PERSONA3×Blue Archive~Re:Tales Of Our Youth Days   作:花極四季

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明日はモンハンワイルズ発売に加え、しばらく神ゲーラッシュが続くので筆が止まるの確定なので急ぎ投稿。
ランスはいいぞ。なんか不人気枠だけど、コンスタントにダメージ与えられるし製品版だとガッツリ強化されるらしいので、この機会にどうぞ。

それはそれとして、試験的に連続した地の文の間隔をより細かく開けてみました。
多分前より目が滑りにくくなった、はず……


19話

 あれから双子姉妹のモモイとミドリとゲームセンター内を回り、待ち時間の少ない場所を選んでゲームを楽しみ、自分は別の場所も見て回りたいという理由で別れた。

 最初はこちらに同行するような流れだったが、とあるゲーム筐体を前にして興奮した二人の意識はそれに釘付けとなっていた。

 その興奮に加え筐体前に長蛇の列から、それがかなりの人気タイトルであることは明白だった。

 興味がないと言えば嘘になるが、待機しているだけで一日の大半が潰れかねない勢いだったので、仕方なく今に至るというわけだ。

 

 相変わらず通路は生徒でごった返しているが、最初の勢いに比べて落ち着きを取り戻していた。

 開店前の無機質で寥々たる雰囲気とは一転して、どこを見渡しても活気と生命で溢れている。

 無気力症なんてものが流行っているとはとても思えないほどにビル内は賑わっている。

 

 ただ、自分にとってはこの熱は少々堪える。

 周りの生徒と比較して覇気がないと言われればそれまでだが、そういう気質は気持ちだけで変えられるものでもない。

 ただでさえ才羽姉妹の溢れるバイタリティに中てられて、疲労がガンガン積み重なっているのだ。

 どこか静かな場所に腰を落ち着けたいと考えるのは、ごく自然の摂理だろう。

 

 静か、という一点においては自室に戻るのが一番だが、それではあまりにも味気ない。

 それに、入退室を繰り返すほど目立つリスクが高まる以上、可能な限りそれは避けたい。

 

 様変わりした風景を眺めつつあてもなく彷徨っていくうち、ひとつの施設に視線が止まる。

 

「図書室……」

 

 荘厳さを感じる両開きのドアの上にある看板にそう記載されている。

 ドアのデザインも近代的なデザインが散見する中で、古ぼけた感を敢えて演出したクラシック風を採用している。

 その落ち着きのある佇まいから、ここならば落ち着いて休憩できそうだと判断し、その古めかしいドアに手を掛ける。

 

 微かに音を軋ませて広がった景色の先は、ドアのイメージから綺麗に結びつくものだった。

 想像以上に奥行きのある一室に、所狭しと並ぶ本棚に、そこに隙間なく敷き詰められた本の数々。

 学年生活が三年と仮定して、毎日通ったとしてすべて読み尽くせるとはとても思えない蔵書の数々。

 

 ドアを閉じてしまえば、外界から切り離されたかのように外からの音が聞こえなくなる。

 徹底した遮音性により、本を読む環境を余念なく仕上げている。

 

 室内を散策してみると、外と比較して圧倒的少数ではあるが生徒は見受けられる。

 しかし、その中でも読書をしている者は僅かで、どちらかというと自分と同様静かな場を求めて訪れたといった風の生徒が多数を占めている。

 

 キヴォトスの著しい機械化が進んだ社会において、年頃の学生が紙の書物を読むという習慣はあまりないのだろう。

 連邦生徒会がそれでも敢えて限られたスペースを消費してまでここを設けた理由は不明だが、何にせよ都合が良い。

 

 とはいえ、一部生徒のように開け広げにテーブルで熟睡できるほど神経は図太くはない。

 図書室はあくまで本を読む場所。その常識に逸脱しない程度の体裁は整えるべきだろうと、適当に本を探すべく歩き出す。

 

 膨大な蔵書を前に漫然と本の装丁にあるタイトルを眺めつつ歩いていると、いつの間にか入り口からかなり奥まった場所にまで辿り着いていた。

 室内の光も万全に行き届かず本棚で影が出来るほどに端のコーナーにある本は、タイトルを見るだけでも眠気を誘いかねない難しい言葉の羅列で構成されたものばかり。

 

