PERSONA3×Blue Archive~Re:Tales Of Our Youth Days 作:花極四季
サクラコとキリノと別れを告げ、道中でユメに事情を説明し、電車を通じてミレニアムサイエンススクールにまで足を運ぶ。
目的地に近付くにつれ、より近未来的雰囲気を醸し出す景観を眺めているだけで退屈せずに済んだ。
搭乗した電車も快適そのもので、意識しなければ音どころか揺れひとつ感じなかった程度には優れており、空調も適温そのもの。
ミレニアムの校章が電車の車体側面に刻まれていたことから、これがミレニアムの監修によって製作されたものであるのと同時に、その技術力の高さを誇示――いや、宣伝していることが伺える。
かくして技術の粋を堪能しきる前に目的地に辿り着き、ここからは徒歩で向かう。
電車内でもそうだったが、才羽姉妹が着用していた制服の生徒と良くすれ違うようになってきた。
当たり前といえば当たり前なのだが、こちらが抱くミレニアムのイメージと彼女達ではどうにも上手く嚙み合わないせいだろう。
これは決して悪く捉えているのではなく、むしろ親近感と呼ぶべきものを感じているだけ――それだけの筈だ。
「おーい、こっちこっち!」
聞き覚えのある声の方向へと視線を向けると、手を振りながら飛び跳ねるモモイの姿が視界に入る。
道行く人々がそれに注目しており、その声が誰に向けられているのかに行き着くのは時間の問題だろう。
視線が集中される事態を防ぐべく、なるべく自然な早足でモモイの下へと向かう。
「久しぶり!――というには大して開きはないけど、まぁいいでしょ。早速案内するからついてきてね」
モモイの後に続く形で辿り着いたミレニアムサイエンススクールは、とにかく綺麗だった。
飾り立てた華美さではなくその逆で、あらゆる建築物が白を基調とした色調で彩られており、差し色に水色や硝子の透明感が装飾されているのがほとんど。
機能美を重視したシンプルな造形でありながら、決して無個性ではない。むしろ遊び心を取り入れた、いかにもものづくりを学ぶ機関らしい雰囲気だ。
ミレニアム内の移動手段にモノレールが採用されていたことにも驚いた。土地規模としてはそれぐらいあって然るべきであることは納得できても、実際に用意されていたとなれば流石に驚く。
とはいえ、これもミレニアムの技術力あってのものだろう。
実感こそ薄いが、本来キヴォトスは銃弾飛び交うのが日常であり、そんな環境で高額設備を当たり前に用意できる学園なんて稀だと思う。
壊れて直してを繰り返していれば、幾ら資金があっても足りない。
だが、技術者を輩出する学園となれば、スポンサーやら何やらとの繋がりでその辺りの都合がつくのかもしれない。
確かな根拠があるわけではないが、道中で乗った電車然り、決して的外れというほどではないはず。
「とうちゃ~く!ここが私達の城――【ゲーム開発部】だよ!」
両腕を投げ出すようにゲーム開発部の入口を指し示すモモイ。
仰々しく表現しているが、特に装飾されているわけでもなく至って普通の扉が目の前にある。
どのような反応をすれば良いかもわからず、生返事で頷くことしかできない。
「ノリ悪いなぁ。ここはもっとオーバーに反応するところだよ?」
「勘弁して」
ふと、脳裏に浮かぶ不鮮明な記憶。
同じクラスの、転校してから初めての男の友人であり、共に死線を潜り抜け背中を預け合った仲。
今のモモイのように感情を表に良く出す、自分とは対極の人物。
未だに名前も思い出せないくせに友人を名乗るのもおこがましいが、そうとしか形容できない。
それにしても、扉の奥がどうにも騒がしい。
室内を走り回ったり物を動かしたりといった感じの騒音。
少なくとも、部外者が入れる雰囲気ではない――そう判断したこちらを尻目に、モモイは何の躊躇もなく室内に入っていった。
「お、お姉ちゃん!?それ、に――」
部屋の中心には、段ボールに入った溢れんばかりのゲームソフトを抱えたミドリの姿。
ミドリと視線が合うと、たちまち彼女の目が見開くと共に顔が赤くなっていく。
こんなところを見られたくなかったのだろう。それも無理はない。
入口から全体を見渡せるほどの広さしかない一室に、整理整頓という言葉をどこかに置き去りにしたかのような光景が広がっているのだから。
室内はお世辞にも片付いているとはいえず、掃除の途中らしき痕跡が床に点在している。
この光景を見て、先のモモイの誘いが完全な思いつきによるもので、そのためにミドリが掃除を担当してモモイが案内役と分担した結果なのだろうと推測する。
