いても問題はないだろう。随分時間は掛かってしまったが、相応の収穫はあったし、とっとと帰るぞ。眠くてかなわん」
「今から徒歩で帰るのか……いつものこととはいえ、こればかりはマジでダルいなんてもんじゃねぇ」
「これから活動が活発化することを考えると、真面目に移動手段を考える必要がありそうね」
「少なくとも、砂漠地帯でもスムーズに動ける手段は欲しいところだな。とはいえ、出来るだけ目立ちたくないのも事実。悩みどころだな」
「その辺りも含めた面倒ごとはすべて連邦生徒会に丸投げすればいい。何ならこちらから言わずとも既に対応していて欲しいぐらいだ」
――結局、話題の起点にされた以降は脱線も含めてほとんど彼女達の独壇場となってしまったが、どうにか反省会は終了した。
明日からC.A.N.A.A.N.がオープンするという楽しみ以上に、今すぐ帰って寝たいという欲求に後押しされる形で足取り重く帰路に就いた。