 普通の学生ならまず視界にすら入らないレベルの本の数々は、大衆向けタイトルに押し出されるように暗い影の中に埋没している。

 こればかりは世の常というか、需要の関係でなるべくしてなった結果でしかないのだが、人ひとり寄り付かない孤独な空間は安らぎよりも不安を刺激させる。

 

 そんな光景に、自分以外の異物が混じりこんでいることに気付く。

 等身の倍以上の高さはあるアンティーク調の脚立に昇り、その頂点からさらに背伸びして本を取ろうとする少女の姿があった。

 ライムグリーンのリボンでツインテールに纏めた眼鏡の少女が、ミニスカートである事実を意識していないかのように本を取ることに集中している。

 

 あんな不安定な足場で爪先立ちをしてもなお目当てであろう本に指が届かないのか、身体を震わせながら必死に身体を指の先まで伸ばした状態のままでいる。

 振動は必然的に脚立にまで伝播し、小刻みに震えている。

 

 従来の足場なら何ら影響のない程度の振動だが、縦に伸びた性質の足場の頂点ともなれば話は変わる。

 垂直に物体の長さが伸びるに連れて、水平方向に力が働くことでの傾きが生じやすくなる。

 そうならないよう補うために支柱を増やしたり、より安定した接地面を確保するのだが、移動式の脚立にそれを望むべくもない。

 

 改めて周囲を観察してみるも、やはり自分と彼女以外の人が寄り付く気配はない。

 つまり、万が一があった時に彼女を助けることができるのば自分だけということ。

 最悪の可能性を想起し、それが自然と彼女の下へ向かう足を急がせる。

 

「あっ――」

 

 果たして、どちらが漏らした声だったのか。

 静寂の中刹那に響いた音と共に少女は脚立の上から投げ出される。

 瞬間、周囲への騒音配慮も忘れて自由落下を始めようとした少女の下へと駆け出す。

 

 この状況を予期して距離をある程度詰めていたこともあり、救出手段を問わなければ十分間に合う。

 問題は、少女が高所からの落下を代償に手に取った少女が、それを大事に抱えているせいで受け身の姿勢を一切取っていない点だ。

 いくらキヴォトスの生徒が丈夫とはいえ、万が一が無いとは言い切れない。

 

 逡巡の果て、覚悟を決める。

 全力で大地を蹴り、少女の真下に滑り込むようにしつつ身体を反転させる。

 瞬間、少女は地面に激突することなく自分の身体をクッションにする形で着地に成功する。

 

 しかし、下敷きとなったこちらにはそんな事実を確認する余裕など一切なく。

 腹部を中心に広がる痛みと、内臓が飛び出るような衝撃を声に出さないように留めるので精いっぱいだった。

 

「あ、あれ?痛くない……って、え?」

 

 少女自身覚悟を決めていたのか、しかしその予想を裏切る結果となり困惑しながら周囲を見渡し、下敷きにしているこちらを視界に収めることで自身が置かれている状況を少しずつ理解し始める。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 図書館であるという事実を忘れたかのように少女は叫ぶ。

 仕方ないことではあるのだが、正直それは悪手だ。

 予想通り、遠くから徐々に喧騒が高まっていくのが聞こえてくる。

 矛盾していることは理解しているが、それでも目立ちたくない身の上としてはこれ以上の騒動に発展させたくはない。

 

「大丈夫、だから。それより、ここを離れよう」

 

「で、ですが――」

 

「お互い、悪目立ちしたくないと思うんだ」

 

 幸い、落下の際に他に何かを巻き込んだということもなく、このまま立ち去れば明確な痕跡を出すことなく姿を隠すことは出来る。

 

「わ、わかりました。なら、こっちに」

 

 少女の見た目にそぐわない腕力で勢いよく起き上がらせられると、身長差で不格好な肩貸し歩行で迫りくる音から逃れるように移動する。

 幸いというべきか、図書室そのものが広いこともあり、身を隠すこと自体はそこまで難しいことではなかった。

 

「ふぅ……」

 

 少女に体重を預ける形となったことで負担が大きかったのか、手頃な場所に辿り着く頃には軽く汗ばむ程度に疲労していた。

 

「えっと、改めて大丈夫ですか?」

 

「うん、意外と平気」

 