実際、時間にして一時間と少しでここに辿り着いたことを考えると、たった一人でこの雑多に物が置かれている場を整理するには時間が足りないのは明白。
偏見を承知で言えば、この部屋は男子がイメージする女子の部屋とはかけ離れている。モモイのイメージには合致してもミドリには当てはまらない。
部屋を散らかす原因はモモイであり、ミドリはその疑似的被害者。そしてその後始末を当事者ではなくミドリがしている現実。
ただの妄想でしかないうえモモイを露悪的に捉えすぎなきらいはあるが、もしそれが事実だとすれば――それこそ気の毒としか言いようがない。
「お姉ちゃんっ!」
「うわっ、ちょっ!」
抱えていた段ボールを落ちていたクッションへと投げ捨て、返す刀でモモイの襟首を掴んで室内に引っ張り込み、その勢いで鼻先で閉まる扉。
一瞬の静寂の後、控えめな音と共に扉が開かれる。
隙間からはミドリが申し訳なさそうにこちらを見上げている。
「ごめんなさい、もう少しだけ待っていただけますか」
「……手伝おうか?」
「いえ、お客様にそんなことはさせられませんし、何よりお姉ちゃんがやらないと意味ないですから」
そう言い残し、再び扉が閉じられる。
あの言い回しから、こちらの想像は概ね的を射ていたことを自覚する。だからどうしたということでもないが。
しかし、見知らぬ場所――しかも何の変哲もない廊下で置き去りにされたことでいきなり手持無沙汰になってしまった。
勝手に何処かに行くわけにもいかないので、アロナの様子でも確認するかとシッテムの箱を取り出そうとしたとき、廊下の通りからこちらの名前を呼ぶ声が耳に届く。
「結城さん、ですよね。少々お時間よろしいでしょうか」
声の方向を振り向くと、菫色の長髪をツーサイドアップにした少女がこちらへ歩み寄ってきた。
ミレニアムの制服の上に黒のスーツを重ね、同色のプリーツスカートを着こなしており、顔つきこそ少女のそれだが、纏う雰囲気はまるでやり手の若手ビジネス社員のようだ。
「君は……」
「私は早瀬ユウカ。ここの2年で【セミナー】に所属しており、そこでは会計に従事しています。それで結城さん、お話ししたいことがあるのですが」
「それはいいけど……」
あまりに唐突、しかし示し合わせたかのような交流の機会に作為的なものを感じずにはいられない。
ここを訪れたのはモモイの思いつきによるもので、そこに計画性のようなものはなかったはず。なのに、さも当然のように話しかけてきたユウカ。
監視は――されていると思っていいだろう。それがミレニアムの機密保持システムに偶然引っかかったのか、ピンポイントで監視されていたのかは定かではないが、少なくとも世間話のために接近してきたわけではないのは確かだ。
「――ああ、心配には及びませんよ。私は貴方に悪意あって接触したわけではありません。むしろその逆、貴方をサポートするために派遣されたのです」
「サポート?」
こちらの猜疑心を見抜かれたのか、ユウカは居住まいを正しながら諭すように意図を伝えてくる。
「はい、連邦生徒会からの通達で、貴方の立場については把握しています。そのため、今後ミレニアムをはじめ、公私を問わず各学校を訪問する機会が多くなると思われます。ただ、事情を知らない一般の生徒から見れば貴方は部外者です。そんな貴方が当然のように校内を歩き回るようになれば、余計なトラブルの原因になってしまう可能性も考えられます。そこで、セミナーがあなたの立場を保証することで、ミレニアム内で何かがあっても事態に介入することができ、あなたを守ることができるのです」
「なるほどね。それは分かったけど、セミナーって?」
「セミナーは、他校で言うところの生徒会に属する組織のことを指します。細かいところを挙げればキリがないので、それだけ理解してもらえればと」
「了解。……それよりも、なんというか。この待遇は正直居心地悪い」
こっちはただ友人に会いに来ただけの一般人なのに、まるで要人に向ける待遇をいきなり与えられたにも等しい。
それに、そんな重要な情報リンからも聞いていない。こういうのは直接教えられるものと思っていたが、違うのだろうか。
「貴方の――というより、連邦生徒会の権限はそれぐらい凄まじいものなの。キヴォトス全土に蔓延るすべての学園、その上位に君臨する組織なのですから、その庇護下に置かれている貴方の地位も相応のものとなるぐらいの認識で良いかと」
「そんなにか……」
