PERSONA3×Blue Archive~Re:Tales Of Our Youth Days 作:花極四季
一通り話し終え、再びジュースを飲み干す。
曖昧ながらも語った、かつての自分が経験した戦いの日々。それを聞き終えた彼女たちの反応は三者三様であった。
モモイは予想外にも茶々を入れることなく聞き入っており、合間にもメモを取ることに余念がなく真剣そのもの。
ミドリも似たようなもので、一通り聞き終えるとすぐさま話の中身からイメージを適当な紙に絵という形で出力していく。
ユズは正座で目を閉じ微動だにしない。さながら瞑想のように脳内で情報を咀嚼している。
やはり出力される結果が歪なだけで、ゲーム制作に対しては真摯であるという見解は間違っていなかった。
「……いやー、面白いね! 0時を超えた先にある異世界、そこに蠢くモンスターが現実の人間を蝕んでいるけど一般人はそれに気付かず、適性ある人間のみがその異世界に侵入できる。日常と非日常を往復することで単純なファンタジーではなく日常物としての側面もあり、日常の経験が異世界で目覚めた力をより高める要因となる。中々に独創的じゃん!」
「うん……。特に目覚めた特殊能力はあくまでも異世界だけでしか使えないという点が、個人的にはいいかも。あくまでも限定的な能力だから、現代社会を舞台としながらもファンタジーに比重が傾きやすくなるところを抑止している」
「それに、一ヶ月を区切りに大ボスが現れる性質から、日常と非日常をバランスよく遊ばないといけないから、より高い難易度ほど計画的なプレイを要求されそう」
「特殊能力も個人の精神性が具現化してるから個性を出し易そうだし、主人公は同じ能力でも本来ひとつのところを複数扱えるってところで差別化できてるようだし、その能力を戦闘で手に入れたり能力同士を合体させて進化させたりで、遊びの幅も広くできそう!」
やんややんやと三人が思いのままに感想と意見交換を繰り返している光景を、一歩引いた場所から見守る。
概要程度の情報ではあったが、そんな曖昧な内容を彼女達がうまくゲームのクオリティ向上に繋げようとしている辺り、何かしら彼女達の琴線に触れたということで、なら話した甲斐があったというもの。
仮に成果が得られなかったとしても、記憶の中身を言葉にすることで更に記憶を深掘りできるのではないかという打算もあったので、元よりこちらとしては骨折り損になることはなかった。
ただ、そうなると必然的に蚊帳の外になり、手持無沙汰になる。
昼食も近いこともあって菓子に触れるのも憚られたので、暇を誤魔化すようにジュースを飲んでいると、廊下の方向からドアを通じてノック音が響く。
三人は集中していることもあってか気付いた様子もなく、仕方ないのでこちらで対応することにした。
「あなたが結城理さん?」
そこにいたのは、首に赤いヘッドホンを掛けたピンクのボブカットの少女。
それだけなら普通の範疇だが、決して見逃せないものがあった。
ミレニアムの制服、その上着のボタンを二つ外しており、その学生とは思えない成長した胸部を惜しげもなく露出している。
にも拘わらず、少女は恥ずかしがるどころか能面のように変化しない表情のまま、こちらを見定めるように観察してくる。
「そうだけど、君は?」
「私は和泉元エイミ。あなたに用があって来た」
淡々と名前を告げたかと思うと、簡潔に用件を伝えてくる。
感情の希薄さを感じる一方で、夏でもないのに悪戯に肌を晒す大胆さを併せ持つ二面性に得体の知れなさを覚えつつも、今はそれを気にする場面ではないとこちらの事情を伝える。
「今、ゲーム開発部の友人と一緒に遊んでるんだけど」
「知ってる。そのうえで来て欲しい。モモイ達には私から説明する」
鬼気迫るというほどではないにしても、彼女なりに喫緊の用事であることはなんとなく伺える。
「そもそも、用事とは?」
「シャドウ」
その一言だけですべて伝わった。
この単語を土産に訪れた相手を蔑ろにする選択肢は、今の自分にはない。
モモイ達には申し訳ないが、こちらの用事を把握したうえで訪れた以上、先送りにするのはあまりベストとは言えないだろう。
「わかった。どうすればいい?」
「部室に案内する。そこの部長が、あなたに用事」
メッセンジャーではなく案内を頼んだのは、その部長とやらが直接話す必要のある内容だから。
そして、シャドウに関係する話題であると確定した今、行かないという選択肢はない。