 それは強がりでもなんでもなく、事実だった。

 衝撃の瞬間こそ意識を手放しそうな威力を感じたが、肉体そのものに傷と呼べる傷はない。

 小柄とはいえ人ひとりが高所から落下する衝撃を一切の減衰なく受け止めたのだ、本来なら骨折程度では済まないはず。

 だが、結果だけ見れば両者ほぼ無傷。

 キヴォトスの生徒である彼女なら理解できるが、自分はそうではない。

 

 だが、この身体強度の原因に思い当たる節はある――ペルソナだ。

 ヒナ達は影時間においてペルソナ覚醒後から身体能力を向上、というよりも復活させるという結果を残している。

 だが、その復活という解釈が間違いで、向上こそが正解だったとしたら。

 自分もその身体能力の向上の恩恵を受けられているとしたら、現状の結果にも納得がいく。

 事実確認も含め、リンにはこの件を説明して検証する機会を設けるべきかもしれない。

 

「あっ、自己紹介を忘れていました。私、円堂シミコといいます」

 

 慌てて頭を下げながら名乗るシミコ。

 それに返す形でお互いに自己紹介を済ませると、途端に沈黙が場を支配する。

 半ば偶然によって結ばれた縁ということもあり、次にどのような対応をすれば良いのかで頭を悩ませる。

 シミコも何やら頬を染めながら落ち着きなく身体を左右に揺らしたりと、なんとも気まずい空気が場を支配してた。

 

 そんな折、低く唸るような音が正面から聞こえてくる。

 音はシミコの方から出たものであり、その彼女は先程以上に顔を赤くして抱きしめるように自らの腹部を抑えている。

 

「こっ、これは!今更緊張が抜けたせいで、それでっ……!」

 

 シミコはそれ以上言葉を紡ぐことができないのか、赤い顔をそのままに悪戯に口を動かすだけの状態が続く。

 だが、彼女の言いたいことはわかる。

 彼女よりも重態であろう相手がいたから意識が逸れていただけで、落下した際に感じた恐怖等が今更ぶり返してきたのだろう。

 そして、それがとうに過ぎた現実だと改めて理解したことで、安心感から腹の虫が鳴ったと。

 それだけではなく、図書室内にある巨大な振り子時計を見る限り、時間も正午に差し掛かろうとしていることも理由のひとつだろう。

 

「……すいません、お恥ずかしいところを」

 

「別にいいよ」

 

 何と声をかけても良い方向には行かないだろうと敢えて沈黙を貫き、ようやく彼女が復活したところで正午を告げるクラシックな音楽が流れ出す。

 

「え、っとですね。助けてもらったお礼に、折角ですからお食事でもどうですか?」

 

「別にお礼して欲しかったつもりじゃないけど……君がそれで満足するなら」

 

 シミコの如何にも真面目そうな印象から、提案を断っても無駄に押し問答になりそうと判断し素直に好意を受け取ることにする。

 

「で、では行きましょう。あ、でもその前に本の貸し出し許可登録だけさせていただいても……?」

 

 申し訳なさそうに許可を求めるシミコに無言で頷くと、騒がしくしない程度に足早に登録用のコンソールへと向かい、作業を済ませていく。

 コンソールに関しては、雰囲気重視を意識しているとはいえ、流石に全てをアナログで済ませるほどではないのだろう。

 

 事実、本来司書がいるであろうスペースは無人であり、代替として先のコンソールが複数台置かれている。

 加えて、景観を損なわない程度に巧妙に隠された監視カメラによって入退室する人物を管理している。

 仮に本を盗むような輩がいたとして、図書室の外も含めて厳重な監視が行き届いている場所ではその目標を達成するのは困難極まる上にリスクリターンが釣り合うとも思えない。

 

 だから安全、というのは楽観が過ぎるだろうが、連邦生徒会のお膝元で馬鹿をやらかす生徒がいるとも考えにくい。

 昨日の夜にも、マコトはここに来れる生徒は厳選したと言っていた。

 他校も同じ結論に至っているとすれば、この場にいる生徒達は相応に倫理観のある者達で統一されていると考えられる。

 

「すみません、お待たせしました。すぐ行きましょう!」

 

 シミコの焦りを伴う先導に従うまま、再び人の波と喧騒に飲み込まれていく。

 予想通りというべきか、フードコートはあらゆるところが生徒でごった返しており、ゲームセンターの待機列に勝るとも劣らない長蛇の光景があちこちで出来上がっている。

 仮にその列に従って食事にありつけたとしても、後続を気にしては落ち着いて食事を摂ることもままならない。

 