「その様子だと、連邦生徒会についてあまり把握していないようですね。外から訪れたという話ですし、無理もありません。ですが、先程までの認識ではそれこそ問題の引き金になりかねないので、貴方自身のためにも改めるべきかと」
漠然と連邦生徒会がかなりの権限を持つことは理解していたつもりだったが、まさか三大校の生徒会所属の生徒にさえそう言わしめるとは。
要人に向ける待遇と例えたが、あながち嘘ではないのかもしれない。
「理解はしたけど、できればあからさまな特別扱いはしてほしくない。悪目立ちしたくないから」
「ええ、そこは七神生徒会長からも沙汰が下っており、サポートといってもあくまで裏方メインで基本的に干渉することはありません。あくまでも円滑な交流が行われるように配慮する程度です。そもそもI.F.I.C.そのものが機密なのですから、その配慮も当然かと」
「そこまで把握してるんだ」
「少なくともI.F.I.C.を知る生徒会には通達済みかと。全生徒会に通達するのは、費用対効果の関係もあって流石にないとは思いますので」
「俺としても、別に遠出する予定なんてないし――」
――どうせ監視されているだろうし、その時に対応すれば問題ない。
そんな根拠のない確信が言葉として出そうになったところを咄嗟に抑え込む。
事実がどうあれ、言葉にするべきではないと思ったから。
「結城さん?」
不自然な言葉の途切れに訝しむユウカの視線に気付き、強引に話題を変えることにする。
「事情はわかった。それで、他に今からやることとかあるの?」
「いえ、今のところは何も。ああ、これを渡し忘れていました」
そうして手渡されあのは、首掛け用の紐が取り付けられているパスケース。
ケース内には銀色で塗装されたカードが入っており、ミレニアムの校章の隣には俺の名前が刻まれている。
「これは?」
「ミレニアムで使用できるIDカードです。これがあれば、一般生徒が入れる施設の入場が可能となります。というよりも、ミレニアム生と同じ待遇が受けられるようになります」
「具体的には?」
「主に食堂や自販機といった、金銭を伴うミレニアム内の基本的な施設は無償で利用可能です。無償と言っても連邦生徒会側で支出しているのであって、あくまで自費ではないというだけです。ミレニアム生の場合、自費は自費でもロイヤリティによる支払いがある生徒がほとんどなので、クレジットカードの感覚でみんな利用していますね」
「そんなに稼げるんだ」
「ピンキリではあるけれど、大半は毎日を無難に過ごす程度の稼ぎはあるかと。……まぁ、一部例外もいますが」
ユウカの視線がゲーム開発部の部室へと向けられる。
その時点で色々と察するものがあった。
「というよりも、ミレニアム生は研究第一というか、やりたいことをやるためにそれ以外に時間を割きたくないって考えるので、自然とそういう方向に行き着くといいますか」
「本当に研究に特化してるんだ」
「そうすることで成長してきた学園ですからね。学生の出す成果がミレニアムの箔となり資金源となる。学園側はその成果に報いるためにあらゆる援助を約束する。持ちつ持たれつ、相互扶助の精神ですね」
やってること自体は特別なことではないが、それを一切の破綻なく運営しているのが学生集団ということに驚きを隠せない。
本当は裏で大人が大きく関わっているのではと勘繰りたくなる程度には、こちらの常識とかけ離れている。
肉体的にも優れており、それ以外の能力も大人に比肩かそれ以上を発揮するキヴォトスの学生。
この世界にとってはそれが常識――そんな単純な言葉で片付けられる問題ではない。
ちぐはぐなのだ。本来先に生きる大人を差し置いて、後から生まれた子供が社会を動かしているというのは。
100パーセントがそうでないにしても、絶対数は学生の方が上であることは学園の数からもうかがい知れる。
学生のための校舎や研究施設が集う都市――ではなく、学生自身が運営・管理する都市、という意味での学園都市。
それが成立しているという現実が、如何に歪みに溢れているか。
外の世界では、教育や職業訓練、社会経験を通じて段階的に責任を与え、法的・倫理的な能力を育むことで初めて社会人として認められる。
キヴォトスの学生は、その段階を何段もすっ飛ばして社会に進出している。
幼い情緒や感性で社会を回そうとすれば、あらゆる方向から瞬く間に破綻することは想像に難くない。
大人と同様に社会を回せる能力があれば良いのではない。人間である以上、どこかで失敗することだってある。
そんな時、責任の所在はどこにある?