とはいえ間が悪いのは事実で、それを汲んでかエイミがこちらと位置を交換するようにゲーム開発部に入室し、ドアを閉じる。
しばらく待機していると、エイミが何食わぬといった表情で部屋から出てきた。
「許可はもらってきたよ。そんなに時間かける予定もないし、ちゃんと返すからって」
「良くすんなり話が通ったね。モモイ辺りがゴネる予感してたけど」
「ちょうど三人が作業に集中していて、あなたのやることない点を突いて説得したら通った」
エイミの言葉に納得し、モモイ達に一言告げてから案内に従うことにする。
返答はなかった。それほどに集中していることだろう。
そうして背中を追う形で入り組んだ廊下を
目的地に進むにつれ、少しずつ通りすがる人の数が減っていき、最後には二人の靴音以外は音一つ聞こえなくなる。
「ついたよ」
「ここが……」
人目を避けるように奥に奥にと進んだ先は、白一色の壁のみの行き止まりだった。
予想外の光景に疑問が脳裏を支配している中、エイミは変わらぬ足取りで行き止まりに近づき、その一部に手を添える。
すると、壁面の一部がスライドしてパスコード入力用の端末が顔を出す。
素早く淀みのない手つきでパスコードを入力していき、十秒近くかけて入力を完了させると、壁面が大きくスライドし始めドアが現れる。
あまりにも厳重なセキュリティの前に、その先に何が待っているのかという不安と緊張で自然と体が強張る。
人の眼を逃れるように、奥へ、奥へと歩を進めた先に待っていたのは――ここに至るまでにさんざん見てきたなんの変哲もない白い壁だった。
予期していなかった光景に疑問符が脳髄を埋め尽くしていく中、エイミの足は止まらない。
まるで既定路線を辿るかのように、変わらぬ歩調で行き止まりへと向かっていき、おもむろに手を壁の一部に添えた。
瞬間、壁面の一部が音もなくスライドし、端末が姿を現す。
パスコード入力用のそれにエイミの指が触れたと認識した瞬間、踊るような手つきで入力を始める。
淀みない手つき。迷いのない動作。
まるで何度も繰り返してきたかのような、慣れ親しんだ所作で数字を紡いでいく。
十秒ほどの時間をかけ、パスコードの入力を終えたとほぼ同時に、壁面が唸りを上げて動き始めた。
スライドする白い壁。現れる扉。
厳重なセキュリティの果てに現れた扉。その先に待つ何かを想像するだけで、無意識に身体が強張っていく。
しかし、エイミはこちらの心境を余所に出現したドアの前に立ち、自動で開いたそれの先に躊躇うことなく足を踏み入れるたため、それに一呼吸遅れる形で続く。
「――――」
眼前に広がる光景は、圧巻の一言に尽きた。
壁面部には隙間を許容しないと言わんばかりに多種多様のモニターが敷き詰められている。
それらは例外なく異なる情報を表示しているが、その中身はまるで理解できない難解な文字列で構成されている。
無数のコードの伸びた先にはモニターの数以上の機械が置かれており、それらも同様に微かな稼働音を立てている。
同じ部室でありながら、モモイのそれとはまるで違う。いや、ミレニアムにとっての外れ値を最初に見たせいで基準が狂っていただけで、これこそが本来在るべき姿なのだろう。
「エイミ、案内ご苦労様です」
不躾に室内を観察していると、モニター前に置かれていた白塗りの何かが反転する。
そこには、儚げな印象の白の妖精がいた。
「こうして顔を合わせるのは初めまして、ですね。私は明星ヒマリ。【特異現象捜査部】部長であり、【I.F.I.C.】においてはオペレーターを担当しています」
か細い声色から挨拶をしたヒマリは、微笑を湛えてこちらを出迎える。
髪、肌、服装――そのどれもが白で構成されており、黒のカチューシャを始めアクセントのように別色が添えられているが、9割が白といっても過言ではないほどに彼女は白で統一されている。
白塗りの何かの側面には車輪が嵌め込まれており、それが電動の車椅子であることを示唆している。
「――ああ、これですか。見ての通り、身体が不自由な身の上でして」
こちらの視線に気が付いたのか、ヒマリは膝に掛けたブランケット越しに自らの脚を撫でる。
その所作ひとつひとつが繊細で、まるで名だたる職人が手掛けた陶器を目の前にしているような錯覚さえ覚える。
――しかし、彼女の声。どこかで聞いたような気がするのだが、どうにも思い出せない。
「……まだ、わかりませんか?」
「え?」