 数件はしごしてみたところ、やはりどこも同じということで結局適当なパン屋からテイクアウトでサンドイッチを買い、空席があるテラスコーナーに腰を落ち着けることとなった。

 

「すいません、私が持ち出し登録に手間取ったばっかりにこんなものしかお出し出来なくて……」

 

 透明なガラス越しに降り注ぐ陽光の温かさと対比するように、対面に座るシミコは申し訳なさそうに俯いている。

 

「君の責任じゃないよ。あれだけの列、三十分は早めに向かうぐらいじゃないとどうにもならないと思う」

 

 彼女の淀んだ気持ちを晴らすに足るかはわからないが、そう慰めの言葉をかける。

 言うなれば、互いに見通しが甘かった結果。

 

 とはいえ、結果論とはいえご機嫌な太陽の下でサンドイッチを嗜むというのは中々に風情がある。

 周囲にも自分達と同じく食事を摂っている生徒もいるが、ビル内と比較して落ち着いており、図書室ほどではないがここも喧騒とは遠い環境にある。

 結果としてその見通しの甘さが縁を結ぶきっかけとなったのだから、まさに人生万事塞翁が馬という奴だろう。

 

「そう言ってくださりありがとうございます。じゃあ、いただきましょうか」

 

 シミコの言葉を皮切りに、各自食事を始める。

 たまごや野菜を主体としたものから肉類を挟んだものまで紙製のバケットに包まれている。

 そのどれもがコンビニで売っているような簡易的な出来栄えではなく、ボリュームたっぷりな仕上がりとなっている。

 

 実際に食してみた感想としても、とにかく美味しいの一言に尽きる。

 瑞々しい野菜、厚く柔らかな肉――ファストフードのラインナップにも一切の妥協なく良質な素材を使用している。

 それでいて値段は学生にも無理のないリーズナブルな価格で販売されている辺り、果たして利益が少しでも還元されているのかが気になるところだ。

 

 こんなもの、とシミコは謙遜していたがとんでもない。

 今選ばれたラインナップの他に、多様なニーズに応えるようにあらゆる具材を用いたサンドイッチが用意されていることもあり、毎日昼食にローテーションで網羅していくだけで数ヵ月は飽きが来ない自信がある。

 先の発言をしたシミコもサンドイッチの質に驚いているのか、口元を抑えて目を丸くしている。

 

 そこから先は二人とも無言だった。

 美味しいものを食べる時、人は自然と無言になる。

 紫関ラーメンの時と同様に、目の前の美食に自然と意識が集中する。

 

 気が付けば、互いのバケットは余すところなく空になっていた。

 飲み物に口をつけ、一息ついたところで改めてシミコと向かい合う。

 今度こそ本当の意味でようやく一息吐くことができたと言っても良い。

 流石に礼の為とはいえ、食事だけしてはいさよならは違うだろう。

 とはいえ何から話すべきか――そう思案していると、シミコの方から話題を切り出してきた。

 

「えっと、結城さんは図書室に居たということは、読書を嗜むのですか?」

 

 その問いは、ある種当たり前の疑問だった。

 デジタル化が著しいキヴォトスという環境で、敢えて若者が紙の本を嗜むというのは想像が些か難しい。

 自身の曖昧な記憶と比較しても、キヴォトスの文明は数段未来に進んでいる。

 

 そんなキヴォトスより数段過去の文明レベルでも、本というのはデジタル化の促進と共に価値が損なわれつつあった。

 余程のこだわりがない限り、物理的にかさばる本と複数の機能を搭載した上で読書も嗜める媒体のどちらを選ぶと言われれば後者を取るだろう。

 利便性の追求と文明の発展は切っても切れない関係だ。故に、より効率の良い代替案が出てしまえば、相対的にその価値は下がらざるを得ない。

 だが、それはあくまで普遍的な幸福の定義に則った考えであり、個人レベルではその限りではない。

 

 ――脳裏に浮かび上がるのは、とある小さな古書店。

 その古めかしい雰囲気に反して置かれている本のほとんどが漫画だったが、ターゲット層である若者達はその前時代的な店構えを珍しくは思えど、誰もが一瞥して通り過ぎていく程度の地味な店。