子供が過ちを犯した場合、当事者以上に責任を果たす必要があるのは、保護者を始めとした大人だ。
子供には責任を果たす能力に限界があり、社会に与える影響の大きさに見合った責任を果たせない。
真の誠意を示すには、それに見合った能力と立場が必要であり、成長途上の子供の精神、知識、経験ではそれを果たすのも難しい。
いっそ不可能だと断じたいぐらいだが、現実として成り立っている以上それは叶わない。
どんなに納得できない、いっそ理不尽だと声を大にして言いたくても、彼女達からすれば理解不能な主張でしかない。
まるで、そうなるべくしてなるように誰かが裏で誘導した結果と言われた方が、ご都合主義とも呼べる現実に信憑性が生まれる。
「終わったよ~!……って、ユウカじゃん。何しに来たの?」
頭が痛くなるほどの混沌を極めた現実を再認識し、眩暈がしそうになったタイミングで、部室からモモイが顔を覗かせる。
モモイにしては珍しいと言って良いのか、反応からしてあまり好意的ではない風に感じられる。
「ゲーム開発部に用事よ。そこの彼から作業中だって話を聞いて、終わるまで談話してたの」
そう言いつつ、ユウカがこちらに目配せをする。十中八九、先程の会話の口止めだろう。
察するに、モモイ達はこちらの事情とは完全に切り離されていることがうかがえる。
如何にも戦いとは縁遠い印象だったのでほぼ確信してはいたが、キヴォトスは銃社会であるため、そこがノイズになっていた。肝心の銃撃戦を見たことをなく、ファッション感覚で携帯している姿しか見たことがなかった立場ではその辺りの根拠もあやふやだが。
「ふ~ん。それで、用事って?」
「以前、ゲーム開発部は既定の部員数を満たしていないうえ、部活としての実績も芳しくないから、廃部を検討しているって話はしていたわよね?」
こちらの事情に気付いた様子もなくユウカの言葉を促したモモイ。
それに従いユウカの口から出た言葉は、モモイ達にとって深刻極まる現実だった。
「も、もちろん!確かにまだ部員数は満たしてないけど、それとは別に今度のコンペの結果次第で撤回するってことだって!」
「そのコンペなんだけど、開催未定になったわ」
ユウカの言葉に、騒がしかったモモイが一瞬で静かになる。
情報を整理しきれていないのだろう、動きがまるで錆びたロボットのようにぎこちない。
「……どゆこと?」
「最近キヴォトスで流行している無気力症のことは流石に知ってるわよね」
「ば、馬鹿にしないでよ!アレでしょ、ふとした時いきなり無気力になる病気!」
文字通りの返しを胸を張って言うモモイ。そんな彼女を無視する形で、ユウカは言葉を続ける。
「なら話が早いわね。その波がミレニアムにも来ていて、各部活の作業ペースが乱れ始めて、コンペ作品がまともに完成しない可能性が出てきたのよ」
ユウカは一息ついてから、さらに説明を続ける。
「コンペで発表された作品の大半は、ミレニアムが特許を買い取って運営費に還元している。だから出された作品が生半可なものだと、例年の損益分岐点を大きく下回る結果になりかねないの。それならいっそ、無気力症が収まるまでコンペ自体を延期してしまおう——そういう話になったわけ」
「そういうことなら納得ね。無理に下手なものを出せば、ミレニアムのブランドにも傷がつくだろうしね」
モモイの背後からミドリが顔を出す。
似た顔立ちの二人が重なって見える光景は、愛嬌がありながらどこかシュールでもあった。
「だからってサボっていいなんて話にはならないからね?もしかしたら今日明日にでも解決するかもしれないんだから、むしろこれを機に進捗をガンガン進めておきなさい。どうせまともに形になってないんでしょうし」
「ぬぐっ」
図星だったのだろう、言い返せずにいるモモイを見てユウカが溜息を吐く。
恐らくこのやり取りも、彼女達にとってはそこまで珍しいことではないのだろう。
「アンタ達が無気力症になんて罹るわけないし、むしろそっちのが心配で堪らないわよ」
「わ、私たちだって本気を出せば――」
「出さないと廃部になるわね。それ以前に部員も規定数満たしてない件はどう考えてるの?」
「そ、それは――」
「彼はミレニアム生ではないから部員にはなれないわよ」
一瞬、モモイから縋るような視線が向けられたが、それを遮るようにユウカが言葉を挟む。