「あなたもインカム越しに耳にしたことがあるでしょう?陽光に照らされ溶けた処女雪が岩肌を滑り落ちるように浸透する、この透き通るような声を」
一切の恥ずかしげもなく――むしろ誇らしげでさえある――自らの声を詩的な表現で修飾するヒマリの言葉に、嵌りかけていたパズルのピースが合致する。
「どうです?声だけでも輪郭が伝わるほどの、物語から飛び出てきたような美少女が目の前に現れた感想は」
惜しげもなく自らの美を誇示するヒマリ。
だが、彼女が誇るのも無理はない。彼女は十人中十人が同意するほどに眉目秀麗であり、これを謙遜することはむしろ反感を買う要素になりかねないのは確かだ。
「いや別に、どうでもいい」
「――――」
笑顔をそのままに固まるヒマリ。
実際、彼女が美人なのは疑いようもないが、こちらからすればそれを含めて警戒心の方が勝る手合いでしかない。
何せ、こんな人気のない厳重なセキュリティを超えた先の部屋にひとり連れてこられたのだ。まさか物見遊山気分でいられるはずもない。
それに、ゲーム開発部の面々と時間を共にしていたところに横やりを入れられただけでも不躾なのに、都合を合わせて訪ねた先でそんなことを聞かれようものなら、対応もおざなりになるというもの。
「ゴホン!――さて、結城さん。こうして顔を合わせるのは初めてですね。まず、あなたの考えているであろう疑問に答えさせていただきます」
ヒマリはわざとらしく咳き込み、白けた空気を吹き飛ばす。
こちらとしてもモモイ達を待たせているに等しい立場なので、無駄に時間を引き延ばされるよりはいいと、彼女の言葉を静かに聞き入る姿勢を続ける。
「まず、ここは【特異現象捜査部】。私はその部長で、エイミは唯一の部員です。特異現象捜査部は文字通り特異現象に対してアプローチを掛け、現象への対策及び解決を目的として活動しています。最近はシャドウ関連を主としていますが、キヴォトスには我々にとって未知数な現象が多数存在しており、昨今蔓延している無気力症に端を発した現象は、それらが複合的に噛み合った結果であると推測しています」
「部長が頭脳担当で、私が現場担当で基本的にやってるけど、私にペルソナの才能はないっぽいから、シャドウ関係は役に立てない」
「それが、俺を呼んだ理由?」
「はい。加えて、これは【I.F.I.C.】のメンバーとしてではなく、特異現象捜査部の部長の立場からの判断であるとも」
そう言い含め、そこでヒマリは一旦言葉を区切る。
こちらかすればその区別に何の意図があるか計り兼ねるが、言葉にする以上彼女にとって重要なことなのだろう。
「それで、ここからが本題なのですが――世間で蔓延している無気力症。それがシャドウによる影響であることはもはや周知の事実ですが、私達【特異現象捜査部】の視点からは異なる事象を観測しました」
そこでヒマリが端末を操作し始めると、巨大モニターの表示が切り替わる。
変わらず複雑な情報の羅列ばかりだったが、全体的に赤く染まったそれがエイミの身体データに関係するものであることは理解できた。
「これはエイミの肉体に発生している発熱状態を示したデータですが……もうひとつ、これが一般的な同年代の女性の発熱量。見ての通り、エイミの肉体は常人のそれとは比較にならない発熱を常時しており、氷点下であろうと防寒着なしで活動できる特異体質の持ち主です。」
エイミのデータの隣に並べられたそれは、エイミの全身余すところなく赤で染まった状態と比較して、緑や青といった異なる色が波紋のように描画されている。
その色が熱量の違いを示していることを理解したと同時に、エイミの全身が赤の状態が如何に異常かも察することができた。
「彼女が特異現象捜査部に所属しているのは、エイミ自身の能力以前に彼女自身が特異現象であるからです。その証拠に、既存のデータにおいて体温が1℃上がれば代謝が約12%上がるといわれていますが、にも関わらず代謝過剰によって発生するマイナス――食欲や発汗の増大や精神不調などといったことはなく、至って健全なのです。故に、これは特異体質ではなく特異現象と定義しているのです」
「流石に氷点下となれば私でも寒くなる段階に入るけど、部長の言う通り。あと、別に実験動物とかそんな扱いではないよ。それはそれとして結構な頻度でこき使われるけど」
「実働部員があなたしかいないのだから仕方ないでしょう。――話を戻しますが、彼女の発熱量は常人の数倍。我々にとっての適温は、彼女にとって亜熱帯を凌ぐ暑さに等しい。そのうえで、彼女の恰好を見てどう思います?」