 

 そこには仲睦まじいやり取りをする老夫婦が店番する姿があった。

 侘しさすら感じさせる小さな世界。

 本も無造作に積みあがったり、陳列方法も合理性とは程遠い適当な、商売人の矜持など欠片も感じられない店構え。

 盛況する未来など想像もつかない、時代に埋没するだけの泡沫。

 しかし、少なくとも老夫婦の表情に悲観などなく、むしろ素朴ながらに笑顔に溢れていた。

 

 商売をするための場ではなく、書店そのものにこそ価値を見出している。

 その書店は二人にとっての人生そのものであり――先立たれた息子と同様、宝物に等しい大切な居場所なのだ。

 

「特別本が好きってわけではないけど――ああいう落ち着き払った空気は好きかな。正直、あまり騒がしいのは好きじゃない」

 

 その光景が自身の記憶に紐づかれるものだとすれば、きっとその光景に思うところがあったのだろう。心にじんわりと暖かなものが広がっていくのを感じる。

 それだけで、この記憶がとても大切なものであったことが理解できる。

 

「なるほど。良いですよね、図書室の空気感。どんなに外は騒がしくても、あそこだけは独立した世界と言いますか。図書室自体もそうですが、本を読んでいる間はどんなしがらみも忘れられますし。本当ならもっと皆さんにも書の良さを知ってもらいたいのですが、どのような理由であれ今はああして図書室に足を運んでくれるだけでも喜ばしいことです。それがきっかけで、なんてこともあるかもしれませんし――」

 

 途端に目を爛々と輝かせながら饒舌に語りだすシミコ。

 その瞳の輝きに、ペロロの話題に食いついた時のヒフミの姿が重なる。

 どちらも共通して対象への愛を感じられるものであり、シミコの場合はやはり本であろう。

 

「それで、君が無茶してまで欲しかった本って何なの?」

 

 語り始めから脱線しそうな勢いで語るシミコを制するように、先程から抱いていた疑問を投げかける。

 鈍器として活用できそうなほど分厚い装丁のそれは、少女の細腕で持つには些か大変であろう大きさであり、厚さは情報量に比例する。

 

 一介の学生が手に取るような面白みのあるタイトルが皆無だった棚の、誰も手に取らないことが前提にあるかのようにその遥か上に収まっていた本。

 内容もそうだが、それを求める彼女自身にも興味を惹かれた。

 

「あ、えっとですね。これは三年の先輩から頼まれた代物でして、内容に関してはまだ読んでいないのでなんとも。ですが、概要に触れた限りでは歴史書の類ですね」

 

 そう言いながらシミコは、両腕で抱えるのがようやくといった大きなの本を器用に流し読みしていく。

 視線の動きからも漫然と眺めているのではなく、しっかり文字を追えている辺り、非常に読書慣れしているのが伝わってくる。

 

「歴史書?」

 

「歴史といっても遥か昔というわけではなく、数十年程度のものですが。連邦生徒会が立ち上げた施設の中に図書室があるとのことで、私達でも知らない蔵書が保管されているかもという理由で訪れたわけなのですが、当たりでした」

 

 歴史、と聞いて多少内容に関心が向く。

 キヴォトスそのものの成り立ちもそうだが、歴史に触れることで生徒達の常人離れした身体能力の起源や、アビドスがああなってしまった経緯等を知ることも出来るかもしれない。

 

 知れば何かを変えられるなどと、そんな思い上がりがあるわけではない。

 ただ、知りたいと思ったのだ。

 引力、というべきか。あの何もかもが失われた場所が、何故か気になっている自分がいる。

 気のせいだと意識すればたちまち消えるも、ふとした瞬間に脳裏を掠める程度の関心ではあるが、それでも琴線に触れていることは確かで。

 シロコを始めとした廃校したアビドスを復興させようと努力する生徒と交流したからなどというセンチメンタルな理由ではなく、もっと心の奥底から惹かれるような衝動が水面下で燻っている、気がする。

 

「キヴォトスの歴史、か。少し興味あるかな」

 

「それはまた、私が言うのもアレですが私達の年代で歴史に関心があるとは珍しいですね」

 

「まぁ、歴史以前にキヴォトスのことも良く知らないから」

 

「……その言い回し的に、キヴォトスの外から来たのですか?」

 