正論によってモモイの退路をひとつずつ潰していく様は一見意地悪に見えるが、言い換えればユウカがモモイのことをよく観察している証拠でもある。
先ほどの会話から、ゲーム開発部がミレニアムにとって頭の痛い存在であることが窺える。
研究結果を運営費とするサイクルで成り立っている都合上、成果を上げられない研究や部活が切り捨てられるのはやむを得ない面もある。
しかし、ユウカの対応は運営側の都合を押し付けているようには見えない。むしろ手のかかる後輩に発破をかける厳しい先輩の姿勢が見え、至って健全かつ穏当といえる。
「とにかく、あなたたちに無駄に時間を浪費している余裕はないってこと、肝に銘じなさい」
ユウカはそれだけ言い残し、こちらに軽く礼をして部室を去っていく。
まるで嵐が過ぎ去ったあとの光景を眺めるかのように、モモイが脱力とともに深く溜息を吐く。
「まったく、ユウカはいつもいつも……」
「お姉ちゃん、そうは言うけど今回は私たちが悪いよ。むしろ助かった側なんだから弁えないと」
「わかってるけどさー」
ミドリの嗜めに軽い反抗をしつつも、本心ではユウカの言い分が正しいと理解しているのだろう。その反抗も些細なもので終わる。
「――っと、ごめんね待たせちゃって。ささ、入って入って!」
暗くなりかけた雰囲気を吹き飛ばすような明るさと共にこちらの手を取り、半ば無理やりに部室内に引き込まれる。
室内の第一印象としては――頑張ったんだろうな、という一言に尽きた。
現状決して汚いとか足の踏み場がないとかそんなこともなく、部活動を行う環境として不足は一切見当たらない。
――ただし、蓋が閉まらないほど詰め込まれた段ボールの中身が散らばれば、たちまち足の踏み場もなくなるだろうが。
「ごめんなさい、こんな散らかった場所で……」
「えー?いつもの何倍もキレイじゃん。流石ミドリだね!」
「お姉ちゃんはもっと恥ずかしがってよ!」
そんなミドリの憤りを尻目に、モモイが片付けられずにあったゲーム機器を弄り出しながらおもむろに語り出す。
「理を呼んだのはね、一緒に遊びたいって気持ちも確かにあるけど、それ以上に助けて欲しかったからなんだ」
「……廃部の件で?」
「うん。キヴォトスの外での話とか色々そういうので、刺激というかインスピレーションを沸かせたいんだ。ぶっちゃけると結構煮詰まってるというか、それこそユウカが納得するような作品を作れるのか不安でね。藁にもすがる思いって感じ?」
「いくらミレニアムが【千年難題】を解くために創設されたとはいえ、ゲーム開発部なんてものが認可されること自体、かなりの特例ですから。それなのにまともな成果を出していない私たちが、ユウカに何を言われても仕方ないんですよね」
ミドリの発言の中に気になる単語が混じり、ふと聞き返す。
「千年難題って?」
「簡単に言えば、現状の科学技術では解くことのできない七つの問題のことですね。科学的なアプローチでさえあれば手段は基本問わないので、ジャンルはそれこそ無限といっても差し支えないぐらいあります」
「だからといってゲームすら対象になるとはね」
「ミレニアム創設に至る起源って話ですし、そのためならあらゆる可能性を拾うってことなんでしょうけど……私達にはよくわからない世界ですよ」
「私たちのやることがもしかしたら世紀の大発見につながるかもしれないからサポートしてくれるって話なんだから、素直に受け取ればいいんだよ。私たちはただ、ゲームを作るだけ」
モモイがそう締めくくると、ゲーム機器と繋がったモニターが明るくなっていく。
モモイに促されるままに彼女の隣にあったクッションに座り、ミドリもそれに続く。
二人に挟まれる形で画面と向き合っていると、用意していたであろうお菓子とジュースが地べたに並べられていく。
「さっき助けて欲しいって言ったけど、色々説明する前にこれをやってみて欲しいんだ」
そうして、流れ始めた音楽。
どこか聞き覚えのある、それでいて確かに記憶の奥底に眠っていた旋律が、静寂を破って響き始める。
違和感。それは漠然とした既視感として胸の内に宿り、やがてタイトルが映し出された瞬間、それは氷解した。
【テイルズ・サガ・クロニクル】
キヴォトスに訪れたばかりで右も左もわからない頃に、リンの計らいで提供された娯楽のひとつで、あらゆる意味で記憶に鮮明に焼き付いたゲームが、なんの因果か目の前に現れたのだ。