ヒマリに促され、改めてエイミの姿を観察する。
学生服を着崩し胸元や太腿が大半露出した格好は、ともすれば痴女と訴えられかねない危うさを孕んでいる。
そのような恰好をしている彼女に恥ずかしがる様子がないのは、彼女の特異体質ゆえに露出が常態化した結果、感覚が麻痺した結果なのだろうと推測できる。
問題はそこではない。ヒマリの発言が事実なのだとしたら、彼女の今の恰好程度では必要な排熱量に対してなんの慰めにもならないという点。
にも拘わらず、彼女は平然としている。
少なくとも、今にかけて汗一つかいた様子もないことに説明がつけられない。
「彼女が平静を保てる服装ではない、と思う」
「その通り。実際、以前はもっと凄かったんですよ?スカートすら履かず上着のみ、今でこそ半分しか露出してない胸も完全に曝け出していましたし、彼女の自室は専用の冷却処理を施してます」
ヒマリが自身のスマホの画面をこちらに見せる。
そこには、彼女が言葉にした通りのエイミの姿が映っていた。
絶句、その一言に尽きた。
「部長、私が言うのもあれだけど、セクハラじゃない?」
「あら、彼は気にしてないようですが」
「そういう問題じゃないと思う。そんなだと会長のこと、悪く言えないよ?」
抗議するような視線と共にエイミが指摘する。
思い当たる節はあったのだろう、ヒマリが押し黙る。
事実、誰が見てもデリカシーに欠ける行為である上、それを身内の写真で行うとなれば申し開きは不可能だ。
「――とにかく、今のエイミは先の情報と実態の乖離がある。その事実を踏まえたうえで、これを見てください」
ヒマリが無理矢理話を戻し、再び画面に並べられるエイミの身体データ。
横並びに展開されていくそれを、展開する順に視界をなぞっていくと、徐々にではあるが彼女の身体から熱が引いていくのが見て取れた。
「一週間ごとに彼女の発熱量を測定した結果、明らかな減少傾向にあることが観測されました。振れ幅こそあれど一過性のものでしかなかった下熱が連続して観測されるなど、今までただの一度もありませんでした。そして――この現象が観測された時期と、あなたが現れた時期が限りなく近いのです」
そう告げた瞬間、空気が切り替わったのを肌で感じる。
圧はない。それでも、何かを問いただしたいという意思はヒマリから感じ取れる。
「結果だけ見れば非常に喜ばしいものです。何せ健常とは程遠い体質が改善されつつあるのですから。――ですが、裏を返せばエイミのとっての健常が、異常側にシフトしているということでもあるのです」
「……つまり、その原因に俺が関係していると。何なら原因だと疑ってるからここに呼んだってことだよね」
「――まぁ、そう考えるのも当然ですね。関連性があると考えているのは正解ですが、あなたが原因であるとまで疑ってはいません。正確には、疑いを立てるほどの根拠がない、ですが」
ヒマリは居住まいを正し、真剣な顔つきでこちらと向き合う。
「普通の人間は曖昧な根拠を行動の指針とはせず、あくまで候補のひとつとして留めるのが常です。しかし、精神的に余裕のない人間は得てして最悪な方向に思考を運びがちで、その人物が平時で賢人である場合、その思考はより凝り固まる。何せ自分が優れているという自覚があるからこそ、自分の判断が正しいと疑えない。精神的に余裕がないなら尚更です」
「……つまり、それに該当する相手が俺を疑っている、と」
「ええ。個人的にひとり心当たりはありますが、恐らく私の把握していない範囲でも同じ思考に陥っている人物は少なからずいるでしょう」
「その人物は?」
問いかけに対し、ヒマリは軽く目を伏せて口をつぐむ。
その様子から、答えるべきかどうかを考えあぐねているように見える。
「……口に出すのは容易いですが、彼女を知らないであろうあなたにマイナスな先入観を与えるのは流石にフェアではないので、これ以上は言うつもりはありません」
ヒマリはどこか絞り出すような声色でそう告げる。
名前を口にすることで、その人物への最後の配慮が失われてしまう――そのような心情が見て取れた。
「部長がそう判断するなら私も言わないけど……不安を煽るだけ煽ってそれはそれで彼への配慮に欠けると思うんだけど」
「だからといって黙っているわけにもいきません。どちらに転ぶかは予想できても、確実なことは言えない以上、せめて注意を促すくらいが妥当との判断です」