「恐らくね。記憶喪失だから絶対そう、とは言い切れないけど」

 

「そう、ですか……。キヴォトスの外に関しては書物程度でしか情報を得る手段がないので、是非どんな場所か伺ってみたかったのですが、それなら仕方ありませんね」

 

 そう言いつつも、シミコの様子から残念な気持ちが隠しきれていないのが見て取れる。

 だが、曖昧な記憶で適当なことも言えるはずもなく、こればかりはどうしようもないとしか言いようがない。

 

 そんな会話を続けていた折、何か目覚めたかのように身体を跳ねさせそわそわし始める。

 

「どうかした?」

 

「えっと、実は……先輩から見つけ次第すぐ戻ってくるようにと言われてたのをすっかり忘れてました」

 

 確かにそれは問題だが、ただそれだけにしては反応が過剰にも思える。

 

「そんなに急ぎなの?」

 

「いえ、特別急ぎではありません。正直もっとあの図書室を調べたいなって欲はありますが、ただ……」

 

「ただ?」

 

「あの人のことだから万が一早期に見つけた上でここを満喫したと知られれば、明確に言葉にはしなくとも恨み節な目で見られそうだな、と」

 

「……お使い頼んでおいてそれって、結構酷くない?」

 

「いえ、確かにあの人は偏執的というか、何事も露悪的な判断をしがちな人ではありますが、書に向き合う姿勢に関しては素晴らしいんです。だからきっと、今回のことも私が考える以上に重要な行為なんだと思います!」

 

 それはつまり、人間的には駄目な奴だと暗に告げているだけなのでは?という言葉を飲み込む。

 天は二物を与えずなんて言葉があるように、人格と能力その両方が必ずしも優れている保証はないのだから、いちいち目くじらを立てるほどでもないのだが、偏屈な印象はどうしても付きまとう。

 

「……そういうわけでして。結局大したおもてなしも出来ないまま、こちらの都合を優先させる形となってしまい、申し訳ありません」

 

「別に、サンドイッチ奢ってくれただけで十分だよ」

 

「ですが――いえ、でしたらキヴォトスの歴史を始めとして、色々な知識をお教え致しましょうか?」

 

「こちらとしては願ったりだけど、いいの?」

 

「はい。こちらとしても単一の視点だけでは得られない情報を得ることができるという点でも利点がありますから。何より、キヴォトスに対して偏った認識を持たない外部からの視点というのは、それだけで非常に得難いものですので、結城さんさえ良ければお互いに損はない話だと思います」

 

 シミコの提案は非常に魅力的だ。

 キヴォトスの常識に明るくない個人で闇雲に勉強したところで効率が悪いのは明白。

 自ら進んで教えると言うぐらいなのだから、相応に知識人であることは確かだろう。

 そんな彼女と交流を深めていけば、自然と【知識】を磨くことができるかもしれない……。

 

「なら、是非お願いするよ」

 

「はい、では――今後ともよろしくお願いしますね、結城さんっ」

 

 

 

 

 

 

 我は汝…… 汝は我……

 

 

 

 

 

 

 汝、新たなる絆を見出したり……

 

 

 

 

 

 

 

 絆は即ち、まことを知る一歩なり。

 

 

 

 

 

 

 汝、"隠者"のペルソナを生み出せし時、

 

 

 

 

 

 

 我ら、更なる力の祝福を与えん……

 

 

 

 

 

 

 互いに握手を交わした後にモモトークのアドレスを交換する。

 正直なところ、幾ら彼女自身にメリットがあるとして、ここまで尽くしてくれる理由がわからないでいる。

 それだけ彼女が恩義を感じてくれているだけなのかもしれないが、過剰に感謝されるのも居心地が悪い。

 

 ふと、自分の記憶が戻ることを期待して繋がりを持ちたいのではという可能性に行き着く。

 それならばそれなりに納得がいくが、そこまでするほどキヴォトスと外は隔絶された関係にあるということなのだろうか。

 そんな場所に、何故自分が記憶を失った状態で孤立無援で立っていたという事実。

 彼女との交流は、その答えを知る一助になれるかもしれない。

 

 それからシミコが慌ただしく一礼し足早に立ち去る背中を見送る。

 残っていた飲み物を一気に飲み干し、テーブル上に残された彼女の分のゴミと共に食後の後始末をし、ひとりテラスを後にした。

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