エイミの指摘に、ヒマリは今度こそ動揺することなく答える。
彼女自身、自分の選択が正しいのか確信が持てずにいるのだろう。
それでも責任ある立場として最低限の義務は果たそうとしているのは理解できる。
「とにかく、あなたに接触してくる相手が必ずしも好意的である保証はないということを胸に留めておきなさい。個人の人格に関係なく、立場や環境が対立を生むことだってあるのですから、盲目的になり過ぎないように。無論、私も含めて」
そこまで言い終えると、ヒマリは飲みかけのコップに口をつけて一息吐く。
大半の人物が好意的に接触してくれているから感覚が麻痺しつつあったが、本来腫れ物扱いどころか重要参考人として自由を保障されない立場にあっても不思議ではない。
にも拘わらずここまで破格の待遇を受けていられるのは、ひとえに彼女達の善意の賜物であり、こちらはそれに一方的に寄りかかっているだけに過ぎない。
逆に言えば、誰かが悪意を持って悪評を流布なりされてしまえば、今の立場も簡単に揺らぎかねない。それぐらい不安定な場所に立っているのだと。そんなヒマリの話を聞いて、緩みつつあった気持ちを引き締める。
「……とはいえ、せっかく時間を割いてくれた相手にそれだけというのも確かに不誠実ですね。なので、未公開情報をひとつ。――数日以内に【I.F.I.C.】による作戦が実行されます。場所はミレニアム郊外の連禁区に指定された廃墟、目的はとあるエネルギー物質の調査・回収です」
「エネルギー物質?」
「はい。影時間の中でのみ青白く発光する石で、日中では道端の石と見分けがつかないのですが、それは影時間の中において電力に代替するエネルギーを出力することが可能なのです。機械文明に依存する我々にとって、これなくして探索の幅を広げることはまず不可能といって良いでしょう」
エイミの操作で巨大なモニターに表示されたのは、先程話題に挙がった石と思われる画像とそれらに関連する複数のデータらしきもの。
大きさはさまざまあれど、確かに石ころと相違ない形状のものばかりで、砂利の中に落としてしまえば簡単に見失いかねないだろう。
「私はこれを仮に【青輝石】と呼称していますが、これを粉末状に加工し機材にパウダーコーティングを施すことで、影時間内でも単純な電気機器なら運用できることが発覚しました。テストケースが少ないので推測の域を出ませんが、どうやら青輝石は月光を吸収しエネルギーに変換する性質があるようで、コーティングした外装に月光を吸収させることで、コーティングした部品にエネルギーが伝播し、結果として電気機器が動くのではと――」
自らの研究結果を自慢するようにヒマリが饒舌に語り、その勢いは波濤の如く聞くものを圧倒する。
やれ現状電子機器は繊細ゆえに伝播するエネルギーで消耗が激しいだの、やれ複雑な機構になるほど部品も増えるため伝播するエネルギーが分散してしまい非効率だの、とにかく喋る喋る。
ナルシストな発言もあって研究結果を披露するのもその一環なのだろうが、門外漢の立場で聞かされても正直反応に困る。
「部長」
それだけエイミが呟くと、まるでスイッチを切り替えるようにヒマリが途端に言葉を止める。
その劇的な変化を前に軽く面食らうも、延々と聞かされる間にもモモイ達との時間が削られていくこともあり、正直助かったと内心エイミに感謝する。
「つい興が乗ってしまいました。ともあれ、青輝石の入手は今後の探索における生命線となるので、恐らくペルソナ使いは例外なく参加することになるでしょう。あなたにとってもリーダーとして初の任務になると思いますし、相応の準備をしておくと良いかと」
「リーダー、か」
正直なところ、実感が湧かない。実感としてリーダーとしての活動経験がないことに加え、キヴォトスの土地勘も常識も身についていない自分がリーダーに抜擢されたことから「もっと相応しい人物がいるのではないか」という疑念が晴れない。
なのにどうにもしっくりくるのは、やはり朧気な記憶の中の自分も同じくリーダーとして立ち回っていたからか。
不思議な感覚だが、ただでさえ不足していることだらけなのだ。その程度の下駄を履かせてもらえなければ彼女達に並び立つこそさえ叶わないだろうと、ただ自らの過去に感謝した。
それからほどなくしてヒマリから解放され、ゲーム開発部に戻る頃にはすっかり昼時であった。
彼女達に案内されミレニアムの食堂で食事を摂り、その後も日が暮れるまでゲーム開発に付き合うこととなったのだった。